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Transcription:

報道関係者各位 平成 29 年 6 月 23 日 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構国立大学法人筑波大学 世界最高精度の放射線測定センサーを開発 本研究成果のポイント 1)SOI 技術を使って 超微細ピクセルの放射線センサーを開発 2) 世界で初めて 1μm 以下の位置測定器精度を達成 3) 素粒子 原子核実験 更には放射光実験での活躍が期待 概要 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 筑波大学 大阪大学 東北大学の SOI ピクセル共同開発研究チームが 世界で初めて 1μm(1000 分の 1mm) 以下という超高精度の位置測定が可能な SOI ピクセルセンサーの開発に成功した 従来のシリコン半導体センサーに比べ 位置測定精度が 1 桁改善 素粒子反応の正確な観測には欠かせない技術となる このセンサーを使った放射線検出器の性能評価の結果が 北京で開かれた国際会議 素粒子物理学のためのテクノロジーと測定器 2017( Technology and Instrumentation in Particle Physics, TIPP2017) で 5 月 23 日に発表された 背景 加速器を使った素粒子実験で 素粒子反応が起きた場所 の正確な観測は研究する上で重要である KEK 測定器開発室では基幹プロジェクトのひとつとして 従来数 μm であった検出器の位置測定精度の大幅な向上を目指して 次世代型検出器 SOI ピクセル技術を使った放射線測定センサー の開発研究を 2005 年に開始した SOI 1 とは Silicon-On-Insulator と呼ばれる半導体技術の略称で CMOS 集積回路デバイスを二酸化ケイ素 (SiO 2 ) の絶縁膜の上に形成する技術だ 従来は CMOS 回路を基板上に直接形成していたが 絶縁膜を挟むことで基板内に流れる漏れ電流が小さくなるため 高機能化や高速化 省電力化が可能となる ( 図 1) SOI ピクセルセンサー 2 は SOI 基板の絶縁膜の下にあるシリコン層にも注目し 厚みをピクセル型放射線検出用に最適化 信号処理用 CMOS 回路と一体化することで微細ピクセル化を実現した これらにより 放射線粒子が生成する信号量を最大化し 電気的ノイズ 3 も抑えることで信号対雑音比が向上し これまでより1 桁高い精度で位置測定が可能となった 研究チームは SOIPIX コラボレーション ( 代表 : 新井康夫 KEK 教授 ) という世界展開の

共同開発研究の中核として 研究開発を進めている 研究内容と成果 2 種類のシリコン結晶をひとつのウエハー内に持つという SOI 構造 ( 図 1) の特長を最大限に活かした 高い放射線検出効率を持った信号処理回路一体型の微細ピクセルセンサーを実現した ( 図 2 図 3) 開発した SOI ピクセルセンサーを 昨年 12 月に米国フェルミ国立加速器研究所 (FNAL) に持ち込み 120GeV 陽子ビームを照射 性能試験を行った ( 図 4) 前後のビーム位置モニターから予測される通過位置と実際にセンサーで測定した位置を比較した結果 実験グループの期待を上回る 0.7μm の精度を達成していた ( 図 5) 素粒子実験で使うセンサーには高い放射線耐性も必要だ 今回の測定では高い放射線量下で性能が劣化しないことも確かめた ( 図 6) SOI ピクセルセンサーは将来の素粒子実験の測定器システムの中核になりうる 国際リニアコライダー (ILC) や Belle II の将来 4 のアップグレードなど 崩壊点検出器の性能向上の切り札になる また 高性能の X 線イメージ検出器としての応用も可能で 放射光を使った物質生命科学の実験装置 X 線天文学などの基礎科学はもとより 医療 産業などへの幅広い応用が見込まれる この研究は 科学研究費 新学術領域研究 3 次元半導体検出器で切り拓く新たな量子イメージングの展開 によるサポートで推進されており TIA 5 光 量子計測領域のプロジェクトでもある

図 1: 従来構造のトランジスタと SOI 構造のトランジスタの比較 従来の半導体構造は トランジスタと基板の極性を変えることで絶縁していたため寄生容量が大きいことから トランジスタの制御性が悪く余分な電力を必要とした SOI 構造は トランジスタが基板から絶縁されているため効率よく制御でき 消費電力と漏洩電流が抑えられる 図 2:SOI ピクセルセンサーの断面図 SOI 構造下部のシリコン層は集積回路から絶縁されており素粒子センサーとして利用できる センサーからの電気信号を基板上部の集積回路に直接伝えることで損失や雑音の少ないシステムを実現 集積回路は現代のエレクトロニクスを支える高度な技術で センサーの信号処理にはうってつけの組み合わせ こうしたセンサーと信号処理回路が一体となった構造は モノリシック ピクセル と呼ばれる 今回開発したセンサーは放射耐性を強化するため 通常の SOI 構造に加え 中間にさらにもう 1 層のシリコン層を加えている ( 画像提供 Rey.Hori)

