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精神医学研究 教育と精神医療を繋ぐ 双方向の対話 10:00 11:00 特別講演 3 司会 尾崎 紀夫 JSL3 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野 AMED のミッション 情報共有と分散統合 末松 誠 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 11:10 12:10 特別講

別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

平成30年度精神保健に関する技術研修過程(自治体推薦による申込研修)

安静状態の脳活動パターンが自閉症スペクトラム傾向に関与している

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01 表紙

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

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ただし 対象となることを希望されないご連絡が 2016 年 5 月 31 日以降にな った場合には 研究に使用される可能性があることをご了承ください 研究期間 研究を行う期間は医学部長承認日より 2019 年 3 月 31 日までです 研究に用いる試料 情報の項目群馬大学医学部附属病院産科婦人科で行

抗精神病薬の併用数 単剤化率 主として統合失調症の治療薬である抗精神病薬について 1 処方中の併用数を見たものです 当院の定義 計算方法調査期間内の全ての入院患者さんが服用した抗精神病薬処方について 各処方中における抗精神病薬の併用数を調査しました 調査期間内にある患者さんの処方が複数あった場合 そ

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3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 ④ 3 理学的および生化学的検査 身長 体重 体温 脈拍 血圧などの測定とともに 心電図およ び血液生化学的検査を施行し生体の病的状態の有無を評価してお く 脳波 CT MRI SPECT PET NIRS 等も必要に応じて施行 する 2 薬物療法の実際 ① 適切な薬剤

発達障害

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プレスリリース原稿案_final

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2. 身体障がいの状況 (1) 身体障がいの種別 ( 主な障がいの部位 ) 平成 28 年 6 月 30 日現在の身体障害者手帳所持者の身体障がいの種別 ( 主な障がいの部位 ) をみると 肢体不自由が 27,619 人 (53.3%) と全体の過半数を占めて最も多く 次いで 内部障がいが 15,9

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( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

26 年度後期時間割 時限は下記の通り 11 8:50~10: :30~12: :00~14: :50~14: :40~16: :30~16: :20~17:50 時限の例 開始時限が11で終了時限が11の場合は8:

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 精神医学の概念 精神医学の方法論と 精神障害の成 因と分類を理解する 3 精神疾患の診断法 診断の手順と方法 症状把握 検査 法について理解する 4 精神疾患の理解 1 症状性および器質性精神疾患 5 精神疾患の理解 2 精神作用物質による精神障害 6 精神疾患

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専門)精神医学 単位数履修方法配当学年 4 単位 R or SR 3 年以上 科目コード CQ4140 担当教員松江克彦 ( 上 ) 平成 26 年度より R or SR 科目に変更され スクーリングが開講されています スクーリングは別教員 ( 滝井泰孝先生 左 西尾雅明先生 中 高野毅久先生 右

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改訂後 ⑴ 依存性連用により薬物依存を生じることがあるので 観察を十分に行い 用量及び使用期間に注意し慎重に投与すること また 連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により 痙攣発作 せん妄 振戦 不眠 不安 幻覚 妄想等の離脱症状があらわれることがあるので 投与を中止する場合には 徐々に

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た 18 歳以上の AD/HD 患者を対象に 日本人を含むアジア人によるプラセボ対照二重盲検比較試験及びその長期継続投与試験が現在実施されており 本剤の製造販売者によれば これらの試験成績に基づき 本剤の成人期 AD/HD 患者への追加適応に関する承認事項一部変更承認申請が行われる予定とされている

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

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インフルエンザ定点以外の医療機関用 ( 別記様式 1) インフルエンザに伴う異常な行動に関する調査のお願い インフルエンザ定点以外の医療機関用 インフルエンザ様疾患罹患時及び抗インフルエンザ薬使用時に見られた異常な行動が 医学的にも社会的にも問題になっており 2007 年より調査をお願いしております


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審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

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Transcription:

[ 記者発表資料 ] 2014 年 10 月 30 日 自閉スペクトラム症へのオキシトシン経鼻スプレーの治療効果を検証する臨床試験をスタートします 1. 出席者 : 山末英典 ( 東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻 / 東京大学医学部附属病院精神神経科准教授 ) 岡田俊 ( 名古屋大学医学部附属病院親と子どもの心療科准教授 ) 棟居俊夫 ( 金沢大学子どものこころの発達研究センター特任教授 / 金沢大学附属病院子どものこころの診療科長 ) 小坂浩隆 ( 福井大学子どものこころの発達研究センター特命准教授 ) 加藤忠史 ( 文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム プログラムオフィサー ) 2. 発表のポイント 自閉スペクトラム症における対人場面でのコミュニケーションの障害についてオキシトシン経鼻スプレーの有効性と安全性を検証する医師主導の臨床試験を多施設で連携して行います これまでに少人数での検討で明らかになったオキシトシンの効果の強さに基づいて 今回 このオキシトシンの効果を検証するための大規模な臨床試験を行います 今回の臨床試験により良い結果が得られた場合でも オキシトシン経鼻スプレーが医療に用いられるようにするには さらなる開発計画を進めていく必要があります 3. 発表概要 : 自閉スペクトラム症 ( 用語解説 1) は 表情や声色を活用して相手の気持ちを汲み取ることが難しいといった対人コミュニケーションの障害を主な症状とし 一般人口の 100 人に 1 人以上で認められる代表的な発達障害ですが その治療法は確立されていません 東京大学の山末英典准教授らは 金沢大学 ( 責任医師 : 棟居俊夫特任教授 ) 名古屋大学( 責任医師 : 岡田俊准教授 ) 福井大学( 責任医師 : 小坂浩隆特命准教授 ) との共同研究チームにより 医師主導臨床試験 ( 用語解説 2) を行って 自閉スペクトラム症における対人コミュニケーションの障害に対する初の治療薬として期待されるオキシトシン ( 用語解説 3) 経鼻スプレーの有効性と安全性を検証します また 医師による診察に加え 視線計測 表情や音声の定量解析 遺伝子解析などを行い 治療効果予測マーカーの確立や 治療効果の分子メカニズムの検討なども行います 臨床試験は HP(6. 発表内容 臨床試験の計画 参照 ) で公開している基準を満たす 120 名程度の方の参加を予定して募集を始め 平成 26 年 11 月に開始して平成 27 年度中に終了する予定です 今回の臨床試験は 少人数での検討で示された対人場面でのコミュニケーションの障害そのものに対する効果を大規模な試験を行って検証するものです 今回の臨床試験の結果により オキシトシンを医療に用いることを可能にする開発計画が進むことが期待されます なお 本研究は 文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム の 精神 神経疾患の克服を目指す脳科学研究 ( 課題 F): 発達障害研究チーム ( 拠点長 : 名古屋大学 尾崎紀夫 ) の一環として行われます

