院内感染対策マニュアル

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2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

水痘(プラクティス)

インフルエンザ(成人)

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両面印刷推奨 <4 種ウイルス疾患 ( 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ) フローチャート> 医療機関の記録または母子手帳でワクチンを接種したことが A B C 2 回確認できる 1 回確認できる 全く確認できない D または E のどちらかを選ぶ D E 前回接種より少なくとも 1 ヶ月以上あけ

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

Vol. 32 Suppl.II,2017 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ( ムンプス ) に関する Q&A の公開にあたって 日本環境感染学会では 平成 21 年 5 月に 院内感染対策としてのワクチンガイドライン第 1 版 を 平成 26 年 9 月に 医療関係者のためのワクチンガイドライン

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検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

Ⅰ. ウイルス感染症の持込防止 1. ウイルス感染症の持込防止 感染症で緊急入院する場合は この限りではない 1) 入院時の問診 診察 (1) 入院時 ウイルス感染の罹患歴 ワクチン歴 ウイルス感染症患者との 1 ヶ月以内の接触歴について問診するとともに 発疹の有無など診察を行う インフルエンザ ノ

検査項目情報 水痘. 帯状ヘルペスウイルス抗体 IgG [EIA] [ 髄液 ] varicella-zoster virus, viral antibody IgG 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F

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ハイリスク患者 免疫抑制者における播種性水痘 悪性腫瘍患者の死亡率は 7-17% 成人 妊婦 新生児 肺臓炎 年齢による水痘の頻度と死亡率 0~4 5~14 15~44 45~64 >65 頻度 ( 対人口

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6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

医療機関での麻疹対応ガイドライン第七版 国立感染症研究所感染症疫学センター 平成 30 年 5 月

<4 種ウイルス疾患 ( 麻疹 風疹 水痘 流行性耳下腺炎 ) フローチャート> 医療機関の記録または母子手帳でワクチンを接種したことが A B C 2 回確認できる 1 回確認できる全く確認できない D E 前回接種より少なくとも 1 ヶ月以上あけて さらに 1 回ワクチン接種を受ける 抗体検査を

あり 一人の感染者が周囲の免疫のないヒトに感染させる数である基本再生産数は 10 流行を抑制するための集団免疫率は 90% 以上です 水痘の潜伏期間は通常 14~16 日間です 水痘ワクチンの定期接種が行われている米国では 1 回定期接種を行っていた 1996 年から 2004 年までの間に 水痘患

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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針刺し切創発生時の対応

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

Microsoft PowerPoint - 感染対策予防リーダー養成研修NO4 インフルエンザ++通所

定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

平成 30 年度栄養サポートチーム専門療法士臨床実地修練研修プログラム 大阪国際がんセンター 栄養サポートチーム

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案1 SIDMR

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

症化することからハイリスクとされています VZV は細胞親和性が強く cell-to-cell にウイルスが感染するため ウイルス増殖の抑制には液性免疫よりも細胞性免疫が重要であります このため 特に細胞性免疫機能の低下した宿主においては極めて重篤となり 致死的な経過をたどることが少なくありません

インフルエンザ院内感染対策

外来部門

 

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り 2. 平成 3 年 月 29 日 ~ 3 月 4 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

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<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り. 平成 3 年 2 月 5 日 ~ 3 月 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

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熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

日産婦誌58巻9号研修コーナー

B型肝炎ウイルス検査

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感染症情報22週(週報)

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妊婦の推定感染経路 2 番目は 妊婦さんの推定感染経路です 2011 年は中国 ベトナムなど海外で感染した夫や本人です 海外からの感染に注意が必要でした ところが 2012 年は夫 同僚から妊婦さんへの感染が認められたので 同居家族 同僚のワクチン接種を勧めるよう喚起しました さらに 2013 年に

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

やまぐち子育て福祉総合センター実績報告 専門研修 子どもを感染症から守ろう ~ 登園の感染症 10 年戦争!!~ 日時 11 月 17 日 ( 木 )14:00~15:40 場所 山口市立山口保育園 2 階遊戯室講師 社会福祉法人光善会理事長 大内すこやか保育園野瀬橘子先生参加人数 70 名 内容

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

外来トリアージ

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2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

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インフルエンザ、鳥インフルエンザと新型インフルエンザの違い

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DPT, MR等混合ワクチンの推進に関する要望書

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

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Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

ロタウイルスワクチンは初回接種を1 価で始めた場合は 1 価の2 回接種 5 価で始めた場合は 5 価の3 回接種 となります 母子感染予防の場合のスケジュール案を示す 母子感染予防以外の目的で受ける場合は 4 週間の間隔をあけて2 回接種し 1 回目 の接種から20~24 週あけて3 回目を接種生

