特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

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共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道機関各位 令和元年 7 月 9 日 東北大学 流動中の磁気スキルミオン格子の変形挙動観測に成功 発表のポイント カイラル磁性体 MnSi で形成される磁気スキルミオンが 電流下の流動状態においても格子構造を保つことを確認した 流動状態においては磁気スキルミオン格子が塑性変形することを観測した 塑

令和元年 6 月 1 3 日 科学技術振興機構 (JST) 日本原子力研究開発機構東北大学金属材料研究所東北大学材料科学高等研究所 (AIMR) 理化学研究所東京大学大学院工学系研究科 スピン流が機械的な動力を運ぶことを実証 ミクロな量子力学からマクロな機械運動を生み出す新手法 ポイント スピン流が

スピントロニクスにおける新原理「磁気スピンホール効果」の発見

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

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マスコミへの訃報送信における注意事項

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機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

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報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

マスコミへの訃報送信における注意事項

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

4. 発表内容 : 1 研究の背景と経緯 電子は一つ一つが スピン角運動量と軌道角運動量の二つの成分からなる小さな磁石 ( 磁 気モーメント ) としての性質をもちます 物質中に無数に含まれる磁気モーメントが秩序だって整列すると物質全体が磁石としての性質を帯び モーターやハードディスクなど様々な用途

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Microsoft Word - 01.doc

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

論文の内容の要旨

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

Microsoft PowerPoint - summer_school_for_web_ver2.pptx

マスコミへの訃報送信における注意事項

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

互作用によって強磁性が誘起されるとともに 半導体中の上向きスピンをもつ電子と下向きスピンをもつ電子のエネルギー帯が大きく分裂することが期待されます しかし 実際にはこれまで電子のエネルギー帯のスピン分裂が実測された強磁性半導体は非常に稀で II-VI 族である (Cd,Mn)Te において極低温 (

マスコミへの訃報送信における注意事項

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功

4. 発表内容 : 超伝導とは 低温で電子がクーパー対と呼ばれる対状態を形成することで金属の電気抵抗がゼロになる現象です これを室温で実現することができれば エネルギー損失のない送電や蓄電が可能になる等 工業的な応用の観点からも重要視され これまで盛んに研究されてきました 超伝導発現のメカニズム す

4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

概要 東北大学金属材料研究所の周偉男博士研究員 関剛斎准教授および高梨弘毅教授のグループは 産業技術総合研究所スピントロニクス研究センターの荒井礼子博士研究員および今村裕志研究チーム長との共同研究により 外部磁場により容易に磁化スイッチングするソフト磁性材料の Ni-Fe( パーマロイ ) 合金と

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

領域代表者 : 金井求 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 研究期間 :2017 年 7 月 ~2023 年 3 月上記研究課題では 独立した機能を持つ複数の触媒の働きを重奏的に活かしたハイブリッド触媒系を創製し 実現すれば大きなインパクトを持つものの従来は不可能であった 極めて効率の高い有機合

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発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

平成18年2月24日

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

図は ( 上 ) ローレンツ像の模式図と ( 下 ) パーマロイ磁性細線の実際のローレンツ像

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振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

PRESS RELEASE 2019 年 4 月 3 日理化学研究所金沢大学国立天文台 ガンマ線バーストのスペクトルと明るさの相関関係の起源 - 宇宙最大の爆発現象の理論的解明へ前進 - 理化学研究所 ( 理研 ) 開拓研究本部長瀧天体ビッグバン研究室の伊藤裕貴研究員 長瀧重博主任研究員 数理創造プ

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

研究の背景これまで, アルペンスキー競技の競技者にかかる空気抵抗 ( 抗力 ) に関する研究では, 実際のレーサーを対象に実験風洞 (Wind tunnel) を用いて, 滑走フォームと空気抵抗の関係や, スーツを含むスキー用具のデザインが検討されてきました. しかし, 風洞を用いた実験では, レー

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

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平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

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構造化学

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1 背景 物質を構成する陽子や電子はフェルミ粒子と呼ばれ 通常反粒子が別の粒子として存在します 例えば 電 子の反粒子は陽電子であり 異なる符号の電荷を持つためこれらは別の粒子と見なせます 一方で 粒子と反 粒子が同一という特異な性質をもつ中性のフェルミ粒子が 素粒子の一つとして 1937 年に予言

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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PRESS RELEASE 2018/5/21 シャコガイ殻に残された台風の痕跡 ~ 新たに発見過去の台風の復元指標 ~ ポイント 台風を経験したシャコガイの殻の化学組成や成長線の幅に特徴的な変化が生じることを発見 沖ノ鳥島のシャコガイに刻まれた日輪を数えると化学分析結果の正確な日付がわかることが判

