00 表紙・目次

Similar documents
平成16年新潟県中越地震 JR西日本福知山線列車事故 16年10月23日に発生した新潟県中越地震は 死者68人 災害関連死を含む という被害を もたらしました この地震を契機に 警察では 極めて高度な 救出救助能力を必要とする災害現場において 迅速かつ的確に被災者の救出救助を行う専門部 隊として 1

(6) 行方不明者の捜索 (7) 治安の維持 (8) 被災者等への情報伝達 (9) 前各号に掲げるもののほか 派遣先都道府県警察の長が特に指示する活動一部改正 平成 25 年第 15 号 ( 即応部隊の活動 ) 第 4 条即応部隊は 大規模災害発生時に直ちに被災地等へ赴き それぞれ次に掲げる活動を行

平成28年4月 地震・火山月報(防災編)

<4D F736F F F696E74202D208E9197BF C FC A1817A8C46967B926E906B82D682CC91CE899E82C982C282A282C42E >

緊急緊急消防援助隊について消防援助隊の概要 目的 地震等の大規模 特殊災害発生時における人命救助活動等を効果的かつ迅速に実施する消防の援助体制を国として確保 創設の経緯等 阪神 淡路大震災での教訓を踏まえ 平成 7 年に創設 平成 15 年 6 月消防組織法の改正により法制化 平成 16 年 4 月

緊急緊急消防援助隊について消防援助隊の概要 目的 地震等の大規模 特殊災害発生時における人命救助活動等を効果的かつ迅速に実施する消防の援助体制を国として確保 創設の経緯等 阪神 淡路大震災での教訓を踏まえ 平成 7 年に創設 平成 15 年 6 月消防組織法の改正により法制化 平成 16 年 4 月

2019 年1月3日熊本県熊本地方の地震の評価(平成31年2月12日公表)

30 第 1 部現地における災害応急活動 阿蘇大橋付近の被害状況 ( 熊本県阿蘇郡南阿蘇村 ) 熊本城の被害状況 ( 熊本県熊本市 ) 2

熊本地震に係る対応について

この資料は速報値であり 後日の調査で変更されることがあります 時間帯 最大震度別回数 震度 1 以上を観測した回数 弱 5 強 6 弱 6 強 7 回数 累計 4/14 21 時 -24 時 /15 00 時 -24 時 30


した 気象庁は その報告を受け 今後は余震確率の公表方法を改めることとしたという 2. 被害状況 被害要因等の分析 (1) 調査方針本委員会は 以下の調査方針で 被害調査と要因分析を行っている 1 極めて大きな地震動が作用し 多数かつ甚大な建築物被害が生じた益城町及びその周辺地域に着目して検討を進め

特集大規模自然災害からの復旧 復興 参考 警察が検視により確認している死者数 50 名 災害による負傷の悪化または避難生活等における身体的負担による死者数 106 名 6 月 日に発生した豪雨による被害のうち熊本地震と関連が認められた死者数 5 名建物被害全壊 8,360 棟, 半壊 3

佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

PowerPoint プレゼンテーション

< F2D817991E F1817A8C46967B2E6A7464>

00 表紙・目次

第 1 章実施計画の適用について 1. 実施計画の位置づけ (1) この 南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画 に基づく宮崎県実施計画 ( 以下 実施計画 という ) は 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法 ( 平成 14 年法律第 92 号 以下 特措法 と

日本医師会ニュース「平成28年熊本地震」:情報提供第十報

<4D F736F F D208C46967B926E906B82CC96C6906B8C9A95A8899E939A89F090CD>

PowerPoint プレゼンテーション

平成 28 年熊本地震における対応 平成 28 年熊本地震 ( 前震 :4/14 本震 :4/16) において 電力 ガス等の分野で供給支障等の被害が発生 関係事業者が広域的な資機材 人員の融通を実施するなど 迅速な復旧に努めた結果 当初の想定よりも 早期の復旧が実現 また 復旧見通しを早い段階で提

