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Transcription:

アナリシス JOGMEC 調査部 本村眞澄 2017 年のエネルギー分野でのロシアと日 米 欧との関係 はじめに 2016 年は 日露の経済関係において画期的な年であった まず 5 月に安倍総理がソチ (Sochi) にプーチン大統領を訪ね エネルギー 先端技術等の8 分野での経済協力を提案した そして プーチン大統領の来日した12 月 日露間で80 案件の合意が成立した これらは多くは覚書レベルであり 2017 年はこれを踏まえて更に本格的な合意を目指す年となる 一方で 日本は2014 年にウクライナ問題で欧米と協調して対露制裁を行っているが 今後 欧米の対応を踏まえ これがいかなる展開を見せるかがもう一つの着目点となろう 昨年 11 月の米大統領選の結果も 新しい世界の方向性を示す事例となった 選挙期間中からロシアとの関係改善を訴えていたトランプ大統領であるが これが既往勢力からは激しい非難の的となっており 国務長官に指名された元 ExxonMobil CEOのRex Tillerson 氏も上院公聴会では対露批判を口にせざるを得なかった また ロシアによる民主党に不利となるサイバー攻撃の嫌疑がCIA( 米中央情報局 ) から出され それを根拠として前政権が新たな対露制裁を発動しているが これの解除にはかなりの困難が伴い 扱いを誤れば新政権の正統性にまで波及しかねない 当然 既往の経済制裁の解除についてもかなりの困難が予想される 1 月 28 日に行われた米露の首脳電話会談でも 対露経済制裁は議題にならなかったという 更に 対露宥和に前向きだったフリン大統領補佐官 ( 安全保障担当 ) が2 月 13 日に辞任するなど 当面ロシア問題は進展が見通せない情況である 一方 EU( 欧州連合 ) では 昨年 6 月の英国のEU 離脱 (Brexit) 決定で EUに対する英国の影響が消ひょうぼう滅し 対露強硬姿勢を標榜してきたポーランド バルト3 国の発言力に変化が見られる 欧州委員会 (EC) のGazpromに対する政策も融和的な方向に変化しつつある EUの対露経済制裁は6カ月ごとに構成 27 カ国の全会一致で更新してきたが これに批判的な有力候補を有するフランス大統領選が4 月と5 月に予定されるなど変化の兆しが見られる 以下に 今年初めのロシアと日 米 欧のエネルギー関係を概観した 1. 日露関係 (1) 日露経済協力案件プーチン大統領の来日した2016 年 12 月 15 ~ 16 日 北方領土交渉と並行して 日露の経済協力案件の合意書締結が目白押しとなった 日露協力に関して8 分野 政府間 12 案件 民間 68 案件 合計 80 項目で成果文書をまとめ 事業総額は約 3,000 億円に上る 首相官邸の意欲が伝わった面もあろうが 産業界も新しい時代を意識してのものと思われる このうち 8 分野のなかでの 石油 ガス等のエネルギー開発協力 生産能力の拡充 では 23 項目の合意がなされた ( 表 1) これらの合意の多くは 基本合意書あるいは覚書といったレベルのもので 直ちに投資が行われる案件は少数である いずれ 本契約が結ばれることが期待される 大方の専門家の見るところ 今回合意した案件は 非常にビジネス指向となっており 事前に報道されたシベリア鉄道の延伸や電力輸送に関するエネルギーブリッジなどは除外されている 実際 商業ベースでの具体化が見込まれる事業が選別されていると言える 産業界では比 15 石油 天然ガスレビュー

アナリシス 表 1 2016 年 12 月 16 日に合意したエネルギー分野での主な日露経済協力案件 JOGMEC INPEX 丸紅 日本側参加者露側参加者内容備考 Rosneft 較的前向きの評価が多い (2) 東シベリアでの日露油田開発これに先立つ12 月 14 日 先行していた東シベリア イルクーツク州における油田の商業生産開始のプレスリリースがあった これは 国際石油開発帝石 (INPEX) ( 株 ) と伊藤忠商事 ( 株 ) が日本南サハ石油株式会社 (JASSOC) およびロシア側のイルクーツク石油 (INK 社 ) を通じて ロシア連邦イルクーツク州のザパドナ ヤラクチンスキー鉱区とボルシェチルスキー鉱区において石油探鉱事業を展開していたところ このほどザパドナ ヤラクチンスキー鉱区内のイチョディンスコエ油田において精度の高い埋蔵量評価を目的とした長期生産テストを実施し その結果 商業的生産に十分な原油埋蔵量を確認したことを受けて 同油田について開発 生産段階に移行することを決定したというものである *1 事業のオペレーターはJASSOCがイルクーツク石油とともに設立したアイエヌケー ザパド社 (INK-Zapad 社 ) である イルクーツク石油との共同事業は もともとは JOGMECの海外地質構造調査事業として2007 年に鉱区を共同で取得した時に始まる 日本企業の新規地域への進出に 海外地質構造調査事業による探鉱作業が 先行的な基盤整備事業となって役立った例と言える ロシア周辺海域炭化水素共同探査 開発および生産に係る協力基本合意 JOGMEC INK 東シベリア共同探鉱覚書 三井物産 Gazprom 戦略的協力に関する協定書 三菱商事 Gazprom 戦略的協業に関する覚書 資源エネルギー庁 Gazprom 協力合意書 三井住友 みずほ JP モルガン Gazprom クラブローン JBIC Yamal LNG Yamal LNG への融資 2 億 Eur 三井物産 Novatek ロシアでの上流 液化事業 LNG 炭化水素の供給 資機材 技術の提供 および LNG 市場の共同開拓の覚書 三菱商事 Novatek ロシアでの LNG 事業および LNG 液 分炭化水素の供給で戦略的協力覚書 丸紅 Novatek Arctic LNG 2 事業における上流 中 流事業 LNG の供給 輸送のアレンジ ガス関連のインフラ事業等の覚書 川崎重工業 双日 RusHydro 極東でのガスタービンの活用協定 三井物産 RusHydro 電力分野の共同事業推進協力覚書 駒井ハルテック 三井物産 RusHydro 風力発電事業 風車現地生産化に関 する基本合意書 川崎重工業 双日サハ共和国エネルギー分野における協力協定 知見活用型構造調査 極東 東シベリア対象 日揮サハリン州マイクロ LNG の FS 実施覚書サハリン州対象 出所 : 各種報道から JOGMEC 作成 ザパドナ ヤラクチンスキー鉱区内の同油田から産出される原油は 東シベリア 太平洋石油パイプライン (ESPO) を経由してロシア国内に供給されるとともに ロシア極東コジミノ港から日本をはじめとするアジア市場へも輸出される予定で 意義が大きい 表 1に見るように 12 月 16 日 JOGMECは更にイルクーツク石油と協力の覚書を交わし 東シベリア地域における新たな共同探鉱事業創設 油ガス田の生産性向上に資する共同スタディ等を実施することになった *2 (3) サハリンでの案件サハリンの間宮 ( タタール ) 海峡近辺を対象に JOGMEC INPEX 丸紅と Rosneftの間で ロシア周辺海域炭化水素共同探査 開発および生産に係る協力基本合意 が結ばれた これにより 間宮海峡域の広い範囲で新規の探鉱活動が行われる ここでは 経済産業省資源エネルギー庁が所有する物理探査船 資源 を同海域の一部において活用することや JOGMECの 知見活用型海外地質構造調査 のスキームを活用することも検討されている *3 (4) 北極 LNG 案件日本企業は Novatek 社が進めている Yamal LNG 事 2017.3 Vol.51 No.2 16

