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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

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平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

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資料1

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米国の利上げ見送りと日本の長期化した金融緩和

米労働市場は直近の回復基調に変化なし ~FRB出口政策への影響は限定的~

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平成23年11月1日

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

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けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

グローバル株式市場を俯瞰する~2015年8月末データで見る市場動向~

○ユーロ

中国:PMI が示唆する生産・輸出の底打ち時期

中小企業の動向

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経済金融・情勢資料  15年7月 

SERIまんすりー2月号 今月のみどころ

MONEXグローバル個人投資家サーベイ

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

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ニュースリリース 食品産業動向調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 2 6 日 株式会社日本政策金融公庫 食品産業景況 DI 4 半期連続でマイナス値 経常利益の悪化続く ~ 31 年上半期見通しはマイナス幅縮小 持ち直しの動き ~ < 食品産業動向調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日

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定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

経済:マーケット・フォーカス

経済見通し

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

経済情報:日銀短観(2011年6月)の結果について.doc

為替相場展望2018年9月号

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金融市場2018年12月号

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ファンダの鬼・柳澤 浩と小杉 篤諭の「ファンダメンタルズの学び方、活かし方セミナー!」

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平成 25 年 3 月 19 日 大阪商工会議所公益社団法人関西経済連合会 第 49 回経営 経済動向調査 結果について 大阪商工会議所と関西経済連合会は 会員企業の景気判断や企業経営の実態について把握するため 四半期ごとに標記調査を共同で実施している 今回は 2 月下旬から 3 月上旬に 1,7

平成10年7月8日

nichigingaiyo

第1章

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目 次 第 1 章 中国経済の減速と世界経済 第 1 節 中国経済の減速と世界経済 1 下方修正の続く世界経済 2 意識される中国リスク 3 中国経済下振れの影響 第 2 節 安定成長を模索する中国経済 1 過剰投資 過剰生産 過剰信用の解消 2 中所得国の罠の回避 3 人口減少 高齢化 環境要因

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長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

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ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

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1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

TFX_フィスコ通貨ウォッチャー

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経済・物価情勢の展望(2017年7月)

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[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

< 日本経済の基調判断 > < 現状 > 景気は 緩やかに回復している < 先行き > 先行きについては 雇用 所得環境の改善が続くなかで 各種政策の効果もあって 緩やかな回復が続くことが期待される ただし 海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある 1

マーケット フォーカス経済 : 中国 2019/ 5/9 投資情報部シニアエコノミスト呂福明 4 月製造業 PMI は 2 ヵ月連続 50 を超えたが やや低下 4 月 30 日 中国政府が発表した4 月製造業購買担当者指数 (PMI) は前月比 0.4ポイントの 50.1となり 伸び率がやや鈍化し

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

雇用の現状_季刊版2014年夏号

月例経済報告

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

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< 日本経済の基調判断 > < 現状 > 景気は 緩やかな回復基調が続いている < 先行き > 先行きについては 雇用 所得環境の改善が続くなかで 各種政策の効果もあって 緩やかに回復していくことが期待される ただし 海外経済の不確実性や金融資本市場の変動の影響に留意する必要がある 1

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2. 利益剰余金 ( 内部留保 ) 中部の 1 企業当たりの利益剰余金を見ると 製造業 非製造業ともに平成 24 年度以降増加傾向となっており 平成 27 年度は 過去 10 年間で最高額となっている 全国と比較すると 全産業及び製造業は 過去 10 年間全国を上回った状況が続いているものの 非製造

目次 調査結果の概要 1 小企業編 中小企業編 概況 3 概況 15 調査の実施要領 4 調査の実施要領 16 業況判断 5 業況判断 17 売上 1 売上 2 採算 11 利益 21 資金繰り 借入 12 価格 金融関連 22 経営上の問題点 13 雇用 設備 23 設備投資 価格動向 14 経営

(Taro-\222\262\215\270\225[.A4\207B.jtd)

北陸 短観(2019年6月調査)

