社会科学習指導案 京都教育大学附属桃山中学校 授業者秋山雅文 1 日時 : 平成 29 年 11 月 25 日 ( 土 ) 公開授業 Ⅱ 2 場所 : 社会科教室 3 対象 :3 年 4 組 34 名 ( 男子 16 名, 女子 18 名 ) 4 単元名 : 財政と国民の福祉 題材名 : 国債返済シミュレーション 5 題材のねらいと研究主題との関連 (1) 題材のねらい新学習指導要領では, 育成をめざす 資質 能力 を 知識 理解, 思考力 判断力 表現力等, 学びに向かう力 人間性等 の三つの柱で示している その具体的内容と前年度の研究内容から, 本校社会科で育成をめざす 資質 能力 を次のように設定した 社会的事象についての考察や社会的課題の解決に向けての構想を論理的に説明する力 根拠を持って意見や考えを交換し合意形成に向かおうとする力社会科は内容教科であり, その内容を学習していくことでめざす 資質 能力 が育成されていくと捉えている 社会科の教科目標は, 広い視野に立ち, グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質 能力の基礎を育成することである また, 21 世紀型能力 に言う実践力とは, 自律的活動力, 人間関係形成力, 社会参画力, 持続可能な未来への責任であり, 社会科の求める 公民 の姿でもある 新学習指導要領では, 社会科の教科目標実現に向けて3つの方策が示されている 我が国の国土と歴史, 現代の政治, 経済, 国際関係等に関して理解するとともに, 調査や諸資料から様々な情報を効果的に調べまとめる技能を身に付けさせる 社会的事象の意味や意義, 特色や相互の関係を多面的 多角的に考察したり, 社会に見られる課題の解決に向けて選択 判断したりする力, 思考 判断したことを説明したり, それらを基に議論したりする力を養う 社会的事象について, よりよい社会の実現を視野に課題を主体的に解決しようとする態度を養うとともに, 多面的 多角的な考察や深い理解を通して涵養される我が国の国土や歴史に対する愛情, 国民主権を担う公民として, 自国を愛し, その平和と繁栄を図ることや, 他国や他国の文化を尊重することの大切さについての自覚などを深める
本校社会科では, これらの内容を積極的に取り入れた授業を研究している 本題材では, 国債に関わる課題を切り口として, その返済に向けての予算案を作成する 国債返済シミュレーション を計画した 予算案を作成するに当たって, まず国債金依存度の高さと税収増加の難しさを, 実感を伴う現実的な数値で捉えることができる 歳出項目ごとに削減を検討する中から, 政策の必要性や有効性を考えることができる また, 国土防衛や国民教育など, 将来の保障を見すえて政策を選ぶ必要性に目が向くことと思われる これらは, 社会の構成者としての公民に必要な資質の育成に意義深いものと考える (2) 重点的に育成をめざす資質 能力 < 知識 技能 > 財政や福祉の事象等に関する理解などを図るための知識 社会情勢等についてまとめる技能 < 思考力 判断力 表現力等 > 財政や福祉に関する事象等の意味や意義, 特色や相互の関連を考察する力 社会にみられる課題を把握して, その解決に向けて構想する力 考察したことや構想したことを説明する力 上記の力を基に議論する力 < 学びに向かう力 人間性等 > 主体的に学習に取り組む態度 多面的 多角的な考察や深い理解を通して涵養される自覚 (3) 汎用的に活用できる資質 能力 論理的, 批判的思考力 ( 思考力 ) 持続可能な未来への責任 ( 実践力 ) (4) 本質的な問いと永続的理解 包括的な問い 本質的な問い 永続的理解 理想の社会とはどのようなものか 国民が望む政治とはどのようなものか 国民の負担は少ないほど良く, 社会保障は手厚いほど良いが, 健全な財政には限りがあり, どこに満足の基準を置くかを譲り合うことが大切である (5) 主体的 対話的な活動 班活動 国債返済シミュレーション で予算案の作成に取り組む 意見交換他班の説明を聞き, 問題点を指摘し合うことを通して予算案を修正する 合意形成各班の予算案をまとめて, 最善と思われる予算案を作成する
6 パフォーマンス課題国債の返済計画を考案する 国債の残高減少を目標として, 当初 5 年間の歳入 歳出を操作する予算案を作成する 5 年間で減少できた金額から推計によって, 国債の完済まで必要な年数を算出する方法で,20~50 年での完済を条件とする 増税や経費削減が国民生活にどのような影響を与えるかを想定し, 国民に理解を求める説明をおこなう 7 生徒の実態と指導観生徒たちは, これまでに政治, 経済のしくみとともに社会保障の内容について学習している また, 地方財政の実情について, 歳入 歳出の主な項目や地域によって異なる実情があることも理解している 本単元に入って, 累進課税と社会保障が実施されることで副次的に所得が再分配されたり, 公共事業が社会資本の整備と同時に景気を調整する機能を持っていたりすることを学び, 政策は多方面に関わる影響を持つことを認識しつつある 国債を返済するために財政を操作することが, 国民生活にどのような影響を及ぼすか考えることで, 視野を広く持った見方を養うことができると考える さらに, 歳出の内容を考えるに当たって, 望ましい社会の姿を描くことにより, 