新たな宇宙基本計画に向けた提言

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経営理念 宇宙と空を活かし 安全で豊かな社会を実現します 私たちは 先導的な技術開発を行い 幅広い英知と共に生み出した成果を 人類社会に展開します 宇宙航空研究開発を通して社会への新たな価値提供のために JAXAは 2003年10月の発足以来 宇宙航空分野の基礎研究から開発 利用に至るまで一貫して行

10-11 平成26年度 予算(案)の概要

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資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

我が国の宇宙技術の世界展開

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資料 2-4 新型基幹ロケット開発の進め方 ( 案 ) 平成 26 年 4 月 3 日 宇宙政策委員会 宇宙輸送システム部会 1. 新型基幹ロケット開発の進め方の位置づけ本書は 宇宙政策委員会第 15 回会合 ( 平成 25 年 5 月 30 日 ) の資料 1-1 宇宙輸送システム部会の中間とりま

今後の我が国宇宙開発利用の方向 安全保障用途 防衛用通信 民生用途 陸域監視海域監視宇宙状況監視気象測位環境観測防災衛星画像購入リモートセンシング 国土管理 資源探査 衛星画像購入 科学技術 通信 放送 惑星探査宇宙科学 産業用途 地理空間情報の利用 産業 技術基盤 2

資料 2 国際宇宙ステーション (ISS) 計画概要 平成 26 年 4 月 23 日 ( 水 ) 文部科学省研究開発局 1

社会的責任に関する円卓会議の役割と協働プロジェクト 1. 役割 本円卓会議の役割は 安全 安心で持続可能な経済社会を実現するために 多様な担い手が様々な課題を 協働の力 で解決するための協働戦略を策定し その実現に向けて行動することにあります この役割を果たすために 現在 以下の担い手の代表等が参加

H28秋_24地方税財源

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

新たな宇宙状況監視 (SSA) システム構築に向けた事前調査平成 26 年度予算案額 11 百万円 ( 新規 ) 文部科学省研究開発局宇宙開発利用課 事業概要 目的 必要性 事業イメージ 具体例 スペースデブリの増加が世界的な課題として認識される中 宇宙状況監視 ( SSA : Space Situ

資料2  SJAC提出資料

社会構想マネジメント (Social Design and Management) 技術だけでは社会的課題を解決できない 社会的文脈を理解する必要がある 政策や制度だけでも課題を解決できない 先端科学技術を理解し 政策 制度を構想する必要がある グローバルな視野で専門的 俯瞰的な知識を用いて課題を発

新旧対照表

2. 新体制における文部科学省の役割 16

防衛省提出資料

Rodrigo Domingues UNDP Borja Santos Porras/UNDP Ecuador UNDP Kazakhstan 2

平成 29 年 4 月 12 日サイバーセキュリティタスクフォース IoT セキュリティ対策に関する提言 あらゆるものがインターネット等のネットワークに接続される IoT/AI 時代が到来し それらに対するサイバーセキュリティの確保は 安心安全な国民生活や 社会経済活動確保の観点から極めて重要な課題

構成 1. ISECG 国際宇宙探査ロードマップの概要と現状認識 2. 国際宇宙探査に向けた準備シナリオ ( 案 ) 3. シナリオを達成するための主要課題 2

目次 2 1.JAXAに対する国の監督 (1) 中長期目標 中長期計画 2.JAXAに対する国の監督 (2) 宇宙諸条約の履行 3.JAXAに対する国の監督 (3) 打上げ 射場管理業務 4.JAXAによる安全審査の概要 5.JAXAに対する国の監督 (4) 衛星管理 データ配布 6. 宇宙活動法に

1. 宇宙開発利用拡大と自律性確保を実現する4つの社会インフラ A. 測位衛星 (1) 基本方針 実用準天頂衛星システム事業の推進の基本的な考え方 ( 平成 23 年 9 月 30 日閣議決定 ) にあるとおり 準天頂衛星システムは 産業の国際競争力強化 産業 生活 行政の高度化 効率化 アジア太平

宇宙政策委員会基本政策部会中間取りまとめ 1. 現状認識平成 20 年の宇宙基本法の制定により 我が国宇宙政策は これまでの 科学技術 ( 研究開発 ) 主導を脱し 科学技術 産業振興 安全保障 の三本柱から成る総合的国家戦略へと局面展開を遂げた さらに 平成 25 年 1 月に策定された現行の 宇

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参考資料3(第1回検討会資料3)

電波に関する問題意識(原座長提出資料)

