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ポイント 先端成長をする植物細胞が 狭くて小さい空間に進入した際の反応を調べる または観察するためのツールはこれまでになかった 微細加工技術によって最小で1マイクロメートルの隙間を持つマイクロ流体デバイスを作製し 3 種類の先端成長をする植物細胞 ( 花粉管細胞 根毛細胞 原糸体細胞 ) に試験した

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図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

生物時計の安定性の秘密を解明

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世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

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図 : と の花粉管の先端 の花粉管は伸長途中で破裂してしまう 研究の背景 被子植物は花粉を介した有性生殖を行います めしべの柱頭に受粉した花粉は 柱頭から水や養分を吸収し 花粉管という細長い管状の構造を発芽 伸長させます 花粉管は花柱を通過し 伝達組織内を伸長し 胚珠からの誘導を受けて胚珠へ到達し

遺伝子組み換えを使わない簡便な花粉管の遺伝子制御法の開発-育種や農業分野への応用に期待-

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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という特殊な細胞から分泌されるルアーと呼ばれる誘引物質が分泌され 同種の花粉管が正確に誘引されます (Higashiyama et al., 2001, Science; Okuda, Tsutsui et al., 2009, Nature) モデル植物であるシロイヌナズナにおいてもルアーが発見さ

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

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別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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60 秒でわかるプレスリリース 2007 年 12 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 DNA の量によって植物の大きさが決まる新たな仕組みを解明 - 植物の核内倍加は染色体のセット数を変えずに DNA 量を増やすメカニズムが働く - 生命の設計図である DNA が 細胞の中で増えたらどうなるので

2. PQQ を利用する酵素 AAS 脱水素酵素 クローニングした遺伝子からタンパク質の一次構造を推測したところ AAS 脱水素酵素の前半部分 (N 末端側 ) にはアミノ酸を捕捉するための構造があり 後半部分 (C 末端側 ) には PQQ 結合配列 が 7 つ連続して存在していました ( 図 3

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

回細胞分裂して 1 つの花粉管細胞と 2 つの精細胞をもつ花粉に成熟し その間にタペート層 4 から花粉成熟に必要な脂質を中心とした物質が供給されて完成します 研究チームは 脂質の一種であるステロールが植物の発生 生長に与える影響を調べる目的で ステロール生合成に重要な遺伝子 HMG1 の欠損変異体

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

平成16年6月  日

生物は繁殖において 近い種類の他種にまちがって悪影響を与えることがあり これは繁殖干渉と呼ばれています 西田准教授らのグループは今まで野外調査などで タンポポをはじめとする日本の在来植物が外来種から繁殖干渉を受けていることを研究してきましたが 今回 タンポポでその直接のメカニズムを明らかにすることに

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

2. 看護に必要な栄養と代謝について説明できる 栄養素としての糖質 脂質 蛋白質 核酸 ビタミンなどの性質と役割 およびこれらの栄養素に関連する生命活動について具体例を挙げて説明できる 生体内では常に物質が交代していることを説明できる 代謝とは エネルギーを生み出し 生体成分を作り出す反応であること

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2019 年 1 月 21 日 自然科学研究機構基礎生物学研究所東北大学大学院生命科学研究科産業技術総合研究所 サンゴがもつ緑色蛍光タンパク質の働きが明らかに ~ 蛍光による共生パートナーの誘引 ~ サンゴ礁を形作り 南の海の生態系の維持に不可欠な存在であるサンゴは その多くが紫外線や青色光を受ける

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平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

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九州大学学術情報リポジトリ Kyushu University Institutional Repository Neuronal major histocompatibility complex class I molecules are implicated in the generation

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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創薬に繋がる V-ATPase の構造 機能の解明 Towards structure-based design of novel inhibitors for V-ATPase 京都大学医学研究科 / 理化学研究所 SSBC 村田武士 < 要旨 > V-ATPase は 真核生物の空胞系膜に存在す

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かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

