資料 3 2018 年 4 月 11 日総務省自治体ポイントに関する検討会 ブロックチェーンの 将来性と応用分野 麗澤大学経済学部 教授 中島真志 1
自己紹介 日本銀行に長年勤務 ( 調査統計局 金融研究所 国際局 金融機構局など ). この間 BIS( 国際決済銀行 ) にも勤務 2006 年より現職 著書 ( テキスト系 ) 金融読本 ( 第 29 版 ) 入門企業金融論 著書 ( 決済分野 ) 決済システムのすべて ( 第 3 版 ) 証券決済システムのすべて ( 第 2 版 ) SWIFT のすべて 2
最新刊 : アフター ビットコイン 2017 年 10 月刊行 大手書店でベストセラー 9 刷 4 万部へ 韓国語への翻訳も マスコミからの取材 出演依頼が殺到 講演依頼も多数 3
期待高まるブロックチェーン 欧米の金融機関関係者 < ビットコイン > 邪悪なものだ もう終わった 金融取引には使えない <ブロックチェーン> この技術は本物だ インターネット以来の最大の発明だ 金融を根本から変革するポテンシャルを持っている 4
1. ビットコインとブロックチェーンの関係 主役はブロックチェーンへ 1 ビットコイン中心の世界 2 ブロックチェーンが主役の世界 ビットコイン ブロックチェーン < 中核技術 > < 応用分野 > ブロックチェーン 仮想通貨金融分野非金融分野 ブロックチェーン 1.0 ブロックチェーン 2.0 ブロックチェーン 3.0 ( ビットコインなど ) ( 決済 送金 証券決済など ) ( 土地登記 資産管理 商流管理 医療情報 投票管理など ) 5
ブロックチェーンのイメージ ブロック と呼ばれるデータの単位を チェーン ( 鎖 ) のように連結して保管するデーターベース技術のこと ブロックチェーン * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * ブロック ブロック ブロック ブロック * : 取引データ この図では この技術のすごさや革新性が分からない ブロックがチェーン状になっていく だから? 6
ブロックチェーンから分散型台帳技術へ DLT(Distributed Ledger Technology) 1 中央型帳簿による集中管理 2 ブロック チェーンを使った分散的な管理 中央データベースで集中管理 中央型帳簿 取引 取引 分散型帳簿で分散管理 7
分散型台帳技術 (DLT) の特徴 取引を分散して記録し 保管する ネットワーク内で情報を共有する 情報の種類は何でもよい 分散 管理 信頼される中央管理者が不要 ネットワークによって維持される取引の共有データベース データ を共有 記録を 同期 8
ブロックチェーン (DLT) のメリット 1 不正取引 改ざんができない 過去の取引データを改ざんすることが困難 1つ前のブロックのハッシュ値( 圧縮値 ) を含める 2 システムダウンに強い ネットワーク上の多くのコンピュータが同じデータを分散して管理 1ヵ所のコンピュータが壊れても システム全体が障害にならない 3 運用コストが安い 中央集中型: 巨大なセンターが必要 ( バックアップも必要 ) 分散管理: 分散型のコンピュータでOK 仲介者が不要( 参加者間の直接取引 ) コストは10 分の1へ? 9
ブロックチェーンの類型 取引参加者の制限 オープン型 なし ( 自由に参加可 ) クローズド型 あり ( 特定の範囲の参加者のみ ) 取引承認への参加の制限 なし ( 自由に参加可 ) あり ( 特定の範囲の参加者のみ ) 中央管理者の存在 なし ( プログラムが規定 ) あり ( 全体をコントロール ) ネットワークへの参加自由承認が必要 別の呼び方 利用例 パブリック型許可不要型 仮想通貨 ( ビットコインなど ) プライベート型許可型 金融界での実証実験 10
合意形成の手法 タイプは コンセンサス アルゴリズムに密接に関連する ネットワークの性格 オープン型 信頼できない者同士のネットワーク クローズド型 信頼できる者同士のネットワーク 悪意の攻撃ありうるなし 取引承認の厳密度厳格性が必要簡便な形がとれる 採用されるコンセンサス アルゴリズム 複雑な計算 ( プルーフ オブ ワーク ) 一部のノードによる検証 (PBFT) 取引処理に要する時間 時間を要する (10 分など ) 高速処理が可 ( 数秒など ) 11
なぜプライベート型なのか? ビットコイン 誰もが参加可能 プルーフ オブ ワーク 外部からのリスク 素早い取引処理 金融市場が求めるもの 信頼できる参加者のみ 簡便な取引承認 取引内容の高い透明性 取引の秘匿性が必要 取引内容は非公開 取引の確定までに時間がかかる 取引の早期確定が必要 早期のファイナリティ 12
主なブロックチェーン技術の種類 1 つではない! ブロックチェーン名 ハイパーレッジャー ファブリック コルダ 推進団体リナックス財団 R3 コンソーシアムリップル 対象 特徴 金融業界向けに独自の合意形成やメンバーシップ管理の仕組みを含む金融以外への応用もめざす オープンソースを採用 ( ソースコードを無償で公開 ) 誰でも利用が可能 金融取引に特化 世界の主要な大手銀行 70 行以上が参加 ( 日本からもメガ 3 行が参加 ) インターレッジャー プロトコル (ILP) リップルによる国際送金に利用 高速の処理が可能 13
