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また 風力発電設備が環境影響評価法の対象事業として追加され 2013 年 4 月に完全施行されるが 国内における洋上風力発電に係わる環境影響評価手法は確立されておらず 洋上における環境影響調査手法の検討も 重要な課題のひとつである 本稿は NEDO における洋上風力発電実証研究で実施している 銚子沖 北九州市沖の進捗状況について紹介する ( 図 1.4) 表 2.1 洋上風力発電実証研究の基本情報 項目 気象 海象特性体制 東京電力東京大学 洋上風況観測タワー 洋上風車 離岸距離 3.1km 3.1km 水深 12m 12m 高さ 100m( タワートップ ) 80m( ハブ高さ ) 基礎構造 重力式 重力式 三杯風速計 :22 箇所 定格出力 :2.4MW 矢羽根風向計 :23 箇所 ローター直径 :92m 各種性能 超音波風向風速計 :3 箇所 銚子沖 台風 うねり 東京電力 ギア式風車 ( 三菱重工業製 ) ドップラーライダー :1 基 ( 最大 200m 上空塩害対策や遠隔監視システム等 洋上まで観測可能 ) 風車仕様 設置作業予定 2012 年 8 月中予定 2012 年 9 月中予定 観測 発電開始予定 2013 年 1 月以降予定 項目 気象 海象特性 体制 北九州市沖洋上風況観測タワー洋上風車冬期の低気圧 ( 季節変動大 ) 電源開発伊藤忠テクノソリューションズ電源開発港湾空港技術研究所 離岸距離 1.3km 1.3km 水深 14m 14m 高さ 85m( タワートップ ) 80m( ハブ高さ ) 基礎構造 重力 ジャケットハイブリット式 重力 ジャケットハイブリット式 三杯風速計 :12 箇所 定格出力 :2.0MW 矢羽根風向計 :9 箇所 ローター直径 :83m 各種性能 超音波風向風速計 :4 箇所 同期発電機式風車 ドップラーライダー :1 基 ( 最大 200m 上空まで観測可能 ) ( 日本製鋼所製 ) 塩害対策や遠隔監視システム等 洋上風車仕様 設置作業予定 2012 年 6 月末設置完了 2013 年 3 月中予定 観測 発電開始予定 2012 年 10 月以降予定 2013 年 5 月以降予定 図 1.4 NEDO 洋上風力発電実証研究サイトとモンタージュ ( 上図 : 銚子沖 下図 : 北九州市沖 ) 2. 洋上風力発電実証研究 NEDO は 国内で初めての沖合における洋上風力発電の実現に向けて 洋上の風向と風速を観測する洋上風況観測タワーと実際に洋上で発電を行う洋上風車を実海域に設置するプロジェクトを推進している 具体的には 気象 海象条件が太平洋側と日本海側で大きく異なるため 千葉県銚子沖及び福岡県北九州市沖の 2 か所で洋上風況観測タワーと洋上風車を設置する ( 表 2.1) これにより 我が国で洋上風力発電を実施するにあたり必要となる風車の設置 運用や保守に関する技術の開発や環境影響評価手法の検討を行う 2.1 実証研究の内容従来 陸上の風況からシミュレーションする事により洋上における風況は試算していたが 国内で初めて洋上風況観測タワーを設置することで 洋上の風況特性を定量的に評価することが可能になる そして 銚子沖では洋上風況観測タワーから約 290m 北九州市沖では約 250 m 離れた位置に洋上風車を設置し 実際に発電すると共に 洋上風車の運用や保守技術等 我が国で洋上風力発電を導入普及する上で重要となる技術を確立する (1) 洋上風況観測システム実証研究 洋上風況観測タワーの製作 設置 運用や保守等を実施する そして 実際に洋上風況を観測 評価すると共に 観測データとシミュレーション技術を組み合わせて 風況予測や発電量予測に関する技術を確立する (2) 洋上風力発電システム実証研究 塩害対策として密閉性を向上させ 除塩フィルターによりナセル内への塩分の流入の制限や結露 腐食防止対策 遠隔監視技術等を開発し 実際に洋上風車を実海域に設置する そして 発電した電力を系統連系すると共に 洋上風車の運用や保守技術を確立する 40

2.2 スケジュール 洋上風況観測システム の事業期間は 2009 年から 2014 年であり 洋上風力発電システム の事業期間は 2010 年から 2014 年である 銚子沖及び北九州市沖それぞれ 2012 年度中に洋上風況観測タワーと洋上風車の設置を目処に事業を推進している 特に洋上における設置作業は気象 海象条件に左右され 波や風が強い場合には洋上での作業が困難となるため 作業の中止や中断 延期等のリスクも踏まえ スケジュールを検討している (1) 銚子沖のスケジュール 銚子沖では 2012 年 8 月中に洋上風況観測タワー 9 月中に洋上風車を設置し その後 海底ケーブルの敷設や試運転等を実施し 2013 年 1 月頃を目処に風況観測及び発電を開始する予定である ( 表 2.2) 表 2.2 銚子沖のスケジュール 図 2.1 フローティングドック (2) 北九州市沖のスケジュール 北九州市沖では 2012 年 6 月下旬に洋上風況観測タワーの設置を完了し 10 月以降を目処に観測を開始する予定である また 洋上風車を 2013 年 3 月中に設置し 5 月以降を目処に発電を開始する予定である ( 表 2.3) 表 2.3 北九州市沖のスケジュール 図 2.2 クレーン船 2.3 作業状況陸上風車と異なり 洋上風況観測タワー及び洋上風車の設置では 様々な船舶等を利用する ( 図 2.1~ 図 2.4) 具体的には 重量物である重力式の基礎については フローティングドックと呼ばれる 凹字型をして注排水により 沈下 浮上できるドックを海上操作し 製作や運搬等を行っている そして 基礎や観測タワーを実際に洋上に設置する際には大型のクレーン船や起重機船 更に 風車のナセルやブレードの設置の際には 自己昇降台船 (SEP) を利用する 図 2.3 起重機船 41

