れていない 遺伝子改変動物の作製が容易になるなどの面からキメラ形成できる多能性幹細胞 へのニーズは高く ヒトを含むげっ歯類以外の動物におけるナイーブ型多能性幹細胞の開発に 関して世界的に激しい競争が行われている 本共同研究チームは 着床後の多能性状態にある EpiSC を着床前胚に移植し 移植細胞が

Similar documents
( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

た遺伝子を切断し修復時に微小なエラーを生じさせて機能を破壊するノックアウトと 外部か ら任意の配列を挿入して事前設計した通りの機能を与えるノックインに大別される 外来遺伝 子をもった動物の作成や遺伝子治療には後者の技術が必要である しかし 動物胚への遺伝子ノックインには マイクロインジェクション法

平成18年3月17日

資料3-1_本多准教授提出資料

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

1. 背景生殖細胞は 哺乳類の体を構成する細胞の中で 次世代へと受け継がれ 新たな個体をつくり出すことが可能な唯一の細胞です 生殖細胞系列の分化過程や 生殖細胞に特徴的なDNAのメチル化を含むエピゲノム情報 8 の再構成注メカニズムを解明することは 不妊の原因究明や世代を経たエピゲノム情報の伝達メカ

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

STAP現象の検証の実施について

PowerPoint プレゼンテーション

長期/島本1

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

STAP現象の検証結果

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. 発表者 : 山田泰広 ( 東京大学医科学研究所システム疾患モテ ル研究センター先進病態モテ ル研究分野教授 ) 河村真吾 ( 研究当時 : 京都大学 ips 細胞研究所 / 岐阜大学

資料 4 生命倫理専門調査会における主な議論 平成 25 年 12 月 20 日 1 海外における規制の状況 内閣府は平成 24 年度 ES 細胞 ips 細胞から作成した生殖細胞によるヒト胚作成に関する法規制の状況を確認するため 米国 英国 ドイツ フランス スペイン オーストラリア及び韓国を対象

背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

細胞老化による発がん抑制作用を個体レベルで解明 ~ 細胞老化の仕組みを利用した新たながん治療法開発に向けて ~ 1. ポイント : 明細胞肉腫 (Clear Cell Sarcoma : CCS 注 1) の細胞株から ips 細胞 (CCS-iPSCs) を作製し がん細胞である CCS と同じ遺

スライド 1

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

<4D F736F F D C668DDA94C5817A8AEE90B68CA45F927D946791E58BA493AF838A838A815B83585F8AB28DD79645>

背景ヒトを含むほとんどの哺乳類は性染色体によってその雌雄が決定されます 性染色体はX 染色体とY 染色体から成り 性染色体がXX 型ならばメスが XY 型ならばオスが生じます つまりY 染色体 ( の遺伝子 ) があるか否かでメスになるかオスになるかが決定します しかしながら Y 染色体は進化の過程

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

学報_台紙20まで

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

<4D F736F F D208DC58F4994C581798D4C95F189DB8A6D A C91E A838A838A815B83588CB48D EA F48D4189C88

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

動物性集合胚を用いた研究の 意義と倫理的課題

資料 3-1 CREST 人工多能性幹細胞 (ips 細胞 ) 作製 制御等の医療基盤技術 平成 20 年度平成 21 年度平成 22 年度 10 件 7 件 6 件 進捗状況報告 9.28,2010 総括須田年生

<1. 新手法のポイント > -2 -

2013年9月8日:関東医学哲学・倫理学会総合部会 「ヒトの要素をもつ動物を作成することは どこまで許されるのか?」 human-nonhuman chimeras, mixtures, interspecies, part-human chimeras, animals containing human material等

資料110-4-1 核置換(ヒト胚核移植胚)に関する規制の状況について

PowerPoint プレゼンテーション

2

<4D F736F F F696E74202D2097D58FB08E8E8CB1838F815B834E F197D58FB E96D8816A66696E616C CF68A4A2E >

研究成果報告書

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

平成 28 年 2 月 1 日 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦至 ( なつめあつし ) 准教授 及び東北大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 下瀬川徹