2017 年のエネルギー分野でのロシアと日 米 欧との関係 Rail Way Gas Pipeline Gas Fields LNG Plant Kara Sea Yamal Pen. Kharasavey Yamal LNG Bovanenkov Gydan Pen. Sabetta Arctic LNG 2 Salmanov Geofizcheskoye Novoport Obi Bay Yamburg Urengoy 0 100 km Medvezhye 出所 : 諸情報から JOGMEC 作成 図 1 ヤマル半島での LNG 事業 (Yamal 半島の位置については 図 3 参照 ) 業 ( 図 1) の上流権益には参加していないが LNG 施設の建設に関しては 日揮と千代田化工建設が フランスの Technip 社とともに EPC(Engineering Procurement and Construction) 契約を結んでこれに参画している 参加比率はTechnipが50% 日本の2 社が各 25% である 工事は最終段階にあり LNGは2017 年の年末に出荷開始の見込みである ただし 日本企業でLNGの購入契約を締結したところはない このYamal LNG 計画にこのほどJBIC( 国際協力銀行 ) が 2 億ユーロの融資契約を結んだ これは イタリア外国貿易保険 (SACE) と仏コファス (COFACE) の計 3 行での協調融資となるとの報道もある *4 Yamal LNGの計画は 2 0 0 9 年にプーチン首相 ( 当時 ) が各国の有力企業に招集をかけ 説明を行ったのがそもそもの始まりであるが 日本企業は結局 上流権益に積極的な対応を取ることなく終始した 当初計画では 2016 年の生産開始であったが 生産の遅延は僅かに1 年と 比較的順調に推移したと言える ここにきて 事 業をめぐる評価はかなり高くなった観がある 1 月に入ってからのNovatekのLeonid Mikhelson CEO の発言によれば 第 1トレインは88% が完成し 事業全体では75% が完成している 第 2トレインは2018 年 第 3トレインは2019 年前半に稼働開始の予定である 第 3トレインは当初計画では2019 年後半を予定していたのが前倒しとなった これまでの同事業への投資額は 株主の出資と外部からの融資を合わせると $210 億で 2017 年には $60 億が投じられる見込みである 事業総額の $270 億に関しては変更する必要はないとのことである * 5 このYamal LNGの後継事業として Arctic LNG 2 事業が構想されており JBICはこれへの支援を打ち出した また 三井物産 三菱商事 丸紅がNovatekとロシうたアでの同社のLNG 事業で協力することが謳われている 丸紅とNovatekの覚書では表題に Arctic LNG 2 の名称が入っている 日本も北極海 LNGへの参加意欲が高まってきたものと思われる 17 石油 天然ガスレビュー

アナリシス このLNGの2 号案件に関しては 2016 年 11 月にモスクワで開催された 北極圏週間 会議でのプレゼンテーションで Novatekの Mikhelson 社長が 以下のように述べている 採用するLNG 技術としては ドイツの Kvaerner KBR および Lindeが用意したコンセプトを選定する方針で その生産能力はYamal LNGと同規模の1,650 万 t/ 年となる見込み そして同プラントは陸上に建設するのではなく 着底式にする方針であるという Arctic LNG 2 事業を運営する Arctic LNG 2 社は Novatekの子会社となる ギダン半島の Salmanovskoye 鉱床を資源基盤とし ( 図 1) そのなかの Utrennee 鉱床の確認埋蔵量は 2 014 年初めの時点で ガスが SEC( 米証券取引委員会 ) 基準で2,352 億m3 ロシア基準では 1 兆 1,650 億m3 コンデンセートは SEC 基準で 8 6 1 万 t ロシア基準で4,448 万 t 原油はロシア基準で約 1,000 万 tである *6 (5)2017 年の動き 2017 年 1 月に入って 世耕弘成経済産業相兼ロシア経済分野協力相は 8 日からのインド訪問に続き 11 日にモスクワを訪問し シュワロフ第 1 副首相と会い 12 月の80 件の合意文書を踏まえ 医療や都市整備などの分野での経済協力の具体化に向けて意見交換した またマトビエンコ上院議長とは経済協力を円滑に進めるために日露の自治体間の協力を拡大することを確認した *7 12 日にはマントゥロフ産業貿易相と会ってロシアの産業の多角化の方策について協議した 次いでノワク エネルギー相と会談し 第 2 回の 日露エネルギー イニシアティブ協議会 を開き 3 月末を目途に日露のエネルギー協力に関する新たな作業計画を取りまとめることで一致した *8 全体的な推進力は維持されている 9 月のウラジオストクにおける極東経済フォーラムには 昨年に続いて安倍総理が出席する予定と言われている (6) 対露制裁は継続ロシアとの協力案件を並べる一方で 日本政府は 2016 年 12 月 25 日 ウクライナ南部クリミア編入を理由としたロシアへの制裁を当面継続する方針を固めた 北方領土交渉の進展をにらんだ日露関係改善への取り組みと切り離し ロシアに厳しい姿勢で臨む先進 7カ国 (G7) の一員として協調行動を取る必要があると判断したものである G7に対しては 領土問題を抱える日本の 特殊事情 ( 政府筋 ) をG7 各国に説明し 制裁と協力の同時進行への理解を求める姿勢である G7は安倍晋三首相が議長を務めた2016 年 5 月の主要国首脳会議 ( 伊勢志摩サミット ) で ロシアによるクリミア編入を非難する首脳宣言を採択しており 対露制裁の継続も再確認している 本件はその延長上の判断である *9 2. 