第 1 章熊本地震の概要 執筆 : 阿部直樹 ( 国立研究開発法人防災科学技術研究所 ) 1-1 熊本地震動の概要 2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分頃 熊本県熊本地方の深さ約 11km を震源とする M6.5 の地震が発生し 熊本県上益城郡益城町において震度 7を観測した また約

< F2D817991E F1817A8C46967B2E6A7464>

熊本地震の緊急調査報告

id5-通信局.indd

< F2D817991E F1817A8C46967B2E6A7464>

日向灘 佐伯市で震度 2 を観測 8 日 08 時 33 分に日向灘で発生した M3.9 の地震 ( 深さ 31km) により 佐伯市 愛媛県西予市 高知県宿毛市などで震度 2 を観測したほか 大分県 宮崎県 愛媛県および高知県で震度 1 を観測しました ( 図 1) 今回の地震の震源付近 ( 図

Microsoft PowerPoint - 【参考配布】広域.pptx

2016年(平成28年) 熊本地震

Microsoft PowerPoint - 【確定】資料3-1_110527(避難者外し).pptx

日本医師会ニュース「平成28年熊本地震」:情報提供第八報

た ( 派遣員数 4 名 ) (2) 全国知事会は 大分県等と連携しながら 引き続き情報共有に努めるとともに 各都道府県に対し 知事会の対応状況等を連絡することとしている (3) 全国知事会は 被災市町村と支援県によるカウンターパート方式による支援を決定 (4) 熊本県への救護班の派遣について 36

地震発生後の九州地方整備局の活動 4 月 16 日の夜明け 本震の後に再度調査を実施しておりま す その際は 道路崩壊の調査 土砂崩壊の箇所の調査 被 災地に入るための安全ルートの確認等を実施しております 次に九州地方整備局の活動について紹介させていただき ます まず最初に地震発生後の初動体制につい

01【会計課】31年度予算重点項目案について

1.1 阪神 淡路大震災環境省は 阪神 淡路大震災 ( 平成 7 年 1 月 17 日発生 ) の際に兵庫県及び神戸市の協力を得て 大気中の石綿濃度のモニタリング調査を実施した 当時の被災地における一般環境大気中 (17 地点 ) の石綿濃度の調査結果を表 R2.1 に 解体工事現場の敷地境界付近に

災害等の特徴 東日本大震災の被害状況 平成 23 年 3 月 11 日 ( 金 )14 時 46 分頃 三陸沖を震源とする東日本大震災 ( モーメントマグニチュード 9.0 最大震度 7 宮城県栗原市 ) が発生し 東日本に甚大な被害が発生 我が国の観測史上最大規模 ( モーメントマグニチュード9.

(/9) 07 年に発生した地震の概要. 佐賀県の地震活動 07 年に佐賀県で震度 以上を観測した地震は 9 回 (06 年は 85 回 ) でした ( 表 図 3) このうち 震度 3 以上を観測した地震はありませんでした (06 年は 9 回 ) 表 07 年に佐賀県内で震度 以上を観測した地震

た ( 派遣員数 4 名 ) (2) 全国知事会は 大分県等と連携しながら 引き続き情報共有に努めるとともに 各都道府県に対し 知事会の対応状況等を連絡することとしている (3) 全国知事会は 被災市町村と支援県によるカウンターパート方式による支援を決定 (4) 熊本県への救護班の派遣について 36

Taro-第17報.jtd

< F2D E968CCC8DD08A5191CE8DF495D281458D718BF38DD0>

地震の概要 検知時刻 : 1 月 3 日 18 時分 10 発生時刻 : 1 月 3 日 18 時 10 分 マグニチュード: 5.1( 暫定値 ; 速報値 5.0から更新 ) 場所および深さ: 熊本県熊本地方 深さ10km( 暫定値 ) 発震機構 : 南北方向に張力軸を持つ横ずれ断層型 ( 速報

< E B B798E7793B188F5936F985E8ED EA97975F8E9696B18BC CBB8DDD816A E786C7378>

平成17年7月11日(月)

