トピックス 企業収益と利益分配の動向 平成 27 年度の中部地域の企業活動は 世界経済の緩やかな回復や原油価格の下落による交易条件の改善などにより回復基調が続き それに伴い企業収益も増加が続いた 本トピックスでは 企業収益の増加に伴い利益剰余金や給与額等がどのように推移したのか 中部と全国を対比しながら検証してみた 分析手法 平成 28 年企業活動基本調査 ( 平成 27 年度実績 ) の調査項目から一部を抜粋し 1 企業当たりの当期純利益 利益剰余金 給与総額及び労働分配率等の推移を比較 分析した なお 業種によって調査対象企業数や企業規模 事業分野などにバラつきがあるため 分析内容が必ずしもその業種の平均的な実態を正確に表しているとは限らない点に留意する必要がある 詳細データは 本報告書内の該当項目を参照すること 分析結果 1. 当期純利益 中部の 1 企業当たりの当期純利益を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており リーマン ショック前の水準を上回っている 全国と比較すると 製造業は平成 23 年度以降 全産業では平成 24 年度以降 全国を上回った状況が続いている 一方 非製造業は平成 23 年度以降 全国を下回った状況が続いている ( 図 1 参照 ) ( 図 1)1 企業当たりの当期純利益の推移 1,800 1,600 1,000 800 600 400 200 0 200 1,606 1,083 895 683 511 413 400
2. 利益剰余金 ( 内部留保 ) 中部の 1 企業当たりの利益剰余金を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度は 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると 全産業及び製造業は 過去 10 年間全国を上回った状況が続いているものの 非製造業は 平成 25 年度以降全国を下回った状況が続いている ( 図 2 参照 ) ( 図 2)1 企業当たりの利益剰余金の推移 14,000 12,000 11,782 10,000 8,000 8,401 7,983 6,000 6,020 4,000 4,425 4,065 2,000 3. 労働分配率 (1) 給与総額中部の 1 企業当たりの給与総額を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度はリーマン ショック前の水準を上回っている 全国と比較すると 過去 10 年間 製造業は全国を上回った状況が続いているのに対し 非製造業は全国を下回った状況が続いており 全産業では平成 25 年度以降全国を上回った状況が続いている ( 図 3 参照 ) ( 図 3)1 企業あたりの給与総額の推移 2,600 2,400 2,492 2,200 2,000 2,234 2,123 2,099 1,990 1,800 1,600 1,650
(2) 付加価値額中部の 1 企業当たりの付加価値額を見ると 給与総額同様 平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度にはリーマン ショック前の水準を上回った 全国と比較すると 非製造業は 過去 10 年間全国を下回った状況が続いているものの 製造業は平成 25 年度以降全国を上回った状況が続いており 全産業でも平成 25 年度以降全国を上回っている ( 図 4 参照 ) ( 図 4)1 企業当たりの付加価値額の推移 6,000 5,500 5,000 4,500 4,000 3,500 5,209 4,658 4,491 4,323 4,051 3,570 3,000 2,500 (3) 労働分配率中部の労働分配率を見ると リーマン ショック前の平成 19 年度は約 45% であったが リーマン ショック後の平成 20 年度には 製造業が 60% 近くまで上昇し 全産業でも 55% 近くまで上昇し全国を大きく上回る水準となった ( 図 5 参照 ) これは 中部の給与総額と付加価値額がともに減少する中 付加価値額 特に営業利益の減少が大きかったためである ( 図 6 参照 ) その後は 平成 23 年度までほぼ横ばいであったものの 平成 25 年度には 48% 前後まで低下し 横ばいとなっている ( 図 5 参照 ) これは 営業利益の伸びに比べ給与総額の伸びが低かったことが要因と考えられる 営業利益を全国と比較すると 非製造業は 過去 10 年間全国を下回った状況が続いており 製造業は リーマン ショック後の平成 20 年度から平成 23 年度までは全国を下回っていたが平成 24 年度以降は全国を上回った状況が続いており 全産業でも 平成 25 年度以降は全国を上回った状況が続いている ( 図 6 参照 ) ( 図 5) 労働分配率の推移 65.0 60.0 59.3 55.0 50.0 45.5 47.8 45.0 40.0
