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ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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第三期特定健康診査等実施計画 ニチアス健康保険組合 最終更新日 : 平成 30 年 02 月 20 日

背景及び趣旨 我が国は国民皆保険のもと世界最長の平均寿命や高い保健医療水準を達成してきた しかし 急速な少子高齢化や国民の意識変化などにより大きな環境変化に直面しており 医療制度を持続可能なものにするために その構造改革が急務となっている このような状況に対応するため 高齢者の医療の確保に関する法律

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特定健康診査等実施計画

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特定健康診査等実施計画書 ( 第 3 期 ) JXTG グループ健康保険組合 平成 20 年 4 月 1 日制定平成 22 年 4 月 1 日改訂平成 25 年 4 月 1 日改正平成 30 年 4 月 1 日改正 - 1 -


,995,972 6,992,875 1,158 4,383,372 4,380,511 2,612,600 2,612, ,433,188 3,330, ,880,573 2,779, , ,

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

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説明書

「高齢者の健康に関する意識調査」結果(概要)1

スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

Transcription:

市民公開講座 口腔と全身との関係 生活習慣と 歯周病の立場から の開催について 1. 主催 : 日本学術会議臨床医学委員会 健康 生活科学委員会合同生活習慣病対策分科会 歯学委員会病態系歯学分科会 歯学委員会臨床系歯学分科会 日本歯周病学会 2. 日時 : 平成 23 年 5 月 28 日 ( 土 )13:30~15:30 3. 場所 : 福岡国際会議場国際会議室 ( 福岡市博多区石城町 2 1) 4. 開催趣旨 : 日本学術会議臨床医学委員会 健康 生活科学委員会合同生活習慣病対策分科会ならびに歯学委員会病態系歯学分科会 歯学委員会臨床系歯学分科会が 市民に対する健康意識の啓発のために 口腔領域からの健康情報発信 を目的として 日本歯周病学会第 54 回春季学術大会との共催で下記の内容からなる市民公開シンポジウムを企画した なお本シンポジウムは同学術大会長坂上竜資教授 ( 福岡歯科大学 ) のご協力を得て開催するものである 5. 次第 : 座長 : 島内英俊 ( 日本学術会議連携会員 東北大学大学院歯学研究科歯内歯周治療学分野教授 ) 福田光男 ( 愛知学院大学歯学部歯周病学講座教授 ) 講演者 : 徳留信寛 ( 日本学術会議連携会員 独立行政法人国立健康 栄養研究所理事長 ) 生活習慣病の予防とコントロール 埴岡隆 ( 福岡歯科大学口腔保健学講座口腔健康科学分野教授 ) 喫煙 元喫煙 受動喫煙と歯周病 口の健康 齋藤俊行 ( 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科社会医療科学講座口腔保健学教授 ) 歯周病と生活習慣病, 負のスパイラルから抜け出そう!

