1. 築地開業から豊洲移転決定までの経緯 築地市場の開業から 豊洲へ中央卸売市場を移転する小池都知事の基本方針 の発表までの経緯を手短に整理しました < 築地市場の開業 > 関東大震災で市場が壊滅的な打撃を受けたあと 日本橋にあった魚市場と京橋にあった青物市場を移転し築地市場ができました 築地市場の扇型の建物は 貨物列車により食品を搬入すること想定したものです 築地への移転に対し市場の人達からは 私たちは幕府の許可を得て 日本橋でこんなに立派にやってきたじゃないか という激しい反発があり また 消費者による 築地で魚を買わない という不買運動もあったと言われます それでも移転が進んだのは 行政の長が率先して移転を推進したためと思います 豊洲市場についても 石原 猪瀬 舛添の各都知事は その役割を果たしてきました < 大井埋立地の計画 > 東京都の資料 築地市場移転決定に至る経緯 に依れば 1970 年代には大井の埋立地に総合市場を整備する計画が検討されました しかし その計画は築地の市場関係者に受け入れられませんでした 日本橋からの移転と同様に 築地から離れたくないという 市場関係者の思いが強かったものと思います < 現在地再整備と頓挫 > 1980 年代には 築地の現在地で市場を再整備することが決定され 1988 年に築地市場再整備基本計画が策定されました 工期 14 年 総工費 2,380 億円で再整備する基本設計でした 環境アセスメントなどを経て 1991 年に建設工事が着手されました 鈴木都知事の時代です しかし 現在地で営業を続けながらローリングにより行う築地再整備は 工期の遅れ 3
整備費の増大 業界調整の難航により 1995 年に中断されます 1995 年に交代した青島都知事のもとで 現在地再整備の基本計画の見直しが行 われると共に 1998 年には臨海部移転の可能性の検討も始められました < 移転への傾斜 > 築地は銀座に隣接する一等地です 長年慣れ親しんだ築地を離れたいと考える築地事業者は皆無であったと思われます しかし 多くの築地事業者は 築地再整備が不可欠であると認識し 現在地での再整備の頓挫を経験して 移転も止むを得ないという考えに傾いていったものと思います < 臨海部の候補地 > 第三者的には 中央卸売市場が銀座に隣接している必要性はないと考えます しかし 長年築地で営業してきた人達には 大井や環状 7 号線沿いの立地を受け入れる考えは殆ど無かったものと思われます 築地に近接し 30~40ha の広さの土地を探すことになりましたが 豊洲の東京ガスの工場跡地しか無かったわけです 例えば 晴海地区も候補に上がりましたが 広さが十分ではありませんでした < 築地残留派 > 一方 築地残留を主張し続ける市場関係者もかなりいました 築地市場を現在地で再整備する確固たる構想は 最近まで示されませんでしたので 現状の施設を補修しながら使い続る考えだったのでしょう 築地残留派の中には 豊洲移転の費用が捻出できない事業者も含まれていると言われます 東京都は 資金融資制度を用意したようですが 財務状態が悪く 融資できない事業者もいたようです 豊洲移転は 廃業に繋がる事態ですから深刻です 都議会与党が豊洲移転を推進すれば 野党は築地残留派を支援することになり 事態は混迷します 4
< 石原都知事 > 時代は少し遡りますが 1999 年に石原都知事が登場しました 新たに指名された大矢中央卸売市場長のもとで 臨海部への市場移転に重点を置いた検討が進められました なお 青島都知事から石原都知事への引継ぎ書類には 既に豊洲市場移転という豊洲の地名が記載された書類が含まれていたと報じられています 今回の都議会百条委員会での証言によれば 大矢市場長は 築地市場の現地再整備は困難であり 豊洲移転しかない と石原都知事に進言したとのことです 2001 年に 現行の計画を改め 築地市場を豊洲地区に移転 する築地市場の整備計画が策定されました なお 東京ガスからの豊洲の土地取得や 汚染土壌の浄化は先の事です < 豊洲の土地取得 > 当時 東京ガスの豊洲の工場跡地は 別の利用計画が進んでおり 東京ガスは市場用地として売却することには 積極的ではなかったようです そのような相手と交渉し 土地取得の基本合意を取り付けたのは浜渦元副知事です その経緯は 百条委員会でもある程度明らかにされましたが 裏金のような不正の事実は指摘されませんでした < 土壌汚染の対策 > 豊洲の土壌汚染の調査結果をもとに 専門家会議により土壌汚染対策の提言が出されました 旧地盤面から 2m の深さまで土壌を全て掘削し 土壌を入れ替える 2m 以深に土壌汚染が認められる場合には 汚染を処理する その上で 汚染のない 2.5m の盛り土をすることになりました <4.5m の盛り土 > 2m 深さまで掘削して土壌を入れ替え 更に 2.5m の盛り土をするのですから 5