図 2.6 製作中の重力式基礎 図 2.4 SEP (1) 銚子沖の作業状況 洋上風況観測タワー及び洋上風車の各パーツの製作を完了し 洋上での設置作業を行っている ( 図 2.5~ 図 2.8) 洋上での設置作業については 洋上風況観測タワーの重力式基礎の設置を 2012 年 6 月下旬に完了 2012 年 7 月中旬には洋上風車の重力式基礎の設置を完了した 重力式基礎は波浪や潮流等の影響を軽減するために円錐型となっており 製作時の重量は洋上風況観測タワーの基礎は約 1,300 トン 洋上風車の基礎は約 2,300 トンである 更に 洋上で中詰め作業を実施するため最終的には 洋上風況観測タワーの基礎は約 3,500 トン 洋上風車の基礎は約 5,400 トンとなる そのため 波浪やうねり 風による荷重 地震や津波等を受けても安定して存続することができる 図 2.7 重力式基礎をフローティングドックに積み込む作業 図 2.8 設置後の重力式基礎 ( 左 : 洋上風況観測タワー 右 : 洋上風車 ) 図 2.5 洋上風車のナセル (2.4MW) (2) 北九州市沖の作業状況 洋上風況観測タワーについて 基礎及びタワーの製作を完了し 2012 年 6 月中旬に洋上風況観測タワーの基礎及びタワー下部を実海域に 42

設置 2012 年 6 月下旬に観測タワー上部を接続し 洋上風況観測タワーの設置を完了した ( 図 2.9~ 図 2.13) 洋上風況観測タワーの基礎は約 2,750 トン 洋上風車の基礎は約 4,160 トンで ある 銚子沖の重力式基礎と比較し 北九州市沖の重力 ジャケットハイブリット式基礎は軽量であるもののジャケット部は波浪や潮流等の影響を受けにくい構造をしている 図 2.9 洋上風況観測タワーの基礎及びタワー下部 図 2.10 洋上風車の基礎 ( ジャケット部 ) 図 2.11 洋上風況観測タワー上部 図 2.12 洋上風況観測タワーの基礎及び下部へ上部を接続する作業 [ 図 2.13 設置後の洋上風況観測タワー 43

2.4 今後の予定銚子沖及び北九州市沖はそれぞれ 2012 年度中の洋上風況観測タワー及び洋上風車の設置を予定している 具体的には銚子沖は 8 月中に洋上風況観測タワー 9 月中に洋上風車の設置をそれぞれ予定している 北九州市沖については 9 月中に洋上風車の重力 ハイブリット式基礎の設置を行い 2013 年 3 月中に洋上風車の設置を予定している 洋上風車については特に ナセル及びブレードの設置作業で高い精度を要するため 海底に 4 本の足に該当するレグを設置することができる SEP を利用し 波浪や潮流 うねり等の影響を直接受けない状態で SEP からクレーン操作を行い 設置作業を行う ( 図 2.14) 銚子沖はナセル重量約 120 トン ブレード重量約 30 トン (3 枚合計 ) ローター直径 92m の 2.4MW 洋上風車を設置すると共に 北九州市沖はナセル重量約 94 トン ブレード重量約 20 トン (3 枚合計 ) ローター直径 83m の 2.0MW 洋上風車の設置を行う ( 図 2.15) 図 2.14 SEP による洋上風車の設置イメージ 洋上風況観測タワーや洋上風車の設置後は 海底ケーブルや送変電設備等の各設備を含む試運転を行い 発電設備 観測設備 通信設備等の点検を行う 特に風車の試運転では 電気系統 安全装置 ブレーキ ピッチ制御等の動作確認を行う NEDO では 2014 年度まで約 2 年間 洋上風況観測タワーによる風況データの取得及び洋上風車における発電性能の検証や運転や保守に係わる技術の検討等を行うことにしている 3. 今後の課題洋上風力発電は欧州を中心に急速に導入が進んでいる 現在は約 400 万 kw が導入されており EWEA(European Wind Energy Association) では将来 2020 年 40GW 2030 年 150GW といった かつての陸上風力発電と同様の伸び率を予想している しかし 我が国において洋上風力発電を普及させていくためには 研究開発課題とは別に 洋上風力用の固定価格買取制度 電力系統の広域運用 船舶や港湾の能力の問題及び海洋利用に関する法整備等の政策的な課題があると言わざるを得ない また ファイナンスや保険等が十分に整備されるには 欧州で利用されている第三者認証等に替わるスキームが我が国においても必要とされるかも知れない 一方で 洋上風力発電では 漁業関係者との合意や船舶航行の安全性を確保する等 陸上風力発電とは大きく異なる社会的な合意が必要とされる その中で 本実証研究で先行的に実施している 2 海域での環境影響評価は重要な調査となる 欧州で導入されている洋上風力発電は ほとんどが十数メートル前後の浅い海域でモノパイル基礎が主体である 今後 欧州においても我が国と同様 比較的深い水深へ向かっていくと思われ そこには 洋上風車の大型化や遠隔監視を高度化した先進的な寿命予測技術等 新たな技術開発が存在する NEDO における洋上風力発電実証研究では 本来の目的である 我が国の気象 海象状況の把握や洋上風車等の健全性を検証した上で 次のステップへ進んでいきたいと考えている 図 2.15 洋上風車のイメージ ( 左 : 銚子沖 2.4MW 右 : 北九州市沖 2.0MW) 44