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PRESS RELEASE 2018 年 11 月 19 日理化学研究所北海道大学 磁気渦の新しい生成機構を発見 - 磁気渦を情報担体とする磁気記憶素子の実現に期待 - 理化学研究所 ( 理研 ) 創発物性科学研究センタースピン創発機能研究ユニットの高木里奈特別研究員 関真一郎ユニットリーダー 強相関物性研究グループの十倉好紀グループディレクター 北海道大学大学院理学研究院物理学部門の速水賢助教らの国際共同研究グループ は 外部磁場がない状態でも磁気渦が生成していることを発見し その生成機構を解明しました 本研究成果は 磁気渦を示す物質の探索 設計のための新しい指針を与えるとともに 磁気渦を情報担体 [1] とする磁気記憶素子の実現に向けた足掛かりになると期待できます 磁気構造体を情報担体として利用する磁気記憶素子の高密度化 省電力化に向けて ナノスケールの磁気渦構造が近年注目を集めています 従来 こうした磁気渦の生成には特殊な対称性の結晶構造と外部磁場が必要であるとされ 物質設計が難しいという問題がありました 今回 国際共同研究グループは 中性子小角散乱測定 [2] により Y 3 Co 8 Sn 4 (Y: イットリウム Co: コバルト Sn: スズ ) という物質は外部磁場がなくても磁気渦構造を生成していることを発見しました その起源としては 動き回る電子が媒介する多体の磁気的相互作用に由来した新しい機構によって 磁場がない状況で磁気渦が生成されていることが考えられます 本研究は 米国のオンライン科学雑誌 Science Advances (11 月 16 日付け : 日本時間 11 月 17 日 ) に掲載されました 図磁性金属中を動き回る電子 ( 黄色の球 ) が媒介する磁気的相互作用によって生じる磁気渦 国際共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センタースピン創発機能研究ユニット 格子の概念図 1

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀 ( とくらよしのり ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) スイスポール シェラー研究所研究員ジョナサン ホワイト (Jonathan S. White) 北海道大学大学院理学研究院物理学部門助教速水賢 ( はやみさとる ) フランスラウエ ランジュバン研究所研究員ダーク ホネッカー (Dirk Honecker) スイス連邦工科大学ローザンヌ校教授ヘンリック ロノー (Henrik M. Ronnow) 研究支援本研究は 日本学術振興会 (JSPS) 科学研究費補助金基盤研究 A 磁気構造のトポロジー 対称性に由来した新しいマグノン 熱輸送現象の開拓 ( 研究代表者 : 関真一郎 ) 同研究活動スタート支援 スピン軌道相互作用が強い磁性体に潜むトロイダルモーメントの理論的探索 制御 ( 研究代表者 : 速水賢 ) 同科学研究費助成事業新学術領域研究 ナノスピン変換科学 ( 領域代表 : 大谷義近 ) の研究課題 キラル物質を用いた新しい選択則のスピン流 電流変換現象の開拓 ( 研究代表者 : 関真一郎 ) JST 戦略的創造研究推進事業個人型研究 ( さきがけ ) トポロジカル材料科学と革新的機能創出 ( 領域総括 : 村上修一 ) の研究課題 磁気構造と電子構造のトポロジーを利用した巨大創発電磁場の生成と制御 ( 研究代表者 : 関真一郎 ) 同個人型研究 ( さきがけ ) 新物質科学と元素戦略 ( 領域総括 : 細野秀雄 ) の研究課題 磁気バブルメモリの刷新に向けた スキルミオンの結晶学と電磁気学の構築 ( 研究代表者 : 関真一郎 ) による支援を受けて行われました 1. 背景 電子は 電気的な性質である 電荷 と磁気的な性質である スピン [3] という二つの性質を持っています スピンの集まりである磁気構造体を情報担体として利用する磁気記憶素子を高密度化 省電力化する方法として 近年注目を集めているのが渦状の磁気構造です 粒子としての性質を持つナノスケール (1~100nm 1nm は 10 億分の 1 メートル ) の磁気渦構造は 新しい情報担体の候補として有望視されています 渦状のスピン配列を作るためには 隣り合うスピンの向きを傾ける力が必要です バルクの物質でこのような力が働くのは 特殊な結晶構造を持つ物質に限られると考えられていたため 物質設計が難しいという問題がありました 2

