廃棄物焼却施設紹介 ( オランダアムステルダム市 Affval Energie Bedrijf) 欧州における廃棄物処理は 埋立処理が主流であったが埋立指令発効およびCO 2 排出削減という観点から 焼却処理が見直されてきている 今回訪問したアムステルダム市にある焼却施設 ( 写真右参照 ) は アムステルダム市の共同出資企業であるAfval Energie Bedrijfによって 廃棄物を最大限に利用した 施設運営がされており 発電効率 30% という驚くべき数値を達成している 今回 そちらの施設の見学をする機会を得たため その時に得た知見や同社が詳細に報告している報 1 告書やホームページ 2 を参照にしながら以下にとりまとめる 1. プラント仕様 1.1 Waste-to-Energy Plant 運転開始 :1993 年処理能力 :4 系列で 合計 2,800トン / 日 ( 設計時は2,400トン / 日 ) 汚泥含むエネルギー回収 :67MW(2004 年 53 万 MWhの発電量と15 万 GJの熱供給 ) 投資額 :4 億 5,000 万ユーロ処理廃棄物 : 一般廃棄物発電効率 :25%(2006 年 ) 1.2 Waste Fired Power Plant(WFPP) 運転開始 :2007 年 3 月処理能力 :2 系列で 合計 1,600トン / 日エネルギー回収 :57MW(42 万 MWhの発電量 ) 投資額 :3 億 7,000 万ユーロ処理廃棄物 : 産業廃棄物 ( 破砕済の紙やプラスチック ) 発電効率 :30%( 設計値 ) 上記の 2 つの施設は 同じ敷地内にはあるもののシステムは独立している 1 http://www.afvalenergiebedrijf.nl/bijlagen/value%20from%20waste.pdf 2 http://www.afvalenergiebedrijf.nl/main.asp -40-
図 WFPP 概略フロー 2. 歴史アムステルダム市における廃棄物焼却処理の歴史は約 80 年前までさかのぼる 従来の投棄処理に対する各種懸念から焼却処理が1919 年に採用された その後 人口増加に伴って廃棄物量が増加したことによる施設の処理能力不足や環境 安全面といった懸念が拡大し 1969 年に処理能力を倍増させたより効率的な施設を建設した なお この時初めて電気集じん器を設置した施設が建設された その後 1993 年にAfval Energie Bedrijf(AEB) が設立されアムステルダム市西部の港湾地区に Waste-to-Energy Plant が運転を開始し 下水汚泥を含めた施設の処理能力は年間 90 万トンにおよび 53 万 MWhの電力 15 万 6,000 世帯分の熱を供給することができるようになった そして 最新型の Waste Fired Power(WFPP) が Waste-to-Energy Plant の傍に建設され 2007 年 3 月より運転開始している Waste-to-Energy Plant との合計処理能力は 年間 90 万トンから150 万トンに引き上げられただけでなくWFPPの正味の発電効率を従来の 22% から30% にまで向上させ そして最新の主灰処理プロジェクトを実施するなど最先端の技術を採用している 2006 年のデータでは 年間 94 万 3,000トン余りの廃棄物 ( 下水汚泥含む ) が処理され 発電量は540MWh 供給熱量は21 万 6000GJとなっている 3. コンセプト WFPP 施設における使命は 環境面に配慮しながら最小の廃棄物処理コストによる最大の利益享受であり 廃棄物の最大限の利用 である 具体的には 廃棄物からは電力 熱 金属 建設資材がアウトプットされ 埋立処理割合は廃棄物のわずか1% 程度となっている そして メンテナンス期間を従来よりも短縮させてより多くの期間を廃棄物焼却処理にあてることで上記に示したアウトプット売却による利益を得ることができる -41-
