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スクリーングリッド電圧を下げるといっても カソードが出力信号の50% の振幅を持つわけですから スクリーングリッドにもカソードと同振幅 同位相の信号を与えないとネイティブ動作になりません そこで 一次側巻線をトリファイラ巻きにした出力トランスを用いて スクリーングリッド電圧を給電するために 独立した巻線を用意するというのが (3) の方法です こうすることによりスクリーングリッドには 静止時の電圧に加えて カソードと同じ振幅を与えることができますので 理想的なネイティブ動作を実現できます 下図が本機に使用したトリファイラ巻きの出力トランス ASTR-08の仕様 測定データおよびシャーシ上のネジ穴位置図面です このトランスのトリファイラ目の巻線には スクリーングリッドへの電流しか流れませんので 一次側と比べて細いマグネットワイヤを用いて 一次側の直流抵抗が極力高くならないように工夫されています

回路図 下図が本機のアンプ部回路図です 出力管はテレビの水平偏向出力管である25E5/PL36を使用しました この球はヨーロッパ系のテレビ用水平偏向出力管で ヒーター電圧違いの6CM5/EL36のみならず 6/12/ 17GB3A 6/12/17B-B14 等 日本独自の同等管や発展管が多く存在します 白黒時代からカラー時代の末期に至るまで長く活躍しましたので 同等管も含めると現在でも入手は容易な球です 水平偏向管だけでなく 同等管は垂直偏向管の25HX5や オーディオ出力管の6/50B-H26も作られました オーディオ用途として使う場合は 6/50B-H26のスペックを利用すれば良いと思います 25E5/PL36は大出力が得られる割に最大定格が小さいため アイドリング電流を絞ってB 級に近い動作で動かさなければなりません このような状況でも CSPPの場合は プッシュプル間の信号が並列合成であるため 片方の出力管がカットオフしても 能動状態にある他方の出力管が出力トランスの一次巻線をダンプし DEPP 特有のスイッチングトランジェントによる出力信号の歪の問題は発生しません

アンプ回路は三段構成とし 初段のJ-FETの差動回路とドライブ段の5814は直結としました CSPPは出力段の利得が2 未満しかありませんので ダブルエンドプッシュプル (DEPP) と比較して 高いドライブ電圧が必要なため その大きな振幅を得るために ドライブ段に出力段よりも高い電源電圧を掛けてみたり 出力段からドライブ段へのブートストラップ電源にしてみたりと工夫が必要です 今回はドライブ段の負荷にセンタータップ付のチョークコイル染谷電子 KL10-05を用いることで 特別な電源を必要とせず 出力段と同じ電源電圧で十分なドライブ電圧を得ることができました 以下に KL10-05 のインピーダンス特性と測定回路を示します

ドライブ段の負荷としてセンタータップ付のAFチョークを使うと 出力トランスを用いたDEPP 出力段の一次側と同様に考えることができます つまり センタータップを中心にプッシュプルの片側の振幅と同振幅で逆相の信号が他方に現れますので電源電圧を超えた振幅が得られるようになるわけです チョークコイルのインピーダンスは 上のグラフのように負荷オープンの場合は山型のカーブになり非常に高いですから 次段のグリッド抵抗との組み合わせで ドライブ段の負荷インピーダンスを決定します グリッド抵抗を下げるとインピーダンスが平坦になる帯域が広くなりますが あまり下げると適合するドライブ管の選択肢が少なくなります 下図は本機のドライブ段のロードラインです

