最近の主要労働判例 命令 (2018 年 8 月号 ) 2018 年 8 月 3 日 経団連労働法制本部 労働契約法 20 条 1. 労働判例から ハマキョウレックス事件最高裁 ( 平成 30 年 6 月 1 日判決 ) 速報 2346 号無事故手当 作業手当 給食手当 通勤手当 皆勤手当の支給の相違が労働契約法 20 条違反とされた例 有期の契約社員である一審原告が 正社員との賃金等に相違があり 労働契約法 20 条に違反する等と主張して 主位的に 無期契約労働者 ( 正社員 ) と同一の権利を有する地位にあることの確認 一審被告との労働契約に基づき 無期契約労働者が通常受給すべき賃金との差額の支払い 予備的に 一審被告の上記違反行為は 一審原告に対して不法行為を構成するとして 上記差額分と同様の損害賠償を求めた事案 労働条件の相違が労働契約法 20 条に違反する場合であっても 同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない また 本件正社員就業規則または本件正社員給与規定の定めが契約社員である一審原告に適用されることとなると解することは就業規則の合理的な解釈としても困難である 以上によれば 賃金等に係る相違が労働契約法 20 条に違反するとしても 本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではない 労働基準法 20 条にいう 期間の定めがあることにより とは 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう また 同条にいう 不合理と認められるもの とは 有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう そして 不合理であることの評価根拠事実については当該相違が同条に違反すると主張する者が 評価障害事実について当該相違が同条に違反することを争う者が それぞれ主張立証責任を負う 本件における有期契約労働者と無期契約労働者との住宅手当の支給の相違は不合理であると評価することはできず 労働契約法 20 条に違反しない 他方 有期契約労働者と無期契約労働者との皆勤手当の支給の相違は不合理であると評価することができ 労働契約法 20 条に違反する また 有期契約労働者と無期契約労働者との無事故手当 作業手当 給食手当 通勤手当の支給の相違は不合理であると評価することができ 労働契約法 20 条に 1
違反する 労働契約法 20 条 長澤運輸事件最高裁 ( 平成 30 年 6 月 1 日判決 ) 速報 2346 号定年後再雇用の嘱託者につき精勤手当 超勤手当を除く賃金項目は労働契約法 20 条に違反しないとされた例 定年後 1 年契約の嘱託社員として再雇用されたトラック乗務員の一審原告らが 定年前と同一業務であり 正社員との賃金格差は労働契約法 20 条に違反すると主張して 一審被告に対し 主位的に 正社員の就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに 正社員の就業規則等の規定に基づき支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額等の支払いを求め 予備的に 一審被告の上記違反行為について 不法行為に基づき 差額相当額の損害賠償等の支払いを求めた事案 労働者の賃金に関する労働条件は 使用者は 雇用及び人事に関する経営判断の観点から 労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して 労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる 労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されることとなる事情は 労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではない この点 有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは 労働契約法 20 条にいう その他の事情 として考慮されると解するのが相当である そして 労働契約法 20 条の不合理性の判断するに当たっては 賃金の総額を比較することのみによるのではなく 当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である 正社員との精勤手当及び超勤手当 ( 時間外手当 ) を除く 本件賃金各項目に係る労働条件の相違については 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たるということはできない これに対し 正社員との精勤手当及び超勤手当 ( 時間外手当 ) に係る労働条件の相違は 労働契約法 20 条にいう不合理と認められるものに当たる 労働条件の相違が同条に違反する場合であっても 同条の効力により 当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない もっとも 一審被告が 本件組合との団体交渉において 嘱託乗務員の労働条件の改善を求められていたという経緯に鑑みても 一審被告が 嘱託乗務員に精勤手当を支給しない 及び精勤手当を計算の基礎に含めて計算した時間外手当を支給しないという違法な取扱いをしたことについては 過失があったというべきである したがって 上記取扱いにより一審原告が被った損害について 不法行為に基づく損害賠償責任を負う 2
