<4D F736F F D C A838A815B A8CF597E38B4E82C982E682E992B48D8291AC8CB48E7195CF88CA82CC8ACF91AA817C93648E718B4F93B982C68CB48E718C8B8D8782CC8CF590A78CE4817C8140>

Similar documents
と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

光で絶縁体を未知の金属相へと相転移させることに成功

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

マスコミへの訃報送信における注意事項

論文の内容の要旨

<4D F736F F D20959F967B82B382F C A838A815B C52E646F63>

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

<4D F736F F D C668DDA97705F81798D4C95F189DB8A6D A8DC58F4994C5979A97F082C882B581798D4C95F189DB8A6D A83743F838C83585F76325F4D F8D488A F6B6D5F A6D94468C8B89CA F

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

所 属 :1 広島大学大学院理学研究科 2 東京大学物性研究所 3 愛知シンクロ トロンセンター 4 広島大学放射光科学研究センター 5 兵庫県立大学大学院物質理学研究科 D O I: /s 背景 近年 電子 光学デバイスの材料として 2 次元単原子層結

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

Microsoft PowerPoint - 第2回半導体工学

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

4. 発表内容研究の背景熱力学は物理学の基礎理論の一つであり その応用は熱機関や化学反応など多岐にわたっています 熱力学においてとりわけ重要なのは 第二法則です 熱力学第二法則とはエントロピー増大則に他ならず 断熱された系のエントロピーが減ることはない と表されます 熱力学第二法則は不可逆な変化に関

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

マスコミへの訃報送信における注意事項

             論文の内容の要旨

物性物理学 I( 平山 ) 補足資料 No.6 ( 量子ポイントコンタクト ) 右図のように 2つ物質が非常に小さな接点を介して接触している状況を考えましょう 物質中の電子の平均自由行程に比べて 接点のサイズが非常に小さな場合 この接点を量子ポイントコンタクトと呼ぶことがあります この系で左右の2つ

Microsoft Word - 01.docx

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

平成22年11月15日

Microsoft Word - 01.doc

マスコミへの訃報送信における注意事項

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

う特性に起因する固有の量子論的効果が多数現れるため 基礎学理の観点からも大きく注目されています しかし 特にゼロ質量電子系における電子相関効果については未だ十分な検証がなされておらず 実験的な解明が待たれていました 東北大学金属材料研究所の平田倫啓助教 東京大学大学院工学系研究科の石川恭平大学院生

【資料2-3】コヒーレント制御の概念と研究動向

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

研究成果報告書

重点的に推進すべき取組について(素案)

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

ます この零エネルギーの輻射が量子もつれを共有できることから ブラックホールが極めて高温な防火壁で覆われているという仮説が論理的必然でないことを明らかにしました 本研究の成果は 米国物理学会誌 Physical Review Letters に 2018 年 5 月 4 日 ( 米国東部時間 ) オ

放射線照射により生じる水の発光が線量を反映することを確認 ~ 新しい 高精度線量イメージング機器 への応用に期待 ~ 名古屋大学大学院医学系研究科の山本誠一教授 小森雅孝准教授 矢部卓也大学院生は 名古屋陽子線治療センターの歳藤利行博士 量子科学技術研究開発機構 ( 量研 ) 高崎量子応用研究所の山

プラズマ バブルの到達高度に関する研究 西岡未知 齊藤昭則 ( 京都大学理学研究科 ) 概要 TIMED 衛星搭載の GUVI によって観測された赤道異常のピーク位置と 地上 GPS 受信機網によって観測されたプラズマ バブルの出現率や到達率の関係を調べた 高太陽活動時と低太陽活動時について アジア

<4D F736F F D208DC58F4994C581798D4C95F189DB8A6D A C91E A838A838A815B83588CB48D EA F48D4189C88

Microsoft PowerPoint - 東大講義09-13.ppt [互換モード]

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

しかし これまでの研究では物質と光電場共に 1 次元的に取り扱っており 3 次元の自由度 を有する試料と 2 次元の偏光状態を有する光電場の相互作用を記述するには不十分でした < 研究内容 > 物性研の板谷研究室で開発した波長が 5 ミクロンの高強度中赤外レーザーを セレン化ガ リウム結晶に集光する

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

Microsoft Word - note02.doc

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

構造化学

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた


4. 発表内容 : 1 研究の背景グラフェン ( 注 6) やトポロジカル物質と呼ばれる新規なマテリアルでは 質量がゼロの特殊な電子によってその物性が記述されることが知られています 質量がゼロの電子 ( ゼロ質量電子 ) とは 光速の千分の一程度の速度で動く固体中の電子が 一定の条件下で 有効的に

