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608 東シナ海上の梅雨前線南側における降水系の形成機構 水蒸気前線の発見 帯の併合が起こりました その際に BAND1では 反 射強度で 6dBZe 以上増加するような急激な降水強化 が起こりました その併合過程が起こる直前の12時40 において デュアルドップラーレーダー解析 2台以上のドップ ラーレーダーによるドップラー速度データから3次元 気流場を計算する解析手法 から得られた2本の降水 帯の気流構造を示したのが第4図です このメソ β 規模 の 観 測 領 域 に お い て は メ ソ α規 模 で 定 め た BAND1 BAND2に 対 し て そ れ ぞ れ LINE1 LINE2と呼ぶことにします 敢えて呼び方を変えて い る の は BAND の 定 義 に 対 し て は 南 北 に 数 十 km の幅を持たせていましたが LINE の定義におい ては LINE の幅と単一の降水セル ここでは 水平 規模10km 程度 寿命1時間程度の個々の積乱雲に相 当する降水域を指し 中心付近に上昇流域の極大を伴 うものとする の幅は同じものとして えているため です C バンドレーダーでは 降水帯全体の動きを捉 えるための議論で良かったので ある程度南北幅を持 たせた BAND という定義を用いま し た X バ ン ド ドップラーレーダーでは 収束線と降水セルの明瞭な 一致を捉えることができます それぞれのレーダーで 定義する対象を変えているのは レーダーの波長の違 いによってデータの水平解像度が C バンドレーダー で2.5km X バ ン ド レーダーで 1km と 異 なって い ることにもよります 高度0.5km の水平断面の気流 布 第4図 a を 見ると LINE1は南風場であるのに対して LINE2は 北風場であることが かります 長島 位置は第3図 b または c を参照 における地上気象観測データか ら LINE2の通過に伴って南風から北風に変わるタ イミングで温位の降下と水蒸気混合比の減少が確認さ 第3図 1999年6月27日に東シナ海東部で観測さ れた2本の降水帯に関する 観規模 メ ソ α規模における概 観 (a 09時 日 本時 の天気図に重ねて示した GM S-5 による赤外画像 (b 09時および c 13時の C バンド降雨レーダーによる高 度1.5km でのレーダー反射強度 布 (a の 太 い 破 線 は 700hPa 面 の T T 3K の湿潤領域を示す (b および c の実線は BAND1と BAND2の位 置 (c の 破 線 は BAND1と BAND2 の09時における位置を表す れました 図省略) 第4図 c の 直断面で示すよう に LINE2では下層 2km に顕著な北風成 LINE2の上昇流は 北風成 が見られ の層より上層の高度 2 km 以上で発達しています 第4図 a c では デュ アルドップラーレーダー解析の手法の限界として 気 流 データ の 空 白 領 域 が で き こ の データ だ け か ら LINE2の北風成 に対してその先端を決めることは できません しかし 地上観測データの結果を合わせ て えれば 北風の先端付近に LINE2が対応してい たという推測は可能です これらの観測事実を合わせ て えると LINE2は 大規模場における寒気の北 風と暖気の南風が収束する境界に形成された降水帯で 6 天気" 53 8

東シナ海上の梅雨前線南側における降水系の形成機構 水蒸気前線の発見 609 あったと えられます 大規模場における寒気の北風 と暖気の南風による収束線という定義で梅雨前線と呼 ぶとすると LINE2は 梅雨前線の収束線に対応し て形成されたものと捉えられます 一方 LINE1に対しては高度 1-2km において西風 と南西風とによる弱い収束線が検出されました 第4 図 b) LINE1は 甑島からも南側にずれた位置で停 滞していたことから LINE1に対応する収束線は 地形を迂回する流れの収束としては説明できません 南風場内において地形の影響以外にこのような収束線 ができていたとすると そのようなものは過去に指摘 された例がありませんでした 4 梅雨前線と水蒸気前線 このように各水平規模に対応した観測データを 合 的に見ることによって 梅雨前線帯には 大規模場に おける寒気と暖気の収束線 以後本稿では これを梅 雨前線と呼ぶことにします 以外に南風場においても 下層の弱い収束線が存在し 降水帯を形成しているこ とが示唆されました しかし 観測で得られた気流 データなどの水平 布には 空白領域ができ 解釈を まとめる際に推測に頼らざるを得ない部 がどうして もあります その推測された解釈をより確からしくす るためには 力学場や温度 水蒸気場を含めて3次元 的に空白域の無いデータが得られる数値モデルを用い た再現実験が有効な手段です そこで 観測された LINE1および LINE2に対応す る収束線について 周囲の熱力学場や水蒸気場を3次 元的に調べるために 5km の水平解像度の気象研究 所非静力学モ デ ル Ikawa and Saito, 1991 Kato, 1996 Saito, 2001 を用いて再現実験を行いました 以後 5km resolution Non-Hydrostatic M odel の 略 と し て 5km-NHM と 呼 び ま す) 5km-NHM の 初 期 値 境 界 値 は 気 象 庁 領 域 ス ペ ク ト ル モ デ ル Segami, 1989 による1999年6月26日21時からの24 第4図 X バ ン ド ドップ ラーレーダーに よ る12時 40 の反射強度と風の 布 (a 高度0.5 km の水平面 (b 高度 2km の水平面 (c 水 平 面 図 a) (b 中 で 示 す A-A の線に った 直断面 (a と b にお いて LINE を構成する降水セルの列を2 本 の 破 線 で 表 す 2 本 の 破 線 の 幅 は LINE を構成する降水セルの幅に等しい (b の LINE1に った実線は 収束量の 極大値として検出された収束線の位置を示 す (c の太い実線は 地上気象観測デー タの風向変化も 慮して推測される北風成 と南風成 との境界を示す 2006年 8月 時間予報値より作成しました 以後 Regional Spectral M odel の 略 と し て RSM と 呼 び ま す) こ の RSM の予報値には X-BAIU-99で追加配備された 高層気象観測点のデータも取り込まれており ここで は 気象庁から気象研究所に配信されたデータを用い ました 5km-NHM の積 開始時刻は 2本の降水 帯が併合して発達した6時間前6月27日06時とし 積 時間は9時間としました 5km-NHM によって計算された6月27日12時にお 7

東シナ海上の梅雨前線南側における降水系の形成機構 水蒸気前線の発見 611 第5図 5km-NHM で再現された6月27日12時における a 前1時間降水量 布 (b 高度0.02km (c 高度0.52km (d 高度2.11km における水蒸気混合比 布 全ての図に対して 高度0.02km におけ る温位 布を等値線で重ねてある ベクトルは 各図の高度における水平風を示す 太い点線は モデ ル出力結果において前1時間降水量10mm 以上の強 雨 帯 を 伴 う 収 束 線 と し て 定 義 し た LINE1と LINE2の位置を示す 細い点線の円は X バンドドップラーレーダーの観測領域を示す 2006年 8月 9

東シナ海上の梅雨前線南側における降水系の形成機構 水蒸気前線の発見 第8図 613 第7図 b の A-A の線に った 直断面 に お け る 温 位 陰 影) 雨 混 合 比 実 線) 16gkg 以上の水蒸気混合比 破 線 の 布 太い実線は 北風成 と南 風成 の境界面として定義した梅雨前線 の前線面を示す 0.5km 以下にまで浅くなっています この下層湿潤 気塊は 東シナ海上において海面から直接水蒸気供給 を受け 下層での 直混合によって形成されていると えられ これを海洋性湿潤気塊と呼ぶことにしま す 梅雨前線と水蒸気前線の間の領域では 第7図 c や 第7図 b に示した風の水平 布から見ると かるよ うに 南西風成 の海洋性湿潤気塊とは異なる気流が 西側から流入していることが かります この西風成 の気流は メソ α規模の解析領域外に起源するた め RSM による再現結果を用いた 観規模場の解析 を次節に示します 第7図 (a 5km-NHM の初期時刻06時におけ る 高 度0.02km の 温 位 布 等 値 線 と水平風ベクトル 5km-NHM が再現 した b 10時 (c 13時における前1 時間降水量 布および高度0.02km の 温位 布 等値線 と水平風ベクトル 7 海洋性湿潤気塊と大陸性湿潤気塊 第7図に示した 5km-NHM での再現結果から か るように 水蒸気前線は 東西方向に少なくとも数百 km 以上の長さを持っています 前節までに示した レーダー観測や 5km-NHM