大学図書館の現状と課題 平成 29 年度大学図書館職員短期研修 ( 京都大学会場 ) 平成 29 年 10 月 3 日京都大学附属図書館米澤誠 1
短期研修の目的 はじめに 大学図書館等の活動を活性化するため 今後の図書館の企画 活動を担う要員となる上で必要な 基礎知識 最新知識を修得 この講義の概要 2 大学図書館のあるべき姿に向かうため 組織としてどのような目標付けを行うべきなのか 参考とすべき施策資料 : 学修環境充実のための学術情報基盤の整備について ( 審議まとめ ) (H25.8) 学術情報のオープン化の推進について ( 審議まとめ ) (H28.2) 等 管理職から見た現状と課題
本日の内容 1. 大学図書館 : その目的と機能 2. 現状 : 大学図書館をめぐる大きな変化 各種統計に見る変化 国の施策に見る動向 3. 課題 : 国立大学図書館協会ビジョン 2020 の枠組みから 重点領域 1: 知の共有 3 重点領域 2: 知の創出 重点領域 3: 新しい人材 近年の大きな変化と それに対する取組み状況全体を概観する そのことで 本講以降の各論の理解の一助とする
1.1 大学の目的と機能 教育基本法 第七条大学は 学術の中心として 高い教養と専門的能力を培うとともに 深く真理を探究して新たな知見を創造し これらの成果を広く社会に提供することにより 社会の発展に寄与するものとする 学校教育法 第八十三条大学は 学術の中心として 広く知識を授けるとともに 深く専門の学芸を教授研究し 知的 道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とする 2 大学は その目的を実現するための教育研究を行い その成果を広く社会に提供することにより 社会の発展に寄与するものとする 大学の機能は 1 教育 2 研究 3 社会貢献 4
1.2 大学図書館の目的と機能 大学図書館が有する資料 学術情報 施設 設備 ( ファシリティ ) 職員というリソースを使い 大学の目的 機能の実現を支援する組織 (1) 教育支援 - 教育 学習用資料の整備 - 学習支援のための教育 ( 情報リテラシー教育 ) - 多様な学習ニーズに応えられる施設 設備 ( ファシリティ ) 提供 (2) 研究支援 - 研究用資料の持続的 安定的整備 ( 近年は特に電子ジャーナル DB 等 ) - 研究成果の生産 発信支援 ( 機関リポジトリ オープンアクセス等 ) (3) 社会貢献 - 所蔵資料展示 市民公開 - 地域連携 教育 研究を直接行うというよりも 支援 という位置づけ 5
1.3 大学図書館の機能概念図 必要な資料 社会 大学の状況 特色により必要な資料は異なる 大学 教育研究社会貢献 学部 大学院 研究所 センター 病院 事務 大学の状況 特色 図書館 により利用者への 学内規則 提供方策も異なる 収集 整理 保存 提供 利 ( その他 各大学が規定する固有の機能 ) 用 大学設置基準収集 整理 備える 提 供 者 情報処理 情報提供システムの整備, 必要な専門的職員等, 適当な規模の施設設備等, 他の大学図書館等と協力 6
2.1 大学図書館の変化 : この 30 年の動向 百万件 NACSIS-CAT 登録件数 ILL 件数の推移と大学図書館の重要キーワード ラーニングコモンズ オープンアクセス 機関リポジトリ 電子図書館 電子ジャーナル EJ の普及後は ILL が減少傾向 NACSIS-CAT/ILL Webcat の開始 共有資源のデータ ( 主に冊子 ) は着実に増加 10 年 20 年 30 年 7 前半 : 業務システム内での展開 後半 : 業務システム外での展開
2.2 資料の変化 : 資料購入費 ( 全体 ) ラーニングコモンズの広まり 冊子価格に含まれる形で EJ の導入開始 電子リソースの急増 図書資料の激減 8
2.2 資料の変化 : 図書冊数 (1 大学あたり ) 図書資料 ( とりわけ洋書 ) の減少 9
2.3 資料の変化 : 資料整備的観点からの概況 電子資料の急激な普及 学術雑誌の紙雑誌から電子ジャーナルへの急速な転換 電子書籍の広がり 紙資料の 所蔵 所有 から 電子資料への アクセス へ アクセスの保障 からは 機能論としての図書館 安定的な契約 ICT 環境等の維持 契約上の大きな課題 : 円安 消費税 課税 電子資料の整備, 組織化, サービス 新たな業務 ERDB RDA 教材 研究データのメタデータ化 オープンアクセス誌の扱い オープンアクセスポリシーからの業務 10
