2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

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電気使用量集計 年 月 kw 平均気温冷暖平均 基準比 基準比半期集計年間集計 , , ,

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

資料6 (気象庁提出資料)

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気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

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種にふくまれているものは何か 2001,6,5(火) 4校時


2.1 の気温の長期変化 の 6 地点の 1890~2010 年の 121 年間における年平均気温平年 差の推移を図 2.1-2に示す の年平均気温は 100 年あたり1. 2 ( 統計期間 1890~2010 年 ) の割合で 統計的に有意に上昇している 長期変化傾向を除くと 1900 年代後半と

図 (a)2 月 (b)5 月 (c)8 月 (d)11 月における日本近海の海面水温の平年値 ( 左 ) と標準偏差 ( 右 ) 平年値は 1981~2010 年の 30 年平均値 単位 : 148


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( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

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2 / 5 エルニーニョ現象とは 南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で 海面水温が平年より1~5 度高くなる状況が1 年から1 年半続く現象である エルニーニョ現象が発生すると 地球全体の大気の流れが変わり 世界的に異常気象になる傾向がある 近年では 2015 夏から 2016 年春に

漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査地域検討会

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( 表紙の図 ) 表面海水中の水素イオン濃度指数 (ph) の分布図 赤いほど ph が低いことを示す (p.10 図 Ⅳ.2)

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1. 水温分布 ( 図 1) 7 月沖合定線海洋観測結果 平成 26 年 7 月 14 日 岩手県水産技術センター TEL: FAX: 全域で表面水温は高め 県南部に北上暖水が流入 1) 本県沿岸

い水が海面近くに湧き上っている 図 (a) をみると 太平洋赤道域の海面水温は西部で高く 東部で低くなっていることがわかる また 北半球 ( 南半球 ) の大陸の西岸付近では 岸に沿って南向き ( 北向き ) の風が吹くと 海面付近の暖かい海水は風の方向に力を受けるとともに 地球自転に

2.1 の気温の長期変化 の年平均気温平年差の推 移を図 に示す の年平均気温は 100 年あ たり 1.3 の割合で上昇している 長 期変化傾向を除くと 1900 年代後半 と 1920 年代半ばから 1940 年代半ば までは低温の時期が続いた 1960 年 頃に高温の時期があり 1

三重県の気象概況 ( 平成 30 年 9 月 ) 表紙 目次気象概況 1P 旬別気象表 2P 気象経過図 5P 気象分布図 8P 資料の説明 9P 情報の閲覧 検索のご案内 10P 津地方気象台 2018 年本資料は津地方気象台ホームページ利用規約 (

平成14年4月 日

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今年 (2018 年 ) の夏の顕著な現象 平成 30 年 7 月豪雨 記録的な高温 本から東海地 を中 に 広い範囲で記録的な大雨となった 東 本から 本を中 に 各地で記録的な高温となった 2

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太平洋全域における海表面二酸化炭素フラックス変動および海洋酸性化の評価 I_1287 図 -3 CO 2 F CO2 CO 2 図 -4 F CO2 24 El Niño La Niña 2006 SST SSS CO 2 SOCAT public domain 表 -1 CO 2 ph CO 2

An ensemble downscaling prediction experiment of summertime cool weather caused by Yamase

IPCC 第1作業部会 第5次評価報告書 政策決定者のためのサマリー

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報道発表資料

目次 要旨 第 1 章序論 研究背景 1-2 研究目的 第 2 章海洋と大気の気候偏差パターン エルニーニョ / ラニーニャ現象 2-2 エルニーニョ 南方振動 (ENSO) 2-3 PNA (Pacific / North American) パターン 第 3

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また 積雪をより定量的に把握するため 14 日 6 時から 17 日 0 時にかけて 積雪の深さは と質 問し 定規で測っていただきました 全国 6,911 人の回答から アメダスの観測機器のある都市だけで なく 他にも局地的に積雪しているところがあることがわかりました 図 2 太平洋側の広い範囲で

はじめに 私達の生活は 温帯低気圧の通過や台風の襲来 熱波や寒波 豪雨や干ばつの発生をはじめとした大気や海の現象の現れ方に大きく影響されています 一方で人間の活動によって排出された二酸化炭素などの温室効果ガスが大気中に蓄積して地球温暖化をもたらしていることがわかってきています 地球温暖化が進むと 暑

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8 月沿岸定線海洋観測結果 平成 29 年 8 月 3 日岩手県水産技術センター TEL: FAX: 全定線で顕著な水温躍層が形成 県北部から中部沖 20~50 海里の 100m 深に親潮系冷水が分

