http://www.jbic.go.jp/ja/report/reference/index.html 2011 年 2 月株式会社日本政策金融公庫国際協力銀行ロンドン駐在員事務所 自動車産業の発展と現状 ( 南アフリカ ) 94 年の民主化以前の南アフリカの製造業は 高率の輸入関税や輸入割当等によって保護されてきた その後 世界貿易機関 (WTO) 体制のもとで関税率の引き下げが進んでいる こうした動きがある中 自動車産業については 輸出額に応じて部品等に係る輸入関税を免除する枠組みが 95 年に導入され 自動車産業を輸出産業の柱とすることとなった その後 WTO 規則に合致させるため 輸出に対する補助から国内生産への補助に切り替えられた 現在 南アフリカには トヨタ 日産など自動車メーカーと NGK など部品メーカーが進出している 図表 1 産業部門別名目 GDP 構成比の推移 ( 単位 :%) 80 年 90 年 00 年 07 年 08 年 09 年 一次産業 26.8 13.8 10.8 12.1 13.4 12.8 農林水産業 6.2 4.6 3.3 3.4 3.2 3.0 鉱業 20.6 9.2 7.6 8.8 10.2 9.7 二次産業 27.8 30.9 24.2 22.4 22.3 21.4 製造業 21.6 23.6 19.0 16.9 16.5 15.1 電気 水道 3.0 4.0 2.7 2.3 2.3 2.4 建設業 3.2 3.3 2.5 3.2 3.5 3.9 サービス産業 45.4 55.3 64.9 65.5 64.3 65.8 商業 ホテル 飲食業 11.6 14.3 14.6 13.3 13.2 13.3 運輸 通信 8.5 8.2 9.6 9.1 9.2 9.5 金融 不動産 10.9 13.7 18.6 22.6 21.8 21.7 一般政府サービス 10.0 14.3 15.9 14.3 14.4 15.4 その他 4.5 4.8 6.1 6.1 5.8 5.9 GDP( 基本価格 ) 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 ( 注 ) 一次産業 二次産業 サービス産業の区分は出所元の区分に基づく ( 出所 ) 南アフリカ統計局 1
今回は 南アフリカの製造業のうち 自動車産業の発展と現状について 市場関係者等からヒアリングした情報と報道を含む公表資料等をもとに報告する 1 自動車産業をめぐる政策の変遷 (1) 高率の保護関税 94 年の民主化以前は 自動車の輸入完成車に対して極めて高率の保護関税が長年かけられてきた このため 南アフリカ国内では 輸入車が市場から締め出された 自動車メーカー各社が車種確保のため 多品種少量生産を行った結果 非効率な生産体制となり 輸出競争力が失われ 国内自動車販売価格も高止まりした (2) 自動車産業開発プログラム (MIDP) 南アフリカは 輸出の鉱業依存度が高く 商品市況の動向に大きく影響を受けている 政府は 輸出産業多角化を図るため 95 年に自動車産業開発プログラム (Motor Industry Development Programme 以下 MIDP) を導入し 生産体制の効率化を通じた国際競争力の強化を図った 図表 2 品目別輸出額の前期比の推移 (%) 輸出総額 食品 鉱物資源 輸送機械等 その他 割合 100.0 9.3 61.8 7.7 21.1 08Q3 5.5 28.8 4.4-0.2 4.0 08Q4-8.0-22.6-12.3 21.0-3.5 09Q1-21.3 3.9-18.3-46.6-22.4 09Q2-5.4 2.2-3.9-11.1-10.1 09Q3 3.9 3.6 6.2-3.8 0.4 09Q4 4.0-22.4 1.6 51.8 6.8 10Q1-4.8 4.5-0.2-29.4-8.4 10Q2 14.3 21.6 13.6 27.2 8.7 10Q3 7.3 14.3 6.8-6.2 11.8 ( 注 ) 輸出総額に占める割合は 10 年第 3 四半期時点 輸送機械等には 自動車部品を含む ( 出所 ) 南アフリカ統計局 MIDP では 完成車輸入に係る関税の引き下げ 2 輸入部品に係る関税非課税枠の設定などが盛り込まれた この結果 輸出額に応じて完成車や部品の輸入関税を相殺できるクレジットが発給されるため 自動車メーカー各社は車種を絞り込んで輸出を増やすとともに 輸出で得たクレジットを利用して 国内未生産の車種を関税なしで輸入した 南アフリカに工 1 筆者は 11 年 中旬から下旬にかけて 南アフリカへ赴き 市場関係者や政府関係者 現地企業等から 最近の南アフリカの政治 経済 社会情勢について ヒアリングを実施した 2 輸入車に関する関税は MIDP 導入時点の 95 年で 65% であったが 現在は 28% となっている 12 年までに 25% に引き下げる予定である 2