4.5m の盛り土で覆うことになります 4.5m は随分な厚さです 例えば 築地で土壌汚染が検出された時には 小池都知事は アスファルトで覆われているので安全上問題は無いと言っています 4.5m もの盛り土は 安全上必要ではありません 豊洲は海に囲まれており 高潮の時にも 海水に漬かっては具合が悪い訳です 豊洲の旧地盤面は 平均的海面より約 2m 高いだけでした 一方 周辺地域の地盤面は 平均海面より 4.5m 高くなっています 豊洲市場を造るにあたり その地盤面を周囲に合わせて 平均海面より 4.5m 高くすることにしました そのためには 2m の掘削面から 4.5m の盛り土をすることが必要になったわけです < 地下空間 > 豊洲の建物の下に盛り土が無く 地下空間が有ったことが大問題になりました 大きな建造物では地下ピット ( 地下空間 ) を設け そこに配管や配線を配置するのが一般的です それら設備の保守点検も必要になりますから 地下ピットは 3~4m の高さが必要です 盛り土の上に 建物の地下ピットが置かれ その上に建物の一階がくると 一階床面は 盛り土上面である地盤面より 3~4m 高くなります 高床式の建造物になります トラックで物を搬入するためには 道路も地盤面より 3~4m の高くしなくてはなりません そんな設備を作ったら 設計者は馬鹿じゃないかと言われます 建設費も増大します 築地のアスファルト舗装と同様に 地下ピットも汚染土壌を覆う機能があるので 豊洲市場の設計者は 建物の下に盛り土は必要ないと考えたものと思います 当たり前のことです 盛り土や広大な地下ピットは 隠せるものではありません しかし 地下ピットの下に盛り土がないことを説明しなかったのは 都の担当者の失敗でした 誰がその指示を出したのか 犯人探しが行われたのは周知のとおりです < 専門家会議の地下水浄化目標 > 専門家会議報告書には 地下水浄化目標は 建物建設地とそれ以外に分けて示 6
されています 建物建設地は地下水環境基準 ( 飲料水基準 ) それ以外は排水基準 ( 飲料水基準の 10 倍 ) を目指した地下水処理を行うと記されています なお 建物建設地で飲料水基準を目指すのは 安心 のためと断っています また 汚染地下水の残存にも言及しており 飲料水基準に完璧に浄化することは難しいと考えていたことを窺わせます < 技術会議の地下水浄化目標 > 次に行われた技術会議で 地下水浄化目標は修正されました 技術会議報告書には 市場の安全 安心をより一層確保するため 地下水の浄化は 建物下と建物下以外を区別せず 施設建設前に環境基準以下に浄化する と記されています 修正理由は 経費及び工期短縮の観点とされ 安全のためではありません 建物下とそれ以外の地下水浄化を分ける専門家会議の計画では 建物の周りの地下に遮水壁の設置が必要になります 一方 敷地全体を環境基準以下に浄化する場合には その遮水壁が必要なくなり 工期や経費が低減がするということです 想像ですが 技術会議の過程で行われた新技術 新工法の公募により 都の担当者は 飲料水基準まで浄化することに自信を持ったのではないかと思います しかし 結果を見れば 浄化後の豊洲の地下水には 飲料水基準を超える汚染が残っていました 必要がないのに 飲料水基準まで浄化できると考えたのは 都の担当者の間違いでした それにより大変な批判を受けることになりました < 汚染と健康リスク > 汚染と健康リスクについて説明しておきます 豊洲市場は 建屋内や地上の人や食品が 汚染物質に触れない設備になっています そのため 汚染された土壌は 盛り土や地下ピットで覆われています また 地下水が地上に染み出さないよう 地下水の上昇が制御されています 地下水に含まれるベンゼンのような揮発性物質のガスは 土壌の層を通って地上に出てくる可能性があります しかし 地上に出た時の濃度が大気汚染の環境基準を超えないように計画されています 環境基準とは 長年そのような環境で暮らしても健康 7
