< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

平成14年度研究報告

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

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汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

スライド 1

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この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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平成18年3月17日

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

商用周波磁界ばく露と小児白血病発症の可能性に関する研究提言 2007 年 WHO( 世界保健機関 ) は 環境保健クライテリアモノグラフ 238 およびファクトシート 322 で 商用周波磁界ばく露の長期的健康影響に関し 小児白血病との間に弱い関連性はあるものの 因果関係があると見る程証拠は揃ってい

記 者 発 表(予 定)

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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長期/島本1

革新的がん治療薬の実用化を目指した非臨床研究 ( 厚生労働科学研究 ) に採択 大学院医歯学総合研究科遺伝子治療 再生医学分野の小戝健一郎教授の 難治癌を標的治療できる完全オリジナルのウイルス遺伝子医薬の実用化のための前臨床研究 が 平成 24 年度の厚生労働科学研究費補助金 ( 難病 がん等の疾患

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

Powered by TCPDF ( Title 造血器腫瘍のリプログラミング治療 Sub Title Reprogramming of hematological malignancies Author 松木, 絵里 (Matsuki, Eri) Publisher P

汎発性膿庖性乾癬の解明

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

ん細胞の標的分子の遺伝子に高い頻度で変異が起きています その結果 標的分子の特定のアミノ酸が別のアミノ酸へと置き換わることで分子標的療法剤の標的分子への結合が阻害されて がん細胞が薬剤耐性を獲得します この病態を克服するためには 標的分子に遺伝子変異を持つモデル細胞を樹立して そのモデル細胞系を用い

博士の学位論文審査結果の要旨

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍における高頻度の 8q24 再構成 : 細胞形態,MYC 発現, 薬剤感受性との関連 Recurrent 8q24 rearrangement in blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm: association wit

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

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再発小児 B 前駆細胞性急性リンパ性白血病におけるキメラ遺伝子の探索 ( この研究は 小児白血病リンパ腫研究グループ (JPLSG)ALL-B12 治療研究の付随研究として行われます ) 研究機関名及び研究責任者氏名 この研究が行われる研究機関と研究責任者は次に示す通りです 研究代表者眞田昌国立病院

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

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なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

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審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

がん登録実務について

細胞外情報を集積 統合し 適切な転写応答へと変換する 細胞内 ロジックボード 分子の発見 1. 発表者 : 畠山昌則 ( 東京大学大学院医学系研究科病因 病理学専攻微生物学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 多細胞生物の個体発生および維持に必須の役割を担う多彩な形態形成シグナルを細胞内で集積 統

研究成果報告書

9章 その他のまれな腫瘍

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

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解禁時間 ( テレヒ ラシ オ WEB): 平成 26 年 6 月 3 日 ( 火 ) 午前 6 時 ( 日本時間 ) ( 新聞 ) : 平成 26 年 6 月 3 日 ( 火 ) 付朝刊 平成 26 年 5 月 30 日 公益財団法人がん研究会 新しいモデルマウスを用いてユーイング肉腫の発生母地を 同定することに成功 ポイント 小児 若年者の骨のがんで 従来信頼出来る動物モデルが存在しなかったユーイング肉腫のモデルマウスを樹立することに成功しました ユーイング肉腫の発生母地は永年不明でしたが 胎児の軟骨前駆細胞に集積していることを発見しました 今回のモデルマウスは ヒトのユーイング肉腫の病態や病理形態を良く反映していることから ユーイング肉腫の治療薬の評価に広く応用されることが期待されます 田中美和研究員 ( がん研究会がん研究所発がん研究部 ) と中村卓郎部長 ( がん研究会がん研究所発がん研究部 ) 及び国立医薬品食品研究所の研究グループは 従来作製が困難であったユーイング肉腫のモデルマウス確立に成功しました ユーイング肉腫は小児及び十代の若者の骨に発生するがんで 転移の頻度が高く有効な治療薬がないなど 悪性度の高いことが知られています 染色体転座により形成される融合遺伝子 EWS-FLI1 1) がユーイング肉腫の原因遺伝子として同定される一方で 多くのがんとは異なり ユーイング肉腫の発生起源についてはこれまで良く分かっていませんでした また 信頼性の高い動 物モデルも確立されていません 本研究グループは マウス胎児の関節から採取し esz 細胞 名付けた軟骨前駆細胞に EWS-FLI1 遺伝子を導入した実験により ヒトのユーイング肉腫に極めて類似した肉腫が確実に形成されることを見出しました この際に EWS-FLI1 に対する遺伝子発現応答が細胞によって異なることが肉腫形成に大きな影響を及ぼしていることが分かりました マウスのユーイング肉腫で認められた遺伝子発現の変化はヒトでも同様に生じており 肉腫の増殖の鍵となる遺伝子発現を抑えると 肉腫の細胞死や増殖抑制が生じることが分かりました 今後 このモデルを利用することで 新しい分子標的治療薬の評価やユーイング肉腫の発生 進展及び転移のメカニズムが明らかになることが期待されます 本研究の成果は 米国の医学雑誌 Journal of Clinical Investigation オンライン版( 米国時間 6 月 2 日付 : 日本時間 6 月 3 日 ) に掲載されます 2) と 1

