Microsoft Word - RM最前線 訓練.doc

Similar documents
資料 2-3 超大規模防火対象物等における自衛消防活動に係る訓練の充実強化方策 ( 案 ) 平成 30 年 10 月 31 日 事務局

id5-通信局.indd

<4D F736F F D DEC90AC82CC82B782B782DF816982A982C882AA82ED94C5816A976C8EAE95D220446F776E6C6F61642E646F63>

第 1 章実施計画の適用について 1. 実施計画の位置づけ (1) この 南海トラフ地震における具体的な応急対策活動に関する計画 に基づく宮崎県実施計画 ( 以下 実施計画 という ) は 南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法 ( 平成 14 年法律第 92 号 以下 特措法 と

奈良県ライフライン 情報共有発信マニュアル 第 3.3 版 平成 24 年 7 月 奈良県ライフライン防災対策連絡会

(溶け込み)大阪事務所BCP【実施要領】

防災業務計画 株式会社ローソン

事業継続計画(BCP)作成用調査ワークシート

アンケート調査の概要 目的東南海 南海地震発生時の業務継続について 四国内の各市町村における取り組み状況や課題等を把握し 今後の地域防災力の強化に資することを目的としてアンケート調査を実施 実施時期平成 21 年 11 月 回答数 徳島県 24 市町村 香川県 17 市町 愛媛県 20 市町 高知県

東京事務所版 BCP 実施要領目次応急頁 < 第 1グループ> 直ちに実施する業務 1 事務所における死傷者の救護や搬送 応急救護を行う一時的な救護スペースの設置 運営 備蓄の設置 医療機関への搬送 1 2 事務所に緊急避難してきた県民や旅行者等への対応 避難 一次避難スペースの運営 指定避難所への

平成 28 年熊本地震における対応 平成 28 年熊本地震 ( 前震 :4/14 本震 :4/16) において 電力 ガス等の分野で供給支障等の被害が発生 関係事業者が広域的な資機材 人員の融通を実施するなど 迅速な復旧に努めた結果 当初の想定よりも 早期の復旧が実現 また 復旧見通しを早い段階で提

目次 はじめに P3 1 災害 緊急の範囲 P3 2 時間と場所を考慮した対応の必要性 P3 3 時間ごとの対応 P4 4 場所ごとの対応 P5 5 デジタルサイネージの提供コンテンツ P6 6 緊急時を意識したデジタルサイネージシステム P6 7 情報の切替 復帰の条件 P7 8 緊急運用体制 P

<4D F736F F F696E74202D F093EF8A6D95DB8C7689E681768DEC90AC82CC8EE888F882AB2E B8CDD8AB B83685D>

Microsoft Word - BCP-form

資料 -3 事業継続ガイドラインの改定について 平成 25 年 7 月 24 日内閣府 ( 防災担当 ) 普及啓発 連携担当

地震被害予測システムにより建物被災度を予測 また 携帯電話と地図を利用した 被害情報集約システム では GPS 機能と地理情報システムとの連係により 現在位置周辺にある同社施工済物件を検索し 物件や周辺の被害状況を文字 静止画 動画を添付して報告することができる これら被害情報を地理情報システムに集

各省庁等における業務継続計画に係る取組状況調査 調査の目的 各省庁等における現在の業務継続計画に係る取組状況を把握し 東日本大震災等を受けた 今後の業務継続計画の改善策を検討するための資料とする 調査の対象 中央省庁業務継続連絡調整会議構成機関 オブザーバー機関 29 機関 構成員 :23 機関内閣

「南九州から南西諸島における総合的防災研究の推進と地域防災体制の構築」報告書

<4D F736F F D208AC888D F8DEC90AC B838B814089F090E095D A>

既存の高越ガス設備の耐震性向上対策について

品質マニュアル(サンプル)|株式会社ハピネックス

目次 4. 組織 4.1 組織及びその状況の理解 利害関係者のニーズ 適用範囲 環境活動の仕組み 3 5. リーダーシップ 5.1 経営者の責務 環境方針 役割 責任及び権限 5 6. 計画 6.1 リスクへの取り組み 環境目標