米国トランプ新政権と米露の関係 (1) 新政権の対露制裁解除の可能性トランプ新大統領は 選挙戦の期間中から大統領候補としてロシア融和政策を語り 経済制裁の解除についても言及していた 2017 年に入ってからも 1 月 7 日のツイッターでは 私が大統領になればロシアはわれわれへの尊敬を強め 協力して世界の問題を解決できる と述べている 1 月 11 日の初の記者会見で ロシアのプーチン大統領が米国へのサイバー攻撃を指揮したと言われているが と問われると ハッキングはロシアだと思う と指摘した上で プーチン大統領はドナルド トランプを好んでいる これは米国にとって負債というより資産だ ロシアはわれわれがイスラム国と戦うのを支援することができる と答えている ただし 全体の流れとしては 対露経済制裁の解除にはさまざまな困難が山積している 追加制裁の動きは 2016 年 12 月 9 日 ワシントンポスト紙が CIAが米大統領選でロシアが共和党のトランプ氏の勝利を狙ってサイバー攻撃で干渉したと結論付ける極秘の分析結果をまとめた と報じたことに端を発する これを受け オバマ大統領が12 月 29 日 サイバー攻撃を理由に米国に駐在するロシア外交官とその家族 35 名に72 時間以内に国外退去を求めるという異例の強硬措置を発表した 情報収集目的で使用されているとする米国内のロシア政府施設 2カ所の使用も禁じた これに対して30 日 プーチン大統領は 根拠のない違法な措置 と反発しつつ 無責任な外交のレベルまで下りては行かない と報復措置を取らず トランプ氏がこれを絶賛するというねじれ現象が起こった 年の明けた1 月 6 日 クラッパー国家情報長官は 米国大統領選挙におけるロシアの活動と意図 に関する報告 2017.3 Vol.51 No.2 18

2017 年のエネルギー分野でのロシアと日 米 欧との関係 書を発表した 11 日にトランプ氏はこの報告を ばかげている と一蹴したが 翌 1 2 日 オバマ政権のアーネスト米大統領補佐官はCIAの分析に関してこの内容を事実上認めた 1 月 13 日付のWall Street Journal 紙に掲載されたインタビューで トランプ氏はロシア政府がサイバー攻撃に 経済制裁の緩和は話し合われなかったという *11 この問題の取り扱いが 新政権にとって容易でないことを示している 更に対露宥和に前向きだったフリン補佐官 ( 安全保障担当 ) が 就任前に駐米ロシア大使と接触した問題で辞任するなど 当面 ロシア問題は先が見通せない情況である よって米大統領選に影響を与えたとする疑惑をめぐり オバマ政権が前年 12 月に発動した対ロシア制裁措置に ついて 少なくとも一定期間 は残すとしながらも イ スラム過激派との戦いなど主要な目標でロシア側が米国 を支援するならば 自らの政権下ですべての制裁措置を 撤回する可能性を示した 更に英紙 Times のインタビューでは ロシアとの核 軍縮合意に自信を示したが 同時に対ロシア制裁解除と の引き換えという 取引外交 (deal) を考えていること を明かした これには 国際政治に対する理念や価値観おろそが疎かにされているとの批判が 当然出てきている *10 一方 1 月 11 日には 米上院外交委員会で次期国務長 官に指名された Rex Tillerson 前 ExxonMobil CEO の指 名承認公聴会が開かれ 同氏は現行の対露制裁措置は当 面維持すべきとし ロシアとの関わりが持て 相手の 考えがより理解できるようになるまで 現状維持でいた い と述べた ただし プーチン大統領が戦争犯罪を犯 しているとは言えないとも述べ 対ロシア制裁を変更す る可能性に含みを持たせた この辺りの慎重な姿勢 特 に ロシアとの関わりが持て 相手の考えがより理解で きるようになるまで といった表現は 当面議会承認を 得るための慎重な言い回しと思われる なお 同氏は 2 月 1 日の上院本会議で国務長官就任が承認された 翌 12 日の 国防長官に指名されたマティス氏の議会 公聴会では 米国の揺るがぬ脅威はロシア と断言し そごトランプ氏の発言と齟齬のあることが明らかとなった (2) 旧政権側からの対露融和姿勢に対する批判オバマ旧政権側の高官は かなり強い調子でトランプ氏の対露姿勢を批判している 1 月 15 日 CIAのブレナン長官 (1 月 20 日退任 ) は FOXニュースで ロシアへの融和姿勢が目立つトランプ次期大統領 ( 当時 ) が対露制裁の解除を検討する考えを示していることについて 非常に慎重でなければならないということをトランプ氏は理解する必要がある 世界はトランプ氏が何を言うかを注意深く観察している もし彼が情報機関を信用しないならば 同盟国やわれわれの敵対勢力にどんなメッセージを送ることになるか と苦言を呈した *12 1 月 17 日 パワー米国連大使はワシントンのシンクタンク 大西洋評議会 での講演で トランプ次期大統領が検討しているロシアに対する制裁解除について ロシアをつけ上がらせるだけだ と述べ 逆効果になるとの見くぎ方を示し トランプ氏に釘を刺した 制裁を解除すればロシアだけでなくイランや北朝鮮など ルール破り をする他の国にも より危険な行動を取らせてしまうことになると警告した パワー氏は制裁を発動する原因となったロシアによるウクライナ南部クリミアの強制編入や サイバー攻撃を通じた米大統領選干渉疑惑などを例示し 既存の世界秩序を壊している と強く批判した 最近の違法行為に目をつぶり ロシアとの関係を元どおりにすべきだとの主張には欠点がある と強調した *13 新規の追加制裁の解除だけでも 議会や国民世論の反 発を招きかねず 更に 親ロシアの姿勢ゆえにトランプ政権の正統性にまで影を投げかけることになる この件がトランプ政権にとって 対露制裁解除を進めにくくしていることは事実で オバマ大統領による制裁にこじつけ的な印象があるとしても 反トランプ陣営にとっては 長く制約を受けざるを得ない トランプ大統領就任後の1 月 28 日 プーチン大統領と初めて電話会談を行い ホワイトハウスは 関係改善のための重要なスタートが切れた と発表した 一方 ロシア大統領府によると ウクライナ問題を含む世界的な課題でパートナーのような協力を深めることで合意 した ただし ウクライナ問題をめぐっては 対露 (3) ロシア側の反応ロシア国際問題評議会のアンドレイ コルトゥノフ会長は オバマ政権による新たな対露制裁により トランプ新政権にとってロシアとの関係改善がより困難になった と指摘している *14 ロシアの安全保障会議を率いるパトルシェフ書記は 政府系新聞ロシスカヤ ガゼータ紙のインタビューで ロシアの戦略的封じ込めの措置が目先緩和されるという幻想は抱いていない と語った ロシアの大方の観測筋は トランプ氏の大統領就任後に 米政府の対露政策に抜本的な変化があるとの期待は行き過ぎだとの見方で一致している 少なくとも ロシアとの関係修復が最優先課題 19 石油 天然ガスレビュー