定年後再雇用 九州惣菜事件福岡高裁 ( 平成 29 年 9 月 7 日判決 ) 速報 2347 号大幅な賃金引下げを伴う定年後再雇用の提案が不法行為を構成するとされた例 被控訴人に雇用され定年に達した控訴人が 被控訴人に対し 主位的に 定年前の8 割の賃金を支払う労働条件で黙示の労働契約が成立したとして 当該契約に係る地位確認及び賃金の支払いを求め 予備的に 定年後再雇用の提案 ( 以下 本件提案 ) において賃金が著しく低廉で不合理な条件提示を行わなかったことが不法行為を構成するとして 逸失利益 1663 万円余及び慰謝料 500 万円を求めた事案 定年後の労働契約については 合意が成立しているとは評価できず 控訴人の主位的請求は認められない 予備的請求について 高年齢者雇用安定法の趣旨に反する行為 ( 再雇用について 労働者である高年齢者の希望 期待に著しく反し 到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為 ) は 継続雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであり 当該高年齢者が有する 65 歳までの安定的雇用を享受できるという法的利益を侵害する不法行為を構成する そして 例外的に 定年退職前のものとの継続性 連続性に欠ける ( あるいはそれが乏しい ) 労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには 同提示を正当化する合理的な理由が存することが必要である 本件提案による賃金は 月給ベースで定年前の賃金の約 25% にとどまり 定年退職前の労働条件との継続性 連続性を一定程度確保するものとは到底認め難い上 賃金の大幅減を正当化する合理的理由も見出せない よって 本件提案は継続雇用制度の趣旨に反する違法性があるといわざるを得ず 不法行為を構成する そして 本件の事情からすれば 慰謝料額 100 万円と評価するのが相当である ( 本判決は最高裁で上告棄却 申立不受理により確定 ) 雇止め 高知県公立大学法人事件高知地裁 ( 平成 30 年 3 月 6 日判決 ) 速報 2348 号 3 年の更新上限の規定に基づく雇止めが有効とされた例 公立大学法人である被告との間で平成 25 年 4 月に 1 年間の雇用契約 (3 年の更新上限付 ) を締結し経理事務に従事していた原告が 平成 28 年 4 月以降は契約が更新されなかったこと ( 以下 本件雇止め ) について 公募による再雇用の選考手続を実施しなかったことは労働契約法 18 条 ( 無期転換 ) を潜脱する目的を有するものである等として 本件雇止めの無効を主張し 雇用契約上の地位の確認等を求めた事案 3
本件の有期雇用契約は 外形上明確な更新手続が都度取られていたこと等から 労働契約法 19 条 1 号 ( 実質無期 ) に該当しない また 同法 19 条 2 号 ( 雇用継続の合理的期待 ) の該当性についても 更新上限の明確な規定の存在することに加えて 一部の例外を除き上限を超える更新事例はないこと 公募を経ての再雇用は更新とは明らかに性質が異なる手続であること 原告の契約の更新回数が 2 回 通算雇用期間が 3 年にとどまること 原告の業務は定型的なものであり代替性が高いこと 原告に準職員への登用機会が確保されていたことからすれば 更新の合理的期待があったと認めるのは困難であり 同号にも該当しない また 被告においては設立後早い段階から非正規雇用から正規雇用を中心とした職員構成へ転換を行っており その施策は契約職員にとっても準職員として採用される途を開いていると評価し得る面もあるから その結果として契約職員数の減少に至ることもやむを得ない 平成 28 年度に公募をしなかった被告の判断が直ちに労働契約法 18 条に反し あるいは潜脱するものであったとはいい難く かかる原告の主張は採用できない 2. 労働委員会命令から 都労委 国際自動車事件 ( 平成 28 年不第 17 号事件 ) 平成 30 年 7 月 23 日 1 組合員らについて 本件訴訟の提起を理由に本件再雇用拒否をしたこと 2 旧賃金規則の改定に関して 多数組合と比して取扱いが異なること 3 旧賃金規則改定を議題とする団体交渉において 不利益の程度等を把握するための賃金計算用のシートを 27 年 7 月 7 日まで交付せず 本件多数組合との合意内容を押し付ける対応に終始したこと 4 未払賃金を議題とする団体交渉において 具体的な回答や紛争解決手段を提示しなかったことの各事実が認められるか 認められるとして不当労働行為に該当するか否かが争われた事案 ( 判断の要旨 ) 1 会社の社長が本件訴訟を提起したことにより本件再雇用拒否をした旨の発言をする等していること等から 他にこれを覆す特段の事情がない限り 会社は 本件訴訟を提起したことを理由に本件再雇用拒否をしたと認めるのが相当であり 組合員ら9 名について本件再雇用拒否をしたことは 組合活動を理由とした不利益取扱い及び支配介入に当たる 2 会社は 多数組合に本件賃金規則を提案しつつ 組合に対しては 何ら提案をせず本件賃金規則に改定し 同規則の内容及び施行日のみを通知している このような会社の対応は 労働組合間の取扱いの中立性を欠き 支配介入に当たる 3 会社が比較的短時間で賃金計算用のシートを交付していること 組合は 団体交渉で賃金計算用のシートを基にした要求を行っていないことなどを踏まえると この点に関する会社の対応は 不誠実であったとまでいうことはできない また 会社が提案している労働協約の締結には応じられないという組合の 4
立場を踏まえると まずは 組合側から具体的な問題点の指摘等を行うべきであり 会社から協定書の締結に向けて積極的に説明や説得を行わなかったからといって 会社の対応が不誠実であるということはできない 会社は 組合に対して賃金計算用のシートを交付しているので 組合の提案に対し 減額箇所を明示するよう求めたことも不誠実ということはできない 4 別件訴訟が確定していない段階で 訴訟の結論が出てから協議したいという会社の回答には合理性があり 会社の対応が不誠実であるということはできない 3. 実務に役立つ労働法の知識 ハマキョウレックス事件 長澤運輸事件最高裁判決について ( 労働経済判例速報 2346 号平越格弁護士論説から抜粋 下線等は事務局による ) 特定の賃金項目の相違の不合理性を否定できない場合 是正方法としては 労使協議を経て 当該賃金項目を無くす ( 相当額を基本給など他の賃金項目に組み入れる ) ことも一つの方法であろう 賃金項目を個別に設けるからこそ不合理性が顕在化するのであり 基本給に組入れてしまえば 賃金総額の不合理性審査に集約されるはずである 最後に 働き方改革関連法案では パートタイム労働法 9 条の改正として 通常の労働者と職務内容及び変更範囲が同一の有期雇用労働者について 差別的取り扱いを禁ずる規定が設けられている これが 長澤運輸事件判決を受けて 定年後再雇用者についてどうなるかは留意が必要である 以上 5