日本医師会ニュース「平成28 年熊本地震」:情報提供第八報

Microsoft Word - 熊本地震現地調査速報(福島) rev.docx

< E B B798E7793B188F5936F985E8ED EA97975F8E9696B18BC CBB8DDD816A E786C7378>

平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中


山県市地域防災計画【 改訂版】

Microsoft Word - 2章170327

日本医師会ニュース「平成28 年熊本地震」:情報提供第五報

各府省からの第 1 次回答 1. 災害対策は 災害対策基本法に規定されているとおり 基礎的な地方公共団体である市町村による第一義的な応急対応と 市町村を包括する広域的な地方公共団体である都道府県による関係機関間の総合調整を前提としている を活用してもなお対応できず 人命又は財産の保護のため必要がある

<4D F736F F D E E8C46967B926E906B94ED8A5192B28DB895F18D908F912D96DA8E9F5F8DC58F4994C E C816A E646F6378>

平成 28 年 4 月 16 日 01 時 25 分頃の熊本県熊本地方の地震 震度分布図 各地域の震度分布 : 震央 各観測点の震度分布図 ( 震央近傍を拡大 )

大規模災害時における罹災証明書の交付等に関する実態調査-平成28年熊本地震を中心として-

PowerPoint プレゼンテーション

1 視察目的 平成 28 年熊本地震は 観測史上初めて 同一地域において震度 7 の地震がわずか 28 時間の間に二度も発生し 大きな被害をもたらした 後に 前震 とされる平成 28 年 4 月 14 日 ( 木 )21 時 26 分に発生した地震は 熊本県熊本地方の深さ 11 km地点を震源とし

02一般災害対策編-第3章.indd

2 被害量と対策効果 < 死者 負傷者 > 過去の地震を考慮した最大クラス あらゆる可能性を考慮した最大クラス 対策前 対策後 対策前 対策後 死者数約 1,400 人約 100 人約 6,700 人約 1,500 人 重傷者数約 600 人約 400 人約 3,000 人約 1,400 人 軽傷者

【集約版】国土地理院の最近の取組

資料1 受援計画策定ガイドラインの構成イメージ

被害情報 平成 29 年 11 月 13 日 16 時 30 分発表熊本県危機管理防災課 平成 28(2016) 年熊本地震等に係る被害状況について 第 258 報 1 この数値は 現段階の速報値であって 確定値ではありません 速報値 1 1 被害状況 ( 平成 29 年 11 月 13 日 13:

1 第節 警察の組織 1 警察の組織 (1) 公安委員会制度 公安委員会制度は 強い執行力を持つ警察行政について その政治的中立性を確保し かつ 運営の独善化を防ぐためには 国民の良識を代表する者が警察の管理を行うことが適切と考えられたため設けられた制度であり 国に国家公安委員会を置いて警察庁を管理

別添2 乳児家庭全戸訪問事業の実施状況

できない場合は 代表消防機関代行の倉敷市消防局又は津山圏域消防組合消防本部の職員をもって充てるものとする 4 岡山県大隊に 消火 救助 救急等の任務単位毎に中隊を設けることとし 各中隊を 消火中隊等 と呼称するものとする なお 中隊長は 岡山県大隊長が指定するものとする 5 各中隊に 各車両又は付加

<GK クルマの保険 ( 車両保険 )> ( 自動車によるあて逃げに限ります ) お客さまのおクルマは 車両保険 に加入していますか? 自動車保険の車両保険では 一般車両 もしくは 10 補償限定 のいずれでも 台風や集中豪雨による洪水の事故が対象となります 地震 噴火またはこれらによる津波 によっ

280 ・11_月.pdf

<4D F736F F D E58B4B96CD93C18EEA8DD08A518E9E82C982A882AF82E98D4C88E68D718BF38FC E89878EC08E7B97768D6A>

熊本地震災害調査レポート(速報)

公安委員会 古物営業法施行令の一部を平成 30 年 9 月 6 日 説明資料 No. 1 改正する政令案 等について生活安全企画課 1 古物営業法施行令の一部を改正する政令案 等の改正等について (1) 趣旨古物営業法の一部を改正する法律 ( 平成 30 年法律第 21 号 以下 改正法 という )