アナリシス になる見込みは薄いと言える 核軍縮に関する合意と引き換えに制裁解除を提案するかもしれないというトランプ氏の 取引 発言を受け ラブロフ外相は ロシアは極超音速兵器と米ミサイル防衛プログラムを含む 戦略的安定性 の問題について対話を続ける用意があるとのみ述べて 反応を示すことはなかった *15 総じて ロシア側の反応は抑制的で トランプ政権の行動余地を見極めようとしている様子である (4) 米財務省によるウクライナ関連の新たな制裁オバマ政権による対露経済制裁は ウクライナ問題の発生した2014 年からであるが その後の2016 年にも追加制裁がなされている 12 月 20 日 米財務省は ロシアによるウクライナ軍事介入を受けた対ロシア経済制裁の一環として 新たにロシア人 7 人とロシアやウクライナにある8 企業 団体を制裁対象に指定した 米国内の資産が凍結されるほか 米国人との取引が禁じられる 財務省当局者は声明で 追加制裁はロシアにクリミア半島編入の代償を払わせ続けることで 同国に圧力をかける狙いがある と強調した 制裁指定された7 人は 既に制裁を科されているロシア銀行やソビン銀行などを支援したとされる また 8 企業 団体はクリミア半島の交通機関や同半島とロシアを結ぶ高速道路の建設などに関与している *16 (5) 2017 年対ロシア報復法案 年の明けた1 月 10 日 米国の複数の上院議員が ロシアがハッキングにより米国大統領選挙に介入したとの こうちゃく 調査結果 および膠着状態のウクライナ問題を背景に ロシアのエネルギー業界に対する新たな制裁を提案した 2017 年対ロシア報復法案 (Counteracting Russian Hostilities Act of 2017) と称されるこの制裁法案は ロシアの石油 天然ガス資源開発に $2,000 万以上を投資して ロシアの石油 ガスの開発を行ったり 核の民生利用事業に関わった企業に対して 強制的な制裁 (mandatory sanctions) を加えることを提案するものである *17 これは 金額の規模から見てもイラン制裁法案 (ISA:Iran Sanctions Act) と同工異曲のものであろう この法案については スケジュール的に法制化は困難と見られているが 仮に成立した場合には 米国資本市場からの資金調達は凍結される可能性があり 欧米からロシアのエネルギー業界への投資の終焉を意味する 米議会の姿勢の厳しさが見て取れる (6) 対露制裁に対する米産業界の姿勢米国の対露制裁に関しては 政界の動きとは反対に 米国産業界は一貫して対露制裁に反対してきた 2014 年 2 月のウクライナの首都キエフでマイダン クーデターが起こり ヤヌコビッチ大統領 ( 当時 ) を追放した新政権が 黒海のセバストポリ軍港のロシアに対する租借を行わないことを決定した 当時のウクライナの新政権はEUとNATOへの加盟を指向しており このことは黒海の制海権が瞬時にしてロシアからNATO 側へ転換することを意味する ロシアはこれに対抗してセバストポリのあるクリミア半島を制圧し ウクライナの黒海艦隊はロシア側に寝返った その後 3 月 18 日に住民投票が実施され これが圧倒的にロシアへの帰属を支持したことから ロシアは クリミア半島を編入した これに対抗して 米およびEUが 力による現状変更 であるとして 経済制裁を発動し 3 月に第 1 次 5 月に第 2 次の経済制裁を発動した ( 表 2) この制裁が強化されていく動きを憂慮した全米製造業者協会 (NAM) と米商工会議所 (AmCham) は ロシアに対する追加制裁が米国の労働者と企業に悪影響を及ぼす恐れありとする意見広告を2014 年 6 月 26 日 New York Times Wall Street Journal Washington Post の 3 紙に掲載した ( 図 2) すなわち 米国の国際的な影響力を高める最も効果的な取り組みは われわれの商品とサービスを世界に供給する能力を高めること (NAM) であり 一方的制裁が機能しないことは歴史を見れば明らか (AmCham) であるとした 特に 1979 年のソ連のアフガニスタン侵攻に対抗した米国小麦の対ソ輸出禁止措置で 米国の生産者が損害を被り 代わりにアルゼンチンがソ連に小麦を輸出して漁夫の利を得たことを指摘している そして結論として 米国の労働者と産業界は一方的な経済制裁によって代償を払うことになる この制裁は米国の対外政策の目標達成に全く貢献しない と述べている この動きを報じた Bloombergは オバマ政権 ( 当時 ) に対する米産業界の明白な決別と論評した 少なくとも米国の対露制裁で最も大きな損害を受けたのは 2014 年に北極のカラ海で油田発見に成功した ExxonMobilであろう その他のメジャーズがロシアと合意した共同事業を図 3に示す これらのうち Bazhenov 層等のシェール 北極海 サハリン-3の南キリンスコエ ガス田 ( 水深 190m) での大水深事業が制裁対象で 主要なプロジェクトがほとんど機能していない状況となっている 2017.3 Vol.51 No.2 20

2017 年のエネルギー分野でのロシアと日 米 欧との関係 表 2 ウクライナ問題に関する米国 EU 日本の対露制裁 制裁 EU 米日本 第 1 次 ( クリミア併合への対応 ) 第 2 次 第 3 次 ( マレーシア航空機撃墜で強化 ) 第 4 次 ( ウクライナ東部の不安定化 ) 2014 年 3 月 6 日 :3 段階の対露制裁 まず 露とのビザ ( 査証 ) 交渉凍結 3 月 17 日 : 露 クリミア当局者ら 21 名の資産凍結 渡航禁止 3 月 21 日 :12 名の資産凍結 渡航禁止 2014 年 5 月 12 日 :13 名 2 社の資産凍結 渡航禁止 2014 年 7 月 12 日 : 追加資産凍結 渡航禁止 7 月 16 日 :EIB EBRD の融資禁止 7 月 31 日 : 大水深 北極 シェールオイル用機材の輸出は事前認可 ガスは非対象 8 月 1 日以前の契約は不問 90 日超の調達禁止 (Sberbank VTB) 2014 年 9 月 12 日 : 大水深 北極 シェールオイル事業への掘削 テスト 検層等のサービスの禁止 Rosneft Transneft Gazpromneft に対する 30 日超の資金調達の禁止 24 名の資産凍結 渡航禁止 3 月 6 日 : 露政府高官 軍関係者等の資産凍結 渡航禁止 3 月 17 日 :7 名の資産凍結 渡航禁止追加 Yanukovich など 3 月 20 日 :20 名の資産凍結 渡航禁止追加 Tymchenko も 4 月 28 日 :Rosneft の Sechin 社長を含む 7 名 17 社の資産凍結 渡航禁止 7 月 