Japanese Journal of Nursing Art and Science Vol. 8, No. 3, pp 35 41,2009 原 著 足浴が生体に及ぼす生理学的効果 循環動態 自律神経活動による評価 Physiological Effects of Footbath on Cardiovascular and Autonomic Nervous Functions 1) 金子健太郎 Kentaro Kaneko 2) 熊谷英樹 Hideki Kumagai 尾形優 Yu Ogata 1) 3) 竹本由香里 Yukari Takemoto 2) 山本真千子 Machiko Yamamoto 若年健常男子 19 名 ( 平均年齢 21.3±3.4 歳 ) を対象に, 心拍数と血圧, 体表温 皮膚血流量, 心拍変動 (heart rate variability:hrv), 圧受容器反射感受性 (baro-reflex sensitivity:brs) を用い, 仰臥位による足浴の生理学的効果を検討した.HRV から低周波成分 (low frequency:lf) と高周波成分 (high frequency:hf) を算出し, 副交感神経活動指標を HF, 交感神経活動指標を LF/ HF とした. 足浴 ( 湯温 40,15 分 ) は安静仰臥位 15 分後に実施し, 足浴前から足浴後 30 分間 ( 足浴後 0 ~ 15 分 : 足浴後 1, 足浴後 15 ~ 30 分 : 足浴後 2) 連続して測定値の観察を行った. 足浴前と比べた結果を以下に示す. 心拍数は足浴後 1,2 で有意に減少した. 血圧は, 収縮期血圧, 拡張期血圧ともに足浴後 2 において有意に減少した.HF は足浴後 1,2 で有意に増加した.LF/HF は足浴中で有意に増加した.BRS は足浴後 1 で有意に増加した. 足部, 胸部体表温と足部皮膚血流量は, 足浴中から足浴後 1,2 にかけて有意に増加した状態を維持した. 足浴は全身循環に大きな負担をかけることなく, かつ末梢循環を促進, 維持させ, 自律神経活動に関しては, 足浴後に副交感神経活動を賦活化させ, 交感神経活動を抑制することが確認された. キーワード : 足浴, 循環動態, 自律神経活動 The purpose of this study was to investigate physiological effects of footbath (FB)on cardiovascular and autonomic nervous functions. These were evaluated by heart rate (HR), blood pressure (BP), skin temperature (T), skin blood flow (F), heart rate variability (HRV)and baro-reflex sensitivity (BRS), during and after FB in a supine position. Low frequency spectra (LF)and high frequency spectra (HF)were calculated from HRV, and the index of sympathetic nervous activity was LF/HF and parasympathetic nervous activity was HF. Nineteen healthy male students (mean age = 21.3±3.4 years)took FB (40 )after a rest in supine position. Time protocol of FB: 15 min rest 15 min FB 30 min rest (0-15 min after FB-1, 15-30 min after FB-2). The results are shown below. HR showed significant decrease after FB-1 and 2. Systolic and diastolic BP showed significant decrease after FB-2. HF showed significant