Microsoft Word 「ERATO河岡先生(東大)」原稿(確定版:解禁あり)-1

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なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

ルス薬の開発の基盤となる重要な発見です 本研究は 京都府立医科大学 大阪大学 エジプト国 Damanhour 大学 国際医療福祉 大学病院 中部大学と共同研究で行ったものです 2 研究内容 < 研究の背景と経緯 > H5N1 高病原性鳥インフルエンザウイルスは 1996 年頃中国で出現し 現在までに

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

Microsoft Word - 【最終】リリース様式別紙2_河岡エボラ _2 - ak-1-1-2

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

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PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル


論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

報道発表資料 2004 年 9 月 6 日 独立行政法人理化学研究所 記憶形成における神経回路の形態変化の観察に成功 - クラゲの蛍光蛋白で神経細胞のつなぎ目を色づけ - 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) マサチューセッツ工科大学 (Charles M. Vest 総長 ) は記憶形

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

15K14554 研究成果報告書

[PDF] 蛍光タンパク質FRETプローブを用いたアポトーシスのタイムラプス解析

報道関係者各位

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

< 研究の背景と経緯 > 私たちの消化管は 食物や腸内細菌などの外来抗原に常にさらされています 消化管粘膜の免疫系は 有害な病原体の侵入を防ぐと同時に 生体に有益な抗原に対しては過剰に反応しないよう巧妙に調節されています 消化管に常在するマクロファージはCX3CR1を発現し インターロイキン-10(

た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

スライド 1

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

平成14年度研究報告


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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

Microsoft Word - PR docx

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

発表内容 1. 背景感染症や自己免疫疾患は免疫系が強く関与している病気であり その進行にはT 細胞が重要な役割を担っています リンパ球の一種であるT 細胞には 様々な種類の分化したT 細胞が存在しています その中で インターロイキン (IL)-17 産生性 T 細胞 (Th17 細胞 ) は免疫反応

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

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Microsoft Word doc

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

記載例 : ウイルス マウス ( 感染実験 ) ( 注 )Web システム上で承認された実験計画の変更申請については 様式 A 中央の これまでの変更 申請を選択し 承認番号を入力すると過去の申請内容が反映されます さきに内容を呼び出してから入力を始めてください 加齢医学研究所 分野東北太郎教授 組

長期/島本1

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

1-4. 免疫抗体染色 抗体とは何かリンパ球 (B 細胞 ) が作る物質 特定の ( タンパク質 ) 分子に結合する 体の中に侵入してきた病原菌や毒素に結合して 破壊したり 無毒化したりする作用を持っている 例 : 抗血清馬などに蛇毒を注射し 蛇毒に対する抗体を作らせたもの マムシなどの毒蛇にかまれ

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

DVDを見た後で、次の問いに答えてください

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

論文の内容の要旨

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

博士学位論文審査報告書

Microsoft PowerPoint - 新技術説明会配付資料rev提出版(後藤)修正.pp

報道発表資料 2002 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 局所刺激による細胞内シグナルの伝播メカニズムを解明 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 細胞の局所刺激で生じたシグナルが 刺激部位に留まるのか 細胞全体に伝播するのか という生物学における基本問題に対して 明確な解答を与えま

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

妊娠認識および胎盤形成時のウシ子宮におけるI型IFNシグナル調節機構に関する研究 [全文の要約]

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報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

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11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

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インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

Research 2 Vol.81, No.12013

スライド 1

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

平成24年7月x日

化学の力で見たい細胞だけを光らせる - 遺伝学 脳科学に有用な画期的技術の開発 - 1. 発表者 : 浦野泰照 ( 東京大学大学院薬学系研究科薬品代謝化学教室教授 / 大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学分野 ( 兼担 )) 神谷真子 ( 東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻生体情報学

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生物時計の安定性の秘密を解明

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

Transcription:

解禁時間 ( テレヒ ラシ オ WEB): 平成 27 年 3 月 25 日 ( 水 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) ( 新聞 ) : 平成 27 年 3 月 26 日 ( 木 ) 付朝刊 平成 2 7 年 3 月 2 3 日 科学技術振興機構 (JST) Tel:03-5214-8404( 広報課 ) 東京大学医科学研究所 Tel:03-5449-5601( 総務チーム ) 光で居場所を探せるインフルエンザウイルスの開発に成功 ~ 免疫応答メカニズムの解明 ワクチン開発に期待 ~ ポイント病原性を保ちつつ 蛍光波長の異なる蛍光たんぱく質を安定的に発現するウイルスの作製に成功した 蛍光を利用して生体内におけるウイルス感染の画像解析が可能 インフルエンザウイルスに対する生体防御や気道炎症のメカニズムの解明が期待される JST 戦略的創造研究推進事業において 東京大学医科学研究所の河岡義裕教授と福山聡特任准教授らは 4 種類の蛍光たんぱく質を発現するインフルエンザウイルス Color-flu( カラフル ) の作製に成功しました Color-flu は 蛍光たんぱく質を利用して感染細胞を光らせるので インフルエンザウイルスの感染によって起こる炎症など 生体内でウイルス感染が広がる様子をさまざまな手法で画像分析することが可能になります 本研究では ウイルス本来の病原性を保ち かつ挿入した蛍光たんぱく質の発現をほぼ完全に維持できるウイルス株を樹立することに成功し Color-flu と名付けました インフルエンザウイルスの存在を示すレポーターとして 蛍光波長の異なる 4 種類の蛍光たんぱく質 ecfp( 青緑 ) egfp( 緑 ) Venus( 黄 ) mche rry( 深赤 ) 注 1) を用いました 本研究では Color-flu がさまざまな画像解析手法に応用できることを実証しました 深部の組織が観察できる 2 光子レーザー顕微鏡注 2) を用いて マウスの肺組織におけるウイルス感染細胞とマクロファージ注 3) のタイムラプス撮影注 4) に初めて成功し インフルエンザウイルスの感染により炎症が生じる様子を詳細に確認できました さらに Venus を発現する高病原性鳥インフルエンザウイルスを作製し 肺での感染の広がり方を高病原性ウイルスとインフルエンザウイルス (PR8 株注 5 ) とで比較することができました 本研究で作製した病原性を維持したまま蛍光たんぱく質を発現するインフルエンザウイルスは ウイルスに対する生体防御や気道炎症のメカニズムの解明に役立つことが期待されます なお 本研究グループでは 革新的先端研究開発支援事業における インフルエンザ制圧を目指した次世代ワクチンと新規抗ウイルス薬の開発 プロジェクトが昨年より開始されており 本研究成果は革新的なインフルエンザ治療薬の開発などに役立つことが期待されます 本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 鹿児島大学と共同で行ったものです 本研究成果は 2015 年 3 月 25 日 ( 英国時間 ) 英国科学雑誌 Na ture Communications のオンライン速報版で公開されます 1

< 研究の背景と経緯 > 毎シーズン 国内だけでも約 1 千万人が感染する季節性インフルエンザウイルスは 医学 公衆衛生上 最も対策が必要な病原体の 1 つです ワクチンは インフルエンザの予防法として最も有効ですが 発症を完全に予防することはできません 治療薬として 体内でのウイルス増殖を抑える抗インフルエンザ薬が開発されていますが 近年は抗インフルエンザ薬に耐性を持つウイルスが流行するようになりました 2013 年に中国で発生した新型 H7N9 ウイルスや 東南アジアやエジプトで散発的にヒト感染例が報告される高病原性鳥 H5N1 ウイルスは ヒトに対して高い病原性を持ち 肺で強い炎症を起こしますが 肺炎の重症化メカニズムの解明はいまだに不十分です このように インフルエンザウイルスを制圧するための課題は山積みで 精力的な研究 開発が必要です インフルエンザウイルスの研究において 生体内でウイルスがどの細胞に感染しているか 感染細胞を判別することは 最も重要で基本となる情報の 1 つです これまでは免疫組織化学的な手法が一般的で 感染動物から摘出した臓器をホルマリンなどで固定し 感染細胞を同定していました しかし この方法では細胞を固定してしまうので 感染細胞を生きたまま解析することができません そこで 生きた感染細胞を検出するために インフルエンザウイルスの遺伝子にレポーター遺伝子 ( ある遺伝子が発現しているかどうかを容易に判別するために その遺伝子に組み換える別の遺伝子 ) を挿入する試みがなされてきました 蛍光たんぱく質など さまざまなレポーター遺伝子が試されましたが レポーター遺伝子を挿入することでウイルスの病原性が低下し ウイルスが増殖を繰り返す間にレポーター遺伝子がウイルスゲノムから脱落してしまうため 実験動物の感染実験に用いることは困難とされてきました このような背景の下 本研究ではウイルス本来の病原性を損なわず 蛍光たんぱく質を安定的に発現するインフルエンザウイルス株を作製し このウイルス株を用いて インフルエンザウイルスの新たな画像解析を行うことを目指しました < 研究の内容 > 1. ウイルスの病原性を保ったままで蛍光たんぱく質を発現するウイルス株を作製インフルエンザウイルス (PR8 株 ) のゲノム分節注 6) である NS セグメントに 蛍光たんぱく質のレポーターとして Venus 遺伝子 ( 黄 ) を挿入し リバースジェネティクス法注 7) を用いて Venus PR8 株を作製しました ところが Venus 遺伝子を挿入したことにより マウスに対する Venus PR8 株の病原性は著しく低下しました そのため Venus PR8 株をマウスに繰り返し感染させて マウスに対する病原性を回復したマウス馴化 Venus PR8 株を作製することに成功しました 次いで このマウス馴化 Venus PR8 株が培養細胞やマウスの肺で安定的に Venus 遺伝子を発現することを確認しました 次に ウイルスの病原性維持と挿入した Venus 遺伝子の安定性に関与するウイルス遺伝子を同定するために マウス馴化 Venus PR8 株の遺伝子の塩基配列を解析しました その結果 ウイルス遺伝子の中に 2 つの変異を同定しました さらに さまざまな画像解析手法に対応できるように マウス馴化株を基盤にして V enus のほか 蛍光波長の異なる ecfp( 青緑 ) egfp( 緑 ) mcherry( 深赤 ) の遺伝子を挿入したウイルス株を作製しました このように短波長域から長波長域まで蛍光を発することにより可視化することのできるウイルス株 Color-flu( カラフル ) の作製に成功しました ( 図 1) 次いで Color-flu に感染したマウスの肺を透明にした後 蛍光実体顕微鏡で観察したところ 4 つのそれぞれの蛍光たんぱく質を発現する感染細胞が気管支に沿って広がっていることが確認できました ( 図 2) さらに 高病原性鳥インフルエンザウイルス (H5N1 株 ) の生体内での画像解析を行うために PR8 株と同様の手法を用いて Venus-H5N1 ウイルス株を作製すること 2

