また 被害拡大の速度も速く 防除を怠ると くり園周辺の広葉樹林にも容易に被害が広がる (2) 発生消長平成 24 年 岩手県一関市で行った粘着板による調査では 1 齢幼虫の発生は 7 月 10 月の年 2 化であった (3) 防除試験マシン油乳剤やDMTP 乳剤による防除が知られているが 平成 24

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現行見直し案見直し理由等 カラス 被害時期 : 通年 ニホンザル 被害対象 : 農作物全般への食害 農業施設へ被害 生活環境被害 ヒヨドリ 被害時期 : 通年 アナグマ 被害対象 : 果樹への食害 被害対象 : 農作物全般への食害 ハクビシン 被害対象 : 農作物全般への食害 住居侵入による生活環境

Transcription:

モスピラン顆粒水溶剤によるくり害虫の防除試験 岩手県農林水産部森林整備課小澤洋一 Yoichi Ozawa はじめに平成 24 年から平成 25 年にかけて 図らずも くり の害虫の防除試験の機会を得ることができた 筆者は 森林害虫の研究担当者 ( 試験当時 ) であり マツノマダラカミキリの防除試験は行ったことはあっても 果樹の害虫に関する知識はほとんど持ち合わせおらず 落葉果樹 と分類されることも初めて知った 一方 東北地方では 平成 15 年の山形県を皮切りに カツラマルカイガラムシの被害が各県に拡大しており 筆者が在住する岩手県では平成 21 年に初確認 以後 被害は 北上盆地を中心に爆発的に拡大していた 被害地域では 8 月から9 月にかけて 落葉広葉樹林が真っ赤になった 被害樹種中でも くり は症状 ( 葉枯れや枝枯れ ) の進行が速く くり園や 農家の裏庭のくりが次々と枯れていった このような状況下 当時は 防除技術の確立に頭を悩ませる日々が続いていて 樹幹注入でカイガラムシ防除に成功したアセタミプリドを材料に試験を 写真 1. カツラマルカイガラムシ 行えるのは願ってもないことだった 本稿では そのような機会を頂いたお礼も兼ねて アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤 ( モスピラン ) による カツラマルカイガラムシ クリシギゾウムシ クリミガ モモノゴマダラメイガの防除試験について紹介する 落葉果樹 初心者なので 間違いや不足があると思うがご容赦願う 1 カツラマルカイガラムシ被害の防除 (1) 岩手県の被害状況平成 21 年 くりの重要害虫として知られるカツラマルカイガラムシ (Comstockaspis macroporana (TAKAGI, 1905) 以下カツラマルという )( 写真 1) による森林等の被害が初めて確認された 被害は北上盆地を中心に コナラ林やくり園で同時多発的に確認され 以後 広域に拡大し 数年後には数千 haに及んだ 落葉広葉樹の中でもくりは最も症状が激しく 被害木は 枝先から枯れ下がり 胴吹き ( 写真 2) と呼ばれる異様な樹形に至り 枯死を免れたとしても 果実の生産はほぼ不可能となる 写真 2. くりの胴吹き 矢印は成虫 丸印は歩行する 1 齢幼虫 22

また 被害拡大の速度も速く 防除を怠ると くり園周辺の広葉樹林にも容易に被害が広がる (2) 発生消長平成 24 年 岩手県一関市で行った粘着板による調査では 1 齢幼虫の発生は 7 月 10 月の年 2 化であった (3) 防除試験マシン油乳剤やDMTP 乳剤による防除が知られているが 平成 24 年 岩手県一関市の圃場において アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤 ( モスピラン ) によ る防除試験を行った 31 年生のくり ( 丹沢 ) を供試木として 7 月 18 日に 同剤 4,000 倍液を散布し 8 月 2 日に 枝への定着数を調査した結果 対照薬剤とほぼ同等の高い防除効果が認められた ( 表 1) さらに その後の経過を観察では 無処理区では樹冠全体に葉枯れや枝枯れが生じたのに対し アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤 ( モスピラン ) の処理区は健全を保ち その差は目に見えて明らかだった 表 1. アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤の散布によるカツラマルカイガラムシに対する防除効果 写真 3. アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤処理区 (9 月下旬 ) 写真 4. 無処理区ほぼ全ての葉が萎れた (9 月下旬 ) 23 農薬時代第 196 号 (2015)