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本件に関する問い合わせ先 ( 研究内容について ) 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所技術安全部生物研究推進課主任研究員塚本智史 TEL: FAX: 千

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4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

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抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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平成 31 年 1 月 15 日 世界初! 植物の受精卵が非対称に分裂する仕組みを発見 細胞内の水袋 ( 液胞 ) のダイナミックな動きを捉えることに成功 このたび 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) の植田美那子特任講師 東山哲也教授 大学院理学研究科の木全祐資大学院生 栗原大輔特任講師 山田朋美技術補佐員 大学院生命農学研究科の瀬上紹嗣特任助教 前島正義教授 奈良先端科学技術大学院大学の加藤壮英助教 田坂昌生教授 熊本大学の檜垣匠准教授 自然科学研究機構基礎生物学研究所の森田 ( 寺尾 ) 美代教授 東京大学の馳澤盛一郎教授の研究グループは 植物の受精卵が非対称になる ( 上下に偏りを作る ) 仕組みを世界で初めて発見しました 研究グループでは 植物の細胞の大半を占める水袋 ( 液胞 ) に注目し 受精卵での液胞の動きをリアルタイムで観察することに初めて成功しました その結果 受精すると液胞が急速に脱水して小さくなることを発見しました また 液胞がダイナミックに形を変えながら特定の方向に移動することで 受精卵が非対称になることも分かりました この仕組みが損なわれると 受精卵が非対称に分裂できなくなるだけでなく 最終的な植物の形も異常になったことから 液胞がダイナミックに動くことの重要性が明らかになりました 今回の発見は 今後 植物の形作りの仕組みを解明する糸口になると期待されます 本研究成果は 米国の科学専門誌 Proceedings of the National Academy of Sciences のオンライン版で2019 年 1 月 15 日 ( 火 ) 午前 5 時 ( 日本時間 ) に公開されました < 研究内容 > 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所特任講師植田美那子 TEL:052-789-5510 E-mail:m-ueda@itbm.nagoya-u.ac.jp < 報道対応 > 名古屋大学総務部総務課広報室 TEL:052-789-2699 FAX:052-789-2019 E-mail:nu_research@adm.nagoya-u.ac.jp 1

本研究のポイント 植物の受精卵の中にある液胞を初めてリアルタイムで観察し 非対称に偏る動態を明らかにした 受精卵内部で上下方向に伸びたアクチン繊維に沿って 液胞が柔軟に形を変えながら 下方向に移動することを発見した 液胞の移動が 受精卵の非対称な分裂に必要なだけでなく その後の植物の形作りにも貢献することを突き止めた 研究の背景と内容 植物の形は複雑で 花や葉 根や茎など さまざまな器官を有しています それらの器官の形作りの基礎となっているのは 上下 左右 前後の方向性を決める 体軸 です 多くの植物は同心円状 ( 筒型 ) の形をしているので 最も重要な体軸は上下軸となります まず 上下軸を決めたあと 上部には花や葉を作り 下部には根を作る という形作りを始めます この上下軸は 植物の元になる最初の細胞である受精卵が上下に分かれる ( 分裂する ) ことで確定されます ( 図 1) このとき 受精卵は 細胞内に偏りを作り ( 極性化注 1 ) その結果 上側の小さな細胞と下側の大きな細胞を生み出すという非対称分裂注 2 を行います 上側の細胞は始原細胞注 3 として活発な細胞分裂を行い 植物体のほとんどの器官 ( 花 葉 根 茎等 ) を作る一方で 下側の細胞は支持細胞として 根の一部を作るほかは 始原細胞の成長を支えます このように 受精卵の極性化と非対称分裂は 植物の形作りの出発点として非常に重要ですが 受精卵がどのように極性を生みだし どうやって非対称に分裂するのかについては これまで分かっていませんでした 図 1. 植物の上下軸が作られる様子 今回 研究グループは 植物の受精卵の内部構造をリアルタイムで観察し 細胞の大部分を占める液 胞注 4 が柔軟に形を変えながら下方向に移動することで 受精卵が極性化し 非対称に分裂することを初 めて発見しました 受精卵が極性化する過程での液胞のリアルタイム観察研究グループでは 実験に適したモデル植物であるシロイヌナズナを使って 液胞に蛍光タンパク質でマーカー ( 目印 ) を付け 未受精卵と受精卵の内部で 液胞の形や大きさがどのように変化するかをリアルタイムで観察しました ( ライブイメージング ) その結果 受精する前には細胞のほとんどを占めていた液胞が 受精すると急速に脱水して小さくなることが分かりました ( 図 2) 次いで 液胞は核の周りで細長い管状の構造を作り 核を避けるようにして徐々に下方向に移動することを発見しました 逆に 核は上方向に移動し 受精卵の上部に到達すると染色体を分配するため 非対称に分裂しました ( 図 2) 2