場をもたない自動車メーカーは 南アフリカから自動車部品を調達することでクレジットを取得し 同様に完成車を関税なしで輸入していた MIDP 導入により 自動車価格は低下したといわれている 00 年には MIDP を改定 延長 (07 年まで ) し 輸入関税をさらに引き下げた また 輸入関税の相殺割合を段階的に引き下げる代わりに 投資インセンティブを新規に導入した 完成車については 02 年までに 40% に引き下げることになっていた輸入関税を 03 年以降毎年 2% 引き下げることにより 07 年に 30% にすることとした 他方 自動車部品については 02 年までに 30% に引き下げる予定であったものを 03 年以降毎年 1% 引き下げ 07 年に 25% にすることになった また 投資インセンティブは 部品メーカー等による投資額の 20% に相当するクレジットが発給され 完成車の輸入関税を相殺できることとした 02 年には 12 年まで延長することが発表された これにより 完成車への輸入関税率は 02 年の 40% から 12 年に 25% になることとなった 自動車メーカー各社は MIDP のクレジットを得るために輸出を増加させた 他方 MIDP は WTO ルールに抵触するとの指摘があったため 貿易産業省は自動車業界とともに 05 年から MIDP の見直しに着手した (3) 自動車生産開発プログラム (APDP) 08 年 9 月に 貿易産業省は MIDP に代わる新しい開発プログラム ( 自動車生産開発プログラム (APDP:Automotive Production and Development Programme) ) を発表した APDP では WTO 規則に合致させるため これまでの輸出に対する補助から国内生産への補助に切り替えられた APDP は南ア国内での組み立て生産を優遇する制度で その対象期間は 13 年から 20 年まで 政府は 自動車生産を 20 年までに年間 120 万台に増加することを目標としている 具体的には 1 自動車組み立て産業の保護のため 13 年から 20 年まで完成車の輸入関税率を 25% 部品の関税率を 20% とする 2 年間 5 万台以上の乗用車を生産する自動車メーカーを対象に 輸入部品の関税を相殺するクレジットを政府が発給する 3 3 これまで 輸出額に対して完成車と部品に対する輸入税を相殺できるクレジットを発給していたが 今後 国内での付加価値分の 55~50% に相当するクレジットを発給する (4) 自動車投資スキーム (AIS) 10 年 6 月 2 日に 貿易産業省は 自動車メーカー 部品メーカー等に対する新規投資優遇措置として 自動車投資スキーム (AIS) を発表した 4 これは MIDP にあった投資イン 3 なお 韓国は一社で 5 万台ではなく オール韓国で 5 万台以上の自動車生産を前提に 南アフリカへの進出を検討しているといわれている 4 AIS の公表が遅れた理由として コンバーターなど部品メーカーとの調整が遅々として進まなかったからといわれている 3
センティブ (PAA) の代替策とみられ 前述の APDP の優遇措置の一部といえる 具体的には PAA が 自動車および部品メーカーの国内投資に対して 投資額の 20% に相当するクレジットを発給し 完成車の輸入税を相殺する 仕組みだったのに対し AIS は 投資額の 20% 相当が助成金として直接支給される 仕組みになっている 南アフリカには 現在 トヨタ 日産 GM ダイムラー クライスラー フィアット フォードなどの主要メーカーが進出しているが 各社とも APDP の適用開始までに 年間 5 万台の生産のための追加設備投資を進めている AIS は さらなる投資拡大と雇用創出に繋がるとみられている 最近の自動車生産の動向 (1) 自動車産業は大きく成長自動車の国内生産台数は 前述の政策もあって順調に拡大してきた ただし 07 年以降は 準備銀行による相次ぐ利上げや National Credit Act 施行による融資規制強化の悪影響 世界的な景気後退 金融危機の影響等から 前年比減少に転じた 10 年には国内景気の回復もあり 国内市場での販売台数は 08 年規模を回復した なお 国内市場の販売不振が主因であるが MIDP の効果もあって 自動車の販売台数に占める輸出台数の割合は 08 年に 50% を超えた 10 年は 48.6% となった 乗用車の主な輸出先は 南アフリカと同じ右ハンドルの日本 英国やオーストラリア 米国である 00 年に乗用車の日本向け輸出が開始されたことに伴い 輸送機械の輸出が 99 年までの年間 10 億円規模から 05 年には 1,000 億円超に増加した 輸送機械が対日輸出に占める割合は 08 年には 6.6% となった 日本へ輸出されているのは 主に BMW3 シリーズやベンツ C クラスといった欧州メーカーによる高級乗用車で 南アフリカからみて日本は 自動車輸出の約 4 割を占める最大の輸出先となっている また 部品の輸出は 排気ガスの浄化装置であるコンバーターや皮製シートカバーが中心となっており 輸出先は EU が 7 割を占めている 図表 3 自動車販売 輸出の推移 ( 単位 : 台 %) 06 年 07 年 08 年 09 年 10 年 国内販売台数 714,315 676,098 533,387 395,186 492,956 国内市場 534,456 504,861 249,176 220,239 253,500 輸出市場 179,859 171,237 284,211 174,947 239,456 輸出比率 25.2 25.3 53.3 44.3 48.6 ( 出所 ) 南アフリカ自動車製造者協会 (NAAMSA) (2)10 年の自動車販売の推移自動車販売台数は 09 年の大幅な下落の反動と ワールドカップ関連需要の増加 準備銀行による利下げの効果もあって 10 年 以降前年同月比でプラスに転じている また 9 月 4