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平成 30 年 3 月沖縄気象台

運動方程式の基本 座標系と変数を導入 (u,v) ニュートンの第一法則 力 = 質量 加速度 大気や海洋に加わる力を, 思いつくだけ挙げてみよう 重力, 圧力傾度力, コリオリ力, 摩擦力 水平方向に働く力に下線をつけよう. したがって水平方向の運動方程式は 質量 水平加速度 = コリオリ力 + 圧

過去約 130 年の年平均気温の変化傾向 (1891~2017 年 ) 図 緯度経度 5 度の格子ごとに見た年平均気温の長期変化傾向 (1891~2017 年 ) 図中の丸印は 5 5 格子で平均した 1891~2017 年の長期変化傾向 (10 年あたりの変化量 ) を示す 灰色は長期

( 第 1 章異常気象と気候変動の実態 ) 2 図 ~2013 年に発生した世界の主な気象災害表 に示した気象災害のうち 特に規模の大きいものを示した 大雨 洪水 台風 ハリケーン ( 緑 ) 干ばつ ( 黄 ) 熱波 ( 紫 ) 寒波 ( 青 ) などの災害が報じら

2 気象 地震 10 概 況 平 均 気 温 降 水 量 横浜地方気象台主要気象状況 横浜地方気象台月別降水量 日照時間変化図 平均気温 降水量分布図 横浜地方気象台月別累年順位更新表 横浜地方気象台冬日 夏日 真夏

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OKAYAMA University Earth Science Reports, Vol.17, No.1, 7-19, (2010) Comparison of large-scale cloud distribution and atmospheric fields around the Ak

実践海洋情報論 57 ここで mは流体の質量 (kg) u は流体の速度 (m sec -1 ) である しかし 緯度 φにおける角速度を直観的に理解することが困難である そこで 地球儀を北極上空から観察しよう 北極点に十字のマークを置くと 地球儀を反時計回りに回転させると 極点上の十字のマークも反

農業に役立つ気象情報の利用の手引き - 農業被害の軽減に向けて - 平成 30 年 3 月 名古屋地方気象台

花粉が飛散している時期でも 花粉症の症状が重い日と軽い日があるが これは天気の違いによる花粉飛散量が密接に関係している 花粉は 飛散が始まって 7~10 日後ぐらいから量が多くなってくる その後 4 週間程度が花粉の多い時期にあたり この期間内に次のような天気になると 花粉が特に多く飛散する 湿度が

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f ( 0 ) y スヴェルドラップの関係式は, 回転する球面上に存在する海の上に大規模な風系が存在するときに海流が駆動されることを極めて簡明に表現する, 風成循環理論の最初の出発点である 風成循環の理論は, スヴェルドラップの関係式に様々な項を加えることで発展してきたと言ってもよい スヴェルドラッ

諏訪 気象と黒潮の和歌山県沿岸海域への影響 ついて用意した 水温 塩分分布 本県沿岸における水温 塩分の分布特性を把握するため 各定点各層の水温 塩分について 月毎の 平均値を 12 ヶ月で除した平年値 付表 1 2 を求め これを基に平年分布図を作成した 第 2 3 図 水温-気温 水温-黒潮 塩

運動方程式の基本 ニュートンの第一法則 力 = 質量 加速度 大気や海洋に加わる力を, 思いつくだけ挙げてみよう 重力, 圧力傾度力, コリオリ力, 摩擦力 水平方向に働く力に下線をつけよう. したがって水平方向の運動方程式は 質量 水平加速度 = コリオリ力 + 圧力傾度力 + 摩擦力 流体の運動

橡Ⅰ.企業の天候リスクマネジメントと中長期気象情

MIROC5 を用いた季節予測システムによる 2 タイプのエルニーニョの予測可能性 今田由紀子 ( 東工大 ) 木本昌秀 ( 東大 AORI) 石井正好 ( 気象研 ) 渡部雅浩 ( 東大 AORI) and team SPAM 1. はじめに El Niño/Southern Oscillatio

また 台風 18 号が九州から北海道へ縦断した 17 日 18 日は 全国から 41,000 通以上の写真付きのウェザーリポートが寄せられ 各地の被害状況を詳細に把握することができました 記録的大雨となった大分県からは道路の損壊や大規模冠水のリポートが届き 断続的に強い雨が降った岩手県沿岸からは大規

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平成 30 年 6 月の熱中症による救急搬送状況の概要 資料 平成 30 年 6 月の熱中症による救急搬送状況について調査を行ったところ その概要は以下のとおりでした 1 総数平成 30 年 6 月の全国における熱中症による救急搬送人員数は 5,269 人でした これは 昨年 6 月の救急搬送人員数

フィリピン周辺で高く 太平洋高気圧とチベット高気圧が強まり 日本付近で偏西風が北寄りに蛇行したことが 各地の豪雨の原因であると分析している このような現象は テレコネクション( 遠く離れた場所の気象データが相関を持って変動する現象 ) と呼ばれ 世界各地の異常気象と関連し ていると考

