絵巻って 絵巻の歴史 日本で現存最古の絵巻作品は 奈良時代に制作された 絵因果経 だと考えられている 現存する絵巻をみると 平安末期ころから制作が増え 鎌倉 室町期に流行 その後版本 の普及により 江戸時代には絵巻やそれに類する作品の二極化が起こっている様子が窺 える 絵因果経 (奈良時代)
技術の向上とともに 上等な絵巻は豪華さを増していった 御用絵師のみならず 町絵師の作品も多くある 伊勢物語絵巻 第一巻 ( 江戸時代 )
木版による絵巻も制作されている 巻子装から脱却するものも 版本 高野大師行状図絵 第十巻 ( 江戸初期 )
絵巻の分類 巻物形式の絵画作品は 内容や絵の形式で分類される 山水図巻 などの 水墨画を巻物形式に装丁したものは 絵巻とは分けて紹介される場合が多い 一方で 文字情報に乏しい者でも 大和絵の傾向が強い作品は絵巻物に分類される傾向がある 絵巻 伝記 高僧絵巻 吉備大臣入唐絵巻 縁起 各八幡縁起絵巻 石山寺縁起 説話 信貴山縁起絵巻 物語 源氏物語絵巻 伊勢物語絵巻 狭衣物語絵巻 日記 記録他 餓鬼草紙 病草紙 鳥獣人物戯画 年中行事絵巻
同じ題材を描く絵巻群 原本 複数同一内容の絵巻がある場合 その作品群の元となった絵巻 模本 ある絵巻の複製の絵巻 複製の複製という場合も 粉本 絵巻の場合はある絵巻の複製の絵巻 複製の複製という場合も 異本 原本と系統は同じと認められるが 無視できない相違点がある絵巻 布教普及のための増産 技術習得のための模写 復元 多くの理由で同じ題材の絵巻が生まれる
知恩院蔵 法然聖人絵伝 第十四巻 ( 鎌倉時代 ) 当麻寺蔵 法然聖人絵伝 第十四巻 ( 室町時代 1)
絵巻の作者は? 高山寺蔵 鳥獣人物戯画 甲巻 ( 平安末 ~ 鎌倉時代 ) 鳥羽僧正? 甲乙丙丁の四巻がある 鳥獣人物戯画 近年大規模修復も終了 一体誰がどんな経緯で制作したのか??
高山寺蔵 鳥獣人物戯画 丁巻 ( 平安末 ~ 鎌倉時代 ) 鳥羽僧正? 絵巻の作者は 奥書に記されていたり なにかしらの記録 ( 折紙 ) やなど 今に残る何かがないと 特定は難しい また 工房作であったり 切り貼りの末に現在の形になったものもあるため 作者として個人の名を上げるのが難しいこともある
絵巻をよむ 絵巻の構造 詞書 本紙 絵 第三紙 第二紙 第一紙 料紙 段 絵や文字をかくための紙 絵 詞書をかいている紙 東本願寺蔵 本願寺聖人親鸞伝絵 ( 弘願本 ) 第二巻 (1346 年 )
紙を接いでいる場所
高山寺蔵 華厳宗祖絵伝 ( 華厳縁起 ) 義湘絵第三巻 ( 鎌倉時代 ) 画中詞 なぞるやこと しやいかあれは あなあさま
奥書 東本願寺蔵 本願寺聖人伝絵 ( 康永本 ) 第三巻 (1343 年 ) 康永二歳 [ 未癸 ] 十一月一日絵詞染筆 / 訖 / 沙門宗昭 [ 四十七 ]
一巻の長さは 10m 前後のものが多いが 20m を超えるものも 料紙の高さも様々 伝記絵巻などになると 巻数も多いため かなりのボリューム
肩幅くらいまでが 一回に見る長さとして想定されている 二代目歌川豊国 浮世絵を見る男女 ( 江戸後期 ) 専用の台の存在も
画面をよむ 上宮天満宮蔵 太政威徳天縁起 第六巻 (1458 年 ) 横長の画面で展開される絵巻 物語は 絵と文で表現される 物語を表現する為に その構成には様々な工夫がなされている
吹抜屋台と俯瞰視点 光明寺蔵 当麻曼荼羅縁起絵 下巻 ( 鎌倉時代 ) 浄橋寺蔵 善恵上人絵 第二巻 (1531 年 ) 屋内を見せるために 屋根や壁は描かれない新しいものほど俯瞰視点の傾向
