ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

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研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

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記者発表資料

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平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

論文の内容の要旨

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

世界初! 次世代電池内部のリチウムイオンの動きを充放電中に可視化 ~ 次世代電池の実用化に向けて大きく前進 ~ 名古屋大学 パナソニック株式会社 ( 以下 パナソニック ) および一般財団法人ファインセラミックスセンター ( 以下 ファインセラミックスセンター ) は共同で 走査型透過電子顕微鏡 (

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ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー A 電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー 第 9 回 品質技術兼原龍二 前回の第 8 回目では FIB(Focused Ion Beam:FIB) のデメリットの一つであるGaイ

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報道発表資料 2000 年 2 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 北海道大学 新しい結晶成長プロセスによる 低欠陥 高品質の GaN 結晶薄膜基板作製に成功 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 北海道大学との共同研究により 従来よりも低欠陥 高品質の窒化ガリウム (GaN) 結晶薄膜基板

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がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

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酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

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機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する


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e - カーボンブラック Pt 触媒 プロトン導電膜 H 2 厚さ = 数 10μm H + O 2 H 2 O 拡散層 触媒層 高分子 電解質 触媒層 拡散層 マイクロポーラス層 マイクロポーラス層 ガス拡散電極バイポーラープレート ガス拡散電極バイポーラープレート 1 1~ 50nm 0.1~1

受付番号:

ロナ放電を発生させました これによって 環状シロキサンが分解してプラスに帯電した SiO 2 ナノ微粒子となり 対向する電極側に堆積して SiO 2 フィルムが形成されるという コロナ放電堆積法 を開発しました 多くの化学気相堆積法 (CVD) によるフィルム作製法には 真空 ガス装置が必要とされて

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氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

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と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

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領域代表者 : 金井求 ( 東京大学大学院薬学系研究科教授 ) 研究期間 :2017 年 7 月 ~2023 年 3 月上記研究課題では 独立した機能を持つ複数の触媒の働きを重奏的に活かしたハイブリッド触媒系を創製し 実現すれば大きなインパクトを持つものの従来は不可能であった 極めて効率の高い有機合

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1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

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体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

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報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光


平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功

平成 30 年 5 月 25 日 報道機関各位 東京工業大学中央大学 可視光で働く新しい光触媒を創出 - 常識を覆す複合アニオンの新材料を発見 - 要点 酸素とフッ素を構成元素に含む可視光応答型の新しい光触媒を開発 アニオン複合化で得られる結晶構造を活用し太陽光の主成分を効率よく吸収 太陽光をエネル

支援財団研究活動助成 生体超分子を利用利用した 3 次元メモリデバイスメモリデバイスの研究 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科小原孝介

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2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

研究成果報告書

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

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コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

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がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

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PRESS RELEASE (2016/11/29) 九州大学広報室 福岡市西区元岡 744 TEL: FAX: URL:

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この度 名古屋大学大学院工学研究科の望月健矢大学院生 後藤和泰助教 黒川康良准教授 山本剛久教授 宇佐美徳隆教授らは 太陽電池への応用に有 望な電気的特性を示す酸化チタン注 1) 極薄膜を開発しました さらに その微小領域 の構造を明らかにすることに世界で初めて成功しました 近年 原子層堆積法注 2) を用いて製膜した酸化チタン薄膜は 結晶シリコン注 3) の太 陽電池において 光で生成した電子を収集する材料として優れた特性を示すため 高 い変換効率が期待されています しかし 高い性能が得られる酸化チタン薄膜の詳細 な構造が明らかでないため さらなる高性能化の開発指針が不明確でした 本研究では 結晶シリコンに対して優れた電気的特性を示す酸化チタン極薄膜を 開発しました さらに その極薄膜の断面を原子レベルで観察することにより 高い 性能が得られる詳細な構造を明らかにしました 本研究により 結晶シリコン系太陽 電池に用いる新材料の構造設計の指針が明らかになり 太陽電池のさらなる高効率 化とそれによる太陽光発電の普及が期待できます この研究成果は 平成 30 年 12 月 19 日付 ( 日本時間 20 時 ) 独国科学雑誌 Advanced Materials Interfaces オンライン版に掲載されました なお 本研究は 国立研究開発法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 (NEDO) 高性能 高信頼性太陽光発電の発電コスト低減技術開発プロジェクト 文部科学 省科学研究費助成事業新学術領域研究 ハイドロジェノミクス の支援のもとで行 われたものです 太陽光発電の普及に期待! ~ 太陽電池の高性能化に有用な新材料の開発 ~