<4D F736F F D B4C8ED294AD955C8E9197BF E894A8AFA8B7982D191E495978AFA82C982A882AF82E996688DD091D490A882CC8BAD89BB82C982C282A282C4816A48502E646F63>

Microsoft Word - 5_‚æ3ŁÒ.doc

Ⅰ. はじめに はじめに 調査プロジェクトの一環として 外部会場を利用した実査 ( 会場調査 CLT やグループインタビュー等 ) の実施時における 台風 地震 火災その他の災害に対する対応の指針として ここに JMRA 外部会場における調査時の緊急時対応ガイドライン を定める 当ガイドラインは 調


5 安全 減災措置 建物建物は地震対策はなされていますか? 耐震補強 耐震 制震 免震設備状況 ( リスト ) 耐震 安全性診断 ( 発災前 ) 耐震 安全性診断を受けていますか? 施行証明書 実施状況 ( リスト ) 応急危険度判定 ( 発災後 ) 転倒 転落の防止措置 6 本部への被害状況の報告

各部会の活動状況予定200505

平成18年度標準調査票

質問1

燕市 ICT 部門の業務継続計画 < 初動版 > ー概要版ー 燕市

防災マニュアル

Microsoft Word - RM最前線 doc

1 検査の背景 我が国の防災の基本法として災害対策基本法 ( 昭和 36 年法律第 223 号 ) が制定されている 同法によれば 内閣府に中央防災会議を置くとされ 同会議は 災害予防 災害応急対策及び災害復旧の基本となる防災基本計画の作成 その実施の推進 防災に関する重要事項の審議をそれぞれ行うな

2 被害量と対策効果 < 死者 負傷者 > 過去の地震を考慮した最大クラス あらゆる可能性を考慮した最大クラス 対策前 対策後 対策前 対策後 死者数約 1,400 人約 100 人約 6,700 人約 1,500 人 重傷者数約 600 人約 400 人約 3,000 人約 1,400 人 軽傷者

<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

(3) 設備復旧対策事例 ~ 基地局及びエントランス回線通信事業者各社で取り組んだ主な基地局あるいはネットワーク設備復旧対策としては 光ファイバー 衛星回線 無線 ( マイクロ ) 回線の活用による伝送路の復旧や 山頂などへの大ゾーン方式 ( 複数の基地局によるサービスエリアを1つの大きなゾーンとし

資料1 受援計画策定ガイドラインの構成イメージ

チェック式自己評価組織マネジメント分析シート カテゴリー 1 リーダーシップと意思決定 サブカテゴリー 1 事業所が目指していることの実現に向けて一丸となっている 事業所が目指していること ( 理念 ビジョン 基本方針など ) を明示している 事業所が目指していること ( 理念 基本方針

働き方の現状と今後の課題

38 災害緊急時における聴覚障害者の情報伝達保障支援の状況分析 表2 生の協力のおかげで遂行することができた 避難訓練の年間実施回数 回 回 2回 3回 4回 5回以上 4 6 35 9 図 避難所担当者との連携 図2 避難訓練の年間実施回数 Ⅳ 調査研究の経過および結果 なかでも年2 3回実施して

< F2D E968CCC8DD08A5191CE8DF495D281458D718BF38DD0>

大規模災害等に備えたバックアップや通信回線の考慮 庁舎内への保存等の構成について示すこと 1.5. 事業継続 事業者もしくは構成企業 製品製造元等の破綻等により サービスの継続が困難となった場合において それぞれのパターン毎に 具体的な対策を示すこと 事業者の破綻時には第三者へサービスの提供を引き継

~BCP から BCM へ ~ 静岡県事業継続計画モデルプラン ( 第 3 版 ) の概要 静岡県経済産業部

災害時に必要な物資の備蓄に関する行政評価・監視<中間報告>

<4D F736F F F696E74202D E9197BF E63189F18DD08A518BD98B7D8E9691D491CE8F888AD68C578FC892A D89EF8B636E2E B8CDD8AB B83685D>

南海トラフ地震発生時の不安 南海トラフ地震が発生した場合 不安や危険に思うことは何ですか?( は 3 つまで ) 66.7% の人が 自宅の倒壊や損壊 49.2% の人が 家族等の安否やその確認手段 と答えています 自宅の

