CHAPTER 1 根尖性歯周炎の原因から考える 無菌的処置環境の 重要性 はじめに 近年 歯内療法における器具や材料の進歩は著しく マイクロスコープ 超音波器 具 Ni-Ti ロータリーファイル バイオセラミックマテリアルなど枚挙にいとまがない 最新の器具や材料は確かにわれわれの日常臨床をより良い

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Transcription:

CHAPTER 1 根尖性歯周炎の原因から考える 無菌的処置環境の 重要性 はじめに 近年 歯内療法における器具や材料の進歩は著しく マイクロスコープ 超音波器 具 Ni-Ti ロータリーファイル バイオセラミックマテリアルなど枚挙にいとまがない 最新の器具や材料は確かにわれわれの日常臨床をより良いものとしたことに間違いはな い たとえば 筆者も歯内療法を行う際 マイクロスコープなしの診療はもはや非常に 困難なものと感じている マイクロスコープを使用することで これまで暗闇の中で小 さく不確かだった根管が明るく非常に鮮明に拡大されるため 多くの情報を得ることが でき 歯内療法の精度も向上した このように 臨床家として最新の器具や材料に精通 しておくことは 患者利益のために必要なことである しかし 単純に最新の器具や材 料を臨床に応用するだけで 歯内療法の成功率は向上するのであろうか 歯内療法の目的とは 根尖性歯周炎の予防と治療 である 図 1 この目的を高い 成功率をもって達成するためには ただ単純に最新の器具や器材を臨床応用するだけで は困難であると考える つまり 用いるテクニックや器具器材が歯内療法の原理原則か ら導かれた論理 logic に基づいたものでなければ 根尖性歯周炎をマネージメントす ることはできないのと同時に 患者利益を著しく損なうこととなる そこで本書では 歯内療法の原理原則から導き出された logic を整理して解説する これらの logic を構 築することで 器具や材料に振り回されることなく 根尖性歯周炎をマネージメントで き ひいては患者利益に寄与できるものになると確信している 歯内療法の目的は 根尖性歯周炎の予防と治療 図1 8 歯内療法の目的

Ⅰ 第 編 原 理 原 則に則った歯 内 療 法の基 本 図 3 下顎大臼歯における根管口探索 Krasner 20049 対称性の法則が用いられる 根管口部 は対称的に位置している つまり 頬 舌側または近遠心側に偏った根管があ れば 反対側にも存在する可能性が高 い 1 Case MB2の発見 M B D D P 1-1 術前 1-2 M B セメント充填物と齲蝕の除去 P 1-3 隔 壁 作 製 後 に ラ バ ー ダ ム 防 湿 を 行った 矢印の箇所に MB2 を発見 MB1 MB2 1-4 ファイル試適 1-5 根管拡大形成後 1-6 根管充填後 大臼歯における根管口探索には いくつかのルールがあるので紹介する 下顎大臼歯 であ の根管口探索に参考となるのが 対称性の法則 Krasner and Rankow's Low る 9 この法則を下顎大臼歯に用いることで 効率的に根管口の探索が可能となる 図 3 上顎大臼歯における MB2 の発現率は Stropko10 の報告によると第一大臼歯が 93 第二大臼歯が 60.4 と比較的高頻度で発見されることが多い 上顎第一大臼歯 は見逃しの根管が多いことでも知られており Karabucak ら 11 は 1,397 本の歯を CBCT で調べたところ 全体の 23.04 に見逃し根管があり なかでも上顎第一大臼歯 が 40.1 と最も多かったとしている 筆者の臨床でも MB2 の見落としによる再治療の 症例は高頻度で遭遇する MB2 の探索の目安としては MB1 近心頬側第 1 根管 か Case 1 ら P 口蓋根 方向に進んだ石灰化物の下に存在することが多い 12 46

