最近の油価下落による 欧州石油業界への影響と見通し 2015 年 1 月 22 日 調査部 永井一聡 1
原油価格推移 (2009~2015) ト ル / ハ レル 130 120 110 100 90 80 70 60 50 40 30 1 23 4 5 6 7 8 9101 121 23 4 5 6 7 8 9101 121 23 4 5 6 7 8 9101 121 2 3 4 5 6 7 8 9101 121 23 4 5 6 7 8 9101 121 23 4 5 6 7 8 9101 121 2009 2010 2011 2012 WTI Brent Dubai 2013 2014 2015 出所 :NYMEX ICE 2
油価下落による石油上流業界への影響は? 原油価格下落 上流プロジェクト動向 M&A 市場 生産量 経済活動 石油企業の対応 政策対応 3
油価下落による石油上流業界への影響は? 直接的な影響 石油販売収入の減少 上流資産の評価額減 各プロジェクトの経済性変動 企業の財務状況悪化 各プロジェクト計画見直し 企業の対応 財務改善 投資見直し 投資活動の縮小 労働力 雇用 資産の選別 譲渡 将来の生産量への影響 4
今後開発が計画されている各プロジェクトの損益分岐点 欧州で今後開発が計画されている 30 以上のプロジェクト ( 合計 49 億バレル ) において 油価 60 ドルが投資採算性の分岐点と見られている 特にイギリス北海が高コスト傾向で イギリスの現在の埋蔵量のうち 8 割近くは損益分岐点が 60 ドル / バレル以上との見方も 一方 ノルウェー北海は 現在の埋蔵量の 80% 程度は損益分岐点が 60 ドル / バレル以下とされている 5
プロジェクトの遅延 後ろ倒し Statoil Snorre field( ノルウェー北海 生産中 ) 回収率向上 延命プロジェクト (Snorre 2040 プロジェクト ) のコンセプト選定時期を後ろ倒し (2015 年 3 月 2015 年 10 月 ) Total ブルガリア黒海洋上 Khan-Asparuh 地域での探鉱探鉱掘削を延期 (2015 年 2016 年 ) Bankers Petroleum アルバニア Patos-marinza 重質油田のパイプライン建設西部石油輸送用パイプラインの建設を一時的に延期 ( 同油田は原始埋蔵量 77 億バレルの大陸欧州最大の油田 ) Shell Draugen field( ノルウェー海 生産中 ) 生産停止 閉鎖の前倒しを検討中 (2036 年 2027 年 ) 6
一方でプロジェクトコスト低下への寄与も 近年の上流活動コスト高油価により上流活動が過熱し コスト ( 労働力 リグ費用 サービスコスト ) が高騰 油価下落による上流活動の停滞 沈静化が起こることで 労働人件費や掘削サービスコストは引き下げ方向 東地中海 Leviathan ガス田開発 ( 埋蔵量 22Tcf) Noble Energy は プロジェクト投資額見通しを 70 億ドルから 50 億ドルに見直す可能性 豪 Brows FLNG Woodside はコスト低減を見込んで FEED 及び FID 時期を後ろ倒し (2015 年末 2016 年中盤 ) Cairn Energy のセネガル探鉱コスト低下で便益があるとして 2015 年掘削活動の展開に焦点 7
イギリスは税制緩和への要望がより強く 英領北海 近年のコスト上昇と成熟化で継続的な開発と生産に課題 油価下落により プロジェクト採算性がさらに悪化し より投資が抑制される方向へ イギリス産業団体 Oil & Gas UK は 北海の石油 ガス生産に対する 2015 年予算における緊急的な税制緩和を要求 イギリス政府はさらなる税制緩和を検討 下記の税制緩和は既に提案済み 追徴課税率の引き下げ 特定支出補助期間の延長 (6 年 10 年 ) 超高圧 高温油 ガス田群地域の税控除 8
ノルウェー : 生産中フィールドは経済性維持 ただし将来の開発への懸念あり ノルウェー産業団体 Norwegian Oil & Gas Association および政府 Norwegian Petroleum Directorate) によれば 現状の原油価格 (45~50 ドル / バレル ) において 生産中のフィールドの経済性は維持できている ただし 長期的に低油価が継続した場合 まだ意思決定されていない将来のフィールドについては大きな懸念が出てくる Norwegian Petroleum Directorate による見通し ノルウェー大陸棚における 2015 年の投資額は 2014 年から 15% 減少 (19billion ドル程度 ) 今のところノルウェーとしての政策的な動きはなし ( ただし今後何らかの取り組みが出てくる可能性はあり ) 9