2.4 資料の変化 : 利用的観点からの概況 資料の粒度 : 図書 雑誌レベルから 論文レベル 図表 データレベルに 紙資料と電子資料の併存 紙資料と電子資料を併用 多様なアクセス 紙資料と電子資料の統合的利用の環境整備 図書館は要らない からは 施設論としての図書館 電子化時代の教育学習空間 研究空間の創出 ラーニングコモンズ 学部等での空間創出 電子資料 図書館での高集密所蔵 11
2.3 教育と場の変化 : アクティブ ラーニング スペースの増加 平成 29 年度大学図書館職員短期研修 この 5 年間で 3 倍に増加 国立大はほぼ完了 * 部科学省 学図書館実態調査 / 学術情報基盤実態調査による 12
2.3 教育と場の変化 : 学習 研究サポートの内訳 平成 29 年度大学図書館職員短期研修 ファシリティの整備だけではなく 学習支援サービスの強化も進行中 * 部科学省 学図書館実態調査 / 学術情報基盤実態調査による 13
2.3 教育と場の変化 : 概観 ラーニング コモンズ整備のノウハウ共有 新築 増改築以外での実現方法 ラーニング コモンズの評価 改善の手法 アクティブラーニングへの関与の仕方 学習支援としての情報リテラシー教育 図書館員としてのテリトリー ラーニング コモンズでの学習支援の方策 初年次教育との連携 協力 14
2.4 職員の変化 : 職員数の推移 一方職員は 専任の割合が減少 15
2.4 職員の変化 : 業務別比率 30 年間に変わったこと 整理業務の比率が減少 受入業務は変わっていない 全般業務が増加 専任職員に限定すると 管理職が増加 整理業務 閲覧業務 ( 現場 ) の比率が減少 全般業務は増加 尾城孝一 国立大学図書館の現状と課題 平成 28 年度大学図書館職員長期研修講義資料 http://hdl.handle.net/2241/00143604( 参照 2016.9.9) 16
2.4 職員の変化 : 外部委託 ( 全面 ) の推移 5 年前から 継続的に増加 17
2.5 国の施策の変化 : 社会の変化 18 歳人口の減少と大学進学率の向上 ( ユニバーサル化 ) 18 歳人口の減少 大学進学率の向上と入学者の多様化 初年次教育 情報リテラシー アクティブラーニングの重要性 国際化 ( グローバル化 ) の進展 社会や研究だけでなく, 大学教育も オープンアクセス オープンサイエンスへの取組み 国の財政 大学の財政基盤 厳しさを増す財政状況 電子ジャーナル等の電子リソース整備の課題 業務の外部化 ( 業務委託 派遣の増加 ) 雇用の非正規化 社会の情報化 ICT の普及 組織力の維持 強化 人材育成の課題 18
2.5 国の施策の変化 (1) 平 23.8 第 4 期科学技術基本計画 ( 平 23~27) 閣議決定 機関リポジトリの構築推進 オープンアクセス推進 機関リポジトリとオープンアクセスの社会的認知 平 24.7 学術情報の国際発信 流通力強化に向けた基盤整備の充実について科学技術 学術審議会学術情報基盤作業部会 科研費等競争的資金による研究成果のオープンアクセス化への対応 機関リポジトリの活用による情報発信機能の強化について 平 25.8 学修環境充実のための学術情報基盤の整備について ( 審議まとめ ) 科学技術 学術審議会学術分科会学術情報委員会 教育振興基本計画等への対応 コンテンツ 学習空間 人的支援 平 26.7 教育研究の革新的な機能強化とイノベーション創出のための学術情報基盤の整備について-クラウド時代の学術情報ネットワークの在り方 -( 審議まとめ ) 科学技術 学術審議会学術分科会学術情報委員会 アカデミッククラウド 次期 SINET アクティブラーニングとラーニングコモンズの社会的認知 19
2.5 国の施策の変化 (2) オープンアクセスからオープンサイエンス ( 研究データ ) へ 平 28.1 第 5 期科学技術基本計画 ( 平 28~32) に向けた検討 内閣府の総合科学技術 イノベーション会議 文部科学省では科学技術 学術審議会の総合政策特別委員会等 オープンアクセス オープンサイエンス 機関リポジトリ 研究データ 平 28.2 学術情報のオープン化の推進について ( 審議まとめ ) 文部科学省科学技術 学術審議会のもとの学術情報委員会 大学図書館への期待 : 機関リポジトリの経験を活用 人材育成 機関リポジトリ等を通じたオープンアクセスの取組を一層促進 データキュレーター等を育成するプログラムを開発 実践 データを選び出し 修復し 組み合わせることも含めて分析する 著作権処理に負担を感じさせずに利活用できる仕組み 20
3.1 国立大学図書館協会ビジョン 2020 大学図書館の基本理念 大学図書館は 今日の社会における知識基盤として 記録媒体の如何を問わず 知識 情報 データへの障壁なきアクセスを可能にし それらを活用し 新たな知識 情報 データの生産を促す環境を提供することによって 大学における教育研究の進展とともに社会における知の共有や創出の実現に貢献する 21