報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

Microsoft Word - 【最終】リリース様式別紙2_河岡エボラ _2 - ak-1-1-2

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 7 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 生殖細胞の誕生に必須な遺伝子 Prdm14 の発見 - Prdm14 の欠損は 精子 卵子がまったく形成しない成体に - 種の保存 をつかさどる生殖細胞には 幾世代にもわたり遺伝情報を理想な状態で維持し 個体を

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

植物が花粉管の誘引を停止するメカニズムを発見

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

2. 研究の背景関節軟骨は 骨の端を覆い 腕や膝を曲げた時などにかかる衝撃を吸収する組織です 正常な関節軟骨は硝子軟骨と呼ばれます 私達の日常動作のひとつひとつを なめらかに行うためにも大切な組織ですが 加齢に伴ってすり減ったり スポーツや交通事故などの怪我により損傷をうけると 硝子軟骨が線維軟骨注

2012 年 6 月 独立行政法人理化学研究所 住友化学株式会社 ヒト ES 細胞から立体網膜の形成に世界で初めて成功 - 網膜難病の治療や原因解明の研究を飛躍的に加速 - 本研究成果のポイント ヒト ES 細胞の自己組織化培養で胎児型の眼 眼杯 の形成に成功 視細胞や神経節細胞などを含むヒト立体網

Establishment and Characterization of Cynomolgus Monkey ES Cell Lines

Microsoft Word - all_ jp.docx

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

Microsoft Word 「ERATO河岡先生(東大)」原稿(確定版:解禁あり)-1

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

Microsoft Word - 日本語解説.doc

小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

( 樹立の用に供されるヒト胚に関する要件 ) 第 6 条第 1 種樹立の用に供されるヒト受精胚は 次に掲げる要件を満たすものとする 一生殖補助医療に用いる目的で作成されたヒト受精胚であって 当該目的に用いる予定がないもののうち 提供する者による当該ヒト受精胚を滅失させることについての意思が確認されて

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

Gene Therapy for chronic glomerulonephritis

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

Microsoft Word CREST中山(確定版)

<4D F736F F F696E74202D2097CE93E08FE188EA94CA8D EF D76342E B8CDD8AB B83685D>

本件に関する問い合わせ先 ( 研究内容について ) 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所技術安全部生物研究推進課主任研究員塚本智史 TEL: FAX: 千

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

PowerPoint プレゼンテーション

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

科学6月独立Q_河本.indd

<4D F736F F D F D F095AA89F082CC82B582AD82DD202E646F63>

背景 近年, コンピューター, タブレット, コンタクトレンズなどの使用増加に伴い, 国民の約 10 人に 1 人がドライアイだと言われています ドライアイの防止に必要な涙 ( 涙液 ) は水だけでできていると思われがちですが, 実は脂質層 ( 油層 ), 水層, ムチン層の三層で形成されています

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

生物の発生 分化 再生 平成 12 年度採択研究代表者 小林悟 ( 岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター教授 ) 生殖細胞の形成機構の解明とその哺乳動物への応用 1. 研究実施の概要本研究は ショウジョウバエおよびマウスの生殖細胞に関わる分子の同定および機能解析を行い 無脊椎 脊椎動物に

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

今日のご報告内容 1. キメラとは 2. ヒトと動物のキメラに関する概念整理 3. 日本におけるヒトと動物のキメラに関する規制状況 4. イギリスにおけるヒトと動物のキメラに関する規制状況 5. ヒトと動物のキメラをめぐる倫理的問題 6. ヒトと動物のキメラ研究に関する今後の検討課題 2

icems ニュースリリース News Release 2009 年 12 月 11 日 京都大学物質 - 細胞統合システム拠点 ips 細胞研究を進めるための社会的課題と展望 - 国際幹細胞学会でのワークショップの議論を基に - 加藤和人京都大学物質 - 細胞統合システム拠点 (icems=アイセ

