p.p.2 # エンテロウイルス感染症 ( 特に 6 型 11 型 25 型 ) 顔面に皮疹をきたす 肝炎様徴候と血小板減少というのは合致しない # パルボウイルス B19 手足口病 顔面の皮疹はきたすが 今回の皮疹の出現パターンとは合致しない # 風疹 血球減少は一般的に見られる また 肝酵素上昇

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第 12 回こども急性疾患学公開講座 よくわかる突発性発疹症 その症状と対応 ~ 発熱受診患者解析結果を交えて ~ 神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野 長坂美和子

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

〒102―8232

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麻疹・風疹・手足口病なら新しい皮膚科学|皮膚病全般に関する最新情報を載せた皮膚科必携テキスト

報告は 523 人 (14. 5) で前週比 9 と減少した 例年同時期の定点あたり平均値 * (16. ) の約 9 割である 日南 (37. 3) 小林(26. 3) 保健所からの報告が多く 年齢別では 1 歳から 4 歳が全体 の約 4 割を占めた 発生状況 ( 宮崎県 ) 定

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

Microsoft Word - tebiki_51-60.doc

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蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

2016 年 4 月 7 日放送 第 67 回日本皮膚科学会西部支部学術大会 2 教育講演 1-2 EB ウイルス関連皮膚疾患 : 皮膚病変から見抜く病態と診断の進め方 岡山大学大学院皮膚科教授岩月啓氏 はじめに Epstein-Barr ウイルスは 略して EB ウイルスと呼ばれます ヒトヘルペス

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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

スライド 1

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

1-11. 三種混合ワクチンに含まれないのはどれか 1 破傷風 2 百日咳 3 腸チフス 4 ジフテリア 疾患と症状との組合せで誤っているのはどれか 1 猩紅熱 コプリック斑 2 破傷風 牙関緊急 3 細菌性赤痢 膿粘血便 4 ジフテリア 咽頭 喉頭偽膜 予防接種が有効なはど

院内感染対策マニュアル

1-11. 三種混合ワクチンに含まれないのはどれか 1. 破傷風 2. 百日咳 3. 腸チフス 4. ジフテリア 第 17 回按マ指 疾患と症状との組合せで誤っているのはどれか 1. 猩紅熱 - コプリック斑 2. 破傷風 - 牙関緊急 3. 細菌性赤痢 - 膿粘血便 4. ジフテリア

した つまり 従来から研究されてきた IgE/Fc RI を介した活性化経路は 肥満細胞活性化の一面に過ぎず むしろ生体防御の見地からすると 感染に対する防御こそ肥満細胞の機能の中心的な役割である可能性も出てきたのです この一連の研究は 肥満細胞は何もアレルギーを起こすために存在しているのではなく

症化することからハイリスクとされています VZV は細胞親和性が強く cell-to-cell にウイルスが感染するため ウイルス増殖の抑制には液性免疫よりも細胞性免疫が重要であります このため 特に細胞性免疫機能の低下した宿主においては極めて重篤となり 致死的な経過をたどることが少なくありません

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水痘(プラクティス)

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Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

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Microsoft Word - WIDR201839

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾


インフルエンザ(成人)

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サーバリックス の効果について 1 サーバリックス の接種対象者は 10 歳以上の女性です 2 サーバリックス は 臨床試験により 15~25 歳の女性に対する HPV 16 型と 18 型の感染や 前がん病変の発症を予防する効果が確認されています 10~15 歳の女児および

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今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

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Microsoft Word - 届出基準

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

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2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

ヒトヘルペスウイルス群 (human herpesviruses) n HHV-1: 単純ヘルペスウイルス (herpes simplex virus: HSV) 1 型 n HHV-2:HSV 2 型 n HHV-3: 水痘帯状疱疹ウイルス (varicella zoster virus: VZV

rubella190828

院内感染対策マニュアル

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

<4D F736F F D DC58F4994C5817A54524D5F8AB38ED28CFC88E396F B CF8945C8CF889CA92C789C1816A5F3294C52E646

輸血副作用の症状項目並びに診断項目表について

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

transient aplastic crisis(tac) 抗リン脂質抗体をはじめとする各種自己抗体の陽性化 低補体血症などの自己免疫疾患類似の病態を引き起こすことも知られています 他に神経症状や心筋障害も報告されており B19 感染症は実に多彩な臨床スペクトラムを有する疾患です 自験例も交えなが

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

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第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