3.2 ビジョンの重点領域 1: 知の共有 < 蔵書 >を超えた知識や情報の共有 教育研究成果の発信 オープン化と保存 大学間コンソ JPCOAR 大学で生み出される成果の電子的流通とオープン化を推進 長期的な保存も 国大図協組織 オープンアクセス委 出版された資料の整備と利用 JUSTICE 学術資料整備委 紙媒体の蔵書 電子リソースの適切な整備 利用環境の整備 知識や情報の発見可能性の向上 これから委員会学術情報システム委 学術情報システム基盤の高度化により 必要な情報がより効率的 網羅的に発見できる環境を実現 22
3.3 ビジョンの重点領域 2: 知の創出 新たな知を紡ぐ < 場 > の提供 知を創出する場の拡大 整備 提供 学習を促す場 図書館環境高度化委 研究を支援する場 図書館の外への拡張 社会に開かれた知の創出 共有空間の提供 学術コミュニティに限らず様々な人々が知を媒介に集い 知の創出 共有を実現する場 23
3.4 ビジョンの重点領域 3: 新しい人材 知の共有 創出のための< 人材 >の構築 新たな人材の参画 教員 学生等様々な能力とスキルを有する人々と図書館職員とが一体となり 新たな機能を提供 国立大学図書館職員の資質向上 これまで培ってきた学術資料に関する専門的知識やメタデータ運用スキルに加え 新たな知識やスキルの習得により 新たな機能を実現 24
4 三つのレベルでの課題解決 コンソーシアム活動の継続と強化 ( 国レベル ) 大学図書館と NII との連携 協力 大学図書館コンソーシアム連合 (JUSTICE) などの活動 学術情報資源共有 ( リソース シェアリング ) の再構築 コンソーシアム活動が活発なことが大学図書館の特色 JUSTICE JPCOAR これから委員会 25
学図書館と国 情報学研究所との連携 協 体制 NII 国公私 学図書館協 委員会 学図書館と国 情報学研究所との連携 協 推進会議 助 / 報告 オープンアクセスリポジトリ推進協会 (JPCOAR) 学図書館コンソーシアム連合 (JUSTICE) 役割 : 協定書運営委員会 (1),(4),(5) これからの学術情報システム構築検討委員会 役割 : 協定書 (3),(4),(5) 役割 : 協定書 (2),(4),(5) 26 交渉作業部会 調査作業部会 広報作業部会 電 リソースデータ共有作業部会 NACSIS- CAT 検討作業部会 協定書 (1) バックファイルを含む電 ジャーナル等の確保と恒久的なアクセス保証体制の整備 (2) 機関リポジトリを通じた 学の知の発信システムの構築 (3) 電 情報資源を含む総合 録データベースの強化 (4) 学術情報の確保と発信に関する 材の交流と育成 (5) 学術情報の確保と発信に関する国際連携の推進
大学図書館コンソーシアム連合 (JUSTICE) 連携の枠組み 国立情報学研究所 大学図書館と国立情報学研究所との連携 協力推進会議 大学図書館コンソーシアム連合 ( JUSTICE ) ( 事務局 ) 図書館連携 協力室 (3 名 ) 運営委員会 (15 名 ) 出向 * 平成 29 年度の出向は東大 北海道大 立命館大から 委員 * 533 館会員館会員館会員館 国公私立大学図書館協力委員会 国大図協公大図協私大図協 交渉作業部会委員調査作業部会委員広報作業部会委員 * 作業部会委員 協力員は 34 名 会員館 会員館 27
4 三つのレベルでの課題解決 コンソーシアム活動の継続と強化 ( 国レベル ) 大学図書館と NII との連携 協力 大学図書館コンソーシアム連合 (JUSTICE) などの活動 学術情報資源共有 ( リソース シェアリング ) の再構築 活動の土壌 活動支援 個々の図書館活動の拡充 ( 大学レベル ) オープンアクセス 機関リポジトリなどの研究支援 ラーニング コモンズ 学生協働などの教育 学習 相互に協力して高めあっているのが大学図書館の特色 28
4 三つのレベルでの課題解決 コンソーシアム活動の継続と強化 ( 国レベル ) 大学図書館と NII との連携 協力 大学図書館コンソーシアム連合 (JUSTICE) などの活動 学術情報資源共有 ( リソース シェアリング ) の再構築 活動の土壌 活動支援 個々の図書館活動の拡充 ( 大学レベル ) オープンアクセス 機関リポジトリなどの研究支援 ラーニング コモンズ 学生協働などの教育 学習支援 活動の中核 研修支援 職員のスキルアップ ( 個人レベル ) 29 大学図書館界にとどまらない近隣領域との交流 ( 越境学習 ) 機会が豊富 多様なスキルアップ機会があることが図書館界の特色