図 2. シロイヌナズナの野生型における受精前後の液胞の変化 液胞と核はそれぞれ緑色とピンク色で示しています 受精すると液胞が脱水して縮むので 受精卵は未受精卵よりも小さくなります その後 核 ( 矢尻 ) の周りで液胞は管状になり 徐々に下方向に移動します 逆に 核は上方向に移動し 非対称分裂に至ります 右上の数字はライブイメージング開始からの時間 ( 時 : 分 ) スケールバーは 10 マイクロメートル (µm) を表しています 06:40 時点の右下の像は 核の周りの拡大図を示しており 液胞が細長い管状になっていることが分かります 一番右側の像の括弧は上下の細胞の長さを表しています 液胞の柔軟性が損なわれた sgr2 欠損株における液胞のリアルタイム観察受精卵の中で液胞がダイナミックに形を変えながら 特定の方向に移動したことから 液胞は受精卵の極性化に重要な役割を担っているのではないかと考えられました そこで 液胞の形や働きに異常があることが知られている様々な株を集め 受精卵の非対称分裂に失敗する株があるかを調べました その結果 液胞の柔軟性が低下する ( 硬くなる ) ことが報告されている sgr2 欠損株注 5 において 受精卵が非対称に分裂できず 同程度の大きさの細胞に分かれることを見つけました そこで sgr2 欠損株の液胞にも蛍光タンパク質を付けてライブイメージングしました その結果 受精後の脱水といったサイズの変化は正常に起こるものの 液胞の形は常に球状で 管状の構造を作れないことが分かりました ( 図 3) また 液胞は下方向に移動できず 受精卵の上部に巨大な液胞が残るので それに阻まれて核が上部まで到達できなくなりました 最終的に 核が留まった位置で細胞が分かれるので 上下の細胞の大きさがほぼ同じになります ( 図 3) この結果から 液胞は柔軟に形を変えることで 下方向に移動できることが分かりました さらに 液胞が下側へ移動することは 反対側への核の移動をサポートし 非対称分裂を実現させる役割があることも 初めて明らかになりました 3