取組みの背景 これまでの流れ 平成 27 年 6 月 日本再興戦略 改訂 2015 の閣議決定 ( 訪日外国人からの 日本の Wi-Fi サービスは使い難い との声を受け ) 戦略市場創造プラン における新たに講ずべき具体的施策として 事業者の垣根を越えた認証手続きの簡素化 が盛り込まれる 平成 2

目次 I. 中期目標の期間 1 II. 国民に対して提供するサービスその他の業務の質の向上に関する事項 1 1. 宇宙安全保障の確保 1 (1) 衛星測位 1 (2) 衛星リモートセンシング 1 (3) 衛星通信 衛星放送 2 (4) 宇宙輸送システム 2 (5) その他の取組 3 2. 民生分野に

企画書タイトル - 企画書サブタイトル -

新興国市場開拓事業平成 27 年度概算要求額 15.0 億円 (15.0 億円 ) うち優先課題推進枠 15.0 億円 通商政策局国際経済課 商務情報政策局生活文化創造産業課 /1750 事業の内容 事業の概要 目的 急速に拡大する世界市場を獲得するためには 対象となる国 地

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新設 拡充又は延長を必要とする理地方公共団体の実施する一定の地方創生事業に対して企業が寄附を行うことを促すことにより 地方創生に取り組む地方を応援することを目的とする ⑴ 政策目的 ⑵ 施策の必要性 少子高齢化に歯止めをかけ 地域の人口減少と地域経済の縮小を克服するため 国及び地方公共団体は まち

4-(1)-ウ①

学生確保の見通し及び申請者としての取組状況

新たな宇宙基本計画に盛り込むべき事項 (1) 社会インフラ 1 衛星測位 リモートセンシング 通信 放送について 2 輸送システムについて (2) 宇宙科学 宇宙探査等 (3) 宇宙空間の戦略的な開発 利用を推進するための横断的施策の在り方 1 宇宙利用の推進について 2 宇宙産業基盤 研究開発につ

資料 5 通信 放送衛星の現状 課題及び 今後の検討の方向 ( 案 ) 平成 2 4 年 9 月内閣府宇宙戦略室

NICnet80

目次 はじめに p3 第 1 章宇宙基本計画の位置付けと新たな宇宙開発利用の推進体制 p 宇宙基本計画の位置付け p 宇宙基本計画の対象期間 p 宇宙開発利用の推進体制 p4 第 2 章宇宙開発利用の推進に関する基本的な方針 p 現状認識 p5 2-2

Microsoft Word - 01 議事要旨(第6回).doc

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て取り組むべきと考えている 委員の皆様方におかれては 厳しい財政事情の中ではあるが 効果的な宇宙政策 宇宙予算の在り方につき ご提言いただきたい 島尻内閣府政務官 : 宇宙政策は大変に重要なものだと認識している 私個人としても 宇宙に対して大変興味を持っている これからの宇宙政策は 国際的な視野をも

1 本日の内容 1. 宇宙産業の現状 2. 宇宙政策の展開 3. 我が国の宇宙産業の課題 4. 宇宙産業強化に向けた取り組み

内部統制ガイドラインについて 資料

各取組は PDCA サイクルを回し効果を評価し 目標が達成できない見通しとなったときは さらなる総量の縮減や取組 体制の強化等 基本方針等を見直します [ 図表 40] [ 図表 40:PDCA サイクル ] 計画修正 Action 計画修正 Action Plan Check 計画等修正 Acti

防衛計画の大綱に向けた提言

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により 都市の魅力や付加価値の向上を図り もって持続可能なグローバル都 市形成に寄与することを目的とする活動を 総合的 戦略的に展開すること とする (2) シティマネジメントの目標とする姿中野駅周辺や西武新宿線沿線のまちづくりという将来に向けた大規模プロジェクトの推進 並びに産業振興 都市観光 地

目 次 1. 改訂の趣旨 1 2. 宇宙開発利用の特性 意義及び課題 1 3. 昨今の防衛省の取組 2 4. 防衛省の宇宙開発利用に関する基本方針 3 ⑴ 宇宙空間に対する考え方 3 ⑵ 統合機動防衛力 の構築に資する宇宙開発利用のあり方 3 ⑶ 今後の重点的な取組 4 ア.3 つの視点に係る取組

欠であり 運輸交通分野を中心に膨大なインフラ投資が必要になると見込まれる これらのインフラ整備にあたっては 案件ごとにマスタープランから工事まで段階を踏んで検討 建設が進められるが 対象地の地形などを確認 把握するため 検討段階に応じた精度の地図が必要となる 現在 同国では基本的な測地基準点網が整備

