いずれも殺害するに至らなかった 証拠の標目 省略 争点に対する判断 被告人が, A 及び B を金属バットで殴打したことは争いがない 本件の争点は, 殺意の有無と責任能力である 1 殺意の有無 ⑴ A に対する殺意防犯カメラ映像 ( 甲 6 2,6 6 ) に見られる被告人の両手両足の位置や向き,

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被告人に殺害されることを承諾したような様子は一切ない むしろ, 被害者は, 本件直前に介護用品を選んだり, 散髪の予約をしたりしている 被告人も, 公判廷において, 被害者に心中することを話したことはないし, 上記転居後に, 被害者から死にたいとか, 殺してほしいと言われたことはなかった旨供述する

記サバイバルナイフで多数回突き刺すなどし, その頃, 同所において, 多発性胸部大動脈刺創による失血により死亡させた 第 3 同日午前 7 時 10 分頃, 同市 a 町 bd 番地所在のB 方離れ玄関付近において, 同人の母 Dに対し, その左背部等を前記サバイバルナイフで多数回突き刺すなどし,

主 文 被告人を死刑に処する 押収してあるペティナイフ 1 本 ( 平成 25 年押第 2 号の 1) を没収する 理 由 ( 罪となるべき事実 ) 第 1 被告人は, 平成 23 年 11 月頃に当時の妻と共に福島県会津若松市に移住した後, 実際には職に就くことはなかったのに, 妻には就職したと嘘

り死亡させて殺害し, 第 2 医療等の用途以外の用途に供するため, 同日頃から同月 18 日までの間に, 被告人方において, 指定薬物であるN-(1-アミノ-3-メチル-1-オキソブタン-2-イル )-1-(5-フルオロペンチル)-1H-インダゾール -3-カルボキサミド( 通称 5-Fluoro

る なお, 前記写真は,M 号室前の廊下をビデオ撮影していたものを, 静止画として切り出したものであるから, 以下, 当該ビデオ撮影 ( 以下 本件ビデオ撮影 という ) の適法性について検討する 関係証拠によれば, 以下の事実が認められる すなわち, 捜査機関は, 委員会 ( 通称 派 以下 派

( 証拠の標目 ) 略 ( 死体遺棄罪について免訴とした理由 ) 第 1 争点本件の争点は, 死体遺棄罪の公訴時効の完成の成否であり, その前提として, 本件死体遺棄行為の性質 ( 作為犯か不作為犯か ) や, 公訴時効の起算点がいつであるのかが問題となる 検察官は, 論告において, 被告人には殺害

控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

在は法律名が 医薬品, 医療機器等の品質, 有効性及び安全性の確保等に関する法律 と改正されており, 同法において同じ規制がされている )2 条 14 項に規定する薬物に指定された ( 以下 指定薬物 という ) ものである (2) 被告人は, 検察官調書 ( 原審乙 8) において, 任意提出当日

で被害者に暴行 ( その態様には争いがある ) を加えた結果, 被害者が椅子ごと転倒して床で頭部 ( 左右のどちらかについては争いがある ) を打ったことに争いはなく, このことはB 証人,C 証人及び被告人の供述によって容易に認められる また, 自宅内で遺体で発見された被害者を解剖した医師によれば

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

本件当日 ( 平成 28 年 7 月 15 日 ),Gが, 事前の約束の上で被害者宅 ( エレベーターの設置されていないfビルのg 階に位置する ) を訪れたところ, 玄関付近で何者かに押し倒され,2 人の男が被害者宅に立ち入ってきたこと,2 2 人の男は, いずれもけん銃様のもの ( 後に述べると

1 A 所有の土地について A が B に B が C に売り渡し A から B へ B から C へそれぞれ所有権移転登記がなされた C が移転登記を受ける際に AB 間の売買契約が B の詐欺に基づくものであることを知らなかった場合で 当該登記の後に A により AB 間の売買契約が取り消された