図 3:SOI ピクセルセンサーの断面構造写真 透過型電子顕微鏡 (TEM) で撮影 画像提 供 : ラピスセミコンダクター株式会社 図 4: フェルミ国立加速器研究所でのビームテストの様子 写真中央の緑の回路基板の中心が 今回開発した SOI ピクセルセンサー 120GeV の陽子ビームは写真の左手奥から入射する

図 5:SOI ピクセルセンサーの位置測定精度を示すグラフ 陽子ビームを 1 万回ほど照射し 各回のセンサーの実測値とビーム位置モニターの予想位置とのズレを記録した 横軸はズレの大きさ 縦軸はそのズレが観測された回数 上流のビームモニターの測定精度による予想位置のばらつきを考慮すると センサーの位置測定精度は 1μm を下回ると計算できる 図 6:SOI ピクセルセンサーの放射線耐性を測定したグラフ 赤三角が照射前 黒丸が 100kGy の放射線照射後のセンサー 横軸はセンサーに与えたバイアス電圧で 縦軸は検出した信号の大きさ 放射線照射の前後で検出性能の劣化は見られない

お問い合せ先 < 研究内容に関すること > 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所講師坪山透 Tel: 029-864-5327 国立大学法人筑波大学数理物質系准教授原和彦 Tel: 029-853-4270 < 報道担当 > 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構広報室長引野肇 Tel: 029-879-6046 Fax: 029-879-6049 E-mail: press@kek.jp 用語解説 1. SOI(Silicon-On-Insulator) 2 枚のシリコンウエハーを薄い酸化膜 ( 主に二酸化ケイ素 ;SiO 2 ) を挟んで貼り合わせたウエハーおよびその関連技術を指す 酸化膜が絶縁層となるため 寄生容量を小さく抑えることができ 高速 低消費電力化が可能となる 任意の2 種類のウエハーを選択できることと 貼り合わせた後は1 枚のウエハーとして既存の半導体形成プロセスにかけられることも特長 製造方法は1991 年にフランスのLETI 研究所のMichel. Bruelが考案したSmartCutTM 法が現在の主流 放射線検出器の作成で 任意の2 種類のウエハー材質を選べることは大きな利点 信号読み出しのためのCMOS 集積回路を実装するウエハー層には小さな抵抗率 放射線を検出するためのウエハー層には大きな抵抗率の材質を選ぶことで 厚いセンサー部と薄い回路層を一体化することができ 信号対雑音比が向上する 2. SOIピクセルセンサー微細なSOIセンサーをデジタルカメラの撮像素子のように格子状に並べ 素粒子が通過した位置を測定する装置 今回使ったセンサーは 8μm 角のピクセルを128 128 個の正方形状に並べた ピクセルセンサーに発生する信号パターンを解析すると測定精度が向上する なお SOIPIX コラボレーションでは現在 X 線検出用としては 200 万ピクセル程度の大口径センサーまで実用化している 3. 信号対雑音比放射線粒子がセンサー内を通過した際に検出される信号と 雑音などの信号との比率 比率が大きいほど正確に測定できる 4. 崩壊点検出器素粒子反応がどの場所で起きたのかを測定する検出器 高エネルギーな素粒子反応で生成される2 次粒子の多くは 非常に短い寿命しか持たず 数 数十 μm 程度の短い距離を飛行

後 他の粒子に崩壊する どのような現象が起こったのかを解析する上で 崩壊点の高精度測定は最重要課題のひとつ 5.TIA ( つくば イノベーションアリーナ ) 国立研究開発法人産業技術総合研究所 ( 産総研 ) 国立研究開発法人物質 材料研究機構 (NIMS) 国立大学法人筑波大学( 筑波大 ) 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 (KEK) と国立大学法人東京大学 ( 東大 ) の5 研究機関と 一般社団法人日本経済団体連合会 ( 経団連 ) とで運営する研究拠点であり 内閣府 文部科学省 経済産業省の支援を得てオープンイノベーションに繋がる研究開発を推進している そのプラットフォームの一つとして 光 量子計測がある https://www.tia-nano.jp/core/research/measure.html