時間経過を表現する 一段の中でも物語は進んでいく 時間経過を表現する しない 表現の方法は様々 東本願寺蔵 本願寺聖人親鸞伝絵 ( 弘願本 ) 第四巻 (1346 年 )
異時同図法 時間流れ 物語を一枚の絵で表現する時 特に人物だけが大きく移動する場合に効果を発揮 画面に複数回描かれる人物を正しく把握することで 絵画部分の見え方も変わってくる 信貴山縁起絵巻 尼公巻 ( 平安後期 )
大きなお堂一つに対して 一晩をすごす尼公を行動のごとに複数回描きいれている 時間は 右から左へと進み お堂をあとにする尼公まで描かれており 画面上には計 6 回登場する
西本願寺蔵 慕帰絵詞 第二巻(1351年) すやり霞(金雲 銀雲)で場面転換を示し 詞書を挟まずに時間を経過させる場合も
前の場面とあとの場面で風景を上手く共有して場面転換 報恩寺蔵 善信聖人親鸞伝絵 第三巻 ( 室町時代 )
時間表現をしない絵巻 源氏物語絵巻の様な表現を 作り絵 と呼ぶことも 徳川美術館蔵 源氏物語絵巻 柏木二 ( 平安後期 ) 一枚の絵として楽しめるため 図柄を利用した扇面帖なども制作されるように
季節を表現する 季節の植物はもちろん 屋内の手回り品にも気が配られている
春 桜 桃 紅梅 桜 梅 桃 寝覚物語絵巻 ( 鎌倉時代 ) 防府天満宮蔵 松崎天神縁起 ( 鎌倉後期 ~ 室町初期 )
夏 藤 玄奘三蔵絵 第六巻 ( 鎌倉時代 ) 菖蒲 清涼寺蔵 融通念仏縁起 上巻 (1417 年 ) 玄奘三蔵絵 第六巻 ( 鎌倉時代 ) 筍
秋 もみじ 秋草 信貴山縁起絵巻 山﨑長者巻 ( 飛倉巻 )( 平安時代 ) 紫式部日記絵巻 ( 鎌倉時代 )
冬 椿 雪 春日権現験記絵巻 第十九巻 (1309 年 ) 西本願寺蔵 慕帰絵詞 第一巻 (1351 年 )
場所を表現する 歓喜光寺蔵 一遍上人絵伝 第六巻 (1299 年 ) 富士山 ランドマークや細々としたモチーフでどこで物語が展開しているかを表現
報恩寺蔵 善信聖人鸞伝絵 第四巻 ( 室町時代 ) 東本願寺蔵 本願寺聖人親鸞伝絵 ( 弘願本 ) 第四巻 (1346 年 ) 大谷廟堂 信仰の中心 宗派の中での重要な場所も 実物に合わせて描く
身分 役割を表現する 知恩院蔵 法然上人絵伝 第二十七巻 ( 鎌倉時代 ) 服装 振舞い 立ち位置などで人々の役割や身分を表現 細かな心配りが多い
文字を読む もとになった物語 伝記 等が存在する絵巻もある 詞書はもととなった話から抜粋されたものも多い その他 絵の中に入れ込まれる文字情報がある絵巻もあり 時代 物語の性質 絵巻の注文主などの違いにより その姿は様々 能恵法師絵詞 広隆寺蔵 能恵法師絵詞 ( 鎌倉時代 ) 源氏物語絵巻 ( 平安後期 )
太平記絵巻 先帝崩御事 ( 第七巻 )( 江戸時代 )
散逸 修復 修正 追加 絵巻はその横に長い性質から 段ごとなどで切断されて取引されるというケースがしばしば存在する また 切断されたものの再編集なども行われており 現在に伝わる姿と制作当初の姿は 必ずしも一致するとは限らない ( 切断の理由は様々 ) 断簡 紫式部日記絵巻 ( 鎌倉時代 ) 断簡 絵巻が切断されたもの 絵巻の一部
絵にも文にも修正 追加 徳川美術館蔵 源氏物語絵巻 柏木三 ( 平安後期 ) 赤外線写真や X 線写真でわかることも
調度と建築 描かれる調度品 絵巻物では 物語が展開される場所や関係する人々の立場を解りやすくするためのヒントとして 調度品や部屋の内装などを利用することがある また 画中の屏風などには画中画として 山水が描かれたりなど 絵師の技術が光るものも多い 岩佐又兵衛 浄瑠璃物語絵巻 第四巻 ( 江戸時代 )
