研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

研究の背景これまで, アルペンスキー競技の競技者にかかる空気抵抗 ( 抗力 ) に関する研究では, 実際のレーサーを対象に実験風洞 (Wind tunnel) を用いて, 滑走フォームと空気抵抗の関係や, スーツを含むスキー用具のデザインが検討されてきました. しかし, 風洞を用いた実験では, レー

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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本研究は 日本医療研究開発機構 (AMED) 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト ( 平成 27 年度に文部科学省により移管 ) 臨床と基礎研究の連携強化による精神 神経疾患の克服 ( 融合脳 ) 科学研究費助成事業 新学術領域研究 科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

学位論文の要約

腹側被蓋野 中脳橋被蓋 拡張網様体賦活系 (ERTAS) 傍腕核 中脳 橋 青斑核 中脳で輪切りにすると 5. 情動で説明した SEEKINGシステムの出発点である中脳腹側被蓋野がここに位置し その背後 縫線核の上部辺りに中脳橋被蓋という部分があります 網様体 縫線核延髄 4. 意識とエヒ ソート

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

2013_ここからセンター_発達障害

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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論文の内容の要旨

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

平成20年5月20日

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

報道関係者各位 2019 年 1 月 17 日 国立大学法人筑波大学 株式会社 MCBI 認知機能の低下を評価する有効な血液バイオマーカーの発見 認知症発症の前兆を捉える 研究成果のポイント 1. アルツハイマー病など認知症の発症に関わる3 種類のタンパク質の血液中の変化が 軽度認知注障害 (MCI

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

ス ペ クト ドパミン神経の状態をみるSPECT検査 検査の受け方 診察を受けます 疑問や不安がありましたら 納得が 検査前 ス ペ クト いくまで確認しておきましょう 新しいSPECT検査 検査の予約をしてください 検査に使う薬は検査当日しか 使えませんので 確実に来られる 日に予約してください

PRESS RELEASE (2016/11/22) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

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統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

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報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

第四問 : パーキンソン病で問題となる運動障害の症状について 以下の ( 言葉を記入してください ) に当てはまる 症状 特徴 手や足がふるえる パーキンソン病において最初に気づくことの多い症状 筋肉がこわばる( 筋肉が固くなる ) 関節を動かすと 歯車のように カクカク と軋む 全ての動きが遅くな

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

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血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 に関する説明書 一般財団法人脳神経疾患研究所先端医療研究センター 所属長衞藤義勝 この説明書は 血液 尿を用いたライソゾーム病のスクリーニング検査法の検討 の内容について説明したものです この研究についてご理解 ご賛同いただける場合は, 被

抗精神病薬の併用数 単剤化率 主として統合失調症の治療薬である抗精神病薬について 1 処方中の併用数を見たものです 当院の定義 計算方法調査期間内の全ての入院患者さんが服用した抗精神病薬処方について 各処方中における抗精神病薬の併用数を調査しました 調査期間内にある患者さんの処方が複数あった場合 そ

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

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報道関係者各位 平成 29 年 10 月 30 日 国立大学法人筑波大学 ディンプル付きサッカーボールの飛び方 ~サッカーボール表面におけるディンプル形状の空力効果 ~ 研究成果のポイント 1. サッカーボール表面のディンプル形状が空力特性に及ぼす影響を 世界に先駆けて示しました 2. サッカーボー

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

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現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

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NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

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第三問 : 認知症の主な症状にどのようなものがあるか 下枠に二つ記入してください 例 ) 同じことを何度も言うなど ( 答えはたくさんあります ) 例 ) ささいなことで怒るなど ( 答えはたくさんあります ) 第四問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには

(1) ビフィズス菌および乳酸桿菌の菌数とうつ病リスク被験者の便を採取して ビフィズス菌と乳酸桿菌 ( ラクトバチルス ) の菌量を 16S rrna 遺伝子の逆転写定量的 PCR 法によって測定し比較しました 菌数の測定はそれぞれの検体が患者のものか健常者のものかについて測定者に知らされない状態で

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平成 30 年 ( 受 ) 第 269 号損害賠償請求事件 平成 31 年 3 月 12 日第三小法廷判決 主 文 原判決中, 上告人敗訴部分を破棄する 前項の部分につき, 被上告人らの控訴を棄却する 控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする 理 由 上告代理人成田茂ほかの上告受理申立て理由第

