基盤的認知能力の障害 < 意識の障害 > 個体が外から入ってくる刺激や内部から上がってくる刺激に気づく能力 睡眠 / 覚醒 覚醒の明るさ / 広がり / 深さ < 注意の障害 > 意識内容 ( 気づきの対象 ) を鮮明にする働き選択性 / 持続性 / 転導性 / 分配性 / 感受性 < 記憶の障害

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誠愛リハビリテーション病院研修会 2011.8.6-7 高次脳機能障害の理解と実践的介入 日常生活の背景としての高次脳機能障害 誠愛リハビリテーション病院渕雅子 Introduction 1. 高次脳機能障害に対する最近の動向 高次脳機能障害支援モデル事業(H13~) 起算日/ 早期リハビリテーション加算 算定日数制限/ 除外規定高次脳機能障害支援普及事業 (H18) 医師が効果があると判断したら(H20) 神経科学の発展 2. 高次脳機能障害とは 学問的背景: 神経心理学と認知心理学 社会体制との関連 ~ 行政用語 ~ 高次脳機能の障害の本質を探る 診断としての理解と介入のための解釈 3. 急性期 / 回復期 / 維持期 ( 生活期 ) 4. 日常生活活動を支える高次脳機能障害 高次脳機能障害とは 支援モデル事業より 1. 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病発症の事実が確認されている 2. 日常生活または社会生活に制約があり その主たる原因が記憶障害 注意障害 遂行機能障害 社会的行動障害などの認知障害である 平成 13 年度開始された高次脳機能障害支援モデル事業における脳損傷者のデーター分析の結果 記憶障害 注意障害 遂行機能障害 社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として 日常生活及び社会生活への適応に困難を有する一群の存在この一群が示す認知障害を 高次脳機能障害 有する人を 高次脳機能障害者 と呼ぶ 高次脳機能障害 とは 大脳皮質損傷に基づく巣症状 - 失行 失認 失語 認知障害 cognitivedysfunction 認知障害 -いわゆる感覚系を主体とした認知の障害ばかりでなく 行動や社会的相互作用に至る能動的な機能の障害までも含み 巣症状よりかなり広いもの 日常生活を送るために必要な記憶 見当識 注意 言語 記憶 思考 判断 脳血管障害 外傷性脳損傷 気質性精神障害 中島八十一 高次脳機能障害の概念 広い概念 : 脳の比較的高位に位置する領域の損傷によって生じる行動および認知機能の障害 狭い概念 : 最近わが国は特定の疾患 特定の症候群を示す概念とし 定められた診断基準を満たす患者群に使用される診断名 山鳥 山鳥

基盤的認知能力の障害 < 意識の障害 > 個体が外から入ってくる刺激や内部から上がってくる刺激に気づく能力 睡眠 / 覚醒 覚醒の明るさ / 広がり / 深さ < 注意の障害 > 意識内容 ( 気づきの対象 ) を鮮明にする働き選択性 / 持続性 / 転導性 / 分配性 / 感受性 < 記憶の障害 > 登録 / 把持 / 再生 1 陳述記憶 ( イメージ化できる記憶 ) 概念の記憶 ( 意味記憶 )/ 出来事の記憶 ( エピソード記憶 ) 2 手続き記憶 ( イメージ化できない記憶 ) < 感情の障害 > 日常生活 出来事記憶 手続き記憶 意味記憶 個別的行動 認知能力の障害 < 知覚性認知能力の障害 > 求心性神経の大脳へ伝えられる感覚情報の処理障害によって生じる知覚性対象認知障害 - 視覚 / 聴覚 / 体性感覚 < 空間性能力の障害 > 空間認知能力 / 空間内行動能力 視覚 : 空間性注意 / 定位した対象に手を伸ばし到達する / 視覚的注意を空間的に変えていく / 複数個の対象を同時に認知する / 対象の立体視 視覚 / 聴覚 / 体性感覚 < 行為能力の障害 > 行動 : 環境に対する個体の全体的な動き行為 : 特定目的遂行のための道具あるいは身体部位の操作能力運動 : 関節の屈伸など肢位の空間移動 < 言語能力の障害 > 理解 / 発話 / 復唱 / 想起 ( 呼称 / 喚語 ) 統合的認知能力の障害 < 左右半球の情報統合の障害 > 大脳半球離断左右手の能力解離 / 左右視野の能力解離各半球の統合能力左半球 : 言語機能などのシンボル処理 - 意識化される右半球 : 空間的 枠組み的 - 意識化されにくい < 前頭前野の統合的認知能力の障害 > まとまりのある認知能力を生成する情緒反応 / 人格 / 意思 判断 / 複雑な注意 記憶 認知 行動 / 遂行機能 統合的認知能力 運動の計画と実行 感情注意記憶意識 感覚情報の知覚 認知 身体の運動表出 Fuchi 2009 失認症の分類 視空間失認 - 半側無視 地誌的失認視空間における位置 空間関係の障害視覚失認 - 物体失認 色彩失認 相貌失認聴覚失認 - 聞いた音が何の音かわからない触覚失認 - 触ったものが何であるかわからない身体失認 - 身体図式の障害 左右失認 手指失認同時失認 - 全体をまとまりとして理解する 視空間失認 視覚失認 身体失認 触覚失認 聴覚失認 失認の神経機構 1. バリント症候群 2. 半側視空間無視 3. 地誌的障害 1 街並失認 2 道順障害 4. 視覚性定位障害 1 精神性注視麻痺 2 視覚失調 3 視覚性注意障害

