平成 3 0 年 9 月 6 日 科学技術振興機構 (JST) 大阪大学 2 段階の熱処理で高品質のビスマス系薄膜 ~ 光応答性能を向上 次世代太陽電池開発に期待 ~ ポイント 光電変換素子の材料探索は それぞれの材料に最適な成膜プロセスの開発と同時に進める必要があり 1 つの材料でも数年を要してい

Similar documents
Microsoft Word - 01.doc

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

Akita University 氏名 ( 本籍 ) 若林 誉 ( 三重県 ) 専攻分野の名称 博士 ( 工学 ) 学位記番号 工博甲第 209 号 学位授与の日付 平成 26 年 3 月 22 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研究科 専攻 工学資源学研究科 ( 機能物質工学

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

発電単価 [JPY/kWh] 差が大きい ピークシフトによる経済的価値が大きい Time 0 時 23 時 30 分 発電単価 [JPY/kWh] 差が小さい ピークシフトしても経済的価値

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

hetero

論文の内容の要旨 論文題目 Spectroscopic studies of Free Radicals with Internal Rotation of a Methyl Group ( メチル基の内部回転運動を持つラジカルの分光学的研究 ) 氏名 加藤かおる 序 フリーラジカルは 化学反応の過

PRESS RELEASE 平成 29 年 3 月 3 日 酸化グラフェンの形成メカニズムを解明 - 反応中の状態をリアルタイムで観察することに成功 - 岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは 黒鉛 1 から酸 化グラフェン 2 を合成する過程を追跡し 黒鉛が酸化されて剥が

記者発表資料

記 者 発 表(予 定)

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

Microsoft Word - basic_15.doc

金属イオンのイオンの濃度濃度を調べるべる試薬中村博 私たちの身の回りには様々な物質があふれています 物の量を測るということは 環境を評価する上で重要な事です しかし 色々な物の量を測るにはどういう方法があるのでしょうか 純粋なもので kg や g mg のオーダーなら 直接 はかりで重量を測ることが

<4D F736F F F696E74202D AC89CA95F18D9089EF975C8D658F F43945A A CC8A4A94AD298F4390B394C5205B8CDD8AB B83685D>

QOBU1011_40.pdf

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

新技術説明会 様式例

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

新技術説明会 様式例

平成 29 年 7 月 10 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長岡田清 超イオン導電特性を示す安価かつ汎用的な固体電解質材料を発見 - 全固体リチウムイオン電池の実用化を加速 - 要点 [ 用語 液体の電解質に匹敵するイオン伝導率 1] 11 mscm -1 を持つ新たな固体電解質材

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

フォルハルト法 NH SCN の標準液または KSCN の標準液を用い,Ag または Hg を直接沈殿滴定する方法 および Cl, Br, I, CN, 試料溶液に Fe SCN, S 2 を指示薬として加える 例 : Cl の逆滴定による定量 などを逆滴定する方法をいう Fe を加えた試料液に硝酸

Microsoft Word - プレリリース参考資料_ver8青柳(最終版)

Microsoft PowerPoint RoHS指令.pptx

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

Microsoft Word web掲載用キヤノンアネルバ:ニュースリリース_CIGS_

一例として 樹脂材料についてEN71-3に規定されている溶出試験手順を示す 1 測定試料を 100 mg 以上採取する 2 測定試料をその 50 倍の質量で 温度が (37±2) の 0.07mol/L 塩酸水溶液と混合する 3 混合物には光が当たらないように留意し (37 ±2) で 1 時間 連

PowerPoint プレゼンテーション

Gifu University Faculty of Engineering

els05.pdf

8.1 有機シンチレータ 有機物質中のシンチレーション機構 有機物質の蛍光過程 単一分子のエネルギー準位の励起によって生じる 分子の種類にのみよる ( 物理的状態には関係ない 気体でも固体でも 溶液の一部でも同様の蛍光が観測できる * 無機物質では規則的な格子結晶が過程の元になっているの