2 くり果実害虫の防除 (1 ) クリシギゾウムシ平成 24 年 岩手県紫波郡矢巾町の圃場で 18 年生のくり ( 筑波 ) を供試木として クリシギゾウムシの防除試験を行った 果実肥大期の8 月 28 日に散布し 32 日後に収穫し室内で31 日間保管した後 被害果と健全果の数を調査した アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤 ( モスピラン ) の 2,000 倍 4,000 倍散布とも 無処理区に対し 高い防除効果が認められ 対照薬剤に比べ被害化率は低かった ( 表 2 ) 被害果率は2,000 倍区の平均が20.0% 4,000 倍区で 18.3% と 比較的高い値となったのは 試験区が 少なくとも 10 年以上は放置され クリシギゾウムシの生息密度が高まっていたと推察されること 同種の発生消長に関する正確なデータを持ち合わせておらず 散布適期であったかに疑問が残ること 散布を1 回に留めたことなどが原因と考えている 林業研究機関の試験圃場であり 果樹生産に関する管理は実施されておらず 試験の実施に際しては 背丈ほどのススキの刈り払い 収穫期には 毎晩クマが訪れ 果実の食害により試料の確保が危ぶまれるなど 思わぬ苦労をさせられた (2) クリミガとモモノゴマダラノメイガ平成 25 年は 前年クリシギゾウムシの試験を行った圃場で クリミガとモモノゴマダラノメイガを対象とした防除試験を行った 両種についても 発生消長に関するデータを持ち合わせいなかったので 防除適期のズレを軽減するよう 8 月 21 日と2 週間後の9 月 6 日の2 回散布し 9 月 26 日に樹状の毬果を収穫 モモノゴマダラノメイガは同日 クリミガは 10 月 24 日に食害状況を調査した 2,000 倍液は モモノゴマダラノメイガでは 無処理区と比較し高い防除効果 クリミガでは 効果はやや劣るもの実用的と判断された ( 表 3 4) 4,000 倍液は 両種とも実用性については認められるものの 2,000 倍液に比べると防除効果は低いと判断された ( 表 3 4) ところで 筆者の仕事は 松くい虫やナラ枯れといった 樹木類の穿孔性害虫の分類や食痕の判別の経験はある程度あったが くり果実の害虫を扱うのは初めてで 果たしてクリミガとクリシギゾウムシの幼虫の脱出孔を見分けられるのか不安であった しかし幸か不幸か 管理されていない圃場では両種が多いに繁殖しており 収穫翌日から 果皮を食い破って出てくる幼虫をつぶさに観察することができた ほどなく 脱出孔を見るだけで いずれの種か判別できるようになった クリシギゾウムシの脱出孔がきれいな真円なのに対し クリミガの脱出孔はやや楕円で小さく 周縁部にわずかなバリが残るのが特徴だった 調査は ( 日植防の締切りがあるので )10 月 24 日に打ち切ったが 一部試料は観察を続けた 両種の幼虫の脱出は 12 月近くまで続き 無処理区に至っては 最終的な被害果率が 90% を超えた 表 2. アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤の散布によるクリシギゾウムシに対する防除効果 24

また 果実と幼虫の分離に用いた食器用水切りカゴには 連日 おびただしい数の幼虫が落下し これらは 息子の川釣りの恰好の餌となった 本来は 定期的な防除により 害虫の密度を下げるべきであろうが 複数種が多発生する圃場というのも 試験材料としては有用なのかもしれない 表 3. アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤の散布によるクリミガに対する防除効果 表 4. アセタミプリド 20% 顆粒水溶剤の散布によるモモノゴマダラノメイガに対する防除効果 写真 5. 試験地 写真 6. モモノゴマダラノメイガの被害果 正面のくりはクマによって右の枝が折り曲げられている 25 農薬時代第 196 号 (2015)

おわりに岩手県のくり生産は 農林水産省の作物統計 ( 平成 25 年度 ) の結果樹面積を見ても 全国平均の 462haに対し 200haと中位から低位にあり 大規模な生産者は少なく 自家消費用に 農家の周辺で小規模で栽培している事が多いようである おそらく 主要害虫に対する防除もあまり行われていないと思う 一方 岩手県では カツラマルカイガラムシの被害が拡大しつつあり 被害地域では 原因も対処法も知られず 次々にくりが枯れている 異変に気付いた時には防除適期を逸し 手遅れの場合が多い しかし たとえ小規模な自家消費用であっても 家人にとっては大切な財産であり 秋の収穫を楽しみにしているのである このような農家には 本剤を是非活用して欲しいと思う 実は 農家の倉庫には 既に本剤が眠っていることが少なくなく 防除方法さえ知っていれば 動噴等 農家が普通に持っている機材で容易に防除することができる メイガ類やクリシギゾウムシ アブラムシ等の防除にも使えるので とりあえず 本剤があれば 主要なくり害虫の防除は可能であり 他の作物への使用も考えれば経済的であると思う 林業関係者としては カツラマルカイガラムシの広葉樹被害への活用を検討したが 広大な面積に毎年散布する必要を考えると コスト 散布方法等の問題が大きく現時点では難しいと考えている 26