<4D F736F F D208DE98BCA8CA78C788E408DD08A CAD91E0895E D6A2E646F63>

(6) 八丈町役場 青ヶ島村役場 八丈町災害対策本部 青ヶ島村災害対策本部の設置 7 訓練の様子 (1) 八丈町避難誘導訓練地震時における総合的な避難訓練と火山噴火時における避難訓練を併せて行い 八丈町及び防災関係機関並びに住民がとるべき防災処置を実践し 地震災害 火山噴火災害に対応した防災対策の習

家族みんなの防災ハンドブック 保存版

 Ⅰ.はじめに

特集1-3表 4月14日21時26分以降に発生した最大震度以上の地震 番号 発生月日 発生時刻 震央地名 震源の深さ 地震の規模 マグニチュード 最大震度 21時26分 熊本地方 11km 6.5 7 22時7分 熊本地方 8km 5.8 6弱 ⑶ 平成28年4月15日 0時3分 熊本地方 7km

アンケート調査の概要 目的東南海 南海地震発生時の業務継続について 四国内の各市町村における取り組み状況や課題等を把握し 今後の地域防災力の強化に資することを目的としてアンケート調査を実施 実施時期平成 21 年 11 月 回答数 徳島県 24 市町村 香川県 17 市町 愛媛県 20 市町 高知県

発災後 消防庁長官から被災都道府県以外の都道府県の知事等に電話等により連絡し 行うこととなる しかし 大規模地震においては 通信インフラ等に様々な障害が発生する可能性があり その場合には 緊急消防援助隊の出動に支障が生じることが考えられる このため 一定震度以上の大規模地震等が発生した場合に効力が発

第 1 趣旨 この要綱は 他の都道府県において大規模災害が発生し 又は発生するおそれがある場合 ( 以 下 大規模災害発生時 という ) に 被災地又は被災が予想される地域 ( 以下 被災地等 という ) において 被害状況の把握 被災者の救出救助 緊急交通路の確保 検視 行方不 明者の捜索 治安の

九州地方の主な地震活動

untitled

長崎県 : 諫早市 島原市 雲仙市熊本県 : 荒尾市 南関町 人吉市 あさぎり町 山江村 水俣市 津奈木町大分県 : 大分市 臼杵市 津久見市 佐伯市 玖珠町宮崎県 : 延岡市鹿児島県 : 長島町 (3) 津波津波注意報平成 28 年 4 月 16 日 1 時 27 分気象庁発表有明 八代海 16

建築物等震災対策事業について

これだけは知っておきたい地震保険

第 5 部 南海トラフ地震防災対策推進計画

事務連絡平成 30 年 10 月 26 日 各都道府県消防防災主管課東京消防庁 各指定都市消防本部 } 殿 消防庁予防課 外国人来訪者や障害者等が利用する施設における災害情報の伝達及び避難誘導に関するガイドライン のリーフレットの配布について 2020 年東京オリンピック パラリンピック競技大会が開

市町村支援の状況について

第8章 災害復旧計画

通話品質 KDDI(au) N 満足やや満足 ソフトバンクモバイル N 満足やや満足 全体 21, 全体 18, 全体 15, NTTドコモ

災害拠点病院 災害拠点病院は 病院などの後方医療機関として 地域の医療機関を支援する機能を有する病院で 重症 重篤な傷病者を受入れるなど 災害時の医療救護活動において中心的な役割を担う病院として位置づけられています 厚生労働省の基準では 地域の災害拠点病院については 原則として 二次保健医療圏ごとに

平成 26 年 3 月 28 日 消防庁 平成 25 年の救急出動件数等 ( 速報 ) の公表 平成 25 年における救急出動件数等の速報を取りまとめましたので公表します 救急出動件数 搬送人員とも過去最多を記録 平成 25 年中の救急自動車による救急出動件数は 591 万 5,956 件 ( 対前

