目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )(

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事実及び理由 第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告方法目録記載のサービスを実施してはならない 3 被控訴人は, 前項のサービスのために用いる電話番号使用状況調査用コンピュータ及び電話番号使用状況履歴データが記録された記録媒体 ( マスター記録媒体及びマスター記録

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審決取消判決の拘束力

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訂正情報書籍 170 頁 173 頁中の 特許電子図書館 が, 刊行後の 2015 年 3 月 20 日にサービスを終了し, 特許情報プラットフォーム ( BTmTopPage) へと模様替えされた よって,

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第29回 クレーム補正(2) ☆インド特許法の基礎☆

O-27567

freee・マネーフォワード特許訴訟の解説

なお 本書で紹介した切餅特許事件においては 被告製品は 原告特許発明の構成要件 Bを文言上充足するともしないとも言い難いものであったが 1 審で敗訴した原告は 控訴審において 構成要件 Bの充足が認められなかった場合に備え 均等侵害の主張を追加している 知財高裁は 被告製品は構成要件 Bを文言上充足

3 当審における訴訟費用は全て控訴人の負担とする 事実及び理由第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 控訴人に対し,2 億 9505 万 9600 円及びこれに対する平成 26 年 10 月 10 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え ( 主位的請求 ) 3 被控

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指針に関する Q&A 1 指針の内容について 2 その他 1( 特許を受ける権利の帰属について ) 3 その他 2( 相当の利益を受ける権利について ) <1 指針の内容について> ( 主体 ) Q1 公的研究機関や病院については 指針のどの項目を参照すればよいですか A1 公的研究機関や病院に限ら

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

例 2: 組成 Aを有するピアノ線用 Fe 系合金 ピアノ線用 という記載がピアノ線に用いるのに特に適した 高張力を付与するための微細層状組織を有するという意味に解釈される場合がある このような場合は 審査官は 請求項に係る発明を このような組織を有する Fe 系合金 と認定する したがって 組成

REPORT あいぎ特許事務所 名古屋市中村区名駅 第一はせ川ビル 6 階 TEL(052) FAX(052) 作成 : 平成 27 年 4 月 10 日作成者 : 弁理士北裕介弁理士松嶋俊紀 事件名 入金端末事件 事件種別 審決取消

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平成29年特許権侵害訴訟・裁判例紹介

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控訴人は, 控訴人にも上記の退職改定をした上で平成 22 年 3 月分の特別老齢厚生年金を支給すべきであったと主張したが, 被控訴人は, 退職改定の要件として, 被保険者資格を喪失した日から起算して1か月を経過した時点で受給権者であることが必要であるところ, 控訴人は, 同年 月 日に65 歳に達し

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平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

用途発明の権利範囲に関する一考察

第26回 知的財産権審判部☆インド特許法の基礎☆

に表現したものということはできない イ原告キャッチフレーズ1は, 音楽を聞くように英語を聞き流すだけ/ 英語がどんどん好きになる というものであり,17 文字の第 1 文と12 文字の第 2 文からなるものであるが, いずれもありふれた言葉の組合せであり, それぞれの文章を単独で見ても,2 文の組合

事件概要 1 対象物 : ノンアルコールのビールテイスト飲料 近年 需要急拡大 1 近年の健康志向の高まり 年の飲酒運転への罰則強化を含む道路交通法改正 2 当事者ビール業界の 1 位と 3 位との特許事件 ( 原告 特許権者 ) サントリーホールディングス株式会社 ( 大阪市北区堂島

なって審査の諸側面の検討や評価が行われ 関係者による面接が開始されることも ある ベトナム知的財産法に 特許審査官と出願人またはその特許代理人 ( 弁理士 ) の間で行われる面接を直接定めた条文は存在しない しかしながら 審査官は 対象となる発明の性質を理解し 保護の対象を特定するために面接を設定す

第4回明細書研究会(2008年01月17日)

ことができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している さらに 台湾専利法第 76 条は 特許主務官庁は 無効審判を審理する際 請求によりまたは職権で 期限を指定して次の各号の事項を行うよう特許権者に通知することができる 1. 特許主務官庁に出頭して面接に応じる と規定している なお

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米国特許ニュース AIA102( 条 (a)(1) の出願日前の販売 (on sale) は たとえ販売内容が秘密であっても旧法 102 条 (b) の オンセール と同じで 特許を無効にすると最高裁判決 服部健一米国特許弁護士 2019 年 2 月 HELSINN HEALTHCARE S. A.