徳川美術館蔵 源氏物語絵巻 東屋一 ( 平安後期 )
描かれた建物 絵巻に描かれる建築物 絵巻の制作された時代やその当時流行したイメージが大きく反映されている 高楼 中国風建物 寺社 貴族屋敷 武家屋敷 特徴を捉えて描き分ける 吉備大臣入唐絵巻 ( 平安時代 )
靴 床材 柱の色形 狩野山雪 長恨歌絵巻 ( 江戸初期 )
桑実寺蔵 桑実寺縁起絵巻 (1532 年 ) 屋内に敷き詰められた畳
庭 街角 絵巻の中には 街角などの市街 険しい山道 海 庭園 など 多く屋外の場面が描かれる パノラマ視点を利用した時間経過など 屋内シーンとはまた違った描かれ方を楽しめる 知恩院蔵 法然上人行状絵図 第三十四巻 ( 鎌倉末期 )
東寺蔵 弘法大師行状絵詞 第三巻 (1389 年 ) 画面いっぱいを使って 荒れ狂う海を表現 渡海入唐の困難さを強調する場面
詞書のない絵巻 絵巻と図巻 巻物形式の絵画作品は 詞書のない絵巻も存在している 一切の文字情報がない場合もの 画中詞のようなセリフや解説が入るものなどが存在する また 中国山水風の絵で山水風景などを書き連ねた作品は絵巻ではなく 図巻 と呼ばれることも 雪舟 山水長巻 (1486 年 )
物語のない絵巻 絵巻には 詞書がなくとも物語を描いているものもあるが 行列の記録であったり 図鑑的なものであったりと 必ずしも物語があるわけではない 備忘録の意味も 年中行事絵巻 鶏合の図 ( 平安末期 ) 百鬼夜行絵巻 ( 江戸時代 )
県内の絵巻
大潮汲み神事絵巻 豊後高田市の登録文化財 同市春日神社所蔵 雨乞いの神事である 潮汲みの神事 を絵画化したもの 1825( 文政 8) 年に行われた神事の様子と言われる
由原八幡縁起絵巻 大分市の柞原八幡に伝わる縁起絵巻 全二巻 各地の八幡縁起の要素と 由原八幡オリジナルのエピソードで構成 多くの地に勧請された神社の縁起絵巻の特徴がはっきりと出ている
熊野権現縁起絵巻 大分市津守の熊野神社所蔵の縁起絵巻 全十三巻 熊野権現の縁起絵巻の秀作 大分市の有形文化財 松平忠直が奉納したものといわれる 松平忠直 (1595 年 ~1650 年 ) 徳川家康の孫 結城秀康 ( 豊臣秀康 ) の息子で福井藩藩主 隠居後晩年は 豊後国府内藩 ( 現大分市 ) に配流 大分市浄土寺に埋葬される
まとめ 絵巻の種類ごとに視点を変えてみてみる 物語のある絵巻はそれを伝えるための仕掛けがいっぱい 人物の表情も見所の一つ 記録や百科図鑑のような絵巻は緻密さを楽しんでみる どこからどこまでを一度で見れるか考えてみる
展覧会情報
谷口智則絵本原画展 2018 年 4 月 28 日 ( 土 )~5 月 21 日 ( 月 ) 関連イベント ~ 小幡記念図書館移転 25 周年記念 ~ 絵本の読み聞かせ & ライブペインティング 5 月 19 日 ( 土 ) 時間 :13:00~15:00 会場 : 小幡記念図書館研修室 申込み不要 / 無料 イベント終了後サイン会を行ないます アーティスト トーク ( 谷口智則講演会 ) 5 月 20 日 ( 日 ) 時間 :10:30~12:00 会場 : 小幡記念図書館視聴覚室ゲスト : 原茂樹 ( 日田シネマテーク リベルテ ) 申込み不要 / 無料
改組新第 4 回日展大分展 2018 年 4 月 5 日 ( 木 )~5 月 6 日 ( 日 ) 大分県立美術館 (OPAM) 再興第 102 回院展 2018 年 4 月 6 日 ( 金 )~5 月 6 日 ( 日 ) 北九州市立美術館分館
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