(1) 生活安全部地域室通信指令課長 ( 以下 通信指令課長 という ) は 突発重大事案の発生を認知したときは 報告 連絡系統表 ( 別表第 2) により 迅速に関係所属長 ( 警備部警備課長 ( 以下 警備課長 という ) 事案主管課長 現地警察署の警察署長 ( 以下 署長 という ) 等 )

平成 27 年の救急出動件数等 ( 速報 ) 消防庁

Microsoft PowerPoint 「平成28年熊本地震活動記録(第17報) 案-2.pptx

防災情報のページ

東日本大震災に係る災害等廃棄物処理事業の実地調査について

Taro-x01.jtd

Taro-309 緊急事態における新潟県警察の組織に関する要綱の制定について(例規通達)

00 表紙・目次

平成 26 年の救急出動件数等 ( 速報 ) 消防庁

Transcription:

第 1 章 警察庁 5

第 1 節熊本地震の概要と特徴 1. 熊本地震の概要 平成 28 年 4 月 14 日 ( 木 ) 午後 9 時 26 分 熊本県熊本地方を震央とする震源の深さ 11km の地震が発生し マグニチュード 6.5 最大震度 7( 益城町宮園 ) を観測した その翌々日 16 日 ( 土 ) 午前 1 時 25 分には同じ熊本県熊本地方を震央としてより大きなマグニチュード 7.3 の地震が発生し 震源の深さ 12km 最大震度 7 ( 益城町宮園 西原町小森 ) を観測した これらに伴う余震も特筆すべき頻度で発生し 本震翌日までに震度 6 強が2 回 震度 6 弱が3 回発生したほか 震度 4 以上が 70 回超 震度 1 以上が 400 回超発生した 熊本地震による人的被害は 死者 50 人 1) 負傷者 2,743 人 ( 重傷 1,142 人 軽傷 1,604 人 )( 平成 29 年 3 月 14 日現在 内閣府資料 ) であった 2. 熊本地震の特徴 2.1 地震 ( 揺れ ) の特徴 熊本地震の規模 ( マグニチュード 7.3) は 平成 7 年に発生した阪神 淡路大震災と同規模であり 震源断層上付近の一部地域で前震 本震ともに震度 7を観測した 計測震度 6.7 は 気象庁観測史上で最大の揺れであり また 同じ地域を震度 7の揺れが2 度襲う例は観測史上初である さらに 熊本地震で観測された地震波は いわゆるキラー パルス ( 木造家屋を壊しやすい周期 1~2 秒付近の成分 ) を多く含み それによって建物に加わる力は阪神 淡路大震災で観測された最大値を超える強さであった 2.2 被害の特徴 2.2.1 多数の建物倒壊熊本地震による住宅被害は 全壊 8,682 棟 半壊 33,660 棟 一部損壊 152,749 棟 ( 平成 29 年 3 月 14 日現在 内閣府資料 ) に及び 特に震度 7を記録した益城町の中心部では 建物の大破率が5~7 割超の地域が帯状に広がっており 比率でみると 益城町の建物被害率は阪神 淡路大震災で最も揺れが激しかった地域に匹敵する ( 写真 1-1-1) 2.2.2 大規模な土砂災害熊本地震の被災地域は火山灰の堆積地であったため 多数の大規模な土砂災害が発生し 特に揺れが激しかった南阿蘇村では建物の流失 埋没等による甚大な被害が発生したほか 阿蘇大橋を始めとする橋梁や道路等社会基盤施設の被害を伴った ( 写真 1-1-2) 1) 災害関連死を含まない 警察庁 6

