兵庫生物08_甲子園浜_4.indd

Similar documents
小笠原諸島における海岸漂着物対策推進計画

城北公園・ワンドで観察された生き物調査報告書 コース4

表 (2) カワラハンミョウ成虫 ヤマトバッタ調査ラインの状況 区域ライン設置場所植生の状況 4 不安定帯 ~ 半安定帯 コウボウムギ群落 植被率 5% 程度 2 5 半安定帯コウボウムギ群落 植被率 10% 程度 6 半安定帯 ~ 安定帯 ビロードテンツキが混じるコウボウムギ群落 植被

untitled

0



7 14

勘定科目別経理セミナー

ai

untitled

- 82 -

Microsoft Word - 文書4

_0112_ ai

大崎市耐震改修促進計画(案)


第6回 熊本市自治基本条例検討委員会会議録

untitled



③ 120517 政令市実施予定(継続・新規)

untitled


平成14年度 第一回東京都スポーツ振興審議会(第20期) 議事録

2

01_表紙_修


PSCHG000.PS


< F2D89D482CC82B582AD82DD89F090E02E6A746463>

Microsoft Word - 本文第6-1章永松先生■砂丘の動植物

平野・加美周辺で観察された生き物調査報告書 コースNo

- -


生き生き地球館活動

第3次_表紙.ec6

平野・加美周辺で観察された生き物調査報告書 コースNo

平野せせらぎの里周辺生き物調査報告書 コースNo

平成 22 年度 水辺環境調査報告書 (1) 荒川 葛西沖 植物 鳥類

<4D F736F F D20315F8A438ADD95DB91538E7B90DD82CC90AE94F582C98AD682B782E98A D5F91E F F >

29.indd

図 Ⅳ-1 コマドリ調査ルート 100m 100m 100m コマドリ調査ルート 図 Ⅳ-2 スズタケ調査メッシュ設定イメージ 17

. 角の二等分線と調和平均 平面上に点 を端点とする線分 と を重ならないようにとる, とし とする の二等分線が線分 と交わる点を とし 点 から に垂直に引いた直線が線分 と交わる点 とする 線分 の長さを求めてみよう 点 から に垂直な直線と および との交点をそれぞれ, Dとする つの直角三

小学校

Taro 川原の植物.jtd


05浜松湖東高_江間龍汰

< 外力条件 > 海面上昇量 0.10 m 0.30m 0.50m 0.90mについて検討 詳細検討モデル地区の選定 各詳細検討モデル地区において検討対象となる施設等の整理 各施設毎の影響評価方法 ( 影響評価の判断基準 ) 影響評価 各詳細検討モデル地区の影響評価結果及びその特徴の分析 各詳細検討

ハマヒルガオとヒルガオの比較 エンドウの野生種の中では 特に大きな花をつけ ハマヒルガオ同様に大群落を形成します ハマヒルガオの種子を採取し 発芽試験を行いました シャーレにガーゼを敷き そこに 10 粒の種子をおき 水をかけてその後の発芽の様子を観察しました 6 月にできた種子は 休眠をしないで

(b) 流れ及び波浪の状況 a) 波浪 ( 波向 波高 ) ( ア ) 経時変化及び最大値顕著な高波浪を記録した夏季について 海域ごとの代表地点における経時変化を図 に示します また 各調査地点における最大値を資料編に示します 波浪調査地点 注 ) 波浪の経時変化 ( 図 -6.

No.7 調査地点 : 北山崎 痕跡の種類 : 津波石自然公園 : 陸中海岸国立公園 ( 地種区分 : 特別保護地区 ) 調査日時 : 2011 年 7 月 12 日 15 時 55 分 天気 : 晴れ潮汐 ( 久慈 ) 干潮 06:58 18:19 概要 満潮 15:01 23:45 北山崎から海

新理科1年第3版01

台風23 集約情報_14_.PDF

ンゴ類及びその他底生生物 ) の生息状況を観察した ジグザグに設置したトランセクト ( 交差することのないよう, かつ, 隣り合う調査線の視野末端が重複するように配置された調査線 ) に沿って ROV を航走させ トランセクト上に宝石サンゴがあった場合は 位置 種 サイズ等を記録した 同時に海底の操

6 月 (19:34) 5 月 (19:21) 石垣島 ( 川平石埼 ) 春分の日秋分の日 3 月 1 日頃 ~ 10 月 14 日頃まで 3 月 1 日 ~20 日頃 9 月 23 日 ~10 月 13 日頃は 鳩間島に夕日が沈みます : 川平石埼から見た各月の 15 日の日没方向 御神埼 川平石

untitled

奄美地域の自然資源の保全・活用に関する基本的な考え方(案)