文部科学省における宇宙分野の推進方策について

併せて 先進事例を統一的なフォーマットでデータベース化する また 意欲ある地域が先進的な取組みを行った人材に 目的に応じて容易に相談できるよう 内閣官房において 各省の人材システムを再点検し 総合的なコンシェルジュ機能を強化する 各種の既存施策に加え 当面 今通常国会に提出を予定している 都市再生法

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Microsoft Word - 【外務省】インフラ長寿命化(行動計画)

資料4-4 新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について 審議のまとめ(参考資料)


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将来有人宇宙活動に向けた宇宙医学 / 健康管理技術 研究開発に係る意見募集 ( 情報提供要請 ) 2018 年 12 月 10 日国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構有人宇宙技術部門宇宙探査イノベーションハブ 1. はじめに JAXA 有人宇宙技術部門 ( 部門長 : 若田光一 ) では 将来有人探

[ 指針 ] 1. 組織体および組織体集団におけるガバナンス プロセスの改善に向けた評価組織体の機関設計については 株式会社にあっては株主総会の専決事項であり 業務運営組織の決定は 取締役会等の専決事項である また 組織体集団をどのように形成するかも親会社の取締役会等の専決事項である したがって こ

目次 1. 我が国の新たな宇宙開発利用推進体制 2. 新たな宇宙基本計画 3. 平成 25 年度予算 ( リモセン関係 ) 4. 平成 26 年度の戦略的予算配分方針 5. 平成 26 年度概算要求 ( リモセン関係 ) 2

新たな防衛計画の大綱に向けた提言

知創の杜 2016 vol.10

タイトル

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法人会の税制改正に関する提言の主な実現事項 ( 速報版 ) 本年 1 月 29 日に 平成 25 年度税制改正大綱 が閣議決定されました 平成 25 年度税制改正では 成長と富の創出 の実現に向けた税制上の措置が講じられるともに 社会保障と税の一体改革 を着実に実施するため 所得税 資産税についても

1. 実現を目指すサービスのイメージ 高齢者や障害者 ベビーカー利用者など 誰もがストレス無く自由に活動できるユニバーサル社会の構築のため あらゆる人々が自由にかつ自立的に移動できる環境の整備が必要 ICT を活用した歩行者移動支援サービスでは 個人の身体状況やニーズに応じて移動を支援する様々な情報

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宮城の将来ビジョン 富県宮城の実現 ~ 県内総生産 10 兆円への挑戦 ~ 富県宮城の実現 ~ 県内総生産 10 兆円への挑戦 ~ 認知度集計表 ( 回答者属性別 ) 内容について知っている 言葉は聞いたことがある 効知らない ( はじめて聞く言葉である ) 県全体 度数 ,172

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参考資料 1-1 本年次報告の位置付け サイバーセキュリティ戦略 (2015 年 9 月 4 日閣議決定 ) に基づく二期目の年次報告 2016 年度のサイバーセキュリティに関する情勢及び年次計画に掲げられた施策の実施状況を取りまとめたもの ウェブアプリケーション (Apache Struts 等

第5回 国際的動向を踏まえたオープンサイエンスの推進に関する検討会 資料1-1

回収機能付加型宇宙ステーション補給機 (HTV-R) 検討状況 1. 計画の位置付け 2. ミッションの概要 3. 期待される成果 4. 研究の進捗状況 5. 今後の計画 平成 22 年 8 月 11 日宇宙航空研究開発機構 (JAXA) 有人宇宙環境利用ミッション本部 委 29-4

(1) 当該団体が法人格を有しているか 又は法人格のない任意の団体のうち次の1~2の要件を全て満たすもの 1 代表者の定めがあること 2 団体としての意思決定の方法 事務処理及び会計処理の方法 並びに責任者等を明確にした規約その他の規定が定められていること (2) 関係市町村との協議体制を構築してい

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資料 5 総務省提出資料 平成 30 年 12 月 21 日 総務省情報流通行政局

1) 3 層構造による進捗管理の仕組みを理解しているか 持続可能な開発に向けた意欲目標としての 17 のゴール より具体的な行動目標としての 169 のターゲット 達成度を計測する評価するインディケーターに基づく進捗管理 2) 目標の設定と管理 優先的に取り組む目標( マテリアリティ ) の設定のプ