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実体審査における審査官面接に関して GPE には面接における協議の方法 時期および内容など 詳細な要件が定められている 例えば GPE には 最初のオフィスアクションの応答書が出願人により提出された後 審査官は当該出願の審査を継続しなければならない と規定されている (GPE 第 II 部第 2 章

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(3) 先の使用者としての認定は それに対する手数料を納付し 先使用者証明書の形態で総局より与えられる (4) 先使用者証明書は 当該同一の発明に対する特許の満了時と同時に無効となる (5) 先使用者証明書取得のための手続は政令に規定される (3) The recognition as the pr

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第20回 特許要件(1)☆インド特許法の基礎☆

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問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

インド特許法の基礎(第35回)~審決・判例(1)~

同時期に 8 社に対し提起された大阪地方裁判所における判決 ( 大阪地裁平成 24 年 9 月 27 日判決 裁判所 HP) では, 間接侵害の成立に関し, 特許法 101 条 2 号の別の要件である その物の生産に用いる物 にあたるかが問題とされ, 1 特許法 2 条 3 項 1 号及び101 条

2.2.2 外国語特許出願の場合 2.4(2) を参照 2.3 第 184 条の 5 第 1 項に規定された書面 (1) 日本語特許出願 外国語特許出願を問わず 国際特許出願の出願人は 国内書面提出期間 ( 注 ) 内に 出願人 発明者 国際出願番号等の事項を記載した書面 ( 以下この部において 国

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参加人は 異議申立人が挙げていない新たな異議申立理由を申し立てても良い (G1/94) 仮 にアピール段階で参加した参加人が 新たな異議申立理由を挙げた場合 その異議申立手続は第 一審に戻る可能性がある (G1/94) 異議申立手続中の補正 EPCにおける補正の制限は EPC 第 123 条 ⑵⑶に

平成22年8月31日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

(b) 導入の経緯あるいはモデルとなった法制 この規定はメキシコの法制度に存在し 次の法令において規定されている (Patent Law 1903 Patent Law 1928 Industrial Property Law (1942) Inventions and Trademark Law

1 原判決を取り消す 2 被控訴人は, 原判決別紙被告製品目録記載の研磨布を製造し, 譲渡し, 貸し渡し, 譲渡及び貸渡しの申出をしてはならない 3 被控訴人は, その占有にかかる前項の研磨布を廃棄せよ 4 被控訴人は, 控訴人に対し,7 億 8489 万 5000 円及び内金 4 億

標準規格に係る工業所有権の取扱に関する基本指針e

特許出願の審査過程で 審査官が出願人と連絡を取る必要があると考えた場合 審査官は出願人との非公式な通信を行うことができる 審査官が非公式な通信を行う時期は 見解書が発行される前または見解書に対する応答書が提出された後のいずれかである 審査官からの通信に対して出願人が応答する場合の応答期間は通常 1

平成 29 年度 新興国等における知的財産 関連情報の調査 インドにおける医薬用途発明の 保護制度 DePenning & DePenning ( インド特許法律事務所 ) Shakira ( 弁理士 ) DePenning & DePenning は 1856 年に創立されたインド有数の歴史と規模

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

7 平成 28 年 10 月 3 日 処分庁は 法第 73 条の2 第 1 項及び条例第 43 条第 1 項の規定により 本件不動産の取得について審査請求人に対し 本件処分を行った 8 平成 28 年 11 月 25 日 審査請求人は 審査庁に対し 本件処分の取消しを求める審査請求を行った 第 4

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「用途発明」の権利行使について(直接侵害・間接侵害)

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

I 事案の概要 本件は 東証一部上場企業の物流大手である株式会社ハマキョウレックス ( 以下 被告 被控訴人 又は 上告人 といいます ) との間で有期雇用契約 1 を締結している契約社員 ( 以下 原告 控訴人 又は 被上告人 といいます ) が 以下に掲げる正社員と契約社員との間の労働条件 (

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第 32 回 1 級 ( 特許専門業務 ) 実技試験 一般財団法人知的財産研究教育財団知的財産教育協会 ( はじめに ) すべての問題文の条件設定において, 特に断りのない限り, 他に特殊な事情がないものとします また, 各問題の選択枝における条件設定は独立したものと考え, 同一問題内における他の選

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作成日 :2006 年 10 月 1 日 世界知的所有権機関 World Intellectual Property Organization (WIPO) 所在地 :34 chemin des Colombettes, 1211 GENEVE 20, Switzerland Tel : (41 2

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年 10 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 被控訴人 Y1 は, 控訴人に対し,100 万円及びこれに対する平成 24 年 1 0 月 18 日から支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 4 被控訴人有限会社シーエムシー リサーチ ( 以下 被控訴人リサーチ