1 日からの二酸化炭素排出税の導入に先駆け 8 月まで駆け込み需要があった 5 1 12 月は 29.6% 増となっている 図表 4 自動車販売台数の推移 (%) 40.0 30.0 20.0 10.0 0.0-10.0-20.0-30.0-40.0-50.0 07 年 07 年 7 月 08 年 08 年 7 月 09 年 09 年 7 月 10 年 10 年 7 月 ( 出所 ) ブルムバーグ 自動車業界からは ワールドカップ開催前は ワールドカップ関連でレンタカー業界からの需要が激増していた また 準備銀行が利下げをしたことが個人の自動車購入に拍車をかけた その後も二酸化炭素排出税の導入前に駆け込み需要がみられた との声が聞かれた ただし 自動車生産工場でのストライキ 6 の影響から 自動車販売台数の前年同月比は 8 月の 36.9% 増から 9 月は 16.6% 増へと減速した しかし ストライキが終息して以降は再び販売台数は高い伸びを維持しており 足許 加速している NAAMSA( 南アフリカ自動車製造者協会 ) は 準備銀行が政策金利を 30 年ぶりの低水準まで引き下げたことで 消費全体が下支えされている 予想以上の景気回復ペースと最近の自動車販売の好調の勢いは 11 年に入っても続くと考えられる としている なお 10 年通年では 自動車販売台数は 24.7% 増となった (3) 今後の自動車産業ダイムラーが 20 億ランドの追加投資をすることを公表するなど 自動車メーカー各社は輸出促進のための新規 追加投資を積極的に実施する予定である これは政府が公表した APDP 等を背景とした積極的な投資によるものであり 当面 自動車産業の好調が続くものと考えられる なお 政府も自動車産業における新規雇用拡大策として 電気自動車の生産を計画してい 5 二酸化炭素排出税は 新車購入時に燃費量に応じて課税される 政府は 20 年までに 34% 25 年までに 42% の CO2 排出削減を目標としており 二酸化炭素排出税は税収増と環境対策の観点から創設したといわれている 6 フォルクスワーゲンやジェネラルモータースなど大手自動車メーカーはストライキの影響から 8 月に 8 日間の稼動停止を実施し 部品メーカーの一部では工場が 2 週間以上稼動停止となったところもあったと報道された 5
る 12 年から電気自動車の生産を開始し 年間 5 万台を生産し そのうちの 4.5 万台を欧州へ輸出する予定である 図表 5 政策金利と CPI 上昇率 (%) 14.0 12.0 10.0 政策金利 ( 翌日物レポレート ) 8.0 CPI 上昇率 6.0 4.0 2.0 0.0 07 年 3 月 5 月 7 月 9 月 1 08 年 3 月 5 月 7 月 9 月 1 09 年 3 月 5 月 7 月 9 月 1 10 年 3 月 5 月 7 月 9 月 1 11 年 ( 注 ) シャドーはインフレターゲット レンジ (3~6%) ( 出所 ) 南アフリカ統計局資料 部品メーカーの動向南アフリカでは 自動車の排ガス浄化用触媒の生産が盛んである この背景には 1 原料の一部であるプラチナ等白金族金属の世界最大の産地であり 2その価格が上昇していること 3 政府の自動車産業育成政策 (MIDP) が奏功したこと が挙げられる MIDP は自動車部品の輸出額に応じて 完成車および部品の輸入関税を減免できるものであったため プラチナを国内調達することは MIDP の運用に適していた 図表 6 金とプラチナの価格指数の推移 1500 1900 1400 1800 1300 1700 1200 1600 1100 1500 1000 1400 ( 注 ) 実線が金で左軸 点線がプラチナで右軸 ( 出所 ) ブルムバーグ 6
浄化触媒を生産している企業によれば 世界的な自動車需要の拡大とともに 環境に対する意識が高まりつつあることで 浄化触媒の需要 輸出も伸びている しかし 南アフリカでは浄化触媒の需要は伸び悩んでいる これに対し 浄化触媒を追加的に搭載することで 自動車価格が上がり 消費を冷やすことを恐れた政府が 環境対策を放置している との批判が聞かれた 南アフリカ国内では 浄化触媒を搭載した自動車の普及は進んでおらず 自動車販売台数ほど 浄化触媒の需要は増えていないといわれている このレポートは 国際協力銀行ロンドン駐在員事務所が信頼できると思われる情報ソースから入手した情報 データをもとに作成したものですが 本レポートに記載された情報の正確性 安全性を保証するものではなく また 国際協力銀行の見解を示すものではありません 本レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 投資その他何らかの行動を勧誘するものではありません なお 本レポートの全部または一部を予告なしに変更することがあります 7