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

11総法不審第120号

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

最高裁○○第000100号

平成 31 年 4 月 19 日宣告東京高等裁判所第 3 刑事部判決 平成 30 年 1508 号住居侵入, 殺人, 死体遺棄被告事件 主 文 原判決を破棄する 5 本件を横浜地方裁判所に差し戻す 理 由 検察官の本件控訴の趣意は, 検察官山口英幸作成の控訴趣意書記載のとおりであ り ( 検察官は,

11総法不審第120号

H 刑事施設が受刑者の弁護士との信書について検査したことにつき勧告

<4D F736F F D2095DB8CEC96BD97DF905C97A78F F918EAE A2E646F63>

O-27567

として無罪を言い渡した 4(1) 原判決の上記判断は論理則経験則違反があるというほかなく, 破棄を免れない (2) 上記 3(2)1 被告人は本件犯行の被害品たる腕時計を四日市市内での被害発生 ( 平成 28 年 6 月 9 日午前 0 時頃から同日午前 6 時 30 分頃までの間 ) の約 1 日

平成  年(オ)第  号

〔問 1〕 Aは自己所有の建物をBに賃貸した

平成 30 年 ( 受 ) 第 269 号損害賠償請求事件 平成 31 年 3 月 12 日第三小法廷判決 主 文 原判決中, 上告人敗訴部分を破棄する 前項の部分につき, 被上告人らの控訴を棄却する 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする 理 由 上告代理人成田茂ほかの上告受理申立て理由第

Transcription:

主 文 被告人を懲役 12 年に処する 未決勾留日数中 3 0 0 日をその刑に算入する 押収してある金属バット 1 本 ( 平成 3 0 年押第 2 7 号の 1 ) を没収する 理 由 罪となるべき事実 被告人は, 療育手帳の交付を受けようとして役所に出向いたものの交付を受けられず, 苛立ち, 金属バットを購入して移動していたものであるが, 第 1 平成 2 8 年 1 1 月 2 日午後 5 時 2 5 分頃, 大阪市 a 区 b 町 c 番 d 号所在のe 駅中央コンコース南側エスカレーター前において, 同所を通行中のA ( 当時 2 2 歳 ) ににらまれたと感じたことなどから, 同人を殴ろうと考え, 同人が死ぬかもしれないことを認識しながら, あえて, 同人に対し, その頭部を金属バット ( 平成 30 年押第 27 号の1) で 1 回殴り, 更に, その場に転倒した同人の頭部を目掛けて同バットで 1 回殴ったが, 同人が逃げ出すなどしたため, 同人に加療約 2 週間を要する頭部外傷等の傷害を負わせたに止まり, 第 2 同日午後 5 時 2 6 分頃, 前記場所において, 上りエスカレーターから前記中央コンコースに上がってきたB( 当時 6 歳 ) ににらまれたと感じたことなどから, 同人を殴ろうと考え, 同人が死ぬかもしれないことを認識しながら, あえて, 同人に対し, その頭部を前記金属バットで1 回殴ったが, 同人に全治約 1 か月間を要する左頭頂骨骨折 外傷性くも膜下出血 急性硬膜外血腫, 少なくとも約 2 年間の経過観察を要するけいれん発作の可能性を伴う脳挫傷の傷害を負わせたに止まり, 1

