予防接種の知識と副反応等について平成 29 年度予防接種従事者研修会 東京慈恵会医科大学名誉教授前川喜平 感染症と伝染病 * 感染症病原体によって起こる病気が感染症 病原体が身体に入って 増殖すれば 感染の成立 * 伝染病感染症の中で ヒトからヒトへうつる病気が伝染病 : エボラ出血熱 コレラ 天然痘 * 病原体寄生虫 原虫 スピロヘータ マイコプラズマ クラミジア 細菌 ウイルス プリオンなど 1
感染経路 1. 直接伝播 1 直接接触 ( 接触による径皮感染 ) 例 : 水いぼ 性感染症 HIV 2 飛沫感染 ( 通常 1~2m 以内 ) 例 : おたふく 風疹など多くの感染症 3 母子感染 ( 胎盤 産道 母乳感染 ) 例 : 風疹 B 肝 *HIV 2. 間接伝播 * ヒト免疫不全ウイルス ( エイズ ) 1 媒介物感染間接接触感染 ( 汚物を介して ) 例 :B 型肝炎 HIV など経口感染 ( 飲食物を介して ) 例 : 細菌性赤痢 病原大腸菌など水系感染 ( 飲料水を介して ) 例 : 細菌性赤痢 クリプトスポリジウム等 2 媒介動物感染 ( 昆虫媒介が多い ) 例 : マラリア 日本脳炎 デング熱 3. 空気感染 1 飛沫核感染 ( 空中を漂ってうつる ) 例 : 結核 麻疹 水痘 2 塵埃感染 ( 乾いた埃の中でも感染力を失わない ) 真菌 ノロ 感染症予防の三原則 1. 感染源対策 患者の隔離 病原体の排除 消毒など 2. 感染経路対策 マスク 手洗い 手袋 上下水道整備 汚物処理など 3. 感受性のあるヒトへの対策受動免疫 ( 免疫グロブリン注射など ) 能動免疫 ( 予防接種 ) 2
免疫機能 (1) * 生体が 非自己 ( 異物 ) を認識して排除しようとする働きが免疫 異物が病原体の場合は生体にとって不可欠な防衛力免疫反応が身体に異常を起こせばアレルギー自己の組織や細胞を非自己と認識して攻撃すれば自己免疫疾患 医療のために移植した他人の組織 臓器を排除しようとすれば 移植免疫 免疫機能 (2) 免疫機能は主として白血球が担当しており次の二種類がある * 液性免疫 : リンパ球の中の B 細胞が産生する抗体 ( 免疫グロブリン ) や非特異因子 ( インターフェロンや補体など ) による殺菌作用 IgA: 分泌液中に出て主に粘膜上で防衛 IgM: 感染の病初期に血中に出て初期防衛に当る IgG:IgM が低下する頃に上昇してきて 長期にわたり防衛担当 IgE: アレルギーに関係 * 細胞性免疫 : 食作用を持つ白血球やリンパ球の中の T 細胞が担当 病原体の発見 防御体制の指令 食細胞による殺菌 ウイルスに感染した細胞など異常細胞の破壊など : 貪食出来ない病原体 移植片など 3
BCG の作用メカニズム BCG は結核菌に対する抗体をつくるのではない 結核に対する免疫は細胞免疫による 結核菌は細胞内に寄生 液性免疫は役に立たない 体内に入った BCG はマクロファージに貪食され 抗原情報が T リンパ球に提示される T リンパ球は B CG の抗原で感作される BCG と結核菌は共通の抗原を持つので BCG で感作された T リンパ球は結核菌で感作されたと同じ能力を持ち 記憶細胞として待機する 結核菌が体内に侵入すると 感作 T リンパ球が幼若化 増殖して サイトカインを産生し マクファージを活性化する 活性化されたマクファージが結核菌を効率よく貪食 殺菌することにより 結核感染の進展を抑える 予防接種感染症を予防するために感受性ある個人 ( 免疫を持たないヒト ) に 適当な形 ( 経口 皮下 筋注 皮内など ) でワクチンを接種し 人工的に免疫 ( 抗体 細胞性免疫 ) を作る方法をいう そのために作成された抗原をワクチンという 4
追加免疫効果 booster * 再感染 ( 再接種 ) をうけると血中抗体がより早く 高く上昇する ( 免疫記憶細胞 ) * 不活化ワクチン : 最初 2-3 回接種を行う ( 基礎免疫 ) 適当な間隔をおいて数回接種を行う : 追加免疫 ( 追加接種 ) * 不活化ワクチンの基礎免疫のための接種間隔は一般に一か月程度がよいとされている * 日本脳炎 インフルエンザなどの流行期のある疾患では 流行期に急いで免疫をつけるために 最短間隔が 6 日間となっている 5