increase after FB-1 and 2. LF/HF showed significant increase during FB. BRS showed significant increase after FB-1. Foot 受付日 :2009 年 2 月 16 日受理日 :2009 年 8 月 26 日 1) 山形大学医学部附属病院 Yamagata University Hospital 2) 茨城キリスト教大学看護学部 Ibaraki Christian University 3) 宮城大学看護学部 Miyagi University School of Nursing 連絡先 : 金子健太郎 990-2303 山形県山形市蔵王上野 545
36 日本看護技術学会誌 Vol. 8,No. 3 T, chest T and foot F showed significant increase during FB, and maintained the levels after FB-1 and 2. In conclusion, it was confirmed that FB activated peripheral circulation without over load against the cardiovascular system. Then, FB controlled autonomic nervous balance, and activated parasympathetic nervous activity. These might be cause the effects of relaxation and sleep induction. Key words:footbath, cardiovascular functions, autonomic nervous activity Ⅰ. はじめに足浴は, 看護援助のなかで清潔ケアとして行われているが, 清潔を保持するだけではなく, 循環促進やリラクセーション効果, 入眠効果もあるとされている ( 深井 前田 2006). また, 広く日常的に足湯として行われている. 足浴に関する先行研究では, 全身や末梢, 脳の循環動態の変化や皮膚温 皮膚血流量の変化, 脳波, 心拍変動解析, 免疫系, 主観的な効果などさまざまな観点から検討されている ( 邑田ら 2005; 新田 川端 1999; 佐伯 永井 2002; 清水ら 2001; 上馬場 許 2004; 植田ら 1998; 許 上馬場 2003; 楊箸ら 2000). 循環生理ならびに自律神経系の検討としては,38 ~ 42 の温度依存性による, 心拍出量や血圧の上昇, 自律神経活動の変化, 脳循環の促進 ( 上馬場 許 2004; 許 上馬場 2003), 足浴による下肢深部皮膚温の上昇 ( 植田ら 1998), 仰臥位足浴中の一時的な心臓副交感神経活動の抑制と心臓交感神経活動の亢進の発生後, 逆に心臓副交感神経活動の亢進と心臓交感神経活動の抑制の発生 ( 清水ら 2001) などがある. また主観的指標も含めた検討としては, 湯温 44 の足浴がもたらす覚醒効果 ( 邑田ら 2005), 自律神経系の指標のほかに POMS による主観的評価での, 足浴による 活気 尺度の上昇傾向, 疲労 尺度の減少傾向の示唆 ( 植田ら 1998), などがある. 足浴実践研究を網羅的に集めた文献検討 ( 吉永 吉本 2005) からは, 足浴条件として湯温の設定は 39 ~ 42, 足浴時間は 7 ~ 30 分, 体位に関しては座位や仰臥位などと, 実験研究によって条件だけでも大きな幅があり, 多様な結果を示していることが現状でわかっている. 以上のように, これまでの足浴に関する研究を概観してみると, それぞれ対象者や足浴条件などといった測定条件にはばらつきが多くみられ, また多様な結果となっており, 現状では足浴に関する研究 成果は必ずしも一定の方向性が示されているとは考えにくい状態である. 本研究の目的は, 看護技術である足浴が生体にもたらす生理学的効果について, 末梢循環を含む循環動態と自律神経活動から包括的に検討を行うこととした. Ⅱ. 