2018 年 1 月 No.53 Fiduciary Research [ マネージャー ストラクチャー ] アンコンストレインド債券をどう活用するか ~ 分類 ポートフォリオ上の位置付けなどについて ~ 目次 I. はじめに II. アンコンストレインド債券とは 1. 定義 2. 運用資産 報酬 運用実績など III. アンコンストレインド債券の特徴 1. 基礎的な統計量 2. リスクファクターによる整理 分類 IV. ポートフォリオへの組み入れ効果 位置付け 1. ポートフォリオ上の位置付け 2. ポートフォリオ組み入れ時の前提について~ 期待リターン リスク 3. ポートフォリオへの組み入れ効果 ~ハイイールド債券との比較 4. ファンド選択 モニタリングのポイント V. まとめ
アンコンストレインド債券をどう活用するか ~ 分類 ポートフォリオ上の位置付けなどについて ~ 目次 I. はじめに 2 II. アンコンストレインド債券とは 3 1. 定義 3 2. 運用資産 報酬 運用実績など 5 III. アンコンストレインド債券の特徴 9 1. 基礎的な統計量 9 2. リスクファクターによる整理 分類 11 IV. ポートフォリオへの組み入れ効果 位置付け 21 1. ポートフォリオ上の位置付け 21 2. ポートフォリオ組み入れ時の前提について ~ 期待リターン リスク 21 3. ポートフォリオへの組み入れ効果 ~ ハイイールド債券との比較 22 4. ファンド選択 モニタリングのポイント 24 V. まとめ 25 筆者木須貴司 ( きすたかし ) 野村證券株式会社フィデューシャリー サービス研究センターフィデューシャリー マネジメント部 シニアコンサルタント
Nomura Fiduciary Research No.53 要 約 アンコンストレインド債券とは ベンチマークからの制約のない債券運用全般を指す戦略である 複数の債券資産に投資する場合が多く 債券マルチアセットと呼ばれる場合もある アンコンストレインド債券 ( あるいは債券マルチアセット ) は 低金利や金利上昇への懸念から運用資産が近年 急速に拡大しており 国内においても高い関心が示されている アンコンストレインド債券は ヘッジファンドのようにほとんど 制約がない わけではなく ヘッジファンドと比べると売買回転やレバレッジは低く ガイドラインによって投資比率に制約が設けられている場合もある アンコンストレインド債券のリスク要因は ファンドの月次リターンの主成分分析によると 3~4 つ程度のリスクファクターにより説明可能と考えられる 本稿では 3 つのリスクファクターとして 金利 クレジット 通貨 を提案する この 3 つのリスクファクターによりアンコンストレインド債券のリスク要因は平均 60% 程度説明可能である 3 つのリスクファクターによる分析によりアンコンストレインド債券は 次の 3 つに分類可能であることが分かる それは 1 低ベータ型 2 高ベータ リスク性資産型 3 高ベータ 安全資産型 である アンコンストレインド債券の運用者による機動的な債券セクターへの資産配分効果は アンコンストレインド債券ファンドの全体のうち 9% にはあると考えられる 優れたファンド選択ができれば 債券セクターの機動的な資産配分効果を享受できる可能性がある ポートフォリオ全体の目標収益率が低い場合はハイイールド債券やバンクローンを導入するよりもアンコンストレインド債券ファンドを導入した方がよりリスクリターンの効率性を改善する可能性が高い 一方 目標収益率が高い場合は アンコンストレインド債券ファンドを導入するよりも特化型でハイイールド債券やバンクローンを組み入れた方がリスク / リターンの効率性は改善すると考えられる アンコンストレインド債券のモニタリングには運用方針の確認や資産 ( セクター ) 配分効果の確認 運用体制や運用マネージャーの質などの定性的な事項の確認が望ましい - 1 -
アンコンストレインド債券をどう活用するか I. はじめにこれまで年金運用において内外債券の運用は 時価加重指数などのベンチマークを中心に行われてきた しかし 現在 債券の運用において時価加重指数のベンチマークは投資対象として効率的と言えるのだろうか 国内債券の代表的ベンチマークである野村 BPI 総合指数は 利回りは低下し 金利リスク ( デュレーション ) は長期化している 外国債券の代表的ベンチマークであるシティ世界国債インデックスも同様だ どちらも期待リターンは低下する一方で リスクが上昇し リスク比リターンは悪化している 1 そもそも 時価加重指数が効率的とされる理由は 次の CAPM の第 1 定理に基づく CAPM 第 1 定理. 