第 3 回災害対策本部会議の開催 ( 災害発生から 2 日後 ) ここからが BCP! 取引先などの状況把握 業務への影響詳細分析 業務継続の優先順位判断 災害対策本部事務局 (CMT -Crisis Management Team-) の業務と役割 緊急参集 被害状況の把握 災害対策本部立ち上げ

<4D F736F F D A8D CA48F43834B C E FCD817A E

平成18年度標準調査票

1 BCM BCM BCM BCM BCM BCMS

企業経営動向調査0908

( 社会福祉施設用作成例 ) (4) 施設管理者は, 緊急時連絡網により職員に連絡を取りましょう (5) 施設管理者は, 入所者の人数や, 避難に必要な車両や資機材等を確認し, 人員の派遣等が必要な場合は, 市 ( 町 ) 災害対策本部に要請してください (6) 避難先で使用する物資, 資機材等を準

4 研修について考慮する事項 1. 研修の対象者 a. 職種横断的な研修か 限定した職種への研修か b. 部署 部門を横断する研修か 部署及び部門別か c. 職種別の研修か 2. 研修内容とプログラム a. 研修の企画においては 対象者や研修内容に応じて開催時刻を考慮する b. 全員への周知が必要な

スライド 1

5) 輸送の安全に関する教育及び研修に関する具体的な計画を策定し これを適確に実施する こと ( 輸送の安全に関する目標 ) 第 5 条前条に掲げる方針に基づき 目標を策定する ( 輸送の安全に関する計画 ) 第 6 条前条に掲げる目標を達成し 輸送の安全に関する重点施策に応じて 輸送の安全を確 保

大塚製薬(株)佐賀工場

<323091E693F18FCD208E96914F959C8BBB82CC8EE F DF82E98FE382C582CC8AEE967B934982C88D6C82A695FB2D322E786477>

火山防災対策会議の充実と火山活動が活発化した際の協議会の枠組み等の活用について(報告)【参考資料】

実現力を高める方法

知創の杜 2016 vol.10

平成18年度標準調査票

(Microsoft Word -

事業継続計画の方針 当社は 大規模地震発生後において 以下の基本方針に従い業務を適切に実施する 人命の安全の観点 事業継続の観点 その他の観点 事業継続の観点の例 小売業 生活必需品を販売する企業 自社を被害の受けにくい状態にするとともに 事業を継続できるようにする 生活必需品以外のものを販売する企

<4D F736F F F696E74202D2091E6368FCD5F95F18D908B7982D D815B >

1 首都直下地震の概要想定震度分布 (23 区を中心として震度 6 強の想定 ) 首都直下地震 想定震度分布 出典 : 中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ 首都直下地震の被害想定と対策について ( 最終報告 ) ( 平成 25 年 12 月 ) 2

本日のポイント 事業のグローバル化の進展に伴い 長期ビジョンVG2020 * と共に現在のリスクマネジメントがスタート 経営陣とオムロンらしいリスクマネジメントは何かについて議論しながら 社会的責任の遂行 等を目標とする グローバル に 統合 された仕組み作りを目指して活動をしてきた 現在 取締役会

中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律第 7 条第 1 項に規定する説明書類 奄美信用組合 奄美信用組合は 奄美地区における金融の円滑化への取り組みをこれまで以上に強化するとともに その取り組み姿勢をお客様にご理解していただき 借入の条件変更等に関する ご要望 ご相談に迅速

4 災害時における他機関 他施設との協定の締結状況災害時に他機関 他施設との協定を結んでいる施設は 97 施設で 1 か所と締結している施設が多くありました 締結先は 地元自治会 町内会 病院 近隣施設 社会福祉施設 物流会社 福祉ネットワーク 市町村等でした 図 2 災害時における他機関 他施設と

「標準的な研修プログラム《

2011年7月4日

会場 - 全国 9 都市で実施 地 開催 会場 北海道 8 7 ( ) 北海道庁別館 11 階第 4 研修室 8 8 ( ) 札幌市中央区北 3 条 7 丁 巨大災害に備えて 地域別総合防災研修 東北 ( ) ( ) 北陸 ( ) (

