運動器系疾患に対する鍼灸治療 国際中獣医学院日本校 石野孝
椎間板ヘルニアの鍼灸治療
重症度分類 (1) 胸腰部椎間板ヘルニアの重症度分類 Grade 徴候 Ⅰ Ⅱ 疼痛のみで神経異常がない 不完全麻痺だが歩行可能繰り返し起こる疼痛 Ⅲ 重度の不全麻痺 ( 歩行 規律不可 ) Ⅳ Ⅴ 麻痺神経原性排尿麻痺 a: 深部痛覚の無い麻痺 :48 時間以内 b: 深部痛覚の無い麻痺 :48 時間以上 Sharp,N.J.H.,Wheeler,In Small Animal.Spinal Disoders.Diagnosisi and Surgery.2 nd edit.
重症度分類 (2) 頸部椎間板ヘルニアの重症度分類 Group 徴 候 Ⅰ 頸部の痛み : 初発 Ⅱ 頸部の痛み : 再発 Ⅲ 頸部痛および神経学的異常あり Toombs,J,P and Waters,D.J.Interverteabral disc disease.pp.1193-1209:textbook of Small Animal Surgery,3 rd edit. 2003
治療の選択 (2) 頸部椎間板ヘルニアの重症度分類 Grade Ⅰ Ⅱ 治療方法 保存療法 : 運動制限 疼痛管理 保存療法 : 運動制限 疼痛管理外科療法 : 減圧術 ( 腹側減圧術など ) Ⅲ 外科療法 : 減圧述 ( 腹側減圧術など ) Toombs,J,P and Waters,D.J.Interverteabral disc disease.pp.1193-1209:textbook of Small Animal Surgery,3 rd edit. 2003
保存療法 運動制限 椎間板組織の線維化や瘢痕化の促進 ゲージレスト :10-14 日間 疼痛管理 非ステロイド系消炎鎮痛剤 : 疼痛管理のファーストチョイス トラマドール プレガバリンなど :NSAID s が無効な症例に ステロイド療法 : 脊髄に生じる浮腫や炎症の緩和 二次性脊髄損傷の緩和
ステロイド療法 急性期 慢性期 コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム (MPSS) 1st:22mg/kg iv (1 時間後 2nd:11mg/kg iv メチルプレドニゾロン 1.1mg/kg 1 週間間隔で漸減 以後 2mg/kg/hr
各種治療法の回復率と再発率 各種療法の回復率 Grade 内科療法外科療法 Ⅰ 55-100% 83-97% Ⅱ 55-85% 83-95% Ⅲ 55-85% 83-95% Ⅳ 50% 86-95% Ⅴ a:5-7% b:- a:45-76% b:6-33% Loremze,MD Handbook of Neurology 4 th edit Sharp,N.J.H.,Wheeler,In Small Animal.Spinal Disoders.Diagnosisi and Surgery.2 nd edit.
各種療法の回復率と再発率 各種療法の回復までの日数と再発率 Grade 保存療法片側椎弓切除率造窓術 Ⅰ 3 日く 2 日 3 日 Ⅱ 6 日く 2 日 4 日 Ⅲ 6 日 2-7 日 6-8 日 Ⅳ 9-12 日 Ⅰ-4 日 6-8 日 Ⅴ NE 5-10 日 10 日 再発率 34-40% 4-19% 0-15%
発症後 48 時間以内に! 神経細胞は一度壊死したら再生しません 発症後はできるだけ早期に 治療を開始しましょう
椎間板ヘルニアの病因 風寒湿邪 外因 気血の運行不利 経絡の阻滞 患部の損傷 慢性疾患 内因 老化腎精の毀損筋脈の失養 過労 ( 過剰の散歩 )
ツボの決定方法 (1) 1. 局所取穴法 患部付近のツボを使う主に督脈 膀胱経 胆経 胃経の経絡上のツボ
督脈 胆経 膀胱経 胃経
ツボの決定法 (2) 2. 循経取穴法 患部から離れていても経絡でつながっているツボを用いる 例 ) 膀胱経後方 胆経後方 胃経後方のツボ 後肢内側を走行している陰経よりも外側を走行している 陽経の方が操作が簡便で用いやすい