16 日 : 経済制裁 90 日超の資金調達禁止 (Gazprombank VEB Rosneft Novatek) 8 月 6 日 : 大水深 北極海 シェール用機材の米国からの輸出禁止 3 銀行と統一造船の米市場調達禁止 9 月 12 日 :5 社 (Gazprom Lukoil GazpromNeft Surgutneftegaz Rosneft) に対する大水深 北極海 シェール事業を支援する機器 サービス 技術の提供禁止 5 銀行の 30 日超の調達禁止 Transneft GazpromNeft の 90 日超の社債禁止 9 月 26 日までの猶予 追加制裁 その後は半年ごとの延長 2014 年 12 月 : ウクライナ自由支援法 既往 3 分野の技 術輸出禁止に加え大統領判断で外国企業にも制裁 未発動 追加制裁 追加制裁 出所 : 筆者作成 2015 年 7 月 :Rosneft VEB の子会社を制裁対象 2015 年 8 月 :S-3 南キリンスコエ ガス田を制裁対象に追加 2016 年 9 月 :Gazprom 子会社を制裁対象 2016 年 12 月 :Novatek 子会社を制裁対象 3 月 18 日 : ビザ緩和凍結 投資 宇宙 安全保障での協定交渉の凍結 4 月 29 日 :23 名のビザ停止 8 月 5 日 : クリミア 東部の不安定化に関与する企業の資産凍結 輸入制限 9 月 24 日 : 露の大手 5 行の日本での資金調達の禁止 武器輸出 武器技術提供の制限 2016 年 12 月制裁継続 出所 :NewYork Times(2014/6/26) 図 2 米国の全米製造業者協会 (NAM) と米商工会議所 (AmCham) が 2014 年 6 月 26 日に掲載した対露経済制裁に反対する意見広告 21 石油 天然ガスレビュー

国米英 蘭ノルウェー仏伊英主要な事アナリシス ExxonMobil R/D Shell Statoil Total Eni BP Rosneft と 2011 年協力で合意 Bazhenov シェールオイル 北極海 業黒海開発 極東での LNG 事業 Gazprom と 2010 年協力協定 北極海開発 S-2 LNG GazpromNeft Bazhenov 開発 Rosneft と 2012 年協力 Barents 海 オホーツク海探鉱 重質油シェールオイル開発 Novatek と Yamal LNG を推進 ハリヤガ油田の PS 契約 Rosneft と 2012 年協力協定 Barents 海と黒海で探鉱 South Stream で協力 BP が Rosneft 株式 19.75% を TNK-BP を売却して取得 ExxonMobil Chukchi Sea R/DShell Statoil East Siberian Sea Total Eni Perseevsky Central Barents Barents Sea Laptev Sea Kara Sea Kharyaga Yamal LNG Timan-Pechora Magadan Sakhalin 1 Okhotsk Volga-Ural Bazhenov East Siberia Sakhalin 2 Black Sea Stavropol West Siberia North Caspian 出所 : 諸情報から JOGMEC 作成 図 3 石油メジャーズのロシアとの共同事業 このうち 北極海と Bazhenov シェール事業 S-3 南キリンスコエ ガス田が制裁対象となって凍結されている 3. 欧州とロシアの関係 (1) 対露制裁の現状 2016 年 12 月 15 日 EUはブリュッセルで開いた首脳会議で ウクライナ情勢をめぐり 親ロシア派勢力の後だてろ楯となっているロシアが和平合意を 完全履行 するまで経済制裁を解除しないとの原則に基づき 現在実施中の対ロシア経済制裁を 2 0 1 7 年 7 月まで 6 カ月間延長する方針で一致した 本件は19 日に正式決定された これは2014 年 7 月に初めて導入されて以来 4 回目の延長となる 一方 フランスでは 2016 年 11 月 27 日の大統領選 (2017 年 4 月 23 日第 1 回投票 ) に向けての野党予備選において 共和党のフランソワ フィヨン元首相が66.5% を獲得し 大差で勝利した 同氏は企業負担軽減や対ロシア制裁の 見直しといった経済重視の政策を掲げ 保守層を中心に支持を固めた *18 ( その後 家族への不正給与疑惑で支持率が大きく低下しているが ) もう一人の有力野党候補である国民戦線のルペン党首も対露融和を政策に掲げており 大統領選の結果によっては フランスの対露政策は大きく転換する可能性が出てきた また イタリアのアルファノ外相は1 月 17 日 上下両院合同外務委員会で ロシアはエネルギー供給において信頼できるパートナーであり 国際テロとの戦いにおいても極めて役に立つパートナーだ と指摘し 国際的な危機をロシアと話し合うのであれば G7が ( ロシアも参加する )G8( 主要 8カ国 ) に戻る条件を検討する必要が出てくる と述べた *19 少なくとも 仏 伊両国は 2017.3 Vol.51 No.2 22

2017 年のエネルギー分野でのロシアと日 米 欧との関係 対露関係の修復を考えている 対露制裁の次なる延長決議は6 月であるが 2 7 カ国の全会一致でないと効力がないことから 制裁の終了が近づいていると言える (2) 独禁法違反問題をめぐる EU と Gazprom の立場 1 Gazprom 問題は和解へ同様に 2016 年を通じてEUでは政策レベルで対露姿勢に変化が生じている 2016 年 10 月 EUの競争政策を担うベステアー (Margarethe Vestagar) 欧州委員とGazpromのメドベージェフ副社長が会談し これまで 5 年間 EU 競争法 ( 独占禁止法 ) 違反問題をめぐる争いについて 双方が和解を望む意向を示した EUが示唆してきた巨額の制裁金や排除措置ではなく 法的拘束力のある問題是正の確約によって 本件の幕引きを図ろうとするものである Gazpromは従来のガス価格政策を段階的に改め その後は 市場テスト と呼ばれる第 2 段階に入り 欧州委員会の最終決定前に利害関係者に異議申し立ての機会を与える *21 同時に 欧州委員会は Gazpromが以前から求めていた South Streamの先に接続される OPALパイプライン経由での ドイツ チェコへのガス輸送を増やすことも認める方向と伝えられた この和解により Gazprom からの欧州向けガス供給量は増えることが見込まれる 2 EUによるGazprom の調査この問題は 2011 年 EUの欧州委員会 (EC) が GazpromがEU 競争法 ( 独占禁止法 ) に違反した疑いがあり ガス輸送 販売において独占的地位を利用し 