いずれも殺害するに至らなかった 証拠の標目 省略 争点に対する判断 被告人が, A 及び B を金属バットで殴打したことは争いがない 本件の争点は, 殺意の有無と責任能力である 1 殺意の有無 ⑴ A に対する殺意防犯カメラ映像 ( 甲 6 2,6 6 ) に見られる被告人の両手両足の位置や向き, バットの位置等によれば, 被告人は, バッターがバットを若干上向きにスイングするような体勢で, 歩いているAの右横からAの頭の高さで金属バットを振ったこと, バットが当たる直前, A が顔を被告人の方に向け, わずかに体をひねるような動作をしたことが認められる また, 脳神経外科専門医である甲は,A の額には握り拳大の頭部皮下出血が生じており, 1 割程度の確率で脳損傷が生じるようなかなり強い衝撃が加わったと考えられる旨及びAに脳損傷が生じなかったのはAが逃避行動をとったためだと推測できる旨供述するところ, この供述の信用性に特に疑問なところはない そして, 前記のとおり,A は歩いているだけで大きく体を動かしてはおらず, 被告人が意図したところと大きく異なる場所に金属バットを当てたような事情は認められない 以上によれば, 被告人は,A の頭を目掛けて相当な力で金属バットを振り, A の頭を殴ったと認められる さらに, 前記防犯カメラ映像及び A の供述によれば, 被告人は, 前記の殴打行為により転倒しているAの方向を向いて金属バットを振り上げてAの頭付近に振り下ろしたこと, バットは, その場からほとんど動くことなく両手を頭に乗せているAの右手に当たったことが認めら 2

れる したがって, このときも, 被告人は,Aの頭を目掛けて金属バットを振り下ろしたと認められる これらに対し, 被告人は, 頭に当たると死んでしまうのではないかと思い,Aの肩や手を狙った旨供述するが, 前記防犯カメラ映像と齟齬しており, 信用できない なお, 捜査報告書 ( 甲 6 5 ) によれば, 被告人は犯行に用いた金属バットを犯行の約 20 分前に購入し持ち運んでいたものであり, その硬さや形状を十分に認識していたと認められる ( 被告人は, 犯行に使用した金属バットは, 金色で黒色袋入りであり, 警察官が領置し, 裁判所が押収した金属バット ( 黒色で白色袋入り ) とは別の物である旨供述するが, 捜査報告書 ( 甲 6 2,65) 及び乙の供述によれば, 同一性が優に認められる ) 以上によれば, 被告人は, 頭という硬い物で強く殴れば人が死亡する危険性の高い部位を目掛けて金属バットという硬い物で強く殴ったのであり, 人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為と分かってしたものと認められ, A に対する殺意が認められる ⑵ B に対する殺意前記防犯カメラ映像及び乙の供述によれば, 被告人は, 金属バットを自身の頭の高さに持ち上げた状態でBに近づき, 大きくは動いていないBに対し, 振り下ろすようにして, その頭を殴ったことが認められ, 被告人は,B の頭を目掛けて金属バットで殴ったと認められる これに対し, 被告人は, 頭は危ないので肩を狙った旨供述するが, 小さな幼児の頭に当たらないように殴るのにバットを振り下ろしたなどというのは信じ難い そして, 脳神経外科医である丙は,B の頭には数メートルの高さから墜落するのと同程度の力が加わったのであり, 死亡してもおかしくない程度の衝撃だった旨を述べる 3

このような加害行為の態様及び結果と, 自分で購入した金属バットを用いて行った行為であることからすれば, 被告人は, 人が死ぬ危険性の高い行為をそのような行為と分かってしたものと認められ,Bに対する殺意も認められる なお, 検察官は,B に対する殺人未遂の実行行為として,B の頭を 1 回殴った後, 更に同人を金属バットで殴ろうとした旨主張するが, 後者については, 防犯カメラ映像上, 明確でなく,B に対する犯行を目撃した前記乙は, 後者のような行為があったとは供述していないこと, 被告人自身は,Bの背中を殴った旨供述するものの, 暴行態様に関する被告人の供述は全体的に信用性に乏しく, 背中への殴打行為だけに信用性を認めることも困難であることから, 被告人が更にBを金属バットで殴ろうとした, あるいは殴ったという行為については認定するに至らない 2 責任能力 ⑴ 弁護人の主張弁護人は, A らににらまれ, 幻覚等による脳の痛みが増幅したため, 犯行に及んだとの被告人供述に沿い, 被告人は, 本件各犯行当時, 残遺性障害及び遅発性精神病性障害と軽度精神遅滞の影響により, 善悪判断能力及び行動制限能力が失われており心神喪失の状態にあった, 又は, これらが著しく低下しており心神耗弱の状態にあったと主張する ⑵ 前提事実ア関係証拠によれば, 犯行当日の被告人の行動等につき, 次の事実が認められる 被告人は, 犯行当日, 療育手帳に関する手続をしようとして, 地下鉄を利用して,f 駅付近にある g リハビリテーションセンタ 4

