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原子力特集技術論文 60 取替え蒸気発生器の解体 除染技術の開発 Development of Dismantling & Decontamination Technique of the Exchanged Steam Generator *1 坂下章 *2 末松秀文 Akira Sakashita Hidefumi Suematsu *3 小室敏也 *4 黒川登 Toshiya Komuro Noboru Kurokawa *5 松原龍一 *6 吉川雅司 Ryuichi Matsubara Masashi Yoshikawa PWR 原子力発電所における取替え工事で取替えられた蒸気発生器 ( 以下, 取替え蒸気発生器 ) は, 放射性廃棄物として発電所に保管されている. これらの取替え蒸気発生器は, 今後, 廃棄物処分場へ搬出されることになる. 本報では, 取替え蒸気発生器のような大型廃棄物の処理 処分に係わる基本的な考え方を述べると共に, 処理の際のキー技術として選定したブラスト除染技術の伝熱管への適用性について確認を行ったので, これを紹介する. 1. はじめに PWR 原子力発電所においては, 蒸気発生器や原子炉容器上蓋等の大型機器の取替え工事が実施され, これらの取替え済みの大型機器については, 放射性廃棄物として発電所で保管中である. これらの大型機器については, 今後, 処理 処分されることになるが, その処理 処分方策の考え方としては, これを解体した後, 各々の部品の放射能濃度に応じた処分施設で処分することが有望である. 本報では, 国内発電所において保管中の大型廃棄物の内, 約 30 基が保管されている取替え蒸気発生器について, 解体処理 / 処分方策に係わる基本的な考え方を提示する共に, 解体処理を行う場合のキー技術となる伝熱管の除染技術開発成果について示す. 2. 大型廃棄物処理処分の基本的考え方 図 1の我が国の放射性廃棄物の処分概念に示すように, 原子力発電所等から発生する放射性廃棄物については, その放射能濃度に応じて処分区分が異なる. 原子力発電所から発生する低レベル廃棄物については, その放射能濃度に基づき, 余裕深度処分廃棄物 (L1 廃棄物 ), 低レベル廃棄物 (L2 廃棄物 ), 極低レベル廃棄物 (L3 廃棄物 ) に区分され, それぞれ処分される深度が異なっている. また, 原子力発電所の廃止措置や運転 保守に伴い発生する廃棄物で, 廃棄物中の放射能濃度がある値 ( クリアランスレベル ) 以下であれば, 放射性廃棄物として扱う必要のない, クリアランス制度も運用が開始されている.( 以下, クリアランスレベル以下の廃棄物をクリアランス廃棄物と称す.) 上記の廃棄物処分区分では, 区分毎に処分費用が異なっていることから, 部位により放射能濃度が異なっている場合に, 保守的に高い濃度で処分区分を選定すると, 廃棄物全体の処分費としては合理性を欠くことになる. したがって, 大型廃棄物の場合, これを解体し, それぞれの部位の放射能濃度に対応した処分区分 (L1,L2,L3) で処分するか, あるいはクリアランス廃棄物として再利用することが合理的である. *1 原子力事業本部原燃サイクルプロジェクト推進室主席技師 *2 神戸造船所原子力保全技術部主席プロジェクト統括 *3 神戸造船所原子力プラント設計部主席技師 *4 神戸造船所原子力プラント設計部 *5 技術本部高砂研究所主席研究員 *6 技術本部広島研究所