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

Microsoft Word - _博士後期_②和文要旨.doc

リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功

A4パンフ

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

Microsoft PowerPoint - 21.齋修正.pptx

←ちゃんとしたロゴに変更

論文の内容の要旨

京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

< 研究の背景と経緯 > 互いに鏡に写した関係にある鏡像異性体 ( 図 1) は 化学的な性質は似ていますが 医薬品として利用する場合 両者の効き目が全く異なることが知られています 一方の鏡像異性体が優れた効果を示し 他方が重篤な副作用を起こすリスクもあるため 有用な鏡像異性体だけを選択的に化学合成

スズ系ペロブスカイト太陽電池の高効率化 再現性よく高品質半導体膜を作製できる手法を確立 詳しい研究内容は次ページからの資料をご覧ください

平成 30 年 5 月 25 日 報道機関各位 東京工業大学中央大学 可視光で働く新しい光触媒を創出 - 常識を覆す複合アニオンの新材料を発見 - 要点 酸素とフッ素を構成元素に含む可視光応答型の新しい光触媒を開発 アニオン複合化で得られる結晶構造を活用し太陽光の主成分を効率よく吸収 太陽光をエネル

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

「セメントを金属に変身させることに成功」

研究成果報告書

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し


Microsoft Word -

< 研究の背景と経緯 > 金属イオンと有機配位子から構築される高結晶性の多孔性金属錯体は 細孔の形状 サイズ 表面特性を精密に制御することができるため 次世代の多孔性材料として注目を集め その合成と貯蔵 分離 触媒機能などの研究が世界中で精力的に行われています すでに 既存の多孔性材料の性能を超える

報道発表資料 2000 年 2 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 北海道大学 新しい結晶成長プロセスによる 低欠陥 高品質の GaN 結晶薄膜基板作製に成功 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 北海道大学との共同研究により 従来よりも低欠陥 高品質の窒化ガリウム (GaN) 結晶薄膜基板

PEC News 2004_3....PDF00

Microsoft PowerPoint - Presentation-Japanese[読み取り専用]

スライド 0

記 者 発 表(予 定)

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

Crystals( 光学結晶 ) 価格表 台形状プリズム (ATR 用 ) (\, 税別 ) 長さ x 幅 x 厚み KRS-5 Ge ZnSe (mm) 再研磨 x 20 x 1 62,400 67,200 40,000 58,000

理 化学現象として現れます このような3つ以上の力が互いに相関する事象のことを多体問題といい 多体問題は理論的に予測することが非常に難しいとされています 液体中の物質の振る舞いは まさにこの多体問題です このような多体問題を解析するために 高性能コンピューターを用いた分子動力学シュミレーションなどを

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

マスコミへの訃報送信における注意事項

<4D F736F F D A C5817A8E59918D8CA B8BBB89BB8A778D488BC B8BBB F A2E646F63>

2014 年度大学入試センター試験解説 化学 Ⅰ 第 1 問物質の構成 1 問 1 a 1 g に含まれる分子 ( 分子量 M) の数は, アボガドロ定数を N A /mol とすると M N A 個 と表すことができる よって, 分子量 M が最も小さい分子の分子数が最も多い 分 子量は, 1 H

サーマルプリントヘッド

報道機関各位 平成 30 年 5 月 14 日 東北大学国際集積エレクトロニクス研究開発センター 株式会社アドバンテスト アドバンテスト社製メモリテスターを用いて 磁気ランダムアクセスメモリ (STT-MRAM) の歩留まり率の向上と高性能化を実証 300mm ウェハ全面における平均値で歩留まり率の

< 研究の背景と経緯 > 半導体製造技術により 生体分子と親和性の高いマイクロチップが開発され それらを基盤とした革新的なバイオ分析技術が実現しています その中でも デジタルバイオ計測は マイクロチップを利用して 1 個の生体分子から機能や物性を高感度かつ定量的に計注測できる手法であり Digita