貝類多様性研究所/泡瀬干潟を守る連絡会

!7 76

: 調査地域 予測地域 図 現地調査による重要な動植物種と環境類型区分図との重ね合わせ結果 重要な種の保護の観点から 確認地点は表示しない 5-45


,,

Taro13-学習ノート表紙.PDF


( 表紙 )

untitled

( ) () ( ) 12/6

2017 年 2 月 6 日 アルビノ個体を用いて菌に寄生して生きるランではたらく遺伝子を明らかに ~ 光合成をやめた菌従属栄養植物の成り立ちを解明するための重要な手がかり ~ 研究の概要 神戸大学大学院理学研究科の末次健司特命講師 鳥取大学農学部の上中弘典准教授 三浦千裕研究員 千葉大学教育学部の

2

石川県白山自然保護センター 普及誌「はくさん」 第34巻第1号

mot_access_barrier-free改

オアシスの森の アカマツ林再生プロジェクト について 環境カウンセラー高岡立明 (1) 名古屋市では 長期未整備公園緑地を オアシスの森 方式で 市民と協働で整備しようとしています 相生山緑地の北半分は その先駆的典型とされました これまで進められてきた相生山の アカマツ林再生プ


2016 年 05 月 13 日 金 13:00 21:00 ( 株 ) 石 川 ミリオンスターズ BCリーグ 公 式 戦 2016 年 05 月 14 日 土 9:00 18:00 市 民 スポーツ 課 プロスポーツ 応 援 デー 2016 年 05 月 15 日 日 8:00 17:00 北 陸

untitled

untitled

untitled

植物のつくりとはたらき のまとめ (1) 問題解答図 1 1. 図 1 は, 何の種子ですか 図 1 の, どこに養分をたくわえま 2. すか 記号と名前を答えなさい 3. 図 1 の, はい はどこですか 記号 3. で答えなさい 4. はい のはたらきを答えなさい 図 1

w 2 22

(1) (2)


Microsoft Word - 8_vol3.doc

Microsoft Word - 「子ども・若者の『居場所#D1.doc


2

第 1 章環境監視調査の項目及び調査の手法 1.1 調査項目及び調査時期 平成 28 年度に実施した事後調査の調査項目及び調査時期を表 に 調査 工程を表 に示します だみ 大気質 表 平成 28 年度に実施した環境監視調査の調査項目

東成・生野周辺で観察された生き物調査報告書 コースNo

.

老いても美しく輝くために

No No


ハンドル形電動車いす(編集用)

Microsoft Word - ホタテガイ外海採苗2013


表1-表4

untitled


DNA 抽出条件かき取った花粉 1~3 粒程度を 3 μl の抽出液 (10 mm Tris/HCl [ph8.0] 10 mm EDTA 0.01% SDS 0.2 mg/ml Proteinase K) に懸濁し 37 C 60 min そして 95 C 10 min の処理を行うことで DNA

2

相加平均 相乗平均 調和平均が表す比 台形 の上底 下底 の長さをそれぞれ, とするとき 各平均により 台形の高さ はどのように比に分けられるだろうか 相乗平均は 相似な つの台形になるから台形の高さ を : の 比に分ける また 相加平均は は : の比に分けます 調和平均は 対角線 と の交点を

Transcription:

兵庫生物 15(3): 177-181,2017 2016 年甲子園浜植生調査 兵庫県生物学会阪神支部 はじめに第二次世界大戦後の高度経済成長で内湾奥の大都市の多くは, 埋立てなどで自然環境が失われた 甲子園浜も埋立ての計画があったが, 住民の反対で何とか自然を守りきった しかし, この数十年で甲子園浜の周りは, 埋立て地 人工島 波打ち際の防潮堤そして武庫川一文字の防波堤に囲まれた このような状況であるが, 甲子園浜の自然を知ることは本来の大阪湾奥の自然を知る手掛かりとなる 2016 年も春にトランセクトAを, 秋にトランセクトA,B,Cを調査したので報告する 今年は昨年より早い時期に調査したので, オオフタバムグラはまだ枯れてはいなかった 参加者名 5 月 7 日の参加者は次のようであった 北方英二, 谷良夫, 阪口正樹, 植田好人, 石井教寿, 石川正樹 ( 以上, 会員 ), 菖蒲大輝 ( 県立川西明峰高校 3 年 ), 池田彰人 ( 県立伊丹高校 2 年 ), 阿部奏穂, 藤山佳穂, 入江祐樹, 田中健太, 林亮太朗, 髙田一翔, 今村拓未 ( 以上, 県立尼崎小田高校 2 年 ), 二宮夏来, 船引大世, 松原郁弥 ( 以上, 県立神戸商業高校 3 年 ), 森光春平, 松崎慎平, 本山将也 ( 以上, 県立神戸商業高校 1 年 ), 東山直美, 岸川由紀子, 岩﨑博子, 向山裕子 ( 以上,NPO 法人海浜の自然環境を守る会 ) の25 名で行った 10 月 2 日の参加者は, 北方英二, 谷良夫, 阪口正樹, 石井教寿, 石川正樹, 豊國史健 ( 以上, 会員 ), 菖蒲大輝 ( 県立川西明峰高校 3 年 ), 村山湧輝, 黒田英資 ( 以上, 県立川西明峰高校 2 年 ), 髙田一翔, 阿部奏穂 ( 以上, 県立尼崎小田高校 2 年 ), 森光春平 ( 県立神戸商業高校 1 年 ), 東山直美, 向山裕子 ( 以上,NPO 法人海浜の自然環境を守る会 ) の14 名であった 調査方法 2002 年に砂浜の調査ラインを設定した 防潮堤遊歩道の浜側縁石が一直線なので, それを基準線として海に向かって直角に調査ラインを設定した 浜甲子園一丁目の入り口付近の遊歩道がスロープになっている 西側のスロープを下りきって, 水平面に交わる線と基 2016 年 12 月 22 日受理 準線との交点を原点とした そこにトランセクトAを設定し, 北西方向に100mごとにトランセクトB,Cを設定した それぞれ調査ラインの幅 1mを植生調査した 各トランセクトの1m 四角の方形枠内の植物を,Braun-Blanquet(1964) の植物社会学的方法で記録した 調査結果 トランセクトA( 表 1,2) ここは昔からある砂浜である コンクリートの階段部分は調査区番号 0 5および6の途中までである 5 月 7 日の調査 ( 表 1) では,16 種類とイネ科植物の幼個体を認めた 植生の最前線は45.7m 地点でコウボウシバが生育していた 波打ち際は56.8m 地点であった (11:30) 昨年も観察できた植物は, オランダミミナグサ, カラスノエンドウ, ギョウギシバ, コウボウシバ, コマツヨイグサ, スズメノチャヒキ, タチイヌノフグリ, ノミノツヅリ, ハマスゲ, ハマヒルガオ, ヘラオオバコ, ホソムギの12 種類であった オオフタバムグラ, コセンダングサ, コメツブツメクサ, ランタナ, イネ科植物幼個体は今年出現したが, 昨年は見なかった コセンダングサとランタナはコンクリート階段の隙間に出現した コセンダングサは最近見るようになった オオフタバムグラはこの時期に芽生えて夏と秋に花を咲かせる 昨年観察できたが今年は観察できなかった植物は, アレチノギクとメマツヨイグサであった これらの植物は甲子園浜には今年も生えていて, トランセクトA, B,Cに見られなかっただけである 10 月 2 日の調査 ( 表 2) では,12 種類と単子葉 ( イネ科 ) の芽生えを認めた 植生の最前線は46.0mのコウボウシバであった 波打ち際は53.5mであった (11:30) 昨年も観察できた植物は, オオフタバムグラ, ギョウギシバ, コウボウシバ, コマツヨイグサ, ハマスゲ, ハマヒルガオ, ヘラオオバコ, メヒシバの8 種類であった エノコログサ, コセンダングサ, スベリヒユ, ホソムギ, 単子葉の芽生えは今年出現したが昨年見なかった これらの出現場所は調査区番号 6と8でコンクリート階段のそばであり, 植物がよく繁茂する場所で -177-