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により 高性能な新材料を作製するための構造設計の指針を示すことができ 太陽電池の高性能化が期待できる 研究背景と内容 再生可能エネルギーは エネルギー 環境問題を解決する資源として期待されている一方で その普及に対しては発電コストのさらなる低減が必要とされており 高効率かつ低コストな太陽電池の開発による発電コスト低減の実現が望まれています これまでに 太陽電池の内部で光によって生成したキャリア注 4) を収集する材料として 水素化アモルファスシリコン注 5) と結晶シリコンとのヘテロ接合注 6) を用いたヘテロ接合型太陽電池が報告されています 水素化アモルファスシリコンを堆積した結晶シリコンは長いキャリア寿命注 7) を示すため 高いパッシベーション注 8) 性能を示す一方で 水素化アモルファスシリコンによる光吸収やヘテロ界面注 9) における電子構造の不整合などが さらなる高性能化の課題となっていました 近年 この課題を解決する可能性を秘めた新材料を用いた太陽電池の研究開発が各国で活発に行われており とりわけ原子層堆積法を用いて結晶シリコン上に製膜した酸化チタン薄膜が比較的高い変換効率を示すことから注目を浴びています しかしながら 高いパッシベーション性能を示す酸化チタン薄膜と結晶シリコンとの界面付近の構造が不明確なため さらなる特性向上のためにも新規ヘテロ接合材料の開発指針が求められてきました 開発指針を提示するためには 高い性能を示す酸化チタンの局所構造の解明が最優先課題ですが これまでに そのような報告はほとんどありませんでした そのため 高性能な酸化チタンが得られる構造がわからず 新規ヘテロ接合材料の開発指針が不十分でした そこで 高いパッシベーション性能を示す極薄膜の酸化チタンの製膜技術を持っている宇佐美グループと原子レベルで試料の構造を調査可能な卓越した解析技術を持っている山本グループとが連携することにより 高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造を調査し 世界で初めて高いパッシベーション性能を示す酸化チタン極薄膜の構造を明らかにすることができました 試料の作製手順として 単結晶のシリコン基板を洗浄し さらに オゾン水 (DI-O3) 過酸化水素水 (H2O2) 110 に熱した硝酸 (HNO3) 常温の硝酸を用いて 事前に酸化処理を施した後 原子層堆積装置を用いて 3 nm の極薄膜の酸化チタンを製膜しました また その後の熱処理により 高いパッシベーション性能を発現させました さらに その高いパッシベーション性能を示す試料に対して 透過型電子顕微鏡注 10) と電子エネルギー損失分光法注 11) を組み合わせることにより 熱処理前後の試料の断面の詳細な構造を明らかにしました 透過型電子顕微鏡を用いた微小な領域の構造の観察に

は 極めて丁寧に試料の薄片化を行い 加工時のダメージを極限まで抑制した試料を作製することで 世界で初めて高いパッシベーション性能を示す酸化チタン極薄膜の詳細な構造を明らかにすることができました ヘテロ界面の微小な領域の構造の観察により 高性能な酸化チタン極薄膜は 熱処理前にはシリコンの酸化膜が化学量論的比注 12) から外れた密度の低い膜であったものが 熱処理をすることにより チタン原子が含まれた化学量論比に近い密度の高いシリコン酸化膜になっていることが 明らかになりました さらに 酸化チタンと酸化シリコンの間には 両者が混在した混合膜ができていることもわかりました また チタンを含んだ化学量論比に近い密度が高い緻密なシリコン酸化膜が高いパッシベーション性能に極めて重要であることも判明しました 図 1 は 様々な事前酸化処理を施した試料のキャリア寿命を比較した図とその試料構造です 室温の硝酸で結晶シリコンを事前酸化して熱処理することで高い実効キャリア寿命を得られることがわかります 図 2 は 室温の硝酸で事前酸化処理を行った上で 熱処理前後の酸化チタンと結晶シリコン界面付近の断面像を比較したものです 結晶シリコン中のシリコン原子が規則的に配列していることが明瞭にわかるほど微小な領域の断面構造図が得られています 図 3 は 図 2 中の断面像の各 point と示した位置におけるシリコン チタン 酸素の電子エネルギー損失分光のスペクトル注 13) です これにより 薄膜中のシリコン チタン 酸素の電子構造を調べることができます 図 1 酸化チタンを製膜前に様々な条件で酸化処理を施した結晶シリコンの キャリア寿命