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マルチRCMによる日本域における 力学的ダウンスケーリング

1. 気温と産業の関係 2. 気温と販売数の関係の分析 過去の気温データをダウンロードする 時系列グラフを描く 気温と販売の関係を調べる 散布図を描く 定量的な関係を求める 気温から販売数を推定する 2 週間先の気温予測を取得し 活用する 気温以外の要素の影響 3. 予報精度 過去の 1 か月予報

Interview 28 Blue Earth Museum 30 JAMSTEC Report 34 Marine Science Seminar BE Room Present 1

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トピックス エルニーニョ / ラニーニャ現象 2009 年 7 月 10 日に気象庁から エルニーニョ現象が発生しているとの発表がありました 本 Express では 日本の気候にも大きな影響を与えるエルニーニョ / ラニーニャ現象 ( キーワード ) のメカニズムと日本への影響およびその予測可能性と温暖化について説明します 1. エルニーニョ / ラニーニャ現象とはエルニーニョ現象とは 太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で 海面水温が平年に比べて高くなり その状態が半年から 1 年半程度続く現象です これとは逆に 同じ海域で海面水温が平年より低い状態が続く現象がラニーニャ現象です 図 1 は 典型的なエルニーニョ現象 ( 左図 1997 年 11 月 ) ラニーニャ現象 ( 右図 1988 年 12 月 ) が発生している時の海面水温の平年値との差の分布です ペルー沖 ( 図中央右側 ) の海面水温が 平年とは大きく変わっていることがわかります 図 1 典型的なエルニーニョ現象 ( 左図 1997 年 11 月 ) ラニーニャ現象 ( 右図 1988 年 12 月 ) が発生している時の海面水温の平年値との差の分布 通常 太平洋の赤道付近では東風 ( 貿易風 ) が吹いており 太陽で温められた表層の暖水が西に吹き寄せられ ペルー沖 ( 赤道域東側 ) には深層からの冷たい水が上昇してきています ( 図 2 右 ) そのため 西部熱帯域の海面水温が高くなる一方で ペルー沖の海面水温は相対的に低くなります エルニーニョ ( ラニーニャ ) 現象時には それが以下のように変化することにより ペルー沖の海面水温が高く ( 低く ) なります エルニーニョ現象時 1 東風が弱まる 2 暖水が通常より東に偏る 3 東部の冷水の上昇が押さえられる 4 東部の海面水温が上昇する エル ニーニョ現象 1 東風が弱まる 4 海面水温上昇 平常時 東風 ラニーニャ現象時 1 東風が強まる 2 西部の暖かい海水の蓄積がより顕著になる 3 東部での冷水の上昇が強まる 4 東部の海面水温が低下する ラ ニーニャ現象 1 東風が強まる 4 海面水温低下 2 暖水域が広がる 3 冷水の上昇抑制 2 暖水が通常より東に吹き寄せられる 3 冷水の上昇が強まる 図 2 エルニーニョ / ラニーニャ現象の発生メカニズム

2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響を及ぼします エルニーニョ現象時には平常時よりも西太平洋熱帯域の海面水温が低下し 西太平洋熱帯域で積乱雲の活動が不活発となります このため日本付近では 夏季は太平洋高気圧の張り出しが弱くなり 低温 多雨 寡照となる傾向があります 冬季は西高東低の気圧配置が弱まり 暖冬となる傾向があります ( 図 3) 図 3 エルニーニョの日本への影響 逆に ラニーニャ現象が発生すると 西太平洋熱帯域の海面水温が上昇し 西太平洋熱帯域で積乱雲の活動が活発となります このため日本付近では 夏季は太平洋高気圧が北に張り出しやすくなり 南日本では南から暖かく湿った気流の影響を受けやすくなります このため 北日本を中心に 気温が高く 日照時間の長い傾向があり 西日本の太平洋側を中心に 雨が多く 気温は低めとなる傾向があります 冬季は西高東低の気圧配置が強まり 気温が低くなる傾向があります ( 図 4) 図 4 ラニーニャの日本への影響 エルニーニョ / ラニーニャ現象に伴う日本の地域別 季節別の傾向 ( 気温 降水量 日照 ) については 参考資料 ( 表 1) の通りです 気温 降水量 日照量と売上高に大きな相関のある業種 ( 飲料 レジャー 農業など ) は エルニーニョ / ラニーニャ現象によって大きな影響を受けると考えられ これらの業種のお客様は 天候リスクマネジメントへの関心も高いと考えられます しかしながら 地球上の大気現象はエルニーニョ / ラニーニャ現象だけではなく 他の様々な要因が複雑に影響しあって生じるものであるため エルニーニョ / ラニーニャ現象だけ見ていればよいというわけではありません