1. バリント症候群 1 精神性注視麻痺 自由な条件下では眼球運動に支障が無いのに 指示による命令下では視線を移動できない 頭頂間溝の小領域 2 視覚失調 捉えた空間の視覚対象を的確に把握することができない 3 視覚性注意障害 同時に 2 つ以上の刺激を提示しても同時に知覚できず 1 つのものしか認識できない 視覚にみる頭頂葉機能領域 神経心理学人の脳損傷による臨床症状の研究 サルの頭頂間溝 (IPS) 領域は解剖学的 電気生理学的 研究から いくつかの小領域に区分されている MT(V5): 運動視 オプティカルフロー : 視覚 MST(V5A): 接近 離反 回転 縮小 拡散 : 視覚 V6/PO: 空間位置 ( 網膜上 ): 視覚 V6A: 空間位置 ( 絶対位置 ): 腕到達把握運動 : 視覚と体性感覚 CIP: 奥行き知覚 立体視 : 視覚 LIP: 注視 追跡 : 前頭前野と強い繊維連絡 : 視覚 AIP: 操作運動の視覚的コントロール 手操作 : 視覚と運動 MIP: 到達運動 : 体性感覚と運動 VIP: 自己近接空間 : 視覚と体性感覚の統合 神経生理学 神経細胞と神経線維神経回路網機能局在階層性情報処理過程 動物実験から脳の機能を解明する 連合野の障害 頭頂連合野側頭連合野前頭連合野 運動前野 前頭前野 情報処理過程 視覚の 2 つの経路 視覚関連領野

視覚の階層構造 体性感覚の階層構造 記憶との照合 行動行動の選択と組み立て 遂行機能障害 注意機構 状況の判断 認知 何であるかわかる 失認 注意機構 記憶との照合 記憶との照合 動作 注意機構 感覚 視覚 聴覚 失行 体性感覚 味覚 運動 Fuchi 2006.12 嗅覚 高次脳機能障害に対する評価 障害の輪郭と背景 情報収集 医学的情報 一般情報 評価の概要 対象者 高次脳機能障害を有しているであろう人 障害の内面当事者の主観的情報 面接 対象者の自己への主観 家族等の障害への主観 対象者 家族の希望や要望 検査 スクリーニングテスト 掘り下げテスト ( 的を絞って ) 標準化テスト 障害の内面客観的情報 渕雅子医学書院作業療法全書第 3 版 観察 自然状況下で 日常生活 / 活動 環境とのインタラクション 障害の内面と輪郭のすり合わせ主観的 客観的情報のすり合わせ Fuchi 2009 作業療法評価とは 患者が何に困っているのかの把握 困難と困惑の原因を探るために観察検査手順を整え検査の実行 トップダウン ボアトムアップ 1. 患者 介護者へのインタビュー 2. 日常生活の観察 3. 検査 : 手順を考える 困難を理解できたら終了 失われたものと残存しているものを見極める 4. 評価の総括 : 解釈ー妥当性は介入によって決定される鎌倉 高次脳機能障害の評価の概要 1. 基本情報や面談から患者の状況を把握する 2. 一次検査 ( スクリーニングテスト ) を行なう 観察自発的な行動や指示に対する反応を見る 簡易テスト ADL APDL 評価どのように行なっているか 3. 高次脳機能障害の有無 大枠をつかみ報告する 4. 必要に応じて二次検査を行ない 問題点を明らかにする