にも成功しました 2. マウスの肺でインフルエンザウイルスの感染がどのように起こるかを観察インフルエンザウイルスに感染すると マクロファージがウイルスに感染した細胞を見つけて 免疫細胞に伝えます マウスの肺の内部におけるインフルエンザウイルス感染細胞とマクロファージの相互作用を解析するために 2 光子レーザー顕微鏡を用いて Col or-flu( マウス馴化 egfp PR8 株 ) 感染マウスの肺を観察しました その結果 アポトーシス様の形態注 8) を示すウイルス感染細胞が高い頻度で認められました また ウイルス感染細胞に接着している多くのマクロファージが ほとんど動かないことなどが明らかになりました セルソーター注 9) を用いてマクロファージを分離 回収し その遺伝子発現を解析したところ マクロファージは抗ウイルス作用を示す 1 型インターフェロンを多く産生していました 以上の結果から 感染した肺に移動してきたマクロファージは感染初期の抗ウイルス応答に関与していることが示唆されました 次に 高病原性鳥 H5N1 ウイルスの病原性を解析するために マウスの肺で感染細胞の分布を Venus-H5N1 と Venus PR8 との間で経時的に比較しました 感染した肺を透明化処理し 2 光子レーザー顕微鏡を用いて観察しました 得られたデータを 3 次元構築し 肺のどの部分が感染しているのか 感染領域を定量的に解析しました その結果 Venus-H5N1 は 感染から 24 時間で多くの気管支上皮に感染した後 急速に末梢の肺胞上皮に感染が広がることを明らかにしました また ある個体が複数の異なるインフルエンザウイルス株に同時に感染すると ゲノム分節が入れ替わること ( リアソートメント ) によって 新型ウイルスができる場合があります このリアソートメントは 一つの細胞に複数のウイルスが感染することによって起きる確率が高いと考えられています そこで このリアソートメントに寄与している細胞群を明らかにするため それぞれ異なる蛍光たんぱく質が挿入された 4 種類の Color -flu 株を同時にマウスに感染させ 複数のウイルス株が感染している細胞の分布を組織学的に解析しました マルチスペクトル画像解析システム注 10) を用いた検討の結果 感染 2 日目の気管支上皮に複数の Color-flu 株に感染した細胞が高頻度で存在していることが明らかになり リアソートメントによる新型ウイルスは気管支上皮で出現している可能性が示唆されました < 今後の展開 > 本研究で新たに樹立したインフルエンザウイルス Color-flu によって さまざまな画像解析が可能となり インフルエンザウイルスの病原性発現メカニズムや新型ウイルス出現メカニズムの解明に役立ちます さらに ワクチンや新規抗ウイルス薬の実験動物における評価にも応用できることから ウイルス学や免疫学などの基礎的な研究から ワクチンや薬剤開発まで幅広く利用されることが期待されます 3