第 5 部 南海トラフ地震防災対策推進計画

安全管理規程

自治体CIO育成教育

3 医療安全管理委員会病院長のもと 国府台病院における医療事故防止対策 発生した医療事故について速やかに適切な対応を図るための審議は 医療安全管理委員会において行うものとする リスクの把握 分析 改善 評価にあたっては 個人ではなく システムの問題としてとらえ 医療安全管理委員会を中心として 国府台

PowerPoint プレゼンテーション

本書の目的介護保険サービス事業所は, 高齢者の方が多く利用しており, 災害発生時には避難等の援助が必要となるため, 事業者は, 災害発生時に迅速かつ適切な行動をとれるように備えておく必要があります 本書は, 介護保険サービス事業所が災害対応マニュアルを作成する際に特に留意する点についてまとめています

【東日本大震災発生から8年】「災害への備えに関するアンケート」結果_損保ジャパン日本興亜

BCP 策定済み企業数は増加していないにもかかわらず BCP 策定中企業数は大きく減少しており 検討途中で策定を断念した企業の存在が示唆される 参照 P.16 - 第 1 回からの調査によって抽出した BCP 策定状況と比較すると BCP 策定済み企業は 2013 年 1 月時点では東日本大震災を契

02 IT 導入のメリットと手順 第 1 章で見てきたように IT 技術は進展していますが ノウハウのある人材の不足やコスト負担など IT 導入に向けたハードルは依然として高く IT 導入はなかなか進んでいないようです 2016 年版中小企業白書では IT 投資の効果を分析していますので 第 2 章

< F2D817991E F1817A8C46967B2E6A7464>

1. 本障害の概要 2011 年 3 月 11 日 ( 金 ) に発生した東日本大震災発生に伴い 14 日 ( 月 ) における A 社の義援金口座 a 及び 15 日 ( 火 ) における B 社の義援金口座 b という特定の口座にそれぞれ大量の振込が集中したことにより 夜間バッチが異常終了したこ

<8B4191EE8DA293EF8ED2834B B B756B6F6E6E616E2E786C73>

☆配布資料_熊本地震検証

p81-96_マンション管理ガイド_1703.indd

<4D F736F F D208EA98EE596688DD DD A8890AB89BB837D836A B2E646F63>

1 外国人傷病者対応 資料 1

< 用語解説 > *1 ソーシャルネットワーキングサービス (SNS) インターネット上の交流を通して社会的ネットワークを構築するサービス全般を指す 代表的な SNS として Twitter mixi GREE Mobage Ameba Facebook Google+ Myspace Linked

Bカリキュラムモデル簡易版Ver.5.0

評価項目 評価ポイント 所管部局コメント 評価 国際交流に関する情報の収集及び提供事業国際交流活動への住民の参加促進事業国際理解推進事業在住外国人に対する相談事業在住外国人に対する支援事業 安定 確実な施設運営管理 公正公平な施設使用許可や地域に出向いた活動に取り組むなど新たな利用者の増加に努め 利

事業継続計画概要書 株式会社 J C U B C M 運営委員会 2019 年 1 月 10 日 ( 改 ) 当社グループは 当社と連結子会社 15 社 (2019 年 1 月現在 ) 及び関連会社 1 社により構成され 事業形態を 薬品事業 装置事業 の2セグメント および その他 ( スパッタ技

報告書_表紙.indd

02一般災害対策編-第3章.indd

原子力安全推進協会 (JANSI) のミッション 日本の原子力産業界における 世界最高水準の安全性の追求 ~ たゆまぬ最高水準 (Excellece) の追求 ~ ミッション達成のための取組み ( 原子力防災関係 ) 〇安全性向上対策の評価と提言 勧告及び支援 過酷事故 (SA) 対策の評価 〇原子

PowerPoint Presentation

FSMS ISO FSMS FSMS 18

(2) 地震発生時の状況地震発生時の運転状況ですが 現在 20 清掃工場で40 炉が稼動していますが 地震発生当日は32 炉が稼動しており 8 炉は定期補修や中間点検のため停止していました 地震後は設備的な故障で停止したのが2 炉ありまして 32 炉稼動していたうち2 炉が停止したというのが地震発生