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手続きガイドライン ( 日本語仮訳 ) ( ラオス関連特許出願に対する特許の付与円滑化に関する協力に基づく早期特許査定申請 ) 日本国特許庁 (JPO) により付与された特許を有する出願人は JPO での特許出願の審査結果を利用したラオス関連特許出願の 特許の付与円滑化に関する協力 ( 以下 CPG

Ⅰ. 事実の概要 本件は, 発明の名称を ピリミジン誘導体 とする特許 ( 第 号 ) の無効審判請求 ( 無効 ) を不成立とした審決の取消訴訟である 本件特許は, 被告特許権者等が販売する高コレステロール血症治療薬 クレストール の有効成分の物質特許である

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

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2 控訴費用は, 控訴人らの負担とする 事実及び理由第 1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す 2 被控訴人株式会社バイオセレンタック, 同 Y1 及び同 Y2は, 控訴人コスメディ製薬株式会社に対し, 各自 2200 万円及びこれに対する平成 27 年 12 月 1 日から支払済みまで年 5 分の割

1 アルゼンチン産業財産権庁 (INPI) への特許審査ハイウェイ試行プログラム (PPH) 申請に 係る要件及び手続 Ⅰ. 背景 上記組織の代表者は

米国情報 米国情報 担当 : 外国情報部鈴木孝章 P&G vs Teva (KSR 後の非自明性判決 ) United States Court of Appeals for the Federal Circuit , -1405, P&G vs Teva May. 1

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均等論 知的財産高等裁判所 大合議判決 2016 年 3 月 25 日 (2015 年 ( ネ ) 第 10014 号 ) 日欧知的財産司法シンポジウム 2016 2016 年 11 月 18 日 知的財産高等裁判所所長 設樂隆一 1

目次 1. 訂正発明 ( クレーム 13) と控訴人製法 ( スライド 3) 2. ボールスプライン最高裁判決 (1998 年 スライド 4) 3. 大合議判決の三つの争点 ( スライド 5) 4. 均等の 5 要件の立証責任 ( スライド 6) 5. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 )( スライド 7 ないし 11) 6. 特段の事情 ( 第 5 要件 = 禁反言 )( スライド 12 ないし 17) 7. ボールスプライン最判とドイツ最判 Cutting Blade, Formstein との比較 ( スライド 18) 2

2015 年 ( ネ ) 第 10014 号 知的財産高等裁判所 [ 原審 :2013 年 ( ワ ) 第 4040 号 東京地方裁判所 ] 訂正発明 ( クレーム 13) マキサカルシトール製造方法事件 Pro = 保護基 ビタミン D 構造エポキシ基エーテル結合エポキシ環の開環 出発化合物 中間体 マキサカルシトール シス異性体 シス異性体 シス異性体 控訴人方法 試薬 B 異性化 出発化合物 A 中間体 C 化合物 D マキサカルシトール トランス体 トランス体 トランス体 シス異性体 3

最高裁判所判決 (1998 年 2 月 24 日 ボールスプライン事件 ) 特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品または方法 ( 対象製品等 ) と文言上異なる部分が存在する場合であっても 1 当該部分が特許発明の本質的部分でなく ; 2 当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても 特許発明の目的を達することができ 同一の作用効果を奏するものであって ; 3 上記のように置き換えることに 当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者 ( 当業者 ) が 対象製品等の製造時点において容易に想到することができたものであり ; 4 対象製品等が 特許発明の特許出願時における公知技術と同一または当業者がこれから上記出願時に容易に推考できたものではなく ; 5 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がない場合は 当該対象製品等は 特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして 特許発明の技術的範囲に属するものと解すべきである 4

( マキサカルシトール事件 ) 結論 ; 相手方の製法は特許発明と均等である 東京地方裁判所の差止命令を支持し, 控訴棄却 判決の争点 ; 1. 均等の五つの要件の立証責任 2. 第 1 要件 ; 特許発明の 本質的部分 とは何か 及びそれをどのように認定すべきか 3. 第 5 要件 ; 出願経過の禁反言は別にして 何が 特段の事情 と考えられるか 5

1. 均等の 5 要件の立証責任 均等の第 1 要件から第 3 要件 ; 特許権者 均等の第 4 要件及び第 5 要件 ; 相手方 6

2. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 ) 特許発明における 本質的部分 とは 特許請求の範囲の記載のうち, 従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである 上記本質的部分は 明細書及び特許請求の範囲の記載に基づいて 特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で 認定されるべきである 7

2. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 ) 特許発明の実質的価値はその技術開発への貢献の程度に応じて定められることから 特許発明の 本質的部分 は 明細書 ( または一部のケースではその他の文書 ) 記載の従来技術との比較から認定されるべきであり かつ i) 特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には 特許請求の範囲の記載の一部について これを上位概念化したものとして認定され ii) 特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には 特許請求の記載とほぼ同義のもの (DOE はほぼなし ) として認定される 8

2. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 ) 対象製品等との相違部分が特許請求の非本質的部分であるかどうかを判断する際には 特許請求に記載された各構成要件を本質的部分と非本質的部分に分けた上で 本質的部分に当たる構成要件については一切均等を認めないと解するのではなく 対象製品が特許発明の本質的部分を共通に備えているかどうかを判断すべきである 9

2. 本件における特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 ) 本件特許発明によって初めてマキサカルシトールの工業的な生産が可能となった 本件特許発明は従来技術にはない全く新しい工程によりマキサカルシトールを製造することを可能とするものであり したがって 本件特許発明の貢献の程度は大きいと評価される 本件特許発明の本質的部分は以下の新しい工程である ; 1 ビタミン D 構造の 20 位アルコール化合物とエポキシ炭化水素化合物を反応させることにより エポキシ基を有する側鎖をビタミン D 構造に導入でき この一工程で中間体エポキシ化合物を入手し 2 中間体を処理することによりこの側鎖のエポキシ基を開環し マキサカルシトールを製造する 10

2. 特許発明の本質的部分 ( 第 1 要件 ) 相手方の製法は特許発明の本質的部分を備えている ビタミン D 構造のシス体あるいはトランス体は特許発明の本質的部分ではない 11

ボールスプライン事件 ( 最高裁判所判決 ) 3. 特段の事情 ( 第 5 要件 = 禁反言 ) 特許権者が, ある技術が特許発明の技術的範囲に属さないことを一旦承認するか または 外形的にそのように解されるような行動をとったこと たとえば 特許出願手続において当該技術を特許請求の範囲から意識的に除外した場合は 特許権者が後にこれと反する主張をすることは 禁反言の法理に照らし許されない 従って このような特段の事情がある場合には 均等が否定されることとなる 12

3. 特段の事情 A) ( 第 5 要件 = 禁反言 ) A) 出願時に当業者が容易に想到することができる均等 ( 特許請求の範囲の構成の文言通りの解釈に含まれないもので 当該構成と均等なもの ) であり 出願人が当該他の構成を特許請求の範囲に記載しなかったとしても 第 5 要件における 特段の事情 に当たるものと見なすには十分ではない 13

3. 特段の事情 ; A の理由 ) 出願人は その発明を明細書に記載してこれを一般に開示した上で 特許請求の範囲においてその排他的独占権の範囲を明示すべきものである 従って 特許請求の範囲については広範に過ぎず 明細書によりサポートされるべきものである しかしながら 先願主義の下においては 出願人は 限られた時間内に特許請求の範囲と明細書とを作成しなければならない 従って 出願人に対して 将来予想されるあらゆる侵害製品を包含するような特許請求の範囲とこれをサポートする明細書を作成することを要求することは酷である これに対し 特許出願に係る明細書による発明の開示を受けた第三者は 特許発明の本質的部分を備えながら同時にその一部が特許請求の範囲に文字通り含まれていない均等物を容易に想到することができることが少なくはない 14

3. 特段の事情 ; A の理由 ) 特許発明の非本質的部分が一部 代替部分により置き換えられている対象製品が 特許権者による権利行使を容易に免れるものとすると 特許による保護を通じて発明を奨励し 産業の発達に寄与するという特許法の目的に反することになる 15

3. 特段の事情 B) ( 第 5 要件 = 禁反言 ) B) 出願人が特許請求の範囲外にある他の構成を特許請求の範囲内のものに代替するものとして認識していたものと客観的 外形的にみて認められる場合 例えば 出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとき または 出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているときには 出願人が特許請求の範囲に当該他の構成による発明を記載しなかったことは 第 5 要件における 特段の事情 に当たるものといえる 16

3. 特段の事情 ( 第 5 要件 )= 禁反言 ) このケースでは 明細書 ( またはその他の論文 ) 中には特許発明の代替出発化合物をトランス体のビタミン D 構造とする発明を記載しているとみることができる記載がないことから 裁判所は特段の事情の存在を否認した 17

ボールスプライン最判 (1998) とドイツ最判 Cutting Blade(2002), Formstein(1986) との比較 1. Same Effect = 1. non-essential difference and 2.same function and effect : (cf. slides 3 of Patent Equivalence by judge Grabinski: Does the variant solve the problem underlying the invention with means that have objectively the same technical effects?) 2. Obviousness = 3.easily come up with such replacement 3. Claim orientation---- 5. Estoppel or 1. non-essential difference??? 4. Formstein(1986) = 4. public domain 18

ご清聴ありがとうございました! 19