< 参考図 > 図 1 Color-flu の作製方法 1 Venus を NS セグメントに導入して NS-Venus セグメントを作製しました 2 リバースジェネティクス法を用いて 1 のセグメントを持つ Venus PR8 株を作製しました 3 Venus PR8 株をマウスに感染させて繰り返し培養し Venus を安定的に発現し病原性を回復したマウス馴化 Venus PR8 株を樹立しました 4 1 2 3 と同様に ecfp egfp mcherry を挿入した NS セグメントを作製し リバースジェネティクス法を用いて マウス馴化 PR8 株を基にしたマウス馴化 ecfp egfp mcherry PR8 株を作製しました 4

図 2 透明化した肺におけるウイルス感染細胞の局在マウスにそれぞれ異なる Color-flu を感染させて 肺を摘出し 試薬で肺を透明にしました 蛍光実体顕微鏡を用いて蛍光たんぱく質を発現するウイルス感染細胞の分布を観察したところ それぞれの蛍光たんぱく質を発現する感染細胞が気管支に沿って広がっていることが確認できました < 用語解説 > 注 1)eCFP( 青緑 ) egfp( 緑 ) Venus( 黄 ) mcherry( 深赤 ) ecfp egfp Venus は オワンクラゲ由来の蛍光たんぱく質 GFP の改良型で それぞれ青緑 緑 黄の蛍光を発する Venus は理化学研究所脳科学総合研究センター宮脇敦史博士 ( グループディレクター ) らが開発した新規 GFP 変異体で 改変 GFP の中でも特に強い蛍光を発する mcherry は サンゴ由来の赤色蛍光タンパク質 (DsRed) を改変した蛍光タンパク質 注 2)2 光子レーザー顕微鏡近赤外レーザーパルス光を用いて 2 つの光子を 1 つの蛍光分子に同時に吸収させることで 蛍光分子を励起させる 共焦点レーザー顕微鏡と比べて 長波長の光を使用することから 深部の組織を低浸襲で観察することができる 注 3) マクロファージ白血球の一種で 異物や感染細胞などを貪食し サイトカインなどを産生することで 免疫システムの重要な役割を担っている 注 4) タイムラプス撮影一定間隔で撮影し 画像をつなぎ合わせて動画のようにして 細胞などの動きを観察する方法 注 5)PR8 株 (A/Puerto Rico/8/34) 1934 年にヒトから単離された A 型インフルエンザウイルス 現在 ワクチンの開発やウイルス研究などで最も頻繁に利用させているインフルエンザウイルス株の 1 つである 注 6) ゲノム分節 A 型インフルエンザウイルスでは ウイルス粒子の中でゲノムが 8 本の分節 ( セグメント ) (HA NA M PB1 PB2 PA NP NS) に分かれている 5

注 7) リバースジェネティクス法遺伝子情報をもとにウイルスを人工合成する方法 1999 年に河岡義裕博士らによってインフルエンザウイルスのリバースジェネティクス法が開発された 注 8) アポトーシス様の形態細胞死の 1 種であるアポトーシスを起こす細胞では 細胞膜の構造が不安定になり 小胞化や断片化がみられる 注 9) セルソーター細胞を蛍光色素などで標識し 特定の蛍光パターンを示す細胞集団を分離 回収する装置 注 10) マルチスペクトル画像解析システム各種蛍光たんぱく質は それぞれ波長パターン ( 蛍光スペクトル ) の異なる蛍光を発する 蛍光スペクトルを分析することで 複数の蛍光たんぱく質が発現する試料で各蛍光シグナルの発現レベルを高い感度で解析することができる < 論文タイトル > Multi-spectral fluorescent reporter influenza viruses (Color-flu) as powerful tools for in vivo studies (Color-flu: 個体レベルの研究に有用なマルチスペクトル蛍光たんぱく質をレポーターにしたインフルエンザウイルス ) doi:10.1038/ncomms7600 < お問い合わせ先 > < 研究に関すること > 河岡義裕 ( カワオカヨシヒロ ) 東京大学医科学研究所感染 免疫部門ウイルス感染分野教授 108-8639 東京都港区白金台 4-6-1 Tel:03-5449-5310 Fax:03-5449-5408 E-mail:kawaoka@ims.u-tokyo.ac.jp ( 海外出張中のためメールでお問い合わせください ) <JST の事業に関すること > 大山健志 ( オオヤマタケシ ) 科学技術振興機構研究プロジェクト推進部 102-0076 東京都千代田区五番町 7 K s 五番町 Tel:03-3512-3528 Fax:03-3222-2068 E-mail:eratowww@jst.go.jp < 報道担当 > 科学技術振興機構広報課 102-8666 東京都千代田区四番町 5 番地 3 Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432 E-mail:jstkoho@jst.go.jp 6