J-SOX 自己点検評価プロセスの構築

「組織マネジメントに関する調査」結果(概要)

Transcription:

あらためて訓練実施の重要性を考える 2014 No.32 あらためて訓練の必要性を考える- 企業における訓練の実施実態を受けて- - 企業における訓練の実施実態を受けて- 大規模地震をはじめとする自然災害等の危機的事象に対して 企業には人命安全の確保や事業継続のための迅速で的確な対応が求められている また 実効性のある対応力を培うためには 訓練を定期的に実施することが欠かせない しかし 東日本大震災から3 年以上が経過したものの 多くの企業で訓練の取組みがまだ十分には進んでいない実態がある 本稿では 企業における訓練実施の重要性について述べるとともに 最新の被害想定に基づいたシナリオの想定や 就業時間外 ( 平日夜間や休日 ) に被災するケース等も想定した訓練のレベルアップにも言及する 1. はじめに 3 年前の東日本大震災を契機に 多くの企業が大規模地震に対する防災や事業継続のための対策に取組み 危機への備えを進めてきた 具体的には 1 防災マニュアルや事業継続計画 (BCP) 等の整備 2 建物の耐震補強や設備等の固定 3 備蓄品整備や帰宅困難者対応等の各種事前対策の実施 4 社内周知を図るための教育や訓練等が挙げられる しかし 4の教育や訓練は 1~3の取組みを踏まえて行う必要があるため 遅れがちになる 弊社が昨年実施した リスクマネジメント動向調査 1 においては 従業員数が少ない企業ほど 訓練の取組みが進んでいない実態が判明している 2. 訓練実施の重要性 危機的事象に対して防災マニュアルや BCP 等を準備していても 経営者 防災や BCP の担当者をはじめ 社員の一人一人が防災マニュアルや BCP の内容を習熟していないと いざというときに的確で迅速な判断に基づき行動することは困難である 実際の危機的事象を何度も経験することができない以上 日頃から一人でも多くの役職員が 訓練を通して状況に応じた判断力 行動力を養っておくことが極めて重要である また 防災マニュアルや BCP 等の策定では 被害を想定して机上で検討を行い 対応策を立案 整理するプロセスが一般的だが これらが実践的な内容となっているかを検証する必要があり その方策の一つが訓練である 1 国内企業におけるリスクマネジメントの取組みを把握し 今後必要な取組みの方向性を模索する目的で 上場企業並びに従業員規模 2,000 人以上の非上場企業を対象に 2008 年以降隔年でこれまでに4 回の調査を実施している http://www.tokiorisk.co.jp/topics/up_file/2014081800.pdf 1

3. 訓練の企画 実施の流れと実施におけるポイント 訓練を企画 実施する際の流れは 図表 1 のとおりである 図表 1 訓練の企画から実施への流れ ( 弊社作成 ) (1) 目的と目標の設定訓練を企画するにあたっては 何のために訓練を実施するのか という目的をあらかじめ明確にする必要がある 初めて訓練を行う場合は 当面は 人命の安全を確保すること BCP の趣旨を十分に理解すること BCP 等で決められたことを確実にできるようにすること 等が目的となる 具体的な目的の例は 以下のとおりである 人命を最優先に種々の対応を行うことを周知させる 事業継続の必要性や自社の BCP の全体像を参加者に把握させる 参加者各自の役割を認識させた上で各種の対応ができるようにし これを習熟させる 等 また1 回の訓練で実施できることには限りがあり 初めから高い目標を設定しても達成できないので 目的と併せて この訓練で何をどこまで身につけるのか この訓練で何をどこまで検証するのか という段階的な目標を明確に設定するとよい そして 訓練を繰り返し実施することで 訓練参加者や組織の対応力をステップアップさせていくことができる (2) 訓練方式の選択目的と目標を設定したら 訓練参加者の習熟度に合わせて最適な訓練方式 ( 図表 2) を選択する 避難訓練や消火訓練等の消防訓練しか実施したことのない企業が実働訓練をするのであれば まずは緊急連絡網や災害伝言ダイヤル 災害用伝言板等のツール 2 を用いた安否確認訓練や自動体外式除細動器 (AED) を用いた応急救護訓練等を実施するとよいだろう また 防災マニュアルや BCP 等を作成している企業でも その周知や検証を行っていない場合は ウォークスルー訓練や机上型シミュレーション訓練を行うことが望ましい 2 通信各社より提供されている災害伝言ダイヤルや災害用伝言板は 毎月 1 日 15 日 正月三が日 防災週間 (8 月 30 日 ~9 月 5 日 ) 防災とボランティア週間(1 月 15 日 ~1 月 21 日 ) に体験することができる 2