対象対象者は, 健康診断にて異常が認められない若年健常男子 19 例 ( 平均年齢 21.3±3.4 歳 ) とした. すべての対象者には, 文書と口頭により, 本研究の主旨, 方法, プライバシーの保護などについての説明を行い, 同意を得た. また, 研究協力は自由であり, 実験途中でも中断できること, 断っても不利益を被らないことを保証した. なお被験者には, 以下のことを指示した. 実験前日は激しい身体活動, アルコール飲料摂取を避け, 十分に睡眠をとること. 実験当日は, 実験前にカフェインや煙草などの刺激物をとらずに, 食事に関しては実験 2 時間前までにすませること. 実験前, 実験室には激しい身体活動をせずに来室すること. 実験時の服装は, 研究者が準備した T シャツと半ズボンとすること. Ⅲ. 方法 1. 足浴足浴は, 図 1のプロトコールに示すように, ベッド上に仰臥位で安静を 15 分間保った後, 仰臥位のままベッド上で膝を立て足浴を 15 分間実施し, 再度仰臥位で安静を 30 分間保持した. 実験時間は, 計 60 分間とし, 実験中に外気の影響を受けないため終始タオルケットをかけることとした. 足浴は, 正確な生理学的効果を検討するために, 足浴時の湯温低下を防ぐた
日本看護技術学会誌 Vol. 8,No. 3 37 図 1 足浴のプロトコール めに恒温装置を用いた. プラスチック製のベイスンと恒温装置 (TAITEC 社製 CL-80R) を用い, 維持された 40 の湯に足首まで浸漬し, 両足底がベイスンの底に接地するようにした. 足浴は湯に足部を浸漬するのみとし, マッサージ等の刺激を与えずに行った. 足浴後は, タオルで足の水分を拭き取り, 両足に 1 枚ずつのバスタオルを使用し下腿を被覆した. 湯の温度と足浴時間の設定については, 先行研究 ( 上馬場 許 2004; 許 上馬場 2003) により, 足浴の湯温と時間, 快適度の関係に従い, 今回の研究では足浴の湯温を 40 とし, 足浴時間を 15 分間とした. 2. 生理学的指標の測定前述の対象者に対し, 心拍数, 血圧, 脈波を測定した. なお, 自律神経の日内変動を考慮したうえで, 測定は午前 9 時 ~ 午後 3 時の時間帯とし, 室温と湿度をほぼ一定にした環境のもと ( 室温平均 22.6±1.6 湿度平均 61.2±6.1%) で実験を施行した. 安静仰臥位でモニターシステム ( フクダ電子社製 DYNASCOPE DS-5300) を装着し, 心拍数と左上腕にて血圧を測定した. 右手首上腕橈骨動脈上にトノメトリー ( 日本コーリン社製 JENTOW 7700) を装着し, 脈波を測定した. 左下腿外側の湯面上約 5~7cm 上に一点と, 胸骨柄に一点, 体表温計 ( フクダ電子社製 DYNASCOPE DS-5300) とレーザードップラー血流計 (ADVANCE 社製 ALF21RD) を装着し, すべての準備が完了して, 心拍数, 血圧, 脈波, 各体表温, 各皮膚血流量が安定したところでプロトコールを開始した. 測定されたデータは,2 分半ごとに記録し, それぞれのパラメーターにおいて, 図 1に示すように, 各期の最も状態が安定している最終 5 分間の平均値を最終的なデータとして使用した. また, 測定開始後 10 ~ 15 分間を足浴前, 足浴開始後 10 ~ 15 分間を足浴中, 足浴後 10 ~ 15 分間を足浴後 1, 足浴後 25~30 分間を足浴後 2 とした. また, 各体表温と各皮膚血流量については, 測定開始の時点で被験者に個人差が存在するため, 実験での変化を増加量で表すこととし, 足浴前の値を 0.0 とし, 足浴中, 足浴後 1, 足浴後 2 のそれぞれの値を, 足浴前の値からの変化量で表した. 3. 自律神経指標の解析心拍変動スペクトル解析は, 連続的にモニターした心電図のアナログ信号と, トノメトリーによる脈波のアナログ信号を,AD 変換器 ( ネオローグ社製 PCN2198) を介してパーソナルコンピューター (NEC 社製 ) に転送し, サンプリング周波数 1,000 Hz で RR 間隔, 収縮期血圧を測定し保存した. この RR 間隔時系列を coarse graining spectral analysis: CGSA 法 (Yamamoto & Hughson 1991) を用いて, 調和振動成分のみを算出した.0 ~ 0.15 Hz の成分を low frequency(lf),0.15~ 0.5 Hz の成分を high frequency(hf) とし, 副交感神経活動の指標を HF, 交感神経活動の指標を LF/HF とした. 