61 原子力安全委員会ホームページより一般的な地下利用に対して十分な余裕を持った深度への処分 :L1 廃棄物浅地中へのコンクリートヒ ット処分 :L2 廃棄物浅地中へのトレンチ処分 :L3 廃棄物図 1 我が国の放射性廃棄物処分概念我が国の放射性廃棄物の処分概念を各々の処分深度と関連付けて示すもの. 図 2 取替え蒸気発生器処理 処分基本フロー取替え蒸気発生器を処理 処分する際の基本的なフローを示すもの. この考えを取替え蒸気発生器に適用した場合, 放射性物質が内面に付着している伝熱管については, 放射性廃棄物 (L2) として区分し, 放射性流体に接しておらず, クリアランスレベル以下と想定される胴体については, クリアランス廃棄物に区分することが可能となる. 一方, 取替え蒸気発生器を解体する場合, 解体に従事する作業者の近接を考慮する必要がある. 残存する放射能濃度を評価した結果, 作業者の被ばく低減の観点から, 伝熱管内に残存する放射性物質を除去 ( 以下, 除染 ) する工程が必要である. 上記を踏まえ, 取替え蒸気発生器を解体し処理 処分する場合の基本フローを図 2に示す. また, 除染を行う場合, 除染に対する目標性能 (DF (*) ) を設定する必要がある. ここでは, 目標として, 解体作業に伴う被ばくを,1 日の管理目安値である 1mSv/d (8 時間程度の作業を想定すると 0.1mSv/h) 以下とすることを前提とし,DF (*) =100 を選定した. なお, 上記基本フローならびに目標 DF については, 外部より受託した委託研究の中で設定したものである. *:DF(Decontamination Factor) 除染前の廃棄物中の放射能量 / 除染後の廃棄物中の放射能量 3. 伝熱管除染方法の選定 蒸気発生器の伝熱管のような長尺で放射性物質が内面に付着している対象物に対して適用する除染方法としては, 主として研削材等により物理的に放射性物質を除去する物理除染 ( ブラスト除染 ) と化学溶液により放射性物質を溶かし除去する化学除染方法の適用が考えられる. 今回の必要 DF(=100) 程度であれば, 除染性能としては何れの方法も適用が可能であり, 選定の観点としては, 除染設備 / 附帯設備の規模と二次廃棄物発生量ならびにコスト等を考慮することになる. これらの観点から双方の除染方法を比較した結果を表 1に示す. 表 1 取替え蒸気発生器伝熱管除染方法選定結果 物理除染 ( ブラスト法 ) 化学除染 除染効果 (DF) DF100 を達成可能 DF100 を達成可能 設備規模 廃液処理系が不要で規模小 除染液循環ライン並びに廃液処理系により規模大 二次廃棄物 クラッド / 廃研削材 多量の廃液 / イオン交換樹脂 除染期間 分割除染 一括除染可能 / 廃棄物処理には時間を要す コスト 二次廃棄物処理設備 / 処理コスト小 二次廃棄物処理設備 / 処理コスト大 実績 有り ( 最近の動向では物理除染を採用する方向 ) 有り 総合評価

62 比較の結果, 下記の観点により伝熱管の除染方法として, 物理除染 ( ブラスト除染 ) を選定した. 本除染法の選定は, 外部より受託した委託研究の中で実施したものである. 化学除染については, 除染液が二次廃棄物として発生することになるため, 廃液処理設備が必要となり設備規模が大きくなる. 一方, ブラスト除染については, 二次廃棄物は, 主に廃研削材であり, 廃液処理設備が不要で設備がコンパクトに出来る. 物理除染は, 化学除染と比較して二次廃棄物発生量自体が少なく, 処理 処分に係わるコストが少ない. なお, 国内では取替え蒸気発生器の処理は実施された実績はないが, 海外では実績があり, その際にはブラスト除染が採用されている. 4. 伝熱管除染技術開発 4.1 開発目標ブラスト除染においては, ある程度, 除染時間をかけることにより,DF を確保することが可能となるが, 時間をかけることにより, 除染工事期間が増えると共に, 二次廃棄物の発生量が増えることになる. そこで今回の開発においては, 所定の DF を確保しつつ, 短時間で, 二次廃棄物の発生が少ない除染方法を選定することとした. また, 具体的な開発の目標としては, 当社において過去に実施した, 蒸気発生器の一部の伝熱管を取り外す作業 ( 抜管作業 ) を行う際に, 実施したブラスト除染の実績を基に設定した. (1) 研削目標 ( 研削量 :8μm (DF100 相当 )) 今回の開発においては, 放射性物質を用いない試験にて, 除染性能を確認することにしており, そのために, 所定の DF に相当する研削量を設定した. 