図表 2 訓練方式の例 ( 弊社作成 ) 訓練方式訓練項目メリットデメリット 実働訓練 ウォークスルー訓練 机上型(討論型シミュレーション訓練 避難訓練 消火訓練 安否確認訓練 AED を用いた応急救護訓練 単一のプロセスや業務単位での机上読み合わせ 単一の実地検証 部門や事業場ごとの緊急対応訓練 対策本部要員の役割確認訓練 BCP 手順確認訓練)リアルタイム型 部門や事業場ごとの実際的な緊急対応訓練 対策本部における情報処理訓練 対策本部コアメンバーの状況判断および意思決定訓練 広報対応 ( 記者会見 ) 訓練 訓練の目的 時間に応じた訓練内容の設定が可能 実際に体を動かすことで対応手順の理解 習熟が可能 読み合わせは短期間での実施が可能 対応が必要な項目の理解 習熟が可能 訓練結果をマニュアル改訂に活用可能 訓練の目的 時間に応じて柔軟に内容を設定可能 思考能力 判断能力の向上を図ることが可能 討議を通じ 意識の統一が可能 事前準備を通じ 要員の教育が可能 訓練結果をマニュアル改訂に活用可能 臨場感を持たせることが可能 リアルタイムでの実際的な訓練が可能 日 単位の総合的かつ大規模な訓練にも適用可能 事前準備を通じ 要員教育が可能 訓練結果をマニュアル改訂に活用可能 総合的な内容とする場合には 事前準備における事務局の負荷が大 臨場感を持たせることが容易ではない 参加者に対する制約 実際的な一連の訓練には不向き 事前準備における事務局の負荷がやや大 参加者の知識経験が不十分な場合 訓練遂行 ( 訓練効果の発揮 ) が困難 訓練の統制および組織的な指導体制が必要 事前準備における事務局の負荷が比較的大 (3) 被害想定とシナリオ 設問の設定 訓練方式を選択した後に 訓練で扱う危機的事象を検討する 例えば 地震等の自然災害リスクを対象とする場合は 事業や地域の特性を加味した上で 災害事象や訓練参加者の対応がどのように展開されるのかをイメージして 検証すべき具体的な課題を設定する 課題が不明瞭なまま準備を進めると その後の準備作業は元より訓練成果にも支障を来すため この時点で明確にしておかねばならない そして 課題を具現化するために 危機的事象によって自社や取引先等にどのような影響が生じるのかを被害想定として設定する 例えば 地震を想定する場合 いつ どこで どの程度の規模の地震が発生するかを設定する 訓練は仮想の状況を想定するものであるが 現実に起こる可能性があまりに低いと 訓練参加者の士気をそぐことにもなりかねず 国や地方自治体等が公表している被害想定 ( 震度分布図 ハザードマップ ライフラインの復旧日数 ) 等も参考にするとよい 次に ライフラインについては 電気 ガス 上下水道 各種通信 ( 固定電話 携帯電話 インターネット等 ) 道路 鉄道等の復旧日数の設定が必須である さらに 事業や地域の特性に応じて 港湾 空港等の復旧日数についても設定する 最後に 被害想定に基づき訓練のシナリオと設問を設定する 訓練のシナリオとは 例えば自社や取引先等の被害状況や事業への影響をストーリーに仕立て 時々刻々と変化する状況を設定したものである シナリオでは 参加者に気付かせたい課題や期待される対応を意識しながら 訓練の肝となるべき重大な局面を用意する また その局面で参加者に投げかける設問は 気付きを与える内容にするとともに 参加者が議論をしやすいようできるだけ具体的なものとする 3