公正な競争を阻害したとして Gazpromに立ち入り調査を行った時までさかのぼる ECは2012 年の9 月 4 日には正式調査を開始した 調査内容は 1) 加盟国への自由なガス供給を阻害して市場を分割支配した疑い 2) ガス輸送網を他企業に利用させず供給源の多様化を阻害した疑い 3) 原油価格に連動させた不当に高いガス価格を加盟国に押しつけた疑いの3 点で 対象は旧社会主義圏のエストニア ラトビア リトアニア チェコ スロバキア ポーランド ハンガリー ブルガリアの8カ国におけるGazpromの活動である *22 ECは競争政策担当のアルムニア (Joaquin Almunia) 副委員長の時代の2013 年 10 月 3 日に Gazpromの違反事実を指弾する異議告知書 (Statement of Objection) を準 備する段階に入ったと言明した 違反が正式に認定され ると EC は年間売上高の最大 10% を制裁金として科す ことができる 2009 年には米 Intel に対して競争法違反 で 10 億 6,000 万ユーロ (1,380 億円 ) の支払い命令を出し た例がある *23 その後 2015 年 4 月 22 日 独占禁止法違反を是正す る手続きの第 1 段階となる 異議告知書 を Gazprom に 送付した *24 この 1 週間前の 15 日には Google に対して も独禁法違反の疑いで警告を出している 和解による解 決を探った前任者に比べ ベステアー委員はより強硬な 姿勢であると言われてきた 3EU の指摘に対する疑問 EU の指摘に対してはいくつかの疑問がある まず第 1 点の 市場を分割支配したという件に対して は そもそも東欧州向けのガスパイプライン網はソ連時 代の 1960 年代に 当時の西側とは別個の経済圏である コメコン (COMECON:Council for Mutual Economic Assistance= 経済相互援助会議 消滅 ) 諸国に対するエ ネルギー供給の必要性から整備されたものである 1967 年には ウクライナ西部の Uzhgorod ターミナル を起点にチェコスロバキアまでガスを供給する総延長 670km の 兄弟 (Bratsvo=Brotherhood) パイプライン が建設され 翌年には当時 西側陣営であったオースト リアの Baumgarten まで延長された 同年ハンガリー向 け支線が完成し 1972 年には東ドイツ ブルガリアへ のガス供給が開始された ( 図 4) ガスを受ける側のコメコン諸国も 当然自ら自国のパ イプラインを建設しなければならなかったのであり EC の指摘自体が歴史的経緯を無視したものと言わざる を得ない 更に このような 50 年近く前から建設さ れている輸送インフラストラクチャーに対して 2009 年に制定された EU 競争法を遡 そ きゅう及 法的な姿勢がまず疑われるべきであろう 適用するという EC の このパイプライン網は更に西側にまで延長された 1969 年に 当時西ドイツで成立した社民党の Brandt 政 権がソ連と 西ドイツ製大口径管およびコンプレッサー とソ連の天然ガスを交換する レシプローカル協定 で合 意し これに基づき 1973 年に西シベリアからオースト リアまでのパイプラインに接続して 西ドイツまで至る Transgas パイプラインが建設された その後 イタ リア フランスなどとも順次契約が進み 欧州向けパイ プラインが拡充された これも欧州諸国との合意のもと に進められた事業であって 市場を分割支配する意図が 介入する余地はない 23 石油 天然ガスレビュー

アナリシス フランス ノルウェー イタリア スイス オーストリア ドイツ ルーマニアブルガリアモルドバ トルコ TAG Transgas Transgas ハンガリー Uzhgorod Brotherhood Erzurum チェコスロバキアポーランド ウクライナ Blue Stream Samsun グルジア ベラルーシ Minsk Kiev アゼルバイジャン アルメニア Trans -Caspian Moscow Yelets Soyuz Beinei トルクメニ CAC-3 スタン スウェーデン フィンランド Saratov Orenburg Karachaganak CAC ウズベキスタン Kazan Kuybyshev Murmansk Northern Lights Torzhok Progress Urengoy ロシア カザフスタン Tyumen Shtokmanov Yamal-Europe Medvezhye Bovanenkov Yamburg Zapolyarnoye Urengoy イラン Dauletabad 出所 : 諸情報から JOGMEC 作成 図 4 ロシアから欧州へのガスパイプライン 加盟国への自由なガス供給を阻害したかという点に関しては 2006 年のウクライナ問題でウクライナへのガス輸出が停止された際に R/D Shell は ロシアのガスは 30 年近く 全く問題なく欧州に供給された という声明を発表している ウクライナへのガスの供給停止は ロシアとの間でガス価格について合意できず 供給契約が結ばれなかったからであり 供給の信頼性の問題ではない 第 2のガス輸送網を他企業に利用させず供給源の多様化を阻害したという嫌疑は 恐らく法律家が机上で思いめぐらした類いのものであろう ロシアから欧州市場までの間のパイプライン沿線上に 輸出できる規模のガス田を操業しているガス生産者はGazprom 以外に存在しない 供給源の多様化が実現しなかったのはGazprom がそれを阻害したからではなく そもそもの地質的条件がそれを許さなかったからである したがってこの議論 は 産業人の立場からは全くの空論と言える 第 3の原油価格に連動させた不当に高いガス価格を加盟国に押しつけた疑いというのは ロシアのガス供給契約におけるガス価格の決定方式が原油価格連動型であることをEC 側が無視していることを示すものである Gazpromは通常 先行 6カ月ないし9カ月の原油および石油製品価格の平均値を織り込んだformulaでガス価格を決定している 2010 年以降は油価が異常な高値を見せ これに伴いガス価格も高値に張り付いた 現状はその逆で 低い油価を反映して ロシアからのパイプラインガスの価格は 市場で決定される欧州ハブのガス価格よりも低くなっている 2015 年 4 月の異議告知書送付の段階では 既にガス価格は低下していたため前記の3 番目の論点は 天然ガス価格が生産 運搬コストに比べて過度に高い という表現に修正されている *25 しかし 2016 年になって更にロシアからのガス価格が低下し 2017.3 Vol.51 No.2 24