このため より多彩な物質群で磁気渦を生成できる新しい機構を見いだすことが期待されていましたが 実際のバルク物質において実証されていませんでした 2. 研究手法と成果 国際共同研究グループは 磁性金属 Y 3 Co 8 Sn 4 (Y: イットリウム Co: コバルト Sn: スズ ) に着目し スピンの配列を詳しく調べました まず Y 3 Co 8 Sn 4 の単結晶バルク試料を作製し ( 図 1) スイスのポール シェラー研究所およびフランスのラウエ ランジュバン研究所の中性子ビームラインを用いて 中性子小角散乱実験を行いました 図 1 作製した Y 3Co 8Sn 4 の単結晶バルク試料 その結果 温度 17K( 約 -256 ) 以下 磁場がない状態において 六つのスポットパターンが観測されました ( 図 2a) また 磁場を試料面に平行な方向にかけても 強磁性状態 [4] になる直前まで 六つのスポットパターンが保たれることが分かりました これらの結果は 磁気渦が規則正しく整列して三角形の格子を組んでいることを表しています 従来知られている物質では 磁場がない状態で通常 らせん型のスピン配列 ( らせん磁性 ) が現れるのに対して Y 3 Co 8 Sn 4 では磁場がなくても磁気渦を生成できることが分かりました ( 図 3) 次に この磁気渦の起源を調べるため 磁性金属に特有な多体の磁気的相互作用を取り入れた理論モデルを用いて 六方晶の結晶格子上におけるスピン配列のシミュレーションを行いました その結果 磁場がない状態でも磁気渦が現れるという 実験とよく一致する結果が得られました ( 図 2b) すなわち 動き回る電子が媒介する多体の磁気的相互作用という磁性金属に内在する性質が今回発見した磁気渦生成の鍵となっていることが強く示唆されます 3

図 2 Y 3Co 8Sn 4 で観測された中性子小角散乱パターンとスピン配列 (a) 温度 2K( 約 -271 ) 磁場がない状態で観測された中性子小角散乱パターン 六つのスポット ( 赤 ) は 磁気渦が三角形の格子を組んでいることを表している 磁気渦の間隔はおよそ 8nm である (b) シミュレーションによって得られたスピン配列 各矢印は電子が持つ磁気モーメントの向きを示す このスピン配列は 六角形 ( 青 ) で囲まれた領域を単位として 周期的な構造を持っている 図 3 中性子小角散乱測定で決定した Y 3Co 8Sn 4 の磁気相図 中性子小角散乱測定の結果 温度や磁場を変化させると 磁気渦格子 ( 赤い領域 ) らせん磁性 ( 灰色の斜線 ) 強磁性が現れることがわかった 赤と灰色が重なっている領域では磁気渦格子とらせん磁性が共存している 赤で示しているように 磁場がない状態でも磁気渦格子が観測された 3. 今後の期待 今回発見した新しい磁気渦の生成機構は 動き回る電子が媒介する多体の磁気的相互作用という 多くの磁性金属に内在する性質であることから 新物質だけでなくこれまで見落とされていた物質も磁気渦を形成する物質の候補となり 磁気渦を示す物質の探索 設計に新しい指針を与えます また 磁場がな 4

い状態でも磁気渦を生成できるという特徴は 磁気渦を情報担体とする磁気記憶素子の実現に向けた足掛かりとなると期待できます 4. 論文情報 < タイトル > Multiple-q non-collinear magnetism in an itinerant hexagonal magnet < 著者名 > R. Takagi, J. S. White, S. Hayami, R. Arita, D. Honecker, H. M. Ronnow, Y. Tokura, S. Seki < 雑誌 > Science Advances <DOI> 10.1126/sciadv.aau3402 5. 補足説明 [1] 情報担体情報の書き込みや読み出し 保持ができる構造や状態 [2] 中性子小角散乱測定中性子は磁気モーメントを持っており これを磁性体に照射すると 磁性体中で整列したスピンが作る構造の周期や向きを知ることができる ナノスケールの周期的な構造を測定する場合 照射した中性子は 散乱されて数度以下の角度だけ傾いた方向に出てくる このように小さい散乱角を測定するためには 特別なビームラインが必要となる [3] スピン物質中の電子は小さな磁石としての性質 ( 磁気モーメント ) を持っている 磁気モーメントは 電子が原子核の周りを回転運動することで生じる他 自転に相当する スピン と呼ばれる自由度に伴って生じる [4] 強磁性電子のスピンがすべて同じ方向に配列した状態 6. 発表者 機関窓口 < 発表者 > 研究内容については発表者にお問い合わせ下さい理化学研究所創発物性科学研究センタースピン創発機能研究ユニット特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) TEL:048-462-1111( 内線 :6382) FAX:048-462-4703 E-mail:rina.takagi[at]riken.jp 5

創発物性科学研究センタースピン創発機能研究ユニットユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) 創発物性科学研究センター強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀 ( とくらよしのり ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 北海道大学大学院理学研究院物理学部門助教速水賢 ( はやみさとる ) 高木里奈関真一郎十倉好紀速水賢 < 機関窓口 > 理化学研究所広報室報道担当 TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715 E-mail:ex-press[at]riken.jp 北海道大学総務企画部広報課広報 渉外担当 TEL:011-706-2610 FAX:011-706-2092 E-mail:jp-press[at]general.hokudai.ac.jp 上記の [at] は @ に置き換えてください 6