CHAPTER ①下顎第一大臼歯 咬頭から 根尖の歯軸に沿った割断面 図4 ②咬合面からアクセスキャビ ティの形成を行った状態 4 根 管 内 細 菌 除 去 の 中 心 的 役 割を果 たす 根 管 拡 大 形 成 ③ストレートラインアクセス ④ストレートラインアクセス を行うことで 根管口部の がなされていない状態 ② 歯質の張り出しがなくな で ファイルを根尖方向に り 根管の湾曲が緩やかに 進めようとすると 根管口 なった 黄色線 そして 部の歯質 矢印 が張り出 ファイルがスムースに根尖 しているため 根管の湾曲 に到達できる が強い 黄色線 ストレートラインアクセス ストレートラインアクセス 1 ストレートラインアクセスの重要性 ストレートラインアクセスは その後に続く根管拡大形成のクオリティを左右すると 言っても過言ではない ストレートラインアクセスとは 具体的には根管口部の象牙質 の張り出しを除去することである ストレートラインアクセスを形成することで 根管 の湾曲度を減少させ 根管拡大形成時に起こるレッジやトランスポーテーション 根尖 の変位 歯質の過剰切削を予防することができる また ストレートラインアクセス は根管拡大形成時の作業長や拡大号数の決定にも関与する そのため ストレートライ ンアクセスを確実に行うことは非常に重要なステップである 図 4 ストレートライ ンアクセスが完了する前の段階で ISO 10 の K ファイルなどを根管の方向確認のた め根管口部に挿入する程度であれば問題はないが ファイルを根尖方向へと無理に挿入 すると前述したような根管拡大形成時のエラーが生じる 余談にはなるが 筆者は歯内療法に特化した診療を行っており その多くが再治療の 症例である それらのうち ファイルの破折やレッジ 根尖孔への穿通性がないといっ たトラブルの多くは このストレートラインアクセスがなされていないことに起因して いる そして 多くはストレートラインアクセスを修正することで解決するものと感じ ている 47

Ⅰ 第 編 原 理 原 則に則った歯 内 療 法の基 本 根管貼薬の効果を最大限発揮させるために Law & Messer ら 2004 の論文 根管拡大形成と根管洗浄後に行う水酸化カルシウムを用いた根管貼薬は細菌除去に有効である 効果的な水酸化カルシウムを用いた根管貼薬を行うために Sjögren ら 1991 の論文 7 日間の根管貼薬で十分な細菌除去 を行うことができた Andreasen ら 1992 の論文 7 日間の 根管貼薬は 効果的である 7 日間の根管貼薬で十分な組織溶解 性を達成することができた 水を用いた溶媒で水酸化カルシウ ムを用いる 根管内になるべく死腔なく根管貼 薬を行う 根尖孔外に貼薬剤を溢出させない 根管貼薬期間中に漏洩のない仮封 を行う ジなどを用いて根尖孔外に溢出させることは 重篤な組織傷害を起こす可能性があるの で 厳に慎むべきである 10 根管貼薬の期間 水酸化カルシウムの貼薬期間は細菌除去の観点から 7 日間の根管貼薬で細菌が効果 的に除去できたと報告されている 11 In vitro の報告ではあるが 組織溶解性の観点で も 7 日間の水酸化カルシウムの作用で十分な組織溶解性を示したと報告されている 12 これらのことから 7 日間の根管貼薬で効果を発揮するものと考えられる 水 酸 化 カ ル シ ウ ム を 長 期 間 貼 薬 す る こ と に よ る 象 牙 質 の 強 度 低 下 に つ い て は Andreasen ら 13 のヒツジの根未完成歯を用いた実験で 破折抵抗が 1 年間で 50 以下 に減じたと報告されており 長期間にわたる水酸化カルシウムの根管貼薬は歯根破折の リスクを高める可能性があることを示唆している しかし Yassen ら 14 の水酸化カルシ ウムの長期間貼薬と歯根破折に関するシステマティックレビューでは 歯根破折との直 接的な関係を示す臨床研究はないとしている すなわち in vitro の研究では 5 週間か それ以上の根管貼薬で歯根象牙質の機械的強度の低下を示したとされているが 1 カ月 以内の根管貼薬が歯根象牙質の機械的強度を減じさせるという決定的なデータは現時点 ではないとしている 以上のことから現時点では 水酸化カルシウムの長期間の貼薬に 70