Microsoft Word - 緊急風疹情報2019年第20週.docx

とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白

感染症情報22週(週報)

PowerPoint プレゼンテーション

院内感染対策マニュアル

案1 SIDMR

ロタウイルスワクチンは初回接種を1 価で始めた場合は 1 価の2 回接種 5 価で始めた場合は 5 価の3 回接種 となります 母子感染予防の場合のスケジュール案を示す 母子感染予防以外の目的で受ける場合は 4 週間の間隔をあけて2 回接種し 1 回目 の接種から20~24 週あけて3 回目を接種生

己炎症性疾患と言います 具体的な症例それでは狭義の自己炎症性疾患の具体的な症例を 2 つほどご紹介致しましょう 症例は 12 歳の女性ですが 発熱 右下腹部痛を主訴に受診されました 理学所見で右下腹部に圧痛があり 血液検査で CRP 及び白血球上昇をみとめ 急性虫垂炎と診断 外科手術を受けました し

2015 年 8 月 27 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 3 シンポジウム2 基調講演薬疹の最新動向と今後の展望 昭和大学皮膚科教授末木博彦 はじめに本日は薬疹の最新情報と今後の展望についてお話しさせていただきます 最初に薬疹の概念が変遷しボーダレス化が進んでいるというお話 続

48小児感染_一般演題リスト160909

なくて 脳以外の場所で起きている感染が 例えばサイトカインやケモカイン 酸化ストレスなどによって間接的に脳の障害を起こすもの これにはインフルエンザ脳症やH HV-6による脳症などが含まれます 三つ目には 例えば感染の後 自己免疫によって起きてくる 感染後の自己免疫性の脳症 脳炎がありますが これは

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<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り. 平成 3 年 2 月 5 日 ~ 3 月 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

2009年8月17日

神戸市感染症発生動向調査週報 1 年 月 11 日作成 全数把握対象感染症発生状況 ( 三類感染症細菌性赤痢 ) 女 5 代 - 1 年 月 5 日 1 年 月 日 sonnei(d 群 ) 分離 同定による病原体の検出 ( 便 ) なし 接触感染 第 13 週報告患者の家族 全数把握対象感染症発生

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

第 4 章感染患者への対策マニュアル ウイルス性肝炎の定義と届け出基準 1) 定義ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎 (B 型肝炎,C 型肝炎, その他のウイルス性肝炎 ) である. 慢性肝疾患, 無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない. したがって, 透析室では HBs

鹿児島県感染症発生動向調査事業 ( 内容に関するお問い合わせ : 健康増進課感染症保健係 ) 感染症のホームページアドレス 第 20 週の手足口病の定点当た

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

02別添:日本脳炎ワクチン接種に関するQ&A[H28.3月版]

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 第 50 週の報告数は 前週より 39 人減少して 132 人となり 定点当たりの報告数は 3.00 でした 地区別にみると 壱岐地区 上五島地区以外から報告があがっており 県南地区 (8.20) 佐世保地区 (4.67) 県央地区 (4.67) の定点当たり報告数は

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

あり 一人の感染者が周囲の免疫のないヒトに感染させる数である基本再生産数は 10 流行を抑制するための集団免疫率は 90% 以上です 水痘の潜伏期間は通常 14~16 日間です 水痘ワクチンの定期接種が行われている米国では 1 回定期接種を行っていた 1996 年から 2004 年までの間に 水痘患

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り 2. 平成 3 年 月 29 日 ~ 3 月 4 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

報告風しん

講演1 「アトピー性皮膚炎を理解するために」

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

「             」  説明および同意書

1

2表05-10.xls

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

Transcription:

p.p.1 NEJM 勉強会 2014 年度第 12 回 2014 年 10 月 3 日 C プリント担当 : 大岸誠人 Case 23-2014 A 41-Year-Old Man with Fevers, Rash, Pancytopenia, and Abnormal Liver Function (New England Journal of Medicine. 2014; 371:358-366. July 24, 2014.) 鑑別診断 # ドキシサイクリンによる薬剤性 投与後 2 日目という経過は早過ぎる ( 典型的には 1 週間 ) また 好酸球症もみられていない # レジオネラ肺炎 上気道症状後に肺野浸潤影と肝酵素上昇がみられる点は合致するが 呼吸器症状が軽すぎる # マイコプラズマ肺炎 皮疹が出ることはあり得るが 通常は多形性紅斑 # バベシア症 1~3 週間の潜伏期間 発熱 悪寒 肝酵素上昇 血小板減少 溶血性貧血が特徴的だが 皮疹は出ないとされる 健常者では無症候性であることが多い 末梢血スメアではバベシアは見られなかった # アナプラズマ症 5~21 日の潜伏期間 発熱 全身倦怠感 頭痛 頸部リンパ節腫脹 肝酵素上昇 血球減少が合致する 肺浸潤影も報告されている しかし皮疹は とくに顔には出ないとされている # 地中海斑点熱 地中海に面するヨーロッパの諸国でみられるリケッチア感染症の一つ 5~20 日の潜伏期間で インフルエンザ様症状に加えて皮疹が出現する ただし この皮疹は顔面に出ない代わりに手掌足底に出ることが特徴である また 肺野浸潤影が存在することも非典型的といえる # STD 現在の妻との一夫一妻であるという申告が真実であるとすれば STD は否定的 # 急性 HIV 感染症 発熱 皮疹 咽頭炎 リンパ節腫脹 血小板減少 肝酵素上昇がみられるが 皮疹は通常 顔面には出ない また リンパ節腫脹も全身性にみられることが多い 今回 HIV RNA は陰性だった # 2 期梅毒 発疹は手掌と足底に出ることが特徴的 # 伝染性単核症 発熱 咽頭炎 頸部リンパ節腫脹 血小板減少 肝酵素上昇をきたす また 異型リンパ球も認められる しかし発疹は稀である 発疹が見られる場合 多くはペニシリン系抗菌薬と関連しており 顔面には出ない また 肺浸潤影も珍しい

p.p.2 # エンテロウイルス感染症 ( 特に 6 型 11 型 25 型 ) 顔面に皮疹をきたす 肝炎様徴候と血小板減少というのは合致しない # パルボウイルス B19 手足口病 顔面の皮疹はきたすが 今回の皮疹の出現パターンとは合致しない # 風疹 血球減少は一般的に見られる また 肝酵素上昇も過去に報告がある しかし血小板減少と肺野浸潤影は非典型的といえる # 麻疹 麻疹様発疹 morbilliform rash の名で知られる特徴的な発疹パターンを示す 発疹は顔面から出現し 体幹部 四肢の順に広がっていく 手掌と足底は保存されるのも特徴である 典型的な経過としては 5~10 日の潜伏期間 発熱 全身倦怠感 上気道症状 結膜炎症状 コプリック斑 リンパ節腫脹 汎血球減少 肝酵素上昇がある 肺炎は一般的な合併症の一つである 発疹出現から 48 時間以内に回復期に移行するのも典型的といえる 不完全な麻疹免疫を有する患者では 修飾麻疹と呼ばれる日典型的な経過を取ることが多い 上気道症状 コプリック斑はみられないことが多い 本症例では 小児期に一回だけ受けた弱毒生ワクチンにより 不完全ながら麻疹に対する免疫を獲得していたことが 上気道症状と結膜炎徴候を欠いた非典型的な表出につながった可能性がある 臨床診断 修飾麻疹 診断的検査 血清学的検査 : 陽性 : 麻疹 IgM 麻疹 IgG 風疹 IgG 麻疹 PCR( 咽頭スワブ ) 陰性 : ライム病 バベシア症 マラリア リケッチア エールリヒア アナプラズマ ツラレミア チフス CMV マイコプラズマ 肝炎ウイルス EBV レジオネラ 確定診断 修飾麻疹

p.p.3 麻疹の臨床経過 0) 潜伏期 :(8~12 日間 ) ⅰ) カタル期 :(2~4 日間 ) 38~39 の発熱 倦怠感 上気道炎症状 結膜炎症状 ( 乳幼児では下痢 腹痛等の腹部症状を伴うことが多い ) コプリック斑 : 頬粘膜に出現する やや隆起し紅暈に囲まれた約 1mm 径の白色小斑点 o コプリック斑は麻疹に特異的 ( 麻疹では 80~90% で見られるのに対し 風疹ではみられない ) o 発疹出現の 2 日前頃に出現し 発疹出現後 2 日以内に急速に消退する o 修飾麻疹 異型麻疹ではみられない! 口腔粘膜発赤口蓋部粘膜疹 : しばしば溢血斑を伴う ⅱ) 発疹期 :(3~5 日間 ) カタル期の発熱が一旦下降 (1 程度 ) したあと 半日くらい後から再び高熱 ( 多くは 39.5 以上 ) が持続する ( 二峰性発熱 ) 上気道炎症状 結膜炎症状等のいわゆるカタル症状も再び強くなる発疹 o 耳介後部 頚部 前額部より出現 o 翌日には顔面 体幹部 上腕に広がる ( 顔面の発疹は診断的価値が高い ) o 2 日後には四肢末端にまでおよぶ o ウイルス曝露から発疹出現まではおよそ2 週間 o 発疹の性状変化 当初は鮮紅色扁平 まもなく皮膚面より隆起し 不整形の斑状丘疹となる 指圧により退色することも特徴の一つ 次第に融合していき 次いで暗赤色となり 出現したときと同じ順序で退色していく最も感染性の強い時期 o 発疹出現から5 日間は隔離される ⅲ) 回復期 : 解熱し カタル症状も軽快していく発疹は退色し 落屑様に変化していく色素沈着がしばらく残存する