ある 昨年観察したが今年は観察できなかった植物は, アメリカネナシカズラとランタナであった アメリカネナシカズラは地域の人達が熱心に退治をしている ランタナはたまたま調査の枠内に入らなかっただけで, コンクリート階段の隙間に住み着いている トランセクトB( 表 3) ここは養浜部である 武庫川川底の砂利で養浜した砂礫浜である コンクリート部分は調査区番号 0 2と 3のほとんどである トランセクトAから100m 北西に位置する 10 月 2 日の調査 ( 表 3) では,11 種類の植物と双子葉の芽生えと単子葉の芽生えを認めた 植生の最前線は 57.0mのコウボウシバであった 波打ち際は64.0mであった (12:25) 昨年と今年ともに出現したのは, オオフタバムグラ, ギョウギシバ, コウボウシバ, コマツヨイグサ, ハタガヤ, ハマヒルガオ, ヘラオオバコ, メヒシバの8 種類であった 昨年観察できなかったが今年観察できたものは, アカザ, ブタクサ, ミチヤナギ, 双子葉の芽生え, 単子葉の芽生えであった ブタクサは調査区番号 5に出現したが, アカザとミチヤナギはともに波打ち際の調査区番号 55に出現した 2 種類ともトランセクトBだけではなく養浜部の波打ち際のそこかしこに出現している 昨年観察していたが今年観察できなかったものは, ハマスゲである 昨年調査区番号 44にのみ出現したが, 今年は出なかった トランセクトC( 表 4) ここも養浜部である 武庫川川底の砂利で養浜した砂礫浜である トランセクトBからさらに100m 北西に位置する コンクリート部分は調査区番号 0と1のほとんどである 10 月 2 日の調査 ( 表 4) では,11 種類の植物と双子葉の芽生えと単子葉の芽生えを認めた 植生の最前線は 64.8mのコウボウシバであった 波打ち際は72mであった (13:20) 昨年と今年ともに出現したのは, エノコログサ, オオフタバムグラ, コウボウシバ, コマツヨイグサ, ハタガヤ, ヘラオオバコ, メヒシバ, ヨモギの8 種類であった 昨年観察できなかったが今年観察できたものは, クグガヤツリ, ハマヒルガオ, マメグンバイナズナ, 双子葉の芽生え, 単子葉の芽生えであった クグガヤツリは一昨年の調査で出現している マメグンバイナズナは今年遊歩道近くでよく見かけた 今年見なくなったのは, イヌホオズキとコスズメガヤであった ともに昨年は遊歩道近くに生育していた 考察 2016 年は 7 月まで台風が発生しなかった 8 月に入り 矢継ぎ早に発生した 幸いにも甲子園浜に被害を与えるようなことはなかった しかし, 大雨や強風で浜にはよくゴミがもたらされた 例えば,6 月 25 日未明の大雨で甲子園浜の波打ち際にゴミが大量に打ち寄せられ, カラスも餌を探しに多数集まっていた ( 写真 6,7) このゴミも2015 年ほど多くはなかった NPO 法人海浜の自然環境を守る会の人達は, 市内の企業にも協力をいただいて甲子園浜の清掃を行っている また, アメリカネナシカズラを引き抜く作業を行い, 本調査にも協力いただいている トランセクトBでは, 双子葉の芽生えと単子葉の芽生えを観察した この時期にはすでに来春に向けての植物の活動が始まっていることが分かる ハマスゲは, 2015 年調査区番号 44に出現したが, 今年は出現しなかった コウボウシバは昨年も今年も調査区番号 44には出現していないので, この2 種の植物を見間違ったのではないようだ 枯れたのかトランセクトが少しずれたのか定かではない トランセクトCでは, クグガヤツリは遊歩道近くの調査区番号 10にのみ出現した 2015 年には出現せず, 2014 年には出現している 年によって生え方に疎密が出来るのであろう ハマヒルガオは一昨年の調査区番号 58 +,59 + に出現し, 昨年は出現しなかった 今年は58 1, 59 1 であった 昨年はトランセクト設定時に少しずれたのであろう 甲子園浜全体の植生最前線を観察するとコウボウシバとハマヒルガオを良く見かける 養浜部西側ではアカザ, ミチヤナギも植生最前線に見かける トランセクトBでも見かけた 6 月 25 日の波打ち際に寄せられたゴミに, アカザやミチヤナギの種子が運び込まれていたのだろう アサガオ ( 写真 3) も波打ち際近くに花を咲かせている 波打ち際は, 海からの植物の種子を受け入れる窓口になっているのだろう 甲子園浜のコウボウシバの群落は養浜部の汀線付近に広がり, 緑色が見事である その内側にコマツヨイグサの群落, さらにその内側にヘラオオバコの群落が発達している コウボウシバの群落にはアカザ, エノコログサ, メヒシバ, ミチヤナギも入り込んでいる 武庫川の川底の砂利を使って養浜された浜は,20 年を経て上述の群落が形成されている 海浜植物群落の すみわけ が行われているようだ 甲子園浜のような大きい砂浜は兵庫県では数少ない ここは貴重な砂浜だけでなく, 海浜植物研究にとって格好な場所であろう 今後の詳細な調査が必要である 引用文献 Braun-Blanquet. J. 1964. Pflanzensoziologie. 3Aufl.865pp. Springer-Verlag., Wien. ( 文責 : 阪口正樹 ) -178-

写真1 甲子園浜遠景 トランセクトAを調査中 2016.10.2 写真2 ナヨクサフジ トランセクトAとBの間に生育 2016.5.8 写真3 アサガオ 汀線近くに生えている 2016.9.30 写真4 コセンダングサ 遊歩道近くに生えている 2016.9.30 写真5 ナンキンハゼ芽生え 汀線付近に生えている 2016.9.30 写真6 大雨後の甲子園浜 群れるカラスとウインドサ ーファー 2016.6.25 写真7 中央に屏風岩 左隅に環境センターが見える 2016.6.25 179

表 1 甲子園浜トランセクト A 表 2 甲子園浜トランセクト A -180-

表 3 甲子園浜トランセクト B 表 4 甲子園浜トランセクト C -181-