(4) 事前準備 机上型シミュレーション訓練を例にとると 事前準備として以下が挙げられる 1 運営事務局の役割の検討 2 参加者の検討 3 訓練スケジュールの設定 4 会場 レイアウトの設定 5 参加者への事前説明 6 使用する資料類の準備等 7 使用する資機材の準備等 訓練当日に進行を円滑に行い 十分な成果を挙げるためにも事前準備は念入りに行う必要がある とりわけ初めて訓練を行う場合には 事前に訓練参加者に対して訓練の概要 目的 位置づけ 前 提となる知識等について十分に説明しておくことが求められる (5) 実施例えば 一般的な机上型シミュレーション訓練では 訓練参加者はまず被害想定やシナリオを一括して付与される 次に その想定の元で与えられた設問に対し 一定の時間内でチーム内で討議して解答をまとめる よって チーム編成をする際には 議論を促しやすい人数とする他 所属や役職にも考慮したメンバー構成とすることが重要である また 議論した内容は あらかじめ準備したフォームに記入して提出させたり 討議の際にホワイトボードや模造紙 付箋紙等を用いて整理したりして記録する このように各チームがまとめた内容については それぞれに発表を求め 場合によっては 訓練参加者全体でさらに議論を行う (6) 結果の評価訓練を行った後にはその内容をしっかり評価し振り返ることが重要である 現在の防災マニュアルや BCP に抜け漏れはないか 実際に有事が起こる前に検討すべき事項は何か等の残った課題を抽出する他 訓練中の対応における反省点を洗い出し それらを防災マニュアルや BCP 等の改善につなげることは 企業の危機対応力を高めるプロセスとして極めて重要である 4

4. 訓練のレベルアップ 訓練の取組みが進み さらに自社の対応力を高めたいと考える企業は 以下のような訓練を実施 して 自社の現況の課題のあぶり出しを行い 実効性の確保を考えるとよい (1) 被害想定の見直し 3 年前の東日本大震災以降 最新の評価に基づいて 首都直下地震や南海トラフ巨大地震等の被害想定が見直されている 例えば 昨年 12 月に内閣府から発表された 首都直下地震の被害想定と対策について 3 では 2005 年に示された被害想定から大きく見直されている 新たな被害想定では 地震発生から1 週間経っても停電率が約 5 割とされ 更に厳しい様相 として 停電の長期化や計画停電の他 大口需要家への使用制限による需要調整等にも言及されている このようなライフラインの長期間停止という想定を適用した場合 これまでの事前対策では全く対応が不可能であることが訓練を通じて明らかになることが多い 例えば 被災後 1 週間の停電が見込まれる場合 これを非常用発電機で賄おうと準備しても 燃料の備蓄量には制限がある さらに 被災後の燃料供給網に制約が生じると考えると 1 週間稼働するための燃料の確保はままならない また 工場 店舗 物流センター データセンター等の拠点では 事業継続には業態に応じて各種リソース 4 が必要となるが 各種リソースがほとんど利用できないという事態も起こりかねない (2) 就業時間外に被災したケース 5 多くの企業では危機的事象の発生時間により発生初期の対応が異なる そこで 平日夜間や休日に被災することを想定した訓練を行っておくことが望ましい 就業時間外に発災する場合は 有事の体制を確立するために従業員の安否確認とともに 経営者 防災や BCP 担当者等の参集から始めなければならない なお 就業時間外に被災した場合 従業員が各所に分散しており 被災によるライフラインへの影響とも相まって 安否確認は容易ではない したがって安否確認訓練では 緊急連絡網の整備や安否確認システムの導入等 複数の実施手段を準備し それらを組み合わせた手順の有効性を検証することが重要である 3 詳細は 弊社発行のリスクマネジメント最前線 2013 年 12 月 19 日公表中央防災会議 首都直下地震の被害想定と対策について の解説 - 速報版 - (2013 年 12 月 25 日発行 ) http://www.tokiorisk.co.jp/risk_info/up_file/201312251.pdf およびリスクマネジメント最前線 2013 年 12 月 19 日公表中央防災会議内閣府 首都直下地震の被害想定と対策について の解説 - 詳細版 - (2014 年 4 月 28 日発行 )http://www.tokiorisk.co.jp/risk_info/up_file/201404281.pdf を参照願う 4 ここでは 従業員をはじめとする人的リソース 設備や資機材等の物的リソース システムや各種データ等の情報 リソースといったものを指す 5 40 時間 / 週 勤務の場合 就業時間は全体の約 1/4 程度であり シフト勤務を敷いている製造業やライフライン事業者を除けば 就業時間である平日日中よりも 就業時間外である平日夜間や休日が占める時間の方が長い 5