月例経済報告

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

Ⅱ 用語等の説明 今期の状況 来期の状況 前年同期 ( 平成 29 年 4~6 月期 ) と比べた今期 ( 平成 30 年 4~6 月期 ) の状況 前年同期 ( 平成 29 年 7~9 月期 ) と比べた来期 ( 平成 30 年 7~9 月期 ) の状況 前期平成 30 年 1~3 月期 来期平成

北陸 短観(2016年12月調査)

北陸 短観(2019年3月調査)

Invesco Australian Bond Fund (Monthly)

Transcription:

新興国景気減速の影響はどこまで拡がるか ~ グローバル経済金融レビュー 2015 年秋 ~ < 要旨 > 9 月の米国雇用者数の伸びが鈍化したことで 米国景気が堅調な回復を続けて世界経済を支える というシナリオの不確実性が意識されるようになってきた 米国雇用増減の業種別内訳を見ると 製造業が減少に転じた上に 運輸や卸売など製造業との関係が深い非製造業部門でも雇用者数が頭打ちになっている 新興国の景気減速とともに世界貿易が減る中で その影響が米国の製造業から非製造業に波及し始めた可能性を窺わせる 製造業が伸び悩む一方で非製造業が底堅い動きを保つ姿は 米国だけでなく他の先進国経済にも共通している この先 非製造業がどの程度堅調な推移を維持できるかが 先進国のみならず世界経済全体の動きを見る上で重要なポイントとなろう 1. 8 月の チャイナ ショック で高まった新興国 資源国を巡る不確実性 前回のグローバル経済金融レビュー ( 調査月報 2015 年 8 月号 ) のリリース以降の3カ月間における最大のイベントは 8 月 11 日から 13 日にかけて行われた 中国人民元切り下げであった これによって 人民元切り下げによる輸出振興に頼らざるを得ないほど中国景気が深刻な状態にあるという懸念が強まり その影響が懸念された新興国の通貨レートや資源価格が下落した 当時は米国で政策金利の引き上げが近いとされていたことも 新興国通貨の下落幅を拡大させる要因になったと見られる 更に 先進国 新興国を問わず株価が下落し VIX 指数は8 月上旬までの 10 台前半から急上昇して一時は 40 超と 欧州政府債務問題が拡大した 2011 年後半以来の水準に達した ( 図表 1) 図表 1 VIX 指数と株価の動き ( ポイント ) ( ポイント ) 50 460 40 30 20 MSCI 世界株インデックス ( 目盛右 ) VIX 指数 ( 目盛左 ) 440 420 400 380 10 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 2015 360 1

9 月半ばに開催された連邦公開市場委員会 (FOMC) で 可能性が意識されていた利上げが見送られたこともあって 9 月後半から新興国通貨は下げ止まり 10 月に入ってからは VIX 指数が 20 を下回った 足許の国際金融市場は徐々に落ち着きを取り戻しつつあり 中国をはじめとする新興国経済の先行きに関する不確実性は まだ残っているが和らぎつつあるようにも見える 2. 先進国でも高まる不確実性 ~ 製造業部門からの影響波及が分岐点 その一方 米国での利上げを巡る不確実性が浮上してきた こちらは利上げの時期に関するものから 利上げに踏み切れるほど米国景気の強さが保たれるのかどうか そして米国が世界経済を支えるというシナリオが維持されるのかどうか といったものに変化しつつある 8 月までの米国経済は インフレ率や賃金伸び率は目立って上昇しなかったが 雇用者数は毎月 20 万人前後の増加ペースを維持するなど堅調な回復を続けていた これを受けて9 月の連邦公開市場委員会 (FOMC) において連邦準備理事会 (FRB) が利上げに踏み切るとの見方もあったが 実際には見送られた その理由としてイエレン議長は 最近の海外経済情勢が米国のインフレ率を弱める要因となる可能性があることや 非自発的な理由でパートタイムの職に就いている人数の多さや賃金の伸び悩みなど 米国内にも循環面での弱さが残っていることを挙げ 中期的なインフレ率が FRB のターゲットである+2% に向けて上昇して行くという合理的な確信を得るには なお追加的な証拠を待つことが適切であるとの判断を示した ( 図表 2) その後 イエレン議長をはじめとする何人かの FOMC 参加者は 年内の利上げが適切 という発言をしたものの 12 月までに海外経済情勢の改善が期待できるのか そして国内に残る循環面の弱さが払拭できるのかといった点には疑問を抱く向きも多い 結果として 米国の堅調な景気回復が続くという前提の下でも 利上げの時期やその影響に関する不確実性が残ることとなった 図表 2 米国の時間当たり賃金と PCE デフレーター上昇率 ( 前年同月比 %) 2.5 2.0 1.5 1.0 PCE コアデフレーター上昇率時間あたり賃金伸び率 2013 2014 2015 ( 年 ) そして 10 月に入ってから 米国利上げに関する不確実性は 米国経済が 近い将来の利上げ ができるほどの強さを維持できるかどうか というものに変化しつつある すなわち 米国景気の堅 調な回復という前提が弱まる兆しが出てきたということである 2