に問題が生じない値です 専門家会議報告書によれば 平均的な土壌特性下で 地下水中のベンゼンを地下水環境基準の 110 倍以下にすれば 計算上 地表のベンゼン濃度が大気汚染に係る環境基準以下になることが示されています また 地上や建物内の環境を毎週測定し 環境基準以下であることが確認されています 福島第一原発の後 科学的安全に対する信頼が損なわれてしまいました 大地震の際に液状化で ベンゼンを含む地下水が噴き出すことを心配する人もいるようです しかし ベンゼンの発癌性は 長期間その様な環境にいると問題になるもので 液状化したら そこに近付かなければいいだけです なお 豊洲市場は液状化対策も実施しています < 地下水モニタリング結果 > それまで地下水モニタリング結果は 地下水環境基準以下でしたが 第 8 回に 201 カ所の観測箇所のうち 3 カ所で環境基準を超えました 最大で環境基準の 1.9 倍と 高い値ではありませんが 移転延期発表の後であり 驚きで受け止められました 第 9 回モニタリングでは 94 カ所が環境基準を超えました 最高はベンゼンが環境基準の 79 倍で 多くの人は豊洲市場は使用できないと考えたことでしょう 8
< 専門家の見解 > しかし 専門家会議の平田座長は 建物内の安全性は保たれており 食べ物への汚染は起こらない と強調し 地上と地下は分けて議論するべきだ と繰り返したと報じられました 日本を代表する環境リスク分野の研究者である中西準子氏は 基準を超え 不安なのは分かるが 有害物質が揮発して地上に出て人が吸ったとしても 濃度は相当薄く 人体に健康被害が出ることは考えにくい と指摘したとされます < 都知事の発言 > それに対し 小池都知事は 地上と地下を分けて考えることはできない と主張しました 安全 に関し 上記の専門家以上の知見を有していると思われないので 地下を分けて考えられない理由は 安心 の観点でしょう しかし 安全 が確保されているのなら 都民にその事を説明し 安心 してもらうことは 行政の長の責任です 実際 築地市場で汚染が検出された際には 知事はそのような趣旨で発言しています 豊洲移転延期の妥当性を主張するため 安全とともに安心が必要と繰り返した小池都知事の発言が 事態の混迷を招いた主な原因と思います <マスコミ報道 > 多くのマスコミ報道には 科学的情報が欠けていました 公共放送である NHK のアナウンサーがニュースの中で 専門家の見解を紹介したならば 地下水と安全に関する誤解が このように広がることはなかったと思われ残念です TV のワイドショウの多くに 真面な報道を期待することは無駄かもしれませんが 風評を広めることには強力でした 豊洲市場の安全に対する誤解は強まる一方でした < 政治の動き > 風評が広がった時 科学的に正しい情報を提供し 説明し説得することは政治の責 9
任です 政治家には 科学的に判断する能力は無いかもしれません しかし 専門家に意見を聞くことができるし 判断に必要なデータを請求することもできます しかし 政治家は 間違った考えでも世論に迎合しないと 支持を失うと考えるのでしょうか 都議会にも 誤解を正そうという動きは乏しかったように思います 更には 風評というべき主張を繰り返す野党もありました <その後の動き > 築地市場について 開放型施設であることによる安全性の欠如が指摘され 土壌汚染も検出されました その結果 豊洲市場は安全性で築地市場より劣っている訳ではないという意見が増加しました 築地残留派は 安全性から経済性へと論点をシフトします 築地にスリムな施設を再整備し 長期の維持管理費を考慮すれば 築地市場の現在地再整備の方が経済的であるという主張です しかし ローリングで行う築地再整備の構想は 広く受け入れられるまでには至りませんでした < 都知事の基本方針表明 > 都議選公示の直前に 豊洲移転問題に対する小池都知事の基本方針が出されました 築地は守る 豊洲は生かす がキャッチ フレーズです 最初に記載したように 概ね当初の計画に落ち着いたものと言えます なお 築地は食のテーマパークに再開発するということですが 具体的内容は示されていません 10 か月近く 豊洲移転は総合的に判断して方針を出すと言い続けたにしては 検討不充分な内容です 工程も資金面の検討も済まない段階で 都の関係部局の検討も行われずに出されたもののようです < 残された損失 > 豊洲市場に直接係る事項でも 移転延期により損害が発生しましたが その他にも多額の損失が発生しています 大型事業は随分以前から計画されており それらを無視して計画を変更すると 多くの損害が発生します 築地地区の環状 2 号線の開通 10
遅れと 東京五輪の関連が大きな問題ですが 数え上げれば 多くの事項があり 関 係者は迷惑を被ったものと思います 重要な問題であり 別途に項目を立てて記載し ます 11