渡邉誠 ( 日本学術会議第二部会員 東北福祉大学教授 東北大 学名誉教授 ) 口腔と脳 -network medicine から学ぶ -

略歴 1969 年九州大学医学部医学科卒業 1972 年九州大学医学部公衆衛生学講座助手 1980 年佐賀医科大学地域保健科学講座助教授 1992 年名古屋市立大学医学部公衆衛生学講座教授 2009 年独立行政法人国立健康 栄養研究所理事長 ( 現在に至る ) 徳留信寛 先生 生活習慣病の予防とコントロール 独立行政法人国立健康 栄養研究所徳留信寛 ひと健康事象の関連要因は, 宿主要因と環境要因に分けられる 宿主要因には, 性, 年齢, 民族, 遺伝などがあり, 環境要因には, 生物学的要因 ( 細菌, ウイルスなど ), 自然環境 物理化学的要因 ( 大気, 水, 気候, 放射線, 紫外線など ), 社会 文化 経済的要因 ( 保健 医療 介護 福祉サービスへのアクセスなどの健康格差, 教育, 収入, 産業 職業などの社会格差, メンタルストレス, 休養 睡眠など ) がある 最近のわが国の 3 主要疾病は, がん, 心疾患, 脳血管疾患などの生活習慣病であるが, 遺伝要因と生活習慣要因 ( 食生活, 酒, タバコ, 労働, 身体活動, メンタルストレス, 休養 睡眠など ) との交互作用のもと生ずる 生活習慣の変容 改善によって発症を遅延させ, 早世と障害の予防が可能であり, 平均寿命ないし健康寿命を延伸できる 生活習慣病の多くは壮年 高齢者に生ずるが, 幼少の頃から前駆病変が発生するものもある 国民の健康増進, 疾病の発生予防を図るために, わが国では, 今日, 21 世紀の健康づくり運動 ( 健康日本 21) と 特定健康診査 特定保健指導 が展開されている 健康日本 21 は, 健診ないし検診中心から一次予防への転換, ハイリスクアプローチからポピュレーションアプローチへのシフト, 健康づくり運動の目標設定と評価, 健康づくりの社会環境整備, 健康増進事業主体間の連携を重視するものである 生活習慣要因および生活習慣病うち, 栄養 食生活, 身体活動 運動, 休養 心の健康づくり, たばこ, アルコール, 歯の健康, 糖尿病, 循環器病, がん, 以上の 9 分野を選定し, 地域の特性を考慮しながら, 性別 ライフステージ別目標と取り組みの方向性とを設定している 特定健康診査 特定保健指導 は, 医療制度改革大綱に沿い, 医療費抑制 適正化を図るため, 医療保険者が,40 歳 ~ 74 歳の被保険者 被扶養者に対して, メタボリックシンドローム ( 内臓脂肪症候群 ) に注目した腹囲, 血糖, 血清脂質, 血圧に関する健診を実施し, 質問票情報 ( 喫煙歴など ) を収集し, リスクファクター集積に応じて, 保健指導対象者を選定 階層化し, 医師 保健師 管理栄養士が情報提供, 動機付け支援, 積極的支援を行うものである なお, 上記以外の歯周病検診, 骨粗鬆症検診, 肝炎ウイルス検診, 健康手帳の交付, 健康教育, 健康相談, 機能訓練, 訪問指導およびがん検診は, 健康増進法のもと, 引き続き, 市町村により実施されている 本シンポジウムでは, ひと健康事象に関わる要因, 健康事象の発生機構, 生活習慣病の予防とコントロールについて述べ, わが国で, 現在, 展開されている運動づくり運動 健康日本 21 と 特定健康診査 特定保健指導 について概説する 96

略歴 1981 年 大阪大学歯学部卒業 1981 年 大阪大学予防歯科学講座助手 1988 年 大阪大学歯学博士 2002 年 福岡歯科大学教授 埴岡隆先生 喫煙 元喫煙 受動喫煙と歯周病 口の健康 福岡歯科大学口腔保健学講座口腔健康科学分野埴岡隆 タバコの消費が進んだ欧米諸国では, タバコを吸わないことが当たり前になってきました 日本でも, 最近, タバコの消費を少なくする政策が徐々にとられるようになってきましたが, まだまだ, 先進諸国には及びません 生活習慣のなかでも, 喫煙はとりわけ健康への影響が大きく, 最近では, 禁煙したくてもなかなか禁煙できないことから, ニコチン依存症の治療が健康保険制度で認められるようになりました 喫煙は, がんや循環器疾患と強い関連があることはよく知られていますが, 喫煙と歯周病との関係をご存知の方は, まだまだ少ないようです 身体の中で, タバコの煙に直接さらされるのは肺だけではありません 喫煙の影響が口に現れることが長い間見逃されていました 生活習慣と健康との関係は複雑です しかし, こうした複雑な関係を解き明かす学問領域に疫学という分野があります 様々な因子が歯周病と関連することがわかっていますが, 疫学は複雑な関係をひも解いて喫煙が歯周病とどのように関連するか解き明かされたのです タバコの煙が歯を支える組織を破壊するメカニズムも分かってきました 喫煙の影響は健康を脅かすことだけではありません 喫煙を続けることで, 歯周病にかかった後の治療をはじめ, 様々な歯科治療の効果も低下することがわかっています 日本でも最近禁煙された方が多くなっています 禁煙してからも過去に喫煙したことのリスクはどれくらい残るのでしょうか? そして, 最近では, 受動喫煙の影響が口にも現れるというショッキングな報告も行われています タバコの煙が最初に通るのは口です 口に現れる様々な影響と様々な禁煙の方法も併せて紹介したいと思います 97

