用地測量の成果を活用した地籍整備 の推進に向けた取組について 難波英行 用地部用地対策課 ( 950-8801 新潟県新潟市中央区美咲町 1-1-1) 国土調査法に基づく地籍調査は 昭和 26 年から事業主体である市町村によって開始され 徐々に実績を上げてきているものの 現在 その進捗率は全国平均で約 50% となっている 地籍調査は土地をめぐる行政活動 経済活動の全ての基礎となるものであり いずれは全国で100% 実施しなければならない 地籍調査の進捗を上げるための他の手法として 公共用地の取得のための用地測量の成果を活用する取組が平成 24 年度から始まったことから その内容について紹介を行うものである キーワード 地籍調査用地測量の成果国土調査法第 19 条第 5 項 1. はじめに 地籍調査とは国土調査法 ( 昭和 26 年法律第 18 0 号 ) に基づく国土調査の一つで 主に市町村が主体となって 一筆ごとの土地の所有者 地番 地目を調査し 境界の位置と面積について測量を行い その結果を地図 簿冊に取りまとめることである 当該制度が誕生してから60 年以上経過しており その進捗については 全国平均で約 50% の進捗 ( 平成 24 年 3 月末時点 ) であるが 財政的 人員的負担などの理由から 市町村によってバラツキが生じている そこで 地籍の整備率を上げるために 平成 24 年度から公共用地の取得のための用地測量の成果を活用する取組が始まったものである る地籍 ( 地番 地目 境界 面積 所有者 ) を明らかにし 土地の取引等が円滑に行われるようにすることである 通常 地籍は登記所が保管している登記簿や地図に記録されている これらの記録は 明治時代に作成されたものが地籍調査等により随時正確なデータに代わりつつあるものの 現在でも当時のまま保管されているものが40% 以上を占めている ( 平成 2 2 年 4 月 1 日時点 ) 明治時代における地図を作成するための測量技術は現在と比べれば劣っているため 当時の地籍は現地と大きく食い違っている そのような地籍が正確なものに修正されることなく現在に至っているため 土地に関わる行政活動や経済活動に支障を来したり 無駄を生じたりしている このような状況を改善していくのが地籍整備である 2. 地籍調査について (1) 地籍調査の目的 地籍調査の目的は 土地の最も基礎的な情報であ (2) 地籍調査の方法地籍調査の実施主体は市町村であるが 都道府県と協議し 事業計画を定めながら進めていくものである
主な手順は以下のとおり 1 住民への説明会 2 一筆地調査土地所有者等の立会いにより 境界等の確認を行う 3 地籍測量 4 地籍図等作成地籍測量の成果を基に正確な地図を作り 面積を測定する 5 成果の閲覧 確認 6 登記所への送付登記所では 登記簿が書き改められ 地籍図が備え付けられる ( 明治時代の古い地図から最新の測量技術によって作成された正確な地図に差し替えられる ) (4) 地籍調査の効果地籍調査を実施した結果 地籍 ( 土地の地番 地目 境界 面積 ) が正確なものになるため 次のような効果が生まれる 1 境界紛争の未然防止 2 土地の取引や相続の円滑化 3 登記手続の簡素化 費用縮減 4 土地の流動化や有効利用の推進 5 各種公共事業の効率化 コスト縮減 6 公共物管理の適正化 7 災害復旧の迅速化 8 課税の適正化 公正化 明治時代の地図( 例 ) (3) 国土交通省の取組地籍調査を促進するため 国土交通省としては以下のような基本調査を行っている 1 都市再生街区基本調査官民境界等に関する資料の収集や街区基準点の整備等 都市部において平成 16~18 年度に実施された基本調査である これにより 地籍調査の着手前に登記所の地図と現地とのズレを把握することができたり また 街区基準点を活用することにより 地籍調査の測量を円滑に進められるようになった 2 土地活用促進調査中心市街地などにおいて 全ての街区の屈曲部分について調査 測量を行うことにより 街区の形状を把握するものであり 平成 19~2 1 年度に実施されている 上記 1 2の基本調査は既に実施済みのものであるが その他に現在も進められている取組としては 基準点測量 進捗が遅れている都市部や山村部における 都市部官民境界基本調査 山村境界基本調査 があり いずれも地籍調査が円滑に進むようにするために行われるものである 地籍整備後の地図( 例 ) (5) 地籍調査の現状 課題 (4) 地籍調査の効果 で挙げたように地籍調査を実施すれば 土地に関する様々なメリットを期待で