九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(慢性重症虚血肢(閉塞

Microsoft Word - HP用.doc

<4D F736F F D208DC58F498F4390B D4C95F189DB8A6D A A838A815B C8EAE814095CA8E86325F616B5F54492E646F63>

研究成果報告書

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

生物時計の安定性の秘密を解明

Untitled

Microsoft Word - 最終:【広報課】Dectin-2発表資料0519.doc

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

Microsoft Word 部会報告書.doc

title

Microsoft PowerPoint - 4_河邊先生_改.ppt

Transcription:

ES 細胞よりも分化が進んだ前駆細胞から特定の組織に限定したキメラを作製する手法の開発 1. 発表者 : 中内啓光 ( 東京大学医科学研究所附属幹細胞治療研究センター幹細胞治療分野教授 ) 正木英樹 ( 東京大学医科学研究所附属幹細胞治療研究センター幹細胞治療分野助教 ) 2. 発表のポイント : 着床後の多能性状態にあるエピブラスト幹細胞 (EpiSC 注 1) は 着床前の胚に移植した 場合にはキメラ ( 注 2) を形成できないが その原因として移植後に速やかに細胞死 ( ア ポトーシス 注 3) が起こることが関係していることを見出した 今回 EpiSC や さらに分化の進んだ内胚葉系前駆細胞 ( 注 4) を用い それらの細胞に アポトーシス阻害因子を強制発現させ 着床前の胚との間にキメラを形成させることに成功した この成果は ナイーブ型多能性幹細胞 ( 注 5) を用いなくてもキメラ動物作製が可能にな ること 前駆細胞を用いれば目的以外の臓器形成を回避できることから生命倫理的な懸念 ( 注 6) の解消につながることなど 動物体内でのヒト臓器作製の実現化に大きく貢献す る 3. 発表概要 : 東京大学医科学研究所の中内啓光教授 正木英樹助教とスタンフォード大学の共同研究チー ムは アポトーシスを阻害することによって ヒト ES 細胞 /ips 細胞と同じ着床後多能性状態 にあるとされるマウスおよびラットの EpiSC さらにより分化の進んだマウス内胚葉系前駆細 胞を用いてマウス着床前胚との間にキメラを作製することに成功した これまで中内教授らのグループは ES 細胞 /ips 細胞からの動物体内での臓器作製に取り組んで来たが 今回の成果と組み合わせることで ナイーブ型多能性幹細胞を用いなくてもキメラ 動物作製が可能になる 目的以外の臓器形成を回避できることから生命倫理的な懸念の解消に つながるなど 動物体内での移植可能なヒト臓器作製の実現可能性が大きく高まった 本研究は 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) の革新的先端研究開発支援事業 インキュベートタイプ (LEAP) における研究開発課題 発生原理に基づく機能的立体臓器再 生技術の開発 ( 研究開発代表者 : 中内啓光 ) ならびに国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) の戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 中内幹細胞制御プロジェクト ( 研究総括 : 中内啓光 平成 24 年度終了 ) の一環として行われた 本研究成果は 11 月 3 日付の科学雑誌 Cell Stem Cell のオンライン版に掲載される 4. 発表内容 : ES 細胞 /ips 細胞といった多能性幹細胞は 相当する発生段階が子宮に着床する前か 着床後かで大きく性質が異なることが知られている ( 図 1) ヒトを含むげっ歯類以外の動物種の ES 細胞 /ips 細胞は着床後段階にあると考えられていて 着床後多能性状態にある細胞を 発 生段階の異なる着床前胚に移植しても キメラ個体は形成されないか ごく低頻度にしか形成 されてこなかった 事実 げっ歯類以外の動物種の ES 細胞 /ips 細胞からはキメラ動物が得ら

