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川崎医学 40(2):109 113,2014 doi:10.11482/kmj-j40(2)109 109 27 ゲージ硝子体システムを用いた白内障手術を施行した先天白内障症例の 1 例 田中美和, 渡邊一郎, 水川憲一, 桐生純一 川崎医科大学眼科学 1, 701-0192 倉敷市松島 577 抄録先天白内障は, 放置すれば弱視をきたし, 永続的な視力低下を来す状態である. 重症例では早期の白内障手術および術後の弱視訓練により良好な視力発達が得られる場合が多い. しかし, 小児に対する白内障手術は成人のものとは異なり, 難易度の高いものである. 難易度が高い原因としては, 従来法では, 白内障手術時に後嚢切開および前部硝子体切除を行った後に眼内レンズを挿入するという難易度の高い手技にある. もし, 後嚢切開が不完全に終われば, 予定した眼内レンズ挿入もできなくなってしまう. 今回我々は, 白内障手術時に眼内レンズを挿入後に硝子体手術の手技を応用した手技を用い,27ゲージという極小の創からトロッカーという管腔構造をもつ器具を, 経強膜的に毛様体扁平部へ刺入させ, トロッカーを介して硝子体カッターにて後嚢切開, 前部硝子体切除を行い. 合併症もなく安全に手術終了することができた.27ゲージの創は無縫合で終了可能であった. 本方法は合併症も少なく, 術後の炎症の軽減にも有用な方法であると考えられる. doi:10.11482/kmj-j40(2)109 ( 平成 26 年 5 月 22 日受理 ) キーワード : 先天白内障, 白内障手術, 小切開硝子体手術,27ゲージシステム, 後嚢切開, 前部硝子体切除 緒言先天白内障は, 加齢性白内障と同じく水晶体の混濁を来す疾患であるが, 出生直後から適切な視覚刺激が妨げられることにより大脳視覚野ニューロンの発達が妨げられ, 永久的な視力低下の状態である弱視という状態を来しうる. すべての先天白内障が手術の適応となるわけではなく, 混濁の軽度のものであれば, 眼鏡などの屈折矯正や健眼遮蔽などの視能訓練により視力発達が期待できる場合がある. しかし, 水晶体の混濁が強いものでは, 弱視予防のために早期の白内障手術が必要となる. 先天白内障の手術方法は成人の白内障手術とほぼ同様であるが, 若年者の場合は, 眼球の成 長に伴う術後屈折誤差をさけるために眼内レンズ挿入を行わない傾向にある. また, 眼内レンズ挿入により眼内の炎症が強くなることが懸念されることも眼内レンズを一期的に挿入しない原因となっている. 眼内レンズを挿入しない場合は, 術後は人工的無水晶体眼となり, 術後にコンタクトレンズなどで屈折矯正する必要がある. コンタクトレンズ挿入は, 親の負担増加につながり, また煩雑であるため, コンタクトレンズによる眼障害の発生が懸念されるため, 近年では, 若年者であっても眼内レンズを挿入する施設が増えている. さらに, ネパフェネク混濁性点眼液など眼内透過性の高い非ステロイド性抗炎症点眼薬の 別刷請求先田中美和 701-0192 倉敷市松島 577 川崎医科大学眼科学 1 電話 :086(462)1111 ファックス :086(464)1197 E メール :miwa.i@med.kawasaki-m.ac.jp

110 川崎医学会誌 登場などにより, 眼内レンズを挿入しても眼内炎症がコントロール可能な程度に抑えられるようになったため, 生後 1ヶ月未満という若年期の手術であっても眼内レンズを挿入する施設もある 1). 白内障術後には, 成人であっても小児であっても, 眼内レンズを挿入している水晶体嚢が術後に混濁を来す後発白内障という状態が生じる. 小児においては, 術後に後発白内障を解消することが困難なため, 白内障手術時に後囊切開及び前部硝子体切除を併用する必要がある. その方法としては, 白内障手術時に, 前房側から水晶体後嚢を円形切除し, 硝子体カッターを用いて前部硝子体切除を行った後に, 眼内レンズを挿入する方法が一般的である. しかし, この方法では, 前房側からのアプローチであるため, 前房側への硝子体脱出による術後網膜剥離の危険性が高く, また後嚢切開が不成功に終われば, 予定した眼内レンズも挿入できなくなるため, 手術の難易度も高い. このような理由から現段階での先天白内障手術は, 決して安全な手術とは言えず, さらに安全な手術手技への改良が求められている. 今回, 我々は片眼性の先天白内障に対し, 従来法とは異なり, 眼内レンズ挿入後に27ゲージ硝子体システムを用い硝子体腔側から後囊切除 及び前部硝子体切除を安全に行い得た症例を経験したので報告する. 症例 3 歳, 男児. 既往歴に特記事項なし. 出生 発達 既往歴 : 出生時, 発達に異常なし. 母親妊娠中に児に先天白内障を来すような風疹などの罹患なし. 現病歴 : 結膜炎のため近医受診したところ, 左視力不良が認められ, 診察の結果, 左眼先天白内障を指摘されたため, 当科紹介受診となった. 当科初診時視力 : 右眼 :0.7( 0.7 +0.5D), 左眼 : 指数弁 ( 矯正不能 ), 左眼に層間白内障を認めた. ( 図 1) 左眼は弱視の状態であった. しかし, 重症の先天白内障の場合は, 通常の屈折性弱視とは異なり, 形態覚遮断弱視であるため, 弱視治療には白内障手術が必須と考えられた. 経過 2013 年 8 月 7 日, 全身麻酔下にて白内障手術施行した. 手術手順としては, まず,20ゲージ V ランスにて角膜サイドポートを作成後, 前房内を粘弾性物質で充填し, サイドポート鑷子にて前囊切開を行った. その後, 水晶体と水晶体囊を水流分離した後, 水晶体を吸引した. 成 図 1 強い水晶体混濁を認める. 先天性白内障に特徴的な層間白内障を認める. 図 2 水晶体を摘出後に眼内レンズを嚢内に固定した.