報道関係者各位 平成 29 年 1 月 17 日 国立大学法人筑波大学 短時間の運動で記憶力が高まる ヒトの海馬が関連する機能の働きが 10 分間の中強度運動で向上! 研究成果のポイント 分間の中強度運動によって 物事を正確に記憶するために重要な 類似記憶の識別能力 が向上することを ヒ

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

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リリース先 大阪科学 大学記者クラブ 枚方市政クラブ 報道解禁日(日本時間) Web 11 月 20 日 金 午前 2 時 新聞 11 月 20 日 金 付朝刊 報道機関各位 2015 年 11 月 16 日 本学附属生命医学研究所 小早川研究員ら 恐怖を引き起こす 匂い を開発し 恐怖の制御メカニ

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研究の背景 1 細菌 ウイルス 寄生虫などの病原体が人体に侵入し感染すると 血液中を流れている炎症性単球注と呼ばれる免疫細胞が血管壁を通過し 感染局所に集積します ( 図 1) 炎症性単球は そこで病原体を貪食するマクロファ 1 ージ注と呼ばれる細胞に分化して感染から体を守る重要な働きをしています

Ⅰ 向精神薬の合理的な用い方 ④ 3 理学的および生化学的検査 身長 体重 体温 脈拍 血圧などの測定とともに 心電図およ び血液生化学的検査を施行し生体の病的状態の有無を評価してお く 脳波 CT MRI SPECT PET NIRS 等も必要に応じて施行 する 2 薬物療法の実際 ① 適切な薬剤

Transcription:

報道関係者各位 平成 30 年 11 月 8 日 国立大学法人筑波大学 国立大学法人京都大学 不適切な行動を抑制する脳のメカニズムを発見 ~ ドーパミン神経系による行動抑制 ~ 研究成果のポイント 1. 注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などで障害が見られる不適切な行動を抑制する脳のメカニズムを発見しました 2. ドーパミン神経系に異常が見られる精神 神経疾患では行動の抑制が困難になりますが 本研究はドーパミン神経系が行動抑制に寄与するメカニズムを世界に先駆けて明らかにしました 3. 注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などで見られる不適切な行動を抑制できない症状の治療ターゲットとして 黒質 線条体ドーパミン神経路が有力な候補であることが示されました 国立大学法人筑波大学医学医療系松本正幸教授 京都大学霊長類研究所小笠原宇弥大学院生 ( 筑波大学特別研究学生 ) と高田昌彦教授らは 注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などで障害が見られる不適切な行動を抑制する脳のメカニズムを発見しました ドーパミン神経系注 1) に異常が見られる精神 神経疾患では 行動の抑制が困難になります しかし ドーパミン神経系が行動を抑制するメカニズムは明らかになっていませんでした 本研究グループは 今回 行動を抑制することが求められる認知課題をヒトに近縁なマカク属のサルに訓練し 課題遂行中のサルの黒質緻密部注 2) および腹側被蓋野注 3) のドーパミン神経細胞から活動を記録しました 実験の結果 サルが行動を抑制することを求められたとき ドーパミン神経細胞の中でも黒質緻密部に分布するものだけが活動を注上昇させました また 黒質緻密部のドーパミン神経細胞から投射を受ける線条体領域 ( 尾状核 ) 4) からも 同様の神経活動の上昇が観察されました さらには この線条体領域へのドーパミン神経細胞からの神経入力を薬理学的に遮断すると 不適切な行動を抑制するサルの能力が著しく低下しました 以上の結果から 黒質緻密部のドーパミン神経細胞から線条体尾状核に対して 不適切な行動を抑制するための神経シグナルが伝達されていることが明らかとなりました 今回の発見は 注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などで見られる不適切な行動を抑制できない症状の治療ターゲットとして 黒質 線条体ドーパミン神経路が有力な候補であることを示しています 本研究の成果は 2018 年 11 月 8 日 ( 日本時間 9 日午前 1 時 ) に米国 Cell Press の Neuron にオンライン 公開される予定です * 本研究は 科研費 (#16H06567 #26710001) と武田科学振興財団の生命科学研究助成によって実 施されました 1

