ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

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生物時計の安定性の秘密を解明

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

平成 29 年 8 月 4 日 マウス関節軟骨における Hyaluronidase-2 の発現抑制は変形性関節症を進行させる 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 : 門松健治 ) 整形外科学 ( 担当教授石黒直樹 ) の樋口善俊 ( ひぐちよしとし ) 医員 西田佳弘 ( にしだよしひろ )

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

汎発性膿庖性乾癬の解明

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平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム


1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

< 背景 > HMGB1 は 真核生物に存在する分子量 30 kda の非ヒストン DNA 結合タンパク質であり クロマチン構造変換因子として機能し 転写制御および DNA の修復に関与します 一方 HMGB1 は 組織の損傷や壊死によって細胞外へ分泌された場合 炎症性サイトカイン遺伝子の発現を増強

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

平成14年度研究報告

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報道発表資料 2007 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 ヒト白血病の再発は ゆっくり分裂する白血病幹細胞が原因 - 抗がん剤に抵抗性を示す白血病の新しい治療戦略にむけた第一歩 - ポイント 患者の急性骨髄性白血病を再現する 白血病ヒト化マウス を開発 白血病幹細胞の抗がん剤抵抗性が

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

2 肝細胞癌 (Hepatocellular carcinoma 以後 HCC) は癌による死亡原因の第 3 位であり 有効な抗癌剤がないため治癒が困難な癌の一つである これまで HCC の発症原因はほとんど が C 型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎 肝硬変であり それについで B 型肝炎ウイルス

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

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平成 28 年 2 月 1 日 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦至 ( なつめあつし ) 准教授 及び東北大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 下瀬川徹

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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記 者 発 表(予 定)

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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平成 28 年 12 月 19 日 ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 泌尿器科学分野の山本徳則 ( やまもととくのり ) 准教授 後藤百万 ( ごとうももかず ) 教授と札幌医科大学内分泌内科の古橋眞人 ( ふるはしまさと ) 講師 三浦哲嗣 ( みうらてつじ ) 教授の研究グループは 細胞レベルにおいて ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク 1 (FABP)4 FABP5 の影響を明らかにしました 現在 研究グループは ヒトに対する臨床試験において 後ろ向き試験で脂肪幹細胞 2 を腹圧性尿失禁症例の損傷している括約筋に注入することの有用性と安全性を確認した上 医師主導多施設前向き試験 ( 臨床試験登録システム :UMIN-CTR の試験 ID: UMIN00001790 ClinicalTrials.gov Identifier:NCT02529865) を行っています しかしながら注入された脂肪幹細胞が 損傷している括約筋でどのようなメカニズムで臨床的効果を発揮しているか FABP と脂肪幹細胞レベルでの詳細な検討はされていませんでした 研究グループは まず 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP 5( 表皮型 ) の発現が亢進し 分泌されることを確認しました 続いて 脂肪幹細胞に遺伝子を組み替えた FABP4(Recombinant(R)-FABP4) を投与した結果 多数の筋原性分化の遺伝子 (MYOD を含む ) の増加を認めました また R-FABP4 と R-FABP5 を脂肪幹細胞に投与した結果 それぞれ共に 脂質の分解 取り込み β 酸化の増加 アミノ酸の蓄積 核酸構成関連因子の低下 NADPH/NADP+ 比や ATP/AMP 比の増加が認められました これらの結果により 脂肪幹細胞の代謝亢進が認められたことが示されました 本研究成果により 肥満 インスリン抵抗性に関連する FABP4 と FABP5 は脂肪組織内の脂肪細胞から分泌され 脂肪幹細胞に影響を及ぼすことが明らかになりました 糖尿病 肥満における病態解明と脂肪肝細胞再生治療への応用の可能性が期待されます 本研究成果は 米国科学誌 PLOS ONE( 米国東部時間 2016 年 12 月 9 日付け電子版 ) に掲載されました

