インフルエンザの予防と対策 医療法人すがお内科クリニック 院長菅尾頼明
世界的大流行 を引き起こしたインフルエンザ 20 世紀以降のインフルエンザの流行 ( パンデミック ) 1900 年 1950 年 2000 年 2010 年 1918~19 1957~58 1968~69 2009~ スペインかぜアジアかぜ香港かぜ 新型 パンデミック流行年亜型死亡 スペインかぜ 1918~19 年 A/H1N1 型 アジアかぜ 1957~58 年 A/H2N2 型 香港かぜ 新型インフルエンザ 1968~69 年 2009 年 ~ A/H3N2 型 ( 香港型 ) パンデミック (A/H1N1)2009 死亡 4,000 万 ~8,000 万人 致死率 2% 死亡 200 万人 致死率 0.5% 未満 死亡 100 万人 致死率 0.4% ( 米国での統計 ) 2 参考 岡田晴恵著 新型インフルエンザ対策 幻冬舎 2009 年 p56-57
インフルエンザの発症者と死亡者の特徴 インフルエンザの発症者数と死亡者数 (2006 年 ) 140 350 120 300 発症者数 ( 定点あたり ) 100 80 60 40 20 250 200 150 100 50 死亡者数 ( 全国 ) 0 0 ~ 9 10 ~ 19 20 ~ 29 30 ~ 39 40 ~ 49 50 ~ 59 60 ~ 69 70 ~ 79 80 ~ 89 90 ~ 0 ( 歳 ) : 発症者数の 80~89 歳 では 90 歳 ~ の発症者も含む 3 参考 日本放送出版協会編 きょうの健康 2008 年 12 月 2008 年 p18
季節性インフルエンザによる死亡数 例年 高齢者 (65 歳以上 ) で死亡数が多い ( 人 ) 2,000 1,800 1,600 65 歳未満 65 歳以上 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 平成 8 年 9 年 10 年 11 年 12 年 13 年 14 年 15 年 16 年 17 年 18 年 (~5 月 ) 4 厚生労働省人口動態統計
インフルエンザウイルスの感染経路 主な感染経路は 飛沫感染とする考え方が主流 飛沫感染 : 咳やくしゃみとともに放出されたウイルスを吸い込むことによっておこる 接触感染 : ウイルスが付着したものを触れた後に目 鼻 口などに触れることで 粘膜 結膜などを通じて感染 5 厚生労働省ホームページ
インフルエンザの症状 経過 感染約 1~3 日発症約 1~3 日約 1 週間軽快 インフルエンザウイルス 38 以上の高熱 全身倦怠感 関節痛 筋肉痛 頭痛 などの全身症状 咳 喉の痛み 鼻水 などの呼吸器症状 参考 日本放送出版協会編 きょうの健康 2008 年 12 月 2008 年 p16
かぜ ( 普通感冒 ) とインフルエンザとのちがい かぜ ( 普通感冒 ) インフルエンザ 発症時期 1 年を通じ散発的 冬季に流行 主な症状 上気道症状 全身症状 症状の進行 緩徐 急激 発熱 通常は微熱 (37~38 ) 高熱 (38 以上 ) 主症状 ( 発熱以外 ) 原因ウイルス くしゃみ 喉の痛み 鼻水 鼻づまりなど ライノウイルス コロナウイルス アデノウイルスなど 咳 喉の痛み 鼻水 全身倦怠感 関節痛 筋肉痛 頭痛など インフルエンザウイルス 参考 泉孝英編 医療者のためのインフルエンザの知識 医学書院 2007 年 p76
インフルエンザの感染 増殖 潜伏期 (1~3 日間 ) 患者の咳 くしゃみ ( 飛沫 ) ウイルスが上気道に感染 上気道 肺で急激に増殖 参考 河岡義裕著 インフルエンザ危機 集英社 2009 年 p152-153
インフルエンザウイルスの増殖速度 8 時間後には 100 個 インフルエンザウイルス 1 個 16 時間後には 24 時間後には 1 万個 100 万個に! 参考 岡田晴恵著 新型インフルエンザ対策 幻冬舎 2009 年 p54
新型インフルエンザとは? 一般に免疫を獲得していないことから 感染拡大が懸念される 新型インフルエンザの定義 過去数十年間にヒトが経験したことがない HA または NA 亜型のウイルスがヒトの間で伝播して インフルエンザの流行を起こした時 これを新型インフルエンザウイルスとよぶ 厚生労働省新型インフルエンザ対策報告書 免疫を獲得していないために 全国的かつ急速な蔓延に より国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれ があると認められるもの 10 厚生労働省ホームページ