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

令和元年 6 月 4 日 科学技術振興機構 (JST) 北 海 道 大 学 名 古 屋 大 学 東 京 理 科 大 学 電力使用量を調整する経済的価値を明らかに ~ 発電コストの時間変動に着目した解析 制御技術を開発 ~ ポイント 電力需要ピーク時に電力使用量を調整するデマンドレスポンスは その経済

平成 30 年 6 月 21 日 報道機関各位 東北大学多元物質科学研究所 カドミウムや鉛を含まない量子ドット緑色蛍光体を開発 - スーパーハイビジョン放送に適合した広色域ディスプレイに最適 - 発表のポイント カドミウムや鉛を含まない量子ドットで単色性の高い緑色発光を世界で初めて実現した 量子ドッ

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

第3類危険物の物質別詳細 練習問題

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

世界初! 次世代電池内部のリチウムイオンの動きを充放電中に可視化 ~ 次世代電池の実用化に向けて大きく前進 ~ 名古屋大学 パナソニック株式会社 ( 以下 パナソニック ) および一般財団法人ファインセラミックスセンター ( 以下 ファインセラミックスセンター ) は共同で 走査型透過電子顕微鏡 (

2004 年度センター化学 ⅠB p1 第 1 問問 1 a 水素結合 X HLY X,Y= F,O,N ( ) この形をもつ分子は 5 NH 3 である 1 5 b 昇華性の物質 ドライアイス CO 2, ヨウ素 I 2, ナフタレン 2 3 c 総電子数 = ( 原子番号 ) d CH 4 :6

sample リチウムイオン電池の 電気化学測定の基礎と測定 解析事例 右京良雄著 本書の購入は 下記 URL よりお願い致します 情報機構 sample

研究成果報告書(基金分)

(Microsoft PowerPoint - \201\232\203|\203X\203^\201[)

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

<4D F736F F D2089BB8A778AEE E631358D E5F89BB8AD28CB3>

IR用小冊子200611流し込み

Microsoft Word - pressrelease doc

PowerPoint プレゼンテーション

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

PRESS RELEASE (2013/7/24) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

柔軟で耐熱性に優れたポリイミド=シリカナノコンポジット多孔体

平成 2 9 年 3 月 2 8 日 公立大学法人首都大学東京科学技術振興機構 (JST) 高機能な導電性ポリマーの精密合成法を開発 ~ 有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待 ~ ポイント π( パイ ) 共役ポリマーの特性制御には 末端に特定の官能基を導入することが重要だが

Microsoft PowerPoint - 今栄一郎.ppt [互換モード]

Microsoft Word プレス発表(セット版).doc

Transcription:

平成 3 0 年 9 月 6 日 科学技術振興機構 (JST) 大阪大学 2 段階の熱処理で高品質のビスマス系薄膜 ~ 光応答性能を向上 次世代太陽電池開発に期待 ~ ポイント 光電変換素子の材料探索は それぞれの材料に最適な成膜プロセスの開発と同時に進める必要があり 1 つの材料でも数年を要していた 粉末でも性能を評価できる独自の超高速スクリーニング法で 200 種類以上の材料を探索し 安価でより低毒な硫化ビスマスが優れた光電気特性を持つことを見いだした 2 段階の熱処理を施す薄膜生成プロセスを開発し 光応答性能は従来と比べて 6 倍 ~ 100 倍向上した 次世代太陽電池材料の開発につながると期待される JST 戦略的創造研究推進事業において 大阪大学大学院工学研究科佐伯昭紀准教授と西久保稜佑大学院生 ( 博士後期課程 1 年 ) は 価格 低毒性 安定性に優れた硫化ビスマスの成膜プロセスを開発し 高性能光応答素子の作製に成功しました 実用化されている太陽電池や光検出器の光電変換材料の多くは 高価で有毒な元素を含んでおり 安価で低毒な新規材料の開発が強く求められています しかし 素子の性能を評価するには均一で平坦な薄膜を作製する必要があり 1つの候補材料だけでも成膜方法の開発に数年かかることもあります そのため 多くの材料を一つ一つ検討していくには膨大な時間と労力を要していました 本研究では 佐伯准教授らがこれまでに開発した 粉末でも簡便に光電気特性を評価できるマイクロ波分光法注 1) を用いて200 種類以上の材料を評価し その中から硫化ビスマスが高い光電気特性を示すことを見いだしました 硫化ビスマスは安価でより低毒なものの 溶媒に溶けにくい粉末材料であり このままでは素子作製が困難でした ( 図 1) そこで 前駆体注 2) 注 3) を溶かした溶液からアモルファス性の薄膜を作製し 続いて硫化する新たな熱処理プロセスを開発し 優れた光電気特性と膜平坦性を兼ね備えた薄膜の作製に成功しました ( 図 2) 従来 光電気特性と膜平坦性は両立しないものでしたが 新規プロセスは結晶の核生成と成長過程を個別に制御することでこの問題を克服しました これにより 光応答性能が大きく向上しました ( 図 3) 本研究成果は 2018 年 9 月 5 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 The Journal of Physical Chemistry Letters のオンライン速報版に掲載されました 本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業個人型研究 ( さきがけ ) 研究領域 : 理論 実験 計算科学とデータ科学が連携 融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための基盤技術の構築 ( 研究総括 : 常行真司東京大学大学院理学系研究科教授 ) 研究課題名 : 超高速スクリーニング法を駆使したエネルギー変換材料の探索 研究者 : 佐伯昭紀 ( 大阪大学大学院工学研究科准教授 ) 研究実施場所 : 大阪大学大学院工学研究科研究期間 : 平成 27 年 12 月 ~ 平成 31 年 3 月本研究領域では 実験科学 理論科学 計算科学 データ科学の連携 融合によって それぞれの手法の強みを生かしつつ得られた知見を相互に活用しながら新物質 材料設計に挑む先進的マテリアルズインフォマティクスの基盤構築と それを牽引する将来の世界レベルの若手研究リーダーの輩出を目指しています 1

< 研究の背景と経緯 > 光を電気に または電気を光に変換する光電変換素子は それぞれ太陽電池や光検出器 発光ダイオードなどとして社会のさまざまな場所で利用されています 実用化されているこれらの光電変換材料が含んでいる元素には 高価なものや有毒なものがあります そこで 安価 低毒 安定でかつ高性能な新規光電変換材料が世界中で開発されています 例えば鉛ペロブスカイト太陽電池注 4) は 低コスト溶液プロセスが可能で この数年で変換効率も実用化レベルまで向上し大きな期待を集めていますが 鉛を使わないペロブスカイト材料の探索が依然として課題となっています 光を受けると電気抵抗を変化させる素子はフォトレジスタ注 5) と呼ばれており 暗くなると自動的にともる街灯などに使われています 従来 安価で高性能な硫化カドミウム (C ds) などが用いられてきましたが カドミウムは有毒なためヨーロッパのRoHS( ロ 6) ーズ ) 指令注で使用が厳しく制限されるようになり 代替となる低毒性化合物材料が求められています 数千万種類以上もある有機 無機およびハイブリッド材料の中には 優れた半導体が埋もれていると考えられます しかし従来 素子材料の性能を評価するには均一で平坦な薄膜を作製する必要があり しかも最適な成膜方法は材料ごとに異なるため 一つ一つの成膜方法を開発して多くの材料を検討するには 膨大な時間と労力を要していました また 今回着目したビスマスは低毒性の元素であり 次世代の材料として期待されます 硫化ビスマス (Bi 2 S 3 ) の多結晶薄膜作製方法は これまでにもいくつか報告がありました しかし従来の成膜法では 素子性能に影響する 膜平坦性 と 光電気特性 の両立が困難でした 例えば ナノ粒子を分散させた溶液を塗布する方法や 塗装で使われているスプレー法は いずれも平坦で均一な膜を形成できるものの 結晶サイズが小さいために光電気特性は良くありません 一方 ある種のビスマス前駆体から熱処理して硫化ビスマス薄膜を直接作製する方法では 結晶性は高いものの ナノ~マイクロメートルスケールの棒状の構造を形成するため膜平坦性が悪くなります 結晶サイズが大きくかつ平坦な硫化ビスマス薄膜の作製法が望まれていました < 研究の内容 > 研究グループは 粉末でも簡便に光電気特性を評価できるマイクロ波分光法を用いて材料を探索しました 200 種類以上の材料を評価したところ 硫化ビスマス粉末が高い性能を示すことを見いだしました しかし 硫化ビスマスは溶媒に溶けにくい粉末材料であり このままでは素子に応用することはできません ( 図 1) そこで ビスマス (Bi) を含む化合物と硫黄 (S) を含む化合物を前駆体とする溶液調整の検討から始めました 複数の前駆体と溶媒を試した結果 プロピオン酸を溶媒として前駆体をスピンコート注 7) し 熱処理すると 平坦で均一なアモルファス性の薄膜が形成できることを見いだしました ( 図 2aの1 段階目 ) 続いて 希釈した硫化水素ガス(H 2 S) 雰囲気下で熱処理すると硫化 結晶化が起こり 光電気特性と膜平坦性を兼ね備えた高品質の硫化ビスマス薄膜を形成することができました ( 図 2aの2 段階目 ) 作製した硫化ビスマス薄膜は 肉眼で見ても ( 図 2b) 原子間力顕微鏡注 8) で観察しても ( 図 2c) 優れた平坦性を示し 従来の成膜法と比べて結晶のサイズが大きくなりました ( 図 2d) ビスマスと硫黄の割合が理想的な2:3に近いことも確認でき さらにビスマスと硫黄の結合が層構造を形成して基板に平行に積み上がっていることも分かりました 2