れていない 遺伝子改変動物の作製が容易になるなどの面からキメラ形成できる多能性幹細胞 へのニーズは高く ヒトを含むげっ歯類以外の動物におけるナイーブ型多能性幹細胞の開発に 関して世界的に激しい競争が行われている 本共同研究チームは 着床後の多能性状態にある EpiSC を着床前胚に移植し 移植細胞がア ポトーシスによって排除されることを見出した そこで アポトーシス阻害因子を一過性に強 制発現することによってアポトーシスを阻害したところ マウスおよびラットの EpiSC さら により進んだ発生段階にあるマウス内胚葉系前駆細胞をマウスの着床前の胚に移植してもキメ ラ形成することが確認できた ( 図 2) これらのキメラ動物は移植細胞の発生運命に従ったキ メラ状態を示し EpiSC でつくられたキメラは全身の組織がキメラであったのに対し 内胚葉 系前駆細胞でつくられたキメラでは内胚葉由来組織のみがキメラであった 中内教授らの研究グループは胚盤胞補完法という技術を用い ES 細胞 /ips 細胞からの動物体 内での臓器作製に取り組んで来た この方法を用いる際の大きな技術的障壁としては 着床前 の胚と同じ発生段階にあるヒトナイーブ型多能性幹細胞が必要だと考えられてきたが 既報の 樹立法は再現性に乏しいものがほとんどで 未だ評価の確立したヒトナイーブ型多能性幹細胞 株が存在しないことがあった また 仮にヒト - 動物キメラが実現した場合にも 全身に分布したヒト多能性幹細胞からヒトの中枢神経系細胞や生殖細胞がつくられ得るという 生命倫理的 な懸念も存在する 今回発見された アポトーシス阻害によるキメラ形成促進 がヒト多能性 幹細胞および前駆細胞にも応用できるようになれば これらの課題を克服し 動物体内でのヒ ト臓器作製の実現に向け大きな前進となる また げっ歯類以外の動物種の多能性幹細胞に応 用できるようになれば 遺伝子改変動物作製が難しい種においても マウスと同等に容易に作 製できるようになることが期待される また 培養下で分化誘導された細胞が 生理的に充分 かつ正常な機能 性質を有するかを生体内で評価する実験系としても重要であると想定される 5. 発表雑誌 : 雑誌名 : Cell Stem Cell 11 月 3 日付 ( 日本時間 11 月 4 日 ) オンライン版 論文タイトル :Inhibition of apoptosis overcomes stage-related compatibility barriers to chimera formation in mouse embryos 著者 :Hideki Masaki*, Megumi Kato-Itoh, Yusuke Takahashi, Ayumi Umino, Hideyuki Sato, Keiichi Ito, Ayaka Yanagida, Toshinobu Nishimura, Tomoyuki Yamaguchi, Masumi Hirabayashi, Takumi Era, Kyle M. Loh, Sean M. Wu, Irving L. Weissman, Hiromitsu Nakauchi* 6. 注意事項 : 日本時間 11 月 4 日 ( 金 ) 午前 1 時 ( 米国東部時間 :3 日 ( 木 ) 正午 ) 以前の公表は禁じら れています 7. 問い合わせ先 : ( 研究に関する問合せ先 ) 東京大学医科学研究所附属幹細胞治療センター幹細胞治療分野助教正木英樹 ( マサキヒデキ ) 東京都港区白金台 4 6 1 Tel: 03-5449-5129 Email: hmasaki@ims.u-tokyo.ac.jp