また参集訓練では BCP 等の想定通りに要員が参集できないことを考慮して あらかじめ対象者を 多めに設定して参集可否の確認を行うことが望ましい 都市部であれば 併せて参集予測のシミュ レーション等を行うことも有効である (3) リアルタイム型シミュレーション訓練机上型シミュレーション訓練が思考力の強化や対応が必要な項目の理解 習熟に向いている一方で 一連の実行能力を高める上では リアルタイム型シミュレーション訓練の方に分がある ただし リアルタイム型シミュレーション訓練において期待する効果を得るためには 前もって訓練参加者が知識 技能を習熟しておく必要がある 事前準備における事務局の負荷が大きい 訓練の統制ならびに組織的な訓練の指導体制が必要である等 乗り越えなければならない多数の壁がある しかしながら 有事の際に必要となる情報処理や判断 意思決定等の対応力を確認する目的であれば リアルタイム型シミュレーション訓練が最適である (4) 連携訓練や実働訓練の組み合わせ等による検証範囲の拡張企業は複数の組織から成り立っており さらにその事業は複数の取引先等とともに サプライチェーンやバリューチェーンを構成することにより成立している よって 自社の事業継続を確保する上では 社内の各組織間や取引先等の関係先との連携が必須となる 従って 負担は大きいものの 企業の一組織のみで行う訓練ではなく できるだけ全社を挙げた訓練を行うことが望ましい さらに 可能であれば関係先と有事の際の連携方法等について 事前にすり合わせておくとよい また 安否確認や対策本部の設置等を実際に行ってみる 実働訓練 等も組み合わせることで 検証範囲の広い訓練を実施することが可能になる 5. 最後に 企業において 有事における初動対応や事業継続の対応力を高める上で 防災マニュアルや BCP の策定は重要である しかし 実際の対応力を確保するには 一歩進んだ訓練による疑似体験のプロセスを繰り返し 少しずつステップアップしながら対応力を継続して向上していくことが求められる 長年に渡って災害対応や BCP に関わる訓練を行ってきた企業では さらに一歩進んだ訓練を実施している 例えば 複数の拠点において同日同時刻にリアルタイム型訓練を行い 通信機器を用いて情報をやり取りして 初動対応における支援やバックアップ体制を確認する拠点間連携訓練である ある企業では 南海トラフ地震で被害を受ける可能性がある拠点の対策本部と バックアップ対策本部となる東京本社との連携訓練が行われている また ある企業では 社内だけでなく グ 6

ループ会社や業務委託先との連携を確認する訓練が行われている さらに最近は 経営者を対象とした意思決定訓練も注目されている 例えば リアルタイム型訓練と机上型訓練とを組み合わせ 対策本部の各組織が収集した情報を基にして 対策本部長である社長や副社長 さらに各事業の責任者が 厳しい事態における判断や指示を検討する模擬訓練が行われている 一方 製造工場や支店 支社等のリーダーを育成するための訓練を重視している企業も増えている 製造現場や防災施設の設置場所において 各種の機器や資機材を確認しながら 初動対応訓練や BCP で計画している復旧 代替対応を確認する現場型ウォークスルー訓練 対策本部要員としての基礎知識 スキルを養成するための人材育成型リアルタイム型訓練などが行われている このような一歩進んだ訓練の実施は 被災した企業の早期復旧に寄与し 少しでも経営へのダメージを軽減することに繋がるであろう 本稿が 企業が実効性のある対応力を身に着けるための一助になれば幸いである [2014 年 10 月 30 日 ] http://www.tokiorisk.co.jp/ ビジネスリスク事業部ビジネスリスクグループ 100-0005 東京都千代田区丸の内 1-2-1 東京海上日動ビル新館 8 階 Tel.03-5288-6712 Fax.03-5288-6626 7