( 業種別の特徴 ) 非製造業を業種別にみると サービス業 卸売業 小売業などは理論価格と市場価格の乖離が小さく ほぼパラレルに動いている様子がみられる こうした業種は 設備投資の増減による将来キャッシュフローのぶれも少なく 売上げの変動性も比較的小さいといった要因が両者の乖離幅を小さくしている可能性が指摘できる 一方 建設 鉱業 電気 ガス業 陸運業などは理論価格が市場価格を大きく上回っている 中でも 電気 ガス業の乖離幅は大きく 時系列による方向も市場価格とは逆になっている 原因としては 推計期間における資源エネルギー価格高などの影響により 利益水準が長期的に期待される水準より高すぎたことなどが考えられる 電気ガス業は 公益事業であることもあり 資本コストが他の業種と比べて格段に低いため 今回のDCF の手法による理論値においては 利益見通しの変動により特にぶれやすいという特徴を持つ 上述のように 4 年と5 年で非常に大きな乖離を示しており この点が非製造業全体でみて乖離幅が拡大する一因となっている これら業種の乖離の大きさがどのような要因で生じているのか更なる今後の課題としたい サービス業 図表 5-8 業種別にみた時系列比較 ( 非製造業 ) 卸売業 ( 億円 ) ( 億円 ) ( 億円 ) ( 億円 ) 2,5 2,,77,756,942 2,8 2,295 2,86 2,27 2,29,89 2,356 3,5 3, 2,5 2,388 2,64 2,529 3,3,5 2,,84,842 2,95 2,64,,5,5,549, 5 5 24 25 26 27 28 24 25 26 27 28 37
海運業 空運業 建設業 鉱業 ( 億円 ) ( 億円 ) ( 億円 ) ( 億円 ) 7, 6, 5, 4, 3, 2, 2,3 4,5 2,747 5,677 3,88 4,42 5,67 4,755 4,493 6,43 4,5 4, 3,5 3, 2,5 2,,5,,88 3,643 2,8 3,384 3,895 2,483 2,496 4,6,58 3,75, 5 24 25 26 27 28 小売業 ( 億円 ) ( 億円 ) 24 25 26 27 28 情報 通信業 ( 億円 ) ( 億円 ) 7, 6, 5, 4, 3,97 4,627 4,27 4,866 6,38 5,382 5,98 6,432 3,985 5,75 6, 5, 4, 4,38 3,69 3,42 3,46 3,42 3,32 5,96 4,288 3,785 4,548 3, 3, 2, 2,,, 24 25 26 27 28 24 25 26 27 28 水産 農林業 4 ( 億円 ) ( 億円 ) 倉庫 運輸関連業 8 ( 億円 ) ( 億円 ) 35 3 25 2 72 293 22 352 274 244 33 32 23 224 7 6 5 4 324 49 396 55 569 66 624 688 47 659 5 3 2 5 24 25 26 27 28 24 25 26 27 28 38
電気 ガス業 不動産業 ( 億円 ) ( 億円 ) ( 億円 ) ( 億円 ) 35, 3, 3,835 27,2 27,73 2,,8,6,582,542,764,7,889,797 25, 22,82,4,275 2,,2 5,, 5, 7,8 8,56 9,57,233 8,55 2,463, 8 6 4 2 669 852 685 24 25 26 27 28 陸運業 ( 億円 ) ( 億円 ) 25, 24 25 26 27 28 2, 8,32 8,628 8,92 9,589 2,359 5,, 9,38 8,953 2,9 2,632,958 5, 24 25 26 27 28 (3) 感応度分析 ( 感応度分析の目的 ) 先にみたように 本調査で使用する簡易 DCF 法は リスクプレミアムや負債コストを一定とするなど 単純化した前提を置いて算出を行っている このため 対象企業の個々のリスク特性等について適切に反映されていない可能性がある 例えば 企業は財務レバレッジを高めることによってROE( 株主資本利益率 ) を引き上げることが可能であるが それは好況期のような場合においてであり 逆に不況期になれば業績は急激に悪化するというリスクを内包している このため 本来であれば個々の企業の財務レバレッジにあわせてリスクプレミアムを調整する必要がある さらに DCF 法で使用するファクターはあくまで期待値であるため 当然ながら各ファクターが期待値の周りでどれだけ変動する可能性があるかは考慮されない これに対し 各ファクターの分布を仮定し 結果としてDCF 値がどのような分布を描くのかを示す方法としてモンテカルロDCF 法やリアルオプションを用いたDCF 法などの手法が存在する 39