半側空間無視とは 評価図 マエストロ 外的空間の左半側を無視する傾向を 左半側空間失認 とし 大きな右頭頂後頭葉病変で起こる (BrainWR,1941 ) 大脳半球病巣の反対側に提示された新しい または意味のある刺激を報告したり 反応したり またそちらを向くことができない症状で 感覚障害や運動障害にはよらないものである (HeilmanKM etal,1985203) 渕雅子医歯薬出版マエストロシリーズ 3 作業療法士が行う評価 渕雅子医学書院作業療法全書第 3 版 観察 姿勢 ( 身体アライメント ) 眼球運動頭部の動き リーチ動作 机上検査 抹消課題 模写課題 自発画課題 線分二等分課題 読み書き ぬりえ 迷路課題 視覚始動性反応時間 * 標準化テスト - 標準高次視知覚検査 (VPTA) 行動性無視検査 (BIT) ADL APDL(IADL) a b 視覚運動の座位姿勢への影響 a: 端座位では右手で支えやっと座っている状態で視線が右に引きつけられている b: 車いす上では右側の視覚刺激積極的に探索し 体が大きく回転している 半側空間無視ってどうして起こるの? 注意障害説 : 注意覚醒障害, 注意不均衡説方向性注意と全般性注意の障害 感覚障害説 : 体性感覚障害 視野障害 運動障害説 : 一側空間方向性運動低下 眼球運動障害 視覚性記憶障害説 : 表象説 : イメージ ( 心像 ) 上の空間 半側空間無視ということば Unilateralneglect または hemi-neglect ( 一側性無視 ) ( 片側無視 ) 半側 : 常に半分ではない 各種感覚系 : 視覚 聴覚 体性感覚 嗅覚 表象 空間 : 左空間右空間自己中心空間 ( 目 頭部 体幹 ) 物体中心空間作業域中心空間個人空間 ( 身体空間 )/ 周辺空間 / 外空間

無視症候群 無視症候群の構成要素 1 片側不注意 2 片側空間 ( 視覚性 ) 無視 3 消去現象 4 片側無動 ( 運動無視 ) 5 感覚の体側逆転 主要な関連症状 6 病態失認 7 注視麻痺 8 視野欠損 半側空間無視とADL 障害空間性注意空間認知自己身体と外環境感覚間連合 : 異なる感覚の統合 鎌倉矩子 : 高次脳機能障害の作業療法 pp150 視覚の 2 つの経路 頭頂葉の機能 空間情報処理空間的注意 空間における位置の認識空間での操作 視覚 体性感覚 聴覚 視覚の階層構造 日常生活上の問題点 食べ残し 剃り残し

更衣動作 1 ヵ月後 初期時 マットや枕と正しい位置関係が取れない 半側空間無視の患者は.. 麻痺側下肢が十分通っていないのに立とうとしている 眼球 頭部 体幹が右へ偏位している 左側のものに気づかない 左から近寄っても気づかない 左からの声掛けに気づかない 右に振り向く 左側の食事を食べ残したりひげをそり残す 左側の文章を読めない 左側のもの 人にぶつかる ( 車いす 歩行移動中 ) 自分の左側の身体を忘れて動く 左に曲がれない 左側の人 ナースステーションを通り過ぎる 生活障害を改善するために 治療的介入 ( 各種感覚情報の調整 ) 無視空間に注意を向ける 見ることの促し探索能力を拡大する無視空間に運動を起こすことの促しアウェアネスの促し ( 患者自身が気づく ) 生活障害への直接介入動作を繰り返す ( スムーズに行える 自信が持てるよう ) 誤りを減らす動作手続きの工夫 : 動作工程の減少環境の調整 : 物的 : 妨害刺激を減らす ( 視覚 聴覚等 ) 動作が誘導される構造化手がかり刺激人的 : 声掛け 誘導 / 気づき 生活障害を改善するために 患者自身の能力の拡大課題の繰り返し正しい動作の繰り返し トライ & エラー / エラーレスラーニング感覚刺激の導入 : 加重効果 代替感覚の利用 環境による調整対象となる刺激量 刺激密度の段階づけ手がかり刺激の活用動作が誘導される構造化 ( 気づきやすくする ) 代償的 代替的方法の取得誤りを減らす動作手続きの工夫 : 動作工程の減少 単純化 他者の援助見守り 声掛け 代行