写真 1-1-1 益城町の建物倒壊状況 写真 1-1-2 南阿蘇村の土砂災害発生状況 警察庁 7

第 2 節警察の救助活動の概要 1. 警察の救出救助部隊の変遷 現に生命の危険にさらされている状態からの被災者の救出を含め 大規模災害において被災者の救助活動 を行う警察の救出救助部隊は 熊本地震発生までの間に以下のとおり整備されてきた 1.1 広域緊急援助隊の設置 平成 7 年 1 月に発生した阪神 淡路大震災において 全国から被災地に派遣された機動隊等に救助能力の不足が認められたことを踏まえ 警察では 大規模災害時に都道府県警察の枠を越えて広域的に即応し 高度の救助能力と自活能力を有する専門部隊として 平成 7 年 6 月 各都道府県警察に 広域緊急援助隊 を設置した 広域緊急援助隊は 救助活動を行う警備部隊 ( 約 2,600 人 ) と交通対策を行う交通部隊 ( 約 1,500 人 ) から編成され 国内で大規模な災害が発生し 又は発生しようとしている場合において 被災地を管轄する都道府県公安委員会の援助要求により 直ちに被災地に派遣され 被災情報の収集 被災者の救出救助 緊急交通路の確保等に従事することとなった 1.2 広域緊急援助隊の拡充 平成 16 年 10 月に発生した新潟県中越地震において 極めて高度な救助能力が必要な災害現場であっても迅速かつ的確に救助活動を展開する必要が認められたことを踏まえ 平成 17 年 4 月 12 都道府県警察 ( 北海道 宮城 警視庁 埼玉 神奈川 静岡 愛知 大阪 兵庫 広島 香川 福岡 ) の広域緊急援助隊の中に 特別救助班 (Police Team of Rescue Experts;P REX)( 約 200 人 ) が設置された その後 平成 18 年 3 月には 平成 17 年 4 月に発生した JR 福知山線列車事故を踏まえ 遺体の検視や遺族対策を行う刑事部隊 ( 約 600 人 ) を広域緊急援助隊に新設した 1.3 警察災害派遣隊の設置 平成 23 年 3 月に発生した東日本大震災において 長期間にわたり大規模な部隊派遣を行ったことを踏まえ 災害発生時に直ちに被災地ヘ派遣される部隊として 広域緊急援助隊 ( 刑事部隊 ) を増強するほか 緊急災害警備隊 ( 約 3,000 人 ) や広域警察航空隊 ( 約 500 人 ) を新設するなど 約 1 万人体制の即応部隊を編成した また 発災から一定期間 ( 概ね 2 週間 ) が経過した後に 継続的に様々な警察活動を行う部隊として 特別自動車警ら部隊 特別機動捜査部隊 特別生活安全部隊等を新設するなど 約 3,000 人体制の一般部隊を編成して もって即応部隊及び一般部隊で構成する 警察災害派遣隊 を設置した 2. 警察の救助活動の流れ 110 番通報等により認知した被災情報や救助要請に対応するため 被災地を管轄する都道府県警察本部 ( 以 下 被災地警察 という ) は まず警察署員 自動車警ら隊等 ( 以下 警察署等 という ) 次いで機動 隊 管区機動隊等 ( 以下 機動隊等 という ) を現場に臨場させる そして 大規模災害の場合には 警察 警察庁 8

災害派遣隊の即応部隊のうち 広域緊急援助隊 ( 警備部隊 ) 及び緊急災害警備隊 ( 以下 広域緊急援助隊等 という ) が 同じく派遣された広域警察航空隊 ( 警察ヘリ ) と協力しつつ 被災地警察とともに救助活動を行う なお 警察災害派遣隊の救出救助部隊は その救助能力別に 広域緊急援助隊特別救助班 ( 機動隊員のみで編成 ) 広域緊急援助隊 ( 機動隊員及び管区機動隊員で編成 ) 緊急災害警備隊 ( 管区機動隊員のみで編成 ) と階層化している ( 図 1-2-1) 図 1-2-1 警察の救出救助部隊の分類 3. 熊本地震における警察の初動対応 3.1 前震発生後の初動対応 熊本県警察本部は 前震発生後直ちに警察本部長を長とする災害警備本部を設置して情報収集等を行った また 関係機関との情報共有と活動調整を円滑に行うため 熊本県及び益城町の災害対策本部に連絡要員をそれぞれ派遣するとともに 派遣された広域緊急援助隊等の進出拠点 ( グランメッセ熊本 ) にも要員を派遣し 順次到着する各部隊への任務付与を図った ( 表 1-2-1) 益城町 熊本市及び宇城市では 発災直後から熊本県警察の警察署等及び機動隊等が救助活動を行い 発災から約 7 時間 30 分後 (15 日午前 5 時頃 ) に全ての活動を終えた ( 表 1-2-2) また 4 月 14 日 15 日中に派遣された広域緊急援助隊等 (18 都府県 972 人 ) のうち 福岡 長崎及び大分県警察の広域緊急援助隊 (286 人 ) は救助活動を行ったが その他の府県から派遣された広域緊急援助隊等 (15 都府県 686 人 ) は 進出拠点に到着した時点で既に救助活動が終了していた そこで 15 日午前 7 時以降 熊本県警察の機動隊等及び広域緊急援助隊等は 消防及び自衛隊と合同で 倒壊建物内に取り残された被災者の有無の確認 ( いわゆるローラー捜索 ) 避難を要する入院患者の移送等を行い 同日夕刻以降は益城町を中心とする被災地の警戒活動を行った 警察庁 9