北海生産量見通し 出所 :Oil & Gas UK イギリスの石油 天然ガス生産量見通し 出所 :Norwegian Petroleum Directorate ノルウェーの石油 天然ガス生産量見通し 今回の油価下落の影響によるプロジェクト遅延や投資縮減で 生産量見通しは下方修正となる見込み 10
保有資産の特性も企業体力を左右 各企業の保有資産ポートフォリオが低油価状況における企業の体力にも影響 各企業らは低コスト 高付加価値の資産を重視 北米メキシコ湾 低税率 比較的低コスト 北米シェール 高コスト ( 地域差や技術革新による変動あり ) 英領北海 高コスト 高税率 ノルウェー領北海 比較的高コスト ノルウェー海 バレンツ海 技術的 環境的困難による高コスト カナダオイルサンド 高コスト ただし 一概に上記の評価が当てはまるとは限らない 11
各欧州企業の支出削減の動き BP( イギリス ) 2015 年の資本支出計画 (2014 年 10 月発表 ) について 240~260 億ドルとしていたものを見直し 10~20 億ドルの支出削減を実行することを発表 2015 年に北海事業関連で 300 人 ( 約 10%) の人員削減計画 Statoil( ノルウェー ) 2014 年 7 月に 1400 人の人員削減を発表していたが 2014 年 10 月にさらに 500 人の人員削減を行うことを発表 Total( フランス ) 2015 年の資本支出を約 10%(20~30 億ドル ) 削減する計画対象 : イギリス北海 カナダオイルサンド 西アフリカの探鉱 開発 12
各欧州企業の支出削減の動き Lundin Petroleum( スウェーデン ) 2015 年の資本支出を前年比 31% 削減することを発表 ( ただし生産量目標は維持 ) 開発 :30% 削減 (9.8 億ドル (2015 予算 )) 探鉱 :27% 削減 (3.2 億ドル (2015 予算 )) 評価 :48% 削減 (1.5 億ドル (2015 予算 )) Tullow Oil( イギリス ) 27 億ドルの損失計上見込み ( 評価減 探鉱コスト等含む ) 2015 年の資本支出を 生産中プロジェクトおよび進捗中プロジェクト ( 特に西アフリカ ) の商業化に集中 探鉱 評価部門の支出を2 億ドル (2014 年 :10 億ドル超 ) に削減することを発表 ( 人員削減も計画中 ) 13
掘削サービス企業への影響も 世界的に稼働していないリグ数が増加特に中水深 ~ 深海 Wood Group( イギリス ) イギリスの部門において 個人コントラクターへの報酬の 10% 引き下げ および 2015 年の社員給与支払いを凍結する計画であることを発表 SBM Offshore( オランダ ) 2015 年末までに 全従業員約 10500 人のうち 1200 人を削減することを発表 ( 約 4000 万ドル / 年のコスト削減効果 ) 14
M&A 活動への影響 直近では 石油サービス Technip( フランス ) が 地震探査企業 CGG( フランス ) の買収に向けて協議をしていたが これを断念 ENI( イタリア ) が Saipem( イタリア ) の株式売却を計画していたが これを保留など 油価下落に伴う財務状況の変化や 資産評価額の変動を受けて取引を見直す動き 今後については メジャー企業らのコア資産への集中 ( ノンコア資産の処理 ) 財務状況の悪化に伴う中小企業の淘汰 資産評価額の下落等に伴い 市場の流動性が高まり M&A 活動は加速する可能性 15
欧州経済は活性化の方向 油価の下落により 欧州の経済活動 ( 製造 消費 ) は刺激され 経済成長を押し上げる効果が期待 ( ユーロ安も加わって相乗効果 ) ただし 長期的には 直近の投資減少の影響により 将来の石油 ガスの生産量は低下する方向 また 欧州のシェール開発に対しては投資削減で停滞する可能性が高い 16
まとめ 原油価格下落 石油販売収入の減少 上流事業における収益悪化 上流資産の評価価値の減少 上流石油企業の財務改善への取り組み ( コストカット 人員削減 投資先延ばし ) 資産価値変動に伴う M&A 案件の見直し 促進 プロジェクト遅延 企業の淘汰が進展の可能性 17
まとめ 生産量 2014 年までの投資過熱により 生産へ移行するプロジェクトも多く 直近の生産量への影響は少ない 投資縮小とプロジェクト意思決定の後ろ倒しにより 数年後以降の生産量は伸び悩む可能性が高い 事業環境 事業ポートフォリオで明暗が分かれ M&A の進展と企業の統合が進む可能性 投資縮小に伴い 労働力及び器材調達市場の緩和が起こり 上流コストは低下する方向 一部の企業はこの環境を活用してプロジェクトを優位に進めていくことも可能 18