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熊本県感染症情報 ( 第 14 週 ) 県内 165 観測医の患者数 (4 月 4 日 ~4 月 10 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 10 8 ヘルパンギーナ 6 5 咽頭結膜熱 A 群溶血性連鎖球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

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2009年8月17日

感染症の基礎知識

鹿児島県感染症発生動向調査事業 ( 内容に関するお問い合わせ : 健康増進課感染症保健係 ) 感染症のホームページアドレス 第 20 週の手足口病の定点当た

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事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

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2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

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2. 予防 1) 予防接種 入院している多くの免疫不全患者への感染源にならないためにも 病院で勤務するすべての 職員に対してインフルエンザワクチンの接種を推奨する ただし過去にインフルエンザワクチンで 重症なアレルギー反応があった者は禁忌である 接種可能かどうかの相談は感染管理担当課で 行う 患者へ

B型肝炎ウイルス検査

報告風しん

神戸市感染症発生動向調査週報 1 年 月 11 日作成 全数把握対象感染症発生状況 ( 三類感染症細菌性赤痢 ) 女 5 代 - 1 年 月 5 日 1 年 月 日 sonnei(d 群 ) 分離 同定による病原体の検出 ( 便 ) なし 接触感染 第 13 週報告患者の家族 全数把握対象感染症発生

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

4) アウトブレイクに介入している 5) 検査室データが疫学的に集積され, 介入の目安が定められている 4. 抗菌薬適正使用 1) 抗菌薬の適正使用に関する監視 指導を行っている 2) 抗 MRSA 薬の使用に関する監視 指導を行っている 3) 抗菌薬の適正使用に関して病棟のラウンドを定期的に行って

講義資料(1)

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目次 石巻赤十字病院の概要 1 防火 防災管理 2 感染防止対策について 4 機密保持及び個人情報保護 9

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インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症

第 4 章感染患者への対策マニュアル ウイルス性肝炎の定義と届け出基準 1) 定義ウイルス感染が原因と考えられる急性肝炎 (B 型肝炎,C 型肝炎, その他のウイルス性肝炎 ) である. 慢性肝疾患, 無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない. したがって, 透析室では HBs

別記様式 7-2 感染症発生動向調査 ( インフルエンザ定点 ) 調査期間平成年月日 月日医療機関名 : 性別 歳 歳以上 合計 ( 注 ) *

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Transcription:

7-1. 病原体別予防策 ( ウイルス ) の概要 Ⅰ. 概要 1. 感染経路 1) 空気感染とは, 咳, くしゃみ, 会話によって飛び散った大きな粒子が乾燥して5μm 以下の微細粒子 ( 飛沫核 ) となり, これが空気中に浮遊し感染を起こすものである 患者の病室は陰圧換気ができる空調対策が施されていることが望ましい 水痘, 播種性帯状疱疹, 麻疹に加えて, インフルエンザでも起こりえる 2) 飛沫感染とは, 患者が咳やくしゃみをした時のしぶきに含まれる病原微生物を, 周囲の人が吸い込むことで感染をおこす この場合, 病原微生物が届く範囲は, しぶきの届く範囲 (1~2m) に限られる 水痘, 麻疹, インフルエンザ, 風疹, ムンプスなどで起こる 3) 接触感染とは, 皮膚や粘膜との直接的な接触, または医療従事者の手や聴診器などの器具, その他手すりなど患者周囲の物体表面を介しての間接的な接触で病原体が付着することで感染をおこす アデノウイルス, 単純ヘルペスウイルス, 水痘, ロタウイルス, インフルエンザ,RSウイルスなどで起こる 2. 院内感染の予防 1) 入院患者によるウイルス感染症の持込みを防ぐための注意 1 小児患者の入院時にウイルス感染の罹患歴, ワクチン歴, ウイルス感染症患者との1 か月以内の接触の有無についての問診, 発疹の有無などの診察を行なってから入院とする 小児ウイルス感染 ( 麻疹, 風疹, 水痘, ムンプス ) の罹患歴, ワクチン歴は, オンライン画面の患者情報欄に入力することが可能である 2 小児患者の場合, 原因不明の発熱, 咳などを認めたとき, ウイルス感染症に罹患している可能性が高いので, 入院の延期あるいは個室への隔離等にて2 次伝播を予防する 3 入院患者が外出や外泊から帰棟した時点で, 小児ウイルス感染の症状 ( 発熱, 発疹, 耳下腺や顎下腺の腫脹など ) や周囲の発症者の有無に注意する 病原体別予防策 ( ウイルス ) の概要 (H28.5 改訂 )-1

