図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

生物時計の安定性の秘密を解明

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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ポイント 先端成長をする植物細胞が 狭くて小さい空間に進入した際の反応を調べる または観察するためのツールはこれまでになかった 微細加工技術によって最小で1マイクロメートルの隙間を持つマイクロ流体デバイスを作製し 3 種類の先端成長をする植物細胞 ( 花粉管細胞 根毛細胞 原糸体細胞 ) に試験した

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

受精に関わる精子融合因子 IZUMO1 と卵子受容体 JUNO の認識機構を解明 1. 発表者 : 大戸梅治 ( 東京大学大学院薬学系研究科准教授 ) 石田英子 ( 東京大学大学院薬学系研究科特任研究員 ) 清水敏之 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 井上直和 ( 福島県立医科大学医学部附属生

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

Microsoft Word - PR docx

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

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2019 年 1 月 21 日 自然科学研究機構基礎生物学研究所東北大学大学院生命科学研究科産業技術総合研究所 サンゴがもつ緑色蛍光タンパク質の働きが明らかに ~ 蛍光による共生パートナーの誘引 ~ サンゴ礁を形作り 南の海の生態系の維持に不可欠な存在であるサンゴは その多くが紫外線や青色光を受ける

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

論文の内容の要旨

図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

< 用語解説 > 注 1 ゲノムの安定性ゲノムの持つ情報に変化が起こらない安定な状態 つまり ゲノムを担う DNA が切れて一部が失われたり 組み換わり場所が変化たり コピー数が変動したり 変異が入ったりしない状態 注 2 リボソーム RNA 遺伝子 タンパク質の製造工場であるリボソームの構成成分の

という特殊な細胞から分泌されるルアーと呼ばれる誘引物質が分泌され 同種の花粉管が正確に誘引されます (Higashiyama et al., 2001, Science; Okuda, Tsutsui et al., 2009, Nature) モデル植物であるシロイヌナズナにおいてもルアーが発見さ

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Microsoft Word - 01.doc


神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

卵が時間の余裕をつくり精子の変身を助ける 哺乳類の受精卵特有のしくみを解明 1. 発表者 : 添田翔 ( 沖縄科学技術大学院大学ポストドクトラルスカラー / 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻特任研究員 : 研究当時 ) 大杉美穂 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授 ) 2. 発

様式)

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情報解禁日時の設定はありません 情報はすぐにご利用いただけます 基礎生物学研究所配信先 : 岡崎市政記者会東京工業大学配信先 : 文部科学記者会 科学記者会 報道機関各位 2017 年 7 月 25 日 自然科学研究機構基礎生物学研究所国立大学法人東京工業大学 遺伝子撹拌装置をタイミング良く染色体か

60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 12 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 DNA の量によって植物の大きさが決まる新たな仕組みを解明 - 植物の核内倍加は染色体のセット数を変えずに DNA 量を増やすメカニズムが働く - 生命の設計図である DNA が 細胞の中で増えたらどうなるので

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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平成16年6月  日

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「飢餓により誘導されるオートファジーに伴う“細胞内”アミロイドの増加を発見」【岡澤均 教授】

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

細胞膜由来活性酸素による寿命延長メカニズムを世界で初めて発見 - 新規食品素材 PQQ がもたらす寿命延長のしくみを解明 名古屋大学大学院理学研究科 ( 研究科長 : 杉山直 ) 附属ニューロサイエンス研究セ ンターセンター長の森郁恵 ( もりいくえ ) 教授 笹倉寛之 ( ささくらひろゆき ) 研

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成 30 年 11 月 5 日京都府立大学生命環境科学研究科九州大学熊本大学 植物の根毛側面を硬くするしくみの解明に成功 ~ 根の毛はなぜまっすぐに伸びる?~ これまで根毛側面の伸長抑制メカニズムの分子機構は全く明らかになっていませんでしたが, この度, 熊本大 学の檜垣匠准教授は, 京都府立大学

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

Microsoft PowerPoint - DNA1.ppt [互換モード]