2017 年のエネルギー分野でのロシアと日 米 欧との関係 ハブ価格を下回った 2016 年 10 月のロシア産のパイプラインガスの価格は $170/1,000 m3 ($4.8/MMBtu) で 同時期の英国 NBP (National Balancing Point: 英国内市場価格 ) のガス価格 は $200/1,000 m3 ($5.7/MMBtu) と 18 % 高くなってい る *26 このため 同年秋には欧州各国でロシア産ガス の需要が急増し Gazprom の 2016 年の対欧州ガス輸出 量は 1,790 億m3で 前年比 12% 増となっている *27 こ のような背景が EU 競争法による起訴を断念して和解 を選択した理由と考えられる 異議告知書への Sergei Lavrov 外相のコメントは か ちょくせつ なり直截的なものである 欧州委員会が 第 3 エネルギーパッケージが発効す る以前に Gazprom が締結したガス供給契約に 当該法 律を適用しようとする試みは受け入れ難い Gazprom とパートナー企業との間で現在有効となっているガス供 給契約は 契約の締結された当時の 欧州連合の法体系 に準拠したものである ロシアには 1999 年に EU と 締結したパートナーシップ 協力協定がある 当該協定 はいまだ有効であり どの国からも解約されていない 同協定は 事業環境を損なう可能性がある行動をお互い に控えることを規定している またロシアは 一連の EU 加盟国と 事業環境を悪化させることを禁じた 2 国 間投資保護協定も締結している *28 4 各国の反応と EU の姿勢の変化の背景にあるもの 今回の決定に対して ポーランンドとリトアニアは EU の決定を非難した この理由は EU が 不当な ロ シア産ガス価格に対処しておらず またロシアが課して いる Take or Pay 条項に関する解決策が織り込まれて いないとするものである *29 この背景には ロシアが ガスを政治的な道具にしているという両国の考え方があ る ただし 特にポーランドはロシアに強く対立しつつ も ポーランド域内を通過するロシアからのガスパイプ ラインの通過料を貴重な収入源としている事情がある エネルギー政策上の議論を押し立てつつ 自国の収入源 確保というもう一つの目的も忍ばせているが 今回は EU 内部で押し切られた もはや EU 内でのポーランド の発言力は大きく後退した言うべきであろう このような状況の変化は 恐らく英国の EU 離脱 (Brexit) によってもたらされた EU 内で最も強硬にロたいじシアに対峙していたのは英国とポーランドであったが 英国は既にいない こうなるとポーランドの強硬姿勢にうかが付き合う国も限定的となっている状況が窺われる (3)Nord Streamの供給拡大へ 1OPALパイプラインの活用制限今回のEUとGazpromとの和解で 早くも影響の出たのが OPAL パイプラインである Nord Streamのラインが陸揚げされるドイツの Greifswaldから南方のチェコのOlbernhauまでの470km に 容量 360 億m3のパイプラインが2011 年に建設された 権益は Wingasが 80 % E.On Ruhrgasが 20 % いずれもドイツの企業である しかし EUの第 3エネルギー パッケージの定めるところにより この能力の50% は第三者に開放することが義務付けられており 2016 年までは年間 180 億m3しか輸送できなかった この影響で 本来 550 億m3 / 年の能力のあるNord Streamは Greifswaldで陸揚げした後 この南方に延びるOPALと南西方向に延びるNELパイプラインの輸送量制限のために 2013 年時点で年間 230 億m3しか輸送できていなかった ( 図 5) Nord Streamの株主の半数は欧州企業であり EUはGazpromを狙い打ちしたつもりでも 足元の欧州企業は大きな打撃を受けていた プーチン大統領は Nord StreamもOPALパイプラインも第 3エネルギー パッケージが成立する前から計画が進められており EUの措置は 非文明的 で受け入れられないと批判している EU 側はOPALの50% につき第三者がアクセスできることを提案していたが ロシアのNovakエネルギー相は そもそもバルト海で生産ガス田がないことからOPALの未使用の50% の容量に関して関心を有する第三者がいないことを指摘している 2OPALパイプラインは容量の80% まで利用拡大へ OPALパイプラインの空き容量を活用する議論は 2013 年から始まっていた ロシアとEUは 第 3エネルギー パッケージに基づくNetwork Code on Capacity Allocation Mechanism(NC CAM) に則り 入札する というもので 当初は2013 年の9 月末に法制化し 2015 年 11 月 1 日から施行する計画であった *30 この法では 能力の80% に関しては利用の15 年前から予約可能 10% が5 年前から 残り10% は1 年前からとなっている 接続ポイントにおける10% 相当の テクニカル量 ( パイプラインのコンプレッサーを稼働させるためのガス ) に対しては別途の取り扱いで1 年前に予約可能となる ただし その後はウクライナ問題により この議論のほとんどが停止状態となっていたようである ところが Vestagar 欧州委員の和解案が示された直後の2016 年 10 月 28 日 欧州委員会 (EC) はドイツ国内 25 石油 天然ガスレビュー

アナリシス 億m3 / 年 Finland MIDAL Norway NEL Rehden Germany Olbernhau Sweden Greifswald OPAL Austria Czech 55Bcm Stream Nord 310 Poland 230 840 (630) ( 5 50) Slovenia Croatia Bosnia- Herzegovina Italy Serbia Uzhgorod Hungary TAP ( 100) Greece Romania Bulgaria Varna Belarus Soyuz Vyborg Northern Lights Northern Lights Brotherhood Trans 63Bcm South Stream Turkey Ukraine Balkan Samsun Yelets Russkaya 136 Blue Stream Tanap (160) Soyuz Georgia Erzurum Russia South Caucasus Azerbaijan CAC CAC-3 Orenburg Turkmenistan Kazakhstan Uzbekistan Syria Akkas Iraq Iran 出所 : 諸情報から JOGMEC 作成 