田中, :27 ゲージシステムを用いた先天白内障手術 111 人の水晶体とは異なり, 核の硬化は生じていない為, 吸引に際して超音波振動は用いず, 吸引のみで遂行可能であった. 嚢に付着した水晶体皮質を除去した後に, 眼内レンズ ( エタニティ -X60,Santen, レンズパワー :+24.00D) を挿入した ( 図 2). 眼内レンズの度数選択については眼球の成長を予測し, 術後の屈折値が +3.0と遠視になる様に設定した. 眼内レンズ挿入後に, 眼球の成長を考慮し確実に毛様体扁平部から眼内に刺入するため角膜輪部から2 mmの位置に強膜創作成し,27ゲージトロッカーを2 個挿入した ( 図 3). トロッカーの一方に眼内への還流ラインを接続し, もう一方から27ゲージ硝子体カッターを眼内に挿入し, 後囊円形切除, 及び前部硝子体 ( 前方 1/3 程度 ) を切除した ( 図 4). その後, 前房内の粘弾性物質を除去し, 眼圧調整を行い手術を終了した.27ゲージの強膜創からの硝子体脱出や眼内液の漏出は認めず, 強膜創の自己閉鎖が得られ, 安全に手術を終了した. 術後の眼底検査にても眼底に器質的な疾患は認めなかった. 術後炎症は炎症細胞数 1+, フレアは0と軽度で感染や網膜剥離などの合併症もなく順調に経過している. 現在は左眼視力 :0.04(0.04 +2.0D=cyl-1.25DAx120 ) で弱視治療のために眼 鏡装用にて弱視治療中である. 考察先天白内障は小児の視力低下を来すだけでなく, 適切な時期に手術治療を行わなければ, 永続的な視力低下をきたし, 生涯にわたり患者の Q.O.L. を低下させる原因となる. その治療法は, 重症例 ( 水晶体混濁の強い例 ) に対しては, 手術にて水晶体摘出しか治療法がない. 成人の白内障手術は, 侵襲も少なく安全にできる手術となったが, 小児の眼球は成人と比べ強膜も薄く脆弱であり, 小児の先天白内障の手術は, 成人のものとは異なり, 決して安全な手術とはいえない. また, 白内障手術後には, 水晶体嚢が混濁する後発白内障という状態が発生する. この状態は一般的には, 水晶体上皮細胞が術後に再増殖する現象であり, 年齢が若いほど発生頻度が高いことが知られている 2,3). 後発白内障に対しては, 成人であれば, 外来でレーザー後嚢切開術を行うことにより治療可能であるが, 小児の場合はレーザー中の制動が困難であるため, 白内障手術と同時に水晶体後嚢の切開と前部硝子体切除を同時に行うことが必要である. 今まで一般的に行われてきた後嚢 図 3 眼内レンズ挿入後に角膜輪部から 2 mmの位置に 27 ゲージのトロッカーを 2 個挿入した. 図 4 2 個あるトロッカーのうち1 個には眼内還流液のラインを接続し, もう1 個からは27ゲージの硝子体カッターを挿入し, 後嚢切開および前部硝子体切除を行った.