図 3. シロイヌナズナの sgr2 欠損株における受精前後の液胞の変化 液胞と核はそれぞれ緑色とピンク色で示しています 受精後の脱水は野生株と同様に起こりますが 核 ( 矢尻 ) の周りで管状の液胞が作られず 受精卵の上部に巨大な液胞が残ります この液胞に阻まれて 核は上部に到達できず 上下対称に近い分裂となります 右上の数字はライブイメージング開始からの時間 ( 時 : 分 ) スケールバーは 10 マイクロメートル (µm) を表しています 05:40 時点の右下の像は 核の周りの拡大図を示しており 管状の液胞がほとんど存在しないことが分かります 一番右側の像の括弧は上下の細胞の長さを表しています 液胞とアクチン繊維の関係の検討 sgr2 欠損株の観察結果から 液胞が上下に細長く伸びた管状の構造を作ることが 液胞の移動や受精卵の非対称分裂に重要であると考えられました 植田特任講師らの以前の研究によって 受精卵ではアクチン繊維注 6 が上下方向に並ぶことが分かっています ( 図 4) そこで 液胞はアクチン繊維に沿うことで 管状の形を作るのではないかと考えられました 実際に 液胞とアクチン繊維を同時に観察したところ 管状の液胞がアクチン繊維に沿っていることが分かりました ( 図 5) さらに sgr2 欠損株では アクチン繊維は上下に並んでいるものの それに沿った液胞が観察されませんでした ( 図 5) つまり 受精卵では 最初にアクチン繊維が縦方向に並び それに沿って液胞が柔軟に形を変えることで 管状の構造が作られることが分かりました そこで アクチン繊維を特異的に壊す阻害剤を投与したときに 液胞の形や移動が損なわれるかを調べました 阻害剤を加えた溶媒を与えた受精卵と 溶媒のみを与えた受精卵とを比較すると 阻害剤を加えた場合にのみ 管状の液胞が消失することが分かりました ( 図 6:3 時間後 ) さらに これらの条件下で受精卵を分裂させると 阻害剤を加えた場合でのみ 受精卵の上部に残った巨大液胞の存在により 核の移動が妨害され 受精卵が非対称分裂に失敗するという sgr2 欠損株と同じ異常が現れました ( 図 6:24 時間後 ) したがって アクチン繊維は 液胞が管状の構造を作る際の足場となることで 受精卵の極性化を支える役割があることが分かりました 図 4. 野生型におけるアクチン繊維の並びアクチン繊維と核はそれぞれ青色とピンク色で示しています ここに示した受精卵は極性化を完了した時期であり アクチン繊維は縦方向に ( 上下軸に沿って ) 並んでいます スケールバーは 10 マイクロメートル (µm) を表しています 4

図 5. アクチン繊維と液胞を同時に観察した受精卵アクチン繊維と液胞はそれぞれ水色とピンク色で示しています 野生株と sgr2 欠損株のそれぞれについて 点線で囲った領域の拡大図を右側に示しています 野生株では 上下方向に伸びたアクチン繊維に沿って管状の液胞が作られますが sgr2 欠損株では アクチン繊維はあるものの それに沿った液胞が観察されません スケールバーは 10 マイクロメートル (µm) を表しています 図 6. アクチン繊維を特異的に阻害した受精卵液胞と核はそれぞれ緑色とピンク色で示しています 左側の写真 2 枚 (3 時間後の像 ) の左下の像は 核の周りの拡大図を示しています 溶媒のみを投与した受精卵では 核の周りに管状の液胞が観察されますが アクチン繊維の阻害剤を加えた場合では 管状の液胞がほとんど存在しないことが分かります さらに アクチン繊維の阻害剤を与えてから 24 時間が経つと 受精卵はより対称に近い分裂を行い 上側の細胞にも巨大な液胞が受け継がれます スケールバーは 10 マイクロメートル (µm) を表しています 右側の写真 2 枚の括弧は 上下の細胞の長さを表しています 液胞の移動が植物の形作りに果たす役割の検討受精卵が非対称に分裂すると 液胞をほとんど持たない小さな始原細胞と 巨大な液胞を持つ大きな支持細胞が作られます sgr2 欠損株では 受精卵での液胞の動きが異常になった結果 上下の細胞がともに大きく 巨大な液胞を受け継ぐことになりました これが その後の形作りにどのような影響を与えるかを調べるために 種子の中にある幼植物 ( 胚 ) を観察しました 野生株では 上側の始原細胞として細胞分裂を繰り返した結果 葉や茎といった器官の原型が作られ始めます ( 図 7) sgr2 欠損株では これらの細胞のなかに巨大な液胞が残り 胚の形もいびつになります ( 図 7) さらに 器官の形成も損なわれ 本来は二枚の子葉が作られるべきところ 一枚や三枚になるといった異常が現れました ( 図 7) 植物では 活発に細胞分裂する細胞には ほとんど液胞が含まれないことが知られているため sgr2 欠損株では始原細胞に多くの液胞が受け継がれてしまったことにより 胚の発達が損なわれたと考えられます 図 7. 野生株と sgr2 欠損株の胚と植物体種子の中で発達中の胚 ( 左側の写真 2 枚 ) を比べると sgr2 欠損株でのみ 巨大な液胞 ( 点線で囲んだ領域 ) を持つ細胞が観察されます 若い植物体 ( 右側の写真二枚 ) では 野生株の子葉 ( 矢尻 ) は二枚なのに対し sgr2 欠損株の子葉は三枚あります 胚と植物体のスケールバーはそれぞれ 10 マイクロメートル (µm) と 1 ミリメートル (mm) を表しています まとめと今後の展望 本研究では 世界で初めて 植物の受精卵が極性化する際の液胞の動態をリアルタイムで観察しました さらに 液胞の柔軟性が低下した sgr2 欠損株や アクチン繊維を特異的に壊す阻害剤を組み合わせた解析によって 液胞のダイナミックな動きが 受精卵の極性化や非対称分裂に必須であることを発 5