この新規プロセスでも 前駆体の濃度 スピンコート回転数 熱処理温度と時間 硫化水素ガスの流量など 多くの条件を最適化する必要があります ここでも前述のマイクロ波分光法で迅速 安定に評価することによって 最小労力でプロセスを最適化しました このように本研究では マイクロ波分光法を活用した評価法を基軸とした材料探索 プロセス開発という 独自の開発手法の有効性を示すことができました 新たに開発したプロセスでは 多結晶形成に関わる核生成 ( 図 2aの1 段階目 ) と結晶成長 ( 図 2aの2 段階目 ) を独立したプロセスに切り分けることで それぞれを最適化することに成功しました その結果 従来のプロセスで作製した硫化ビスマス薄膜に比べて 素子の光応答性能を6 倍 ~100 倍以上向上させることができました ( 図 3) 作製した素子は 大気中 室内で3ヵ月放置した後も性能を維持しており 長期安定性にも優れています < 今後の展開 > 今回は硫化ビスマスに特化して成膜法を開発しましたが 同様の開発プロセスが他の硫注化物 ( カルコゲナイト ) 9) にも適用できます 例えば 硫化モリブデン (MoS 2 ) や硫化タングステン (WS 2 ) は 優れた電気特性を持つ層状化合物として基礎科学的にも近年注目を集めています ビスマスを含む低毒性化合物太陽電池材料も探索されており 開発した手法の適用が期待されます 研究グループは 今後も超高速スクリーニング法を駆使し さらに新規プロセスを他の材料にも適用して 優れた次世代太陽電池材料を開発する予定です < 付記 > 本研究は 科学研究費補助金基盤研究 (A) 非鉛ペロブスカイト太陽電池の探究と基礎物性の包括的解明 (16H02285) の支援も受けました < 参考図 > 図 1 硫化ビスマス (Bi 2 S 3 ) 無機半導体で 黒 ~ 灰色の粉末 ビスマスは元素周期表で鉛 (Pb) のすぐ右に位置している 原子量の大きな重金属だが 毒性は鉛に比べて格段に低いとされている しかし硫化ビスマスは粉末のままでは不溶で 素子は作製できない 3