将来的な社会形成に向けての意欲を高めたり, 自分なりの考えを持ったりするきっかけとなる学習を仕組みたいと考えた 8 単元の学習指導計画 学習項目 学習内容 第 1 時 財政のはたらき 財政の持つ3つの機能について概略を知る 歳入, 歳出の内容とその割合をまとめる 経済上の政府の役割と家計, 企業との関わりを考える 第 2 時 国の収入を支える税と国債 税の種類をまとめ, 負担の公平性について考える 国債のしくみと収支に占める割合を知る 第 3 時 景気の動きとその対策 景気変動のしくみと経済活動との関わりを考える 景気対策の主体と効果をまとめる 第 4 時 社会保障のしくみと財源 社会保障の内容についてまとめる 社会保障費の現状を知る 第 5 時 少子高齢社会における福祉の充実 年金制度のしくみと現状から課題と方向性を考える 福祉に関わる課題をまとめる 第 6 時 環境保全の担い手としての政府 公害問題と対策を知る 環境問題の解決に向けての動きを考える 第 7 時 ( 本時 ) 国債返済シミュレーション (2 時間 ) 国債の現状を知り, 今後の方向性を考える
9 単元の評価評価の観点 (1) 主体的に取り組む態度 将来の社会について, 自分の考えを持とうとする姿勢 自分の考えを伝え, 他の考えを聞いて深めようとする態度 (2) 知識 技能 財政や福祉に関する事象を正しく捉える力 将来の社会を描き, まとめる力 (3) 思考力 判断力 表現力等 社会への影響を考慮しながら国債の返済を進める計画をつくる力 社会の負担についての理解を得られるよう適切に説明する力 総括的評価の方法 パフォーマンス課題 国債返済シミュレーション 20~50 年での完済をめざして, 社会の状況をもとに影響を考慮して財政を操作し,5 年分の予算案を作成する国民に負担を求めるに当たり, 理解を得るための説明を考える 単元のふりかえり経済の主体の関わりや所得再分配, 景気対策との関連性を図にまとめる福祉や環境に関する課題をまとめ, 今後の方向性について自分の考えをまとめる 単元テスト財政や福祉に関する事象を正しく理解する
10 本時の目標 国債や社会の情勢をもとに, 国債返済の予算案を作成する 予算から考えられる社会への影響や国民の負担から, 将来の社会の課題について考える 11 本時の展開学習活動 予想される生徒の反応 教師の支援, 備考 導入 1 国債の現状を知る ( 一斉 ) 国債残高, 歳入 歳出に占める国債金 国債費の割合を国家予算などと比較しながら確認し, 本時の課題を把握する 国債が占める比重の大きさと抱えた国債残高の多さにおどろく スライドを用いて, 国債残高に対する1 年間の利子額と同じ程度のものや地方予算との比較比較を示し, 国債の現状を印象づける 展開 1 2 国債返済シミュレーションを作成する ( 班活動 ) 5 年分の予算案を作成 歳入, 歳出とも 2.5 兆円を単位に配分 歳入項目は税収と国債金 歳出項目は社会保障費, 公共事業費, 教育費, 防衛費, 国債費, 地方交付金 国債残高の短期間での完済は非常に困難であることに気づく 国債金に依存した財政になっていることに気づく 国債の増加と国民の負担がてんびんにかけられる構図に気づく 2 人に1 台の端末を用いて表計算ソフトで予算案を作成させる 早くできた班の予算案をビジョンに投影し, 他班の参考にさせる 2 案を並べて投影して予算案作成の意図を説明させ, 予想される社会への影響を指摘させた後に多数決で二者択一をおこなう 多数を得た案を残し, 何度も修正しながらよりよい予算案をつくる 展開 2 3 国債返済予算を説明する 作成した予算について, 国債の返済割合と, 社会に与える影響, 国民の負担について説明する 国民に対して, 負担に理解を求める説明をする 他班との意見交換を通して予算案を修正していく 政策の実施には財源が必要であること, 最低限必要な政策が多くあることに気づく 他班の予算案に見られる問題点を指摘する 異なる要望を折衷することが重要であることに気づく 2 案を並べて投影して折衷して1 案とし, また新しい案を並べて折衷することを繰り返す スライドを用いて, それぞれの歳入, 歳出項目が増減した影響を示す 50 年後の社会における予想される変化を考えさせ, 予算案修正の参考 にさせる
ま 4 望ましい方向性を考える 国債返済の割合が国債 今後の課題を箇条書きに と 各班が作成した予算や意見 に対する国民の意識の して示すことにより, 将 め 交換の内容から最善と思わ 表れ, 削減できない歳 来どのようなことが望 れる案を確定する 出項目が望まれている まれるかを考えさせる 社会の姿を現している ことにきづく 12 本時のルーブリック 作成した予算案について 発表した説明について 国債の返済状況 社会への影響 国民の負担 理解を求める説明 評価 A 30 年以内での完済が予測される 現在の課題を放置せず, 将来に問題を起こさない 国民に求める負担を最小限に抑えている 予算編成の意図や狙いが明らかで, 納得できる 評価 B 50 年以内での完済が予測される 現在の課題には対応しているが, 将来が問題視される 国民に求める負担が明らかに増加している 予算について全面的な理解を得るには至っていない 評価 C 50 年かけても完現在の課題に対応国民が負担できる予算について理解済が見込めないできていない限界を越えているを得がたい