表 1-2-1 自治体及び進出拠点への要員派遣状況 派遣先 派遣要員 熊本県庁 ( 災害対策本部 ) 熊本県警察本部警備第二課次席 ( 警視 ) 以下 3 人熊本県警察本部警備第一課警備指導官 ( 警視 ) 以下 5 人益城町役場 ( 災害対策本部 ) 御船警察署員 2 人グランメッセ熊本 ( 進出拠点 ) 熊本県警察本部外事課課長 ( 警視 ) 以下 3 人 進出拠点は4 月 15 日午前 3 時頃に 熊本県民総合運動公園 の駐車場にその機能を移し 以後 同所は活動拠点となった 表 1-2-2 前震発生に伴う警察の救助活動の結果 活動部隊活動現場数 生 要救助者数 存心肺停止 熊本県警察 26 32 3 広域緊急援助隊等 3 1 2 消防 自衛隊等と合同で救助活動を行った現場を含む 3.2 本震発生後の初動対応 本震発生後 熊本県警察本部は 直ちに活動拠点 ( 熊本県民総合運動公園 ) で待機中の広域緊急援助隊等に出動を指示し 準備の整った部隊から益城町及び南阿蘇村に移動して 救助活動を開始した また 本震発生後直ちに広域緊急援助隊等 (10 都府県 547 人 ) が追加派遣された 益城町では 町役場に前震発生後から合同調整所が設置され 既に同所に派遣されていた警察本部の連絡要員が関係機関と活動調整を行った 益城町のほか 熊本市 嘉島町 西原村の現場では 発災直後から熊本県警察の警察署等及び同機動隊等並びに広域緊急援助隊等が救助活動を行い 発災から約 13 時間後 (16 日午後 2 時 30 分頃 ) に全ての救助活動を終えた 一方 南阿蘇村では 同地区までの経路に大規模な土砂崩れ等が発生していたため 同地区への車両等による部隊の移動が本格化した午前 7 時頃までの間 警察署員が地元消防 消防団等と合同で救助活動を行った 同地区では 発災から約 13 時間後 (16 日午後 2 時 45 分頃 ) に建物倒壊現場での救助活動を終えたが 他方 大規模な土砂災害が複数箇所で発生していたことから 引き続き熊本県警察の機動隊等及び広域緊急援助隊等が 消防 自衛隊等と合同で活動を継続した ( 表 1-2-3) なお 広域緊急援助隊等については 南阿蘇村河陽地区の救助活動が終了した4 月 25 日をもって 派遣を全て終了した 表 1-2-3 本震発生に伴う警察の救助活動の結果 活動部隊 活 動 現場数 生 要救助者数 存心肺停止 熊本県警察 49 76 4 広域緊急援助隊等 24 19 14 消防 自衛隊等と合同で救助した現場を含む 南阿蘇村の土砂災害現場で 4 月 17 日以降に救助された 9 現場 ( 心肺停止 9 人 ) を含まない 警察庁 10