資料 科学技術 学術審議会研究計画 評価分科会宇宙開発利用部会 ( 第 29 回 H ) HTV X の開発状況について 平成 28(2016) 年 7 月 14 日 ( 木 ) 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部門 HTV Xプリプロジェクトチーム長伊藤

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資料1 第3回災害救助に関する実務検討会における意見に対する回答

宇宙開発委員会 推進部会 GXロケット評価小委員会(第8回)議事録・配付資料 [資料8-1]

福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律 について <1. 特定復興再生拠点区域の復興及び再生を推進するための計画制度の創設 > 従来 帰還困難区域は 将来にわたって居住を制限することを原則とした区域 として設定 平成 29 年 5 月復興庁 地元からの要望や与党からの提言を踏まえ 1 帰還困難区

2019 年度予算 ( 案 ) 概要 平成 30 年 12 月内閣官房

第73回宇宙政策委員会

目 次 I. 政策体系における JAXAの位置付け及び役割 宇宙政策の目標達成に向けた政策体系 ( 宇宙基本計画における役割 ) 宇宙安全保障の確保 民生分野における宇宙利用の推進 宇宙産業及び科学技術の基盤の維持 強化...

一防災 減災等に資する国土強靱化基本法案目次第一章総則 第一条 第七条 第二章基本方針等 第八条 第九条 第三章国土強靱化基本計画等 第十条 第十四条 第四章国土強靱化推進本部 第十五条 第二十五条 第五章雑則 第二十六条 第二十八条 附則第一章総則 目的 第一条この法律は 国民生活及び国民経済に甚

第16回税制調査会 別添資料1(税務手続の電子化に向けた具体的取組(国税))

本日の説明内容 1. グリーン購入法の概要 2. プレミアム基準策定ガイドライン

平成 21 年度資源エネルギー関連概算要求について 21 年度概算要求の考え方 1. 資源 エネルギー政策の重要性の加速度的高まり 2. 歳出 歳入一体改革の推進 予算の効率化と重点化の徹底 エネルギー安全保障の強化 資源の安定供給確保 低炭素社会の実現 Cool Earth -1-

わが国の防衛産業政策の確立に向けた提言 2009 年 7 月 14 日 ( 社 ) 日本経済団体連合会 本年 4 月 北朝鮮が国連安全保障理事会の決議に違反して長距離弾道ミサイルを発射し 5 月には地下核実験を行うなど 北東アジアの安全保障環境は緊迫化している こうした安全保障環境のもとにおいて 防

資料3

資料 2-2 成長戦略改訂に向けた地域活性化の取組みについて ( 案 ) 内閣官房地域活性化統合事務局 成長戦略の改訂に向け これまでの施策の成果が実感できない地方において 新たな活力ある地域づくりと地域産業の成長のためのビジョンを提供しその具体化を図る 超高齢化 人口減少社会における持続可能な都市

NEWS 2020 速報 の一部を改正する法律案 REPORT 総会の様子 2025 GDP 3 02 vol

宇宙システム海外展開タスクフォース シンボルプロジェクト 宇宙システムなどの基盤技術及びこれにより提供される高精度 高信頼性リアルタイム測位サービスやこれらと関連する防災 環境などの社会公益サービスの海外展開 国際貢献等を積極的に促進 我が国の宇宙 地理空間情報システムを活かした高度なサービスをアジ

女性の活躍推進に向けた公共調達及び補助金の活用に関する取組指針について

沖縄でのバス自動運転実証実験の実施について

Transcription:

新たな宇宙基本計画に向けた提言 2012 年 11 月 20 日 一般社団法人日本経済団体連合会 1. はじめに経団連は昨年 5 月に 宇宙基本法に基づく宇宙開発利用の推進に向けた提言 をとりまとめ 宇宙インフラの構築と維持の重要性や 総合的な宇宙政策の推進組織の設置と宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の見直しによる政府の推進体制の強化を訴えた その後 本年 6 月に内閣府設置法が改正され 7 月に宇宙政策の司令塔となる内閣府宇宙戦略室が発足した 内閣府には 宇宙開発利用に関する政策等を調査審議する宇宙政策委員会も設置された JAXA についても法改正が行われ 主務大臣が追加されるなど体制の整備が前進した また 7 月に政府が閣議決定した 日本再生戦略 においては 宇宙空間の開発利用の戦略的な推進が盛り込まれた 特に 宇宙機器の製造から利用サービス産業まで含めた宇宙産業の規模を 2020 年度までに倍増するという成果目標が掲げられた こうした中で 政府の宇宙開発戦略本部は 2009 年 6 月に策定された現行の宇宙基本計画の見直しの時期を 1 年前倒しして 2013 年度以降の 5 年間を対象期間とする新たな宇宙基本計画を来年 1 月 ~2 月に策定する予定である また 現在は対象期間が異なっている JAXA の中期目標および中期計画については 2013 年度以降は対象期間が同じになり 宇宙基本計画と関連性が高くなる わが国の財政状況は厳しいが 新たな宇宙基本計画は宇宙関係予算を抑制するものではなく 適正予算の確保により 宇宙活動の自律性を保持し国家戦略としての宇宙開発利用を進める計画とすることが重要である こうした観点から 経団連として 新たな宇宙基本計画に向けた提言を取りまとめた 2. 新たな宇宙基本計画の意義 (1) 宇宙産業の振興および安全保障利用の推進今回の内閣府設置法と JAXA 法の改正により 文部科学省と総務省が所管していた JAXA を内閣府と経済産業省が新たに共管し JAXA は産業振興にも本格的に取り組めるようになった また これまで非軍事という解釈であった JAXA 法の目的規定における平和利用は 非侵略と解釈されている宇宙基本法における平和利用と整合性が図られた 新たな宇宙基本計画においては 宇宙産業の振興と安全保障分野 1

への宇宙利用について 最重要項目として位置づけることが必要である 産業振興については JAXA が研究開発機関にとどまらず企業を支援し 宇宙開発利用を進めるための総合的な機関として重責を担うことになる こうした役割と責任について新たな宇宙基本計画において明確にするとともに それに沿った JAXA の次期中期目標および中期計画を策定することが必要である 安全保障については 北朝鮮の弾道ミサイルによる脅威など緊迫する北東アジア情勢への対応や日米同盟の強化を図るための宇宙開発利用を推進する必要がある (2) 宇宙インフラの構築と利用の推進宇宙活動の基盤となる衛星やロケットおよび地上設備で構成される宇宙インフラの構築と維持は国の責務であり 他国の宇宙システムに依存しない自律性の確保や自律的システムの整備に力を入れるべきである その際 部品を含めた宇宙システム開発のため 国産技術の向上を図る必要がある 利用については 省庁や地方公共団体が宇宙インフラを積極的に活用し 具体的なメリットを示すことを通じて 国民への理解を浸透させるべきである 特に 東日本大震災の教訓を踏まえ 安全 安心の確保に向けて防災などの面で宇宙を積極的に利用していくことが重要である このような宇宙インフラの構築に向けた開発力の強化と利用の推進を目指すべきである また 取組みを継続することで 企業が国際競争力を維持 強化し事業を展開することが可能となる こうした観点から 宇宙産業への政府の基盤的支援が必要である (3) 宇宙外交の推進米国 欧州 ロシア 中国 インドなどが積極的に宇宙開発利用に取り組み 宇宙外交を展開している わが国においても 外交や国際協力のツールとして宇宙を活用していくことが重要である 発展途上国は 衛星等の活用によるインフラ強化を通じた経済社会の発展を目指し 衛星の利用 開発 製造などの様々な技術の獲得や宇宙機関の設立 人材育成などのニーズを有している こうした多様なニーズに産業界や JAXA 等が対応し アジアや南米等の諸国における宇宙開発利用プロジェクトの支援により 国際貢献や関係強化を図ることが重要である そうした第一歩として 2011 年 10 月には わが国の ODA( 政府開発援助 ) による衛星の供与がベトナムとの間で合意されるなど実績も上がっており 他国への展開が期待される また 先進国との間では 宇宙分野における共同プロジェクト等の実施によって 関係強化を図ることが重要である 2