きるが 昭和 26 年からスタートしたこの取組の現 在の状況については 以下のとおりである 1 進捗率平成 23 年度末時点において 全国の約 8 割が地籍調査に着手しており そのうち約 2 割の市町村は既に調査を完了し その成果を利活用している 全国ベースでは 国有林等を除いた要調査面積の50% において地籍調査が終了している 2 課題上記 1のように地籍調査が開始されてから6 0 年以上経過した中で 全国で50% という進捗率は低いと言わざるを得ない 進捗が進まない要因としては 実施主体である市町村の財政的 人員的事情が考えられる しかし だからと言って財政的 人員的環境が整うのを待ちながら 地籍調査を進めていけばいいというわけでもなく ますます緊急性が高まっている状況となっている なぜなら 地籍調査への着手が遅れれば遅れるほど 土地境界の調査に必要な 人証 や 物証 が失われ 調査が難しくなっていくからである かつての地域社会では 土地の境界について相互承認がなされ 境界を示す目的や約束事についても周知されていた 例えば 山林部では境界線上の植林木を狭い間隔で植え 所有者が互いに屋号等を記載することで 境界を明らかにしていた ところが 時間の経過とともに このような境界の目印を認識する人や境界を決めた経緯を知る人が少なくなっていき たとえ相続登記を行って登記簿の名義を変えたとしても その明確な土地の範囲まで知らないまま引き継がれるようなことも起こっていると思われる 特に 過疎化 高齢化の進む山村部では 今の時点で地籍を明確にしておかないと将来取返しのつかない事態になってしまうという危惧が高まっている 3. 用地測量について (1) 用地測量の目的 方法公共用地の取得に伴う用地測量は 道路敷や堤防敷等事業に直接必要となる土地について 所在 所有者 境界 面積等を調査し 用地実測図に表記するのが主な目的である 用地測量の手順は以下のとおり 1 登記所備付けの地図や登記情報等から 土地所有者等を調査する 2 土地所有者による境界立会 3 境界測量等 4 用地実測図作成 (2) 用地測量の成果用地測量の成果の主たるものは 用地実測図である そこには (1) でも述べたとおり 事業に必要な土地の所在等が表記され 境界立会いに基づく確認が行われている なお 用地測量は公共測量作業規程に基づいて作業が進められるものであり 作成された用地実測図の精度 正確さは国土調査と同等であると言える 4. 用地測量成果の地籍整備への活用について (1) 背景 2.(4) 地籍調査の現状 課題で述べたように 地籍調査の進捗は低い状況である一方 土地境界調査の手がかりとなり得る 人証 や 物証 が時間の経過とともに少なくなってしまうことから 早く進めていかなければならない点が問題と言える この点については 国会等においても議論されている
国土調査促進特別措置法等の一部改正が行われた際の附帯決議 ( 平成 22 年 3 月 ) 公共事業等の関係部局との緊密かつ適正な連携により 国土調査の一層の推進を図ること 国土交通省行政レビュー( 平成 22 年度 ) ( 地籍調査は ) 取引等の機会をとらえた取組により効率化できないか検討 国土調査のあり方に関する検討小委員会報告書 ( 平成 21 年 ) 公共事業や民間開発事業等の測量成果を地籍整備に有効に活用できていないという問題がある このように 地籍調査が進んでいないのであれば 地籍調査以外の測量成果を使って進捗を上げればいいという議論が活発になってきたところである その手法の一つが国土調査法第 19 条第 5 項に基づく手続きである (2) 国土調査法第 19 条第 5 項国土調査法第 19 条第 5 項とは 国土調査以外の他の事業 ( ほ場整備 土地区画整理 都市計画事業等 ) によって作成された測量図について その精度 正確さが国土調査と同等以上の場合に 当該成果を国土交通大臣等が指定することにより 国土調査の成果と同等に扱うことができることとしている これを 19 条 5 項指定 という 国土調査法 ( 昭和二十六年法律第百八十号 )( 抄 ) ( 成果の認証 ) 第十九条 ( 略 ) 2~4 ( 略 ) 5 国土調査以外の測量及び調査を行った者が当該調査の結果作成された地図及び簿冊について政令で定める手続きにより国土調査の成果としての認証を申請した場合においては 国土交通大臣又は事業所管大臣は これらの地図及び簿冊が第二項の規定により認証を受けた国土調査の成果と同等以上の制度又は正確さを有すると認めたときは これらを同項の規定によって認証された国土調査の成果と同一の効果があるものと指定することができる 6 ( 略 ) 国土調査法に基づく地籍調査 ( 以下 地籍調査 という ) 以外の他の事業については 特に限定はなく 測量の成果に地籍調査と同等以上の精度 正確さがあると認められれば 原則として全て19 条 5 項指定を受けることができる 19 条 5 項指定を受けた測量成果は 登記所へ送付され 不動産登記法第 14 条に規定する地図として明治時代の古い地図 ( 旧土地台帳附属地図 ) から差し替えられる そこで 地籍調査以外の事業として 公共用地の取得に伴う用地測量の成果についても19 条 5 項指定を受け 登記所の古い地図を正確なものに差し替えようとする取組 ( 用地測量成果の地籍整備への活用 ) が平成 24 年度から始まった (3) 用地測量成果の19 条 5 項指定用地測量の成果について 19 条 5 項指定を受けるには 通常の用地測量に加えて 以下の作業が必要となる 1 登記所への情報提供用地測量の成果を登記所に備えることについて 管轄登記所と事前に調整を行う 2 土地所有者等への趣旨説明