ーを訪れた 被告人は, 事前の担当者とのやり取りから, いつ行っても手続が受けられると理解していたが, 予約が必要であるとして当日の手続を断られた ( 甲 3 3 ) 被告人は, 同センターを出た後, 地下鉄で h 駅まで行き, 同駅付近にあるスポーツ用品店で金属バットを購入すると, 同駅から地下鉄に乗車して e 駅で下車し, 本件各犯行に及んだ イ被告人は, 療育手帳に関する手続を断られたことに関し, また日を変えて手続をしたらいいと考えたなどと, 特に不満を感じていない趣旨の供述をし, 金属バットを購入した理由については, e 駅付近のバッティングセンターに行き, バッティングをするためであった旨供述する しかし, 被告人の上記供述は, 以下の理由から信用できない すなわち, 被告人は, 1 6 歳の頃にバッティングセンターに行ったことがあるものの, その際にはバッティングをしておらず, その後はバッティングセンターに行っていないというのであり, 本件当日, 同所に行こうと思ったというのは, あまりに唐突であるし, 同所に行こうと思った理由についての被告人の説明は度々変遷しており, 一貫性がない また, 被告人は, バッティングセンターにバットが置いてあり, 買う必要がないことを一応理解していながらバットを買った理由について, 自分のバットで打ちたかったなどと供述するが, 購入したのは通常のものよりも短いジュニア用の金属バットである上, 被告人は生活保護等で生活しており, 当面の生活費が 5 万円ほどしかなかったにもかかわらず 6 0 0 0 円も支払っている その上, 防犯カメラ映像 ( 甲 6 2 ) によれば, 被告人は, 地下鉄 h 駅の改札とスポーツ用品店とを約 7 分間で往復しており, 移動や精算に要する時間を考慮すれば, 被告 5

人は, ほとんど選びもせずに購入しているのであり, この点でも, 貴重な現金を支払って通常の用法で用いるためにバットを購入する者の行動として不自然である 以上のように, 金属バットを購入した理由についての被告人の供述は信用できないところ, 前記のとおり, 被告人は, リハビリテーションセンターまで出向いたにもかかわらず, 予期に反して手続を断られるという普通の人でも不満や苛立ちを感じる出来事があった後に, 通常の用法以外では凶器にしかならないような物を購入し持ち歩いていたのであるから, それを用いて粗暴な行為をするなどして不満を解消し, あるいは自己の欲求を満たそうという何らかの目的があったと考えられる 後述する被告人の性格傾向は, 前記推認と整合こそすれ, 矛盾はしない ( 具体的な粗暴行為として考えられるものの一つは, リハビリテーションセンターに行って療育手帳の手続をするよう求めることである 金属バットを購入した h 駅からは e 駅で乗り換えることなく f 駅に行くことができるが, リハビリテーションセンターの業務終了時間に間に合わないことに途中で気付いて e 駅で降りたということも考えられるから, 被告人が本件各犯行時に同駅にいたことは, 前記可能性と矛盾するものではない なお, h 駅にも多数の人がいるのに殴打行為に及んでいないことから, 通行人を殴打する目的でバットを購入したとまでは認められない ) 鑑定結果被告人の精神鑑定をした丁医師 ( 以下 鑑定人 という ) は, 被告人には本件各犯行当時,1 残遺性障害及び遅発性精神病性障害と 2 軽度精神遅滞が認められ,1 残遺性障害及び遅発性精神病性障害については, 本件各犯行時, 被告人は,A らににらまれたと感じ, 6