3 図 WFPPにおけるリカバリー状況 4. 具体的な取り組み上記に示したコンセプトに従い WFPP 施設は各種の取り組みを実施している それらについて具体例を下記に示す 4.1 廃棄物確保 安定運転 廃棄物量の確保のために アムステルダム市だけでなく周辺の19の地方自治体と15 年契約を結び処理能力の95% にあたる廃棄物を確保している 廃棄物は トラック 鉄道 船舶による受入を行っている 4.2 発電量の最大化 発電を最大化させるために ボイラ圧力 温度を従来よりも高温 高圧化 (400 440 4.0 12.5MPa) を実現している それらを実現するために 腐食に強いボイラ材質 ( 高品質のニッケル クロム合金であるインコネル被膜 ) の採用や火格子構造 ( 前半部に水冷火格子の採用 ) に工夫をこらしている また 設計温度は440 であるが過熱器とエコノマイザ間に空きスペースがあり 管群として利用すれば480 まで対応可能である 上記以外の発電最大化のための対策として 原子力発電所のシステムを参考にした高圧蒸気タービン 低圧蒸気タービン間に再加熱器の設置 ( 下図参照 ) や排ガス中酸素濃度の低減による排ガス量低減 (4 割減 ) 排ガス中エネルギーの最大限の利用等を実施している 下水汚泥を利用したバイオガス発電施設も併設している ガス生産能力は 1 時間あたり約 1,000 立方メートルである 上記の対策により 正味の発電効率は従来の22% から30% へ上昇した 3 出典 :CEWAP2008 プレゼンテーション資料 -42-
図 WFPP の蒸気フロー 4 4.3 残渣利用 残渣中の各種リサイクル可能物質 ( 鉄 非鉄金属 建設資材 ) の分別利用を実施しており 現在 主灰処理においては鉄や各種非鉄金属 ( アルミ 銅 亜鉛 鉛等 ) 分別のための湿式分別技術開発プロジェクトを実施中で 2010 年より運転開始予定 排ガス処理について 電気集じん器 バグフィルタ スクラバーを利用しており バグフィルタ残渣以外は精製プロセスを経て塩や石膏等へ再利用されている 上記の残渣処理の結果 埋立処分されるのはバグフィルタ残渣のみで焼却処理量の 1% 未満となっている 4.4 メンテナンス効率向上 メンテナンス頻度を低減させるためには 定期的なボイラ灰の除去が必要であるが 冷却水噴霧 専用袋の破裂衝撃 ダイナマイトの使用を実施している 判断は 炉内温度変化を見極めて対策実施の時期を決定している 4.2 項に記載した腐食に強いボイラ材質 火格子構造の採用により長期間の連続運転が可能となった こうした取り組みにより 炉停止に伴うオーバーホール期間を従来の 年 1 回 5 週間 から 2 年に 1 回 3 週間 に短縮させている 4.5 環境面での配慮 廃棄物の輸送については なるべくCO 2 を排出しないためにトラック輸送よりも鉄道 船舶輸送を多く取り入れることで WFPP 施設建設に伴う廃棄物処理量は増加したもののトラック輸送距離は維持している 煙突から出される排ガス中の有害物質は99.9% 除去されており 常時監視している 監視できない有害廃棄物については 年 2 度独立した専門家に測定依頼している 4 出典 :CEWAP2008 プレゼンテーション資料 -43-
いかなる汚染排水も排出しておらず 処理後にスクラバー噴霧水として利用している 蒸気サイクルで利用される水は脱塩 ミネラル処理が実施される 土壌汚染対策としては ディーゼルタンクや主灰ピットの設計の見直し 汚染の早期確認のために周辺土壌に汚染検知用の地下探針を埋設している 感想今回の施設訪問において強く印象付けられたのは 最大限の熱 電力を供給すること 最小限の処分残渣しか排出しないことを強く意識して設計 運営していることである それは ボイラに高価な部材を使用させ発電に適した運転状態を維持し そしてメンテナンス頻度をできるだけ延命化させて稼働時間を長く確保していること 主灰処理から鉄 アルミだけでなく他の有価金属を分別するための技術開発を目指していること 排ガス処理も電気集じん器 バグフィルタ スクラバーを設置して処分残渣はバグフィルタ灰からしか発生させていないこと等 多数見受けられた そうすることで 廃棄物焼却施設が廃棄物発電所 熱 有価物供給施設となり 利益を得るだけでなくCO 2 排出削減にもつながる 日本との違いについては 設計 建設 運営のすべてを考慮して 日本ではあまり採用されないような材質 構造 システムを採用していたことである それについて ボイラに高価な材質を採用している点について伺ったところ 確かに高価であったが メンテナンス期間短縮による売上げ減少も含めた全体コストを考慮して採用した と回答されたのが印象的であった -44-