圧受容体感受性の baro-reflex sensitivity(brs) は Sequential 法 (Watkins et al. 1996) を用い RR 間隔変動と SBP 変動が 3 連続以上続けて上昇あるいは下降したところを選び, それらの直線関係の相関係数が 0.9 以上の関係を求め, それらの傾きの平均値を BRS(msec/mmHg) として算出した. 測定したデータを 5 分間ずつ解析し, それらの中から, 前述のプロトコールと同様に, 各期の最も状態が安定している最終 5 分間のものを, 最終的なデータとして使用した. 自律神経指標のいずれにおいても, 生理学的指標と同様に, 測定開始後 10 ~ 15 分間を足浴前, 足浴開始後 10 ~ 15 分間を足浴中, 足浴後 10 ~ 15 分間を足浴後 1, 足浴後 25 ~ 30 分間を足浴後 2 とした. 以上のようにして得られたデータは, 平均値 ± 標準偏差 ( 図中では, 平均値 ± 標準誤差 ) で表現し, 足浴前と足浴中, 足浴後 1, 足浴後 2 について比較検討した. 統計処理は,t 検定を用い, 危険率 5% 未満を有意とした. Ⅳ. 結果 1. 心拍数 (HR) 図 2に示すように, 足浴前では平均 68.0±6.1 bpm, 足浴中では平均 68.7±6.9bpm, 足浴後 1では平均 61.1±6.0 bpm, 足浴後 2 では平均 58.4±5.2 bpm であり, 足浴前と足浴中の間では有意差は認められなかったが, 足浴前に比べ, 足浴後 1, 足浴後 2 では有意に
38 日本看護技術学会誌 Vol. 8,No. 3 図 2 心拍数の変化 ( 単位 :bpm) 図 4 HF の変化 ( 単位 :msec 2 ) 図 3 血圧の変化 ( 単位 :mmhg) 図 5 LF/HF の変化 減少した (p < 0.01). 2. 血圧 (BP) 図 3に示すように, 収縮期血圧は, 足浴前では平均 111.2±6.2 mmhg, 足浴中では平均 111.3±7.4 mmhg, 足浴後 1 では平均 111.2±8.1 mmhg, 足浴後 2 では平均 108.7±8.0 mmhg であり, 足浴前に比べ, 足浴中, 足浴後 1 では有意差は認められなかったが, 足浴前と足浴後 2 の間は有意に減少した (p < 0.05). また, 図 3に示すように, 拡張期血圧は, 足浴前では平均 64.3±4.2 mmhg, 足浴中では平均 64.3± 5.3 mmhg, 足浴後 1 では平均 62.4±5.6 mmhg, 足浴後 2 では平均 60.6±4.8 mmhg であり, 足浴前に比べ, 足浴中, 足浴後 1 では有意差は認められなかったが, 足浴前と足浴後 2 の間は有意に減少した (p < 0.01). 3.HF LF/HF 図 4に示すように,HF は, 足浴前では平均 352.8 ±238.6 msec 2, 足浴中では平均 400.6±332.5 msec 2, 足浴後 1 では平均 662.3±508.0 msec 2, 足浴後 2 では平均 942.2±847.7 msec 2 であり, 足浴前と足浴中の間では有意差は認められなかったが, 足浴前に比べ, 足浴後 1, 足浴後 2 では有意に増加した (p < 0.01). 図 5に示すように,LF/HF は, 足浴前では平均 1.6 ±0.8, 足浴中では平均 2.1±1.3, 足浴後 1 では平均 1.3±0.7, 足浴後 2 では平均 1.6±1.3 であり, 足浴前と足浴中の間で有意に増加した (p < 0.01) が, 足浴前に比べ, 足浴後 1, 足浴後 2 では有意差は認められなかった. 4.BRS 図 6に示すように, 足浴前では平均 16.7±5.0 msec/ mmhg, 足浴中では平均 17.8±7.4 msec/mmhg, 足浴後 1 では平均 19.3±6.6 msec/mmhg, 足浴後 2 では平均 18.4±6.6 msec/mmhg であり, 足浴前に比べ, 足浴中, 足浴後 2 では有意差は認められなかったが, 足浴前と足浴後 1 の間で有意に増加した (p < 0.05).