3. エルニーニョ / ラニーニャ現象の予測可能性と温暖化現在気象庁では 大気 海洋の予測を行うことが出来るエルニーニョ予測モデルを用いたエルニーニョ予測を実施しています 前述のとおり エルニーニョ / ラニーニャ現象は経済活動に大きな影響を与えますが 事前に予測出来れば対策を講じることが可能となります 図 5 はエルニーニョ予測モデルの予報結果ですが 現在ではおおよそ数ヶ月前からその発生をある程度予測することが可能となっています また エルニーニョ現象と地球温暖化の関係については まだ明確な結論は出されていませんが 地球温暖化により海面水温が上昇し エルニーニョ的なパターンが多く発生することが懸念されています 今年の夏にはエルニーニョ現象を主因として太平洋高気圧の勢力が弱まり 日本上空のジェット気流が蛇行し 北から寒気が入り込むことによって冷夏となり また豪雨が日本各地で引き起こされました 今後温暖化が進行すると 冷夏や長梅雨といったエルニーニョ現象に伴う気候パターンが現れやすくなる可能性があります 温暖化 という言葉に矛盾するようですが 気象現象が非常に複雑な事象であることをご理解いただけると思います 参考資料 図 5 エルニーニョ / ラニーニャの予報 表 1 エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本の気候への影響 ( 気象庁資料をもとに東京海上研究所で作成 ) エルニーニョ現象発生時の日本の天候 北日本東日本西日本沖縄 奄美 日本海側太平洋側日本海側太平洋側日本海側太平洋側 春 + + + + + + + 気温 夏 - - - - - - ± 秋 + + + + ± ± - 冬 ± ± + + + + + 春 ± - ± ± + + ± 夏 ± + ± ± + ± ± 降水 秋 ± + ± ± - - ± 冬 - - - ± ± ± + 梅雨 ± ± ± ± + ± ± 春 ± + ± ± - - + 夏 - - ± ± ± - - 日照 秋 ± ± + ± + ± ± 冬 + ± + - + ± ± 梅雨 - ± + ± + ± ± ラニーニャ現象発生時の日本の天候 北日本東日本西日本沖縄 奄美日本海側太平洋側日本海側太平洋側日本海側太平洋側 春 ± ± ± ± ± ± ± 気温 夏 + + ± ± ± ± - 秋 ± ± ± ± ± ± + 冬 ± ± - - - - - 春 ± ± - + - ± ± 夏 ± ± ± + ± + ± 降水 秋 ± - ± - - - ± 冬 ± ± ± ± ± ± ± 梅雨 - ± + + ± + ± 春 - - ± ± + + ± 夏 + + - ± ± ± ± 日照 秋 - ± ± ± - - - 冬 - ± ± ± ± ± ± 梅雨 + ± - ± - - ± 気温 降水 日照 + 高い傾向 多い傾向 多い傾向 ± 平年並み平年並み平年並み - 低い傾向少ない傾向少ない傾向

キーワード エルニーニョ / ラニーニャ現象気象庁では エルニーニョ監視海域 ( 北緯 5 度 ~ 南緯 5 度 西経 90 度 ~150 度 図 5 ご参照 ) の海面水温を用いて 以下の方法でエルニーニョ / ラニーニャ現象を定義しています 1 エルニーニョ監視海域の海面水温と 当該海域の基準値 ( 過去三十年間のその月の海面水温の平均値 ) との差を計算する 2 で計算した差について 5 か月移動平均値 ( その月と 前 2 ヶ月 後 2 ヶ月の計 5 ヶ月の平均値 ) を求める 3 で求めた値が 6 か月以上続けて +0.5 以上となった場合を エルニーニョ現象 -0.5 以下となった場合を ラニーニャ現象 と定義する 図 5 エルニーニョ監視海域 下の図は 1950 年からのエルニーニョ監視海域の海面水温の 基準値との差を表したものです 中央の線が基準値を表し 正の値は基準値より高いことを示しています 赤い部分がエルニーニョ期間 青い部分がラニーニャ期間を表しており エルニーニョ / ラニーニャ現象が交互に出現している事が分かります 図 6 エルニーニョ監視海域の海面水温の変化

キーワード テレコネクション大気の一部に起こった変化が 遠く離れた場所に伝達される現象をさす気象用語です エルニーニョ / ラニーニャ現象はその代表的なもので その影響は太平洋赤道海域に留まらず 周囲の気圧配置や大気の循環などを通じ 日本を始め世界各地の気候に様々な影響を及ぼします たとえば エルニーニョ現象の発生に伴い 世界各地の気温 降水量は図 7 に示した傾向が見られています 図 7 エルニーニョ現象に伴う世界各地の気候変化 参考文献 気象庁 http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/elnino/index.html http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/20th/box11.htm http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/20th/nindex.htm