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

生物時計の安定性の秘密を解明

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

研究の背景これまで, アルペンスキー競技の競技者にかかる空気抵抗 ( 抗力 ) に関する研究では, 実際のレーサーを対象に実験風洞 (Wind tunnel) を用いて, 滑走フォームと空気抵抗の関係や, スーツを含むスキー用具のデザインが検討されてきました. しかし, 風洞を用いた実験では, レー

そこで研究グループは PSII の小さな結晶へ二発の閃光を当てることで この反応の 途中 の状態を捉えることを試みました PSII に二発の閃光を照射すると 水を分解する反応サイクルが S3 状態とよばれる 途中 の状態に進みます そこに SACLA の X 線自由電子レーザーを当てて 反応の 途中

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

PowerPoint プレゼンテーション

記者発表資料

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

<4D F736F F F696E74202D C834E D836A834E83588DDE97BF955D89BF8B5A8F F196DA2E >

Gatlin(8) 図 1 ガトリン選手のランニングフォーム Gatlin(7) 解析の特殊な事情このビデオ画像からフレームごとの静止画像を取り出して保存してあるハードディスクから 今回解析するための小画像を切り出し ランニングフォーム解析ソフト runa.exe に取り込んで 座標を読み込み この

NEWS RELEASE 平成 30 年 11 月 1 日 鉄鋼材料において水素による異常な変態抑制効果を発見 - 鉄の構造を水素で制御する - 九州工業大学大学院生命体工学研究科の平田研二 ( ひらたけんじ ) 大学院生 ( 現 : 産業技術総合研究所 ) 飯久保智 ( いいくぼさとし ) 准教授

SP8WS

8.1 有機シンチレータ 有機物質中のシンチレーション機構 有機物質の蛍光過程 単一分子のエネルギー準位の励起によって生じる 分子の種類にのみよる ( 物理的状態には関係ない 気体でも固体でも 溶液の一部でも同様の蛍光が観測できる * 無機物質では規則的な格子結晶が過程の元になっているの

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

創薬に繋がる V-ATPase の構造 機能の解明 Towards structure-based design of novel inhibitors for V-ATPase 京都大学医学研究科 / 理化学研究所 SSBC 村田武士 < 要旨 > V-ATPase は 真核生物の空胞系膜に存在す

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

Microsoft Word å¹´4朋21报 ã…‚ã…¼ã‡�ㅳㇽㅳ犖玺çŠ⁄ㆫㆤㆪㆄ㇉ㇿㅳㅂ㇯質勃å�’ã••

4. 発表内容 : 1 研究の背景と経緯 電子は一つ一つが スピン角運動量と軌道角運動量の二つの成分からなる小さな磁石 ( 磁 気モーメント ) としての性質をもちます 物質中に無数に含まれる磁気モーメントが秩序だって整列すると物質全体が磁石としての性質を帯び モーターやハードディスクなど様々な用途

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

Microsoft PowerPoint - hiei_MasterThesis

架橋点が自由に動ける架橋剤を開発〜従来利用されてきた多くの高分子ゲルに柔軟な力学物性をもたらすことが可能に〜

マスコミへの訃報送信における注意事項

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

多次元レーザー分光で探る凝縮分子系の超高速動力学

Microsoft Word - 01.docx

液相レーザーアブレーションによるナノ粒子生成過程の基礎研究及び新規材料創成への応用 北海道大学大学院工学工学院量子理工学専攻プラズマ応用工学研究室修士 2年竹内将人

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

Techniques for Nuclear and Particle Physics Experiments Energy Loss by Radiation : Bremsstrahlung 制動放射によるエネルギー損失は σ r 2 e = (e 2 mc 2 ) 2 で表される為

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

Transcription:

光励起による超高速原子変位の観測 - 電子軌道と原子結合の光制御 - 1. 発表者 : 出田真一郎 ( 分子科学研究所極端紫外光研究施設助教 / 研究当時 : 東京大学大学院工学系研究科日本学術振興会特別研究員 ) 下志万貴博 ( 理化学研究所創発物性科学研究センター研究員 / 研究当時 : 東京大学大学院工学系研究科助教 ) 石坂香子 ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 石井博文 ( 研究当時 : 岡山大学大学院自然科学研究科修士 2 年 ) 工藤一貴 ( 岡山大学異分野基礎科学研究所准教授 ) 野原実 ( 岡山大学異分野基礎科学研究所教授 ) 2. 発表のポイント : 高い時間分解能 (10-13 秒 ) を有するパルス電子ビームを用いて これまでにない超高速の原子変位の直接観測に成功した 光で電子軌道を変調することにより結晶構造を制御する新しいメカニズムを提唱した 光メモリ等のデバイス開発につながる超高速スイッチングや原子結合の光制御への可能性を示唆するものである 3. 発表概要 : 東京大学大学院工学系研究科の出田真一郎日本学術振興会特別研究員 ( 研究当時 ) 下志万貴博助教 ( 研究当時 ) 石坂香子教授らの研究グループは 岡山大学異分野基礎科学研究所の石井博文大学院生 工藤一貴准教授 野原実教授らの研究グループ及びドイツのマックスプランク研究所との共同研究のもと 時間分解電子線回折法 (Ultrafast Electron Diffraction: UED 注 1) を用いて これまでにない超高速の原子位置の変化 ( 原子変位 ) を観測することに成功しました この手法は レーザーによって作り出したパルス状の電子ビームを用いて物質の回折像を取得することにより 超高速で変動する結晶の原子変位の様子をストロボ撮影するものです 本研究では 特殊な原子結合と結晶構造をもつイリジウムダイテルライド (IrTe 2 ) のダイナミクスを観測しました 実験データを詳細に解析することにより 光励起 ( れいき ) により特定のイリジウム電子軌道 ( 注 2) が直接変調されることで イリジウム同士の強い結合に基づく結晶構造が超高速で崩壊及び再構成することを世界で初めて明らかにしました 本研究の成果を礎に 今後は 光メモリ等のデバイス開発につながる超高速スイッチングや原子結合の光制御へ向けた研究が広く展開されることが期待されます 本研究成果は 2018 年 7 月 27 日 ( 米国東部夏時間 ) に米国科学誌 Science Advances で公開される予定です 本研究は 東京理科大学特定研究助成金 並びに日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究 B(15K17709) の助成を受けました

4. 発表内容 : < 研究の背景 先行研究における問題点 > 私達の身の回りの固体物質は 非常に多く (1 立方センチメートル当たり 10 23 個程度 ) の原子がお互いに結合し構成する結晶からなります 原子間の結合は通常の物質では非常に強く堅いのですが 強い光照射や電場などにより壊れる場合があることが知られています 原子間の結合がどのような過程を経て壊れたり再生したりするのかを解明することは 物質の光 電場制御などの新機能の探索や 光 電場による破壊などの物性評価を行う上でとても重要になります ところが 原子のサイズは非常に小さいためその動きは非常に高速であり 結晶構造を形成する原子結合の変化をリアルタイムで捉えるのは これまでの一般的な実験手法では困難とされてきました このような背景のもと 近年では極めて短い時間幅 (10-13 秒程度 ) のパルスをもつレーザーとその周辺技術の飛躍的な進歩により 非平衡状態における物質の構造変化をストロボ撮影のようにして直接観測する手法が開発されてきました < 研究の内容 > 本研究では ドイツ ハンブルクにあるマックスプランク研究所の R. J. Dwayne Miller グループとの共同研究により 時間分解電子線回折を用いてイリジウムダイテルライド (IrTe 2 ) の結晶構造のダイナミクスを調べました ( 図 1 2) IrTe 2 はイリジウム原子同士が非常に強く結合し それにより 250 ケルビン (-23 ) 以下の低温において元々の結晶周期とは異なる新しい周期の構造 ( 超構造と呼びます ) が重畳して形成される興味深い物質です この超構造を反映して 図 1の左 ( 室温 ) と右 ( 低温 ) を比べることにより 結晶の回折像に大きな違いが出ていることがわかります ここで用いた時間分解電子線回折とは パルスレーザーを電子銃に照射することによりパルス電子ビームに変換し これを用いて試料の電子線回折像をストロボ撮影することにより結晶構造の動的な情報を調べることのできる手法です 時間分解電子線回折により IrTe 2 の結晶構造の時間変化を調べた結果 他の物質群ではこれまで報告されたことのない約 200 フェムト秒 (1 フェムト秒 =10-15 秒 ) という超高速の原子の位置変化 ( 原子変位 ) が光照射の直後に生じる様子を直接観測することに成功しました ( 図 2) これは イリジウムの原子結合に由来する超構造が超高速で崩壊し 再構成されることを意味しています 更に 時間分解光学測定 ( 注 3) により得られる電子構造の情報及び 密度汎関数法 ( 注 4) による解析を組み合わせて考察を行うことにより この原子結合に寄与するイリジウムの特定の電子軌道 (d xy 軌道 ) が光励起により直接変調されることで 超高速な原子変位が引き起こされる新しいメカニズムを提唱しました < 社会的意義 今後の予定 > 本研究により 光励起 ( れいき ) により超高速で結晶構造を別の状態へ切り替えることができる超高速スイッチングや原子結合の光制御などに向けた応用展開の可能性が期待されます また報告されている研究例が少ないこともあり 今後は 他の物質群でも電子と原子がどのように密接に関連し特徴的な物性を示すか研究を進めていくことが重要です 本研究を礎に 物質の隠されたダイナミクスをより詳細に調べることで 今後の物質科学を大いに発展させていくことが期待されます