日本看護技術学会誌 Vol. 8,No. 3 39 図 6 BRS の変化 (msec/mmhg) 図 8 血流量増加量の変化 (ml/min/100 g) 図 7 体表温増加量の変化 ( ) 5. 体表温増加量図 7に示すように, 足部体表温増加量は, 足浴前からの変化を増加量として示すと, 足浴中では平均 3.4 ±1.4, 足浴後 1 では平均 2.8±1.1, 足浴後 2 では平均 3.0±1.1 の増加があり, 足浴前に比べ, 各期いずれにおいても有意に増加した (p < 0.01). 図 7に示すように, 胸部体表温増加量は, 足浴前からの変化を増加量として示すと, 足浴中では平均 0.2 ±0.3, 足浴後 1 では平均 0.2±0.4, 足浴後 2 では平均 0.2±0.5 の増加があり, 足浴前に比べ, 各期いずれにおいても有意に増加した (p < 0.05). 6. 血流量増加量図 8に示すように, 足部血流量増加量は, 足浴前からの変化を増加量として示すと, 足浴中では平均 1.3 ±2.0 ml/min/100 g, 足浴後 1 では平均 2.1±1.7 ml/ min/100 g, 足浴後 2 では平均 2.6±2.2 ml/min/100 g の増加があり, 足浴前に比べ, 各期いずれにおいても有意に増加した (p < 0.01). 図 8に示すように, 胸部血流量増加量は, 足浴前からの変化を増加量として示すと, 足浴中では平均 0.8±1.7 ml/min/100 g, 足浴後 1 では平均 -0.2± 1.9 ml/min/100 g, 足浴後 2 では平均 -0.3±2.3 ml/ min/100 g の増加があり, 足浴前と足浴中の間は有意に増加した (p < 0.05) が, 足浴前に比べ, 足浴後 1, 足浴後 2 では有意差は認められなかった. Ⅴ. 考察本実験では, 男子学生を対象に, 恒温装置を使用した厳密な方法で足浴を実施し, 心拍数, 血圧, 体表温, 皮膚血流量を測定し, また, 自律神経活動の指標からも, 足浴の効果を検討した. その結果, 心拍数は足浴後に減少し, 血圧は足浴後にやや減少し, 足部体表温と胸部体表温, 足部血流量は足浴中から増加し,HF と BRS は足浴後に増加し, LF/HF は足浴中に増加, 足浴後は不変であり, 胸部血流量は不変であった. これらのことから, 足浴は全身循環に関して, 足浴中, 足浴後もきわめて安定した状態を保つことがわかった. 末梢循環に関して, 足部の体表温と血流量は足浴開始後から増加し, 足浴後も減少することなく, これを少なくとも本研究で測定した 30 分では維持した. また, 温熱刺激から遠位な部分である胸部においては, わずかな体表温の増加はみられたが, ほぼ不変であった. これらのことから, 足浴は加温している末梢に局所的に働いていることが考えられ, 足浴による温熱刺激によって足部は加温され, 足部の血管拡張を招き, 血流を増加させ, 末梢循環が促進され, かつその状態が 30 分以上維持されることがわかった. ただし, 足部
40 日本看護技術学会誌 Vol. 8,No. 3 の体表温と血流量の維持については, 下腿をバスタオルにより被覆することが, 体表からの熱の放散がバスタオルを温め, 体表とタオルの間において熱の対流と伝導を生じ, 足部の加温状態の維持に関係していたと考えられる. 循環調節を行っている自律神経系に関して, 足浴中は HF と BRS は不変であり,LF/HF は増加するが, 足浴後は HF と BRS が増加し,LF/HF は足浴前の値まで減少する. このことは, 足浴中は, 副交感神経系が大きく変動することなく, かつ交感神経系はわずかに活性化し, 足浴後には交感神経系は足浴前に復し, 副交感神経系は増加し,BRS の増加から自律神経系の調節能力も増加したといえる. 先行研究 ( 上馬場 許 2004; 許 上馬場 2003) の足浴の実験は, 本実験と方法論が異なり, 女性を対象とした 40 の湯温で 30 分間の足浴であり, 全身循環に関して心拍数と血圧, 末梢循環に関して手の皮膚温, 自律神経活動に関して HF と LF/HF について述べている. その結果, 心拍数は足浴開始後 25 分頃から有意に増加し, 収縮期血圧は不変である. また HF は足浴開始後 20 分以降から有意ではないが減少し, LF/HF は足浴開始後 15 分以降から有意に増加していた. 手の皮膚温は足浴開始後 15 分以降から有意に上昇していた. 