( 図 6)1 企業当たりの営業利益の推移 1,600 1,445 1,000 800 600 1,110 1,011 869 753 682 400 200 0 中部では全国以上に製造業の割合が高いため 労働分配率の変動も製造業の動向によって左右されることから 製造業の給与総額及び付加価値額について 業種別の増減寄与度を見てみた リーマン ショック後の平成 20 年度に給与総額及び付加価値額の減少に大きく寄与しているのは ともに輸送用機械器具製造業であった また 平成 24 年度以降の増加に大きく寄与しているのも輸送用機械器具製造業であり 自動車関連産業の集積が高い中部は やはり輸送用機械器具製造業の動向によって左右されていることがわかる ( 図 7 8 参照 ) ( 図 7) 中部製造業の給与総額増減寄与度の推移 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 2.0 4.0 6.0 金属製品製造業輸送用機械器具製造業 電子部品 デバイス 電子回路製造業その他 8.0 ( 図 8) 中部製造業の付加価値額増減寄与度の推移 30.0 20.0 金属製品製造業 輸送用機械器具製造業 電子部品 デバイス 電子回路製造業 その他 10.0 0.0 10.0 20.0 30.0
4. 有形固定資産取得額 中部の 1 企業当たりの有形固定資産取得額を見ると 非製造業は リーマン ショック前は全国に比べ 3 分の 2 程度の水準であったが リーマン ショック後は全国と同程度の水準で ほぼ横ばいで推移している 一方 製造業は リーマン ショック前は全国よりやや少ない水準であったが リーマン ショック後の減少幅は全国に比べ大きく 平成 21 年度にはリーマン ショック前の半分程度まで減少した その後 全国に比べ回復度合いが高く 平成 27 年度には全国を上回る水準となった しかし その水準はリーマン ショック前の 8 割弱にとどまっている ( 図 9 参照 ) ( 図 9)1 企業当たりの有形固定資産取得額の推移 中部全産業 中部製造業 中部非製造業 全国全産業 全国製造業 全国非製造業 1,000 800 600 400 911 889 733 717 607 469 200 5. 研究開発投資額 中部の 1 企業当たりの研究開発投資額を見ると 非製造業は リーマン ショック後の平成 21 年度に減少した後 緩やかに増加し 平成 27 年度には平成 20 年度の水準をわずかながら上回る水準となった 一方 製造業は リーマン ショックにより平成 20 年度に大きく減少し 平成 24 年度以降増加に転じたものの 平成 27 年度は横ばいにとどまっており リーマン ショック前の水準には至っていない 全国と比較すると 非製造業はほぼ全国と同様の推移となっているが 製造業は平成 24 年度以降 全国を上回る水準となっており 全産業でも平成 21 年度以降は全国を上回っている ( 図 10 参照 ) ( 図 10)1 企業当たりの研究開発投資額の推移 中部全産業 中部製造業 中部非製造業 100.0 全国全産業 全国製造業 全国非製造業 90.0 80.0 70.0 60.0 50.0 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0 49.0 43.0 30.0 22.0 6.0
6. 製造業の利益剰余金 給与総額 有形固定資産取得額及び研究開発投資額の推移 中部と全国の製造業について利益剰余金 給与総額 有形固定資産取得額及び研究開発投資額を指数化 ( 平成 19 年度 =100) して見ると 中部の利益剰余金は 平成 24 年度以降平成 19 年度の水準を上回り 全国よりも水準が高く伸び率も高い 一方 中部の給与総額は リーマン ショック後の平成 21 年度からの回復 増加の度合が全国に比べ高く その水準も平成 24 年度以降は全国を上回って推移している しかし 増加の度合は 利益剰余金に比べ低いレベルにとどまっている 中部の有形固定資産取得額及び研究開発投資額は リーマン ショック後 利益剰余金の水準に比べ大きく減少しており その後も低い水準で推移している また 研究開発投資額は 平成 22 年度以降全国に比べ低い水準で推移している なお 平成 27 年度の利益剰余金と給与総額との水準差は 全国よりも中部の方が大きくなっている ( 図 11 参照 ) ( 図 11) 製造業の利益剰余金 給与総額 有形固定資産取得額及び研究開発投資額の推移 ( 平成 19 年度 =100) 180 160 中部利益剰余金中部給与総額中部有形固定資産取得額中部研究開発投資 全国利益剰余金全国給与総額全国有形固定資産取得額全国研究開発投資 140 120 100 130 115 105 98 80 60 40 分析結果総括 中部では 1 業当たりの当期純利益が 平成 25 年度以降はリーマン ショック前を上回っており 企業の高利益が続いている これに相まって 1 企業当たりの利益剰余金 ( 内部留保 ) や給与総額も増加傾向となっており 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると おおむね 中部の製造業は全国を上回っているものの 非製造業は下回っている 一方 労働分配率は 中部は平成 24 年度以降低下傾向にあり 平成 27 年度は製造業も全国を下回った この点について リーマン ショック前 ( 平成 19 年度 ) を基準として利益剰余金 給与総額 有形固定資産取得額及び研究開発投資額の推移を見ると 給与総額や有形固定資産取得額 研究開発投資額と比べ利益剰余金の水準が上昇してきており 増加した利益は給与や有形固定資産取得 研究開発投資よりも利益剰余金に多く分配されていると推察される また 平成 27 年度の利益剰余金と給与総額の間の水準差は 全国よりも中部の方が大きくなっている以上のことから 中部の企業は 全国と比較して高い利益を上げているものの 利益の分配は利益剰余金 ( 内部留保 ) に重きを置かれ 労働者への還元や投資への分配が相対的に進んでいないといえる