今回の新型インフルエンザ * の特徴 ( 日本 ) 特徴として 感染力は強いものの 多くの患者が軽症のまま回復している 抗インフルエンザウイルス薬の治療が有効 基礎疾患 ( 糖尿病や喘息等 ) を有する者や妊婦等で重症化する例が報告されている 潜伏期間は 1~7 日 臨床症状として 急な発熱や倦怠感などの全身症状は 季節性と類似 突然の高熱 咳 咽頭痛 倦怠感に加えて 鼻汁 鼻閉 頭痛等が あり季節性インフルエンザと類似 * ブタ由来インフルエンザ A/H1N1 季節性インフルエンザに比べて 下痢や嘔吐が多い可能性がある 11 厚生労働省ホームページ
インフルエンザの合併症 合併症の状況によっては 入院を要する例 死亡する例もあり 注意が必要 高齢者 乳幼児 その他の合併症 * 細菌の二次感染による肺炎 気管支炎 慢性気管支炎の増悪など インフルエンザ脳炎 脳症 中耳炎 熱性けいれんなど ウイルスそのものによる肺炎や気管支炎 心筋炎 アスピリンとの関連が指摘されているライ症候群など * 気管支喘息等の呼吸器疾患 慢性心不全等の循環器疾患 糖尿病 腎不全 免疫不全 ( 免疫抑制剤による免疫低下も含む ) などを有する者 12 国立感染症研究所感染症情報センターホームページ
インフルエンザに併発する二次性細菌性肺炎 インフルエンザの重症化は 二次性細菌感染によるものが多くを占める 発症時期症状画像所見原因菌治療 インフルエンザ発症 4~14 日後に生じる 一旦下がった熱が再び出現し 咳 黄色痰などの症状を伴う 一般の細菌性肺炎と違いは認められない 肺炎球菌 黄色ブドウ球菌 インフルエンザ桿菌 肺炎球菌 黄色ブドウ球菌 インフルエンザ桿菌 モラクセラ カタラーリスなどに感受性のある抗菌薬を選択 β - ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬が一般的 ハイリスク群ではレスピラトリーキノロン 樫山鉄矢ほか :Medical Practice 23(11), 1937-1942,2006より作表 13
ハイリスク群 ハイリスク群は 重症化や合併症を引き起こす可能性が高い インフルエンザ ハイリスク群 - 65 歳以上の高齢者 - 妊娠 28 週以降の妊婦 - 慢性肺疾患 ( 肺気腫 気管支喘息 肺線維症 肺結核など ) - 心疾患 ( 僧帽弁膜症 うっ血性心不全など ) - 腎疾患 ( 慢性腎不全 血液透析患者 腎移植患者など ) - 代謝異常 ( 糖尿病 アジソン病など ) - 免疫不全状態の患者 インフルエンザ診療ハンドブック専門医にきく30の質問, 中外医学社 14
インフルエンザの予防の基本 インフルエンザの予防には ワクチン接種 抗ウイルス薬の予防的投与等がある ワクチン接種抗ウイルス薬の予防的投与 - 原則として 患者と十分な防御なく濃厚に接触した者で インフルエンザに罹患した場合に重症化が予想されるハイリスク者が対象 人ごみを避ける外出時や人ごみの中に入る時にはマスクをする外出から帰ったらうがい 手洗いを行う室内では加湿器などを使い適度な湿度を保つバランスの良い栄養を摂る休養および睡眠を十分にとる 15 厚生労働省ホームページより国立感染症研究所感染症情報センターホームページより
インフルエンザワクチン接種の有効性と意義 インフルエンザワクチンの接種を行うことで インフルエンザによる重篤な合併症や死亡を予防し 健康被害を最小限にとどめることが期待できる <65 歳以上の健常高齢者 > 約 45% の発病を阻止し 約 80% の死亡を阻止 厚生科学研究費による インフルエンザワクチンの効果に関する研究 ( 主任研究者 : 神谷齊 ( 国立療養所三重病院 )) より <1 歳以上 6 歳未満の乳幼児 > 有効率は 20-30% 1 歳未満児については対象数が少なく 有効性を示す確証は認められなかった 厚生科学研究費による 乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究 ( 主任研究者 : 神谷齊 ( 国立療養所三重病院 ) 加地正郎 ( 久留米大学 )) より 16 国立感染症研究所感染症情報センターホームページ