(AMED 事業に関する問合せ先 ) 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (AMED) 戦略推進部研究企画課 東京都千代田区大手町 1 7 1 読売新聞ビル 22 階 TEL: 03-6870-2224 Email: kenkyuk-ask@amed.go.jp (JST 事業に関する問合せ先 ) 国立研究開発法人科学技術振興機構研究プロジェクト推進部大山健志 ( オオヤマタケシ ) 東京都千代田区五番町 7 K s 五番町 Tel: 03-3512-3528 Email: eratowww@jst.go.jp 8. 用語解説 : ( 注 1) エピブラスト幹細胞 (EpiSC): マウスまたはラットの着床後胚のエピブラストから樹立される多能性幹細胞 ヒト ES 細胞 /ips 細胞に類似した性質を持つことから 同じ発生段階にあると想定されている ( 注 2) キメラ : ここでは着床前胚と移植された細胞が発生プロセスを経て協調的に個体を形 成することを指す 移植された細胞に由来する細胞と着床前胚由来細胞はパッチ状に分布する のであって 細胞同士が融合するのではない ( 注 3) アポトーシス : 細胞死の一種で 外部刺激などにより積極的に引き起こされる プロ グラムされた細胞死のこと ( 注 4) 内胚葉系前駆細胞 : 内胚葉系前駆細胞は腸管や卵黄嚢になる細胞であり Sox17 を発 現する 本研究においては Sox17 のレポーターシステムを組み込んだ ES 細胞を培養下で分 化誘導し Sox17 を発現している細胞を使用した ( 注 5) ナイーブ型多能性幹細胞 :X 染色体が二本とも活性化している 特有の遺伝子発現プ ロファイルを示す等 着床前段階の多能性細胞である内部細胞塊 (ICM) の特徴を有する多能性 幹細胞を指す 代表例はげっ歯類の ES 細胞 /ips 細胞 ( 注 6) 生命倫理的な懸念 : ヒト細胞を動物胚に移植したものを動物性集合胚と呼ぶ 国内で は米英を含む諸外国に比較して厳格な規制が行われており 動物性集合胚は培養下で最長 14 日間または原腸陥入期までの発生のみが認められている ヒト多能性幹細胞の多能性評価法や 生体内で機能的組織 臓器を作製する等の目的で注目されているが 一方で 動物体内で生殖 細胞や中枢神経細胞が形成されることは避けるのが望ましいというのが現時点でのコンセンサ スである 参考 : http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1676_02.pdf

9. 添付資料 : 図 1. 本研究の概略図 非げっ歯類の ES 細胞 (ESC) に相当するエピブラスト幹細胞 (EpiSC) は 着床前胚に移植してもキメラ形成できないが 細胞死を阻害して移植細胞を生存させると キメラ形成が可能になる さらに発生が進行し多能性を有さない Sox17 を発現する内胚葉系前駆細胞 (Sox17 陽性前駆細胞 ) においても 細胞死阻害によって発生運命に従った内胚葉由 来組織に限定されたキメラ形成が可能になる 破線は着床前胚に移植した結果を示す

図 2. ES 細胞よりも分化が進んだ前駆細胞を細胞死阻害することにより形成されたキメラ個体 (A)-(D) はマウス EpiSC とマウス着床前胚から作製されたキメラマウスについての結果 (G)-(I) はマウス Sox17 陽性内胚葉系前駆細胞から作製されたキメラマウス (E, F) は比較対象として ES 細胞から作製されたキメラマウスを示す (A, C, E, G) は明視野像 (B, F, H) は蛍光像であ る 移植した EpiSC および Sox17 陽性内胚葉系前駆細胞に由来する細胞は赤色蛍光を呈する 一過性に細胞死阻害処理を施された EpiSC はキメラを形成し (A, B) EpiSC 由来キメラマウス は成体まで成長する (C) EpiSC 由来キメラ個体は部分的に黒色の毛色を呈する 細胞死阻害 処理しなかった EpiSC からはキメラは得られなかった (D) BCL2 は細胞死阻害のために強制 発現させた抗アポトーシス因子である ND はキメラ率が 0% であったことを示す ES 細胞由 来のキメラ個体は全身がキメラになるが (E, F) Sox17 陽性前駆細胞由来のキメラ個体は腸管のみがキメラであった (G, H) (I) はこの胎仔から作製した組織切片像 緑が腸管細胞 赤が移 植された Sox17 陽性細胞由来の細胞 白が視野にある全ての細胞の核 ( 腸管細胞とそれ以外の 細胞 ) を示す 移植された細胞は腸管以外の領域には分布していないことが確認できる 白線 は長さ 100 m を示す