2. ブロックチェーンの応用 ( 金融分野 ) 1 国際送金 従来の国際送金 遅い 高い 分かりにくい という不満あり リップル プロジェクト DLT を使って 銀行と銀行が直接つながり 分散型台帳で情報を共有しつつ リアルタイムで送金を行う 時間 ( ほぼリアルタイムに ) とコスト (1/10 に ) が大幅に削減 14
リップルの送金モデル 1 従来のコルレス銀行を使ったモデル (2~4 日 ) SWIFT ( 国際送金のネットワーク ) 送金人 送金銀行 中継銀行 1 (A 国 ) (B 国 ) 中継銀行 2 (C 国 ) 受取銀行 (D 国 ) 受取人 2 リップルのモデル ( リアルタイム ) < リップルを利用 > 送金人 送金銀行 (A 国 ) リアルタイムの送金 分散型台帳 受取銀行 (D 国 ) 受取人 15
世界の大手行が参加へ 参加予定行 :100 行以上 ( うち 75 行が既にライブ ) 16
BBVA の送金実験 ( スペイン第 2 位の銀行 ) 送金時間 ( スペイン メキシコ ) 従来は 4 日間 数秒で着金 送金コスト : 60% 数秒 17
応用分野 :2 証券決済 1 証券決済機関 (CSD) による集中管理 証券決済機関 (CSD) 中央データベースで集中管理 2DLT を使った分散的な管理 DLT 環境 取引 取引 分散型帳簿で分散管理 グーグル コイン アップル コイン USD コインなど 18
証券取引所の実証実験 2017 年も 引き続き 実証実験 < その他のプロジェクト先 > ロンドン証券取引所 ドイツ取引所 イタリア証券取引所 スイス証券取引所 ルクセンブルク証券取引所 トロント証券取引所 香港証券取引所 韓国取引所 インド国立証券取引所など 19
JPX の実証実験 ブロックチェーン (DLT) 証券発行取引 ( 照合 ) 清算 決済 保有者管理 コーポレートアクション 2016 年 :6 社が参加 2017 年 :33 社が参加して実証実験 20
3.DLT に適した業務とは? (1) 同じ情報を 複数の当事者がリアルタイムで共有することにより効率化が図れる業務 従来は 逐次的 (sequential) 段階的 (step by step) な進め方 DLT A B A B D C D C 21
1 貿易金融 ( トレード ファイナンス ) ウィ トレード : 欧州の銀行を中心とした中小企業向けの貿易決済プロジェクト < 従来の貿易金融 > 複数のプロジェクトが進行中 DLT により情報をリアルタイムに共有 取引情報に基づく融資サービスの提供 22
2 保険申込書類の確認作業 三井住友海上火災保険が実証実験 DLT 上で情報を共有 従来は Fax 等の紙によるやりとり -2018 年 1 月から 3 ヵ月 期待される効果 1 保険証券の発行期間の短縮化 2 高度なセキュリティの確保 - 情報漏えい 紛失リスク 3 安価なシステム構築 23
DLT に適した業務とは? (2) 取引履歴を 改ざんされない形で長期間保存していく業務 トレーサビリティの確保 24
トレーサビリティ確保の事例 (1) 1 エバーレッジャー社 ( ロンドン ) ダイヤモンドの取引履歴の管理 原石 研磨 販売 所有履歴などを 管理 (2015 年から 160 万個を登録済 ) - 最大手のデビアス社も実証実験を開始 (2018 年 1 月から ) 2 不動産の登記 権利の移転 売り手と買い手 不動産業者 登記所などの当事者 スウェーデン ウクライナで実験 25
トレーサビリティ確保の事例 (2) 3 食品の流通経路 豚肉の流通経路 有機野菜の流通経路 ウォールマート : 豚肉の管理に 農場 ( 中国 ) パッケージ ( 米国工場 ) 店頭 ( 米国店舗 ) 生産 製造 加工 流通小売消費者 26
トレーサビリティ確保の事例 (3) 4サプライチェーン マネージメント 部品の供給元の情報を記録する 部品の出所をトレース ( 追跡 ) できる 完成品メーカーと部品メーカー 部品のネジの出どころ 小売り 卸売り 完成品メーカー 部品メーカー 1 次下請け 2 次下請け 台帳情報 ( 共有 ) 27
DLT に適した業務とは? (3) スマートコントラクトを利用できる業務 スマートコントラクトとは -プログラム化して自動的に実行できる契約のこと - 分散型台帳技術と相性がよい 1 執行する条件 と 契約の内容 予め定義してプログラム化しておく 2 執行条件に合致したイベントの発生 契約が自動的に執行される 28
スマートコントラクト利用の事例 仏保険会社 AXA によるフライト遅延保険 ( fizzy ) 航空会社のフライト データベース AXA 2 時間以上の遅延 ( 執行条件 ) 保険契約の情報 ( ブロックチェーン ) + 顧客への自動的な支払プログラム ( スマートコントラクト ) 保険金の支払い ( 請求は不要 ) 従来は 個別の請求と審査 支払事務 保険の契約者 2017 年 9 月に実用化 ( パリ空港と米国との直行便のみ ) 今後は拡大の予定 29
ブロックチェーンの利用分野 ( 各省庁との関係で ) 金融庁 金融取引 経済産業省 サプライチェーン マネージメント 農林水産省 食の安全性管理 法務省 不動産登記 厚生労働省 医療データ 内閣府 行政文書の管理 ( 改ざん不可 ) 総務省 選挙のオンライン投票 かなり広範囲な応用の可能性あり? 30
ブロックチェーンは世界を変える! ブロックチェーン 2.0 で金融が変わり ブロックチェーン 3.0 で世界が変わる! 31