112 川崎医学会誌 切開の方法は, 水晶体摘出後に角膜輪部に作成したサイドポートから前嚢セッシを用いて後嚢に円形の切開を行い, その切開から前部硝子体を硝子体カッターで切除するというものであったが, この方法では, 眼球前方からのアプローチとなるため, 前房への硝子体脱出の危険性があり, 将来の網膜剥離のリスクを高める可能性がある. また, 手術時に後嚢切開が不成功に終われば, 予定していた眼内レンズの挿入も不可能になるため, かなりの熟練した術者でなければ施行困難な手技である 4). 一方, 今回我々が行った後嚢切開および前部硝子体切除の手技は, 強膜にトロッカーと呼ばれる筒状の器具を挿入し, その管腔を介して硝子体腔へ器具を挿入する方法であり, 現在, 網膜硝子体手術の主流である小切開硝子体手術の手技を応用したものである. 本方法は, トロッカーを経由して硝子体腔に器具を挿入することにより強膜創付近の硝子体の創口への嵌頓が少なく, 術後網膜剥離のリスクが軽減されることが期待される. 成人においては, このような小さな切開創での手術では, 強膜縫合が不必要な場合が多いが, 小児においては, 成人に用いられる25ゲージという極めて小さな創であっても成人と比べて強膜が薄いために創口の縫合が必須である. 縫合を行うことにより, 縫合糸による眼表面の炎症増悪も生じうる. 術後の眼表面の炎症の増悪は術後疼痛と関係しており, 決して軽視できない問題である. 今回, 我々は, 最新の27ゲージという極小の 創から硝子体カッターを用いて眼内レンズの挿入後に後嚢切開および前部硝子体切除を行い, 強膜創も無縫合で手術を終了することができた. 本方法では眼内レンズ挿入後に後嚢切開が施行できるため, 眼内レンズの挿入前に後嚢切開を行う従来法に比べて, 眼内レンズ挿入困難になることがなく, また水晶体後方側からのアプローチであるため眼球前方への硝子体脱出の危険がない. そして,27ゲージという極めて小さい創であるため, 眼球外への硝子体脱出もなく, 強膜創縫合も不要であった. 今回我々が行った27ゲージ硝子体カッターを併用した先天白内障手術法は眼内レンズ挿入を想定とした先天白内障手術においては, 合併症も少なく, 術後炎症も少ない優れた方法であると思われる. 引用文献 1) 斉藤広美, 名和良晃, 丸岡真治, 川崎健輔, 吉井稔章, 原嘉昭 : 生後 1ヶ月の乳幼児の両眼先天白内障に対して眼内レンズ挿入術を施行した症例.IOL&RS 16:459-463, 2002 2) 紀平弥生, 稲富誠, 関谷善文, 山本節, 馬嶋慶直 : 小児白内障に対する眼内レンズ (IOL) 挿入についての二次アンケート結果.IOL&RS 16:203-211, 2002 3) Lundvall A, Zetterstrom C : Primary intraocular lens implantation in infants : Complications and visual results. J Cataract Refract Surg 32 : 1672-1677, 2006 4) 徳田芳浩 : 小児白内障手術眼内レンズ手術の実際 : 重篤な全身 眼合併症を伴わない場合.IOL&RS 22: 417-422, 2008

田中, :27 ゲージシステムを用いた先天白内障手術 113 A case report of congenital cataract surgery with 27 gauze vitrectomy system. Miwa TANAKA, Ichiro WATANABE, Junichi KIRYU Depatment of ophthalmology 1, Kawasaki Medical School, 577 Matsushima, Kurashiki, 701-0192, Japan ABSTRACT Congenital cataracts can cause amblyopia if not treated. In severe cases, early identification and treatment with cataract surgery as well as visual training are all necessary for positive visual development. However, cataract surgery during childhood seems to be more difficult to perform than with adults. One of the reasons for this difficulty is because the posterior capsulotomy is necessary to reduce the risk of causing posterior capsule opacity after cataract surgery. Usually, posterior capsulotomy is performed through the corneal side port. If posterior capsulotomy is incomplete, intra ocular lens (IOL) implantation may also be impossible. Regarding our experiences, posterior capsulotomy and anterior vitrectomy was performed safely with 27 gauze vitreous surgery system after IOL implantation. Additionally, no suture was needed in the wounds of 27 gauze vitreous surgery system. Our surgery for the treatment of congenital cataract was useful for intraoperative safety and less inflammation post-surgery. (Accepted on May 22, 2014) Key words: Congenital cataract, cataract surgery, Microincision vitrecteous surgery, 27 gauge vitreous surgery system, Posterior capsulotomy, anterior vitrectomy Corresponding author Miwa Tanaka Depart of ophthalmology 1, Kawasaki Medical School, 577 Matsushima, Kurashiki, 701-0192, Japan Phone : 81 86 462 1111 Fax : 81 86 464 1565 E-mail : miwa.i@med.kawasaki-m.ac.jp