見しました ( 図 8) さらに 受精卵の内部での液胞の移動は 上下に生じる細胞に引き継ぐ液胞の量を調節することで その後の形作りをサポートする役割があることも分かりました ( 図 8) ほとんどの植物において 未受精卵や受精卵は大きな液胞を持つことから 本研究が明らかにした仕組みは 植物に共通した普遍的な機構であると期待されます また 液胞が積極的に動くことで 細胞の極性化や形作りを制御するという発見は これまで受動的だと考えられてきた液胞のイメージを覆すものです 液胞は植物だけでなく 真菌類にまで保存された基本的な細胞内小器官のため 今後は 本研究を一層発展させ 液胞の動きを制御するメカニズムを解明することで 液胞の役割や形作りの仕組みについて さらに深く理解できると考えられます 図 8. 液胞が受精卵の非対称分裂と植物の形作りに果たす役割の模式図 受精すると 液胞は著しく脱水して縮みます 液胞はその後 上下方向に並んだアクチン繊維に沿って管状の構造を作り 下方向に移動します 空いた上部の空間に核が到達することで 非対称分裂が実現します これにより 上側の細胞には少量の液胞しか受け継がれず この細胞が始原細胞として活発に細胞分裂を行うことで 葉や茎といった器官が適切に作られます 用語解説 注 1: 極性化細胞の内部にある物質や構造体を特定の場所に集めることで 細胞内を不均一にすることです そうしてできた内部の偏りを極性と呼びます 注 2: 非対称分裂一般的な細胞分裂では 生じた二つの細胞の大きさや働きは同じですが 違う性質をもった細胞を生み出す細胞分裂もあり これを非対称分裂と呼びます 一般的に 非対称に分裂する細胞は 分裂する前にすでに内部に偏り ( 極性 ) を持っています 注 3: 始原細胞活発に細胞分裂を行う未分化な細胞で 動物における幹細胞に相当します 始原細胞の分裂によって生み出された娘細胞群が さまざまな細胞へと分化することで 組織や器官が作られます 注 4: 液胞細胞内にある小器官の一つで 多くの植物細胞では 細胞体積の大部分を占めています 液胞膜が細胞液を包んだ構造をしており 細胞の種類によって 細胞液のなかに含まれる成分は異なります 例えば 花びらの細胞では色素が多く含まれ 種子の細胞では栄養源となる貯蔵タンパク質が含まれます 注 5:sgr2 欠損株液胞膜で働くフォスフォリパーゼ ( リン脂質を加水分解する酵素 ) である SGR2 タンパク質が損なわれた株です sgr2 とは shoot gravitropism2 の略で この株はもともと 重力の方向を感知できない突然変異体として見つかりました その後の研究から sgr2 欠損株では 液胞膜の柔軟性が低下したことが原因となって 細胞内の流動性が失われることや その結果として 重力方向に移動するべき細胞内小器官 ( アミロプラスト ) が動かないせいで重力を感知できないことなどが判明しました 6