麻疹 風疹 水痘 ムンプスを病棟に持込まないために入院時あるいは外出や外泊から帰棟した時点で確認すること 1. 患者 1~3 いずれかの症状の有無 1 発熱 (37.8 度以上 ) 2 発疹 3 耳下腺 顎下腺の腫脹 いずれも該当なし なし 1 つ以上に該当する 主治医の判断で該当診療科を受診させる ( 皮膚科 耳鼻咽喉科 小児科 内科 ) 麻疹 風疹 水痘 ムンプスの可能性 あり 2. 患者周囲の発症者の有無 家庭 職場 学校 幼稚園等で麻疹 風疹 水痘 ムンプスの発症者と接触した 該当なし 抗体あり 該当する 主治医の判断で患者の血清 IgG 抗体検査を実施 ( 保険診療 ) 患者の対応検査結果判明までサーシ カルマスク着用発症の有無観察 抗体なし 問題なし 感染制御部相談 問題なし 感染制御部相談 2) ウイルス感染症疑いの患者が入院したときの注意 1 特定のウイルス感染症が疑われる場合, 患者のケアは非感受性者が優先して行なう 2 患者への面会を制限する 3) 医療従事者の抗体検査とワクチン接種 1 毎年春に実施される職員健康診断に合わせて 麻疹 風疹 水痘 ムンプスの抗体価検査が測定される 但し 過去の健診で 十分な抗体あり と判定された場合には 検査の対象外となる 2 抗体価が不十分な職員のうち希望者にはワクチンが実施される ワクチン接種後に抗体検査を行い 十分な抗体価を獲得できたか否かを検討する 3 当院で2 回のワクチン接種を行ったにもかかわらず 十分な抗体価を獲得できなかった職員については それ以降のワクチン接種の対象とはならず 抗体検査も行わない 医療従事者の抗体検査とワクチン接種に関するまとめ 疾患名 抗体測定法 十分な抗体あ 陰性 十分な抗体なし り ワクチン接種対象ワクチン接種対象ワクチン接種非対象 麻 疹 PA 法 <16 倍 16, 35, 64 倍 128 倍 風 疹 HI 法 <8 倍 8 倍 16 倍 病原体別予防策 ( ウイルス ) の概要 (H28.5 改訂 )-2

水痘 EIA 法 (IgG) (-) (+-) (+) 水痘 IAHA 法 <2 倍 2 倍 4 倍 ムンプス EIA 法 (IgG) (-) (+-) (+) 3. 入院患者にウイルス感染症の疑いが生じた時の対応具体的な対策は 7-2 以降の各論 を参照 1) 臨床的に診断を速やかに行い, 患者を隔離する 可能であれば退院させる 疑いの患者は, 診断が確定するまで隔離または退院とする 2) 既往歴の確認も重要である 発症当時の臨床症状を詳しく聞き, 疑った疾患と矛盾しないか, 当時, その疾患が学校や家庭内で流行していたか等を確認する 該当疾患が流行していた時の臨床診断は正しい可能性が高い その後, 該当疾患患者と接触があったが発症しなかった場合には, 該当疾患の抗体を獲得している可能性が高い 3) 以下の場合は, 患者の抗体検査を行う 1 既往歴が明らかでない場合 ( 風疹の臨床診断は, 流行時以外は間違っている場合が多く, 流行性耳下腺炎の臨床診断は, 片側性の耳下腺腫脹の場合は間違っていることがあるので注意が必要である ) 2ワクチン歴がない場合 ( ワクチン歴がある場合でも, ワクチン接種後長く経過していると抗体が減少して, 罹患する可能性がある ) 4) 抗体検査を行う場合には,EIA-IgG/IgM 抗体検査を提出する 但し,EIA-IgM 抗体検査には非特異的反応があること, 初感染の場合でもIgM 抗体が陽性にならない場合があること,IgM 抗体陽性でも再感染を否定できないことなど,1 回の抗体検査で得られる情報は限定されている そのため, 急性期と回復期 (2~3 週後 ) のペア血清でIgG 抗体価が2 倍以上 (EIA 法 ) 上昇したものを有意と判定し, 感染を再確認する方が確実である 4.2 次感染予防 1) 患者と接触した患者, 医療従事者などの既往歴, ワクチン歴, 抗体検査歴を確認する 接触の程度( 病室内, 病棟内, 院内学級など ) 感染時期を明らかにする 2)2 次感染が予想される患者や医療従事者に対しては, それぞれの疾患に対して適切に対応する 特に免疫不全の患者が麻疹, 水痘に感染した可能性がある時は, 発症時期に入院して経過を注意深く観察しなければならない 3)2 次感染者も可能であれば, 発症時期から発症前のウイルス排泄時期を予測し隔離するか, 可能であれば退院とし3 次感染を予防する 4) 感染時期, 発症時期, ウイルス排泄時期からそれぞれのウイルス排泄の時期を予想できるが, かなりの幅になるので, 注意が必要である 病原体別予防策 ( ウイルス ) の概要 (H28.5 改訂 )-3