対象企業すべてにモンテカルロDCF 法を適用するのはシステム的な負荷も大きいことから 本章では 各ファクターを一律に変動させた場合にDCF 値がどれだけ変化するかについて検証する 感応度分析 を試みた ( 分析結果 ) 本章では 各ファクターに以下の仮定を置き それぞれDCF 値がどのような数値になるか検証を行った ( イ ) 予想営業利益 ±% ±2% ( ロ ) リスクプレミアム ±.5% ±2.5% ( ハ ) 負債コスト ±.5% 結果は図表 5-9に示してあるが 予想営業利益を% 低下させた場合に時価総額に近い値になることがわかる これに対し 予想営業利益が2% 変動した場合 理論価格は約 5% 変動し 2% の低下では理論価格が時価総額を大きく下回る結果となった 実際に4-8 年の5 年間で対象企業の営業利益が平均値からどれだけ乖離しているかをみると 2-25% が最も多くみられ ( 図表 5-) キャッシュフローについては変動性を見込んでおく必要があることが示されている 次に リスクプレミアムを.5% 2.5% 上下に変動させた場合の結果をみると.5% ではそれほど大きな変化ないが 2.5% 低下させた場合に理論価格は約 5% 増加することが示された ( 図表 5-) 時価総額が理論価格と一致していると仮定した場合のリスクプレミアムの値を逆算すると 5-7% のレンジが最も多く 今回使用した5% はそれなりの妥当性を持っていることがわかる もっとも 9-% のレンジも高い頻度でみられることから 8 年夏のような金融市場の混乱時ではリスクプレミアムが平常時より上昇している可能性があることには留意が必要であろう 4
図表 5-9 感応度分析の結果 製造業 _8 年 非製造業 _8 年 2, 2, 8, 6,, 4, 8, 2, 6,, 8, 4, 6, 4, 元 DCF 値 時価総額 2, 元 DCF 値 時価総額 2, 予想営業利益 ±% 予想営業利益 ±5% リスクプレミアム ±5bp リスクプレミアム ±25bp 負債コスト ±5bp 予想営業利益 ±% 予想営業利益 ±5% リスクプレミアム ±5bp リスクプレミアム ±25bp 負債コスト ±5bp 図表 5-4-8 年の各企業の営業利益に関する平均からの乖離平均値と最大値の乖離率 ( 製造業 ) 平均値と最小値の乖離率 ( 製造業 ) 6.% 4.% 4.% 2.% 2.%.%.% 8.% 6.% 4.% 2.% 8.% 6.% 4.% 2.%.%.% 5% 未満 5%-% %-5% 5%-2% 2%-25% 25%-3% 3%-35% 35%-4% 4%-45% 45%-5% 5%-55% 55%-6% 6%-65% 65%-7% 7% 以上 -5% 以上 -%<-5% -5%<-% -2%<-5% -25%<-2% -3%<-25% -35%<-3% -4%<-35% -45%<-4% -5%<-45% -55%<-5% -6%<-55% -65%<-6% -7%<-65% -7% 以下 図表 5- 時価総額 =DCF 値と仮定した場合のリスクプレミアムの逆算値 28 年 ( 製造業 ) 24 年 ( 製造業 ) 25% 25% 2% 2% 5% 5% % % 5% 5% % % 未満 %-3% 3%-5% 5%-7% 7%-9% 9%-% %-3% 3%-5% 5%-7% 7%-9% 9%-2% 2%-23% 23% 以上 % % 未満 %-3% 3%-5% 5%-7% 7%-9% 9%-% %-3% 3%-5% 5%-7% 7%-9% 9%-2% 2%-23% 23% 以上 4
( 参考図 ) 28 年 参考図 と時価総額の散布図 ( 全サンプル ) 27 年,, R 2 =.9 R 2 =.85,, 26 年,,, R 2 =.745 25 年,,, R 2 =.744,, 24 年,,,,, R 2 =.79,,, 42
製造業 (28 年 ) 修正前 参考図 2 外れ値検定の結果 修正後 実際の価格 / 理論価格の分布図 (β= 業種 ) ( 平均 標準偏差が中央値 四分位範囲と一致する正規分布との比較 ) 実際の価格 / 理論価格の分布図 (β= 業種 )( 補正後データ ) ( 平均 標準偏差が一致する正規分布との比較 ).3 実際の価格 / 理論価格 ( 修正前 ) 正規分布.3 実際の価格 / 理論価格 ( 修正前 ) 正規分布.25.25.2.2.5.5...5.5. 未満.-.3 未満.3-.5.5-.7.7-.9.9-..-.3.3-.5.5-.7.7-.9.9-2. 2.-2.3 2.3-2.5 2.5 以上. 未満.-.3 未満.3-.5.5-.7.7-.9.9-..-.3.3-.5.5-.7.7-.9.9-2. 2.-2.3 2.3-2.5 2.5 以上 非製造業 (28 年 ) 修正前 修正後 実際の価格 / 理論価格の分布図 (β= 業種 ) ( 平均 標準偏差が中央値 四分位範囲と一致する正規分布との比較 ) 実際の価格 / 理論価格の分布図 (β= 業種 )( 補正後データ ) ( 平均 標準偏差が一致する正規分布との比較 ).25 実際の価格 / 理論価格 ( 修正前 ) 正規分布.3 実際の価格 / 理論価格 ( 修正前 ) 正規分布.2.25.5.2.5...5.5. 未満.-.3 未満.3-.5.5-.7.7-.9.9-..-.3.3-.5.5-.7.7-.9.9-2. 2.-2.3 2.3-2.5 2.5 以上. 未満.-.3 未満.3-.5.5-.7.7-.9.9-..-.3.3-.5.5-.7.7-.9.9-2. 2.-2.3 2.3-2.5 2.5 以上 43