上述の抜管作業実績における研削量と DF の相関データより,DF100 に相当する研削量は, 約 8μm であったことから, 目標の研削量は8μm とした. (2) 除染 ( 研削 ) 時間 ( 従来の除染時間 (15 分 / 本 ) を半減 ) 取替え蒸気発生器には,3000 本程度の伝熱管が設置されていることから, 伝熱管の除染時間を短縮することにより, 工事全体の工期の短縮につながる. 伝熱管の除染時間の短縮の方法としては,1 本当りの除染時間を短縮する方法と複数の伝熱管を同時に除染する方法があることから, それぞれの方法での目標を設定した. 上述の抜管作業実績ベースとした場合に,DF=100 を確保可能な時間は,1 本当り 15 分程度である. 今回の開発では, この 15 分を従来の除染時間とし, この時間を半減することを目標として設定した. また, 複数同時除染に関しては, これまでの抜管実績では, 複数同時の除染については実績がないことから, 今回の開発では, 複数同時除染の方式を選定し設備概念を構築することとした. (3) 二次廃棄物量 ( 従来の二次廃棄物発生量を低減 ( 研削材繰り返し使用回数の確認 ) 主たる二次廃棄物として廃研削材に着目し, 抜管工事では実施していない研削材を繰り返して使用することにより発生量の低減を図ることにし, 実現可能な繰り返し使用回数を確認することを目標とした. 4.2 予備試験除染時間, 二次廃棄物を低減するためには, その低減に見合う除染条件を見出し, 試験により確認する必要があるが, 試験を効率的に実施するために, まず, 予備試験を行い, ブラスト除染の際の研削性能を把握すると共に, 除染時間, 二次廃棄物を低減するに当たっての課題を明確にすることにした.

(1) 試験装置ブラスト除染による研削性能を把握するために, 伝熱管全体を模擬したモックアップ試験装置を製作した. 以下にその概要を示す. 1 装置構成 : 伝熱管全体を模擬したモックアップを製作 ( 図 3). 2 試験片構成 : 入口 / 曲がり部 / 出口部それぞれの研削量が把握出来るように試験片を1 ~11まで配置. ベンド部については, 内側と外側の研削量の違いを把握するため試験片を分割. 3 研削量 (μm) 評価方法 : 試験片の除染前後の重量減量を測定することにより研削量 (μ m) を評価. 4 研削材は, ガス圧縮装置から供給される空気により, 模擬伝熱管内に供給され, 出口側に設置したホッパーで回収することとし, 再使用はしない.( 但し, 後述の研削材の繰り返し試験においては, 再使用を行う.) なお, 研削材としては, 経済性を有し, 一般的に使用されるものとして, アルミナ, ステンレスグリッド, スチールグリッド等があるが, これらの中で, 硬度 ( 研削能力 ) が高いものとしてアルミナを選定することとした. 63 図 3 伝熱管研削試験モックアップ構成図取替え蒸気発生器の伝熱管の除染技術を開発するに当たり使用した, 研削試験用モックアップの構成を示すもの. 図 4 予備研削試験結果ブラスト除染による伝熱管の研削性能を把握するために実施した, 予備研削試験の試験条件ならびに試験結果を示すもの. (2) 試験結果上述の試験装置を用いて実施した研削試験結果を図 4に示す. 図 4により, 以下の研削特性ならびに課題を確認することができた. 1 研削時間 10 分での研削量は直管部において8μm 以上であり, 研削の目標は, ほぼ満足するものの更なる研削性能の向上, 研削時間の短縮が必要である. 2 直管部では, ガス圧縮装置から供給された際の圧力が, 配管途中の圧力損出により徐々に低下し出口部において空気流速が高くなる. このため, 出口側の研削量が大きく, 入口側 / 出口側において研削量のばらつきが生じており, 均一化対策が必要である. 3 ベンド部の内側 / 外側では, 研削材の当たり易い外側の方が内側の研削量より大きい. このため, 研削しづらい内側に条件を合わせ, 研削を実施した場合, 外側が過研削となる恐れがある.