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスクリプトーム解析 3 により R-FABP4 を脂肪幹細胞に投与した結果 多数の筋原性分化の遺伝子の増加 ( 代表的な遺伝子 :MYOD) が認められました メタボローム解析 4 により R-FABP4 と R-FABP5 を脂肪幹細胞に投与した結果 それぞれ共に 脂質の分解 取り込み β 酸化の増加 アミノ酸の蓄積 核酸構成関連因子の低下 NADPH/NADP+ 比や ATP/AMP 比の増加が認められました これらは 脂肪幹細胞における代謝亢進が認められたことを示しています 糖尿病 肥満における病態解明と脂肪肝細胞再生治療への応用の可能性が期待されます 1. 背景以前 研究チームは 腎臓障害に対するL 型 脂肪酸結合タンパク (FABP) のバイオマーカの応用と治療に関する考察を報告 (Yamamoto T et al JASN2001) しました 現在 研究チームは ヒトに対する臨床試験において 後ろ向き試験で脂肪幹細胞を腹圧性尿失禁症例の損傷している括約筋に注入することの有用性と安全性を確認した上で 医師主導多施設前向き試験 ( 臨床試験登録システム :UMIN-CTR の試験 ID:UMIN00001790 ClinicalTrials.gov Identifier:NCT02529865) を行っています 2001 年に発見された脂肪幹細胞は 体内に多く存在し 採取が容易で臨床応用しやすい間葉系幹細胞として 多分野で研究がされています しかしながら注入された脂肪幹細胞が損傷している括約筋でどのようなメカニズムで臨床的効果を発揮しているか FABP と脂肪幹細胞レベルでの詳細な検討はされていませんでした 2. 研究成果研究チームは 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い 肥満 インスリン抵抗性に関連する FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP 5( 表皮型 ) の発現が亢進し 分泌されることを確認しました 続いて 遺伝子を組み替えた FABP4(Recombinant(R)-FABP4) を脂肪幹細胞に投与した結果 トランスクリプトーム解析により MYOD を含む多数の筋原性分化の遺伝子の増加 ( 図 1) を認めました また R-FABP4 と R-FABP5 を脂肪幹細胞に投与した結果 メタボローム解析によりそれぞれ共に 脂質の分解 取り込み β 酸化の増加 アミノ酸の蓄積 核酸構成関連因子の低下 NADPH/NADP+ 比や ATP/AMP 比の増加が認められました ( 図 2) 本研究により 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い 肥満 インスリン抵抗性に関連する FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP 5( 表皮型 ) の発現が亢進し 筋原性分化かつ脂肪幹細胞代謝亢進に影響を与えことを明らかにすることによって 糖尿病病態解明 脂肪幹細胞再生治療への応用が期待されました

図 1 培養脂肪幹細胞から FABP4 が分泌し 筋原性分化が亢進する

図 2 FABP4 FABP5 は脂肪幹細胞の代謝を亢進させる

3. 今後の展開 FABP4 と FABP5 は 脂肪幹細胞の代謝の亢進に影響を及ぼすことから 糖尿病 肥満の病態解明が期待されます また 脂肪幹細胞の分化から FABP4 と FABP5 が発現 分泌し 代謝影響を与えることから 脂肪幹細胞再生治療への応用の可能性も期待されます 4. 用語説明 1 外因性脂肪酸結合タンパク : 長鎖脂肪酸やエイコサノイドのような疎水性リガンドと 結合する約 130 個のアミノ酸から構成される分子量約 14~15 kda の平行 β 構造が 2 枚の直交するβシートを形成し 2 つの短いαへリックスを持つ脂質シャペロンファミリーで これまでに 9 つのアイソフォームが報告されている 高発現もしくは単離された組織や細胞にちなんで 肝型 (L-FABP/FABP1) 腸型 (I-FABP/ FABP2) 心臓型 (H-FABP/FABP3) 脂肪細胞型 (A-FABP/FABP4/aP2) 表皮型 (E-FABP/FABP5/mal1) 回腸型 (Il-FABP/FABP6) 脳型 (B-FABP/FABP7) ミエリン型 (M-FABP/FABP8) 精巣型 (T-FABP/FABP9) と名付けられている 2 脂肪幹細胞 : 2001 年に脂肪組織中から発見された間葉系幹細胞 骨髄幹細胞の 100 1000 倍もの幹細胞を比較的容易に確保できること また 骨髄幹細胞が持つ 骨 脂肪 軟骨等へ分化する能力とサイトカイン分泌を行うことにより 創傷治癒 分化 免疫調節 新生血管形成を行う すでに糖尿病や心筋梗塞 脳梗塞 肝機能障害 アレルギー疾患など 様々な病気に対する治療への適用が試みられている 本研究チームは腹圧性尿失禁への臨床研究を行っている 3 トランスクリプトーム解析 : 転写活性 ( コーディングおよびノンコーディング ) を特徴づけ 関連するターゲット遺伝子や転写産物のサブセットにフォーカスし 数千もの遺伝子を一度にプロファイリングして細胞機能の全体像を描出することができる解析方法である 4 メタボローム解析 : 試料中に存在する代謝物質レベルを一斉に かつ網羅的に 個々の代謝物質の定性および定量性測定する解析方法である 5. 発表雑誌 YamamotoT, Furuhashi M, Sugaya T, Oikawa T, Matsumoto M, Funahashi Y,Mastukawa Y, Gotoh M, Miura T. Transcriptome and metabolome analyses in exogenous FABP4- and FABP5-treated adipocyte-derived stem cells, PLOS One 2016 (2016 年 12 月 9 日付の電子版に掲載 ) English ver. http://www.med.nagoya-u.ac.jp/english01/dbps_data/_material_/nu_medical_en/_res/researchtopics/2016/fabp_20161219en.pdf