ツボの決定法 (3) 3 阿是穴 患部を触ったときに あっ! ここだ! と響く部位
ツボの決定法 (4) 左 右 4. よく使われるツボ 1 局所と循経取穴より肝兪 脾兪 胃兪 三焦兪 腎腧 氣海兪 大腸兪 關元兪 小膓兪 膀胱腧 ( 左右 ) 胆兪脾兪胃兪三膲兪腎兪気海兪大腸兪関元兪小腸兪膀胱兪
ツボの決定法 (5) 2 前後配穴より陽関 + 腰百会 大椎 + 腰百会 腰百会 + 後海 3 上下配穴足三里 + 趾間 大椎 腰陽關 腰の百会 足三里 趾間
ツボの決定法 (5) 4 経験的取穴法 趾間 + 足三里 : 深部痛覚回復に効果的 腰百会 + 後海 ( 低周波パルス治療 ): 便秘 尿閉に効果的 膀胱腧 氣海兪 大膓兪 小膓兪 腎腧 三焦兪 ( 左右 )
配穴法 ( 主穴では足りない場合に用いる ) (1) 表裏配穴法 表裏関係にある陰経と陽経のツボを用いる ( 例 ) 陰経の太谿 ( 腎経 ) と陽経の崑崙 ( 膀胱経 )
崑崙 (BL60) 太谿 (KI3)
(2) 前後配穴法 経脈の前後関係で取穴する ( 例 ) 同じ督脈上の大椎と腰の百会を用いる
大椎 (GV14) 腰の百会
(3) 上下配穴法 同経絡上の上下関係で取穴する ( 例 ) 足三里 + 趾間 足三里 (ST36) 趾間
(4) 左右配穴法 両側対称に取穴する ( 例 ) 左右の膀胱腧をあわせて用いる 膀胱兪 (BL28) 膀胱兪 (BL28)
経脈弁証取穴法 痿症 : 脊椎の痛みと後肢の麻痺に続く筋肉の萎縮は本症の最も一般的な所見である 五臓の機能から骨を主る腎 肌肉と四肢を主る脾 筋腱を主る肝などが深く関与している 腎脾肝
刺激強度 痛みが強い症例には高周波 麻痺がひどい症例には低周波 急性疾患には瀉法 慢性疾患には補法 同じ患者でも部位によって補瀉を使い分ける 患者が最も心地よく感じる強度が最適である
前肢運動器系疾患の鍼灸治療 1. 肩の運動器系疾患肩 肩関節には大腸経 膀胱経 三焦経 胆経 肺経が分布
前肢陽明大腸経 前肢陽明大腸経 前肢太陽小腸経 前肢太陽小腸経 後肢太陽膀胱経 前肢少陽三焦経 前肢少陽三焦経 前肢太陰肺経
1. 肩の運動器系疾患 三焦経が利用しやすい ( 外関 三陽胳 ) 疼痛が肩関節上にあれば ( 小腸経の天宗 弓子 ) ( 肺経の雲門 中府 ) 背中に近い部位では膀胱経 胆経のツボを使う
弓子 (SI11-01 天宗 (SI11) 雲門 (LU2) 中府 (LU1) 弓子 (SI11-01 天宗 (SI11) 三陽絡 (TE8) 外関 (TE5)
2. 肩関節の運動器系疾患 肩関節を走行する経絡は大腸経 三焦経 小腸経 少し離れて 心包経 腋窩近くに心経が走行 大腸経の臂臑 小腸経の天宗 弓子 肩貞 三焦経の臑会
大腸経 三焦経 小腸経 肺経 臂臑 (LI14) 心経 弓子 (SI11-01) 天宗 (SI11) 肩貞 (SI9) 臑会 (TE13) 三焦経
3. 上腕の運動器系疾患 上腕には前肢三陽経が関与 大腸経の臂臑 三焦経の臑会
肩髃 (LI15) 臑兪 (SI10) 肩髎 (TE14) 肩髃 (LI15) 肩関節肩峰頭側の陥凹部 臑兪 (SI10) 肩関節肩峰の尾背側 ( 上上方 ) で 肩甲棘に沿った陥凹部 肩髎 (TE14) 肩甲骨肩峰と天井 (TE10) を結んだ線上で 肩峰からみて 1/3
大腸経 小腸経 三焦経 臂臑 (LI14) 臑会 (TE13)
4. 肘関節の運動器系疾患 痛みの多くは伸張側で 大腸経 ( 合谷 手三里 曲池 ) 小腸経 ( 後谿 腕骨 養老 ) 三焦経 ( 四瀆 外関 三陽絡 ) 屈側の痛みは心包経 ( 内関 )
大腸経 小腸経 三焦経 心包経 内関 (PC6) 曲池 (LI11) 手三里 (LI10) 合谷 (LI4) 三陽絡 (TE8) 四瀆 (TE9) 外関 (TE5) 養老 (SI6) 腕骨 (SI4) 後溪 (SI3)
少海 (HT3) 曲沢 (PC3) 尺沢 (LU5) 曲池 (LI11) 小海 (SI8) 少海 (HT3) 肘窩屈曲線 ( 肘のひだ ) の内端と上腕骨内側上顆の間にある陥凹部 曲沢 (PC3) 肘窩屈曲線上で 上腕二頭筋腱の内側 尺沢 (LU5) 肘窩屈曲線で 上腕二頭筋腱の外側 ( 橈側 ) 曲池 (LI11) 肘窩屈曲線の外側の陥凹部 小海 (SI8) 肘の内側で 上腕骨内側上顆と尺骨肘頭との胃仇に 陥凹部