半側無視改善のアプローチによる比較 アプローチ方法 : Ⅰ) 患側からの視覚と体性感覚の入力と連合 Ⅱ) 健側強化訓練 Ⅲ) 認知課題の施行 方法 : 各アプローチを 1 日 40 分 1 週間ずつ Ⅰ-Ⅱ-Ⅲ-Ⅰ の順に行う 効果判定 : 机上テスト ( キャンセレーションテスト 迷路課題 ) 視覚始動性反応時間 各アプローチ期間の前後と 1 回のアプローチの前後で比較作業療法第 10 巻第 3 号 1991 a 視覚運動の立位バランスへの影響 a: 視線 顔は右を向き 立位姿勢も右に傾斜して支えないと立位が保てない b: 右についたてを設置すると視線や頭部は 左側を向き 立位姿勢も正中位となり 結果支えなしで立位保持が可能となる b 図 6 a b a バスタオルたたみ / 正中空間から手の操作の繰り返しにより より右空間へと偏倚していく b バスタオルをたたむ活動 a: 体の中心ではタオルを正しく把握し構成できない b: 右側空間ではタオルを広げてたたもうとしている 言語指示による半側視空間無視の変化 a: 何個ありますか? に対し 3つ目まで数え 3 個 と答える b: もうないですか? に対し 5 個 と答える b: 8 個ありますよ というと左端まで視覚探索し指さしができた c 身体失認 a b c 空間記憶による左側への探索の誘導 a: 体の中心にあるお盆内では左のご飯茶わんに全く気付かず食べ残している b: お盆を一度右側に移動させお盆全体を認識させる c: その後お盆を最初の位置 ( 体の中心位置 ) に戻しても ご飯茶わんが左側にあるという記憶から 左へスプーンを運ぶ動作が見られた 1. 両側性 身体部位失認 手指失認 左右障害 ゲルストマン 2. 一側性 半側身体失認 半身幻覚および半身妄想

マットや枕と正しい位置関係が取れない 脳内の 3 つの身体再現 着衣の問題 麻痺側下肢が十分通っていないのに立とうとしている 半側身体失認の臨床像 1. ボディーシェーマ前頭ー頭頂連合野連関 様々な感覚入力を利用して脳内に体部位の動的な再現がなされている 運動系との関連が大きい評価が難しい 2. 体部位構造記述左側頭葉 主として視覚刺激による体部位の脳内再現 身体部位を言えない身体部位失認 3. ボディーイメージ左側頭葉 体部位の名前 機能などの語彙 意味の脳内再現 日本大学泰羅雅登先生 自己認識と身体像 自己意識 - 意識の対象が自己である 意識するとき五感のすべてが関わる物理的な存在としての自分 自分の身体を意識すること 体性感覚刺激による人物画の変化 (1) 身体図式 身体像の成立姿勢 関節位置の認知 ( 筋紡錘が主役 ) 姿勢の原モデルー姿勢の変化が無意識に計算 身体の空間的位置関係と自己を中心とした空間の認識 体性感覚刺激による人物画の変化 (2) 頭頂葉の機能 中心後回 ( 一次体性感覚野 ) 領域 3a 深部 筋鈁錘受容器 3b 皮膚受容器領域 1 皮膚の速順応性 2 深部 圧受容器 受容野大 上頭頂小葉領域 5 体性感覚連合野領域 7 体性感覚と視覚 聴覚 前庭覚の連合野下頭頂小葉領域 40( 縁上回 ) 頭頂連合野領域 39( 角回 ) 頭頂連合野 空間認知