追加免疫効果 booster 効果 麻疹 風疹ワクチンを 2 回接種にした理由 * 麻疹ワクチンの効果が長く続くと考えられていたが流行が無くなってくると 自然に追加免疫を受ける機会が減り 10 年もすると免疫が低下してきた * 再感染 再発病のケースが目立ってきた SVF *WHO は 痘瘡 ポリオの次の根絶 制圧の目標に麻疹 中学生 高校生の接種等を経て 2 回接種とした * 風疹も 先天性風疹症候群 を根絶したい * 麻疹 風疹混合ワクチンを用いて制圧を図る :H27 年 3 月 WHO から排除が承認 : 在来麻疹が制圧 : 関西空港中心に集団感染 6
H28 年 8 月関空職員女性が麻疹発症 職員 3 2 人に感染が拡大 救急隊員や医師に感染 合計 41 人に感染 関空を利用した男性 4 人も発症 少年は幕張メッセのコンサートに参加 会場の数人と 家族に感染 中国やモンゴルで流行した遺伝子型のウイルスが関空から中国へ出国した 4 人が感染源 : 症状が比較的軽い修飾麻疹で過去に予防接種を受けある程度免疫がある人々でした 予防接種を受けていれば感染が拡大しないで済む 日本で排除されても予防接種は必要である の実例 予防接種対象疾患 ( 定期接種 ) 1. 中止すれば再び流行の恐れの大きい疾患 - 百日咳 ジフテリア ポリオ 日本脳炎 2. 現在でも重症合併症の多い疾患 - 麻疹 結核 平成 25 年 4 月から ヒブ 小児用肺炎球菌ワクチン HPV が追加 28 年度乳児 B 型肝炎ワクチンが追加 ( 肝硬変 肝がん 持続感染等 ) 3. 常時感染の機会があり 災害時の社会防衛上必要 - 破傷風 4. 先天異常の原因になりうる - 風疹ワクチン 7
ワクチンの接種間隔 * 副反応発生時の混乱を避ける : 異なるワクチン不活化ワクチン :1 週間 (6 日 ) 以上生ワクチン :4 週 (27 日 ) 以上 * よりよい効果とタイミングのため不活化ワクチンの 2,3 回目は 1-4 週間 DPT-IPV 四混 :20 日から 56 日 日本脳炎 ;6 日から 28 日 追加はおおよそ 1 年 13 価肺球 27 日以上 B 肝 : 追加は初回から 139 日以上 Hib27 日以上 水痘 1 歳児 3 か月から 6 か月間隔で 2 回 季節インフルエンザ :3-4 週間隔 8
同時接種 : 二種類以上の予防接種を同時に同一の接種対象者に対して行う同時接種は 医師が特に必要と認めた場合に行うことができる * 世界的には同時接種は当たり前必要ワクチン種類の増加多価ワクチンの開発同時接種接種率の向上 同時接種と接種間隔 不活化ワクチンは 生体内で増殖することはなく 理論的にワクチン同士で免疫応答を干渉することはない 欧米諸国は 不活化ワクチンの多価混合ワクチン (DPT+ 不活化ポリオ + インフルエンザ菌 b 型 +B 型肝炎 A 型肝炎 +B 型肝炎ワクチン ) が一般的に接種されている 生ワクチンでも MMRV( 麻しん + 風しん + おたふくかぜ + 水痘 ) が勧奨接種のワクチンとなり 不活化ワクチンの同時接種 生ワクチンの同時接種も問題なく接種されている ヒトが対応できる抗原レパートリーはほぼ無限で ワクチン製剤を混合することなく 同時接種に関しては左右同時接種 同一の側にしか接種できない場合は数 cm の間隔をあけて接種することで ( 米国では 1 インチ以上の間隔をあけるように定められている ) 抗原提示細胞を奪い合うことはなく免疫応答が期待できる 生ワクチン接種後の次のワクチン接種までの間隔は 27 日以上 不活化ワクチン接種後では 6 日以上あけて次のワクチン接種が可能である 出典 : 海外渡航者のためのワクチンガイドライン 2010 ( 作成 ) 日本渡航医学会海外渡航者のためのワクチンガイドライン 2010 作成委員会 ( 発行 ) 株式会社協和企画 9