脳に穴をあけられる又は脳に電気が流れて痛みを感じるという幻覚がひどくなると同時に, 隣人の中国人等からの幻聴等に悩まされ疲れていた状態であったが, 幻覚により生じる痛みは, 普段, コーヒーを飲んで紛らわすことができ, かつ, バットを持っていなければやり過ごせる程度のものであった旨, 幻聴により疲れているといっても, 必ずしもその日に行く必要のない役所に行こうと考える程度の疲れであったほか, 被告人は, 自らの意思どおりに行動することができ,A らや周囲の人々の言動を適切に認識し, 理解できていた旨, 2 軽度精神遅滞については, 本件各犯行の態様は, 被告人の思いどおりにいかないと非常に衝動的になるという性格傾向からみれば, さほどかい離の大きなものではないことから, 被告人の知的水準が, 本件各犯行に大きく影響したと考えることはできない旨, 本件各犯行は, 脳に穴があけられる等による痛みや疲れ切っていたことによる影響以外は, 正常な精神領域によって行われたと考えられる旨供述する 上記鑑定は, 面接時等における被告人の供述を前提にしている部分が多いところ, 鑑定人も指摘するとおり, 被告人の供述は時間の経過に従って, 精神障害の影響が大きくなる方向に変遷している したがって, 被告人の供述を全面的に信用することはできず, e 駅付近のバッティングセンターに行こうとしていた旨の供述が信用できないことは前記のとおりである もっとも, 鑑定人は, 一次的にはバッティングセンターに行くことを前提にしているものの, 同事実の真否にかかわらず, 鑑定結果に影響はない旨を述べ, その他の被告人の供述についても慎重に検討しており, 被告人の精神障害の有無及び犯行への影響の仕方についての判断過程が不合理であるとはいえない 弁護人は, 鑑定人が, B を診察したことがあるか 7

ら公正さに問題がある旨主張するが, 鑑定書提出後に指摘されるまでは診察したことを失念していたものであり, 鑑定には影響していない旨の鑑定人の説明に不自然なところはなく, 公正さにも問題はない そこで, 以下, 同鑑定を前提に被告人の本件各犯行時の責任能力について検討する 被告人の本件各犯行時の責任能力防犯カメラ映像や A の供述等に照らすと,A らが被告人をにらんだとは考えられないものの,A らと目が合った際ににらまれたと感じ, 脳に痛みを感じたとの被告人の供述が虚偽であるとまではいえず, それまでの幻覚幻聴による疲れが本件各犯行に影響した可能性は否定できない しかし, 幻覚幻聴による痛みは, コーヒーを飲んで紛らわすことができる程度であり, また, 幻覚幻聴による疲れがあるといっても, 必ずしもその日でなければならない理由はないのに療育手帳の交付手続に出向くことができる程度のものであったことに照らせば, 幻覚幻聴が本件各犯行に及ぼした影響は限定的であり, また, 被告人自身, A らを殴打したら痛みが和らぐと思った旨供述しているわけではないことからしても, 脳の痛みを感じたことだけがAらを殴打した動機であったとは考えられない むしろ, 前記のように, リハビリテーションセンターまで出向いたにもかかわらず, 思いどおりに療育手帳の交付手続を受けられず, 苛立っていたところ,A らににらまれたと感じたことから衝動的に殴打行為に出たのであり, 思いどおりにいかないと非常に衝動的になるという被告人の本来の性格傾向により惹起された部分が大きいと考えられる その上で, 被告人は, 犯行後に取り押さえられた際, 自身が金属バットで人を殴ったから取り押さえられていることを理解してお 8