注 6: アクチン繊維 アクチンというタンパク質が連なった繊維状の構造体で マイクロフィラメントとも呼ばれます 細 胞の枠組みとして細胞の形を保つ働きや 細胞内の道路として物質を運ぶ働きがあります 論文情報 掲載雑誌 :Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 論文名 :Polar vacuolar distribution is essential for accurate asymmetric division of Arabidopsis zygotes ( シロイヌナズナ受精卵の正確な非対称分裂には 極性的な液胞の分布が必須である ) 著者 : DOI: Yusuke Kimata, Takehide Kato, Takumi Higaki, Daisuke Kurihara, Tomomi Yamada, Shoji Segami, Miyo Terao Morita, Masayoshi Maeshima, Seiichiro Hasezawa, Tetsuya Higashiyama, Masao Tasaka and Minako Ueda 木全祐資 ( きまたゆうすけ ) 加藤壮英 ( かとうたけひで ) 檜垣匠 ( ひがきたくみ ) 栗原大輔 ( くりはらだいすけ ) 山田朋美 ( やまだともみ ) 瀬上紹嗣 ( せがみしょ うじ ) 森田 ( 寺尾 ) 美代 ( もりた ( てらお ) みよ ) 前島正義 ( まえしままさよし ) 馳澤盛一郎 ( はせざわせいいちろう ) 東山哲也 ( ひがしやまてつや ) 田坂昌生 ( た さかまさお ) 植田美那子 ( うえだみなこ )) 10.1073/pnas.1814160116 論文公開 : 2019 年 1 月 15 日午前 5 時 ( 日本時間 )/ 2019 年 1 月 14 日午後 3 時 ( 米国 EDT 時間 ) 研究費 日本学術振興会 (JSPS) 科学研究費助成事業新学術領域 植物細胞壁機能 (JP24114007) 新学術領域 環境記憶統合 (JP15H05962 JP15H05955) 新学術領域 植物発生ロジック (JP16H01235) 新学術領域 植物新種誕生原理 ( JP16H06465 JP16H06464 JP16K21727 JP17H05838) 新学術領域 ABiS ( JP16H06280) 若手研究 (A)( JP25711017) 若手研究(B)( JP16K18687) 基盤研究 (A)( JP26252011) 基盤研究(B)( JP16H04802 JP17H03697) 挑戦的萌芽 (JP16K14753 JP17K19380) 特定領域研究 (JP16085205) 特別研究員 (DC2)( JP18J10512) 科学技術振興機構 (JST) さきがけ PRESTO 本件お問い合わせ先 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) ホームページ :http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp < 研究内容 > 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) 特任講師植田美那子 TEL:052-789-5510 E-mail:m-ueda@itbm.nagoya-u.ac.jp 7

< 報道対応 > 名古屋大学 ITbM リサーチプロモーションディビジョン特任准教授佐藤綾人 TEL:052-789-6856 FAX: 052-789-3053 E-mail:press@itbm.nagoya-u.ac.jp 名古屋大学総務部総務課広報室 TEL:052-789-2699 FAX:052-789-2019 E-mail:kouho@adm.nagoya-u.ac.jp WPI-ITbM について (http://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/) 文科省の世界トップレベル拠点プログラム (WPI) の一つとして採択された名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM) は 従来から名古屋大学の強みであった合成化学 動植物科学 理論科学を融合させることで研究を進めています ITbM では 精緻にデザインされた機能をもつ全く新しい生命機能の開発を目指しています ITbM における研究は 化学者と生物学者が隣り合わせで研究し 融合研究を行うミックス ラボという体制をとっており このような ミックス をキーワードに 化学と生物学の融合領域に新たな研究分野を創出し トランスフォーマティブ分子を通じて 社会が直面する環境問題 食料問題 医療技術の発展といった様々な議題に取り組んでいます 8