5. 発表雑誌 : 雑誌名 :Science Advances( 米国時間 7 月 27 日にオンライン版掲載予定 ) 論文タイトル :Ultrafast Dissolution and Creation of Bonds in IrTe2 Induced by Photodoping 著者 : S. Ideta, D. Zhang, A. G. Dijkstra, S. Artyukhin, S. Keskin, R. Cingolani, T. Shimojima, K. Ishizaka, H. Ishii, K. Kudo, M. Nohara, and R. J. Dwayne. Miller DOI 番号 :10.1126/sciadv.aar3867 アブストラクト URL:http://advances.sciencemag.org/content/4/7/eaar3867 6. 注意事項 : 日本時間 7 月 28 日 ( 土 ) 午前 3 時 ( 米国東部夏時間 :7 月 27 日 ( 金 ) 午後 2 時 ) 以前の公表は禁じられています 7. 問い合わせ先 : 分子科学研究所極端紫外光研究施設助教出田真一郎 ( いでたしんいちろう ) ( 研究当時 : 東京大学大学院工学系研究科日本学術振興会特別研究員 ) TEL:0564-55-7203 理化学研究所創発物性科学研究センター研究員下志万貴博 ( しもじまたかひろ ) ( 研究当時 : 東京大学大学院工学系研究科助教 ) TEL:048-462-1111 東京大学大学院工学系研究科教授石坂香子 ( いしざかきょうこ ) TEL:03-5841-6849 岡山大学異分野基礎科学研究所教授野原実 ( のはらみのる ) TEL:086-251-7828 8. 用語解説 : ( 注 1) 時間分解電子線回折法電子線回折法とは 結晶に入射した電子ビームがその周期性を反映し生成する回折パターンを解析することにより 物質の結晶構造 ( 対称性や格子定数 ) を理解することができる手法である 時間分解電子線回折法は パルス状の電子ビームとレーザーパルスを互いの時間差を変えながら試料に入射し その都度回折像を得る手法である レーザーパルスの照射により変化する物質の結晶構造を 時々刻々と変化する回折像から捉えることができる

( 注 2) 電子軌道電子軌道は量子力学において波動関数で記述され 原子核周りの電子がどの位置にどれぐらいの確率で存在するかの分布として模式的に表される その形状に応じて s p d 軌道などと分類される IrTe 2 ではイリジウムの d 軌道とテルルの p 軌道が主な役割を果たしている ( 注 3) 時間分解光学測定物質の光反射率や光透過率の時間変化を調べる手法 試料を励起するレーザーパルスと光学測定を行うレーザーパルスとの時間差を変えながらストロボ撮影を行うことにより 主に電子状態の時間変化に関する情報を得ることができる ( 注 4) 密度汎関数法電子系のエネルギーを電子密度から計算する手法 分子や固体などにおける電子集団の状態や性質を調べるために用いられる汎用的な量子力学の手法である 9. 添付資料 : 図 1: 室温における電子線回折法で観測した回折像 ( 左 ) と低温で測定した回折像 ( 右 ) 低温で得られたイメージでは 白矢印で示されるように超構造を反映した 4 つの回折像が観測されている

図 2: 時間分解電子線回折法による超高速原子変位の観測 電子線回折像の強度変化を光励起されてからの時間でプロットした図を示している (A B) 横軸はピコ秒(ps:10-12 秒 ) で示している C イリジウム原子結合 (Ir-Ir 原子間の太線 ) が光励起により崩壊し再構成される過程を時間に対して示した模式図