付 1) 潜伏期とウイルス排出期間 疾患潜伏期ウイルス排出期間 麻疹 10~12 日感染 7 日後 ( 発病 3 日前 )~ 発疹出現 5 日後 水痘 14~20 日 発疹出現 2 日前 ~ 水疱が全て痂皮形成するまで ( 水疱出現 5-7 日後まで ) 風疹 14~21 日発疹出現 7 日前 ~ 出現 5 日後 ムンプス 14~21 日発症 7 日前 ~ 発症 9 日後 伝染性紅斑 17~25 日 感染 7~14 日後 ( 発疹出現時にはウイルスを排出しない ) インフルエンザ 1~2 日 発症 2 日前 ~ 発症 5 日後 ヘルパンギーナ 2~4 日 感染 3~7 日後 手足口病 5~6 日 咽頭 : 発病後 1~2 週, 便 : 発病後 3~5 週 咽頭結膜熱 5~7 日 一定せず ( 便は長期 ) RSウイルス 3~5 日 発病 1~2 週後まで ロタウイルス 1~3 日 下痢改善 2~5 日後まで 付 2) 水痘, 麻疹に対するワクチンによる発症防御 感染 ( 曝露 ) 後,3 日以内に行うと発症を防御できる可能性があるが, その効果は絶対的なものではない 生ワクチンのため, 免疫不全状態患者には絶対に投与しない 付 3) 水痘, 麻疹に対するγグロブリンによる発症防御 感染 ( 曝露 ) 後,4~5 日以内に行うと発症を防御できる可能性があるが, その効果は絶対的なものではない 麻疹の筋注用 γグロブリンは, 入手に時間を要するため常備していない 静注用で対応する 血液製剤であるため, 患者が発症した場合の危険性 ( 免疫不全状態の患者など ) を考 病原体別予防策 ( ウイルス ) の概要 (H28.5 改訂 )-4

慮して投与を決める 付 4) 水痘, 麻疹に対する抗ウイルス剤の投与 水痘 : 抗ウイルス剤として, アシクロビルやバラシクロビルがあるが, これらの投与開始時期に関しては免疫不全状態の程度, 年齢, 入院しているか退院しているか, 社会的要因を考え総合的に判断する 麻疹 : 一般的に予防として使用できる抗ウイルス剤はない 致死的な麻疹が発症した患者にはリバビリンを考慮することがある 付 5) 2 次感染予防の経費 麻疹 水痘 風疹 ムンプス発生時の 2 次感染予防に伴なう経費 参照 付 6) 麻疹, 風疹, 水痘, ムンプスに対する抗体測定方法と陽性率の比較 ウイルス感染症 EIA 法 (IgG) HI/IAHA 法 CF 法 麻疹 169/175 (96.6%) 127/175 (72.6%) 22/109 (20.2%) 水痘 164/175 (93.7%) 168/175 (96.0%) 44/109 (40.4%) ムンプス 146/175 (83.3%) 101/175 (57.7%) 8/109 (7.3%) 風疹 未施行 * 161/175 (92.0%) 11/109 (10.1%) * 以前の検討では風疹の HI 法の感度は EIA 法と同一であった ( 感染症誌 74: 670-674, 2000) 感染制御部石黒信久小山田玲子医療支援課中村澄人 (H14.2 作成 H16.3 改訂 H19.3/30 内容確認 H22.3 改訂 H25.5 改訂 H28.5 改訂 ) 病原体別予防策 ( ウイルス ) の概要 (H28.5 改訂 )-5