3. 重要分野における推進方策 (1) 宇宙産業の基盤整備世界の宇宙機器産業が 2005 年から 2010 年にかけて 年平均 10% 超の成長を遂げた 一方 日本の宇宙機器産業の規模は 1998 年のピークと比べると 3 割程度も減少し 従業者数も減少傾向にある 事業の縮小によって撤退する中小企業も増加している 欧州では官需と民需の割合がほぼ同じことから 日本も海外市場からの受注を拡大し 民需の割合を高めるべきという議論もある しかし 欧州では国策会社として利用サービスを開始した組織が 事業が軌道に乗った段階で民営化した事例が多い 今後 わが国が海外展開を目指すうえで 官需と民需の割合を一概には比較できないことに留意すべきである 宇宙機器産業の基盤の強化のためには まず 国がアンカーテナンシー ( 長期間の調達 ) を行い 衛星やロケットなどによる宇宙インフラの構築と維持 政府衛星の打上げにおける国産ロケットの利用と年間一定の打上げ機数の確保などの施策を実施すべきである また 価格面におけるロケットの国際競争力の向上に向けた支援策についても検討すべきである このような施策を通じて 国際競争力のある製品やサービスを開発する機会の増大 海外市場からの受注の拡大につながり 民需の割合を高めていくことができる 中小企業を含む裾野の拡大には 高品質なコンポーネント ( 搭載機器 ) の輸出が重要である このため まず宇宙分野における最大の国際市場である商用通信 放送分野の衛星およびロケットをターゲットとし 国際競争力の高いコンポーネントの開発と軌道上実証を国が行うべきである また 民間企業が開発した国際市場で通用すると見込まれるコンポーネントについては JAXA が積極的に採用し利用実績をあげることが求められる こうした取組みにより 海外の企業からの受注による生産規模の拡大や衛星製造のコストの低減も図れる 宇宙利用産業については 利用技術の開発を図るとともに 政府衛星の利用を効率的に進めるため 衛星の運用などにおいて 官民の適正なリスク分担を考慮しつつ PFI 法などにより民間の活力を用いる方策を講じるべきである また 通信 放送事業者の海外展開や研究機関の活動を支援するため 国際的な周波数の取得および調整に対して 国が一層積極的に取組むべきである (2) 宇宙利用の開拓衛星利用の中核となる観測 通信 測位の分野における利用の開拓を進めるべきである 観測分野においては サービスの継続性を確保すべきである 現行の観測衛星は 主に研究開発目的であったことなどから 後継機の開発が遅れサービスが途切れる 3

ケースが生じている そこで 研究開発とは別に 地方公共団体をはじめ地域におけるユーザーの利便性を重視して サービスの継続性を確保し実用に供する公共リモートセンシング衛星を共通基盤として内閣府が整備 運用すべきである あわせて ユーザーの利用に資するため 国内の衛星に加えて外国の衛星データなども包含したデータセンターの整備が必要である さらに 政府のデータの開示の基準とともに 民間事業者によるデータの販売等に関する基準なども規定したデータポリシーを策定すべきである 通信分野においては次世代通信技術など 利用ニーズにあった技術開発および軌道上実証を通じて国内の利用に資するとともに その開発成果をもとに企業の国際競争力の確保と事業の拡大を実現することも必要である 測位分野においては 位置情報や地理情報などの地理空間情報を国民生活や産業等で高度に活用する社会の実現に向け 衛星測位インフラの構築と衛星データの有効利用を推進すべきである (3) 安全保障への活用わが国を取り巻く現下の厳しい国際情勢を踏まえ 安全保障に資する宇宙開発利用については 現行の宇宙関係予算に加えて予算の特別枠を設ける必要がある また JAXA による安全保障分野の宇宙開発利用への取組みも推進すべきである 具体的には 現行の宇宙基本計画で示されている情報収集衛星の観測頻度や性能の向上や利用の拡大を図るとともに 防衛用途に特化した衛星などの宇宙システムを整備すべきである (4) 防災 減災インフラの構築大規模災害によって地上系の通信インフラが分断された場合は 宇宙システムがバックアップとして大きな役割を果たす 東日本大震災においては津波が甚大な被害をもたらしたが 観測衛星による被災状況の把握 通信衛星による通信ネットワークの確保などが行われた また 災害からの復旧 復興においても被害状況の分析や復興過程のモニタリングなどに衛星は大きく貢献している こうした経験を踏まえ 通信 観測 測位の機能を活用した宇宙システムによる防災 減災インフラを地上の運用センターの整備を含め構築する必要がある また 大規模災害等の非常事態においては 安全保障に関わるインフラの機能についても 防災 減災インフラの一部として統合的に利用するためのルールや手続を規定するべきである さらに 日本で構築した防災 減災インフラは わが国と同様に地震 津波 洪水 台風など自然災害が起きる近隣のアジア諸国などに国際貢献するための有効な 4