交感神経系の賦活化が足浴開始後 15 分以降から増加しているが, その理由は測定が終始座位で行われた影響と推測される. しかし, われわれの実験では足浴中 15 分間の交感神経系は活性化しているものの, それは足浴中のみにみられた. その理由に関しては後述する. また, 足浴は温熱刺激を与えていない末梢の手にも変化をもたらすことが示されているが, われわれは温熱刺激が与えられた部位に近位の足部と遠位の胸部での体表温と血流量を測定しており, 足部の循環促進を示したが, 胸部は変化がなかった. 温熱刺激を与えていない胸部では変化がなく, 手では皮膚温の上昇が示されていることから, 足部の遠位である胸と手では, 足部の温熱刺激による自律神経反応が異なっていることが考えられる. 上馬場 許は, 足浴開始後 20 分以降からの HF の減少から, 足浴に関して快適度を考慮すると 40 の湯温であれば 15 分間がよいと述べていており, そのことから本実験では 40 の湯温で 15 分間の足浴といった方法を用いたが, 本実験の結果からもこの湯温と時間設定は妥当であったと考えられる. 足浴後に関しては, 上馬場 許のプロトコールから, 足浴後の測定は 10 分間のみであったため, 本実 験との比較はできないが, われわれは足浴後 30 分まで観察を続けた. その結果は,HF パワーの増加, BRS の増加, 全身循環の安定, 末梢循環促進と保温の維持が明らかにでき, 長時間にわたる足浴後の生体への効果を明らかにすることに貢献した. 一方の先行研究 ( 清水ら 2001) では, 女性を対象とし,40 で 10 分間の足浴を実施した後,60 分間の安静を設け, 足浴による心臓自律神経活動の変化を測定している. その結果によると, 心拍数は足浴中 0.5 分と足浴後 0.5 分では軽度の上昇がみられたが, 全体を通し有意な低下がみられ, 足浴後 28.5 分後に最も低下した.HF では, 全体を通し有意な低下がみられず, 足浴後から上昇傾向にあり, 最も上昇したのは足浴後 30.5 分であった.LF/HF では, 全体を通し有意な上昇がみられず, 最も低下したのは足浴後 6.5 分であった. この実験研究を概観すると, われわれのプロトコールと近似しており, かつ自律神経系に関しては, われわれの実験での結果と似ている点が多いが, 末梢循環のパラメーターに関しては, 測定されていないため比較することができない. 以上から,2 つの報告にみるごとく, 足浴に関して比較的同様な実験は行われているが, 今回われわれの行った全身循環, 末梢循環, 自律神経活動を指標とし, 足浴開始から足浴後までを包括的にみた研究はいまだ少ないため, 今回のわれわれの研究は, 足浴が生体へもたらす生理学的効果を明らかにした有意義な検討であったと考えられる. 足浴の入眠への効果について以下に論ずる. 睡眠への影響を調べた足浴実践研究を網羅的に分析した文献検討 ( 吉永 吉本 2005) では, 総合的な足浴効果として, 足浴は不眠の有無にかかわらず, 睡眠を促す効果のある可能性が考えられた, と述べており, また, 足浴が睡眠を促す効果の機序として, 足浴により皮膚血流量が増加すると, 深部体温と皮膚温の温度差が小さくなり, そのことで睡眠が起こりやすいと推定している. 本実験においては, 主観的なデータとして測定はしていないが, 足浴を実施した後に入眠する被験者が多くみられたことから, 実際に足浴は入眠効果があると考えられる. その根拠として, 本実験での足浴後の変化は, 副交感神経活動の指標である HF の増加, 自律神経系の調節能力を示す BRS の増加, 足部の皮膚温の上昇と血流量の増加, その維持といったものをあげることができる. 他の先行研究でも下腿皮膚温 皮膚血流量が足浴後に有意に上昇しており, 足浴の温熱刺
日本看護技術学会誌 Vol. 8,No. 3 41 激により皮膚血管が拡張していることが示され, 足浴が睡眠導入に効果的なケアであることを示唆している ( 竹本ら 2007). また, 夜間の入眠は,1 脳内物質であるメラトニンの分泌,2ベッドに入り横臥する,3 室内照明をおとす,4リラックスするなどを準備状態とし,circadian ペースメーカーとしての深部体温の低下とともに睡眠状態に入るとされている (Krauchi et al. 2000). そしてこれらの key factor としての役割は皮膚領域の末梢血管拡張が担っているという. この考えを支持するならば, 本実験での足浴では, まさに入眠への条件をつくり出したということが考えられ,40 の湯温で 15 分間の足浴は入眠に十分貢献できると考えられた. 