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

Microsoft Word フ゜レスリリース.docx

2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

平成 25 年 10 月 7 日 (3303: 上皮管腔組織形成 ) 菊池章殿 生物系委員会主査 平成 25 年度科学研究費補助金 新学術領域研究 ( 研究領域提案型 ) の 中間評価結果について 平成 25 年 9 月 5 日に実施した生物系委員会における中間評価の結果 あなたを領域代表者とする研

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

共同研究報告書

本件リリース先 文部科学記者会 科学記者会広島大学関係報道機関 広島大学学術 社会産学連携室広報グループ 東広島市鏡山 TEL: FAX: 平成 2

平成24年7月x日

報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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平成14年度研究報告

Microsoft Word - (最終版)170428松坂_脂肪酸バランス.docx

研修コーナー

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

tnbp59-21_Web:P2/ky132379509610002944

Transcription:

大学記者クラブ加盟各社文部科学記者会平成 29 年 8 月 9 日科学記者会御中岡山大学 報道解禁 : 平成 29 年 8 月 10 日 ( 木 ) 午後 6 時 ( 新聞は 11 日朝刊より ) 植物細胞が真っすぐ伸びる仕組みを解明 細胞骨格を整理整頓するタンパク NEK6 の働きを解明 岡山大学大学院自然科学研究科の本瀬宏康准教授 高谷彰吾大学院生 ( 博士後期課程 3 年 ) 高橋卓教授のグループは 異分野基礎科学研究所の小澤真一郎特任助教 高橋裕一郎教授と 奈良先端科学技術大学院大学の橋本隆教授らと共同で モデル植物のシロイヌナズナを用いて 植物細胞が真っすぐ成長するしくみを明らかにしました 本研究成果は 2017 年 8 月 10 日英国時間午前 10 時 ( 日本時間午後 6 時 ) に英国の科学雑誌 Scientific Reports に掲載されます 植物が茎や根などの器官を形成する際 器官を構成する個々の細胞がどの方向に成長するのかが重要であり 厳密に制御されています この植物細胞の伸長方向は 微小管 *1 と呼ばれる細胞内の骨格が一定の方向に並ぶことで決定されます しかし 微小管がどのようにして整列するのかは分かっていませんでした 本瀬准教授らの研究グループは モデル植物のシロイヌナズナを用いて 植物細胞が真っすぐ成長するのに必要なタンパク質 NIMA 関連キナーゼ 6(NEK6) *2 の機能を明らかにしました NEK6 は 変形した微小管や余分な微小管を除去することで 微小管を整列させ 細胞を一定の方向に成長させることが明らかになりました この研究成果は 植物の茎や根といった器官が特定の方向に成長するメカニズムの理解につながります また 微小管や NEK タンパク質は真核生物に普遍的に存在し 細胞分裂 神経細胞の形成 鞭毛 繊毛形成に不可欠で その欠陥はさまざまな疾患を引き起こします 今回の研究は 細胞機能に不可欠な微小管がどのように制御されているのかについての 普遍的で基本的な理解をもたらします < 業績 > 本学大学院自然科学研究科の本瀬准教授らの研究グループは シロイヌナズナを用いて 植物細胞がどのような仕組みで真っすぐ成長するのかを明らかにしました 植物は分裂組織から新たな細胞を生み出し 根や葉 花などのさまざまな器官を形成し続けます この時 個々の細胞がどの方向に どれくらい分裂 伸長するかが厳密に制御されることで さまざまな形の器官が生み出されます ( 図 1) 植物細胞が特定の方向に伸長する際には 微小管と呼ばれる細胞内の骨格が整列し 成長する方向を決定します ( 図 1) しかし 微小管を整列させる仕組みについては不明な点が多く残されていました

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長します図 2. NEK6 を欠損したシロイヌナズナ nek6 変異体では微小管 ( 図 2) また 細胞伸が整列せず 細胞が異常な方向に伸長する長が抑制されるため 器官の長さが短くなります 生きたままの細胞内の微小管を共焦点顕微鏡によりタイムラプス撮影することにより 変形した微小管が蓄積していく様子を観察することに成功しました 同様の方法で 生細胞内の NEK6 の挙動を観察したところ NEK6 は変形した微小管が除去される場所に蓄積することが明らかになりました ( 図 3) さらに 質量分析法と微小管観察を組み合わせることで NEK6 が微小管を構成するタンパク質であるチューブリン *3 の特定のアミノ酸残基をリン酸化し 脱重合していることを示しました 今回の研究から NEK6 タンパク質が異常な微小管を除いて整理整頓することで 微小管が整列し 細胞が特定の方向に伸長できることが明らかになりました ( 図 4) また