略歴 1977 年福岡県東筑高等学校卒業 1984 年九州大学歯学部卒業 1984 年九州大学歯学部予防歯科学講座助手 1992 年佐賀県保健環境部健康増進課課長補佐 2000 年九州大学歯学部附属病院予防歯科講師 2006 年長崎大学大学院医歯薬学総合研究科口腔保健学 ( 旧予防歯科 ) 教授 齋藤俊行 先生 歯周病と生活習慣病, 負のスパイラルから抜け出そう! 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科社会医療科学講座口腔保健学齋藤俊行 肥満は糖尿病や動脈硬化を引き起こし, さらに心疾患や脳血管障害の原因となることが分かっており, 多くの生活習慣病の危険因子である 肥満は歯周病とも関連していることが, 九州大学歯学部予防歯科と福岡市健康づくりセンターの共同研究として,1998 年に世界で初めて報告されて以来, 歯周病が肥満やメタボリックシンドロームと関連していることが次々と報告されている 1961 年, 九州大学第二内科によって開始された福岡県久山町研究は, 脳卒中をはじめ生活習慣病のコホート研究で広く世界に知られている 九州大学歯学部予防歯科は 1984 年より, 久山町のすべての子供たちを対象にフッ化物洗口を中心とした, う蝕予防活動を実施してきたが,1998 年より久山町の生活習慣病健診に歯周病検診を導入し, これまでに歯周病と生活習慣病について数々の報告をしてきた まず女性において肥満は耐糖能異常や糖尿病とは独立して歯周病と関連していた つまり, 歯周病の危険因子である糖尿病の影響を除外しても, 肥満が直接歯周病に影響している可能性がある 脂肪組織からは様々なホルモン様の生理活性物質アディポカインが分泌されている このアディポカインのいくつかは炎症の際に分泌される炎症性サイトカインと同じものであることから, それらが歯周病に関与している可能性がある また, メタボリックシンドロームの各項目と歯周病との関連性を調べたところ, 女性では腹部肥満, 低 HDL コレステロール, 高血糖が歯周病と有意に関連しており, さらにメタボリックシンドロームの各項目に当てはまる数が多いほど歯周病になりやすいことが分かった 一方, 歯周ポケットが深いと血糖コントロールが悪化しやすいこと, 歯周病の人の血液検査の結果は脂肪肝を示唆させる検査結果と強く関連していることが報告されている これらのことから歯周病は肥満に関連した糖代謝異常や脂質代謝異常に影響している可能性が高く, 歯周病は肥満や糖尿病との間に複雑な三角関係を築いている可能性がある そして肥満も糖尿病も炎症と関連していることから, これらは慢性の炎症というキーワードで繋がれていると考えられるようになった 一方, 咀嚼すなわち 噛むこと が高齢者の QOL や健康にたいへん重要であることが指摘されている 北九州市のほぼ全ての老人ホームで実施された 6 年間の追跡調査から, 歯が少なく, 義歯も装着していない者, すなわち 噛んでいない者 では, 身体障害, 精神的な障害, 死亡率が高いことが分かった これらのことから, 歯周病健診を含めた歯科健診の実施は, 住民にとって口腔の健康のみならず生活習慣病の予防という観点からもたいへん重要である そこで我々は, 歯周病や口腔に問題があれば, 全身の健診を受けるように呼びかけている また逆に特定健診などで, メタボリックシンドロームと判定されたり, 異常が見つかった場合は, それをきっかけに歯周病の検査を受けるよう広く呼びかけている 98