通常の事業説明等に併せて 用地測量の成果を登記所に備え付ける予定である旨も伝達する 3 境界立会い登記名義人が死亡している場合 境界立会いには相続人全員の立会いが必要となり 代理人が出席する場合には 委任状が必要となる 4 測量基準点の精度の確保用地測量の与点とする基準点は 十分な精度が求められる 5 登記所送付用地図の作成 6 申請書等の作成国土調査法第 19 条第 5 項の規定に基づき 国土交通大臣へ指定の申請を行うために作成する 以上のように 19 条 5 項の指定を受けるには 相続人全員の境界立会の委任状徴集 基準点の精度など 用地測量の仕様書が求めるレベルを若干超える部分がある (4) 用地測量成果の活用によるメリット (3) のように従来の用地測量に若干の手間を加えることにより 国土調査法第 19 条第 5 項の指定を受けた成果が登記所に備え付けられた場合 起業者にとってどのようなメリットがあるか 通常 用地実測図は登記所の地図が地図に準ずる図面 ( 以下 公図 という ) であっても 公図と一定の整合がとれていることが求められる 公図が現地と大きく食い違っている場所を用地測量する場合 登記所及び各土地所有者との調整に時間と労力を要することもある 場合によっては 登記所から地図訂正を求められ 分筆登記の際に通常より多くの登記所提出書類を作成し 土地所有者から署名 捺印を得なくてはならない しかし 用地測量の成果が国土調査法第 19 条第 5 項の指定を受け 登記所に備え付けられれば その成果は従来の公図に代わるため 公図との整合を図ることに苦労しなくて済むようになる 用地測量に基づく新しい地図に差し替えられた後に 分筆登記を行うことになるため 地図訂正も必要なく 従来よりもスムーズに分筆登記が完了する 5. 北陸地方整備局の取組 公共用地の取得に伴う用地測量の成果を地籍整備に活用することについて 北陸地方整備局の取組状況は以下のとおりである 1 北陸地方整備局管内各事務所への周知措置 2 平成 24 年度用地測量発注予定の調査及び活用の指導 3 砂防事業における用地測量の成果について 国土調査法第 19 条第 5 項の指定を受ける方針を確認 用地測量成果の納品が年度末となるため 平成 25 年度に申請することとした 4 砂防事務所において 用地測量の成果を登記所に備え付けることについて 登記所と調整を行った その結果 測量する範囲を全て対象とするのではなく 既に地籍調査済の範囲及び広大地は除く部分について 古い地図を差し替えることにした 5 基準点測量の審査用地測量の基準点は 国家座標による十分な精度が求められるため 砂防事務所が実施した基準点測量成果については 国土地理院の審査を受け ( 適正な精度であることを証明する ) 審査書を受領した 6 用地測量の実施登記名義人が亡くなっている土地については 相続人を確認し 相続人が複数存在する場合には 全員から境界確認印を得た また 申請書添付書類の一つに 指定申請調査簿 があり 対象となる土地について 調査前及び調査後の地番 地目 地積等を記載するものであるが その記載内容について 土地所有者の確認を得た 7 平成 25 年 4 月 砂防事務所から北陸地方整備局への19 条 5 項申請書の提出を受け 申請書の内容確認後 平成 25 年 5 月に北陸地方整
備局から国土交通省土地 建設産業局地籍整備課へ19 条 5 項申請書を提出した 6. まとめ以上のように 公共用地の取得に伴う用地測量の成果を地籍整備に活用する取組は 用地職員にとっては一つ手間が増えるものの 19 条 5 項指定に必要な条件を満たせば 順調に進んでいくように思われる しかし 課題もある 通常 地籍調査の範囲は 一定の地区を単位とするため 面的に実施されるものである ところが 公共用地の取得に伴う用地測量を実施 する範囲は 道路 堤防 砂防事業等に必要となる土地であるため 線的になるケースが多い その結果 同じ地区内において 地籍が整備されたところと整備されないところが生じることから 土地所有者から面的な地籍調査でない手法に対する理解が得られない場合もある 地籍整備には様々な効果が期待されるため 土地所有者等に対しては それらの効果をきちんと伝えることができれば きっと理解を得られるだろう また 特に直轄の起業者が地籍整備を推進していくという意識を持って当該取組を進めることが重要と考える その中でより効率的な手順が模索され いずれは自治体の起業者も取組やすくなるような環境ができて 地籍整備の進捗が上がっていくことを期待したい