で調べた九州付近では 2本の前線は接近していますが 東シナ海全体として 合比および気流の 布を示したものです 梅雨前線の みると大陸側に近づくに従って2本の前線は離れてい 位置では 最下層0.5km 以下において 温位及び水 ます 従って 水平解像度約20km の RSM でも水蒸 蒸気混合比の水平傾度が顕著です 一方 水蒸気前線 気前線の特徴が見えている可能性があると えられま の位置では 温位の水平傾度は全層で見られません す そこでここでは 梅雨前線と水蒸気前線との間の が 高度0.5km から1.5km の層において 水蒸気混 領域に西側から流入する気流の起源を調べるために 合比の顕著な水平傾度があります つまり 南側から RSM による再現結果におけるより広い範囲での水蒸 流入する下層湿潤気塊の全体の構造として捉えると 気 布の特徴を見てみます 水蒸気前線より南側では 湿潤気塊の厚さが 1km 以 まず RSM による再現結果における2本の前線の 上ありますが 水蒸気前線を境にしてそれが急激に 位置関係を検出するために 地表の水平水蒸気フラッ 2006年 8月 11

614 東シナ海上の梅雨前線南側における降水系の形成機構 水蒸気前線の発見 クスの水平収束を計算したのが第9図 a です 水平 一方 それとは別に東シナ海上では 梅雨前線の南 水蒸気フラックスに対する水平収束をとった量には 側で中国東岸から東シナ海東部にまで伸びる1000km 風の収束だけでなく 水蒸気傾度の大きさが反映され 程の長さの収束線が検出されています この収束線 ます 梅雨前線と比べて収束が弱い水蒸気前線も水蒸 は 温位の水平傾度がほとんど無く 水蒸気傾度のみ 気傾度の大きさが反映される値であれば 検出しやす を伴っており メソ β規模解析で定義した水蒸気前 いと えられます 第9図 a を見ると 再現結果で 線の性質と一致していました また 水平風ベクトル 検出された梅雨前線に対応する最も顕著で東西方向に を見れば明らかなように その収束域は南風場内にあ 規模の大きな水平水蒸気フラックス収束域は 天気図 る も の で す こ の よ う に 水 平 解 像 度 約20km の で解析された梅雨前線とほぼ同じ位置に検出されてい RSM の再現結果においてもメソ β メソ α規模での ます 結果と整合性を持って2本の前線を検出できているこ とが かります ここで 梅雨前線と水蒸気前線の間の領域に注目す ると 西側から流入する気流の起源は中国大陸上であ ることが かります 第9図 b における地表の水蒸 気混合比 布を見ると かるように 梅雨前線と水蒸 気前線の間に流入する西風気流は 水蒸気混合比15 gkg から18gkg であり 中国大陸上における水蒸 気量に等しい値となっています この水蒸気混合比が 15gkg から18gkg の湿潤気塊を大陸性湿潤気塊と 呼ぶことにします すると 水蒸気前線とは この大 陸性湿潤気塊が東シナ海西部に流入し もともと東シ ナ海上に存在する海洋性湿潤気塊 水蒸気混合比19 gkg 以上 との境界として形成されたものであると 解釈することができます 2つの湿潤気塊には 水蒸気混合比 2gkg 程度の 差があるため その境界において当然顕著な水蒸気傾 度を伴います しかし 2つの湿潤気塊は どちらも 暖気であることは同じですから その境界で温位傾度 がほとんどなくとも不自然ではありません また 大 陸上は 地表の粗度が海面に比べ大きいため 海洋性 湿潤気塊と比べて大陸性湿潤気塊の地表風速は 全体 的に数 ms 小さくなっています 従って 2つの湿 潤気塊が同じ南風成 であっても その境界では 常 に風速差による収束を伴うはずです その2つの湿潤 気塊の風速差に伴う収束線が 水蒸気前線ということ になります 第9図 12 RSM によって再現された09時における 地表の(a)水平水蒸気フラックスの水平 収束と(b)水 蒸 気 混 合 比 (b)で は 梅 雨前線の南側において風速 5ms 以上 で水蒸気混合比が19gkg 以上の領域を 海洋性湿潤気塊として太い実線で囲ん だ また 梅雨前線の南側において風速 5ms 以下で水蒸気混合比が18gkg 以 下の領域を大陸性湿潤気塊として太い実 線で囲んだ 8 まとめ このように 種々の観測データや複数の数値モデル のデータを併用することによって 2本の降水帯とそ の周囲の気塊を含めた3次元的な構造を 観 メソ α メソ βの全ての規模で示すことができました ま た その階層構造を明らかにする解析を通して 梅雨 期に東シナ海上で降水系を形成し得る機構の1つであ 天気" 53 8