渡邉誠先生 略歴 1971 年東北大学歯学部卒業 1975 年東北大学大学院医学研究科 博士課程修了, 医学博士 1976 年東北大学医学部助手以降, 歯学部助手, 同講師, 助教授 1991 年東北大学歯学部高齢者歯科学講座教授以降, 同大学院歯学研究科加齢歯科学分野教授, 歯学部付属病院院長, 大学院歯学研究科科長 歯学部長を歴任 2006 年東北大学副総長 2007 年東北大学国際高等研究教育機構機構長 2008 年東北大学研究担当理事現在 : 東北福祉大学教授, 東北福祉大学感性福祉研究所副所長, 東北大学名誉教授, 東北大学客員教授 ( 歯学研究科, 未来科学技術研究センター ) 2005 年から日本学術会議会員 (2 部生命科学 ) を務める 口腔と脳 network medicine から学ぶ 東北福祉大学教授 東北大学名誉教授渡邉誠 多細胞 多臓器生物であるヒトは, 個体として効率よく一方向に導くべく, 臓器間で密接に連関 協調し, 調節されて恒常性を維持している その破綻が疾病の発症につながると考えられる このことから, 臓器間での情報のやり取りに関する機構を解明することは, ヒトを含めた多臓器生物の恒常性の維持機構を解き明かすのみならず, 疾病の病態を理解し, 新しい治療法の開発につながると期待される 最近 GCOE に採択された東北大学の岡, 片桐らは臓器間の代謝情報のやり取りに, 求心路を含む神経経路が重要な役割を果たすことを明らかにした それは脂肪組織からの求心性神経シグナルが食欲を調節すること, 肝臓からのシグナルによる神経ネットワークが, 基礎代謝の調節や膵 細胞の増殖に関与することなどである これらの求心性神経シグナルの関与は, とりもなおさず中枢神経系の関与を意味する つまり, 脳は, 随時, 末梢組織での代謝状態を把握し, 個体としての最適な代謝状態を作り出すよう, 遠心性自律神経を介して, 全身の各臓器に指令を送っているという新しい概念である さらに, 肝臓からの二つの神経ネットワークは, 備わった抗肥満 抗糖尿病機構と考えられ, これらを刺激することにより, 肥満モデルマウスの基礎代謝を亢進, あるいは, 糖尿病モデルマウスの膵 細胞の再生を促し, それぞれの病態を治療することにも成功している これらの多臓器問の疾病を取り巻く相互機構に関する研究は歯科医学領域のそれに比し, 医学領域に於いても際立った進歩を成し遂げ,Network Medicine( ネットワークメデシン ) と呼ばれる 一方, 歯科医学領域において歯周病をはじめとする口腔にみられる種々の疾病が脳や心臓など他臓器と大きな関わりを持つことが報告され, 顎口腔系と全身の各臓器間にもネットワークの存在が推定される これを明らかにするには, モデル動物を使った基礎的研究とともに, ヒトを対象とする研究も欠かせない 我々は, 歯の喪失, 歯周病などの口腔状態が, 認知症の発症, 特に脳血管性認知症にどのように関連するかを明らかにすることを目的に大型コホート研究を行い, 喪失歯数の増加に伴って脳灰白質容積が減少する部位を抽出することに成功した その部位が, 記憶に関係する海馬を含む側頭葉内側部や, 計算や思考, 空間認識などの高次機能に関連する前頭 頭頂連合野に相当する領域であることを明らかにした 本講演では, ネットワークメデシンの進歩と臓器間ネットワークを活用した新しい視点からの歯科 医学の発展の可能性について議論したい 99