図 2 (a) アニール前と (b) アニール後の酸化チタンと結晶シリコン界面近傍の 断面透過型電子顕微鏡像 図 3 アニール前の (a) シリコン (b) 酸素 (c) チタンとアニール後の (d) シリコン (e) 酸素 (f) チタンの電子エネルギー損失分光スペクトル. 図中の point は図 2 の point と対応し 各位置における電子構造を反映した形状が現れている 成果の意義 本研究では シリコンに対して優れた電気的特性を示す酸化チタン極薄膜を開発し そのヘテロ界面の詳細な構造を解明しました 本成果は 酸化チタンの高性能化のメカニズム解明に役立つだけでなく 高性能な新規ヘテロ接合材料の開発指針につながります これにより 結晶シリコン系太陽電池のさらなる高効率化が期待できます また

本研究から 密度の低いシリコン酸化膜を事前に形成することで 優れた電気的特性が得られることが分かったため より疎なシリコン酸化膜を事前に形成することにより さらなる性能向上も目指します さらに 研究グループでは 酸化チタン以外の新規ヘテロ接合材料の開発も並行して進めており 今回明らかにした高性能化のメカニズムが材料に依らず 一般的に成り立つ普遍的な高性能化モデルの構築にも貢献していきます 用語説明 注 1) 酸化チタン酸素原子とチタン原子の化合物 酸素もチタンも地球の地表付近に多くに存在する 光触媒としての性質をもち 住宅用のタイルなどにも応用されています 注 2) 原子層堆積法原子を 1 層ずつ基板上に堆積する手法 酸化チタンの場合は チタン原子と酸素原子を一層ずつ交互に製膜する 結晶シリコン表面へのダメージを抑制した製膜が可能です 注 3) 結晶シリコンシリコン原子が 3 次元で周期的に配列したもの 結晶には単一の結晶粒で構成される単結晶と複数の結晶粒で構成される多結晶があるが 本研究では単結晶を用いています 注 4) キャリア電荷を運ぶもの 半導体の電気伝導の場合は 負の電荷をもったものを電子 正の電荷をもったものを正孔と呼びます 注 5) 水素化アモルファスシリコンシリコン原子が 3 次元で周期的に配列しておらず 不規則に結合している物質をアモルファスシリコンと言い アモルファスシリコン中に水素を導入したものを水素化アモルファスシリコンといます 水素化アモルファスシリコン中の水素によりアモルファスシリコンに存在する欠陥を減らし 電気的特性を向上させる効果があります 注 6) ヘテロ接合異なる材料同士で接合を形成すること 本研究では 結晶シリコンと酸化チタンの異種接合を研究対象としています 注 7) キャリア寿命光照射により生成したキャリアが消滅するまでの時間 この寿命が長い方が高い太陽電池特性が得られる 薄膜を結晶シリコンに堆積した際に キャリア寿命が長いほど パッシベーション性能が高いといえます 注 8) パッシベーション結晶シリコン表面には通常多数の欠陥が存在していますが 結晶シリコン表面に対して不動態化とも呼ばれるパッシベーションを行うことで 表面の欠陥による悪影響を低減し 太陽電池の性能を向上することができます

注 9) ヘテロ界面異なる ( ヘテロ ) 材料を重ねた際の境界面のこと 結晶シリコンと水素化アモルファスシリコンの界面や結晶シリコンと酸化チタンの界面のことなどを指します 注 10) 透過型電子顕微鏡薄片化した試料に対して加速して高速にした電子を照射し 透過してくる電子を結像することで試料の構造を観察することができます 原子レベルで構造を観察することができる空間的な識別能力が非常に高い顕微鏡です 注 11) 電子エネルギー損失分光法高速に加速された電子が試料を透過してくる際に 試料を構成する原子との相互作用により失われたエネルギーを測定する手法 透過型電子顕微鏡と組み合わせることにより 微小領域の物質の電子状態を調べることが可能です 注 12) 化学量論比ある化学物質があるとき その化学物質を構成している原子数の比が化学式通りに存在している状態のことです 例えば 本研究で用いた酸化チタンは チタン原子 1つに対して酸素原子が2つ結合した状態が化学量論比の酸化チタンですが 実際には酸素が失われた箇所も存在するため 化学量論比でない酸化チタンが結晶シリコンに製膜されています 注 13) スペクトルある複雑な量を単純な成分に分け ある特定の量の大小によって分布を示したもの 本研究で用いた電子エネルギー損失分光では 透過した電子の強度分布を失われた電子のエネルギーに対して分解して示しています 論文情報 雑誌名 :Advanced Materials Interfaces 論文タイトル : Local Structure of High Performance TiOx Electron-Selective Contact Revealed by Electron Energy Loss Spectroscopy 著者 :Takeya Mochizuki, Kazuhiro Gotoh, Yasuyoshi Kurokawa, Takahisa Yamamoto, Noritaka Usami DOI:10.1002/admi.201801645