インフルエンザワクチン接種の方法 ( 定期接種 ) < 接種対象 > 1 65 歳以上の高齢者 2 60 歳以上 65 歳未満で 心臓 腎臓もしくは呼吸器の機能に自己の身辺の日常生活が極度に制限される程度の障害を有する者およびヒト免疫不全ウイルスにより免疫機能に日常生活がほとんど不可能な程度の障害を有する者 < 接種方法 > 毎年度 ( 一般的に 10 月下旬から 12 月初旬 )1 回 インフルエンザ HA ワクチン 0.5mL を皮下注射する 原則として個別接種とする 17 予防接種の手びき ( 第 12 版 ), 近代出版
インフルエンザワクチン接種の方法 ( 任意接種 ) < 接種対象 > 感染機会の多い保育所 幼稚園 小学校 中学校 高校生 特に受験期の者 基礎疾患のある小児 医療従事者 高齢施設の職員など職業上インフルエンザに罹ると困る者 また インフルエンザの被害を受けやすい 慢性の疾患を有する者への接種も望まれる 妊娠中の接種に関する安全性は確立していない < 接種方法 > 毎年 1 回皮下注射する 接種は流行に備えて 11 月中旬までに行いたい 1 回の接種量は年齢によって 次のように決められている 13 歳 ( 中学生 ) 以上 0.5mL 6 歳以上 13 歳未満 0.3mL 1 歳以上 6 歳未満 0.2mL 1 歳未満 0.1mL 18 予防接種の手びき ( 第 12 版 ), 近代出版
インフルエンザワクチン接種不適当者 ( 予防接種を受けることが適当でない者 ) 1 明らかな発熱を呈している者 ( 一般的に 体温が 37.5 を超える場合を指す ) 2 重篤な急性疾患に罹っていることが明らかな者 ( 急性の病気で薬を飲む必要のあるような人は その後の病気の変化がわからなくなる可能性もあるので その日は見合わせるのが原則 ) 3 インフルエンザワクチン液に含まれる成分によって アナフィラキシーを起こしたことがあることが明らかな者 4 予防接種を行うことが不適当な状態にある者 5 インフルエンザ予防接種後 2 日以内に発熱のみられた者および全身性発疹などのアレルギーを疑う症状を呈したことがある者 19 予防接種の手びき ( 第 12 版 ), 近代出版
インフルエンザの治療 一般療法 ( 生活療法 ) 薬物療法 安静にして 睡眠や休養を十分にとる 脱水症状が起こりやすいため 水分を補給 NA: ノイラミニダーゼ など 20 原因療法 抗インフルエンザ薬 (NA 阻害薬など ) 対症療法 解熱鎮痛薬 ( 高熱に対して ) 抗菌薬 ( 細菌による二次感染に対して ) 参考 泉孝英編 医療者のためのインフルエンザの知識 医学書院 2007 年 p91-92
治療に関する課題 ➊ 症状改善による服薬中止 ~ ウイルス残存 感染拡大の可能性 ~ 症状が改善した患者 インフルエンザ診療マニュアル ( 抜粋 ) ノイラミニダーゼ阻害薬による解熱後もウイルス残存がみられることが少なくなく 注意を要する 周囲への感染を防ぐには 5 日間の投与が望ましい [ 日本臨床内科医会インフルエンザ研究班編 インフルエンザ診療マニュアル 2009-2010 年シーズン版 ( 第 4 版 ) p10-11] ウイルスが残存 症状改善後すぐに復帰したら他者へと感染させる可能性がある 学校保健安全法施行規則 ( 抜粋 ) 出席停止の期間の基準 第一九条二イ インフルエンザ ( 鳥インフルエンザ (H 五 N 一 ) 及び新型インフルエンザ等感染症を除く ) にあつては 解熱した後二日を経過するまで [ 文部科学省令第 10 号平成 21 年 3 月 31 日最終改正 ] 21
治療に関する課題 ➌ 合併症小児にみられる合併症 インフルエンザ脳症 インフルエンザ脳症 インフルエンザ脳症の予後 (1999/2000 シーズン ) 死亡 後遺症なし 46% 30% 小児における重篤な合併症 発熱中に急激な意識障害や痙攣等が生じる 後遺症軽度 16% 重度 8% 極めて予後不良 ( インフルエンザ脳症患者 91 例中 ) 重度後遺症とは : 日常生活不可 介護を要する 22 平成 12 年度厚生科学研究 インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎 脳症の疫学及び病態に関する研究班 森島恒雄ほか
咳エチケット 咳 くしゃみが出たら 他の人にうつさないためにマスクを着用する マスクを持っていない場合は ティッシュなどで口と鼻を押さえ 他の人から顔をそむけて 1m 以上離れる 鼻汁 痰などを含んだティッシュはすぐゴミ箱に捨てる 咳をしている人にマスクの着用をお願いする 自治体独自にポスターやホームページで周知しているところもあります 23 厚生労働省健康局結核感染症課