5. 手根関節および指の運動器系疾患 指間穴および阿是穴
前肢運動器系疾患の治療法 1 白針 : 阿是穴 前述のすべてのツボ 2 低周波パルス治療に用いるツボ : 例 ) 臑会 + 手三里 臑会 + 指間 手三里 + 指間 3レーザー針 : 前述のすべてのツボ 4: 温灸 : 腰の百会 陽関 命門 5 水鍼 : 臑会 手三里等 6 気鍼 : 弓子
後肢運動器系疾患の鍼灸治療 1. 股関節の疼痛 股関節には胃経 胆経 膀胱経の経絡が走行している 腹側から見ると脾経が股関節骨頭に近いところを走行している
膀胱経 胆経 脾経 胃経
股関節疼痛のツボ 胃経の髀関 伏兎 膀胱経の上膠 秩辺 崑崙 至陰 胆経の環跳 膝陽関 脾経の三陰交 腎経の太谿 復溜 腰の百会 足三里 趾間
腰百会 膀胱経 上髎 (BL31) 居髎 (GB29) 髀関 (ST31) 環跳 (GB30) 伏兎 (ST32) 胃経 膝陽関 (GB33) 足三里 (ST36) 脾経 腎経 三陰交 (SP6) 崑崙 (BL60) 復溜 (KI7) 太谿 (KI3) 趾間 至陰 (BL67)
居髎 (GB29) 環跳 (GB30) 秩辺 (BL54)
股関節疼痛の鍼灸治療法 1 白鍼 : 阿是穴 髀関 伏兎 上膠 崑崙 至陰 環跳 陽陵 三陰交 隱白 太谿 復溜 腰の百会 足三里 趾間 2 低周波パルス治療 : 足三里 + 腰の百会 腰の百会 + 環跳 環跳 + 足三里 腰の百会 + 髀関 髀関 + 膝陽関 4 レーザー鍼 : 前述のすべてのツボ 5 温灸 : 関節周囲のツボ 7 水鍼 : 関節周囲のツボ
2. 膝の疼痛 膝関節内側を走行する経絡は脾経 腎経 肝経 膝関節外側を走行する経絡は胃経 胆経 膝窩部は膀胱経 脾経 : 三陰交 腎経 : 陰谷 復溜 肝経 : 膝関 胃経 : 犢鼻 胆経 : 膝陽関 膀胱経 : 委中
膀胱経 胆経 胃経 肝経 膝関 (LR7) 脾経胃経 膀胱経 犢鼻 (ST35) 委中 (BL40) 膀胱経 腎経 陰谷 (KI10) 犢鼻 (ST35) 膝陽関 (GB33) 委中 (BL40) 腎経 陰谷 (KI10) 脾経 三陰交 (SP6) 復溜 (KI7)
膝関節の鍼灸治療 1 白鍼 : 三陰交 陰谷 復溜 膝関 犢鼻 足三里 膝陽関 委中 2 低周波パルス治療 : 足三里 * 腰の百会 腰の百会 + 髀関 髀関 + 膝陽関 3 レーザー鍼 : 犢鼻 足三里 その他患部 4 温灸 : 関節周囲のツボ 5 水鍼 : 伏兎 髀関 足三里
足根および指の疼痛 足根関節部の疼痛には腎経 : 湧泉 太谿 足根関節外側 ~ 前面 足背にかけての疼痛は胃経 : 足三里 胆経 : 陽交 後測部の疼痛は膀胱経 : 崑崙 至陰 内側 ~ 足背内側の痛みは三陰交 復溜
膀胱経 肝経 脾経 胃経 膀胱経 膀胱経 腎経 胆経 胃経 足三里 (ST36) 足三里 (ST36) 腎経 三陰交 (SP6) 復溜 (KI7) 陽交 (GB35) 復溜 (KI7) 崑崙 (BL60) 太谿 (KI3) 崑崙 (BL60) 太谿 (KI3) 湧泉 (KI1)
陽交 (GB35) 位置 外果と膝窩横紋を結んだ線上で 外果からみて 7/16 のところ 操作 直刺または斜刺
足根および指の鍼灸治療 1 白鍼 : 湧泉 太谿 復溜 足三里 陽交 崑崙 至陰 三陰交 復溜 2 低周波パルス治療 : 足三里 + 趾間 3 レーザー鍼 : 患部周辺のツボ
まとめ 患部に走行している経絡を確認し その経絡上にあるツボを用いる 鍼灸治療は疼痛や麻痺の原因や変形を取り除く治療ではなく 疼痛や麻痺 機能障害を改善するのみであるので 体重制限や運動制限 NSAIDs の投与なども必要な場合がある 完治ではなく痛みの管理である 急性のものは瀉法を 慢性のものは補法を 低周波パルスは 麻痺性疾患には低周波 疼痛性疾患には高周波を 体が刺激に慣れないように絶えず変化を与える