ツールとして活用すべきである 4. 宇宙開発利用の重要プログラム (1) 観測地球観測 気象観測 環境観測などに加え 災害対策など観測衛星に対するニーズの多様化と実用化が進んでいる このため 公共的ユーザーによる利用に供する公共リモートセンシング衛星を整備すべきである 個別プログラムについては 陸域観測技術衛星 だいち の後継機の着実な開発を行うべきである また 温室効果ガス観測技術衛星 いぶき 気象衛星 ひまわり 水循環変動観測衛星 しずく と気候変動観測衛星で構成される地球環境変動観測ミッションの継続性の確保も重要である これらに小型地球観測衛星を加え アジア等における広域な観測インフラ網の構築を推進すべきである (2) 測位測位衛星については 産業 防災 安全保障などにおける広範な利用の検討が進められている この基盤となる実用準天頂衛星システムについて 2010 年代に 4 機体制を整備し 将来的には持続測位が可能となる 7 機体制の整備を目指すことを政府は昨年 9 月に決定した これを踏まえ わが国としての自律的な測位衛星システムの構築に向けて 準天頂衛星の 7 機体制の整備を迅速に進めるべきである また 後継となる次世代システムについても検討を開始し 性能向上のための研究開発に着手すべきである 米国 欧州 ロシア 中国 インドが独自の測位衛星システムの構築を進めており わが国は国際標準化に関する議論に主体的に参加するとともに アジア 太平洋地域における準天頂衛星システムの利用の推進など海外展開も推進すべきである (3) 通信 放送通信 放送衛星の国際市場は大きく 産業振興に向けて注力すべき分野である また 災害時において こうした衛星は重要な役割を果たす そこで 今後の市場ニーズを踏まえ 衛星の大型化 大容量化や 通信需要に応じて通信容量を調整できるフレキシブルペイロードや地上 衛星共用携帯電話システムなどの次世代の高度情報衛星通信の技術開発と軌道上実証ならびにデータ中継機能の強化などの軌道上通信インフラの整備を行う必要がある 5

(4) 安全保障現行の宇宙基本計画で示されている高度な光学センサーやレーダーを備えた情報収集衛星の開発と監視頻度の向上を図るべきである 防衛用途に特化した早期警戒衛星 偵察衛星 電波情報収集衛星などを開発すべきである 非常時において迅速に衛星を打ち上げることができる即応型宇宙システムの整備も必要である 昨年 6 月の日米安全保障協議委員会 (2+2) 共同発表に盛り込まれた安全保障分野における宇宙状況監視 測位衛星システム 宇宙を利用した海洋監視 デュアルユースのセンサーの活用などにおける日米協力を推進すべきである 海洋監視については 衛星による画像情報や位置情報をベースにした監視システムを構築する必要がある 宇宙状況監視については 光学望遠鏡およびレーダシステムを利用する監視システムを構築する必要がある (5) エネルギーわが国のエネルギー政策にとって 安定的な電力供給体制の確立は極めて重要な課題であり 宇宙太陽光発電システムの可能性を積極的に検討すべきである 将来の太陽光エネルギーの本格的な利用に資するため 地上実証を継続的に実施するとともに 宇宙太陽光発電システム実験衛星の低軌道への打上げや国際宇宙ステーション (ISS) の きぼう 日本実験棟の活用により 宇宙から地上へのエネルギー伝送技術などの研究開発や実証実験を推進すべきである (6) 有人宇宙活動 ISS については 科学実験などを通じた宇宙利用を効率的に推進すべきである きぼう においては 無重量環境を活用した医療 創薬などライフサイエンス分野における利用促進などが求められる また アジア諸国などに対して きぼう の利用を働きかけることにより 関係強化を図るべきである また ISS の 2020 年までの運用延長に伴い 有人宇宙活動を支えるため 宇宙ステーション補給機 こうのとり (HTV) への回収機能の付与等の継続的な機能向上をすべきである 国際有人宇宙探査については 外交面の効果やわが国の技術的な優位性の活用などを含めて 将来の参加のあり方を検討する必要がある (7) 宇宙科学天文観測や月 惑星探査を継続的に実施し 月の利用可能性についても探究すべきである 惑星探査については 小惑星探査機 はやぶさ 2 や小型科学衛星の開発が求められる 6