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が重要な役割を果たしていることがわかっていました また 注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの行動抑制の能力が低下する疾患の多くでは ドーパミン神経系に異常が見られることも知られています しかしながら ドーパミン神経系がどのようにして衝動的な行動や不必要な行動を抑制しているのかは全く明らかにされていませんでした 研究内容と成果上記の問題に取り組むため 本研究グループは ヒトに近縁なマカク属のサルを被験動物として 行動の抑制が求められる認知課題を訓練しました 実験室の中では サルがモニターに向かって座っており その視線が計測されています ( 図 1A) まず モニターの中央に注視点が現れます( 図 1B) サルがこの点を見たら 注視点が消えて別の場所にターゲットとなる点が現れます 全体の70% の試行では サルがこのターゲットに眼球運動 ( 視線移動 ) すれば報酬としてりんごジュースが与えられます ただし 残りの30% の試行では ターゲットが現れた直後に中央の点が再呈示されます この再呈示はstop 指令であり サルは今まさに行おうとしている眼球運動をキャンセルする必要があります そして眼球運動をキャンセルできた場合にだけりんごジュースが与えられます このstop 指令はランダムに30% の試行でだけ出されるので サルが眼球運動をキャンセルできず ジュースがもらえない場合も多々あります この認知課題はsaccadic countermanding taskと呼ばれ 精神疾患の患者さんの行動抑制の能力を評価するためにも使われています 課題遂行中のサルの黒質緻密部と腹側被蓋野からドーパミン神経細胞の活動を記録すると stop 指令が出てサルが眼球運動をキャンセルすることが求められたときに 黒質緻密部のドーパミン神経細胞の活動が上昇することが明らかになりました ( 図 2A) 特に このドーパミン神経細胞の活動上昇が小さいときは サルが眼球運動のキャンセルに失敗する確率が高くなりました ただ 腹側被蓋野のドーパミン神経細胞では このような活動上昇はほとんど見られませんでした ( 図 2B) また 黒質緻密部のドーパミン神経細胞から投射を受ける線条体領域( 尾状核 ) からも同様の神経活動の上昇が観察されました さらには この線条体領域にドーパミンD2 受容体拮抗薬注 5) を注入し ドーパミン神経細胞からの神経入力を薬理学的に遮断すると サルが眼球運動のキャンセルに失敗する確立が有意に上昇しました ( 図 2C) 以上の結果から 黒質緻密部のドーパミン神経細胞から線条体尾状核に対して 不適切な行動を抑制するための神経シグナルが伝達されていることが示唆されました ( 図 3) 今後の展開今回の発見は 注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などで見られる不適切な行動を抑制できない症状の治療ターゲットとして 黒質 線条体ドーパミン神経路が有力な候補であることを示しています 特に 本研究はヒトに近縁なマカク属のサルを用いて行ったもので その成果はヒトの治療に直接結びつくのではないかと期待できます 今後 黒質 線条体ドーパミン神経路を障害したモデルザルを作成し 不適切な行動を抑制できない症状の治療法を探索していきます 2

参考図 図 1 実験室の様子とサルが行なう認知課題 3

図 2 ドーパミン神経細胞の活動と分布 サルの行動成績 図 3 黒質 線条体ドーパミン神経路 4

用語解説注 1) ドーパミン神経系ドーパミンを神経伝達物質として使用する神経系 その異常は 注意欠陥多動性障害や統合失調症 パーキンソン病など 様々な精神 神経疾患と関係している 注 2) 黒質緻密部ドーパミン神経細胞が分布する脳の領域のひとつ この領域のドーパミン神経細胞は 線条体の中では主に背側部 ( 尾状核と被核の背側部 ) に投射する 注 3) 腹側被蓋野ドーパミン神経細胞が分布する脳の領域のひとつ この領域のドーパミン神経細胞は 線条体の中では主に腹側部 ( 尾状核と被核の腹側部や側坐核 ) に投射する 注 4) 線条体尾状核線条体は 大脳皮質から入力を受ける大脳基底核の入力部であり 尾状核と被核 側坐核に分かれる 特に本研究のターゲットである尾状核の前方部は 認知機能や眼球運動との関係が深い 注 5) ドーパミン D2 受容体拮抗薬神経伝達物質であるドーパミンを受け取る受容体は D1 から D5 受容体まで存在する D2 受容体拮抗薬は D2 受容体を介したドーパミンの伝達を阻害し 抗精神病薬としても使用されている 掲載論文 題名 Primate nigrostriatal dopamine system regulates saccadic response inhibition 著者名 Takaya Ogasawara, Masafumi Nejime, Masahiko Takada, Masayuki Matsumoto 掲載誌 Neuron 問合わせ先松本正幸 ( まつもとまさゆき ) 筑波大学医学医療系教授 305-8572 茨城県つくば市天王台 1-1-1 高田昌彦 ( たかだまさひこ ) 京都大学霊長類研究所教授 484-8506 愛知県犬山市官林 41-2 5