生ワクチンの干渉作用 生ワクチン接種後 接種されたウイルスの増殖期 ( 通常は ワクチン接種後 5~10 日 ) に 血清中にインターフェロンが検出される インターフェロンは抗ウイルス作用を持ち 後で接種された生ウイルスワクチンの増殖が抑制されて免疫能が獲得されないことがある また 生ワクチンは生体内で増殖し その免疫応答から免疫学的なパラメーターが一過性に低下し 接種後 3 週で回復する したがって 生ワクチン接種後 4 週間は次の生ワクチンの接種は控える必要がある 殊に麻疹生ワクチン接種後の生ワクチン接種 出典 : 海外渡航者のためのワクチンガイドライン 2010 ( 作成 ) 日本渡航医学会海外渡航者のためのワクチンガイドライン 2010 作成委員会 ( 発行 ) 株式会社協和企画 別の種類のワクチン 同じ種類は接種間隔が決まっている 10
病後予防接種を実施できるまでの間隔 急性熱性疾患の経過中はやらない病後について規則に明記はないが 体力 免疫産生力の低下 余病発病のおそれなどを考慮 麻疹 水痘など 4 週間程度あける 二次性脳炎などを考慮麻疹 ムンプス 水痘など かぜ程度ならば 治癒後 1 週間 やや心配なら 2 週間程度 成人における風疹流行対策 * 風疹ワクチン実用化の当初は ワクチン量の不足から中学女子を対象にしていた * このため 30-40 歳代の男性は 20-30% が風疹の抗体を持たず 女性も 100% の抗体保有ではない * 平成 24 年から近畿を中心に流行が始まり 関東におよぶ * 平成 25 年は成人男性を中心に全国的に風疹が流行し 1 万人を越えた * 先天性風疹症候群 は平成 25 年 32 例 平成 26 年 9 例の報告 * 妊娠中は生ワクチンは接種できないので 妊婦の夫 同居家族 職場の同僚は予防接種を! 11
ワクチンの副反応 * 不活化ワクチン : 接種直後から 1 週間以内 * 生ワクチン : 接種数日から 4 週間以内 * ワクチンの培養液 添加物 保存剤はワクチンの種類に関係なく接種 48 時間以内に起こる * 副反応の事例は紛れ込みが殆ど 予防接種の副反応 予防接種の目的以外の反応を副反応という 副反応 Ⅰ 通常みられる反応と通常はみられない反応 ( 異常症状 ) 2 局所反応と全身反応局所反応 : 發赤 疼痛 腫脹 硬結など全身症状 : 発熱 けいれん 脳症 ショックなど 12
予防接種ホットラインの質問 1. 開始時期の間違い B 型肝炎 13 価肺炎球菌を 1 が月で接種 *B 型母児感性予防の時は 1 か月でワクチン接種を行う 四種混合を 2 か月で接種 2. 四種混合第 Ⅱ 期 :11 以上歳 -13 歳未満日本 海外で 4 回以上接種して帰国 : 第 Ⅱ 期の対応ポリオ生ワク 2 回で DPT ゼロから 3 回の対応 : 四種混合自費接種で対応? 3. 接種間隔の間違い : DPT-IPV 混合ワクチン第一期を 1 週間毎に三回接種 DPT-IPV 混合ワクチン第一期追加を 4 週後に接種日本脳炎追加を 1 か月で接種 Hib,13 価肺炎球菌多数 4. 接種量の間違い日本脳炎 2 歳 0.25ml,3 歳以上 0.5ml DT0.1ml を 0.5ml 5. 接種ワクチンの間違い四種混合と MR 混合ワクチンを 水痘ワクチン : 初回接種 1 か月後に接種 ブレークスルーの効果がない 最低 3 か月 できたら 6 か月以上あける 13
BCG: 1. 脇窩リンパ節腫大 : 接種 Ⅰ-2 か月後に気付く 2cm までは正常反応 其の儘 様子をみる 決してバイオプシーはしない 2. 肉芽腫瘍 : 世田谷区予防接種健康被害調査委員会例 14
調査委員会に提出された写真 6 か月後の写真 BCG の副反応は経過観察 15
予防接種対象疾患の減少と問題その疾患を経験したことがない医師の増加 臨床診断ができない 麻疹 風疹 結核 百日咳など 抗体検査やバイオプシーなどで診断が遅れる 子どもは小児科医が継続して診療していることが多いので早い診断 Lamp 法が可能 大人は耳鼻科 皮膚科などを受診するので診断に時間がかかり 流行を広めてしまう恐れがある 予防接種は子どもを感染症から守る有効な手段である 予防接種の正しい知識を身につけ 予防接種の啓蒙と普及に協力して欲しい 予防接種の健康被害は避けられない 安心して予防接種が受けられるために救済制度がある 16
ご静聴有難うございました 17