KL10-05の直流抵抗は約 870Ω 2(at 20 ) ですので まずプレート供給電圧から870Ω のDCロードライン ( 青色 ) を引きます 次に動作点を決め 動作点からACロードライン ( 緑色 ) を引きます ACロードラインの傾きは KL10-05と次段のグリッド抵抗との合成インピーダンスとなります 本機では出力段のグリッド抵抗は47kΩ としましたので グラフより合成インピーダンスは42.5kΩ となります このようにドライブ段の負荷にチョークコイルを用いると大きな振幅が確保できますので CSPPアンプはもちろん DEPPでも大きなドライブ電圧が必要な 2A3や300B 6080 等の出力管を使う場合には非常に有効です このチョークコイルは 可聴帯域でできるだけ大きなインピーダンスが得られるようにコアギャップを設けていませんので DCバランスは必ず取るようにします 本機は初段とドライブ段が直結ですので 初段のJ-FETのソースにDCバランス用の半固定ボリュームを入れて調整します ドライブ段の両プレート間の電圧をテスター等で測定しながらDCバランスを調整します できるだけ電位差が小さくなるように調整します 出力段のバイアス調整は自動調整回路としました 回路原理は実に簡単で シンプルなコンパレータ回路です 差動入力の片側にバイアス基準電圧が入力され 他方は 10Ω の抵抗を電流センサーとしてカソード回路に挿入し この抵抗両端の電位差を入力します 本機の設定はアイドリング電流 ( 無信号時にカソードに流れる電流 ) が30mAですので 30mA 10Ω=0.3Vのバイアス基準電圧となります カソード電流が30mAを下回ったら 出力管のグリッド電圧を上昇させる方向に カソード電流が30mAより増えた場合は グリッド電圧を下げる方向にコンパレータ回路の出力が加わりますので 常にアイドリング電流が 30mAとなるように制御することができます バイアス基準電圧はLM317Lの基準電圧 1.25Vを抵抗分割で与えますので 本機の定数で約 5 7mAを上限として調整することができます 調整はいずれかの出力管のカソードに入っている10Ω の抵抗の両端をテスター等で測定しながら バイアス基準電圧を半固定ボリュームで0.3V(30mA) になるように調整します その後 他の3 本の出力管のアイドリング電流が30mAになっていることを確認します

下図が本機の電源部回路図です 本機ではトランスのデザインの統一化のために 電源トランスを出力トランスのASTR-08と同じ化粧ケースに入れてみました OPTと同じケースということで電源トランスとしては若干容量的に小さめになりますので 出力管にはヒーター電圧 25Vのトランスレス管選び 4 本直列にして AC100V にてヒーターを点火させることで 電源トランスの容量が小さくなるようにしています 150VA 前後の容量でしたら 出力トランスと同じケースに入れることができると思いますので ケース入りの電源トランスを希望される方は 染谷電子にお問い合わせください

測定データ 仕上がり状態の測定データです 測定は全て AC100V 60Hz で測定しています ダンピングファクタ Lch 17.37( 出力インピーダンス =0.4606Ω) (8Ω 負荷 1kHz 1V) Rch 17.98( 出力インピーダンス =0.4450Ω) 利得 (8Ω 負荷 1kHz) Lch 24.43dB(NFB=11.19dB) Rch 24.49dB(NFB=11.38dB) 残留ノイズ Lch 74.26μV(10~300KHz) (8Ω 負荷 VR 最小 ) 19.36μV(IEC-A) Rch 52.80μV(10~300KHz) 10.17μV(IEC-A) 測定結果をグラフにしたものを以下に列挙します

無帰還時のダンピングファクタ (DF) は左チャンネルが 4.17 右チャンネルが 4.27 でした

総括 トリファイラー巻きの出力トランスASTR-08の登場ということで 普通ならマッキントッシュタイプのCSPPアンプが作り難い テレビの水平偏向出力管を取り上げてみました 水平偏向管としては小型の球であるにも関わらず それほど球に負担を掛けない範囲の動作で最大出力 40W(THD10% 時 ) が得られました もちろんASTR -08をオーディオ出力管に対して適用することも何ら問題はありません 多極管のスクリーングリッド電圧をカソードに対して定電圧化すると音の輪郭がハッキリ聴こえるというメリットがあることが知られていますが それを実践している例はあまり存在しません それは 多極管はネイティブ動作では内部抵抗が高いため UL 接続にしたり ネイティブ動作であってもカソード帰還を掛けて使ったりという場合が多いため 厳密にスクリーングリッド電圧をカソードに対して定電圧化するということが容易ではないためです CSPP の場合は深いカソード帰還が掛かりますので 多極管のネイティブ動作でも十分に出力インピーダンス が低くなり 加えてトリファイラー目の巻き線をスクリーングリッドへの給電に用いることで カソードに対するスク リーングリッド電圧の定電圧化が比較的容易に達成可能ですから 音質的なメリットを享受することができます さて 本機のもう一つの特徴はドライブ段の負荷にチョークコイルを起用したことでしょう ドライブ段をチョーク負荷にしたのは CSPPの大きなドライブ電圧に対応する選択肢を広げるためなのですが 試してみますと この方法は音質的な利点もあるようで 実に躍動感にあふれる音がします チョーク負荷と抵抗負荷の音とを比較をしてみましたが どうやら間違いないようです この副次的な恩恵については 今後もう少し研究をしてみたいと思います このページに対するご意見 質問等は ARITO@ 伊吹南麓までお願いします メールアドレスは arito@maekawa.com です (@ は半角にしてください )