足浴の実施中で, 交感神経活動の LF/HF が上昇したことに関しては,15 分間の足浴の間, 仰臥位で膝を立てていることが, 苦痛と感じていた可能性が考えられる. また, 実験中に膝を立てると足浴に用いたベイスンの縁に脚が当たり苦痛である, と訴えた被験者もいたことから, このことも LF/HF の上昇につながったと考えられた. 今後の課題として, 女性や高齢者, 有疾患患者を対象者とした検討, さらに主観的データについても科学的なスケールを用いた主観的効果の検討をしていく必要があると考えられた. また, 今回は正確な生理学的効果を検討するため恒温装置を用いたが, 通常臨床の場で行うような湯温の低下が発生する条件では, どのように本実験の結果が修飾されるかについても検討する必要があるかもしれない. 一方, 入眠効果については, 足浴を施行しない仰臥位維持のみでも, 副交感神経系が優位になり, 傾眠効果が得られるのではないか, といった疑問も否定できない. しかし, 本研究の準備実験で, 若干名の被験者に行った, 安静臥床中の足浴の有無による同パラメーターの比較では, 足浴を施行しない場合, 足浴を施行した場合と同様な生理学的効果は少なくとも確認できなかった. この点についても今後, 検討の継続が必要であると考えている. 足浴は, 全身循環に対し大きな負担をかけることなく, かつ末梢循環を促進, 維持させ, 自律神経活動に関しては, 足浴後に副交感神経活動を賦活化させ, 交感神経活動を抑制する, 明確な生理学的効果のある看 護技術であり, このことから, 足浴はリラクセーション効果や入眠効果に貢献する看護技術であることが明らかとなった. 本研究の要旨は, 日本看護技術学会第 7 回学術集会にて口演したものである. 文献深井喜代子, 前田ひとみ (2006): 基礎看護学テキスト EBN 志向の看護実践,227, 南江堂, 東京. Krauchi, K., Cajochen, C., Werth, E. et al.(2000):function link between distal vasodilation and sleep-onset latency?, Am. J. Physiol. Regul., 278, 741-748. 邑田真紀子, 三好樹里, 河本敦子, 他 (2005): 湯温 44 の足浴がもたらす覚醒効果, 第 36 回日本看護学会論文集 ( 看護総合 ), 97-99. 新田紀枝, 川端京子 (1999): 女子学生を対象にしたフットケアの生理学効果, 大阪府立看護大学紀要,5(1),41-46. 佐伯由香, 永井伸夫 (2002): 自律神経 免疫系に及ぼす足浴の効果, 日本看護研究学会雑誌,25(3),206. 清水祐子, 佐藤みつ子, 永澤悦伸, 他 (2001): 仰臥位足浴による心臓自律神経活動の変化 若年健康女性を対象に, 山梨医科大学紀要,18,31-34. 竹本由香里, 高橋方子, 佐々木裕子, 他 (2007): 座位による足浴がもたらす生理学効果について 自律神経活動と循環動態からの評価, 宮城大学看護学部紀要,10(1),37-45. 上馬場和夫, 許鳳浩 (2004): 足浴による温度依存性の生理 心理学的変化 脳波, 脳循環, 心拍変動, 快適度の変化について, 日本温泉気候物理医学会誌,67(2),119-129. 植田敬子, 松田たみ子, 三隅順子, 他 (1998): 足浴の生理的 心理的効果に関する研究 自律神経系および POMS による解析, 日本看護研究学会雑誌,21(3),115. Watkins, L.L., Grossman, P., & Sherwood, A.(1996): Noninvasive assessment of baroreflex control in borderline hypertension. Comparison with the phenylephrine method, Hypertension, 28, 238. 許鳳浩, 上馬場和夫 (2003): 足浴による温度依存性の循環系の変化 全身循環, 脳循環, 末梢循環の変化について, 日本温泉気候物理医学会誌,66(4),214-226. Yamamoto, Y. & Hughson, R.L.(1991): Coarse graining spectral analysis: New method for studying heart rate vaiability, Physiology, 71, 1143-1150. 楊箸隆哉, 西田礼子, 石川千津, 他 (2000): 足浴が及ぼす生理 心理的影響 (2) 心拍変動解析の結果から, 日本看護研究学会雑誌,23(3),398. 吉永亜子, 吉本照子 (2005): 睡眠を促す援助としての足浴についての文献検討, 日本看護技術学会誌,4(2),4-13.