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移することから 発生のメカニズムの解明と有効な治療法の開発が待たれています ところが その発生起源が未知であり 動物モデルを用いた実験が確立していないという問題がありました 本研究グループはユーイング肉腫のモデルマウス確立を通して ユーイング肉腫の発生起源を明らかにし 治療法の開発に役立てたいと考えました < 研究の内容 > 1) ユーイング肉腫モデルマウスの作製これまでの研究により ユーイング肉腫では EWS-FLI1 や EWS-ERG といった ETS 転写因子 を構成成分とする融合遺伝子の形成が特徴的であり 肉腫の発生と深く結びついていることが明らかにされています しかし EWS-FLI1 をマウスやヒトの細胞に発現させてもユーイング肉腫を作ることは出来ないばかりか 多くの細胞は細胞死や細胞老化を示すことが分かっていました 本研究グループは EWS-FLI1 をユーイング肉腫の発生起源細胞に発現させない限り本来の腫瘍が生じないのではないかと考え その細胞が何か探りました その過程において 融合遺伝子の構成成分の一つ ERG 遺伝子が マウスの胎児期に関節の表層部で一過性に発現する事実に注目しました そこで この細胞を esz 細胞と名付け マウス胎児から取り出した esz 細胞に EWS-FLI1 または EWS-ERG を導入し ヌードマウスの皮下に移植しました その結果 融合遺伝子を発現する esz 細胞を移植されたマウスは 100% 肉腫を発症し この肉腫の組織を観察するとヒトユーイング肉腫に非常に良く類似していることが分かりました 一方 esz 細胞に隣接する間葉系幹細胞や軟骨への分化が進んだ細胞では EWS-FLI1 を導入しても肉腫の発生頻度は低いことから esz 細胞はユーイング肉腫の起源細胞を濃密に含んでいることが分かりました ( 図 1) また 再現性の高い動物モデルが確立されたお陰で ヒトでは観察することの出来ない ユーイング肉腫の発生初期の状態をつぶさに観察することも可能となりました 2) 2

2) ユーイング肉腫の発生には細胞の特殊なエピゲノム状態が重要である esz 細胞に EWS-FLI1 や EWS-ERG を発現させるとユーイング肉腫が形成されるのに 他の細胞では起きないのは何故でしょうか 転写因子として働く EWS-FLI1 は その標的遺伝子に存在する特異的な結合部位を認識して その発現を変化させる機能を持っています esz 細胞では 標的遺伝子付近のクロマチンが EWS-FLI1 の結合し易い状態にあるという 特殊なエピゲノム環境を示していることが分かりました これまでに同定されている標的遺伝子の多くは 今回のユーイング肉腫モデルにおいて発現が亢進しており このことが esz 細胞を使って肉腫を効率よく誘導出来る理由となったと考えられました 3) ユーイング肉腫モデルマウスは新規治療法の評価系として有用である現在ユーイング肉腫で最も有効な治療法は外科的切除であり 既存の抗がん剤は一定の効果を示すものの全身に転移を来した症例の治癒は困難とされています したがって ユーイング肉腫の増殖を特異的に阻害する副作用の少ない分子標的薬の開発が望まれています 特に ユーイング肉腫細胞にしか存在しない EWS-FLI1 を治療標的とする薬剤や EWS-FLI1 の標的遺伝子を狙った治療法が効果的な治療の有力候補とされます 今回作製したマウスのユーイング肉腫では 導入した EWS-FLI1 遺伝子を取り除いてやると 肉腫細胞の増殖と生存能が著しく低下し 細胞が殆ど死滅することが分かりました また EWS-FLI1 の標的遺伝子 シグナルである EZH2 や PARP1 -カテニンの阻害薬も一定以上の増殖抑制効果を示すことが明らかになりました 今回のモデルは ヒトユーイング肉腫の予後を決定する重要な因子である転移も再現することが出来ているので in vitro や局所に対する薬効評価だけではなく 転移能に対する治療効果の評価も可能となります 有望な分子標的薬や新規の抗がん剤を臨床試験の前段階で正しく評価するのに最適なモデルと考えています <まとめ> 今回の研究成果により ユーイング肉腫の発生母地と発症機構の一端が明らかとなりました 本研究の成果を基に 今回のモデルを今後ヒトのユーイング肉腫に対する正確な治療効果の評価に利用することで 新たな治療薬の開発推進に貢献できることが考えらえます また ユーイング肉腫の他にも 同様に融合遺伝子を原因遺伝子とする滑膜肉腫や胞巣状軟部肉腫などの動物モデルを作製する道が開けたことから 骨軟部肉腫の本態解明が大きく前進するための一歩を築いたと考えています 本研究の成果を通して 稀少がんである難治性の肉腫の克服に貢献することが期待できます 3