きっかけになったのは 米国の9 月の雇用統計であった これまでは月平均で 20 万人以上の雇用者増加ペースを維持していたが 9 月の増加数は 14.2 万人と鈍化し 8 月も 17.3 万人増から 13.6 万人増まで下方修正され 2カ月連続で増加幅が 10 万人台前半に留まった 雇用者数の動きを製 非製別にみると 製造業部門の雇用者数がここにきて2カ月連続の減少に転じ 相対的に堅調に推移している非製造業部門でも雇用者数増加幅が縮小している ( 図表 3) FRB が米国景気の循環面の弱さの一つに挙げた賃金伸び率が低いまま推移する中 雇用者数の増加ペースが鈍化し始めたことで しばらく米国景気が利上げできるほどの強さを保てないのではないかとの見方が出てきている 図表 3 米国の業種別雇用者数前月差 ( 前月差 万人 ) 2015 4 5 6 7 8 9 非農雇用者計 18.7 26.0 24.5 22.3 13.6 14.2 民間計 18.9 25.2 21.8 19.5 10.0 11.8 鉱業 1.4 2.0 0.5 0.9 0.9 1.2 建設 3.0 1.2 0.1 0.5 0.5 0.8 製造業 0.0 0.6 0.1 1.1 1.8 0.9 非製造業 17.3 25.4 22.1 18.8 12.2 13.1 政府部門 0.2 0.8 2.7 2.8 3.6 2.4 ( 資料 ) 米国労働省 製造業の雇用者数が減少に転じたのは 米国の生産活動が停滞気味であることを反映したものと見られ そしてその背景には グローバル規模で財貿易が伸び悩んでいるという構図がある オランダ経済分析局のデータで世界貿易の動きを見ると 2014 年末をピークとして 主に新興国貿易の動きが弱くなり 先進国も頭打ちになっている ( 図表 4) 世界貿易のピークの時期が米国生産とほぼ同じであることから 景気が堅調に推移していた米国の製造業部門も世界貿易の動きと無縁ではいられず 年初来の世界貿易減少の影響が米国製造業の雇用者数に出始めた可能性が指摘できる 図表 4 世界貿易と米国生産の動き (2014 年 =100) 104 102 100 98 96 世界貿易先進国貿易新興国貿易米国鉱工業生産 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 2014 2015 ( 資料 ) オランダ経済統計局 Bloomberg 3