p.p.4 発疹退色後は感染性はなくなる o 学校保健法では 解熱後 3 日まで出席停止 3) 麻疹の合併症 麻疹合併症の頻度はおよそ 30% 5 歳以下あるいは 20 歳以上で多い o 肺炎 (6%): 麻疹の死因の筆頭 o 脳炎 (0.1%): 肺炎と並んで麻疹による 2 大死因といわれており 要注意 o 腸炎 (8%) o 中耳炎 (7%) o クループ症候群 : 麻疹ウイルスと細菌の二次感染による喉頭炎および喉頭気管支炎 ⅰ) 肺炎 : 細菌性肺炎 : 細菌の二次感染によるウイルス性肺炎巨細胞性肺炎 : 成人の一部あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎である 肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので 予後不良であり 死亡例も多い 発疹は出現しないことが多い 本症では麻疹抗体は産生されず長期間にわたってウイルスが排泄される 発症は急性または亜急性である 胸部レントゲン像では 肺門部から末梢へ広がる線状陰影がみられる ⅱ) 脳炎 : 1000 例に 1 例 ( 約 0.1%) 麻疹の重症度に関係なく 発疹出現後 2~6 日頃に発症することが多い 半数以上は完全に回復するが 精神運動発達遅滞や麻痺などの後遺症を残す場合がある 10~15% は死亡するといわれている 特異的治療法はない ⅲ) 亜急性硬化性全脳炎 (SSPE): 100 万例に 5~10 例麻疹罹患後平均 7~10 年で発症知能障害や運動障害が徐々に進行し ミオクロニーなどの錐体 錐体外路症状を示す発症から平均 6~9 か月で死の転帰をとる進行性の予後不良疾患麻疹ウイルスの中枢神経系細胞における持続感染により生じるが 本態は不明 o ウイルスの一部の蛋白の発現に欠損が認められる欠損ウイルスとして存在し続けると言われている 4) 非典型的な経過をとる麻疹 ⅰ) 修飾麻疹 (Modified measles): 麻疹に対して不完全な免疫を持つ場合 軽症で非典型的な麻疹を発症することがある通常合併症はなく 経過も短いことから 風疹と誤診されることもある

p.p.5 潜伏期は 14~20 日に延長カタル期症状は軽度か欠落 o コプリック斑も出現しないことが多い発疹は急速に出現するが 融合はしない 母体由来の移行抗体が残存している乳児ヒトγ-グロブリン投与後 Secondary vaccine failure : 麻疹ワクチン接種者がその後麻疹ウイルスに暴露せず ブースター効果が得られないままに体内での麻疹抗体価が減衰したあとで麻疹に暴露した場合 ⅱ) 異型麻疹 (Atypical measles) 不活化ワクチン接種 2~4 年後に自然麻疹に罹患した際にこの病態 ( 異型麻疹 ) がみられることがあった o 現在は用いられていないカタル期 :4~7 日続く 39~40 台の発熱 肺炎 肺浸潤と胸水貯溜 o コプリック斑を認めることは少ない発疹期 : 発熱 2~3 日後に出現する特徴的な非定形発疹 ( 蕁麻疹様 斑丘疹 紫斑 小水疱など 四肢に好発し ときに四肢末端に浮腫をみる ) 回復期 : 全身症状は 1 週間くらいのうちに好転し 発疹は 1~3 週で消退する 回復期の麻疹抗体価は通常の麻疹に比して著明高値 発症機序 : ホルマリンで不活化された麻疹ワクチンが細胞から細胞への感染を予防する F(fusion) 蛋白に対する抗体を誘導できなかったこと あるいは不活化ワクチン由来のアレルギーと推定されている