4. 発表内容 : 臨床試験の背景 自閉スペクトラム症 ( 自閉症スペクトラム障害 ) は (1) 対人場面でのコミュニケーションの障害 (2) 同じ行動パターンを繰り返して行なうことを好み 変化への対応が難しいという常同性 反復性を幼少期から認めることで診断されます 自閉スペクトラム症は 100 人に 1 人程度と頻度の高い障害であることが知られてきています 自閉スペクトラム症の治療は 従来の薬物療法によって上記の 2 つの主要な症状よりも不安や抑うつ ( 気分の落ち込みや意欲の低下など ) および強迫症 ( 自分の意図に反して繰り返し浮かんでくる強迫観念など ) などの併発した症状を対象にしています 2 つの主要な症状に対しての有効な治療は乏しいものの 常同性 反復性に関してはその関連症状でもある強迫症に対して一部の抗うつ薬などの効果が認められます しかし 対人場面でのコミュニケーションの障害については薬物療法がなく 平均以上の知能を有する方でも社会生活の破綻をきたす最大の原因となっています 実際には対人場面でのコミュニケーションの障害のために社会生活の破綻をきたして 二次的に不安や抑うつを呈することが多いにもかかわらず この症状への有効な治療が今のところ確立されていない現状があります 本臨床試験で用いるオキシトシンは 脳から分泌されるホルモンで 女性での乳汁分泌促進や子宮平滑筋収縮作用が広く知られています 日本では注射剤のみが認可されており 陣痛誘発 分娩促進などに保険適応が認められています 一方 経鼻スプレー製剤はヨーロッパで認可され 授乳促進の目的で使用されています このオキシトシンは 授乳促進や子宮平滑筋収縮作用の他に 脳の中でも作用していることが指摘されていました 動物では 親子の絆を形成する上でオキシトシンの働きが重要だと知られているとともに 人でも 健常な成人男性への経鼻スプレーを用いたオキシトシンの投与によって 他者と有益な信頼関係を形成して協力しやすくなること 表情から感情を読み取りやすくなること などが報告されました 平成 22 年 5 月には金沢大学棟居俊夫特任教授らが 平成 24 年 8 月には福井大学小坂浩隆特命准教授らが それぞれ別の自閉スペクトラム症の症例で オキシトシン経鼻スプレーの長期継続投与で社会性障害などの症状が改善した可能性を報告しました また 平成 25 年 12 月に東京大学山末英典准教授らは 自閉スペクトラム症の方 40 名での医師主導臨床試験で オキシトシンの 1 回の経鼻投与によって他者の感情を理解する方法やその際の脳活動などが改善したことを報告しました (http://www.h.u-tokyo.ac.jp/press/press_archives/20131219.html) その後 オキシトシン経鼻スプレーの長期継続投与が自閉スペクトラム症の方の症状を改善させるかを調べる医師主導臨床試験も金沢大学 福井大学 東京大学でそれぞれ行われてきました そして 東京大学で 20 名の方に参加して頂いて行われた 6 週間の連続投与の結果から 120 名程度の方に参加して頂く臨床試験を行うことで有効性を検証できると考えられました 臨床試験の計画 これらの結果を受けて今回 文部科学省 脳科学研究戦略推進プログラム は 課題 F 参画機関である 東京大学 金沢大学 名古屋大学 福井大学の共同研究チームを立ち上げ 120 名程度の自閉スペクトラム症の方を参加者として募集し オキシトシンまたはプラセボを6 週間投与することによって対人場面でのコミュニケーションの障害という症状そのものが改善するかどうかを検証します なお 本臨床試験を進めるためのとりまとめや参加受付 データや試験薬の管理等は東京大学の山末英典准教授らが対応します

臨床試験の参加には一定の基準を設定しているため 参加前に以下を確認させて頂きます 1) 年齢 ( 基準 :18 歳以上 55 歳未満 ) 2) 性別 ( 基準 : 男性 ) 3) 自閉スペクトラム症の診断 ( 基準 : 自閉性障害 アスペルガー障害 または特定不能の広汎性発達障害の診断がなされていること ) 4) 知能指数 ( 基準 : 正常以上 ) ただし 以下の条件に該当する場合には参加対象になりません A) 自閉スペクトラム症以外の精神科診断が優勢 B) 気分障害 不安症などの併発精神疾患の病状が不安定 C) 1ヶ月以内に向精神薬 ( 用語解説 4) の処方に変更があった D) 2 種類以上の向精神薬の内服 E) ADHD( 注意欠如 多動症 )( 用語解説 5) 治療薬 ( ストラテラまたはコンサータ ) を服薬中 F) オキシトシン連続投与の治療歴 G) オキシトシンに対する過敏症の既往 H) てんかん発作または5 分以上の意識障害を伴う頭部外傷の既往 I) アルコール関連障害または物質関連障害の既往 また 臨床試験では10 11 週間の期間に少なくとも7 回来院して頂くため 地理的条件によって割り振られたいずれかの実施機関に通院が可能な方に限られます 臨床試験は 平成 26 年 11 月に試験を開始して 平成 27 年度中に試験を完了する予定です 臨床試験に関する詳細は下記のとおりです 臨床試験実施施設 : 東京大学医学部附属病院 名古屋大学医学部附属病院 金沢大学附属病院 福井大学医学部附属病院 臨床試験の情報は HP でご案内します 参加希望者は HP で参加基準をご確認ください 東京大学医学部精神医学教室 HP 内 自閉スペクトラム症へのオキシトシン経鼻スプレーの臨床試験 (URL)http://npsy.umin.jp/oxytocin.html 臨床試験への応募 質問は FAX または E-mail で受け付けます ( オキシトシン臨床試験募集事務局 ) E-mail:oxytocin-project@umin.ac.jp FAX:03-5800-9553