Ⅲ 第 編 再 治 療 介 入を困 難にさせる要 因 への対 応 3 Case 3-1 上顎大臼歯の再治療におけるガッタパーチャ除去 3-2 齲蝕除去後 コンポジットレジン を用いて隔壁を作製 オラシールを 用いてラバーダムシートとクランプ との隙間を封鎖後 患歯の消毒を行っ た 6 のコア除去後 3-3 Ni-Ti ロ ー タ リ ー フ ァ イ ル D-Race を用いて遠心頬側根の根 管中央部付近までガッタパーチャの 除去を行った 3-4 超音波チップ ET-20D を用いて 口蓋根の根管中央部付近までガッタ パーチャの除去を行った 3-5 それぞれの根管の根尖部は超音波 チップ AM ファイル 白水貿易 と H ファイルを用いてガッタパーチャを 除去 MB2 の開口部らしきものを認め る 矢印 MB2 はこの後 ストレー トラインアクセスを修正し ネゴシエー ション 根管拡大形成を行った なお 筆者はガッタパーチャ溶解剤による除去方法はガッタパーチャの被膜が根管内 壁に残留してしまい 根管洗浄効果や根管内の接着を阻害する可能性があるため ほと んど使用することはない 12 2 ガッタパーチャ除去の実際 根管上部のガッタパーチャ除去は 主に高回転の Ni-Ti ロータリーファイルを用いて 除去を試みる 13 この際 Ni-Ti ロータリーファイルに食い込みを感じて挿入できる場 合はガッタパーチャを絡め取って除去を行う Ni-Ti ロータリーファイルがガッタパー チャに食い込みを感じない場合は 電熱式根管プラガーなどのヒートソースや超音波 チップを用いてガッタパーチャを軟化させ Ni-Ti ロータリーファイルが食い込みやす くする ある程度 除去ができたらマイクロスコープなどで根管壁面をよく観察し ファイルが触れられずに根管壁面やイスムスなどに残ったガッタパーチャを超音波チッ プやスクレイパーなどを用いて除去する この方法で根管中央部までは除去を行う 根 尖部付近のガッタパーチャは手用 SS ファイルの K ファイルを Turn Pull モーション で除去したり 手用 SS ファイルの H ファイルで食い込ませて根尖孔外に押し出さない ように注意しながら慎重に除去を行う Case 3 128

CHAPTER 3 患者利益を追求した 歯内療法介入の 意思決定 歯内療法介入の意思決定 日常臨床において歯内療法を介入する際に考慮されるべき事柄は 歯内療法の対象と なる歯が口腔内で保存され機能していくかを見極めることである つまり 歯内療法の 介入に限局した意思決定においては 1 歯単位における患者の健康利益を守ることがで きるか否かが考慮されるべき事柄である しかし 歯内療法の介入の意思決定は時とし て非常に困難であり 日常臨床においてはその意思決定に迷いが生じることもあろう 適切な意思決定を行うためには的確な診断が重要であることは言うまでもないが 日常 臨床では診断ができたとしても治療介入の意思決定が簡単にできるとは限らない すな わち 歯内療法において根尖性歯周炎が存在しているという診断は比較的容易に行うこ とができても 患者やその歯の抱える種々の問題から実際に治療を介入すべきか否かに 頭を悩ます場面もあろう そもそも術前にいつも確定診断が必ずできるとは限らない 日常臨床では診断的治療介入により初めて確定診断ができることもある そこで 最終章となる本稿では 歯内療法を行ううえでこれらの意思決定はいかにし て行われるべきかを考察していきたい 歯内療法における難症例 歯内療法における難症例とは いったいどのようなものであろうか 後も痛みのマネージメントができない症例であろうか 尖透過像の改善が認められない症例であろうか 歯内療法介入 それとも歯内療法介入後も根 もちろん これらは難症例といえる であろうが 筆者はこのような症例ではその状況に至った経緯が重要であると考える すなわち 無菌的処置を守らずに歯内療法を介入して痛みのマネージメントや根尖透過 像の改善が認められないのであれば 難症例とは考えない 歯内療法においては 守る 148