失行症 失行とは 学習された意図的行為を遂行する能力の障害であり 中枢神経系の損傷によって生じ る (RothiLJG.Heilman:Apraxia:1997) 基本的には右利き者では左半球損傷で起こり 程度の差はあるものの左右の上肢に症状が出現する 石合純夫 : 高次脳神経障害,2007 失行症とは熟練した目的運動の障害で 無力 akinesia 筋緊張 姿勢の異常 失調症 dyskinesia のような運動障害 理解や協力の欠如によっては説明されないものを言う (Maher,Rothi,2001) 種村純 種村留美 : 失行症よくわかる失語症と高次脳機能障害より 失行に含まない行為の障害 動作を行う筋群の麻痺, 失調, 不随意運動などの運動障害 失語による理解障害 視覚失認や触覚失認による対象の認知障害, 重度の半側空間無視やバリント症候群のような視空間性障害 認知症, 全般的注意障害 動作を正しく遂行するための感覚フィードバックの障害 行為能力の障害 行動 : 環境に対する個体の全体的な動き 行為 : 特定目的遂行のための道具あるいは身体部位の操作能力失行 / 前頭葉性行為障害 運動 : 関節の屈伸など肢位の空間移動 山鳥重医歯薬出版マエストロシリーズ 1 失行症の分類 肢節運動失行観念運動失行観念失行口腔顔面失行構成失行着衣失行歩行失行脳粱性失行 肢節運動失行と巧緻性 観念運動失行における言語 - 運動, 視覚 - 運動 観念失行と物品の使用単一物品と複数物品系列動作と順序性道具と対象手続き記憶 標準高次動作性検査

失行分類 肢節運動失行運動障害では説明できない 拙劣さを中核とした行為障害で 習熟した運動がぎこちなくなる 観念運動失行動作の時間的 空間的体制化に関する困難である (Maher,Rothi,2001) 道具や対象なしでのパントマイムや模倣での目的動作ができなくなる 観念失行使用すべき道具の認知は保たれており 運動遂行能力にも問題がないのに道具の操作に失敗する状態 使用のまずさ ( 拙劣さ ) によるものではない 使用失行 ( 山鳥 ) 肢節運動失行 拙劣さ 視覚制御 シェイピング プレシェイピング 体性感覚制御 触覚認知 触覚記憶 イメージの想起 シェイピング feedback 高次運動野 リズム 交互性触覚記憶 第 1 次運動野 スピード 力のコントロール 頭頂間溝の小領域と失行との関連 Bimodal ニューロン Bimodal ニューロン 身体イメージ ( 身体像 ) のコード化

大脳基底核の多種感覚ニューロン 到達範囲 リーチをコード化する 運動の身体図式 道具の身体図式 拡張する身体 入来先生 : 道具を使うサルー頭頂葉 Pea 野道具を使っているとその道具は身体の一部になる 身につけた洋服や帽子ーしばらくすると身体に一体化する自己身体のイメージは決して固定化しておらずダイナミックに変化する 入来篤史神経研修の進歩 2004 前頭葉性行為障害 強制把握高次運動野の障害 運動保続 模倣行為 鏡像動作 他人の手徴候 道具の強迫的使用 拮抗失行 動作の開始と維持困難 遂行機能障害 executive function Lezak(1982,1985) 目的をもった一連の活動を有効に成し遂げるために必要な機能 1 目標の設定 2 プランニング 3 計画の実行 4 効果的な行動 前頭連合野の機能 日々の活動に不可欠な働き計画 判断 意思決定 予期 予測 外界のモニターリング 必要な情報へ注意を向ける必要な情報の入力関連する情報の長期記憶からの取り込み 情報の操作や統合必要な情報の出力不必要な出力の抑制 高次認知機能実行機能 (executive functions) ある特定の目的を柔軟に達成するために さまざまな過程を協調してはたらかせる仕組み