3. 分析から得られた示唆と課題等 () 主な示唆以上の分析結果を整理すると 以下のようなことが言えよう 総じての時価総額の説明力は高く の算定に用いた各要素の変動は 実際の株価の変動を理屈どおりにもたらすものであることをある程度裏付けることに成功していると評価できる また の時価総額への説明力が 推計期間中ほぼ一貫して改善しており 市場の透明性 効率性が改善していることを示す可能性がある この間 わが国におけるM&A 件数も増大しているが このことが市場の機能の強化に繋がっているという考え方と整合性のある結果である 但し 全般に 時価総額 <という傾向がみられる また 時価総額とDCF 株式価値の乖離は マーケット上昇局面で縮小 下落局面で拡大という傾向がみられた 感応度分析の結果からは このようなバイアスの原因としては 推計期間の株式リスクプレミアムが過去 35 年間の平均より高かったか 利益見通しに下方バイアスがあった可能性があることが示唆されている 例えば 非製造業におけるばらつきの大きな原因は 時価総額におけるシェアの大きい 電気ガス業 におけるDCF 推計値の過大評価であり おそらく推計期間における資源エネルギー価格高などの影響を受けた電気ガス業における利益水準が長期的に期待される水準より高すぎたことが原因と考えられる 電気ガス業は また公益事業であることもあり 資本コストが他の業種と比べて格段に低いため 今回のDCFの手法による理論値においては 利益見通しの変動により特にぶれやすいという特徴を持つ また 乖離率は縮小傾向にあったものの 28 年度は急拡大したが リスクプレミアムは マーケットの局面に応じて変動していると考えられることから 固定的なリスクプレミアムを用いることの限界を示している可能性がある に比べての変動性は小さい の動きには需給関係など個々の企業価値以外の変動要素が含まれると考えられる 市場の需給は株価をいわゆるファンダメンタルズの変動以上に振幅させるものである一方 は ファンダメンタルズそのものを反映するものであり 企業固有の要素がより強く反映されていると受け取れる 以上の分析から 株価の理論値が実際の株価を予測する能力を相当程度有しており このような理論値の統計が株式市場の動向を評価する上で重要な統計となりうることを示していると評価できよう わが国の株式市場において個人投資家が果たす役割が大きくなってきているところ 情報の集約化を効率的に行なっている本統計は 個人投資家の投資行動をサポートし 経済効率性の観点からも一定の役割を果たすことが期待できる また 株式市 44
場への介入 もしくは個別企業への公的資金投入などが検討されているところ 経済財政 金融政策に対しても重要な役割を果たせると考えられる (2) 今後の課題昨年度の分析で今後の課題として取り上げた項目 ( ばらつき 業種の拡大 時系列の整備 ) のうち 時系列 業種別の分析については進んだところ ばらつき ( 時価総額との乖離 ) の原因分析については 今回は感応度分析に留まっており 引き続き課題である 特に 推計の前提としたリスクプレミアム ベータ値 フリーキャッシュフローの設定方法がばらつきやバイアスの原因となっている可能性が高く 前提とするのではなく 研究テーマとして取り上げ 分析を進めることが重要である また今回の研究の範囲を超えているが マクロの統計としての整備の可能性についても検討する価値がある 今回の推計でカバーしたと 東証上場を比較したのが 以下の表である これをみると すでに約 3 割をカバーしている上に その比率はかなり安定している 東証上場と国民経済計算における国民総資産の株式を年末値で比較すると 時価総額は7 割から8 割をカバーしていることが分かる すなわち 今回の推計によるカバレッジは 少なく見積もっても2 割程度あり かつその関係は ある程度安定しているのである 今回の推計はわが国の株式の時価総額の変動をかなりの精度で要因分解することが可能であることを示していると思われる ( 図表 5-2) 図表 5-2 マクロの株価総額指標との比較 ( 単位 : 億円 %) 24 25 26 27 28 M&A 研究会 DCF 理論値 63,828.6 74,438.6 78,3.2 94,744.5 8,786.9 M&A 研究会推計対象企業の実績値 (6-8 月月中平均 ),875.2 2,4.3 47,448.3 67,93. 25,722.9 上場企業時価総額 (6-8 月末平均 ) 36,439.6 384,897.9 58,47.3 556,963. 428,826.3 上場企業時価総額 ( 年末 ) 364,554.9 539,739.5 549,789.4 483,828.9 283,46.2 国民経済計算 ( 年末 ) 467,88.8 724,659.5 724,833.6 559,8.9 実績値の上場企業時価総額に対す 28.3% 29.% 28.5% 3.% 29.3% るカバレッジ 上場企業時価総額の国民経済計算 78.% 74.5% 75.9% 86.6% に対するカバレッジ 今回の推計のカバレッジ 22.% 2.7% 2.6% 26.% 45