ロシアから欧州へのガス輸出量 (2013 年輸送実績 ) 図 5 Nord Stream とそれに接続する OPAL パイプライン におけるOPALパイプラインの年間ガス輸送能力に占めるGazpromのガス輸送量比率を80% にまで増やすことを認めた 同委員会はまた 同パイプラインに他のガス供給会社が参入しやすいような条件を設定したという *31 しかし 欧州司法裁判所がポーランドからの提訴を受けて 2016 年 12 月 28 日にこの決定の実施の裁定を中断したと報じられている 一方 2016 年末の段階でNord Streamガス パイプラインは550 億m3 / 年の能力が100% 利用されているとの報道もある 更に Gazpromは2019 年には既存の Nord Streamに並走するように Nord Stream-2の稼働を予定どおり開始し さらに550 億m3 / 年輸送することに自信を持っていると述べた *32 これにより OPAL の通ガス量は 2 8 8 億m3 / 年となり Nord Streamの通ガス量も本来の能力に近いものになると期待される 当然 従来のロシアから西ヨーロッパにガスを輸送する際の経由地だったウクライナとポーランドにとっては トランジット料金の徴収による収入が減 る可能性が出てきたことになる 2016 年の欧州の厳冬で 欧州のロシアからのガス輸入は前年比 12% 増と急増した これは 2012 年以来の事態である このため OPALの通ガス量拡大は焦眉の急であったと言える これまでの 第 3エネルギー パッケージを踏まえたEUの議論は一体何だったのか という疑念がエネルギー関係者の間に生じてもおかしくない状況である 気候は常に変動し 経済も変化する以上 エネルギーへの需要も変動せざるを得ない この時重要なのは EU 単一市場を維持するための 規範 よりも 変動に即対応できる柔軟な供給能力を供給側が常に維持し 需要側はそのためのエネルギー輸送インフラを同時に拡充しておくことではなかろうか ガス パイプラインの建設や運用について法理を楯に規制することが産業の実態に即していないことを EUも学びつつあるということであろう 2017.3 Vol.51 No.2 26

2017 年のエネルギー分野でのロシアと日 米 欧との関係 < 注 解説 > * 1:INPEXプレス発表 2 0 1 6/1 2/1 4 * 2:JOGMECプレスリリース 2 0 1 6/1 2/1 6 * 3:JOGMECプレスリリース 2 0 1 6/1 2/1 6 * 4: 産経 2016/1 0/2 0 * 5:IOD 2017/1/2 3 * 6:Interfax 2016/1 1/2 1 * 7:NHK 2017/1/1 1 * 8: 日経 2017/1/1 3 * 9: 共同通信 2016/1 2/2 5 * 10: もっとも 国際政治で掲げられる 理念 や 価値観 にも いわゆる ご都合主義 めいた一面が伏在していることは一般国民も周知していることであり このような言説が額面どおり通用しなくなったのが 2016 年の政治状況と思われる * 11: 日経 2017/1/3 0 * 12: 毎日 2017/1/1 6 * 13: 共同 2017/1/1 7 * 14: 日経 2016/1 2/3 1 * 15:Katherin Hille FT 2 0 1 7/1/1 8 * 16: 時事 2016/1 2/2 1 * 17:IOD 2017/1/1 1 * 18: 時事 2016/1 1/2 8 * 19: 毎日 2016/1/2 0 * 20: 川口マーン恵美 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/5 0 7 6 3?page=2http://gendai.ismedia.jp/articles/-/5 0 7 6 3 NATO 軍のポーランド進駐が 新たな大戦を招く可能性 * 21: 日経 2016/1 0/2 7(FT by Rochelle Toplensky & Jack Farchy) * 22: 共同 2012/9/0 5 * 23: ビジネスアイ 2 0 1 3/8/3 0 * 24: 日経 2015/4/2 3 * 25: 日経 2015/4/2 3 * 26:Interfax 2016/1 0/2 3 * 27:IOD 2017/1/0 3 * 28:Interfax 2015/4/2 2 * 29: 日経 2026/1 0/2 0 * 30:WGI 2013/8/1 4 * 31:Interfax 2016/1 0/3 1 * 32:IOD 2017/1/0 3 27 石油 天然ガスレビュー

アナリシス 執筆者紹介 本村眞澄 ( もとむらますみ ) [ 学歴 ] 1977 年 3 月 東京大学大学院理学系研究科地質学専門課程修士修了 博士 ( 工学 ) [ 職歴 ] 同年 4 月 石油開発公団 ( 当時 ) 入団 1998 年 6 月 同公団計画第一部ロシア中央アジア室長 2001 年 10 月 オクスフォード エネルギー研究所客員研究員 2004 年 2 月 独立行政法人石油天然ガス 金属鉱物資源機構 (JOGMEG) 調査部主席研究員 ( ロシア担当 ) [ 主な研究テーマ ] ロシア カスピ海諸国の石油 天然ガス開発と輸送問題 地球資源論 [ 主な著書 ] ガイドブック世界の大油田 ( 共著 ) 技報堂出版 1984 年 / 石油大国ロシアの復活 アジア経済研究所 2005 年 / 石油 ガスとロシア経済 ( 共著 ) 北海道大学出版会 2008 年 / 日本はロシアのエネルギーをどう使うか 東洋書店 2013 年 / 化反エネルギーの真実 石油通信社 2016 年 [ 趣味 ] ブルーグラス カントリー アンド ウェスタン Global Disclaimer( 免責事項 ) 本稿は石油天然ガス 金属鉱物資源機構 ( 以下 機構 ) 調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが 機構は本稿に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません また 本稿は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり 何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません したがって 機構は本稿に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません なお 本稿の図表類等を引用等する場合には 機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます 2017.3 Vol.51 No.2 28