記憶との照合 動作 失行 運動 行動行動の選択と組み立て 遂行機能障害 記憶との照合 注意機構 注意機構 状況の判断 認知 何であるかわかる 失認 注意機構 感覚 視覚 聴覚 体性感覚 Fuchi 2006.12 記憶との照合 味覚 嗅覚 仮説証明 1 機能障害への介入 左半側無視患者に対する神経発達的治療 ( ボバース法 ) の試み作業療法 10 巻 3 号 1991 年 症例紹介 S.H. 63 歳女性 反応時間測定 診断名 :: 脳梗塞 ( 左片麻痺 ) 発症日 :1988 年 10 月 25 日 OT 開始 :1988 年 11 月 14 日 OT 評価 :Br.Stage 上肢 下肢 Ⅱ 感覚は重度鈍麻高次脳機能障害 - 左半側視空間無視構成障害 注意障害 初期反応時間結果 2.21 0.99 0.90 4.03 1.02 1.54 1.00 2.34 1.23 1.94 2.07 2.01 1.40 6.78 2.11 刺激画面 半側無視改善のアプローチによる比較 アプローチ方法 : Ⅰ) 患側からの視覚と体性感覚の入力と連合 Ⅱ) 健側強化訓練 Ⅲ) 認知課題の施行 方法 : 各アプローチを 1 日 40 分 1 週間ずつ Ⅰ-Ⅱ-Ⅲ-Ⅰ の順に行う 効果判定 : 机上テスト ( キャンセレーションテスト 迷路課題 ) 反応時間 各アプローチ期間の前後と 1 回のアプローチの前後で比較 a: 背臥位で左側の視覚刺激に対する非 b: 端座位で左側の視覚刺激に対応した c: 端座位で左側の視覚刺激に対する非麻痺側上肢でのリーチ動作を左側への麻痺側上肢のリーチと加重により左側へ麻痺側上肢でのリーチ動作を麻痺側上重心移動をと共に促す の視覚リーチを誘導する 肢から誘導する 図 3 麻痺側への重心移動により左側への視覚誘導を行う

左 2 列平均反応時間 右 2 列平均反応時間 一回の介入 1 前後の比較 一回の介入 2 前後の比較 前 後 図 4 介入 1 2 3 1 における反応時間の推移 仮説証明 2 ADL への介入 介入前 介入後 図 6 1 回のアプローチ 1 の前後での立位バランスの比較 半側空間無視を呈した脳卒中患者に対するアプローチ日本作業療法士協会作業療法事例集 1996 年 6 月 図 8 a: 頭部と肩周囲との分離を促す b: 肩甲骨と上肢の分離を促す c: 左側への重心移動と立ち直り反応の促通により左側への視覚探索が出現 図 9 視覚探索のための準備と重心移動による左側への視覚探索

a: 介入前 マグネットを均等に貼る活動線分の右端から貼り始め 右に偏って終了する b: 介入後 マグネットを線分の中心から貼り始め それぞれ左右空間の中心に配置する戦略へと変化した a: 体感からの誘導による左空間対象物へのリーチ b: 積み木の色分類活動における左側へのリーチと視覚の連合 c: テーブル拭き動作による左側へのリーチと視覚の連合 図 11 介入前後による視覚操作戦略の変化 図 10 左側空間への非麻痺側 麻痺側リーチの誘導と視覚の連合 洋服の左手の通る軌跡を右手でで確認 肩まで十分通すように誘導 a: 洗体動作を通して麻痺側上肢に気づく b,c: 模擬的な袖を通す動作の中で自己身体への空間操作を覚える 図 12 模擬的活動における麻痺側上肢への操作の誘導 左肩に注意を配分しながら右手を通す 図 13 実際の更衣場面での誘導 かぶり動作中に左手の連合反のを調整する a: 介入前肢位模倣 麻痺側外転に対し屈曲位に誤って模倣 b: 介入後肢位模倣 麻痺側外転に対し正しく外転位に模倣 図 14 自己身体の認識をもとにした肢位模倣の介入前後での改善 図 15 最終的に更衣が可能となる

小脳 感覚入力 運動制御のレベルと脳の構造 監視判断予測随意的選択 大脳連合野 汎用性運動ジェネレータ 大脳運動野 アクションジェネレータ 中脳 パターンジェネレータ 脊髄 橋 脳幹 評価 辺縁系 脳と運動丹治 大脳基底核 運動出力 正しい感覚 知覚を実現する 正しい認知を実現する 活動 適切な 正しい行為を実現する 正しい動作 運動を実現する ハンドリング Key Points of Control トーンの調整 感覚情報の調整 姿勢運動の調整 Perception の調整 運動の計画 プログラムの調整 動機付け 発動の調整 対象者の障害を解釈し 対象者自身を理解する