NEK6 がリン酸化する部位を決定することで 微小管を除去する分子機構の一端が示されました NEK6 は 異常な微小管を除いて品質管理を行う機能があること 細胞内の微小管密度を最適に保つホメオスタシスに貢献していると考えられます 図 3. NEK6 の移動とともに微小管が除去される様子 図 4. NEK6 により異常な ( 余分な ) 微小管が除去されて整列し 方向性のある細胞伸長 が可能になる

< 見込まれる成果 > 今回の研究成果は 植物の茎や根といった器官が特定の方向に成長するメカニズムの理解につながります 動物や菌類の細胞では 中心体と呼ばれる細胞内構造から放射状に微小管が伸びて形成されます 植物は進化の過程で中心体を失い 細胞内のさまざまな部位から微小管を生成する散在型の微小管制御システムを発達させています 私たちの研究は 植物がどのようにして細胞全体に散在する微小管を制御し 極性のある細胞伸長を実現しているのかを理解することにつながります 微小管や NEK タンパク質は真核生物に普遍的に存在し 細胞の分裂や形態形成 鞭毛 繊毛の形成に不可欠です 今回の研究は このような細胞機能に不可欠な微小管がどのように制御されているのかについて 普遍的で基本的な理解をもたらします また 微小管や NEK タンパク質の欠陥はさまざまな疾患を引き起こすため 疾患の原因となる細胞内の基本的な分子プロセスの知見を提供します < 論文情報等 > 著者 :Takatani S, Ozawa S, Yagi N, Hotta T, Hashimoto T, Takahashi Y, Takahashi T, Motose H 論文名 :Directional cell expansion requires NIMA-related kinase 6 (NEK6)-mediated cortical microtubule destabilization. 掲載誌 :Scientific Reports D O I: 10.1038/s41598-017-08453-5 発表論文はこちらからご確認いただけます www.nature.com/articles/s41598-017-08453-5 本研究は 独立行政法人日本学術振興会 (JSPS) の科学研究費補助金 ( 基盤研究 C 16K07403) 新学術領域研究 植物発生ロジック 公募研究 (16H01245) JSPS 特別研究 員 (DC2 16J03501) の助成を受け実施しました

< 補足 用語説明 > *1 微小管 細胞骨格の一種で チューブリンタンパク質が重合して形成される中空のタンパク質繊維 微小管は 伸長と退縮を繰り返しながら 動的で可塑性のある構造を作り出します 細胞分裂の際には 微小管は染色体を分配する紡錘体として機能します また微小管は 精子の鞭毛や繊毛の中央部に存在し その運動を生み出す構造的な基盤となっています *2 NIMA 関連キナーゼ (NEK) タンパク質をリン酸化する酵素 ( キナーゼ ) の一種で 菌類や動物 植物など真核生物に広く存在しています 動物や菌類では主に細胞分裂を制御していますが 植物では細胞の伸長を制御しています また 動物や藻類の鞭毛 繊毛形成を制御しており NEK が欠損することで多発性嚢胞腎などの繊毛病を引き起こします *3 チューブリン 微小管を構成するタンパク質で α チューブリンとβ チューブリンの 2 種類のタンパク質が結合してヘテロダイマー (2つの異なるタンパク質が結合して構成される複合体 ) として存在します ( 図 5) このチューブリンヘテロダイマーが縦に重合してプロトフィラメントとなり プロトフィラメントが13 本 円状に並んで 中空のタンパク質繊維である微小管を形成します ( 図 5) NEK6 はβ チューブリンの 5 つのアミノ酸残基をリン酸化して チューブリンを微小管からはがれやすくすると考えられます ( 図 5)

図 5. チューブリンと微小管の構造 NEK6 によりリン酸化される β チューブリンのアミ ノ酸残基を示した <お問い合わせ> 岡山大学大学院自然科学研究科 ( 理 ) 准教授本瀬宏康 ( 電話番号 )086-251-7857 (FAX 番号 )086-251-7857