この視点から 今後の米国雇用動向を見る上で重要なのは 年初来新興国中心に減少してきた世界貿易の動きと米国の生産である 双方とも6~7 月に一旦持ち直しており この先の中国景気が景気対策などで持ち直せば 再び上向いていくと見ることができる ただ回復に時間を要した場合には 既に生じている製造業部門の雇用減少が 非製造業部門にどの程度波及しているのか そしてこの先波及するのかが重要になる これを見るために 米国の9 月雇用者数前年比伸び率と3か月前比伸び率を業種別にプロットしたのが図表 5である この図表では 45 度線から下方に乖離するほど 足許における雇用者数の伸び鈍化が著しいことを示す 大半の業種で足許 3か月の伸び率が前年比伸び率を下回っており 製造業に限らず広範囲で雇用者数の伸び鈍化が生じているが 中でも空運 陸運 水運業の雇用者は 45 度線との乖離が大きく 製造業同様に足許 3か月の伸び率がマイナスに転じている また 卸売も足許の伸びがゼロに近づいている 図表 5 米国主要業種の雇用者数伸び率変化 (3か月前比年率 %) 5.0 4.0 3.0 2.0 公益事業娯楽教育 医療政府情報 その他運輸 倉庫業 専門サービス 1.0 小売 金融 建設 0.0-1.0 製造業 卸売 空運 陸運 水運 -1.0 0.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 ( 注 ) 円の大きさは雇用者数を示す ( 資料 ) 米国労働省 ( 前年同月比 %) 空運 陸運 水運と卸売は サービス生産額のうち製造業部門に投入される割合が高いため 生産減少による影響を受けやすい構造になっており 実際に過去における雇用者数の動きは 製造業との相関が高い ( 次頁図表 6) 足許の雇用者数伸び鈍化は生産伸び悩みの影響を受けたもので 製造業から非製造業に雇用者の伸び率鈍化が波及するルートの一つになっている可能性が指摘できる 今のところ比較的高いプラスの伸び率を保っている専門サービスも 過去の経験則から判断すると この先製造業の影響を受けて雇用者の伸び鈍化が進む可能性があるということになる こういった業種の雇用が 過去と同様製造業部門とともに弱まっていくのか それとも製造業部門とは独立して堅調さを維持できるのかが この先の米国景気と FRB の金融政策判断を左右するだろう 4

図表 6 業種別の製造業との雇用者伸び率相関係数と生産額のうち製造業への投入割合 生産額のうち製造業への投入割合 (%) 製造業との雇用者伸び率相関係数 建設 1.3 0.873 卸売 19.1 0.884 小売 0.9 0.817 空運 陸運 水運 20.3 0.920 その他運輸 倉庫業 5.6 0.695 公益事業 14.4 0.027 情報 1.7 0.739 金融 1.6 0.842 専門サービス 13.2 0.937 教育 医療 0.0 0.014 娯楽 1.9 0.775 政府 0.2-0.090 ( 注 ) 製造業との相関係数は 過去 10 年間の雇用者数 3か月前比 伸び率で計算 ( 資料 ) 米国労働省 米国経済分析局 製造業部門の動きが鈍化あるいは伸び悩む一方で 非製造業部門が相対的に堅調さを保って いるという構造は PMI 指数に見る英国とユーロ圏 そして日銀短観に示されるように日本でも共 通している ( 図表 7,8) これらの経済圏でも 製造業の減速が非製造業にどの程度波及するかが 景気のカギを握る グローバル全体の視点から見ると 新興国の景気減速が世界貿易の減少を通 じて先進国にどの程度波及するか ということであり この点が米国をはじめとする先進国の景気と 金融政策 ひいては世界経済全体の動きを見通す上で重要なポイントになるだろう 図表 7 英国とユーロ圏の PMI 指数 ( ポイント ) 62 60 58 56 54 52 50 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 2014 2015 ユーロ圏製造業ユーロ圏非製造業英国製造業英国非製造業 図表 8 日銀短観大企業業況判断 DI ( 良い- 悪い ) 25 20 非製造業 15 10 製造業 5 0-5 -10 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅰ Ⅱ Ⅲ 2013 2014 2015 ( 資料 ) 日銀短観 ( 経済調査チーム花田普 :Hanada_Hiroshi2@smtb.jp) 本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済 金融情報を提供するものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 5