(8) スペースデブリ ( 宇宙ゴミ ) 対策宇宙環境のモニタリングおよびスペースデブリの抑制と除去について 国際的な枠組みの構築や法制度の整備に積極的に取組むべきである また スペースデブリ対策として 宇宙の環境保全に貢献する宇宙システムおよび地上システムの開発も今後の課題である (9) 輸送宇宙輸送システムは宇宙開発利用の根幹となるインフラであり わが国が人工衛星等の打上げを自在に行うため重要な役割を果たす 様々な重さの衛星等を輸送要求に応じて確実かつ効率的に宇宙に打ち上げる能力を維持 向上させることは わが国の宇宙開発利用の基盤強化だけでなく 国際競争力の強化や国際協力における重要な役割を担うためにも不可欠である 基幹ロケットについては H-ⅡA と H-ⅡB の安定的な運用と信頼性の一層の向上を図るとともに 今後の多様な打上げに対応し 高い国際競争力を持つ次期基幹ロケットの開発に着手し 2020 年頃の運用開始を目指すべきである 小型ロケットについては 今後の小型衛星の利用拡大を踏まえ継続的な開発を図るべきである また 貯蔵性 即応性 機動性に優れた固体燃料に関する技術の維持および向上を図るべきである (10) 射場等射場や地上設備等のインフラは老朽化が進んでいるため 計画的に整備に取り組むべきである 5. 推進体制の強化 (1) 総合的な宇宙政策の推進新たな宇宙基本計画の着実な実行に向けて 宇宙開発戦略本部の司令塔機能の発揮が重要である 宇宙開発利用に関する経費の見積り方針の調査審議を踏まえ 関係省庁の施策の総合調整や適正予算の確保を図る必要がある その際 総合科学技術会議や総合海洋政策本部などと連携を図ることが有効である また 複数省庁が利用する衛星やデータセンターなどの共通基盤の整備についても推進していく必要がある 各省庁による宇宙開発利用プロジェクトについては PDCA(Plan Do Check Action) を着実に行い 開発と利用を一体化して評価すること重要である 安全保障分野については 高い機密性が保てる体制や法制度の整備が必要である 7

(2)JAXA の活動の推進 JAXA の所管府省 ( 内閣府 総務省 文部科学省 経済産業省 ) は新たな宇宙基本計画に基づく 2013 年度からの次期中期目標の策定 JAXA にはその中期目標を達成するための中期計画の策定および着実な実施が求められる 新たなミッションである産業振興については 産業界のニーズに即した効果的な支援や 設備等の供用および技術移転の促進を行うべきである また 中期計画の実施の評価については 産業界の意見が反映される仕組みを構築すべきである また 宇宙基本法との平和利用目的の整合性が図られたことにより 広義の安心 安全確保を含めた安全保障利用分野へも積極的な取組みが求められる さらに 宇宙科学研究所 (ISAS) が担当する部門においては 世界をリードする研究成果を創出するため 科学者の豊かな発想をより一層活かすべきである (3) 官民の連携強化官民連携により 利用拡大につながる宇宙関連技術の研究開発 利用 商業化を推進すべきである 宇宙用コンポーネントの共通化 民生部品の活用および部品の一括調達による安定供給等により 信頼性の向上および価格の低減などを図る必要がある 新興国に対する宇宙分野のパッケージインフラ輸出においては 相手国のニーズが多岐に渡っている 民間企業としては製造スキル向上のためのトレーニング等の貢献ができる一方 JAXA など政府機関によるキャパシティー ビルディングが効果的な国も多い このため 相手国のニーズに応じた適切な協力や支援に向けて 官民の連携を強化すべきである (4) 宇宙関連法制等の整備宇宙基本法第 35 条では 政府は宇宙活動に関する法制の整備を速やかに実施しなければならないとされている 特に 衛星やロケットの打上げや運用において 事故が起きたときに民間企業が負担する損害賠償責任が過度になる場合には国が支援を行うことを明確にするなど 宇宙市場への参入を促進する法整備をすべきである また 1990 年の日米衛星調達合意により 実用衛星の国際公開調達が規定されている 宇宙分野において こうした事例は国際的にない わが国の宇宙産業にとって障害となっている同合意について 米国に廃止を働きかけるべきである まず 測位衛星 気象衛星 観測衛星などは広義の安全保障に資する衛星であるため 同合意の対象から除外して国産の政府衛星の利用を促進すべきである 政府衛星を打上げる国産ロケットの利用の促進策についても 欧米の例を参考にして検討すべきである 8

国内における衛星等の調達契約については 開発要素を考慮した柔軟性の確保やコスト低減につながるインセンティブの付与など契約方式の整備を検討すべきである (5) 人材育成宇宙産業が明るい将来展望を切り拓き魅力を高め 優秀な人材を引き付ける好循環を作り出す環境を整備していくことが重要である こうした観点を踏まえ 人材育成については産業の裾野の拡大や雇用確保と教育政策の連携という総合的な視点に立って推進していくべきである まず 小学校 中学校 高校において宇宙に対する関心を高める教育を充実させ 大学において優れた研究者や技術者を育成すべきである その上で 宇宙関連機関における専門家や新たに宇宙産業に従事する研究者や技術者の育成に取り組む必要がある 以上 9