安全資産が存在するとき 市場の均衡状態においてマーケット ポートフォリオは接点ポートフォリオと一致する したがってマーケット ポートフォリオは効率的ポートフォリオである マーケット ポートフォリオとは市場に供給されるすべての証券のバスケット すなわち 時価加重ポートフォリオである すべての証券の価格が投資家の合理的な予想に基づき決定されるのであれば この主張は正しい しかし 債券市場では近年 短期金利に限らず長期金利も中央銀行の金融政策に大きな影響を受けており 債券価格は市場の期待が反映されているとは必ずしも言えない つまり 現実の債券市場においては CAPM 第 1 定理の前提は成り立っていない可能性が高い アンコンストレインド債券は 債券の時価加重指数ベンチマークからの制約を受けない債券運用を指し 近年 グローバルで運用資産の拡大が続いている 前述の通り債券運用において時価加重指数が効率的と言える根拠は乏しく 従来の債券運用に対するアンチテーゼとしてアンコンストレインド債券は注目に値すると考えられる しかしながら 幅広い債券資産を投資対象とし 資産配分の変更を機動的に行うアンコンストレインド債券ファンドの管理 活用方法は従来の債券ファンドと比べるとベンチマークという分かり易い物差しがないため 難易度が高い また アンコンストレインド債券ファンドによっては 株式との相関が高いなど 従来の国債中心の債券ファンドとは異なる特徴を持つものもある そのため アンコンストレインド債券の利用にあたっては十分な分析と性質の理解が欠かせない 本稿は そのようなニーズに応えるため アンコンストレインド債券の特徴 活用方法などについて考察した 第 Ⅱ 章では アンコンストレインド債券の定義と近年の投資家の投資状況を解説する 第 Ⅲ 章では アンコンストレインド債券の性質 特徴を分析する 第 Ⅳ 章では ポートフォリオへの組み入れ方法 そしてその期待される効果について分析を行っている 1 債券ベンチマークの全体の動きについては 高橋 [2017] の第 Ⅱ 章でも解説されている - 2 -
Nomura Fiduciary Research No.53 II. アンコンストレインド債券とは 1. 定義アンコンストレインド債券は 制約のない債券運用 という意味で 従来の制約のある債券運用に対するアンチテーゼとして近年 運用資産が拡大している 制約 とは ベンチマークを意味する場合が多い 具体的には アンコンストレインド債券は 従来の債券が持つ以下の制約条件を持たない 時価加重指数 ( ベンチマーク ) からの乖離の抑制 : ベンチマークからの乖離 ( トラッキングエラー ) の制約がない 投資対象の制約 : 従来の債券パッシブ アクティブファンドは ベンチマークに組み入れられている資産が投資対象となっていたが アンコンストレインド債券では 様々な債券 あるいは現預金に投資可能となっていることが多い 複数の債券資産に投資することから 債券マルチアセットと呼ばれることもある たとえば あるアンコンストレインド債券ファンドでは 次のような資産を投資対象としている 図表 1 アンコンストレインド債券の投資対象の例 米国国債関連 米国以外の先進国 先進国社債 証券化資産 新興国 米国国債 国債 準国債 投資適格社債 エージェンシー MBS 米ドル建て債券新興国債 米国政府関係債 国際機関債 ハイイールド社債 非エージェンシー MBS 現地通貨建て新興国債 地方債など バンクローン ABS 転換社債 CMBS ( 出所 ) 運用会社の資料より野村證券フィデューシャリー サービス研究センター作成 デリバティブの利用制約 : 先物やオプション CDS などをヘッジ目的以外で利用可能 金利感応度 ( デュレーション ) の制約 : 金利感応度を大きく調整することが可能 デリバティブを利用し デュレーションをマイナスにすることも可能なファンドもある 売買回転率 資産配分の変更に関する制約 : 様々な投資対象に投資可能であるとともにその資産配分を状況に応じて変更可能 アンコンストレインド債券という単語は ベンチマーク運用ではない債券運用という意味でしかなく そこには様々な運用戦略が包含される可能性がある たとえば 従来あったマルチセクター ( クレジット ) 債券運用 キャリーロールダウン戦略などの運用戦略もアンコンストレインド債券と呼ばれる場合もある ベンチマークと大きな乖離を取るいわゆるコアプラス運用との境界線もあいまいだ 実際 アンコンストレインド債券というカテゴリーに含まれるファンドの名称は 必ず - 3 -
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Fiduciary Research No.53 [ カテゴリー : マネージャー ストラクチャー ] アンコンストレインド債券をどう活用するか 平成 30 年 1 月第 1 版発行 発行 野村證券株式会社フィデューシャリー サービス研究センター 100-8130 東京都千代田区大手町 2-2-2 電話 03-6703-3991 弊誌の記事はバックナンバーも含めてホームページでご覧頂けます 当ホームページは 年金スポンサー限定のサービスとなっております ご利用を希望される方は 次の URL にてご登録をお願い致します http://nenkin.nomura.co.jp このレポートは 年金基金運営及び企業財務業務の参考となる情報の提供を目的としたもので これらに関する特定の戦略や手法をご提言するために作成したものではありません 年金基金運営及び企業財務業務はご自身の判断でなさるようお願いします このレポートは 野村證券から直接提供するという方法でのみ配布致しております 提供されました御客様限りでご使用下さい このレポートのいかなる部分も一切の権利は野村證券に帰属しており 電子的または機械的な方法を問わず またいかなる目的であれ 無断で複製し又は転送等を行わないようお願い致します