4.3 予備解析予備試験にて明らかになった課題の対応としては, 研削方法や研削条件等を改善していくことになるが, 条件選定等を効率的に実施するために, 研削量予測評価式を設定のうえ, 研削性能向上につながる因子の抽出を実施した. (1) 研削量予測評価式の検討 (*1) 既往の粉体ガス輸送に係わる知見より, 粒子による研削量 W は, 粒子速度の n 乗 ( 実験値 ) に比例すると近似できるので, 次式によって研削量を評価することとした. 64 W aq n a C t D 1 n2 n3 n4 p W: 研削量 (μm) Qa: 空気流量 (NL/min) C: 混合比 ( 粒子質量 / ガス質量 ) [-] t: 時間 [min] D p : 粒子直径 [μm] a, n 1, n 2, n 3, n 4 : 回帰定数上述の評価式の回帰定数を予備試験のデータを用いて評価した結果, 研削量に対しては, 空気流量ならびに研削時間が影響因子として重要であることを確認した. したがって, 上記の評価式に基づく場合, 研削性能の向上 ( 研削時間の短縮 ) には, 空気流量を増加させることが最も有効であると考えられる. (2) 研削量と空気流量の相関確認上述の評価式の妥当性を確認する観点から, 空気流量をパラメータとして, 研削量を測定した ( 図 5). その結果, 研削性能の向上に対して空気流量 ( ガス流速 ) の増加が有効であることが確認できた. 4.4 研削性能改善試験上述の予備試験での伝熱管除染に対する課題に対し, 対応を検討すると共に性能改善を行った. 試験装置は予備試験と同じ装置を用いて実施した. (1) 研削時間の短縮予備試験においては, 目標の研削量を確保するためには,10 分以上の研削時間を要しており, 目標としている, 従来の研削時間 (15 分 ) の半減には至っていない. 更なる研削性能向上 ( 研削時間短縮 ) のためには, 予備解析の結果から, 空気流量 ( 研削材速度 ) を上昇させることが最も有効であるため, 空気流量を上昇させての試験を実施した ( 図 6). 図 6より, 空気流量を 4600LN/min とすることにより,5 分間の研削で, 直管部においてもベント部においても目標の研削量を確保することができた. 図 5 研削量と空気流量の相関空気流量をパラメータとして研削量を測定した結果を示すもの. 図 6 研削性能改善試験結果予備試験で明らかとなった課題の内, 研削時間の短縮ならびに入口側 / 出口側研削量不均一の改善を目的とした試験の試験条件ならびに結果を示すもの.

65 (2) 入口側 / 出口側研削量不均一の改善研削時間の短縮の見通しは, 得られたものの, 図 6に示す通り, 入口側と出口側での研削量の不均一は依然として生じている. この傾向は, 圧縮装置から供給された際の圧力が, 配管途中の圧力損失により徐々に低下し圧力が変化することにより, 空気流速が入口側より出口側が高くなることによるものである. したがって, 入口から出口へワンスルーで除染を行う場合には, 本傾向を改善することは, 現実的には困難である. 一方, 入口から出口へワンスルーで除染する場合は, 必ず入口より出口において研削量が高いことから, この傾向を利用して, 所定の研削時間の半分を入口から出口へ研削し, 残りの時間は, 入口 / 出口を逆にして除染する ( 双方向ブラスト除染法 ) ことにより, 均一な除染に近くすることが出来るものと考えられる. 双方向ブラスト除染法により, 片側 2.5 分ずつ除染した場合の予想効果を図 6の波線で示す. (3) 過研削の防止予備試験において, ベンド部の内側 / 外側では, 外側の研削量が大きいことから, 研削しづらい内側に条件を合わせ, 研削を実施した場合, 外側が過研削となる恐れがあり, その具体的な可能性について確認した. 研削材が直接衝突するため, 最も研削量が大きいと想定される部位 ( ベンド部の外側のA 点 ) における, 研削における減肉量の経時変化を実測した. なお, 蒸気発生器の伝熱管は曲率半径 (R) が異なるものがあり, 今回の試験では鋭角的に衝突し条件的に厳しいRの小さいベンド (R= 約 120mm) を対象とした. その結果を図 7に示す. 