表 1 主な院内ウィルス感染症の特徴と対応 麻疹水痘風疹ムンプスインフルエンザ ウィルス名 Measles Virus Varicella Zoster Virus Rubella Virus Mumpus Virus Influenza Virus ワクチン接種後抗体獲得率 95% 90~95% 95% 90% 70~90% 5 ヵ月間程度有効 感染源気道分泌物気道分泌物 水泡液気道分泌物気道分泌物気道分泌物 感染経路空気 ( 飛沫 ) 空気 ( 飛沫 ) 接触飛沫飛沫飛沫 ( 空気 ) 潜伏期 ( 発病時期 ) 10~12 日 14~20 日 14~21 日 14~21 日 1~2 日 ウィルス排泄期間 ( 感染期間 ) 感染 7 日後 ( 発病 3 日前 )~ 発疹出現 5 日後 発疹出現 2 日前 ~ 水泡が全て痂皮形成する ( 水泡出現 5~7 日後 ) まで 発疹出現 7 日前 ~ 出現 5 日後 発症 7 日前 ~ 発症後 9 日 発症 2 日前 ~ 発症後 5 日 隔離期間 発疹出現 7 日後 水泡が全て痂皮形成するまで ( 水泡出現 5~7 日後まで ) 発疹が消失するまで ( 出現 5 日後まで ) 耳下腺の腫脹が消失するまで 発症後 5 日かつ解熱後 2 日経過するまで 感受性患者曝露後緊急ワクチン接種 3 日以内の接種で予防の可能性あり 3 日以内の接種で予防の可能性あり 感受性患者曝露後グロブリン投与 3~5 日以内の投与で予防 軽症化の可能性あり 3~4 日以内の投与で予防 軽症化の可能性あり 感受性患者曝露後抗ウィルス薬投与 水痘潜伏期後半 ( 感染 7 日後から 7 日間 ) の投与で予防の可能性あり 感受性者の隔離期間 最初の曝露から 7 日後 ~ 最後の曝露から 13 日後まで (γ- グロブリンを投与した場合には遅れて発症する可能性があるので, 隔離を 7 日間延長する ) 最初の曝露から 11 日後 ~ 最後の曝露から 21 日後まで ( アシクロビルやバラシクロビル,γ- グロブリンを投与した場合には遅れて発症する可能性があるので, 隔離を 7 日間延長する ) 最初の曝露から 7 日後 ~ 最後の曝露から 21 日後まで 最初の曝露から 7 日後 ~ 最後の曝露から 21 日後まで 最初の曝露日 ~ 最後の曝露から 2 日後まで 職員の発症時就業 発疹出現後 7 日間 水泡が全て痂皮形成するまで 発疹が消失するまで 耳下腺の腫脹が消失するまで 就業不可 ( 労務管理係へ連絡 ) 発症後 5 日かつ解熱後 2 日経過するまで 感受性職員の曝露後就業 最初の曝露から 7 日後から最後の曝露から 13 日後まで就業制限が望ましい ( 年休 ) 就業する場合にはサージカルマスクを着用する 最初の曝露から 11 日後から最後の曝露から 21 日後まで就業制限が望ましい ( 年休 ) 就業する場合にはサージカルマスクを着用する 最初の曝露から 7 日後から最後の曝露から 21 日後まで就業制限が望ましい ( 年休 ) 就業する場合にはサージカルマスクを着用する 最初の曝露から 7 日後から最後の曝露から 21 日後まで就業制限が望ましい ( 年休 ) 就業する場合にはサージカルマスクを着用する 就業する場合にはサージカルマスクを着用する 病原体別予防策 ( ウイルス ) の概要 (H28.5 改訂 )-6

表 2 麻疹 水痘 風疹 ムンプス発生時の濃厚接触者に対する 2 次感染予防に伴う費用 個々の事例については 感染制御部と相談する 1. 職員 非常勤職員 外部委託職員 学生が発端者の場合 患者家族 付き添い者職員非常勤職員大学院生外部委託職員学生その他 抗体検査病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担 2 次感染予防措置 ( ワクチン グロブリン 抗ウィルス薬 ) 2 次感染発症時の医療費 病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担 健康保険による診療 他院での抗体検査 2 次感染予防措置 来院時の交通費 2. 患者が発端者の場合 他の患者家族 付き添い者職員非常勤職員大学院生外部委託職員学生その他 抗体検査病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担 2 次感染予防措置 ( ワクチン グロブリン 抗ウィルス薬 ) 病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担 2 次感染発症時の医療費 健康保険による診療 他院での抗体検査 2 次感染予防措置 来院時の交通費 3. 家族 付き添い者が発端者の場合 患者家族 付き添い者職員非常勤職員大学院生外部委託職員学生その他 抗体検査病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担 2 次感染予防措置 ( ワクチン グロブリン 抗ウィルス薬 ) 2 次感染発症時の医療費 病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担病院負担 健康保険による診療 他院での抗体検査 2 次感染予防措置 来院時の交通費 注 1: 抗体検査のオーダー グロブリン 抗ウイルス薬の処方を行う場合 特定経費申請を感染制御部に提出する 注 2: ワクチン接種が必要な場合には 感染制御部に連絡する 病原体別予防策 ( ウイルス ) の概要 (H28.5 改訂 )-7