< 参考図 > 図 1: ユーイング肉腫の発生機構 胎生期の関節表面に存在する esz 細胞に EWS-FLI1 が形成されることで EWS-FLI1 標的遺伝子が活性化されて肉腫が発生する < 用語解説 > 注 1) 融合遺伝子 EWS-FLI1: がんにおける重要な遺伝子異常の一つとして 染色体の転座や逆位によって二つの遺伝子が融合することがしばしば観察される 代表例として慢性骨髄性白血病における BCR-ABL や肺がんにおける EML4-ALK などが挙げられる 骨軟部肉腫では 融合遺伝子を有するものが全体の 30 40% 存在すると言われている ユーイング肉腫では 22 番染色体上の EWSR1 遺伝子と ETS ファミリー転写因子群との間に融合が必発する 特に頻度が高いのは 11 番染色体上のFLI1 遺伝子で 21 番染色体上の ERG 遺伝子がこれに次ぐ この結果 EWS-FLI1 または EWS-ERG 遺伝子 / 蛋白が形成される 近年 BCR-ABL 等のシグナル系融合遺伝子には有効な阻害剤が続々と開発されているが EWS-FLI1 のような転写因子系融合遺伝子に有効な分子標的薬の開発は立ち遅れている 注 2)eSZ 細胞 : 胎生後期 新生児期の骨端部には成長板 (growth plate) と呼ばれる軟骨前駆細胞の集積部位が存在する この前駆細胞は将来の骨と関節軟骨を形成する能力を保有している 今回の研究でユーインング肉腫の発生母地として同定された esz (embryonic superficial zone = 胎児性表層 4

帯 ) 細胞は 成長板の最表層に存在し PTHLH やGDF5 ERG Lubricin 等の軟骨前駆細胞に特異的なマーカーを発現している 本研究では esz 細胞をマイクロダイセクションという手法を使って採取しているが さらに PTHLH 蛋白に対する抗体を用いて より純度の高い esz 細胞を精製すると ユーイング肉腫の発生は急速に促進されることが分かった 注 3) 転写因子 : 遺伝子 DNA からメッセンジャー RNA を産生する転写作用を調節する因子 比較的短いが特異的な DNA 配列に結合する領域を有していて この性質を利用することで自身の標的遺伝子に結合して さらに転写共役因子と会合することによって 遺伝子発現を時間的 空間的に調節している 但し 染色体上に存在する DNA 配列に結合するに際しては ヒストンの修飾状態や DNA のメチル化状態などエピゲノムの状況が大きく影響している < 論文名 著者およびその所属 > 論文名 Ewing s sarcoma precursors are highly enriched in embryonic osteochondrogenic progenitors ジャーナル名 Journal of Clinical Investigation 著者 Miwa Tanaka 1, Yukari Yamazaki 1, Yohei Kanno 1, Katsuhide Igarashi 2, Ken-ichi Aisaki 2, Jun Kanno 2 & Takuro Nakamura 1 * * 責任著者 ( 中村卓郎 ) 著者の所属機関 1 がん研究会がん研究所発がん研究部 2 国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター毒性部 5

< 本研究への支援 > 本研究は 主に下記機関より資金的支援を受けて実施されました 文部科学省科学研究費補助金基盤研究 (A) 若手研究 (B) <お問い合わせ先 > 本研究の内容に関すること 公益財団法人がん研究会がん研究所発がん研究部中村卓郎 TEL:03-3570-0462 FAX:03-3570-0463 e-mail: takuro-ind@umin.net 取材に関すること 公益財団法人がん研究会広報部本山 大関 TEL:03-3520-0111 FAX:03-3520-0141 e-mail: kouhouka@jfcr.or.jp 6