図 7から, 約 4 分で伝熱管肉厚の約半分が減肉する結果となり,R の小さい伝熱管に対しては, 何らかの対策が必要であることを確認した. 一方, 前述の双方向ブラスト除染法の場合, 入口 / 出口を所定の時間の半分で切り替えて研削を行うため, 直接 A 点に研削材が衝突する時間が半減する. したがって, 過研削防止対策の観点からも双方向ブラスト除染法が有効な手法である. 図 7 ベント部外側減肉量確認試験結果 ( 曲率半径の小さなベンドの場合 ) 予備試験で明らかとなった課題の内, 過研削について, 条件的に厳しい曲率半径の小さなベントを対象にした減肉割合の経時変化を示すもの. 4.5 複数本同時除染概念前項において, 伝熱管 1 本当たりの研削時間の低減を図ることが出来たが, 一度に複数本の伝熱管を研削することが出来れば, 除染工期を更に短縮することが可能となる. 本項では, 複数本数に対して同時除染を実施するための方式を選定すると共に, その方式による同時除染設備の概念を構築した. なお, 本複数同時除染設備の概念は, 外部より受託した委託研究の中で構築したものである. 伝熱管の複数同時除染機構に対する要件としては, 管理区域での取付となり作業者のアクセスが制約されるため, 信頼性の高い機構であること, また, 狭隘な水室の中で複数台の設置が可能なこと, ならびに全域の伝熱管をカバーできることが要件となる. 機構の候補として,XY フィクスチャー方式, 旋回アーム方式, 管板上歩行ロボット方式, 多関節アーム方式を選定し, 比較を行った.

66 その結果, 駆動軸数が少なく, 構造, 制御仕様が単純で, 水室内に複数台の装置が設置可能であり, 全域の伝熱管にアクセス可能となる XY フィクスチャー方式を選定することとした. XY フィクスチャー方式を適用した場合の同時除染設備の概念を図 8に示す. 4.6 二次廃棄物発生量低減 ブラスト除染の場合, 二次廃棄物として主に発生するものは廃研削材と伝熱管内面から除去されたクラッドならびにクラッドとの分離が困難な破砕した研削材等である. この内, 量的に多いものは, 廃研削材であり, これらを低減することにより, 全体の二次廃棄物の低減に繋がる. 廃研削材の発生量を低減するためには, 繰り返して使用することが有効であり, 繰り返し使用できる回数の見極めを行うことが重要である. このため, 本項では, 同一の研削材を用い繰り返して研削試験を行い, 各部位での研削量の変化を確認した.( 図 9) その結果, 直管部では,10 回以上使用した場合でも, 性能が確保されているが, ベンド部では 3 回程度となる. したがってアルミナを用いたブラスト除染の場合, 少なくとも3 回の繰り返しは可能であり, ワンスルーでの使用に比較して廃研削材の発生量は 1/3 以下とすることが可能となる. 今後, 実運用等を考慮して最終的な二次廃棄物量の評価すると共に更なる低減を図っていく. 図 8 複数同時除染用ノズル案内装置概念 (XY フィクスチャ方式 ) 複数の伝熱管を同時に除染するための装置概念を示すもの. 図 9 研削材繰り返し使用試験結果二次廃棄物の発生量を評価するために必要となる研削材を繰り返し使用した場合の研削性能 ( 研削量 ) を示すもの. 5. まとめ 取替え蒸気発生器の解体処理 / 処分方策に係る基本的な考え方として, 伝熱管を除染した後解体を行い, 伝熱管については放射性廃棄物 (L2), 胴については, クリアランス廃棄物として再利用する基本的考え方を提示した. また, 取替え蒸気発生器を解体処理する際のキー技術となる伝熱管の除染技術として, アルミナを用いたブラスト除染を適用することにより, 伝熱管内面に付着した放射性物質に対する目標除染性能 ( 目標研削量 ) が得られることを確認した. また, 研削条件の適正化や双方向ブラスト除染法の適用等により, 目標研削量を確保しつつ, 研削時間の短縮, 研削の均一化, 過研削の防止ならびに二次廃棄物の低減について見通しを得ることができた. 今後, 解体 除染工事に向けて, 工法や装置の具体化を図っていく予定である. 参考文献 (1) 橋本健次, 粉体空気輸送における摩耗対策,( 株 )NTS,1989.