り, 善悪の判断を正常にできていた上, 狙ったとおりに A らの頭部を殴打し, さらには,A が人ごみに逃げたのを見て追い掛けるのをあきらめるといった状況に応じた行動もできており, 行動を制御する能力も十分に有していたと認められる 以上によれば, 被告人が, 本件各犯行当時, 精神障害により善悪の判断や行動の制御ができなくなっていた, あるいは, それらが著しく困難であったとは認められず, 被告人は本件各犯行時, 完全責任能力であったと判断した 累犯前科 省略 法令の適用 罰 条 判示各行為 いずれも刑法 2 0 3 条, 1 9 9 条 刑種の選択 判示各罪 いずれも有期懲役刑を選択 累犯加重 判示各罪の刑 刑法 5 6 条 1 項, 5 7 条 ( 前記の各前科がある ので同法 1 4 条 2 項の制限内でそれぞれ再犯の 加重 ) 併合罪の処理 刑法 4 5 条前段,4 7 条本文,1 0 条 ( 犯情の 重い判示第 2 の罪の刑に同法 1 4 条 2 項の制 限内で法定の加重 ) 未決勾留日数算入 刑法 21 条 没収刑法 1 9 条 1 項 2 号 ( 判示各犯行の用に供した 物 ), 2 項本文 訴訟費用の処理刑事訴訟法 1 8 1 条 1 項ただし書 ( 不負担 ) 9

量刑の理由 金属バットで頭部を殴打するという犯行態様は危険なものであり, これにより B は修復されない脳挫傷を含む傷害を負い, てんかんの発作のおそれが高まったため, 生活上の制限を余儀なくされていること及び当時 6 歳で多感な B が受けた精神的衝撃は大きいことからすれば, 生じた結果は相当程度重い もっとも, 金属バットでの殴打が銃器や刃物等の凶器を用いた場合よりも危険とはいえず,B に生じた結果も殺人未遂の事案の中で重いとまではいえない A に対する犯行により生じた結果も幸い加療約 2 週間のものである 犯行動機は, 思いどおりにならず苛立っていたところに, 被害者らににらまれたと感じたというもので酌むべきものは乏しいものの, 限定的ではあるが精神障害の影響があったことは被告人に対する非難の度合いを幾分弱めるものといえる また, 殺意は未必的なものにとどまっており, 強固なものではない 被告人は, 見ず知らずの被害者らに連続して犯行に及んでおり, 無差別の殺人未遂に近い事案であり, 社会に不安を与える犯行であったといえる もっとも, にらまれたと感じた相手という限度では対象が特定されていることや,B の頭を 1 回殴った後, 更に同人を金属バットで殴ろうとした事実は認められないこと等からすれば, 典型的な無差別の犯行であるとまではいえない 以上からすると, 本件は, 凶器を用いて, 無差別又は無関係な被害者 ( 落ち度なし ) に対する殺人未遂の事案の中では重い部類に位置付けられる 検察官の求刑は, 無差別の事案の中でも最も重い部類に位置付けるものであるが,A に対する被害結果まで重大とし, 重い事案の中にも被害者が複数名あるものも含まれているにもかかわらず, 本件の被害者が 2 名いることを強調するだけで, 当該事案の中でも最も重いとする根 10

拠が適切に示されているとはいえず, 重すぎるといわざるを得ない このような位置付けを前提に, 被告人は, 反省の言葉を述べるものの, 全体としてみれば, 本件各犯行と向き合えているとはいい難く, 真摯な反省の態度は見られないこと, 本件が被告人の性格傾向が大きく影響しての犯行であり, 被告人は, これまでも思いどおりにならないと粗暴な行動に出ていることや, 更生環境が整っていないことも考え併せると, 再犯可能性が否定できないこと等の事情も踏まえ, 主文のとおり量刑した ( 求刑 懲役 20 年, 主文同旨の没収 ) 平成 3 0 年 7 月 23 日大阪地方裁判所第 1 4 刑事部 裁判長裁判官 飯島健太郎 裁判官 山口智子 裁判官 諸井雄佑 11