図 2 硫化ビスマス薄膜の形成 a: 今回開発した高品質硫化ビスマスの成膜プロセス 1 段階目で溶液をスピンコート アニール ( 熱処理 ) 2 段階目で硫化 結晶化した b: 石英基板上に形成した硫化ビスマス薄膜 c: 硫化ビスマス薄膜の原子間力顕微鏡図 明暗は高さ (0~14 ナノメートル ) を表す d: 硫化ビスマスのナノ粒子溶液を塗布して作製した従来法による薄膜の原子間力顕微鏡図 図 3 硫化ビスマス薄膜を用いたフォトレジスタ素子 a: フォトレジスタの素子構造 b: 今回および従来の手法で作製した硫化ビスマス薄膜を用いた フォトレジスタの性能 ( オン オフ比 ) の比較 オン オフ比とは 光 ( ここでは疑似太陽光 ) を当てていないときと当てているときの抵抗の比で 高い方が高性能 4

< 用語解説 > 注 1) マイクロ波分光法正式には 時間分解マイクロ波伝導度法と呼ばれる 光パルスを材料に照射すると短寿命の電荷が生じ その電荷がマイクロ波と相互作用してマイクロ波のエネルギーが減衰する その量から 電荷の時間挙動や電荷キャリアの局所的な移動度をナノスケールで評価でき 太陽電池素子の性能と相関した信号を得られる 注 2) 前駆体目的化合物へ変換する前段階の反応物の名称 今回は 目的の硫化ビスマス薄膜を形成する前に 前駆体であるビスマス化合物と硫黄源となる化合物を溶液に溶かし 熱処理と硫化水素で目的生成物へ変換した 注 3) アモルファス結晶のような規則正しい構造でもなく 液体のように流動性が高い状態でもない ガラスと同じような不定形の状態 注 4) 鉛ペロブスカイト太陽電池ペロブスカイトはカチオン ( 陽イオン ) 金属イオン アニオン( 陰イオン ) の比率が1: 1:3で構成されている鉱物 結晶構造を発見したロシアの研究者ペロブスキーに由来する 従来の無機系太陽電池に比べて材料や製造コストが安く 軽量で曲がるものも作れるため 高性能の次世代型太陽電池として注目されている 注 5) フォトレジスタ光が当たると電荷が生成し その素子の電気抵抗が下がる現象を利用したスイッチング素子 逆に暗い場所では電気抵抗が上がるため 電気回路に組み込むことで 夜間照明のように暗くなると作動させる機構も実装できる 注 6)RoHS( ローズ ) 指令電気 電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会及び理事会指令 一般に Restriction of Hazardous Substances( 危険物質に関する制限 ) の頭文字を取って呼ばれる 注 7) スピンコート溶液を基板に落とし 基板を毎分 1000~5000 回転の速さで回転 ( スピン ) させることで溶媒を瞬時に蒸発させ 薄膜を形成する手法 注 8) 原子間力顕微鏡小さな針 ( カンチレバー ) を試料に近づけたときに受ける原子間力を カンチレバーで反射させたレーザーの位置変化から読み取り 試料の凹凸を検知する顕微鏡 5

注 9) カルコゲナイト元素周期表の左から16 列目にある元素 ( 軽い方から 酸素 硫黄 セレン テルル ) をカルコゲンと総称し これらと金属元素からなる物質をカルコゲナイトと呼ぶ 特に層状構造を持つ硫化モリブデン (MoS 2 ) や硫化タングステン (WS 2 ) は 優れた電気 光物性が近年注目を集めている < 論文タイトル> Solution-Processed Bi 2 S 3 Photoresistor Film to Mitigate a Trade-off Between Morphology and Electronic Properties ( 膜形態と電子物性の間のトレードオフを解消できる溶液プロセスで作製したBi 2 S 3 フォトレジスタ膜 ) DOI:10.1021/acs.jpclett.8b02218 6