自閉スペクトラム症へのオキシトシン経鼻スプレーの臨床試験 HP は全ての実施施設の HP からもアクセスできます 名古屋大学 金沢大学 福井大学 医学部附属病院 HP 病院からのお知らせ (URL)http://www.med.nagoya-u.ac.jp/hospital/ 附属病院 HP トピックス (URL)http://web.hosp.kanazawa-u.ac.jp/index.html 子どものこころの発達研究センター HP (URL)http://kodomokokoro.w3.kanazawa-u.ac.jp/ 子どものこころの発達研究センター HP (URL)http://www.med.u-fukui.ac.jp/cdrc/ 医学部精神医学領域 HP (URL)http://seisin.med.lab.u-fukui.ac.jp/ja/ 臨床試験終了後の展望 解析した結果から有効性や安全性が示されても オキシトシンが薬として認められるまでには さらなる開発計画が必要となります 今回の臨床試験の目標は オキシトシンを自閉スペクトラム症における対人コミュニケーションの障害の治療薬として開発を進めることの妥当性を検証するとともに 今後の臨床試験の際に用いるべき治療効果予測マーカーを確立することです そのため 今回は成人男性で知的障害のない方のみを対象にしていますが 将来的には お子さんや女性の方 知的障害を併発する方の診療にも用いることができるように開発の計画を立てています 7. 報道機関からの問合せ先 : 東京大学 東京大学医学部附属病院パブリック リレーションセンター ( 担当 : 小岩井 渡部 ) 電話 :03-5800-9188( 直通 )/E-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp 名古屋大学 名古屋大学医学部 医学系研究科総務課総務掛電話 :052-744-2228/FAX:052-744-2785/E-mail:iga-sous@adm.nagoya-u.ac.jp 金沢大学 総務部広報室 ( 担当 : 本庄 ) 電話 :076-264-5024 ( 直通 )/E-mail:koho@adm.kanazawa-u.ac.jp 医薬保健系事務部総務課医学総務係 ( 担当 : 萬道 ) 電話 :076-265-2100 ( 直通 )/E-mail:t-isomu@adm.kanazawa-u.ac.jp 福井大学 福井大学総合戦略部門広報室 ( 担当 : 中川 ) 電話 :0776-27-9973/E-mail:sskoho-k@ad.u-fukui.ac.jp 文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムに関するお問合せ先 脳科学研究戦略推進プログラム事務局 ( 担当 : 丸山 ) 電話 :0564-55-7804/FAX:0564-55-7805/E-mail:srpbs@nips.ac.jp

9. 用語解説 : 1) 自閉スペクトラム症 ( 自閉症スペクトラム障害 ) 従来の自閉症からアスペルガー障害や特定不能の広汎性発達障害までを含む概念です 自閉症的な特性は 重度の知的障害を伴った自閉症から 知的機能の高い自閉症を経由し 自閉スペクトラム症の症状を持ちながらも症状の数が少なく程度も軽い正常範囲の人まで続くスペクトラムを形成するという考えに基づいています 2) 医師主導臨床試験実際の診療に携わる医師が医学的必要性 重要性に鑑みて 立案 計画して行う 臨床試験 です 製薬会社などが行う新薬の安全性 有効性を調べ 厚生労働省の承認を得るための 臨床試験 いわゆる 治験 とは異なります 3) オキシトシン脳の下垂体後葉から分泌されるホルモンで 従来は子宮平滑筋収縮作用を介した分娩促進や乳腺の筋線維を収縮させる作用を介した乳汁分泌促進作用が知られていました しかし一方で男女を問わず脳内にも多くのオキシトシン受容体が分布していることが知られ 脳への未知の作用についても関心が持たれていました そうした中 健康な大学生などを対象とした研究において 他者と信頼関係を築きやすくする効果などが報告されて注目を集めていました 4) 向精神薬精神に作用する薬剤の総称で 抗不安薬 睡眠薬 抗うつ薬 抗精神病薬 気分安定剤 精神刺激薬などの薬剤も含まれます 5)ADHD( 注意欠如 多動症 ) 自閉スペクトラム症と並んで代表的な発達障害で 注意を維持しにくく 見落としや聞き落としが多く 不注意ミスや忘れ物が多い じっとしていることが難しい といった症状が小児期から認められます